はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

169 / 200
フフフ、息子よ。ノルドのリザルトだ

 Ⅶ組の連携戦技はゴライアスを切り裂き、ノルドにおける決着の一太刀となる――はずだった。

 けれどリィンの一撃を受けたゴライアスは、コクピット部分を露出させるほどの大破を負ってもその動きに陰りはない。

 だが変わったこともある。

 黒いウォークライを塗りつぶすかのように、赤雷を迸らせる漆黒のオーラがゴライアスを包み込んでいく。

 この力をリィンは、Ⅶ組は知っていた。

 

「鬼の力……」

 

 そう。

 ゴライアスがまとうそれは、かつてリィンが使っていたそれと同じだった。

 

「フフフ、息子よ。どうやらゴライアスのバックパックには、外付けのバッテリーのように霊力が貯蓄されていたようだ」

「どうして……」

「鬼の力と言っても、あれをシンプルに区別すれば霊力による強化の一種だ。上昇幅に違いはあれど、武芸者が使う戦技もそれと同じこと。

 仮にその霊力をプール出来る装置を開発したのであれば、導力とはまた異なるエネルギーとなって活用出来てもおかしくはない。

 ゴライアスはオルディーネと同じく貴族連合所属。ならば、オルディーネから溢れる霊力を貸与出来てもおかしくはなかろう」

「……結論として、あのゴライアスは導力以外にも霊力で動くことが出来る。つまり再起動の機能を持った機体ってことだな」

 

 それは厄介に尽きるが、リィンとしてはあのオルディーネほどの再生能力を有していないのであればまだ楽だと気持ちを切り替える。

 プールした霊力と言っても、そのバックパックは先程の戦技で切り離した。

 なら、長時間の稼働は難しいと観の目は言っている。

 ただし、その短時間に鬼の力で強化されたゴライアスの猛攻を凌ぐ必要があるが。

 

「ユーシス、ガイウス。ちょっと驚いたけど今までとやることは変わらない。だからもう一度三位一体で――」

「…………………あ」

「ユーシス?」

 

 呆然と、戦場に立っているとは思えないほど無防備に、ユーシスがつぶやく。

 何をしている、とガイウスが即座にシュピーゲルの側に寄ってくれるが、ユーシスの反応は薄い。

 一体何事だとリィンはユーシスの視線の先に目を向けると、彼もまたその双眸を大きく見開いた。

 

「何かの液体の中に人が……浮かんでいる」

 

 ガイウスすら同じく絶句して呆然とする有様が、そこにあった。

 ゴライアスのコクピット部分。

 そこには操縦者であるヴァルカンが座っている。

 そう思っていたが、違った。

 そこに配置されていたのは、なにかの溶液が詰め込まれたカプセルとその中にいるヴァルカンを結ぶコードの群れ。

 肉体に直接結合したコードは直接ゴライアスの各種機関に接続され――パイロットのための機甲兵でなく、機甲兵のためのパイロットといった姿でそこに繋がれていた。

 

「う………」

 

 戦術リンクの影響か、込み上がる吐き気を抑えるような感覚が送られる。

 ユーシス側の戦術リンクの輝きが落ちている。

 動揺が戦術リンクの遮断となって表れ始めているのだ。

 

「……ククク、ここまで追い詰められるとは思わなかったが、第二ラウンド開始と行こうじゃねえか。まだまだ踊れるよなぁ、シュバルツァーアァァァァァァァ!」

 

 だが、そんな動揺はヴァルカンには関係ない。

 生命という薪で怒りの焔を焚べているような感情の荒々しさは、鬼の力と黒いウォークライが混じり合った影響もあって、戦場全域へと届けられる。

 だというのに、カプセルの中のヴァルカンには一切の変化がなかった。

 むしろ穏やかな表情すら浮かべているさまは、頭と体がすでに繋がっていないのではなかと思えた。

 

「……一体、何を考えている!」

 

 激発するユーシス。

 ガイウスが声をかけようとするも、それすら聞こえない様子でユーシスは吠えた。

 

「貴様、自分がどうなっているのかわかっていないのか!?」

「ああ?」

「その体のことだ! そんな、人間の尊厳を捨てるような――」

「構いやしねえさ。鉄血の首が取れるならむしろ安いモン……ま、その前にお前の兄貴にケジメは付ける予定だがな」

「どういう……ことだ」

 

 通信越しから聞こえるユーシスの息が荒い。

 あるいは、ヴァルカンが言うであろう先の言葉を無意識に理解していたのかもしれない。

 ヴァルカンは、告げる。

 

