昔の話にもまだまだありますね…
人馬一体の騎神と化したヴァリマール。
その姿を呆然と見上げていたⅦ組だったが、リィンの体が光に包まれることでオズぼんが声をかける。
「フフフ、息子よ。ひとまずアリサ嬢と交代だ。彼女は今、重傷を負っているからな」
「っ、みんな、治療の準備をしておいてくれ! アルティナも一緒に頼む!」
「要請、受理します」
「わかっ――って、ガイウス?」
リィンに言われ、すぐに治癒のアーツの駆動準備に入るアルティナ。
そして魔導杖を構えたエリオットが、側に居たガイウスの異変に気づく。
釣られて他の面々もガイウスを見てみれば、彼の体もまたリィンと同様に光に包まれるところだった。
「俺も――?」
答えが返される前に、リィンとガイウスがヴァリマールの中に吸い込まれる。
交代するように騎神から降りるのは、瞳を閉じてぐったりとしているアリサ。
口元から垂れる血に息を飲むエリオットだったが、これまでの経験からすぐに落ち着きを取り戻して治療準備に入る。
ガイウスもリィンと共に騎神へ搭乗したことに驚いたマキアスだったが、リィンによってアクシデント耐性を身に着けていたことでエリオットと同じくすぐに判断を下す。
「ラウラ君、僕は担架を探してくる。君は万一に備えて治療中のエリオット達の護衛を頼んだ」
「任された」
それぞれ行動を開始するⅦ組を見届けるリィン。
コクピットには自分しかおらず、一緒に乗り込んだはずのガイウスの姿が見当たらない。
一体どういうことだ、という疑問にフードから隣の定位置へ降りたセリーヌが震えた声を漏らす。
「どういうこと……機体の中に、異空間が生まれてる……」
「元々ヴァリマールの中は異空間だろ? 何がおかしいんだセリーヌ」
「そうなんだけど、あくまでそれは起動者が騎神を動かすために設けられた異空間。なのに、今この機体の中には異空間の中に異空間があるの。アンタのお友達は、間違いなくヴァリマールの中に居るわ。でも、その場所が……」
そう言って黙り込んでしまうセリーヌ。
信じられない、とつぶやく彼女は考えをまとめるので精一杯と判断し、リィンは全ての答えを知るであろうオズぼんへ話しかける。
「親父、ヴァリマールのこの姿は一体……」
「フフフ、息子よ。何も難しいことはない。セリーヌ嬢に召喚してもらった魔煌兵をリソースとして、ヴァリ君がそれを取り込んだのだ。ガイウス君についてだが、ちゃんともう一つのコクピットに座っている」
オズぼんはアリサのことを語らない。
リィンもそれに気づけない。
仲間達に預けたアリサと違い、今はガイウスのほうが気がかりだったからだ。
「もう一つの、コクピット?」
「これまでも、ゼムリア大陸という世界の中に特異点という異空間が発生していただろう? ヴァリ君も今、複座という形でこのコクピットの複製空間が存在しているのだ。
なあに、世界の中に世界が生まれるなら、その中に世界が生まれてもおかしくない」
マトリョーシカのようなものだ、というオズぼんの言葉が終わると、メインカメラに呆然とするガイウスの姿が映る
「ガイウス!?」
「リ、リィンか」
流石のガイウスも動揺を隠せないようで、たどたどしい言葉を発しながらコクピット内に首を巡らせている。
映像の先には、今リィンが座っているコクピットに酷似した光景が映っている。
コクピットはリィンが座っている一つしかないはずだが、オズぼんとセリーヌの言う通りならば、位相のズレた空間にあるコクピットにガイウスが居るとのことだ。
ガイウスもオズぼんの話を聞いていたようで、内容を吟味して少しずつ現状を理解していく。
「どうやら……話を聞く限り、今のヴァリマールは二人乗り、ということだろうか?」
「フフフ、さすがはガイウス君。その視点はノルドならではということか」
「大地の息吹を感じる。以前乗せてもらった時とは明らかに異なる感覚だ。まるでノルドの風と大地そのものになるような……この感覚、以前どこかで――」
「そもそも、なんで二人乗りに? 準起動者による恩恵は騎神のマナを利用した――」
「待てセリーヌ!」
リィンの激が飛ぶ。
視線の先には、新生ヴァリマールへ殺到する巨人機の姿。
今は話をしている場合じゃない、とリィンはゼムリアストーンの太刀を取り出して相対する。
「何が起きたかさっぱりだが……無抵抗のヤツよりも、ある程度反撃してくれたほうがやり甲斐があるってもんだ。それが、散々邪魔してくれた相手なら尚更な」
「お前……《V》!? 死んだはずじゃ……」
