はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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フフフ、息子よ。Ⅶ組と再会しよう

「ってわけで、フィーを助けに行ってきます」

 

 ベリルからフィーの現状を聞いたリィンは、即座に行動を開始することにした。

 ノルドから戻って四半分も経っていないというのにこれである。

 かつてのロジーヌ救出の折にあった出来事を考えれば、一言告げるだけマシというもので確かな成長が伺える。

 それでもローゼリアはこう言いたい。

 

「お主はあれか? 動いていなければ死んでしまう生態なのか?」

「フィーが捕まってるって聞いて大人しくしてるほうが死にます」

 

 迷いない返答に魔女としての善き心は笑みを浮かべたいが、ローゼリア個人としては額に手を当ててうなりたくなる。

 その様子に己の身を心配していると思ったリィンは、安心させるように穏やかな声音を紡ぐ。

 

「大丈夫ですよ、別に正規軍と貴族連合の争いに介入するわけじゃないので。フィーを見つけたらすぐに戻って来ます」

「妾知ってる。どうせ巡り巡って第三勢力として介入するパターンじゃろ?」

 

 リィンはそんなことないですよ、と言うが側に居た面々は誰も否定しなかった。

 

「そうね。ユーシス君にミリアムさんもルーレに居るって話よ」

「ほれぇ、やっぱり」

「ん、ルーレ? ノルドに居た領邦軍がログナー侯の兵士ならそれもわかるけど、ユーシスも一緒なのか?」

「ええ。案外、彼もフィーさんのことを知って動いているのかもしれないわ」

「なら、ミリアムと合わせてⅦ組が再集結するチャンスだな」

 

 相変わらずのポジティブ思考を隠さないリィンだが、ベリルはその言葉にうっすらと笑みを浮かべるのみ。

 

「出発ですか、リィンさん」

 

 そこへノアを抱えたアルティナがやってくる。

 だがその動きは普段よりも遥かに鈍重で、牛歩の如き移動速度だった。

 おっかなびっくりとしたその歩みは、寝息を立てるノアを起こさぬよう、アルティナなりの精一杯の対処法らしい。

 普段から声の大きいと言えないアルティナの言葉がさらに小さくなるほどに、ノアの世話は少女の精神を削っていたようだ。

 

「クラウ=ソラスに持たせようとした時は流石に止めたけど、いっぱいいっぱいなのは確かだから早く変わってあげなさい」

「よし、それじゃあ――」

「なら、私が預かるわね。アウラさんの所に戻してくるわ」

 

 意外にもそう提案したのはベリルだ。

 淀みない動きでアルティナからノアを受け取り、要件は告げたとばかりにローゼリアのアトリエから出ていく。

 小さな子の世話をするイメージはなかったのだが、ノアを抱える動きに無理はなく、眠りを妨げる様子もない。

 シギュンに占いに関してアドバイスしていたこともあり、エリンにも馴染み深くなっているベリルだった。

 無表情ながら、明らかにほっとしたアルティナを尻目にリィンは言う。

 

「話を戻すけど、ルーレに他のⅦ組が勢揃いしているそうなんだ。だからフィーを助けた後に、叶うなら合流を目指す」

「わかりました」

「セリーヌ、悪いけど転移を手伝って――」

「いや、悪いがセリーヌはエマのところへ向かってもらえぬか?」

 

 その発言に目を丸くするリィン。

 セリーヌも同様であり、エマ達に何かあったのかと不安が胸中を襲う。

 その不安を顔に出していたリィンに、ローゼリアは案ずるでないと宥めた。

 

「最近のお主はエマでなくリィンの使い魔のようではないか。たまには本当の主を手助けしてやらんか」

「あー……」

 

 リィン自身、セリーヌに頼りまくっている自覚はあったので言葉を濁す。

 ノルドでの戦いも、オズぼんの言葉通りならば騎神があの姿になったのは魔煌兵を取り込んだからであり、その魔煌兵を呼べたのはセリーヌだけだ。

 ブルブランとの戦いも細かくサポートしてくれて、リィンもラウラも怪我を負うことなく怪盗紳士を退けることが出来た。

 そのおかげで体調も問題なくゴライアスとの戦いに望むことが出来た。つまり、彼女がいなければノルドでの戦いは詰んでいたとも言える。

 

「確かにエマはしっかりしておるが、まだ成人すらしておらぬ身。皇子の護衛という立場もあり、普段以上に気を張り詰めていてもおかしくはない。しっかりその緊張をほぐしてまいれ」

「それはわかったけど……」

「大丈夫です、私がサポートしますので」

 