「俺がこうなってるのは。坊っちゃんの兄上……ルーファス・アルバレアの()()()ってことだ!」

「ガイウス!」

 

 再起動を果たしたゴライアスの大戦斧が振りかぶられる。

 咄嗟にリィンはガイウスへ叫び、戦術リンクを通してその意味を察したガイウスがシュピーゲルを抱えてその場から離れる。

 だが今までのゴライアスよりもさらなる速度を以て振るわれたそれは、魔煌騎神ヴァリマールにはじめてのダメージを与えた。

 

(鬼の力なら当然強化も……ってことか! でも、そう長くは持たないは――)

 

 リィンの思考が強引に途切れる。

 その理由は、吹き飛ばされたヴァリマールの異変だった。

 機体の全身から光が溢れる。

 だがそれは変身した時のような力強さはなく、むしろその反対。

 体が光の粒子へ分解されているような脱力さを覚えたかと思えば、ヴァリマールの体は元の隻腕の姿へ戻ってしまっていた。

 

「何……ガイウスは!?」

 

 咄嗟に首を巡らせると、宙に放り出されるガイウスが見える。

 リィンは即座にゼムリアストーンの太刀を放り捨て、残った右腕でガイウスを抱える。

 騎神の手の中のガイウスはぐったりとしていたが、呼吸は確認出来た。

 そのことに安堵する時間は、与えられなかった。

 

「ようやく、捉えたぜ」

「破こ――」

 

 迫るゴライアスの大戦斧。

 リィンは咄嗟にガイウスを地面に置き、遅れて右腕で迎撃するが、巨人の斧は容赦なく騎神の右腕を弾いてヴァリマールを切り裂いた。

 

「がっ…………」

 

 起動者へのフィードバックが容赦なくリィンを襲う。

 両断されなかったのが幸いなほどに切り傷を作ったヴァリマールが膝をつく。

 そこへゴライアスがトドメの一撃を振りかぶり――一瞬だけ動きを止めた。

 

「…………?」

 

 怪訝そうな声を上げたヴァルカンだったが、何の問題もないとして今度こそリィンへのトドメを刺さんとした。

 しかし、その一瞬がリィンを救う。

 ヴァルカンを内包したカプセルが、何らかの衝撃で揺れたのだ。

 

「一体なんだって――!?」

 

 驚くヴァルカンの視界には、身の丈を超える黒い剣の上に乗った銀髪の少女が見えた。

 

「ラグナ・ブリンガーによる攻撃は不発。ですが、十分と判断します」

 

 銀髪の少女、アルティナは即座にその場を離れたかと思えば、騎神から強制排出されたリィンを空中で抱え、高速移動でそこから離れていく。

 もはや風前の灯と言えた獲物を目の前で掻っ攫われたヴァルカンは怒りのボルテージを上げるが、ゴライアスの計器各種が警告音を発する。

 どうやら先程の一撃で残量エネルギーが危険域に突入しているらしい。

 追いかけるのは容易だが、向かった先は監視塔。

 残った戦力をかき集めた第三機甲師団の前では、万一ということもありえた。

 

「ちっ、ここまでだな。だが……この力なら……」

 

 くつくつと笑い声を漏らすゴライアスが、その場を反転して去っていく。

 監視塔から離れた貴族連合と合流するのだろうが、追いかける気力も戦力も彼らには残されていなかった。

 

「兄上……が……」

 

 シュピーゲルのコクピット内に響くつぶやきに答える者は、誰もいない。

 戦術リンクも切れた今、その言葉に宿った感情を知っているのは、ノルドの風と大地だけだった。

 

 

 リィンを救出したアルティナは、ガイウスの保護をラウラ達に任せて医務室へとやってきていた。

 彼をベッドに運んで軍医を呼び、自らは別の場所――監視塔屋上へとやってきていた。

 軍人達が慌ただしく動く中、屋上には停止された導力波妨害装置と一人の少女が佇んでいる。

 その少女、アリサは重傷を負っていたとは思えない動きでアルティナに歩み寄る。

 

「要請、完了しました」

 

 無言で頷くアリサ。

 その瞳が、怪しく光る。

 エマ達魔女が使う魔術とは違う、精密な時計細工を思わせる光の羅列が浮かんでいる。

 まるで歯車のように動く光の円盤が二、三度揺れ動いたと思うと、アルティナの瞳にも似たような模様が浮かぶ。

 その間に紡がれる光の線。

 まるでデータの送受信をするように行われたそれに対し、アリサもアルティナもまるで何の疑問を抱く様子もない。

 

