ユーシスがノルドの集落を守るために出撃して間もなく、トールズ士官学院Ⅶ組と第三機甲師団は行動を開始していた。
すでに多くの機甲兵がアリサの導力ハッキングによって流した偽造情報に釣られて出撃している。
全てというわけではないし、守備兵もまだまだ残っているが、機甲兵がいないだけで十分な成果だ。
ハッキングを仕掛けるさいに入手した監視塔の地図を確認しながら、まず第三機甲師団の歩兵部隊が突入。
彼らは囮としての役も持ち、とにかく派手に暴れ始めた。
通信が使えなかった苛立ちの発散、と言わんばかりだ。
第三機甲師団が敵を引きつけている間に、クラウ=ソラスによる光学迷彩をまとって進んでいくⅦ組。
目的地は監視塔頂上、導力波妨害装置の破壊ないし停止だ。
リィンの肩に乗ったセリーヌが防音魔術を展開することで、マキアスやエリオットの武器が問題になることもない。
そうやって時に猟兵、時に領邦軍兵士を
監視塔を順調に進み、残り半分といったところでアリサから連絡が入った。
ハッキングによって得た監視塔の映像の中に、結社の執行者――怪盗紳士ブルブランがいるという情報を得たからだ。
怪盗Bとしてゼムリア各地を騒がせる盗人で、マキアス達もヘイムダルの特別実習で遭遇したことがある犯罪者だ。
オリビエもリベールで遭遇したことがあるようで、以前結社においてのマクバーンの身分だった執行者について詳しく聞いたさい、そんな人物の話を聞いたことを思い出す。
奇術師とも呼べるトリッキーなタイプ……少なくとも、今回の奪還作戦において放っておけば確実にこちらが不利になる、と断言した。
ならば、とリィンは自分がブルブランの相手をするべく別行動を取ると提案。
アルティナはこのままⅦ組に同行するよう指示する。
シュピーゲルの撃墜のこともあり、即答で了解したが、硝子のような瞳が逐一リィンに向けられる辺り、心の奥底では納得していないのかもしれない。
ブルブランが通信妨害装置のある監視塔の頂上で待っているならともかく、別室に居るのならば行かないわけにはいかない。
それでも一人では心配だ、という視線が集中する中、リィンはラウラへ目を向ける。
「ラウラ、悪いけど一緒に来てもらえるか?」
「何?」
「最初に《ニーズヘッグ》と戦った時に、仕上がり十分って感じだったからな。俺とラウラなら、達人レベルが相手でもなんとかなるはずだ」
「フフ、そなたにそこまで評価されるようになるとは。これまでの鍛錬も無駄ではなかったというわけだな」
フィーには悪いが、と嬉しそうに笑うラウラ。
共に打倒リィンを掲げる友人にしてライバルな二人のため、一足先にリィンから強さを認めてもらうことを抜け駆けのように思ってしまったのだ。
それに比例するように、アルティナの目の温度が下がった気がした。
文句は言わないようだが、納得させるためにリィンは膝を折ってアルティナと目線を合わせながら言葉を紡ぐ。
「アルティナ、これは役割分担だ。俺と一緒に戦うならラウラでも出来るけど、クラウ=ソラスを使った潜入と、アリサの代理として導力波妨害装置の停止はアルティナにしか出来ない。
第三機甲師団が囮をしているといえ、消耗なく頂上にたどり着くためにはお前の力がみんなに必要なんだ。わかるな?
それにクラウ=ソラスのパワーはラウラの代理として文句ない。俺達の代わりに、三人と一緒に導力波妨害装置のほうを頼む」
「了解しました。早急に要請を解決して戻ります」
ちゃんと理由を説明してやれば、返事はしっかりとしてくれる。
だからアルティナを頼むと三人を見れば、彼らは力強く頷いてくれた。
後ろ髪を引かれるようなアルティナを見送りながら、リィン達も別行動を開始する。
「良かったのか? 私はそれほど彼女のことを知らぬが、あの子はそなたと共に行動したいと思っているようだったぞ」
「エマを思い出すわね。使命を優先したいのに、思うようにいかないもどかしさってやつが見えたわ」
「こればかりはな。言っちゃああれだが、ラウラは導力端末操作の成績どうだ?」
「う……む……」
導力機械オンチとも呼べるラウラはその発言に言葉を失う。
マキアスはエマに次ぐ成績優秀者といえ、導力機械を直接いじれるほど専門的な知識を持っているわけではない。
突入組の中で導力波妨害装置をなんとか出来るのがアルティナしかいない以上、こうなるのは必然なのだ。
「じゃあ改めてセリーヌ、霊的なほうの感知頼む。怪盗紳士は東方の術を使うそうだからな」
「ん、わかったわ」
対して、リィンは通常の気配察知で監視塔の中の強者を探る。
目的の人物は外に向かっているようだ。
窓から飛び降りるリィンと、それに続くラウラ。
