誤字報告、いつもありがとうございます。
特別実習を終えたⅦ組B班は、帝都への帰路につくクルトと共に列車でトリスタへ移動していた。
ただしそこにリィンの姿はなく、彼の代わりに服を着替えたクルトが居座っているというのが現状である。
当然、クルトは恐縮そうに席に座っているがそこはラウラがフォローを行っていた。
「あの、無関係の僕がここに居ていいのでしょうか?」
「無関係など寂しいことを言うな。クルトは我々と共に魔獣飼育施設を攻略した仲ではないか」
「ん。ARCUSがないからリンクこそ結べなかったけど、ちゃんと戦力になってたよ」
「ああ。流石はヴァンダールの名を連ねる者といったところか。誇るがいい、お前は確かにサザーランド州に潜んでいた悪意を祓ったのだ」
ラウラやフィー、公爵家のユーシスの一言もありクルトはほんの少しながら自分の剣に自信を持つことが出来た。
未熟な身なれど、確かに成せることもあるのだ、と。
「それで、マキアスは彼に何か言ってあげないの?」
「……………今回は貴族が起こしたことです」
サラのからかいを含めた話題振りに、マキアスはむすりとしながら答える。
その言葉にユーシスが顔を歪めた。
何せこの事件、多数の貴族が関わっていた事柄であることに加えて、そこにアルバレアの者もいたからだ。
父や兄が直接関わっていたわけではないが、分家筋と言い訳してもそれがアルバレアに名を連ねる者であったことに変わりはない。
妾の子という事実をさらされながらも、ユーシスは兄からの
暴走した魔獣が解き放たれた危険もあったが、クルトを含めたⅦ組B班は勇敢に立ち向かい、トドメこそ救援に来たサラが決めたが、彼らがいなければ証拠を押収することは出来なかったとサラも太鼓判を押している。
「ですが、ハイアームズ侯を筆頭に貴族の助けがあったからこそこの件を解決出来ました。そこを偽るつもりはありません」
思えば、ヴァンダールの道場でもリィンに敗れたユーシスとマキアスに、惜しみない拍手が与えられたという。
中には貴族も多く居たようで、目覚めてからそのことを聞いたマキアスは思わずどれがどこの家のものなのかクルトに確認を取ってしまったほどだ。
つまり、貴族に偏見を持っている事実を嫌でも指摘されるわけで。
マキアスは己の中に吹き荒れる感情になんとか整理をつけるべく、腕を組んでその葛藤と戦っていた。
そのことを察したサラは話題を変える。
「ま、先に伝えておくけど、今回の評価はAね。正直あんたらの仲を考えたらEになるかなって思っていたんだけど……依頼は全て達成して、予想外の事態に対してもよく対応してくれたわ」
「…………」
「あら、ご不満? あんた達が成し遂げたことは、間違いなくサザーランド州の平穏を守ったに値するのよ? 私としては最高評価のSをあげても良かったかもしれないけど――」
「いや、そのことは嬉しいです。嬉しいんですが……」
全員、その戦果自体は誇っている。
けれどやはり、この場にいないリィンのことが気がかりだった。
リィンに関しては複雑な気持ちを有しているのか、誰も口にすることはない。
「皆さん、リィンさんのことが気になるんですね」
場の空気に困惑しており、リィンのことをよく知らないクルトが空気を変えるように言う。
最初に答えはのはフィーだった。
「そだね。最後に見た時はあんなに怪我してたし……しばらく学院は休むんだっけ?」
「ええ。ハイアームズ侯直々に言われたわ。彼は責任を持って治療し、トリスタへ送り届ける、って。ベアトリクス教官も呼び出したみたいだし、数日のうちに帰って来るでしょ」
「また休むんだ。一ヶ月のうち、半分近く欠席してて大丈夫かな」
詳しい情報を知るであろうサラに、リィンの現状を尋ねる。
するとリィンは安静のために数日ほど休学する旨を教えられた。
なおそんなリィンを持ち帰ったのがオーレリアであり、あの女傑に抱えられたクラスメイトを思うとⅦ組B班としても思うところはあった。
ちなみにセリーヌはリィンについており、B班には付いてこなかった。
元々リィンが連れてきたのだから、責任を持ってエマに届けるのは彼の役目ではあるのだが。
そのことを聞いて、一同が再び押し黙る。
「……………まだ、謝っていないというのに」
そんな中、感情を殺すようにつぶやいたのはマキアスだ。
