皇族姉弟がサザーランド州の未曾有の危機に対しての提言を行った翌日。
ハイアームズ邸の一室でセドリックはアルフィンと共に最後の打ち合わせを行いながら、リィン復活からの今までを振り返っていた。
罪悪感からリィンの話を全て受け入れてしまうという彼の言葉は、ぐうの音も出ないほど正しい。
それが逃げであることを知っていても、それに甘えていたいほどに現実は彼にのしかかっていた。
それでもセドリックが拙いながらも紡いだ縁、魔女の長であるローゼリアからの言葉を賜いそれに従ってセドリックはバルクホルン神父をはじめエリンにいる様々な相手と話した。
その中でもやはり印象強いのは、クロスベルから拉致してきたというディーター・クロイスとイアン・グリムウッドであった。
世界一の金持ちや、国を跨いで信頼される敏腕弁護士という事前情報を持っていたセドリックは緊張したまま話し合いに望んだが、彼らはそんなセドリックに対してなんでも答えてくれた。
むしろ、その肩書きが嘘ではないかと疑ってしまうほどに覇気がなく、消沈していた印象がある。
話を聞けば、それも納得した。
二大国に囲まれ、犯罪者を罰することも出来ない魔都と化したクロスベルを救うため、至宝を自らの手で生み出しいざこれからといったところで全てをご破産にされたうえに、それらの行動の責任すら奪われたことにされたのだ。
自分に自信を持っている人間こそ、結果に対して自分の自尊心と達成感を誇るものだ。
特にディーターなど、自分の娘や信頼していたイアンの裏切りも加えて心が折れたと言ってもいい。
そんな彼らは、自分がエリンに閉じこもった末路としての姿をセドリックにこれ以上なく教えてくれた。
今もノルドで動いているであろうリィン達は、セドリックの意志に関係なく内戦に絡んでいくはずだ。
破ってしまったという約束のことや、実父たるオズボーンのことなど彼が動く理由などたくさんある。
その果てに、きっとリィン達は内戦を終わらせる活躍をすることだろう。
リィンが撃たれた理由であるセドリックの気持ちなど、置き去りにして。
それは皇子が抱くには暗澹として希望だったのかもしれない。
けれど、凡人だと自覚するセドリックだからこそ、そこから生まれた感情にしがみつく。
そうしなければ、お前などいなくても問題ないと遠回しに実感させられてしまうからだ。
(でも、それ以上に――受けた恩を返せないような男になりたくない)
七月の出会いからクルトとの和解に始まり、兄や姉を救ってくれた恩人。
自身も数ヶ月前を思えばきっと変わっていると思った。
もし彼が関わっていなければ、自分は貴族連合や正規軍に保護という名の監禁を受けていた可能性が高い。
それを避けられ、自由に動くことが出来る幸運。
ならば、彼のように――リィン・シュバルツァーのように動くだけだ。
リィンと同じことは出来なくても、皇族という身分を持つ自分だからこそ出来ることを。
「セドリック、顔がこわばってるわ。やっぱり私が変わる?」
そんなセドリックに、アルフィンの気遣いが届く。
これからすることは本来ならばアルフィンのほうが適役なのだろうが、あえてセドリックは自分がすると立候補した。
弱い立場であるからこそ、見てきたものがあるのだと言って。
「ううん、大丈夫。ちょっと、今までのことを振り返っていたんだ」
「……ただエリンでうつむいてるだけだったでしょ?」
「それより少し後だよ!」
「ふふ、冗談よ冗談」
くすくすと笑うアルフィン。
帝国の至宝と称される少女ではあるが、セドリックにしてみれば血の繋がった姉だ。
若い青少年のように顔を赤らめたり緊張することもない。
そこにドアが軽くノックされる。
二人が許可を出せば、そこに入室してきたのは二人の友人であるエリゼとクルト、そしてエマとパトリックの四人だった。
「セドリック殿下、アルフィン皇女。こちらの準備は整いました。準備はよろしいですか?」
「はい、大丈夫です。……エマさんもすみません、本来ならばリィンさんと一緒に行動するのが筋なのでしょうが」
