はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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リィンとミリアム回。
ミリアム視点のお話です。


フフフ、息子よ。Ⅶ組と再会しよう⑨

 リィンと再会したミリアムは、ルーグマンが消えたことで因果律操作の消えた周囲が頓に騒ぎ出したのを感じて、一度場所を変えることを提案した。

 リィンはしばらくミリアムを見ていたが、やがてその提案に頷く。

 どこに行くのと尋ねれば、彼は黙って上を指した。

 釣られてミリアムが上を見上げる。

 すでに夜の闇に支配され、雲一つない空と世界を照らす月の輝きに思わず目をつむる。

 

「上がどうかし――」

 

 ミリアムがそう言った直後、リィンは倒れた導力バイクを起こし、その傍らに納刀した太刀を置く。

 そうして武器を持たずに跳躍し、一瞬でミリアムの側――アガートラムの腕の上に腰掛けていた。

 

「夜の空中散歩、ってな。構わないだろ? いけるよな、ガーちゃん」

 

 自らの武器を手放したリィンは、内戦が始まる前と変わらぬ笑顔をミリアムとアガートラムに向ける。

 アガートラムは構わない、と人類では翻訳出来ない言葉で了承している。

 ミリアムは何か言おうとして、自らの役割を思えば同意する他なかった。

 

 手を掲げれば、アガートラムが二人を抱えてルーレの空へ舞い上がる。

 念の為光学迷彩をかければ、周囲に気づかれることはない。

 リィンはそんなミリアムの配慮を知ってか知らずか、うひょーっと弾んだ声を出す。

 

「ヴァリマールの中からじゃなくて、肉眼でこうして夜空を駆けるのは初めてかもな。士官学院じゃエマが怒るし」

「……うん、そうだね」

「でも、ミリアムともようやく会えたし、ユーシスが先んじてフィーを助けてるだろうから、ようやくⅦ組が全員集合出来そうだな。せっかくなら、このまま黒竜関へ――」

「ねえ」

 

 まるで級友との再会を喜ぶような――事実、リィンからすればそうなのだろう――会話を、ミリアムが切る。

 

「リィンは、なんでそうなの?」

「ふわっとしすぎて意味がわからないんだが」

「ボク、リィンの仇を取るために今まで頑張って来たのにさ。まるでそんなことなかった、みたいなことされると困るよ」

「困るって言われてもな。俺はこうして生きてるし、何に困るって言うんだ」

「それとも、これも全部かいちょー達から目を離すため?」

 

 パチ、と心の中に燃えていた火が小さく爆ぜた。

 そうだ、とミリアムは思い直す。

 突拍子もないことをするのがリィンといえ、今の自分はクロウを打倒するために同じ士官学院の先輩であるトワ達の捕縛任務を請け負っていた。

 

 ミリアムもトワやアンゼリカ、ジョルジュとの交流はある。

 善人なのだろう、とも思う。

 でも、クロウを動かす有用な餌になるのだから、使わない理由がない。

 オズボーンはそう言っていたし、ミリアムもそう思っている。

 

「――リィンが生きてるってみんな言ってた。でもそれは、騎神のおかげで蘇った仮の復活。死んだことには、変わらない」

「……? 何言ってるんだミリアム。俺はエリンで――」

「騎神に選ばれた起動者っていうのは、本来の()()が発揮されるまで喪失が許されない。そうしないように魂を縛るって聞いたよ」

 

 それはマクバーンがリィン達に語った幻焔計画。

 巨イナル一という鋼の至宝の完全なる誕生を目的とした、七つに分けられた騎神(うつわ)を統一させ高位次元にある本体()を下ろす体とすること。

 騎神を一つにするためには相克という儀式が必要であり、騎神を動かすために必要な起動者はそれまで死ぬことが許されぬ生きた屍としての機能を持たされる。

 騎神というメインを活かすためのパーツ。

 それが起動者(ライザー)なのだとミリアムは言う。

 

「オジさんの心臓も動いてなかった。なのに、喋って、動いてた。まるで生きてるみたいに」

「……ミリアム、それは」

「ボクに教えてくれたんだ。リィンもそうなっているんだって。そういう意味では、みんなが言ってたリィンは生きてるってことは間違ってないんだと思う」

「いやミリアム、あのな」

「だから」

 

 ミリアムが立ち上がる。

 アガートラムの腕に腰掛けるリィンを見下ろしながら、宣言するように叫んだ。

 

「それを間違いにしたクロウを、ボクは許せない。だから、そのために動いてる。だって、トモダチのほうが大事だもん」

「ミリアム……」

 