「俺もそう思ってたが、存外悪運ってやつが残ってたみたいだぜ!」
《V》――ヴァルカンが狂ったような笑みを上げる。
魔煌騎神と巨人機、その初対決はゴライアスの突進から始まった。
武装も何もないただの突進と侮るなかれ。
五十トリムを超える圧倒的質量から繰り出されるそれは下手な武器や技術を物ともしない強さを誇る。
事実、リィンは残月で受け流そうとした手を止めて回避に走――
「…………っ」
ろうとするが、リィンが描いていたイメージと実際の動きにズレが生じる。
回避行動を取ろうとしたヴァリマールが一瞬だけ動きを止め、次の瞬間弾かれたように急スピードで移動する。
ゴライアスの突進自体は直撃を避けることが出来たものの、危うく転倒しそうになり慌ててバランスを立て直すリィン。
「なんだ……感覚が、いつもと、違う」
「……すまんリィン。きっとそれは、俺のせいだ」
そこにガイウスの謝罪が届く。
理由を尋ねるより早く、ゴライアスの機銃が発射された。
回避は、間に合わない。
「伍の型、残月」
ならば迎撃あるのみ。
そう思って太刀を振るうリィンだが、今までよりもさらに体の動きが軽い。
まるで鬼の力による強化を想起させる斬線は火砲を防ぎ切ることに成功する。
今の自分からは鬼の力は失われている。
ならばこの変化は、ヴァリマールのスペックの向上を意味していた。
「ただ撃つだけじゃやっぱ無理か……」
射砲が止まる。
ヴァリマールを見下ろしながら腰だめに構えた体勢は、ゴライアスが本腰を入れたことの証左。
先程の突進はなんとか避けられたが、あの違和感を克服しない限り二の舞だ。
「ガイウス、さっきの俺のせいってのは?」
「リィンの動きに引っ張られて、俺もあの突進への回避行動を取ったその瞬間だ。ヴァリマールが弾けたように飛んだのは」
「……一人で全部動かすんじゃなくて、ヴァリマールの上半身と、馬の下半身。それぞれ俺とガイウスが動作を担当してるってことか?」
「おそらくは……」
「なら心配はない。――ARCUS、駆動。戦術リンクON!」
宣言通り、戦術リンクがリィンとガイウスの間に結ばれる。
普段のリンクの間に若干の壁のようなものを感じるが、意思疎通に問題はなさそうだ。
だが、性能が変わったこともある。
従来ならば準起動者として仲間達がそれぞれアーツなどの支援を行えるはずだが、その感覚が一切感じない。
今あるのはガイウスとの間に結ばれたリンクだけであり、離れた場所に居るⅦ組との繋がりを感じないのだ。
でもその疑問は後だ、とリィンはゴライアスを睨めつける。
「行くぞ!」
ガイウスの動きに応じてヴァリマールが駆ける。
応じるゴライアスは、バックパックから取り出した大戦斧をヴァリマールへ振り下ろす。
が、力だけの攻撃など数々の強者との相手を戦い抜いたリィンに通用するはずもない。
駆け抜けたまま大戦斧を受け流し、すれ違いざまに一閃。
「ぐぅ……」
ゼムリアストーンの太刀はゴライアスの巨躯に確かな傷を残す。
しかし一撃とまではいかない。
以前機甲兵の腕を生身で斬ったこともあるリィンだが、感じる厚みはそれ以上。
性能の上がっているヴァリマールでこれならば、両断するのは一苦労しそうだ。
「あの爺、この機体なら騎神にも勝てるとか言ってこれか? 糞がぁ!」
「――裏疾風」
ならば、斬れるまで何度も太刀を浴びせるのみ。
少なくともアリサと同じ目には合わせる、とリィンは湧き上がる闘気の熱を緋空斬へと転換して放った。
ガイウスもそれに応じ、四足による高速移動は従来の八葉の歩法をさらに加速させる。
鈍重な体でありながら戦車達の砲弾を避ける俊敏性を身に着けたゴライアスでさえ、今のヴァリマールの体すら捉えることが出来ない。
「劫炎撃!」
怒りの焔を乗せた炎刃が大戦斧の柄を断つ。
その一瞬の空白を縫い、天衝剣による崩しを行うリィン。
しかし、その動きが止まる。
正確には、足が止まった。
腕だけで振られた天衝剣は本来の威力を発揮することが出来ず、一度の斬りつけでゴライアスを吹き飛ばすだけに終わる。
《V》は苛立ちながら役立たくなった大戦斧を投げ捨て、ヴァリマールの動きが止まった瞬間を狙って機銃を放つ。
リィンは避けようとするが、足は止まったままで――
「―――――だっ!」
間一髪、前足部分の駆動が間に合う。
踏みつけられた大地が隆起し、機銃を防ぐ盾となって灰を守る。
その隙にヴァリマールも一度距離を取る。
不調の原因は、すぐにわかった。