「………………」

 

 アルティナは動かない。

 次の指示を待つ、と虚無の瞳で態度を語っている。

 同じように感情を伺わせないアリサが、再びその目に光を生み出そうとした直前――

 

「フフフ、アリサ嬢。流石にそれ以上の行使はやめておきたまえ。()()に耐えきれず、視覚はおろか五感が消えてしまうのでな」

 

 降り立った隻腕の騎士人形から、低く艷やかな声が響く。

 それを見上げるアリサの瞳の中の模様が激しく揺れ動く。

 まるで計器の測量を行うかのように変動するそれがヴァリマールを収めていたが、再び声が紡がれると同時にアリサとアルティナの目に光が戻った。

 

「……………え?」

「………………?」

 

 はっとして呆然とするアリサ。

 アルティナもまた、どうして自分がここにいるかわかっていない様子で周囲に首を巡らせている。

 

「フフフ、二人共。ここで一体何をしていたのだね?」

「きゃあああ!? お、驚かせないでよもう!」

 

 突然かけられた声にびくりと体を震わせる二人。

 オズぼんが居ることに気づいたアリサが悲鳴を上げるが、その元気いっぱいに喚く姿に先程の様子は見受けられない。

 そのことに満足するように首肯するオズぼんへ、アルティナが声を紡ぐ。

 どうやらヴァリマールが変身したところまでは覚えているようだが、それ以降の記憶がさっぱり抜け落ちているそうだ。

 オズぼんは断ることなく説明する。

 

「――と、いうわけでゴライアスは撤退。息子はフィードバックによる消耗のため、医務室で寝ているはずだ。お見舞いなら、少し時間が経った後のほうがよかろう」

「いえ。起きていようが寝てまいが、私には問題ありませんので。リィンさんの側で待機しています」

「あ、待って! どうせなら他の皆と合流してから――」

 

 失礼、と言って屋上から去るアルティナを慌てて追いかけるアリサ。

 だが途中で躓いたのか、叫び声と階段を転げ落ちる音が聞こえてきた。

 その様子を見届けたオズぼんは、貴族連合が去っていく方角を眺める。

 正確には、彼らを追う新緑のシュピーゲルを、だ。

 どうやらユーシスはⅦ組でなく、貴族連合へ戻ることを決断したらしい。

 

「フフフ、Ⅶ組の再集結にはまだ時間がかかりそうだな」

 

 どこか愉快そうな声を上げながらも、オズぼんはリィンの見舞いをすべくその場を後にした。

 当然、医務室の側に降り立った灰の騎神は大騒ぎになるのだが、駆けつけたエリオットが搭乗し、ゼムリアストーンのパイプオルガンから奏でられる旋律によって重傷者を零にしたことでお咎めナシとされる。

 

 これらの一件は第三機甲師団の間で伝説となり、猛将の息子もある意味猛将なのだと騎神で音楽を奏でるエリオットの破天荒ぶりが語り継がれることとなるのであった。

 

 

 ノルティア街道の南端に築かれたノルティア領邦軍の拠点の一つ、黒竜関。

 その牢屋に、一人の少女が独房に入れられていた。

 

「……しくったなあ」

 

 少女の名はフィー・クラウゼル。

 ユミル近辺までエリゼとアルフィンを護衛した後に行方知れずとなっていた、Ⅶ組の一人である。

 彼女はユミルに近いルーレ近辺……正確には武闘派で知られるログナー侯爵の動きを探ろうと単独行動をしていた。

 

 ノルドで第三機甲師団と争っていた領邦軍もノルディア州の所属であり、《ニーズヘッグ》などの猟兵団とも契約していた。

 それらの動きを仕入れ、少なくともログナー侯爵側からユミルに送られる大規模な戦力はないだろう、と考えていたフィーがどうしてここに捕まっているのかと言うならば――

 

「やっほーフィー。元気―?」

「さっきまではね」

「そうなの? ほら、お菓子持ってきたからあげる。パンも買ってきたよ?」

「……………」

「いらない?」

「もらう」

 

 牢屋越しから食料を受け取り、黙々と食べるフィー。

 その様子を満足そうに見つめる緑髪の少女。

 彼女の名はミリアム・オライオン。

 トールズ士官学院Ⅶ組所属のクラスメイトであり、フィーがこの牢獄に入る原因となった少女である。

 

 ミリアムもこの近くで何かを探していたようで、不幸にも彼女を追いかけていた領邦軍と鉢合わせてしまったのだ。

 トールズ士官学院の生徒であることは学生証によって証明されたため、そこまでひどい扱いは受けなかったのだが、不幸だったのは領邦軍と契約していた猟兵がフィーの顔に見覚えがあったことだろう。