リィンへの謝罪――浮浪児と罵倒しかけたことへの後悔は、この場でも彼の良識を痛めつけている。
「そう落ち込むことはないでしょう。今月中には復帰するでしょうし――何より、あの子のせいであんた達はS評価逃したんだから」
「どういうことだ?」
「そこのクルト君に個人の用件だと案内されたといえ、要請を聞いた時点で一度みんなに相談すべきだったわ。私も含めて、あんたらも今回の要請の内容を聞いたのはリィンがハイアームズ侯からの話を聞いてからでしょう? 独断専行分が、マイナスに響いたわね。結果的には受けていたのだけど、あの時点で選択の余地なく班員の君たちを巻き込んでしまった」
「奴め、結局俺達を振り回すだけ振り回して、また勝手に置いていったのか」
「置いていったのは私達だがな。……だが、あいつがいなければ私達はおそらく空中分解していたと思う」
「だいたい分解のきっかけになったのがリィンだったと思うけど」
確かに、と四人は笑いを漏らす。
「あの、リィンさんというのはそんなに破天荒な人だったんですか? 僕にアドバイスをくれたり、悪い人には見えませんでしたが……」
「クルトはまだ出会って間もないし、共に行動もしていないのであろう? なら、少しリィンについて語ろうか。と言っても、一部の視点でしかないがな」
「そだね。正直普段のことは知らなくて、特別実習でのリィンしか詳しくないんだけど、噂は外して実際に学院でやってることから――」
そうしてⅦ組B班はトリスタへ着くまでの間、リィン・シュバルツァーという少年を主題に語り合っていく。
リィンのことを仲間というより、共通の敵のように語っていると感じたクルトであったが、その根底にある競争心を感じ取っていた。
遥か前を歩むクラスメイトを前に、それを追いかけるという意気込みがある。
(ああ、この人達はリィンさんに負けたくないんだな)
ほんの少ししか見られなかったが、クルトもリィンとオーレリアの戦いに目を奪われた一人だ。
最後の現象こそ不可解であったが、リィンはオーレリアと真っ向から勝負を挑んであの羅刹の息を乱れさせた。
膝をつかせることが出来なかった、と言うのは簡単だが剣を支えにするほど疲弊させたという事実がオーレリアへの追い込みを証明している。
「ただの才能だけじゃないわよ、あの強さは。ちゃんとした指導と環境、学院で得た縁……ま、色々と噛み合っていたんでしょう」
フィーは、リィンとの実力差を尊敬する父からの教えの差だと思いたくないから。
ユーシスは、出自のことに加えて兄が気にかける男に弟として負けたくないから。
マキアスは、偏見で見ていた価値観を崩した男の破天荒ぶりを認めたくないから。
ラウラは、実力差のある相手に対しての、武に対する心構えで劣りたくないから。
それぞれが、リィンを認めたからこそ意識している。
「ま、悩むなら悩みなさい。どんな結果であっても、自分で出した答えならどんなに遠回りしたって最後には納得するはずよ」
クルトもまた、ヴァンダールの名を背負う者としての己の剣のあり方に悩んでいる。
自分よりも強い彼らもまた、多くを悩んでいる。
だからなのか、今は少しその悩みが軽く感じた。
そうしてクルトは生徒達からリィンの学院での行動を聞き、盛大に頬を引きつらせながらも彼らが列車を降りるまで会話に夢中になっていた。
*
「暇です」
「知らないわよ」
セントアークはハイアームズ侯の屋敷の一室。
緊急治療を受けて養生していたリィンは暇を持て余していた。
気絶から目覚めれば、治療を受けた形跡を残してベッドで横になっており、先程訪れたセレスタンから状況を聞いた。
ちなみにオーレリアはすでに仕事を終えてラマール州に戻ったそうだが、ARCUSには彼女の連絡先が登録されていた。
特に伝言も受けていないそれは、私の意図を察せよという無茶振りを感じるリィンである。
特にかけない理由もないので、暇があれば連絡するつもりではあるが。
セリーヌはセレスタンが出るまでは猫として演技をしていたが、彼が退室し人の気配もなくなれば思うままに喋ることも出来た。
しばらく雑談を交わした後、リィンはふとセリーヌに尋ねる。
「エマと連絡取れるか?」
「んー……ちょっと待ってなさい、今念話で――」
「いや、ARCUS使ったほうが自然だろ。セリーヌも文明の利器に慣れておいたほうがいいぞ」