相手もこちらに気づいたのか……むしろ、気づいたからこそ広々とした戦場へ案内するように格納庫から続く練武場へ移動しているようだ。
「誘われてるみたいだ」
「ここまで来たら私にもわかる。父上ほどではないが、強者の気配だ」
「みたいね……にゃっ」
「セリーヌはここにな」
セリーヌを優しく抱え、ジャケットのフードの中に入れるリィン。
リィンの首を掴むように前足を回り込ませ、視界の確保のために首を傾ける。
フードから体を突き出し、肩に首を乗せながら、文句を言いたげな上目遣いを見せるセリーヌだが、リィンは受け付けなかった。
すでに戦闘へ意識を移し、細身の鞘から抜刀するリィン。
ラウラもまた、両手に携えた大剣を目の前の存在に構えた。
その瞬間、何もないはずの練武場に風が渦巻き――花びらを散らしながらそれは現れた。
「ハッハッハ。二月ぶり……そして初めましての者もいるようだ」
演者のように声を張らし、愉快そうに声を上げる仮面に白マントを羽織った男。
「アンタが怪盗紳士ブルブラン……結社の執行者か」
「君の話は深淵から聞いていたが、実際に映像を見せてもらったことで、より深く君を知ったよ、リィン・シュバルツァー君。強者達との連携によるかの劫炎との戦い、私としても実に見事と評する他ないものだった」
「映像?」
「結社の者を協力者として動員していたのだ。ならば、組織に属するものとして見逃せるはずもない……
まあ残念なことに、劫炎が真の姿を取り戻して以降は、チャンネルが切れてしまったのは実に実に悲しい限りだった」
ああ、と本当に悲しそうに、けれども大仰にリアクションしているせいでわざととしか思えない反応をするブルブラン。
「だが劫炎の離反に君の生存があの勝負の結末を物語っている。それはそれとして、悲しいことに違いはないがね」
「想像力で補ってくれ。人間、想像の美に勝てる実物なんて早々ないからな」
「ほう、これは含蓄のある言葉だ。芸術にも造詣が深いのかな? これは嬉しい予想外――」
「リィン、いつまで雑談に興じている。我らがここに居る理由、忘れたわけではあるまい?」
洸翼の気が溢れ、残滓が羽となってラウラの周囲を舞い散る。
悪い、とリィンもまた己の中の闘気を充実させていく。
「ほう、劫炎との戦いより弱体化したとは聞いているが、これは中々。そちらの少女もあれからさらに洗練されている……やはり青い果実は良いものだ。短い時間の中で実に好みに熟していく。
とはいえリィン・シュバルツァーの相方を務めるというのであれば、些か以上に実力不足ではないかな?」
「…………」
ラウラは答えない。
その疑問は戦闘の中で晴らすのだと、剣気が言っている。
実に頼もしい、とリィンは戦術リンクをラウラと結んだ。
そこに混ざる魔術の気配。
シュミット教室の恩恵により、ARCUSに魔術を落とし込む成果はARCUSを持たないセリーヌとも意識の共有を可能としていた。
「……征くぞ!」
先手はラウラ。
洸翼陣によって強化された剛剣は、当たれば執行者と言えど傷を免れない一撃。
しかし、それが当たらないのが達人の動き。
波打つ紫の髪を揺らす颶風でしかない剣撃はしかし、連携によってその精度を飛躍的に高める。
「緋空……」
リィンが得意とする焔をまとった飛ぶ斬撃。
手に持った杖で鍔迫り合うように炎の斬撃をしのぎ、ラウラの剣を避けるブルブラン。
ラウラは避けられたと同時にその場で体をひねる。
体勢を立て直しつつ、さらに回転の力を加えた一撃を放とうとするが、遅い。
余裕を持って距離を取るブルブラン。
だが、そんな仮面に隠された彼の目が軽く見開く。
「連斬!」
「――
回避されたものとは別の緋空斬が遅れて放たれる。
レグラムはデュバリィ戦の時にも使った遅延緋空斬を、さらにラウラがその大剣で弾いてブルブランへ打ち返す。
飛ぶ斬撃を反らす、という技術はラウラにも可能だ。
だが威力を損なうことなく、方向を誘導したのはセリーヌの援護あってこそ。
魔術による干渉は緋空斬を維持したまま、不意打ちとして機能したのだ。
直接当てるのでなく、緋空斬を目的の方向へ打ち返すための回転だったのだと気づいたブルブランは、杖を掲げて叫んだ。
「来たれ、道化よ!」
現れる二体の人形兵器。
そのうち一体が緋空斬を受け止め、同時にブルブランの姿がブレたかと思えば怪盗紳士の姿が三人に分かれた。
「さて、どれが本物か――」
「そこだっ!」
騙されることのなかったラウラの斬撃がブルブランの本体に襲いかかる。
実体を持つ分け身というクラフトを持っていたリィンとの模擬戦は、ラウラに観察眼を与えていた。
仮に相対していたのがリィンでも、気配察知に長けた八葉の剣士の前では同じ結果だっただろう。