 リィンが、どこか遠くを見るようにミリアムを見上げる。

 それはかつて己が辿った軌跡を思い出すような顔であり、同時にこの少年を殺した男への怒りが心に焚べられる。

 そう、怒りだ。

 黒の工房で生まれてからオズボーンの元へ派遣され、役割をこなして生きてきたミリアムにとって始めてと言っていい渇望の衝動。

 それを教えてくれた一人であるリィン。

 その心臓を穿ち、血溜まりに沈めたクロウをどうして許せようか。

 

「シャロンさんは、どうなんだ」

「何?」

「シャロンさんも、言っちゃなんだがミリアムの目の前で俺を傷つけたってことになるぞ」

「あれは訓練だって言ってたよね。クロウのそれも訓練だってふざけたこと言うつもり?」

「ミリアムがまともなことを言うなんて」

「悪いけど」

 

 ミリアムが手を伸ばし、リィンの腕を掴む。

 一瞬、その体温に意識を奪われるがすぐに冷静に告げる。

 

「リィンがここに居てくれるなら、ボクだって何もしない。リィンは、動かしちゃいけない。動いたらどんな無理も覆すって知ってるから」

 

 編入した時期が遅いといえ、ミリアムもリィンが成してきた様々を見てきた。

 七月の帝都では、帝国解放戦線の幹部を捕縛し不意の襲撃を防いだ。

 八月のクロスベルでは、列車砲の砲弾を切り裂き帝国のみならず各国の代表を守った。

 九月のルーレでは、自分という足手まといが居てなお一つの家族を救った。

 十月には結社最強の執行者と友になり、そして――

 

「あいにくだけど、クレアさんはサラ教官が抑えてるよ」

 

 やんわりと、ミリアムが掴んだ手を外すリィン。

 自分なりに力一杯拘束していたつもりだったが、リィンの前では赤子の手をひねるようなものだったらしい。

 ならガーちゃんで、と思うも、そのアガートラムはどこか消極的にミリアムを見ている。

 どうして、という言葉をリィンが遮った。 

 

「ミリアムがそこまで怒ってくれるのは嬉しいよ。でも、やっぱり俺は嫌だな。ミリアムの気持ちはミリアムにしかわからないけど、怒るならもっとぷんすか、って感じのほうが俺は好きだ」

 

 外した手に重ねるように、リィンの両手が包み込む。

 それは友情に満ちた親愛であり、いちいちミリアムを刺激する。

 けれど、黒く燻る種火(怒り)は鎮火を許さない。

 

「ボクのことなんて太刀がなくても勝てるって? 鬼の力がないリィンでも、ボクは敵わないかもしれないけど……それでも、諦める気はないよ」

 

 宣戦布告とも言えるミリアムの言葉に、リィンはただ困ったように頭をかく。

 それは舐められているのだと、ミリアムは思った。

 けれど、どちらかと言えばそれは子供のわがままを前にした年上のようで。

 

「ま、そん時はそん時か」

 

 何を、という言葉を言うよりも早く。

 立ち上がったリィンは、自ら体勢を傾け――アガートラムから身を投げるように、地面へ落ちていった。

 

「…………え?」

 

 刹那。ミリアムの意識が真っ白に染められた。

 転念。伸ばした手はもう届かない場所だった。

 一瞬。それでも、と握られた手は空を掴んだ。

 弾子(だんし)。衝動に応えアガートラムが駆動された。

 

「――――――」

 

 気づけば、ミリアムは先程までの会話を忘れて追いかけていた。

 黒に染まる夜空はミリアムの視界からリィンを覆い尽くす。

 まるで闇の中に取り込まれるように、リィンの姿が見えなくなった。

 

「―――――だ」

 

 ミリアムの口から、いや心から漏れた叫びは言葉になる前にかすれて消えた。

 けれど、白銀の戦術殻がそれを受け継ぐ。

 アガートラムの瞳が動いた瞬間、ミリアムのARCUSから光が漏れる。

 戦術リンク。

 最新鋭の戦術オーブメントに搭載された機能が同じARCUSを持つリィンのそれと線を繋ぎ合わせ、彼の存在をリンクの輝きが照らす。

 

「ガーちゃん!」

 

 後はもう、無我夢中だった。

 光の綱を辿った先、闇の中に腕を突っ込んだミリアムの掌に、温かさが生まれた。

 

「…………あー、死ぬかと思った」

 

