前回は微妙に多くて申し訳ないです…
ゼクスとの会見を成功させたリィン達は、彼の提唱する通信制限を逆手に取る方法を語った。
学生の身の上であるⅦ組には思うところがある反面、リィンの功績を無視しない程度には第三機甲師団は訓練されていた。
貴族連合の通信に割り込み、偽りの場所へ誘導し戦力を分散。
その間に監視塔の制圧を実行する作戦が組まれていく。
Ⅶ組は事前に第三機甲師団との団体戦・個人戦を行い、その実力を認められることで無事に監視塔への突入を許された。
リィンは当然として、ラウラも素の実力で個人戦を突破、ガイウスは相手を倒すことは出来なかったが、負けることなく戦い抜いたことが評価された。
エリオットは個人としてはともかく、ARCUSを使用した連携ならば足手まといになることはないと判断されたことに安堵の息をついていた。
そんな中エリオットと同じく個人技量に不安があっても、連携精度で突入を許されたマキアスは、成果に反して渋面を作っていた。
「マキアス、まだ納得してないのか?」
「……そりゃあ、そうだろう。本来なら、フィオナさんのようにガイウス達の家族と一緒に居てほしかった」
その視線の先には、父であるカール・レーグニッツの姿。
彼はゼクスと作戦について話しており、その背中は息子から見ても今回のことに関する覚悟が伺えた。
内戦が始まって一ヶ月が経つというのに、己がしていることはノルドでの避難生活。
そこに降って湧いた状況は、カールにとって動かない理由がない。
「《革新派》のナンバー二……あまり言及したくはないが、その立場は貴族連合にとっても無視出来ない。むしろ、自分に役割があることに対する喜びが伺えた」
「それは、わかっているんだ。でも父はあくまで政治家で、こんな鉄火場に乱入するのが仕事じゃないはずだ」
「その息子が鉄火場に突入しようとしてるのだ。それこそ避難など許されんと考えるのが親というものよ。
マキアス君が本当にカール君に避難してもらいたいのであれば、君もラクリマ湖畔へ戻るべきだと思うが?」
「むぅ…………」
オズぼんの言葉に押し黙るマキアス。
ヴァリマールの人格の変化には大いに驚いたが、リィンの父親を名乗っている存在なのだからおかしいことではない、とおかしいことで自分を納得させていた。
第三機甲師団の精鋭と共に監視塔へ突入するのは、リィンにアルティナ、ラウラとガイウス、そしてエリオットにマキアスの六人。
残るⅦ組メンバーであるアリサは――ヴァリマールに搭乗していた。
「アリサ。準備はいいか?」
リィンからの通信に、ヴァリマールの中に入ったアリサは慌てながら応答する。
「ちょ、ちょっと待って……ねえヴァリマール」
「オズぼんでもオズ様おじ様、あるいはお義父様でも構わんぞ、アリサ嬢」
「最後は絶対ありえない。……ヴァリマール。このアストラルコード、っていうの……本当に大丈夫なの? 見たことのないコードだし、嘘みたいに簡単に軍事システムへ介入できちゃうんだけど……」
「フフフ、何、因果応報というやつだ。たまには誰かに使われることも覚えたほうがいいだろう」
何のことかわからないが、きっと聞いても答えてくれないのだろうとアリサは察する。
現在、アリサはリィンが提案した貴族連合が仕掛けた通信制限の逆利用を行うために監視塔の導力システムへハッキングを仕掛けていた。
アリサもラインフォルトの娘として他よりも高い導力端末の操作技術を有していると言えるが、クロスベルでヴァリマールを使い、飛空艇やオルキスタワーのシステムをハッキングしたティオ・プラトーには到底及ばない。
その差を埋め、ハッキングを可能にしたものこそオズぼんが用意したアストラルコードというものだ。
(……リィンの『親父』さん、本当に居たのね。リィンはともかく、苦労しすぎたエマまで言及していたのは、あの子が見ている幻覚だと思ってたのに)
ノルドでヴァリマールに成り代わっているオズぼん……ユミルでガイウスが予測していた精霊? との対話は、年を経たリィンという印象を受けた。
つまり、まともに取り合っては苦労する。
だが気づけば会話のペースに巻き込まれている辺り、息子は私が育てたと豪語するのは事実なのだろう。嫌な現実だった。
「それにアリサ嬢、君の技術は学生にしては上出来と言えるものだが、エプスタイン財団などトップ層に比べれば流石に落ちる。
補う可能性があるとすれば、端末やアプリのスペックというわけだ」
「そこに異論はないけど……」