「いえ、確かに大変な状況ではありますが……わかりやすい大変さなので、心配せずとも大丈夫ですよ。むしろ殿下達の面倒が見れば心安らかな気持ちになります」
にこりと笑みを浮かべるエマ。
本来ならば導いた起動者と離れているのは魔女として
それだけの
「話が聞こえてしまいましたが、姫様こそ大丈夫なのですか?」
エリゼがアルフィンの手を優しく握る。
気丈に振る舞っていても、アルフィンもセドリックと同様に戦争のせの字も知らない少女であることに変わりはない。
僅かな怯えを見逃さない友の手に、アルフィンは先程以上に顔をほころばせる。
時に家族よりも情を傾けるのだから、友とは本当に得難いものだ。
感心していると目を線にするクルトが映る。
「セドリック。……自分に出来ることを頑張るんだ。そうすれば、後は僕達に任せてくれていい」
どうやら、自分を止めに来たとかそういうことではないらしい。
以前ならセドリックに危ない橋を渡らせる危険があれば引き離していただろうに、激励を送るクルトは彼の成長を感じさせる。
事実、昨日の戦いはクルトが遠隔操作するテスタ=ロッサが大いに活躍した。エマの魔煌兵捌きもすごいものだったが、彼なくして勝利の戦果はなかった。
「フフ、ニーナさんに色々手伝ってもらっていたものね? クルトさんにとっては彼女が貴方を導く魔女なのですね」
「僕は起動者にはなれないので明確には違いますが、彼女には助けられました。本当に、魔女というのは『善き』存在なのですね」
「あはは、そう面と向かって言われると照れますよ」
「君がそれだけ頑張ってる証拠ということだろう」
そこへ割り込むパトリック。
珍しい相手に言われたこともあり、エマは少しだけ言葉に詰まるがすぐに礼を言う。
パトリックとエマは士官学院で面識があったものの、直接やり取りを交わすほど友好的ではなかった。
話すことがあっても間にリィンやⅦ組がいたりと、二人の距離は友人の知り合い程度のものでしかなかったが、いわゆる上辺の付き合いにかけては魔女と貴族である二人は慣れていた。
だが、リィンによって秘密主義を剥がされ貴族特権を振りかざすことのなくなった二人はある意味共通部分を持った奇妙な心地で距離を詰めていた。
「そうですね、昨日も、そして今日も大事なのは殿下達ですが、エマさんがいなければ何も始めることが出来ません。自信を持ってください、エマさん」
パトリックに続くのはエリゼ。
以前から主にエリゼが理由でエマとの間に微妙な空気が流れていたが、流石に今の状況でそんな空気は生み出さない。
だがパトリックは偶然といえ自分の発言を後押ししてくれたエリゼに胸の鼓動を高鳴らせながらも、昨日話せなかったリィンのことに関して告げようとするが、タイミング悪くアルフィンがそれを遮った。
「ところで、みなさんが来られたということは」
「はい。ハイアームズ候から、後は殿下達を待つばかりと伝言を受けてきました」
「わかりました……参りましょう」
息を整え、セドリック達が歩きだす。
向かう先はハイアームズ邸の庭。
すでに使用人の多くも集い、何らかの集会が行われるように人が並んでいる。
避難したトールズの生徒達の姿もあり、白や緑の制服姿の少年少女達が不安そうな表情で互いに話し合っている。
姉弟の姿を認め、ギデオンと話していたフェルナンが集まった者達の会話を止め、セドリックの側に寄った。
「殿下、領民にも家に籠もり待機するようお伝えはしましたが……導力ラジオなどを使わなくてよろしいのですか?」
「はい。私達には頼れる魔女様がおりますから」
「それに、声よりも――直接目で見てもらうほうが、より
すっと息を整え、簡易ながら音響機器が設置されたお立ち台に立つセドリック。
そのすぐ横にアルフィンが並んだ。
「…………」
参列した人々の視線がセドリックを貫く。
それは誰だ? という視線や、アルフィンが一歩下がっていることへの怪訝。
それらに飲み込まれぬよう、セドリックはリィンの勇姿を脳裏に映しながら口を開いた。
「初めましての方もいらっしゃるので、ご挨拶を。僕の名はセドリック・ライゼ・アルノール。エレボニア帝国の第二皇子です。