 静かに、それでいて普段よりもはっきりとした物言いのアルティナ。

 ノアの世話を任されたのに、セリーヌのフォローがなければ何も出来なかったことに対して思うところがあったのか。

 それともノルドでの出来事のせいか、ともあれやる気十分のようだ。

 

「わかった、それならセリーヌの分も頼む。っと、その前に少し腹ごしらえしておくか。腹が減っては戦はできぬ、って東方のことわざにあるからな」

 

 普段よりも語感の強さを気にしたリィンは、体力よりも精神の消耗が激しいと判断し食事を取ることを提案する。

 急いでいるのでは? と目で訴えるアルティナに、リィンはローゼリアに台所を借りますと言いながら食材を用意する。

 

「簡単なものだから大丈夫。俺は適当にハムとかサンドして、アルティナは……フルーツサンドでいいかな」

 

 ローゼリアの偏食のせいか、トマトなどの野菜がなかったので代わりの食材を使って作る。

 レシピ通りとは言えないが、この程度のアレンジは学生寮でも料理を作るリィンならば問題なくこなせる。

 

「甘いのは平気か?」

「糖分の補給は大事なので、はい」

 

 出来上がったフルーツサンドを手に取り、もそもそと小さな口で咀嚼するアルティナ。

 そのペースは普段よりもゆっくり……つまり、堪能しているように思える。

 時間があればパンケーキなど、しっかりしたものを作って上げてもいいかもしれないなと、リィンはハムにエリン特製ハーブをふりかけ、その上にマヨネーズを塗ったものをパンで挟んだ簡易サンドイッチをかじりながら考える。

 ふと、フルーツサンドに使ったホイップクリームが詰め込まれた絞り袋のクリームが、ほんの一絞り……かろうじて二絞り分ほど余っているのが見える。

 リィンはフルーツサンドを食べて一息ついているアルティナに話しかける。

 

「アルティナ、あー」

「?」

「あーってして、口を開けてくれ。上向いてな」

 

 言われるがままに、口を開けて首を少し傾けるアルティナ。

 リィンは手に持った袋から、余りのホイップクリームをにゅっと絞り出してアルティナの小さな舌の上に乗せる。

 舌に感じた甘みにびっくりしながらも、アルティナはクリームをこくん、と飲み込んだ。

 

「直接食べるのも乙なものだろ?」

「……クリームはデコレーションされているほうが良いと思います」

 

 美味しいですけど、と添えながらも反論するアルティナ。

 どうも甘味にはこだわりがあるようだ。

 素材のままでも美味しいものは美味しいと思うのだが。

 

「あー! 妾のくりぃむが!」

「許可取りましたよね?」

「サンドイッチ作るんで、って言われたら普通くりぃむ使うなんて思わんじゃろう……ユークレスにまた仕入れを頼んでおかなければ」

 

 リィンから奪い取った絞り袋のキャップに口を寄せ、直接残りのクリームを吸い取っていくローゼリア。

 行動が子供のそれに、アルティナが呆れるように目を細めていた。

 だがリィンはこういうこともするよな? と経験があったのでダメそうな雰囲気に驚いた。

 

「そう言えばアルティナ。フィオナさんはともかく、アリサやラウラは寝ているか?」

「ラウラ・S・アルゼイドは睡眠を欲していたようですが、アリサ・ラインフォルトは何か考え事をしている様子でした」

「そうか……とりあえずカールさん含めて男子組は全滅だから、アリサに言付けだけしておくか」

 

 フィーを保護したらすぐに戻る予定だが、夕方に近い今の時間を考えると夜を超えて朝を迎える可能性が高い。

 そうなると夜にまたいない、と主にマキアスから説教を受ける可能性が高いので伝言をしておいたほうがいいと判断する。

 恨めしそうなローゼリアに礼を言って客間へ向かうと、ちょうどアリサが部屋から出てくるところだった。

 

「ちょうど良かった。アリサ、これからちょっと出かけるからみんなへの説明頼む」

「まず、その行動に至る経緯を説明してもらえないかしら」

 

 付き合いの長いアリサは特に驚く様子もなく詳細を尋ねる。

 明かされた内容は流石に放置出来るものではなかったため、アリサは口元に手を当てて考えこんでしまった。

 

「みんなは少なくとも寝かせておくべきだと思う」

「だろ? だから――」

「だから、私も行くわ。黒竜関なら、ラインフォルトの娘である私にも多少融通が効くかもしれないもの」

 

 その提案にリィンは目を丸くする。

 アリサはむしろ自分達を置いて行く気だったのね、とお冠である。

 