「何も何秒以内にプロテクトを解くといった難しい操作をするというわけではない。ただ取捨選択、配分を行うだけだ。そして、現状のⅦ組で一番それに優れているのはアリサ嬢、君というわけだ」
かつてない評価にアリサはこそばゆくなる。
そう言えば、母様に面と向かって褒められたのはいつだっけ、と思い返し、むしろこの感覚は父であるフランツに――
「ちがあああああああああああああああああああああああう!!!!」
「ど、どうしたのアリサ!?」
「アリサ、一体何事だ!」
突然の絶叫にエリオットとラウラがリィンの通信に割り込む。
頭を振って悶えるように苦しむアリサに、灰を未だに苛む頭部と左腕のダメージがフィードバックしているのかと心配する面々。
はっとして、アリサはなんでもないと言葉をかける。
それでも心配そうな友人達に申し訳なく思いながら、だいじょぶマイフレンドとつぶやくが、リィンみたいだ、混乱しているとかえって仲間達を不安にさせた。
「その、大丈夫なのかリィン? お前を育てた精霊にアリサを預けるというのは」
「心配御無用だよガイウス。むしろ世界で一番安全な場所だと思うぞ?」
「……頭部が破損して、左腕がないのってユミルでクロウ先輩が乗ってる蒼と交戦した時に負ったんだよね」
「安全とは」
「まともに取り合っては頭痛がするだけと進言します」
アルティナ、とリィンはクラウ=ソラスに乗ってこちらへ寄ってきた少女に声をかける。
彼女は本来アリサと共同でハッキング作業に貢献するつもりだった。
しかし、ミリアム同様に光学迷彩による姿の隠蔽は潜入には欠かせない。
ミリアムのことがあるといえ、彼女よりもさらに幼い外見の少女との共闘は人としての保護欲を掻き立てるものがあったが、最後には納得してくれた。
決め手はリィンさんの面倒を見なければなりませんから、だった。
その姿に、Ⅶ組はアルティナの中にエマを見る。
もれなく全員が口を抑えて目を反らす理由をアルティナが理解するには、まだ時間が必要だった。
「諸君、そろそろ……一体何事だね?」
戦場に赴く悲壮感とは違う悲しみの雰囲気をまとうⅦ組に、第三機甲師団の軍人達はしばし声をかけるのを躊躇うのだった。
*
監視塔奪還作戦の前日。
リィンとアルティナが来るよりも早く、帝国より一際大きな飛空艇がノルドの大地に影を差し込んでいた。
監視塔の側に着艦した飛空艇から降りてくるのは、艷やかな金髪を風に揺らしながら佇む若い少年。
「ようこそいらっしゃいました、ユーシス様」
「…………ああ」
その名はユーシス・アルバレア。
本来ならば貴族連合の総参謀ルーファスの側付きとして活動していたユーシスだったが、兄が仕込んだ一手により、
数ヶ月前に訪れ、Ⅶ組の仲間達と星空の下で語り合った記憶がユーシスの脳裏によぎる。
この美しい自然に鉄と硝煙を運んできた災厄の一部となっていることに顔をしかめていると、背後からその憂鬱に苛立った声が上がる。
「何をしている。時間は有限だ、さっさと歩け」
「……申し訳ない、シュミット博士」
そんなユーシスの背後を歩いていたのは、貴族連合に協力しているG・シュミット。
ふん、と傍から見れば機嫌が悪そうに鼻を鳴らす。
仮にも公爵家であるユーシスへの振る舞いに領邦軍の兵士が鼻を白ませるが、声に出すことはない。
ルーファスの命により、シュミットに対して丁重に扱うよう言付けられているということもあるが、今回の荷物に彼の協力が必要不可欠であるからだ。
飛空艇から監視塔へ運ばれる荷物――ドラッケンやシュピーゲルといった量産機を遥かに上回る性能と巨躯を持った機甲兵。
かつてリィンがヘイムダルの特異点で相対したゴライアスがワイヤーで固定された小型飛空艇に運搬されていくさまを見やり、ユーシスとシュミットは運ばれた現場へ向かっていく。
その合間に、ユーシスはシュミットへ内心の疑問を語る。
「博士。あの巨人機は、小型といえ飛空艇では複数必要だったはずですが……」
「改良しただけだ。本来ならば拠点防衛用とも言える鈍重さであったが、今のゴライアスならば他の機甲兵と同じように……内包する技術を全て駆使すれば、騎神に匹敵する動きを可能とする」
「…………っ」
息を呑むユーシス。
本来ならばシュミットの言う通り、ゴライアスはその巨大さ故に移動が困難という欠点を抱えていた。
しかしリィンがクロスベルから持ち帰ったアストラルコードにより、シュミットは結社のデータバンクにアクセスすることに成功していた。
現在ではそのルートは封鎖され、介入することが出来なくなったがそれでも結社の技術の知識、その一部をシュミットは手にしていた。