ガイウスが全身から滝のような汗を流し、息も絶え絶えに疲弊していたからだ。
「ガイウス!?」
「……………ぁ…………っはぁ…………」
リィンの呼びかけに、ガイウスは空気を求めてあえぐだけで返事が出来ない。
困惑するリィンの傍らで、セリーヌが魔術を使用してガイウスの様子を確かめる。
「――極度の疲労、ね。二人乗りって時点で気づくべきだったわ」
「どういうことだ?」
「どれだけ息を合わせて連携を仕上げても、アンタとこの子の力量差まで埋めることは出来ないってことよ」
リィンの実力にガイウスが追いついていない、というのはわかっていることだ。
しかし魔煌騎神ヴァリマールは二人乗りと戦術リンクを駆使することで、ガイウスにリィンと共に戦う力を与えた。
それは第三機甲師団を蹂躙していたゴライアスを追い詰める力となって示されている。
問題は。
操作のメインがリィンである以上、要求される技量は彼が基準になってしまう――つまり、ガイウスでもリィンの技量を
八葉一刀流を学んでいないガイウスが、実現可能だからと主力となる弐の型を駆使し続けた負担は大きい。
身に余る力の酷使は、鬼の力という過去が物語っている。
リィンがまだまだ余力を残していることに対して、ガイウスはすでに限界寸前。
事実に気づいたセリーヌは、慌てて《
その甲斐あって、ガイウスは口が聞ける程度に回復する。
「す、すまないリィン」
「……お互い様ってことにしよう」
「そうね。残念だけどこのままじゃすぐにガス欠になるのは目に見えてる……ねえちょっとアンタ」
「誰を呼んでいるのだ?」
「……リィンの左腕にくっついてて、今は騎神になってるへんてこなやつよ」
物凄く名前を呼びたくなさそうなセリーヌに、オズぼんは嬉々として応答した。
「なんだね、セリーヌ嬢」
「操作の切り替えは出来るかしら? リィンが足の動きを担当すれば、まだなんとかいけるんじゃない?」
「問題ないだろう――切り替えたぞ」
「え、もう?」
セリーヌは怪訝そうにしながらも、横にいるリィンを見上げる。
リィンはオズぼんの言葉通り、感覚の変化を実感していた。
「これは……まるで馬になった気分だな」
二足でなく四足という体躯がリィンへ違和感を与えていた。
同時にすぐにこの感覚を受け入れ、八葉一刀流の動きを行ったガイウスの適応力の高さを改めて尊敬する。
「ガイウス、いけるか?」
「……やってみせるさ。これ以上、ノルドを荒らされてたまるものか」
ゼムリアストーンの太刀が槍へ変化する。
変化に合わせて、リィンはヴァリマールを発進。
ヴァルカンが武器の変化を気にしたのも一瞬のこと、すぐに予備の大戦斧を構えて相対する。
「なんだぁ? 調子が良かったのは最初だけ……スタートダッシュしか脳がねえのかぁ!?」
「――――っ」
ガイウスの槍捌きは決して悪いものではない。
十七という年齢から見れば十分に優秀であり、事実トールズ士官学院の生徒の中でも上から数えたほうが早い実力者だろう。
だが、達人相応の技量かと問われればそうではない。
操縦者の変更により、ヴァリマールの技量も相応となる。
それは、安定性を得た代わりに攻撃力を失ったことを意味していた。
「オラオラオラオラオラオァ!」
激しく切り結ぶ二体の巨人。
ナイトハルトと渡り合う実力を持つヴァルカンの攻めに、ガイウスは歯を食いしばりながらも必死に食らいついていく。
だがやがて隙を付かれ、槍を持った両手が跳ね上げられる。
「回避を――」
「ダメっ、間に合わない!」
慣れない感覚にリィンもまた必死に足を動かすが、一手遅い。
迫りくる大戦斧はヴァリマールを両断せんと振り抜かれ――一発の砲撃が、その動きをわずかに遅らせた。
一瞬の遅延を見逃さず、リィンは大戦斧を避ける。
横目に見れば、《アハツェン》ではないが、旧型戦車が見えた。
それは、かつて模擬戦の要請で戦った第三機甲師団の面々。
貴族連合も参戦するこの戦場で、ヴァリマールが不利と見るや加勢に入ってくれたのだろう。
「うざってぇんだよ! 雑魚が関わるな!」
しかし、感謝の言葉を紡ごうとするリィンの目に映るのは、ゴライアスの手が旧型戦車に伸びる光景だった。
咄嗟にガイウスが槍でゴライアスの腕を差し込むが、威力を殺し切ることは出来ない。
直撃こそしなかったが、大地にめり込んだ一撃による衝撃は風圧を生み、旧型戦車を監視塔方面へと吹き飛ばしていった。