「あたし猫なんだけど……ん、持ちにくいったらないわ」
ぶつぶつと文句を言いつつ、セリーヌはリィンからARCUSの使い方を教えてもらい、エマに連絡を取る。
数秒後、切羽詰まったような声が端末の向こうから届いてきた。
「リィンさん!? 今回は連絡ないから大人しいって思ってたのに、特別実習が終わった後に何か問題起こしたんですか?」
エマの第一声は、リィンをどう思っているのかがよく現れている。
「あー、問題はもう終わったよ、強いて言えば全治数日くらいの怪我負ったくらいかな。ヴァリマールもちょっと寝てるけど、起き次第アーツで回復を――」
「ちゃんと一から説明してください!」
一から説明した。
「それで、灰のチカラの制御も進んで――」
「…………………………………」
帰ってきたのは長い沈黙。
リィンにはエマの顔が見えないが、何故か口元を震わせているところを幻視する。
「エマさん」
「はい」
「怒ってますか?」
「怒ってないです」
絶対怒っている、とリィンとセリーヌは感じた。
「リィンさん」
「はい」
「――なんで班員の方に相談しなかったんですか?」
「え?」
「私達はケルディックで、色んなことを相談しながら要請をクリアしていきました。最終的には鉄道憲兵隊の方に助けられましたが……それでも、一人で要請を受ける、なんてことはしませんでしたよ?」
「あー……………」
それを言われてしまえば、リィンには反論が出来ない。
オーレリアの要請を受けたのはⅦ組B班のことや特別実習のことなど、全て頭の片隅に置いていて何をおいても灰のチカラの制御――自分のことだけを考えていた。
結果的には上手く治まったが、仮に特別実習と関係ない依頼であったのなら、それはリィンの不備としか言えない。
「元を正せば、私とセリーヌがそこへ飛ばしてしまった出来事からの連鎖なので、私が強く言うことは出来ません。でもリィンさん、ロジーヌさんがそうしてくれたように、オズぼんさんが見える友達を他に求めるのなら――相手のことも、しっかり見てあげてくださいね」
それは独りよがりだと、エマは言外に語る。
リィンさえ良ければそれでいいと、そんな危険な考え方であると釘を刺す。
「怪我をしているのなら、あまり長々と話すのは控えます。私もA班の皆さんが待っていますから。――リィンさん、おやすみなさい」
通話が切れる。
セリーヌが小器用にARCUSを操作して片付けるが、リィンの心は気落ちしていた。
「相手のこと、か。何も言わないロジーヌがどれだけ心が広かったのか理解したよ」
「ま、あの子は博愛主義みたいなところもあるしね。けど、あの子が例外なだけで他のみんなも、あいつらみたいなものよ」
自分という存在を受け入れてくれることが、どれだけ負担のかかるものだったのか。
リィンは今回のB班との衝突で、いかに友人達に甘えていたのかを知った。
オズぼんを見えるようにするのは大事だが、そのために第三者をないがしろにしてはいけない。
普通に考えれば当然のことだが、リィンは可能性に飛びつきそのことを疎かにしていた。
そこは要反省である。
「色々考えることはあるだろうけど、今は安静にしてなさい。少なくとも体を休めておけば、いくつか考えの整理もつくでしょ」
そう言ってセリーヌは枕の横で丸くなる。
布団には入らないのか、と言えば潰されたくない、と断られた。
枕の横ということは、寝返りで体を打つ可能性もあるが……そこは言わないでおく。
セリーヌの心配は、ちゃんと届いているからだ。
一息つけば、リィンのまぶたも重くなってくる。
先程起きたばかりだというのに、体は睡眠を求めていた。
リィンはそれに抗うことなく、夢への扉を開いていく。
やがて静かな寝息を立て始めたリィンを確認しながら、オズぼんはつぶやく。
(フフフ、息子よ。特別実習ご苦労だったな。――トールズ士官学院、やはり行かせて正解であった。今後も楽しみにしていよう)
それに答える者はなく。
しかし息子への愛情に溢れた言葉は、夜の空気に触れることなく誰も知らない虚空の底へ消えていった。
色々詰め込みすぎた特別実習編、これにて終了です。
突然のシリアス属性追加でしたが、読んでくださった皆さんありがとうございました!
関係ないですが、Ⅳのエマの絆イベントで見れるおこ顔(ぐぬぬ)はすごくいいと思います。