はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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誤字報告いつもありがとうございます。
創の軌跡、新CM公開されましたね!
動きやら演出やらパワーアップしているようで、やっぱりファルコムのCMはすごくワクワクします…


フフフ、息子よ。ノルドへ行くぞ②

「リィン!」

 

 聞き慣れた声が、頭を回していたリィンの意識が急速に覚醒させる。

 揺れる視界を正して見れば、瞳に飛び込んでくるのはこの数ヶ月を共に過ごした仲間達の姿があった。

 

「み、みんな!?」

「貴様、一体……」

 

 撃墜された灰から飛び出したリィンは、突然の再会に喜びの声を上げる。

 しかし、それを邪魔する無粋な声が割り込んだ。

 

「あ?」

 

 ちらりとⅦ組から目を外せば、謎の武装集団と魔獣達。

 それらは己の仲間達に武器を向け包囲している始末。

 

「なるほど、そういうことか」

 

 瞬時に状況を理解した彼は抱えていたアルティナとセリーヌをその場に下ろし、抜刀。

 その行動に反応したのは、この場で最もリィンとの手合わせを重ねたラウラだった。

 

「リィン!」

「ラウラ!」

 

 起動するARCUS。

 紡がれるは戦術リンク、ともすれば戦術オーブメントなど不要とも言える精度で放たれた連携の初手は疾風。

 リィンの抜刀を見て銃を構えた猟兵達に、遅いとばかりに斬撃が戦場を切り裂く。

 そこにリィンへ声をかけた段階で洸翼陣を展開していたラウラの剣が走る。

 

「地烈斬!」

 

 コンビクラフトによる成果は、八葉一刀流は弐の型、裏疾風。

 鬼の力が使えたのならばリィン一人で使えた戦技も今は難しい。

 けれど、その動きを完璧に補佐する剣士が合わされば、結果は語るに及ばず。

 

 不意打ちのリンクアタックはⅦ組に行動の猶予を与え、リィンとラウラへ襲いかかろうとする魔獣達への対処を可能とした。

 マキアスとアリサの牽制によって魔獣達の動きをほんの少しでも止めれば、リィンとラウラへ迫る牙を避けるのは容易。

 互いにエリオット・ガイウスとリンクを繋げた四人の連携は、何手も足りなかった窮地を見事に逆転させる。

 

 反撃の時間――と行きたかったが、そこは名高い猟兵団の一つ。

 《ニーズヘッグ》は人形兵器を失った時点でこの戦場に見切りを付けたのか、リィンとラウラによって負傷した仲間を鮮やかに回収し、魔獣に跨って逃走を始めた。

 追撃の考えがよぎったが、無理をすることはないとリィンは戦闘の終了を告げるように納刀する。

 

 鞘に刃が収まる小気味良い音を最後に、戦技やアーツなどの破砕音の一切が消え、ノルドの地に静謐が戻る。

 一瞬の空白。

 そしてリィンは一ヶ月近く会えなかった仲間達に振り返った。

 

「みん――ごふっ!」

 

 そんなリィンを待っていたのは、マキアスによるラリアットだった。

 わざわざフォルテを使っての急襲は、さしものリィンも予想外で思い切りそれを受ける。

 マキアスの腕が鉄棒のような支えとなり、勢い余って一回転。

 どさり、と背中から倒れ込んだリィンの胸元へ追撃の手が伸びる。

 

「君ってやつは! 君ってやつは! 君ってやつは……!」

 

 リィンに跨り、顔を歪めて同じ言葉を繰り返すマキアス。

 

「君って、やつは」

 

 眼鏡の奥に見える瞳に陽光に反射するものが見えたのをリィンは見逃さない。

 服をきつく握り締めながら行うその意味を、さしものリィンも察する。

 その視線を察したのか、マキアスは震える手はそのままに俯く。

 

「ったく、再開の挨拶にしては物騒じゃないか?」

「リィンに合わせただけだよ、きっと」

 

 苦笑しながら、エリオットがゆっくりとマキアスを剥がす。

 その感触にマキアスも我に返り、普段よりも顔を赤くしながらその手を優しく離す。

 今しがた行った行為がマキアスの中で羞恥心が湧き上がっているのだろう。

 震えるマキアスに苦笑しながら、エリオットが手を差し出す。

 

「ほら、リィン」

「あ、ああ。久しぶり――っと、エリオット?」

 

 掴まれた手を握る力は、ただ引いたというものではない。

 二人の膂力と鍛錬の差を考えれば痛いというわけではないが、エリオットの全身の力がリィンの手に注がれている。

 

「心配……してなかったけどさ……やっぱり、不安な部分もあったんだ」

 

 目を潤ませながらも、涙を流すことがないのはマキアスのことを思ってか。

 エリオットへ声をかけようとするリィンに、ガイウスが寄っていく。

 

「リィン、無事で何よりだ。生きているとは皆思っていたが、やはりこうしていつもの姿を見ると安堵する……帰ってきたんだと、な」

「あはは。だってリィンが大怪我しても、一週間くらい経ったら元気に走り回っていたもんね」

 