「フィーが心配なのは貴方だけじゃないのよ? みんなだって、起きてたら絶対付いて行くって言ってるはずよ。だから代表して私が、ね」

「むしろアリサこそ休んでなくて平気か? ノルドで重傷負ったのに」

「リィンの親父さんのおかげで、むしろ体の調子は良いくらいよ。それにさっき言った通り、ルーレ近辺なら領邦軍だってラインフォルトの名前は無視出来ないわ。

 そもそも、フィーを取り戻すプランは考えてたの?」

「えーっと、アルティナに光学迷彩をかけてもらって……」

「ルーレでミリアムに同じこと頼んで、どうなったか覚えてるわよね。シャロンは居ないと言っても、光学迷彩に頼り切りじゃダメよ。

 というか、ノルドでも見破られて撃墜されたって話じゃない」

 

 それは相手がゼクスだったから、という反論は却下される。

 これから向かう先にゼクスに比肩する存在がいないとも限らないのだから、安易に一つの力にこだわる必要はないとアリサは語る。

 

「へえ、シュバルツァーがやり込められるなんざ珍しいところを見たぜ」

 

 そこにアッシュが楽しそうに声をかける。

 鬼の力の制御訓練の疲れはある程度取れているようで、こちらへ歩いてくる足取りに遅れはない。

 むしろそのリィン相手に優勢を取るアリサに興味が湧いているようだ。

 

「リィン、この子は?」

「こいつはアッシュ。アッシュ・カーバイド。オルディスで会ったんだけど、左目にちょっと色々抱えててな。治療とか諸々のために連れて来たんだ」

「左目が疼く……治療……ああ、このくらいの年の子はね? でも本物の魔女の里に連れて来なくても」

「おい、何勘違いしてるかわかるからその糞むかつく目つき止めろや」

「というか、アリサも一度会ったことあるぞ? 五月の特別実習でな」

「え……?」

 

 じっとアッシュを見つめるアリサ。

 うーん、と記憶を深く探っているようだが、思い至ることはなかった。

 

「五月っていうと、あの機甲兵溶かしたマクバーンって人や直接戦った西風の旅団の印象が強くて……」

「なら仕方ないな」

「人を勝手にモブ扱いしてんじゃねえぞテメェら」

「悪い悪い。それで、何か用事か?」

「チッ。テメェに客だよ」

「俺に?」

「客人というより、お友達ですけどね」

 

 そんな声と共にアッシュの背後から現れるのは、七曜教会のシスター服に身を包んだ少女、ロジーヌだった。

 

「ロジーヌ! 戻ってたのか」

 

 彼女の姿を認めて破顔するリィンに微笑で応えながら、ロジーヌは要件を告げる。

 

「はい、ここからは一人でなんとかなるとのことで、リィンさんを手伝ってくださいとライサンダー卿が」

「トマス教官が……ってことはもう生徒のみんなは無事ってことでいいのか?」

「全員、とまでは行きませんが平民生徒の安否はある程度確認してきました。ミントさんはルーレの実家に。ムンクさんも無事のようです」

「そっか……良かった」

 

 シュミット教室の仲間達が無事なことに安堵の息をつく。

 ですが、とロジーヌは浮かない顔だ。

 

「ジョルジュ先輩『は』まだ不明なんです…………」

「…………トワ先輩達と無事合流できてるといいけどな」

 

 ロジーヌに若干の間があったが、リィンは追求しなかった。

 シュミット教室の残るメンバー、すなわちクロウのことだ。

 ロジーヌに塩の杭の残留物盗難の疑いを被せ、リィンを狙撃したこの内戦を引き起こしたと言っても過言ではない人物。

 善性が強く優しいロジーヌも、思うところがあるようだ。

 

「じゃあ悪いけど、早速手伝ってもらっていいか? 黒竜関にフィーが捕まってるそうで、助けに行きたいんだ」

「ええ、もちろん」

「……その話、俺も噛ませろや」

 

 そこに割り込むアッシュ。

 目を丸くしながら、その意図を探るリィン。

 

「さっきの意趣返しってことなら謝るから、無理に付いて来なくてもいいぞ?」

「テメェが言ったんだろうが。俺が使う鬼の力は、実戦形式が一番いいってな」

「……うーん。でもなあ」

 

 リィンが察するところ、アッシュの実力はクルトと同程度だ。

 戦い方次第で勝ち負けが変動するだろうが、大雑把に判断すればその判断は間違いではない。

 だが今のクルトはテスタ=ロッサを遠隔操作という手札がある。

 故に連れて行っても戦力に数えられるため、セドリック達の護衛も問題なかったのだが……

 

「別に構わないんじゃない?」

 

 悩むリィンを後押ししたのは、まさかのアリサだった。

 アッシュもまさか援護射撃が飛んでくるとは思わず、息を呑んでアリサを見やる。

 