 リィンが、そんなことをつぶやく。

 彼の体は地面に直撃まで一アージュを切っていた。

 本当に、自殺と変わらない空の高さだった。

 ミリアムが動いてなければ、リィンは死――

 

「ほら、やっぱりミリアムは優しい」

「……………」

「本当にミリアムが心底仇を討ちたいって思ってるなら俺を放置したっていいはずだ。なにせ、ミリアム曰く俺は死体だからな。

 死体に構うより、生きてる自分を優先するべきだ」

「…………あ」

「俺を理由にしたいなら、もっとわがままになればいいさ。でなきゃ、それ以上のわがままに振り回されるぞ」

 

 今みたいにな、と笑うリィン。

 アガートラムがゆっくりと、二人を地面に下ろす。

 地に足が付いて、ようやくミリアムは息をついた。 

 

「う、あ…………」

 

 視界がにじむ。

 一体、自分の身に何が起きているのかわからない。

 ただ、水の中に沈んだような景色でリィンの顔がぐにゃぐにゃに歪んで見える。

 つう、と頬を何かが伝う。

 

「ご、ごめん! 泣かせるつもりはなかった! ほんとだ!」

 

 さっきまでの年上した様子はどこへやら。

 おろおろと困惑しながら、ミリアムの前で身振り手振りで動くリィン。

 その姿を笑う余裕もなく、決壊した心の壁から溢れた感情が涙となって流れ落ちていく。

 嗚咽を漏らすミリアムのしゃくれた声は、しばらく治まることはなかった。

 

 

「――ミリアム、これから遊びをしよう」

「はえ?」

 

 泣き止んだミリアムへの第一声がそれだった。

 リィンの発した言葉を理解出来ないミリアムが、赤い目をこすりながらオウム返しのように声を上げる。

 

「ミリアムは《鉄血の子供達》のオーダーで、俺を足止めしてるってことでいいんだよな?」

「う、うん」

「でも、それ自体が目的じゃなくて、元を辿れば会長達を確保するのに俺が邪魔だからそうしてるってだけだ。

 だからこれは、俺が……俺達が会長達を助けるのが早いか、ミリアム達が確保するのが早いか、って遊びだ」

「……リィンは、事態を理解してるの?」

 

 自分が言うことでもないが、トワとアンゼリカの置かれている状況は遊びでは済まされない。

 クロウをおびき寄せる囮。

 詳しい内容は知らないが、下手をせずとも命の危険を伴う作戦に使われる可能性が高い。

 今しがた、リィンがしたように。

 

「お、意外だな。ミリアムなら楽しそう、とか返すかと思ったのに」

「だって……」

「遊びに命かけられない、なんて理屈はないさ。……言葉が悪いのは承知してるけどね。ミリアムに合わせたつもりだったけど、侮ってたみたいだ。ごめん」

 

 そう語るリィンは、ミリアムよりも幼いようで、でもやっぱり大人な気がした。

 決してトワ達を蔑ろにしているわけではない、というのはよくわかったが、かといってボクを蔑ろにしていいわけでもないぞ、とむすっとした目でリィンを見上げる。

 

「ボクを止めるって言うなら、今戦って戦闘不能にするなりしたほうが早いよね。どうしてそうしないの?」

「俺はミリアムとは戦いたくない」

「ボクが女だから?」

「いや、別に女だからって攻撃出来ないわけじゃない。ってか、そんなこと言ったらラウラとかデュバリィさんにぶった斬られる」

「じゃあなんで……」

「それがお互いに納得する方法じゃないから」

 

 戦闘でそれが可能ならそうしたよ、とリィンはアガートラムを撫でながら言う。

 鬼の力がないといえ、リィンが本気なら騎神を呼び出すなりしてアガートラムを破壊することも可能だろう。

 理由があれば、きっとリィンはそれが出来る人間だとミリアムは思っている。

 それは事実であるが、その理由を極力作らないのもまたリィンである。

 

「俺とミリアム()()()納得の仕方、相互理解ってのはやっぱり遊ぶこと、って俺は思った。ミリアムはどうだ? 俺と殴り合って、それで納得するか?」

 

 言われて、思い返すのは編入からの学院生活。

 初対面からアガートラムにガーちゃん呼びをしてくれて、テロリストを見つける手伝いをする反面、色々な遊びにも付き合ってくれた。

 出会った人達は大人ばかりで、同年代であっても自分の行動を止める者が多い中、リィンはある意味ミリアムと同じ目線で立っていてくれたのだ。

 

「たぶん、しない」

 

 だろ、と笑うリィン。

 そこへ彼のARCUSが音を響かせる。

 