 エリオットがその動きに気づいてリィンの手を離すと、ガイウスが右腕を掲げる。

 肘を前にするようなやり方に、リィンもまた同じように肘を上げた。

 拳と合わせるように、肘と肘が重なる。

 多くは語らず、ただその微笑みの中に多弁の感情を宿していた。

 

「まったく男子共は。そんな風にされたら私達が出て行きにくいじゃない」

「そうは言うが、満更でもない顔をしているぞ、アリサ」

「ふふ、そうかしら。ラウラだっていきなりリィンと合わせていたみたいだけど?」

「それは、まあ。剣士の性というやつだぞ、うん」

 

 言いながら、ラウラとアリサがそれぞれ左右の手を上げる。

 すっと下がったエリオットとガイウスと入れ替わるように、二人の手が強引にリィンの両手を叩いた。

 

「まったく、盛大な寝坊だな」

「……先日、ちょっとだけリィンにぐーしてやろうって気持ちが湧いてたけど、多分エマがしてるだろうから勘弁してあげるわ」

「よくわかったな」

「なんとなく、ね」

 

 ちらりとARCUSに目を向けるアリサ。

 同意するように、復帰したマキアスが口を開いた。

 

「確かに、少し前に君をぶん殴ってやろうって気持ちが唐突に浮かんだが……」

「俺もだ。正直、誰かを進んで殴るなどあまり良い考えとは言えないが、あの時はリィンを無理やり起こしてやろうという気になったな」

「みんなも?」

 

 実際、リィンが神なる(カグツチ)と塩の杭の削り合いからの覚醒の打破に使われたそれは、エマを通じてアリサ達にも届いていた。

 静かにリィンを想う気持ちが通じ合ったというより、無理やり叩き起こすという考えが共有される辺りリィンへの印象がよくわかる。

 

「悪い悪い、こっちも心臓撃たれて死にかけたんだ」

「普通死ぬからね?」

 

 そこで驚きでなく呆れな辺り、リィンへの印象が以下省略。

 

「ところでセリーヌはともかく、あの子は一体……」

「おっと。アルティナ、こっちに来て挨拶するといい。俺の頼もしい友人達だ」

「……アルティナ・オライオンと申します。貴方達がリィン・シュバルツァーの友人、ですか」

「あ、これは誤解してる」

 

 アルティナの目が人を見ているものではないことに気づいたエリオットが、慌ててアルティナに手を振るう。

 同じくマキアスが切羽詰まった様子で彼女に声をかけた。

 

「ま、待ちたまえ! 確かにリィンとは友好を結んだ身ではあるが、()()と同じに見てもらうのは困る!」

「リィンの仲間として見てもらうことに否定はないが、あいつと同じことが出来るとは考えないで欲しい」

 

 頼みのガイウスまで否定することで、リィンは糸目になった。

 セリーヌは自業自得ね、とため息をつきながらリィンの肩へよじ登る。

 

「この子はルーファスさんから要請を受けて、数日前から協力してくれてな。まだ数日間だけど、一緒に行動してるんだ」

「リィンと一緒に」

「数日間」

 

 そう言っただけで、Ⅶ組のアルティナ評が決定された。

 リィンへの心配と別の意味で瞳を潤ませたアリサが、膝を折ってアルティナを抱きしめる。

 

「そう、苦労したのね」

「あの……?」

「それにリィン、こんな年端も行かぬ少女になんて格好をさせている。今の時期とノルドの気候を考えると、あまりに薄着ではないか」

「あ、はい」

 

 ラウラに押され、慌てて自分のジャケットをアルティナに羽織らせるリィン。

 それでもまだ足りない、と目は語っていたがこれ以上脱ぐものはないので勘弁して欲しいと返す。

 

「それでリィン、この子にどんな苦労をかけたんだ?」

「苦労どころか、親父と一緒に温泉に入れて労ったくらい大事にしてるぞ?」

「親父……?」

「灰色の騎神、ヴァリマールのことです。リィン・シュバルツァーは何故かあの騎神をそう呼称しています。理解不能です」

「騎神と」

「温泉」

「うん、結局どんなことがあってもリィンはいつも通りなんだねって理解した」

「解せぬ」

 

 リィン以外はみんな解していることだった。

 

「それでリィン、結局あの幼子はなんなのだ?」

「んー……アリサ、落ち着いて聞いて欲しいんだけど――あの子は黒の工房出身、って聞いてる」

「えっ」

 

 その言葉の笑撃に、思わず体を離すアリサ。

 驚愕は一瞬、すぐに尋問に切り替わるがその行動はアルティナを守るクラウ=ソラスによって阻まれた。

 

「なっ……黒い、アガートラム?」

「その姉妹機で、クラウ=ソラスって言うらしい」

「姉妹。それにオライオンということは、ミリアム君の妹ということか」

「ちょ、リィン。一体どういうことなの!?」

 