無駄な挨拶は省かせていただきますので、まずはこちらを見ていただきたい」
セドリックが目を向けた先で、エマが頷く。
彼女は魔導杖を手に掲げると、アーツとは異なる力を持った秘術を紡いだ。
「響け 響け とこしえに――」
ざわり、と人々の喧騒が漏れる。
その大半は士官学院の生徒達。
かつてヴィータによってもたらされた映像は主にⅦ組に届けられていたが、その余波とも言える言霊は確かに士官学院の生徒達の魂に刻まれていたのだ。
「夜のしじまを破り 全てのものを美しき世界へ――」
エマが紡ぐは蒼の深淵の秘術たる《
リィン復活の折、セドリックとアルフィンからの相談によってローゼリアからの指導により身につけた新たな魔術である。
当然負担も大きいが、マクバーンとの戦いで己の殻を打ち破ったエマはまさしく《成長期》とも言える才能の花を咲かせていた。
エマの魔術により、中空の景色が二つの円形に切り取られる。
映し出された映像が切り替わり、そこには正規軍の戦車群、貴族連合の機甲兵が進軍する様子が映し出された。
喧騒がさらに広がっていく。
霊的ネットワークといえる霊脈に《幻想の唄》を落とし込むことで、ハイアームズ邸の庭以外にも、セントアークを超えてサザーランド州全域の領民達に映像が届けられているため、その混乱は文字通りサザーランド州を揺らした。
「――昨日撃退した二つの勢力は、今まさにこのサザーランド州……正確にはこのセントアークへ向かって来ています。目的は僕達ライノール姉弟でしょう」
その発言で、空気が変わる。
皇族への敬意でなく、自らを脅かす敵へ向ける目。
無論、表立ってその目を向けることはないが、たしかに領民達の心にそれが生まれた。
「皆さんはきっと今こう思っていることでしょう。お前達がいるから自分達が危険に合っている、と。
それは間違ってはいませんが、正しくもありません。元よりこのサザーランド州は遅かれ早かれ戦火に巻き込まれていたからです」
「その通りだ。正規軍と貴族連合の戦いで、我がハイアームズは中立とも言える立場を取っていたが……もはやその傍観は許されない。
昨日直接助けられた者達ならば察しているかもしれんが、殿下達はあのまま隠れ続けることも出来たはずなのに、我々を助けるために身を挺して出て来てくれたという事実を、少なくともハイアームズが保証しよう」
フェルナンの補足によって、少しだけ空気が和らぐ。
「どうして自分が、自分達が。きっと大なり小なりそう思っているでしょう。僕自身、どうしてこんなことに、という感情がまだ残っています。
それでも……ただ不満をこぼし、引きこもっているだけでは戦火の焔が貴方達の大事な人達に降りかかることでしょう」
昨日のように、と。
そう告げれば、目の前の使用人含むセントアークの住民達は何も言うことは出来ない。
それでも、直接助けられたわけでもないセントアーク外の領民は違う。
彼らは突然巻き込まれた内戦による不満へのはけ口……敵を明確にもとめている。
そして、そのはけ口に都合の良いセドリック達へ怒りを向けようとしていた。
だから、とセドリックは大きく息を吸った。
「僕が、僕達がサザーランドを守ります。皇族として、この帝国をいずれ背負う皇子として。
――なぜお前が。オリヴァルト兄上でも、アルフィンでもない社交界や一般にも知名度が低い僕が、とお思いの方もいるでしょう。
直接僕を見て、兄や姉のほうが頼れる、と思った方は間違っておりません。実に正しい」
一度言葉を切るセドリック。
アルフィンが、震えるセドリックの手をぎゅっと握った。
「それは、僕が弱者だからです。父のように、兄のように、姉のように、尊敬する方や友のような恵まれたものを自分では何一つ持たない自分。
だから、貴方達の気持ちを理解出来るとは言いませんが、巻き込まれた理不尽への共感は覚えられるつもりです。
そんな僕だからこそ、皆さんを守るために皆さんに助けて欲しい。直接戦列に加わって欲しい、というわけではありません。
ただ――僕達のことを、勝利を願って欲しい。そして、その勝利の証を、皆さんに見ていただきたい」