(くそ……俺がメインになったらガイウスが付いて来れない。でも現状だと互角……防御側に傾いてるガイウスの操作だと周囲に被害を出してしまう。
戦力のバランスと、この人馬……馬上戦闘に慣れた誰か――)
苦悩するリィンのARCUSが、一際大きな輝きを放つ。
それは、まるでリィンの問いに応えるように光を帯び――一その存在を、感知した。
逡巡は一瞬。
リィンはすぐに判断を下す。
「ガイウス、悪い。また交代頼めるか?」
「……何やら、良い考えが浮かんだか?」
「ああ。でもそれは、ガイウスに忍耐を強いることになる」
「構わない。俺ではこの巨人を倒すのが難しい……ならばリィン。俺は友に賭け……いや、信じよう」
笑い合うリィンとガイウス。
ならば、とリィンは思いついた作戦をガイウスに伝えるのだった。
*
旧型戦車が吹き飛ばされた先――監視塔にアリサを運び、治療に専念していたⅦ組。
アルティナとエリオットが、ひとまず命に別状がない状態までアリサを治癒したその時だ。
ゴライアスに吹き飛ばされた旧型戦車が監視塔の壁にぶつかり、その衝撃にラウラが様子を見に外へ向かう。
そこには壁に直撃して沈黙する旧型戦車が鎮座していた。
少し離れた位置では、巨人とさらなる巨人がぶつかり合っている。
獲物が槍であることを見やり、今操縦しているのがガイウスであると察する。
遅れてエリオットとマキアスも走ってくる。
アリサのことはアルティナに任せたとのことだ。
「なんでガイウスが……」
「戦術リンクも繋がらない……一体何が起きているんだ」
「わからぬ。だが、見たところヴァリマールが不利のように見える……」
「って、考えるのは後だよ! 今は中の人達を!」
以前、ガレリア要塞で戦車についての教練も学んでいたⅦ組はあの時のことを思い出しながら中にいる搭乗員達を救出する。
傷こそ負っているが、幸い命に別状はなし。
エリオットのアーツによる応急処置を施していると、アルティナが監視塔の中から出てくる。
目を見開きながらも、アリサのことを任せたはずの彼女がここにいることにマキアスが声をかける。
「ア、アルティナ君。アリサ君を放って一体何事――」
「
同時にラウラ・S・アルゼイド。エリオット・クレイグ。マキアス・レーグニッツに救援を要請」
だが、アルティナはマキアスの言葉に反応せずクラウ=ソラスを呼び出す。
おそらくリィンであればアルティナの
戸惑うラウラ達をよそに、アルティナはクラウ=ソラスを鋼鉄のブーツへ変化させ、それを履いた。
「アルティナ、そなた一体何を……」
「こちらの旧型戦車であの二人を支援するために必要な行動です。現時点でのこの肉体設計では、足が操作盤に届きませんので。……要請への返信を待機」
アルティナはじっと三人を見上げる。
顔を見合わせながらも、ラウラ達はアルティナが言わんとすることを理解する。
「動かせる、のか?」
「私は操縦を。ラウラ・S・アルゼイドとエリオット・クレイグが目と耳を使い観測を。マキアス・レーグニッツは砲手を担当してください」
「と、突然そんなこと言われても……」
「以前、ガレリア要塞で講習を受けたと聞いています」
確かに特別実習で軍事教練として学んだことはあるが、わずか数日の出来事だ。
それを今から思い返せと言われても……と、至極真っ当な悩みに、三人は返事を詰まらせてしまう。
「もし、我々が協力しなければどうなる?」
「単独で支援に向かいます。ただ、その場合の成功率は著しく下がりますので、確率を上げるために要請を行っています」
それは、ある種の脅迫にも聞こえた。
目の前の幼い少女に自殺まがいの強行をさせるわけにもいかず、そして騎神に乗って戦う仲間達の助けになれるとなれば答えは一つしかない。
「説明書はあるのか?」
「マニュアルは口頭で。では、参りましょう」
無理無茶無謀を実現するリィンの仲間達もまた、それに応じる行動力を持っていた。
そしてノルドに集う
「…………………」
「やっぱりユーシスか、まさか機甲兵に乗ってたなんてな!」
「…………………」
「ん? 聞こえてないのか? ユーシスだよな、おーい! 俺だよ、俺!」
シュピーゲルのメインカメラにべったり張り付いて画面にどアップで映る、死んだと思い込んでいた
シリアスさん「どうして…どうして…(閃ⅠのEDを見ながら)」
キリが良かったので分割しました。
話に必要なものしか入れてないはずなのに長くなる不具合。
アリサ覚醒の考察とか入り切らなかったのはすみません。
次回、リザルトまで行くかはわかりませんがノルド編決着です。