 亡き――いや、行方不明の父親の手がかりかもしれない単語が出たことでアリサはリィンとの再会よりも動揺を示す。

 そこは予想していたので、リィンはすぐにアリサを落ち着かせる。

 

「どうどう、俺も詳しい現状はよくわからない。ただアルティナは記憶操作を受けているようで、黒の工房の情報の一切を覚えていないんだ」

「だったらなんでいきなり私に言ったの?」

「いずれ話される前の予防だよ。記憶がないって説明がなかったら、無理やり脅迫しようって考えたろ? どうして隠すの、黙るなら私にも考えがある、とか言って」

「う……」

 

 否定は出来ない、とアリサは思った。

 今はやんわりとクラウ=ソラスが守ったが、敵意を持った状態でアルティナに寄ればその限りではない。

 ミリアムのアガートラムの力を知るアリサは、ごくりとつばを飲んだ。

 

「アルティナ。アリサは黒の工房についての情報を欲しているんだ。もし、ブロックされているっていう記憶が戻ったらぜひ教えてやって欲しい」

「了解しました。と言っても、解けるとすれば黒の工房に赴いてブロックを外す時でしょうが」

「――導力の刺激による記憶の復帰の資料ってあったかしら……」

 

 ぶつぶつ語りだすアリサに空虚な目を向けていたアルティナ。

 アリサが宿す熱に反して、その双眸に感情らしい感情はない。

 

「リィンさん。彼女は一体何を考えているのでしょう?」

「多分アルティナに不埒なことをしようと考えているぞ」

 

 アルティナは無言で一歩下がってリィンの背後に隠れる。

 さすがのアリサもそんなことを言われてしまえば黙っていられない。

 

「するかぁ!」

「お、落ち着くのだアリサ。リィンなりの場を和ます冗談、というやつだろう」

「もっと別の言い方あるでしょう!? 何よ不埒って!」

 

 がー、と感情を爆発させるアリサを羽交い締めにするラウラ。

 その動きはアリサの短めのスカートを激しく揺らす。

 細身ながらも健康的な白い太ももを直視した瞬間、男性陣はそっとアリサから目をそらす。

 だが見えたアルティナは一言。

 

「なるほど、痴女……」

「~~~~~~~~!」

 

 もはや言葉にならない声を上げるアリサ。

 それでもスカートをしっかり抑える辺りは女の子であった。

 

「落ち着けアリサ。そうやってムキになるから良いようにされてしまうんだ。リィンにアルティナだったか。すまないが、今のうちに本来の用事を手伝ってもらえないか?」

 

 苦笑するガイウスがその場をまとめ、本来の要件である荷物を探ることに専念する。

 その傍ら、彼の妹の一人であるシーダの衣装をアルティナ用に持ってきた。相変わらず気配りの達人である。

 

 インナースーツこそ脱がなかったが、アルティナはノルドの民族衣装をまといようやくらしい格好に落ち着く。

 

「あのスーツは体温管理も搭載されているので、別に寒くはないのですが」

「見た目の問題だよ。少なくともここにいる間は着ていてくれ。そうすれば女性陣の小言は消える」

「リィン個人への大言(おおごと)は増えそうだけどね」

 

 怖いとしか言えない眼光でリィンを見るアリサを眺め、乾いた笑いを漏らすエリオット。

 その傍らで小型カメラを取り出していたマキアスが、パシャリとアリサの様子を収める。

 

「マキアス、何してるんだ?」

「シャロンさんから頼まれてな。アリサ君に面白いことがあったら可能な限り収めええええええええええええぇぇぇぇ!?」

 

 射。

 リィンすら称賛の声を上げる動きで放たれたアリサの一射が、達人の技と言わんばかりにマキアスが持っていた小型カメラのみを穿つ。

 さらにマキアスに殺到し、小型カメラを取り上げたアリサは両手を天に掲げ、全身に力を振り絞ってカメラをノルドの肥沃なる大地へ叩きつけた。

 一人リンクアタックの完成である。

 絶叫するマキアスを対価に、ようやくアリサの瞳に理性が戻る。

 

「ったく、アンタもシャロンも人を馬鹿にしてぇ……!」

「いや、馬鹿になんてしてないぞ? むしろすごく良い反応を」

「うるさああああい!」

 

 ともすれば《ニーズヘッグ》との戦い以上の疲労ではないか、というほど汗を浮かべるアリサ。

 

「これが、いわゆる感動の再会というものだったんでしょうか?」

 

 一連の流れを収めたアルティナがそうつぶやく。

 否定も肯定もされない小さな言葉は、少女の脳裏に正しいような正しくないような、なんとも言えない常識を学ばせていった。




オズぼん
「フフフ、息子よ。無事皆と再会出来て何よりだ」
一同
「「「「「いつものヴァリマールじゃない!?」」」」」
アルティナ
(驚くポイントそこなんですか……やはりこの人達はリィンさんの友人(常識知らず)……)

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