そして、セドリックとアルフィンは共に繋いだ手を天に掲げた。
『来て……緋の騎神、テスタ=ロッサ!』
現出する緋色の騎士人形。
今、帝国の各地で姿を見せる伝説の一色が旧都セントアークへと降臨し、光に包まれたセドリックとアルフィンがその機体の中へ吸い込まれていく。
緋の騎神の瞳に輝きが宿る。
数百年を時を超え、本来の起動者であるアルノールを迎えた帝国の守護神は、その歓喜を帝国中に届かせるように叫び続けていた。
*
セントアークへ乗り込んだ正規軍と貴族連合は、空白地帯とも言える戦場でそれを凝視していた。
今まさに開戦寸前の瞬間、空より緋色の騎士人形が二大勢力の前に舞い降りたからだ。
テスタ=ロッサのコクピット――操縦席に座るセドリックの横にいるアルフィンが両陣営へ口を開く。
「我が名はアルフィン・ライゼ・アルノール。これより先は無辜の民が穏やかに過ごす生活の場。何を以てあなた方は進撃をするか。
皇族の名の下に、撤退を告げます。今すぐここから立ち去りなさい」
内戦を止めろ、と言わないのは彼女もそれが不可能だと理解しているからだろう。
それでも一縷の望みをかけて語りかけたのだ。
カイエン公よりテスタ=ロッサと皇族の確保を命じられている貴族連合の指揮官が、これ幸いとその機体へ話しかけた。
「これは皇女殿下、ご無事で何よりです。ですがここは仰る通り戦場の一角。撤退、と言われるのであれば……貴女方がそのままこちらへ来てくださるのであれば、すぐにでも我々は従いましょう」
「何を言うか! 姫殿下、奴らの言うことなど聞く必要などございません。御身は我々と共に――」
内容は違えど、言っていることは同じだ。
自分達の元へ来い。
そこにアルフィンの意志など関係がないと、彼女は改めて突きつけられる。
「
「……どうやらセドリック殿下もおられるご様子。その機体にお乗りになっていることで、ハイアームズに拐かされているようだ。すぐにお助けします」
セドリックも発言するが、より自分達を捕える意志を固めるだけで撤退する気は皆無らしい。
悲しいが、ここまでは予想通り。
「
セドリックの最後通告とも言える言葉。
だが、それを意に介す貴族連合ではない。
いや、介しているかもしれないが従う気がないのだ。
それが、現状における皇室への思惑でもあった。
テスタ=ロッサが正規軍へ首を向ける。
言葉こそ発しなかったが、その態度を見れば抱える感情は察する。
二人の腹はくくられた。
「よろしい。ならばこれより行われるのは誅伐である。――我が剣よ、反逆者達にその研ぎ澄まされた剣を振るえ!」
「イエス、ユアマジェスティ!」
上空、セリーヌを肩に乗せ戦場を俯瞰する位置に浮遊していたエマが杖を掲げる。
同時にテスタ=ロッサの周囲に光が集い、彼らが信頼する剣が召喚された。
だが、それを見た両陣営は驚異どころかこみ上がる笑いを抑えるので精一杯だった。
なぜならば、そこに呼び出されたのはクルトにエリゼ、オリエやパトリックといった機甲兵や戦車に対抗するには拙すぎる戦力であるからだ。
「皇族の方々はお疲れのようだ。しばしお待ちください、すぐに――」
率先して踏み込むシュピーゲル。
だが、その言葉は途中で遮られた。
「テスタ=ロッサ」
セドリックの言葉に、緋の騎神が剣を天に掲げる。
「皆様」
アルフィンの言葉に、緋の騎神が霊子を収束する。
「頼みます!」
彼らの言葉に、導きの善き魔女が魔術を宣言する。
「ARCUS駆動……限定戦術リンクオン、レイラインによるネットワーク共有……
虚空に展開するは、霊子で編まれた武器の群れ。
その数は百を超え、千の武器を持つ魔人の名を持つテスタ=ロッサが使うに相応しい異様と言えた。
しかし、二陣営は引かない。
確保するべき目標が目の前にあり、明確な脅威がたった一機ということも彼らの考えを後押ししたのかもしれない。
それが、最大の誤算と気づかずに。
『オブリビオン・セントアームズ!』
霊子の武具はまず、機甲兵へと飛来した。
当然、彼らはそれを弾くなり避けようとして――急制動する霊具が剣術を描く。