その一つが、結社が使用する兵器に使われる金属の存在だ。
人形兵器にも使われるそれは、現存の技術では到底真似できない性質を秘めている。
鋼以上の硬さでありながら、重量は使われた質量よりも遥かに軽い驚異の金属。
かつてエリンに居た時に魔女達と共にその開発に着手し、完全とはいかないがある程度の再現に成功したのだ。
無論、他にも使った技術はあるが……
「時間が許せば、量産も可能となる。あいにくと、今回の内戦ではあの一体が限度だが、あれを戦場に投げ込めば蒼よりも使い勝手の良い成果を出すだろう。
正規軍に押される現状を打破する一手となることは間違いない」
「………………ご協力に感謝します」
ユーシスの立場としては、そう言うことしか出来ない。
同時に、その驚異こそ己がノルドへ足を運んだ理由なのだと心に活を入れる。
彼が尊敬する兄に意見し、それを通した理由はノルドへの被害を減らすためだ。
特別実習で縁を結んだ遊牧民族との絆は、ユーシスの胸に温かい光となって宿っている。
あの輝かしい夜空や空気を、大地が汚されることはあっても生命だけは守りたいと思ってのことだ。
そんなユーシスの内心を察したのか、それとも気まぐれか。
シュミットは珍しく返事をした。
「必要なデータを取る相手は第三機甲師団ないし、正規軍相手だ。あるいは共和国軍でも攻め込んでくれればその限りでもないが……
取るに足らない戦闘データを収集することはない」
それは、遠回しにノルドの人々への配慮だとユーシスは感じる。
気難しい人物だと聞いていたし、トールズ士官学院で遠目から見ていてもその印象は同じだ。
けれど、言うほど冷血漢なのではない――
「それは惜しい。あのように見事な暴力による蹂躙……このノルドであるからこそ映えるのではないかな?」
そこに無粋な声が混ざる。
波打つ紫の髪を束ね、顔を仮面で隠した白いマントに身を包んだ男。
ユーシスが知らなかった男爵姿での初対面、ヘイムダルではⅦ組A班の行動中に現れたと報告があった謎の人物、通称怪盗B。
その正体は結社《
ゼムリア大陸でも悪名高い愉快犯を前に、ユーシスは眉間に深いシワを刻む。
「貴様……」
「おや怖い。仮にも男爵家であるのだから、此度は貴族連合に参加し、協力するのは義務と言えましょう?」
「ふざけたことを。貴様の本当の身分はすでに承知している」
「フフ、一応客将の身分以上に出しゃばるつもりはないさ。だが、噂の巨人機を拝見するのは構わないだろう?」
ユーシスはちらりとシュミットを見るが、彼に反応はない。
シュミットとブルブランの相性が悪いということもあるが、そもそも彼は無駄を嫌う。
この問答自体が無意味なものと考えているのだろう。
会話の間にも、シュミットの足はゴライアスに向けて歩いているのだから。
そうして格納庫にたどり着けば、十アージュを超える巨体が鎮座している。
見るかにでかい、大きい、などと子供じみた反応が湧き上がる中、シュミットは側に寄って導力端末を起動する。
細かな微調整はユーシスにはわからないが、淀みなく動くシュミットの指からして起動に問題はないのだろうとあたりをつける。もっとも、シュミットは己が手掛けるものの不備を決して許さないのだが……
「美しい……外見もだが、何より
「中身……?」
「おや、弟殿は知らされていなかったかな?……くく、それはそれは」
「一体何を知っている」
「いずれわかるさ、いずれね。だが怒らせたままでは収まりが悪いというもの。ここは一つ有益な情報を与えよう」
大仰に体を揺らし、ユーシスを見やるブルブラン。
仕草の一つ一つが。細かにユーシスの機嫌を苛立てる。
その反応に機嫌をよくしながら、ブルブランが口を開こうとする前に、シュミットが割り込んだ。
「――気が散る。他人を煽る暇があるなら働け。それと――貴様の話術はシュバルツァー以下だな。まるで興味をそそられん」
どこかてこを外されたように、ブルブランは一瞬あっけに取られる。
だが次の瞬間には微笑を携えながらも手厳しいとつぶやく。
ユーシスもシュミットへの驚きがあったが、それ以上にブルブランが己のテンポを崩された姿にどこか爽快感さえ覚えた。
その後は挨拶を済ませ、客人扱いを受けながら夜へと時刻が移る。
現状のノルドの説明を受け、通信制限の恩恵により年内には第三機甲師団を落とせると豪語した領邦軍兵士は、こぞって公爵家であるユーシスへ群がった。
覚えめでたく、とでも思っているのだろうが、ユーシスの心情的にはノルドで活躍することこそ彼の心証を悪くすることを彼らは知らない。