「さっきは思春期特有の十四歳病かと思っていたけど、鬼の力を持ってるなら導力とかを見抜けるんでしょう? 黒竜関、ルーレに行くって言うなら役立つ場面も多いはずよ。

 リィンだってシャロン相手にやり込められたと言っても、導力を見抜く目は役立っていたでしょう?」

 

 そう言われると反論も出来ない。

 『視』る力の汎用性は凄まじく高い。

 リィンが使っていた鬼眼ほどでなくとも、灼眼レベルの分析力を会得することが出来れば、クルトのテスタ=ロッサ操作に負けない力として同行を許可出来る。

 ややあって、リィンは判断を下す。

 

「……指示には必ず従うこと。守れるか?」

「ムカつくが、顔は立ててやるよ」

 

 それは、アッシュなりの了解なのだろう。

 意地悪くニヤリとするアッシュに頷くリィンの横で、アルティナがぽつりとつぶやく。

 

「そもそも、リィンさんがそれを守れていないのでは?」

 

 それに対する返事は、誰もしなかった。

 

 

 黒竜関に向かうメンバーが決まった。

 リィンにアルティナ、アリサにアッシュ、そしてロジーヌの五人である。

 精霊の道の恩恵がないため、直接黒竜関に行くのは不可能、というオズぼんの指示に従い、リィン達は一度ユミルを経由してルーレへ向かうことになった。

 ユミル山麓からルーレへの小川と言えば、以前ユミルを襲った北の猟兵を川流しの処分に下して以来――

 

「……なんだか嫌な予感がしてきた。正確には作戦に穴があるっていうか」

「ちょっとそう言うのやめて。リィンが言うってことは、何か起こる前フリなんだから」

「ノワール・シェイドを展開します」

 

 たかが三日、されど三日リィンに付き合ってきたアルティナが即座に光学迷彩を起動させる。

 ロジーヌも無言でボウガンを取り出す辺り、こういった嗅覚への信用度は段違いである。

 

「シスターの姉ちゃんすらコレとか、これまで何をしてきたんだよシュバルツァー」

「色々」

「そんなのでわかるわけねえだろーが」

 

 悪態をつくアッシュ。

 だが彼はロジーヌ達が警戒を取る理由をすぐに理解した。

 何か、音を捉えたのだ。

 それが聞こえた瞬間――水柱が目の前で生まれた。

 

「ぶわっ!?」

「きゃあっ!」

 

 突然の水しぶきに、ボートの上に乗っていた隊列が乱れる。

 そんな中でもリィンは即座に水柱が生まれた理由――何者かの攻撃を察知してボートを道に寄せ、ロジーヌはボウガンによる狙撃体勢を取る。

 果たして、その人物の声が降りてくる。

 

『隠れていても無駄です。川の流れの違和感、水飛沫も何かに当たって落ちていない……そこに居るのはわかっています』

 

 スピーカー越しから聞こえてきたのは、女性の声だ。

 その人物は光学迷彩で隠れたリィン達の位置を見抜いているようで、再度攻撃……おそらくライフルによる狙撃を川に打ち込み、軽い水柱を作る。

 それが連続で続けられ、ボートの前後を正確に撃ち抜いた。

 完全にバレている、とリィン達は判断する。

 

「最近、見破られてばかりでスペックが低下しているのではないかと不安になります」

「恥じることはないさ。ゼムリアには強い人がたくさんいるってことなんだから。むしろまだ強くなれるって成長を見込めるくらいに考えておいたほうがいいぞ」

「どうしますか、リィンさん。今ので狙撃位置はだいたい予測出来ましたが――」

「いや、構わない。知ってる相手だ。でも念の為、俺だけ光学迷彩を解除してくれ」

 

 狙撃位置を看破したロジーヌに太刀を預けて、リィンはボートから降りる。

 アルティナは指示通り光学迷彩をリィンだけ解除すると、両手を上げた彼の姿が狙撃手の目に映った。

 

『………………え?』

「お久しぶりです、クレアさん。敵対する意志はないので、お目通り願えますか?」

 

 そう言ってリィンは狙撃手――クレア・リーヴェルトに向けて降伏の意図を示すのだった。




アリサのヒロイン度ならぬエマイン度が上がるかもしれない展開。
本当はベリルも連れて行こうと思ったのですが、彼女は介入しないからこその存在と思い直し修正。
初期面子による再びのパーティ結成はいつになるか…

原作でのミントはルーレの実家に戻る列車に乗り込んだはずが、何故かゼンダー門へ向かうドジっ子ぶりを披露するのですが、本作品では普通にルーレに戻っています。
つまり再会は近い、ですね。
Ⅲでムンク共々躍進を果たしたのを見ると、やはり軌跡のサブキャラは面白いものです。
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