 西風の妖精(シルフィード)としての二つ名がバレ、学生だとしても油断は禁物、何か探っていた可能性が高いとして牢に入れられてしまったのだ。

 

 尋問を受けても、自分ははぐれた友人を探していると嘘偽りない話で押し通した。

 そんな風に牢屋に入った数日後、ミリアムがやってきたというわけだ。

 

「でもまさか、フィーがここに居るとは思わなかったからさあ。そこは謝っとくね、ごめん。痛いことされてない? されてたら……」

「一応学生ってことだから、別に。……ただ、何もしなかったら内戦中はここに居るハメになるけど」

「そっかあ。思ったよりまともで安心したよ」

 

 しばらくフィーが食事を取る咀嚼音が響く。

 フィーとミリアムの会話も、基本的に周囲に誰もいないことを確認してから行っている。

 仮にも鉄血の子供として帝国軍情報局所属……オズボーン直属の配下であるミリアムが貴族連合軍の拠点に居るのがバレれば、ただではすまないからだ。

 やがて差し入れを食べ終えたフィーは、少し逡巡してから、意を決して口を開く。

 

「ミリアム。あのね――」

「ダメだよ、フィー。()()()ってのはきちんとしないといけないんだってオジさんも言ってたもん」

「………リィンは、生きてるよ」

「心臓を撃たれたのに?」

「ミリアムはARCUSから何か感じなかった?」

「ボク、忙しかったからさー」

 

 けんもほろろに会話を受け付けないミリアム。

 元々物事に対して独特の価値観を持っていたが、再会した時の彼女はわかりやすい感情に染まっていた。

 それは、怒り。

 西風の旅団の猟兵として戦場を巡っている頃、倒された仲間達の報復のために立ち向かってきた相手と似たようなニオイをフィーはミリアムから感じ取っていた。

 

「何をする気?」

「フィーには関係ないよ。大丈夫、なんかユーシスがこっちに来てるみたいだから、ついでに伝言しておくからさ。それまで何もしなければ、ちゃんと保護してくれると思う」

 

 じゃねー、とそれだけ言ってミリアムの姿が消える。

 アガートラムに搭載された光学迷彩を使ったのだろう。

 ユーシスが近くに居る、ということはきっとミリアムはもう顔を出さない可能性が高い。

 同時にそれは、ミリアムがしようとしていることを止められなくなるというわけだ。

 

(多分ミリアムはリィンの仇を取ろうとしてる。私にだってその感情はある。でも……あれは、危ない)

 

 ミリアムから感じ取れたのは、それこそ手段を選ばない、という雰囲気だった。

 何をしようとしているかわからないが、フィーの勘が放置しておけないと囁いている。

 

(リィンなら、どうしたかな)

 

 思い浮かべるが、考えるまでもない。

 きっとわがままくんとしての理屈で勝手に助けて勝手に解決するのだろう。

 自分が、そうされたように。

 

(強引に脱出……出来なくはないけど、その後を考えるとナシかな。ユーシスが来るっていうならそっちのほうが確実。ARCUSや装備の回収はその時で)

 

 そうと決まれば、とユーシスが来た時にすぐ動けるよう体をほぐしておく。

 しかし、同時にこうも思った。

 

(マキアスとリィンに続いて、私も牢屋経験しちゃったんだなあ)

 

 猟兵らしい気分の切り替え、けれど思考の方向をⅦ組色に染められながら、フィーは気軽にユーシスの来訪を待ち続けるのだった。




ノルド編、これにて完結です。

ヴァルカンの現状はOzシリーズ・シュミット版。
ミリアムやアルティナといったOzシリーズも戦術殻のための人間態(マシンヒューマノイド?)、みたいな表現してましたが、その機甲兵版ですね。
有名なので例えれば鉄血のグレイズ・アイン的なアレです。
シュミット教室で鬼の力に関してもたっぷりデータ回収済みなので、少し早い魔煌機関みたいなものです。

閃Ⅰ編ではシュミット博士の良いところばかり表現してきましたが、Ⅱ編では怖さも表現出来たらなと思ったのでこんな感じに。
ヴァルカンは犠牲になったのだ…犠牲の犠牲に…

更新停止の間に筆を取っていなかったこともあり、以前と比べて文章がおかしくなっている、違和感などありましたら教えていただけたら嬉しいです。
テンポよく、読みやすい文章で物語を作っていきたいものですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。