「もしもし」 

「フフフ、息子よ。トワ嬢達の居場所が判明した。ザクセン鉄鋼山まで()()来るがいい。なるべく早くな」

 

 通話の相手はヴァリマール……のはずだが、どこか別の既視感がミリアムにはあった。

 むしろヴァリマールより、リィンよりも慣れ親しんだ、低く艷やかな声音のような……

 いやまさかねー、とミリアムは頭に浮かんだ巌のような男の顔を散らす。

 わかった、とリィンが言って通話を切る。

 

「ザクセン鉄鋼山……」

「聞こえてたか。じゃ、ミリアムも一緒に行こう」

 

 そう言って、リィンはミリアムの手を引いて移動する。

 どこへ、と戸惑うミリアムをよそに、リィンは導力バイクを置いた場所までやってくると、鉄の騎馬へまたがった。

 

「ほら、後ろに乗ってくれ」

「え……」

「スタート位置がザクセン鉄鋼山ってだけだ。それまでは一緒に行っても問題ないだろ?」

 

 ほら、と促されるままにミリアムは導力バイクの後ろに乗り込み、リィンの腰を掴む。

 腰に回された手を確認したリィンがエンジンを吹かすと、アクセルに従って導力バイクが加速する。

 が、すぐに問題が発生した。

 ガタガタと、車輪が回るたびに車体全体がグラつき、今にも弾け飛びそうな予感がひしひしとしてくる。

 よく考えなくても、リィンを足止めするためにアガートラムが導力バイクを殴りつけたのが原因だった。

 

「うげっ。向こうまで保つかな……なるべく壊さないように走るけど、しっかり掴まっててくれ」

 

 言われるがままに、さらに強くリィンに抱きつくミリアム。

 そんな少女の顔は、リィンの背中に強く押し付けられ……ドクン、と大きな心臓の鼓動がミリアムの耳に伝わった。

 

「しんぞー、うごいてる」

「? いや、そりゃ当然だろ」

 

 生きてるんだから、とリィンは何でもないように言った。

 不死者になったのならば、心臓などなくても動くことが出来る。

 事実、ミリアムはオズボーンの心臓の音が全く聞こえないことを耳にした。

 でも、これは……リィンの心臓は、確かに音がしている。

 その鼓動は、波紋を伝えるようにミリアムの心にあった黒い種火へ送られ――かき消されるように黒が弾けて消えた。

 

「しょうがないなあ、リィンは」

「はあ、一体何を」

「ガーちゃん」

 

 ミリアムの要請に応えてアガートラムが車体の歪みを塞ぐように導力バイクを覆っていく。

 まるで鎧のように変化したアガートラムの全身が導力バイクを包み込み、一回り大型サイズの導力バイクとなって生まれ変わる。

 即席の魔改造が施された白銀の車体は、その恩恵を受けて数倍の速度で加速した。

 その速度はアイゼングラーフ号の1800セルジュを上回る、2000セルジュ以上の加速力を秘めていた。

 

「うおっ!」

「あはは! いっけー!」

 

 突然の性能向上に驚くリィンだが、持ち前の身体能力や優れた器用さですぐに鉄の暴れ馬を慣らしていく。

 その四苦八苦する様子を見やり、ミリアムは笑った。

 リィンがそれを見ることはなかったが――その笑顔は、ユーシスやフィーが感じた空虚なものでなく、心の底から笑う少女の魅力に溢れた太陽の笑顔であった。




モータード・キュイラッシェっていいよね…(元ネタ・Fate/Zero
ミリアムとのバトル回(トーク)でした。
最初は本当に戦闘させようかとも思いましたが、リィン圧勝になるしそれじゃ絶対ミリアム納得しない、ってことでこんな展開に。
とはいえミリアムの抱える感情や要請などが解決したわけでもないので、一時休戦状態、って思ってもらえたら。

FGOの新OP、サビ前の歌詞が微妙に閃の軌跡の呪い部分とリンクしてるような気がしました。
どちらにしろテンションアガットしまくりです。
やはり良い作品というのは良い刺激を受けるものです…

とか思ってたら創の軌跡のOPまで公開されたという。
情報が…情報が多い…!
ロイドがメインなのかな、と思いきやサビで大立ち回りする兄上。割と兄上フィーチャーされそうで楽しみですね。
しかしほんとロボットモノのOPって感じになってきて、最終作は外の理(宇宙)飛び出しそうな勢いです。
ノーマルエンドリィン?も気になりますが、同門の剣聖対決も一体どうなるやら。
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