つまり、二人の前にシャドウキャスト――己を模倣した姿を投影するクラフトは使えないことを意味していた。
一瞬で看破されたブルブランは面白くなさそうに舌打ちし、虚空から刃を召喚した。
「マジックナイフ!」
その照準先はラウラ。
リィンには召喚した人形兵器二体を迎撃に向かわせ、ブルブランへ突っ込んでいたラウラへ殺到する小剣群。
駆動するARCUS。
ラウラは気合を一つ入れ、大きく大剣を振りかぶった。
「
セリーヌの魔術により、マジックナイフの間に霊糸が紡がれる。
布に針を通すように束ねられたナイフは範囲を大きく縮小させていく。
群れではなくただのナイフ投げ。
で、あるならばそれを弾く程度、ラウラの剣技ならば容易い。
弾かれ、地面に転がるナイフ郡。
その時、ナイフに付着していたであろう液体がじわりと地面に染みていく。
それを横目に見たラウラが毒か、と毒づきながら迸る闘志を剣に乗せた。
「もらった!」
「舐めないでもらおう!」
杖を翻し、ブルブランはラウラの剣を受け止める。
上段からの振り下ろしを受け流すが、舌打ちを残す辺り完全に相殺はしきれていないようだ。
真正面からのぶつかり合いならばラウラに軍配が上がる。
だがブルブランは自他ともに認める奇術師。
真っ向勝負を出し抜くことに長けた実力者。
故に眼前まで近づき、迂闊に避けられない距離まで近寄らせたブルブランの杖が明滅する。
「小さくなれ――」
杖から放たれた光は、再攻撃を仕掛けていたラウラから回避を奪う。
ラウラの視界が光に包まれ、その先の結果を予想するブルブランの口元が大きく歪む。
が、そこへ雷速の鉄が放たれた。
「っらぁ!」
二体の人形兵器の攻撃を捌きながら、リィンは鞘を抜き放って投擲。
光はラウラでなく、そこに割り込んだ鞘に直撃する。
すると一体どういう原理なのか、鞘は縮小し本来の大きさからかけ離れたサイズへと変貌する。
ラウラはリィンの援護に口元を緩ませながら、戦技を解放した。
「洸閃牙!」
刃がブルブランに振り抜かれる。
だが達人の技量を持つ奇術師は揺らがない。
不発したのならば、次の手を――
「!?」
ブルブランを今まで生き残らせてきた勘とも言うべきものが悪寒を告げる。
その勘が導くままに跳躍。
空高く舞い上がったブルブランは、人形兵器達を両断し、先程まで己が占めていた空間に背後から急襲していたリィンを見ることで、それが正解だったと悟る。
――が、Ⅶ組の双剣はその勘を覆す。
「おおおおおおおおおおお!」
振り抜かれるはずだった刃を、ラウラは強引に止める。
少女の華奢な外見からは想像も出来ない膂力によって急制動。
完全に勢いを殺した大剣の上にリィンが着地する。
「
紡がれるセリーヌの魔術。
「奥義――獅子洸翔斬!」
獅子の剣に翼が舞う。
本来ならば上段から振り下ろすことで威力を加速させるアルゼイドの奥義を、ラウラは発射装置として使用した。
翼持つ大剣が再び振り抜かれる先は上空のブルブラン。
「相ノ太刀――
それは、マクバーンとの戦いで開眼したアルゼイド流の剣士とのコンビクラフト。
鬼の力を失い、ヴィクターほどの洸気を出せない二人では洸凰の規模は語るまでもないが、その力強い
空に逃げたブルブランに追いすがる洸凰の
「――と思ったかな?」
ブルブランが杖を振るう。
目の前に現れる棺桶。
開かれた扉からは、深淵を除くような闇の世界が広がっていた。
「君は自分から棺桶に入ったのだよ!」
「――生憎と」
棺桶の中に突っ込んだリィンを見てほくそ笑むブルブランに、そんな静かな声が響く。
それは棺桶の中に封じられたはずのリィンの声であり、空へ浮かぶブルブランのさらなる頭上から届けられた。
同時に、ブルブランは理解する。
ラウラの洸気は、威力の底上げでなく――洸凰という目眩ましと分け身を練るための材料だったのだと。
つまり棺桶に突っ込んだのは実体を持った分け身であり、今ブルブランの目の前にいるリィンこそ本体。
「化かし合いは、俺達の勝ちだ」
言下。
真正面から唐竹に振り下ろされた太刀は、ブルブランの仮面を切り裂いた。
剣士同士の対決でないせいか、それともタイマンでないせいか結構あっさりめです。
そもそもブルブランの強みというか、状態異常とかトリック攻撃の一切封じてるのでこんなもんか、とも。
状態異常対策すればブルブランもそこまで強敵ではないですし…
そもそもボスはSクラ祭りで沈めた全国のリィン君達も多そうですがが。
でもラウラやセリーヌとの連携も書けたし、こんな感じでⅡ編はリィンとⅦ組の連携を書いていけたらな、って思います。
アルティナは割と食ったように見えるかもしれませんが、ちゃんとまだまだ活躍の機会はあるのでご勘弁。
ちなみに獅子の翼はローゼリアモチーフです。