そんな精神的な疲れを押して与えられた部屋で休んでいたユーシスだったが、ふと出歩きたくなり、夜の格納庫に移動する。
無論夜間警備に配置された兵士は居るものの、ユーシスの邪魔をすることはない。
「……………シュトラールを連れて来なかったのは良かったのか、悪かったのか」
ユーシスは新しく与えられた愛馬――アルバレアの家紋が刻まれた
新緑に彩られた機体は、オーレリアやウォレスが使うような特別機であり、元はルーファスのために用意されたものをユーシスに譲渡されたものだ。
この一月、ルーファスの下で指揮を学び、機甲兵の教練も受けた。
それでもどこか保護されているという感覚は抜けない。
初の機甲兵実戦が最初から最後まで兄のお膳立てだったこともある。
ここノルドでも、第三機甲師団は精鋭揃いだが、通信を封じられた状態ではジリ貧でしかない。
西部は激戦が続き、東部でも正規軍の勢いをルーファスが極力減らす消耗戦のようなていを示していると聞く。
己が志願して許されたのは、危険度が他よりも低いという判断だからか。
活躍すれば、ルーファスの側か西部へアルバレアの威光を示すために送られるだろう。
だが、機甲兵で活躍するということはノルドの地を蹂躙し、血を流すことと同意。
守りたい、守られたくない、そんな二律背反に折り合いを付けることが出来ないままユーシスは悶々と夜を過ごす。
翌日、領邦軍は第三機甲師団へ襲撃を仕掛けるべく出撃する。
ただし、妙に慌ただしい気がした。
着替えを済ませたユーシスが司令室へ出向いてみれば、驚きの言葉が司令官より発された。
「カール・レーグニッツを発見した……?」
「はっ。ノルドへ避難していたようですが、我々の索敵内に引っかかった模様。現在、その捕縛のために兵を動かしております」
「………………ならば俺も」
「いいえ、ユーシス様は座してお待ちください。我々がもぎ取る果実を、ぜひともルーファス様へ送っていただければ……」
暗に、手柄は自分達が取ると語る司令官。
武勲を立てる邪魔をするつもりはないが、相手が相手なだけにユーシスも気持ちの整理がはかどらない。
それでもルーファスに送り出された手前、必ず生きて捕らえよ、という言葉を紡ぐことは出来た。
その後も司令室は慌ただしい空気が流れる。
今までよりも出撃する戦車の数が多いとのことだ。
全滅覚悟の特攻か、などと軽口を叩く者もいたが、やがてノルド北東部――かつて集落があった場所へ襲撃を仕掛ける部隊が現れた。
ユーシスは咄嗟に自分も付いていく、と声を荒げる。
あまり使いたくはなかったが、公爵家の威光を盾にすれば彼らは頷いてくれた。
この時、ユーシスには周りが見えていなかった。
ただただガイウスの故郷だけは守りたい、という気持ちだけが先行しており――そんな未熟な心持ちのツケが、雷火の咆哮で返される。
「ぐあああああああ!」
「な、なんだ!?」
ノルド北東部を進んでいた随伴機が突如業火に巻き込まれる。
音と衝撃、光がもたらす混乱に気を取られている間に、ユーシスは自分達が戦車郡に包囲されていることにようやく気づいた。
「な、何が起きている。ここには少数の敵し――があああああ!」
「応答、応答を願う! こちら襲撃を――」
砲撃が機甲兵を乗り手と合わせて駆逐していく。
呆然としながらも砲撃を機甲兵の性能で避けていくユーシスの耳に通信が届く。
「こちら監視塔! 現在襲撃を――!?」
音声が途切れる。
援軍を要請する声が次々にユーシスへ届く。
本人ではなく、乱雑に、誰でもいいから助けを呼んでいるような大雑把さ。
遅れながら、ユーシスは理解する。
襲撃はこちらがするのでなく――される側へと反転していることに。
機甲兵に搭載された内部SEが音を立てる。
それは、送られた画像を画面に映し出す機能だ。
そこに映された画像にユーシスは目を大きく見開く。
「――リィ――」
その言葉を全て言い切るより早く。
ユーシスが駆るシュピーゲルの視界に、鉄火の華が咲き誇った。
シリアスさん「ユーシス君しゅきぃ……」
ファルコムは寵愛を与えるキャラほど曇らせるのはどうかと思います。
進撃といい鬼滅といい、創作の業を感じますね…
困難に立ち向かう姿が見たいのであって、救いがないのはNG。ノーマルエンド?知らんなあ。好きですけど。
でもノーマルエンドにも意味があるとのことなので、その辺は創の軌跡で明かされそうですよね。
そしてようやく登場ブルブラン。
Ⅰ編ではオズぼん付きのリィン君が天敵過ぎたので出番ありませんでしたが、ようやく参戦です。