それは、ヴァンダール流をかじった者ならば知っている初伝の戦技レインスラッシュ。
飛来した霊剣が剣術を駆使することに驚愕するも、それはわずかに右腕に傷口をつけただけで機甲兵を大破させるには至らない。
その情報があれば、焦りはせずとも勢いは止まることはない、はずだった。
「明鏡止水……鳳仙花!」
迫るは美しき花。
父より教わった細剣、兄の師より賜った八葉、僅かな時間ながらも風御前に授かった術理により進化したエリゼの剣が霊子の武具が刻んだ傷跡に沿って差し込まれ――機甲兵の腕を斬り飛ばした。
「…………え?」
呆然と漏らした声は、誰のものだったか。
長い黒髪を揺らす、花を愛でているほうが似合う少女が行った事実に頭が理解を拒んでいた。
「巴ノ型……嵐!」
その間にも、咲き誇る花は舞う。
別の機甲兵に殺到したオリエの薙刀は、再び霊剣が刻んだ切り口へ寸分違わずに穿たれる。
結果、エリゼの細剣によって斬り飛ばされた腕と同様に機甲兵は足を引きちぎられる。
「おおおおおおおっ!」
そこにテスタ=ロッサ自身が疾走する。
振るわれる双剣はエリゼとオリエが大破させた二体の機甲兵を両断し、完全に沈黙させる。
その動きはまさにヴァンダール流の双剣術。
テスタ=ロッサには起動者がようやく搭乗したが――実際に操っているのはクルトに変わりはなかった。
正確には戦術リンクと連携したMクオーツ『ギアス』により、クルトの動きをテスタ=ロッサがトレースしていることでテスタ=ロッサ自身がヴァンダール流を使っているのだ。
「……よ、よし! いける、いけるぞ! 皆の者、武器を手に取れ! 実際に立ち向かう必要はない! 各々が磨いた戦技は、この時のためにあったと知れ!」
パトリックの号令により、集められたヴァンダールの初伝の門下生達が咆哮を上げる。
同時に駆動する霊子の武具。
それぞれに意志が宿るように動く霊子の剣には、まさにヴァンダールの意志が宿っていた。
これは騎神とARCUSの連携。
テスタ=ロッサが持つ無数の武具を操る力によって召喚された武具に、レイラインと連携した戦術リンクをエマが他の者達へ付与。
そうすることで霊子の武具にヴァンダールの剣士達の意志が宿り、ただ飛来するだけだった霊子の剣に技が加わった。
さらにエマは《
サザーランドの人々にこの戦いを見せることで、テスタ=ロッサが召喚する武具に変化が訪れる。
それはフライパンであったり熱された油を入れた鍋を模したものであったり三叉の銛であったり、機甲兵を足止めするロープであったり……民が各々に出来るイメージが反映され、機甲兵に襲いかかる。
そこへ殺到する霊子の剣群。
それらが機甲兵の足を、重さを、力を止めていく。
機甲兵が強いのは人よりも大きな強さと硬さと速さを持つからであり……それが攻撃の一振りで打ち倒せるのであれば、それは脅威でもなんでもなく。
後はエリゼやオリエと同様に、大破した機甲兵を残すだけであった。
「な、な、な……何なんだ、一体!」
そうおののくのも無理はない。
よく見れば、機甲兵の傷口は熱されており普段の強度が大きく劣化していることに気づく。
金属に熱が加わることで柔らかくなるように、テスタ=ロッサの霊子の剣群は攻撃のためでなく機甲兵の防御力を打ち消すために振るわれたものだった。
無論、本来ならばテスタ=ロッサにここまでの力はない。が、テスタ=ロッサには性能を超えた力を発揮出来る相応の理由があった。
エマの協力はもちろん、アルノールの魔力を二人分も得たテスタ=ロッサの霊力がエリゼやオリエ達の武具を強化している。
セントアークの住民が、フェルナン・ハイアームズの執政によって領主を助けたいという善き住人が多いことも、霊子の軍勢を生み出す要因の一つだろう。
だが、何より――
「――オオ……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
緋の騎神が咆哮する。
かつてヘクトル帝を起動者と認め暗黒竜に挑み、討ち取ったもののかの竜の呪いを受け魔人と化してしまった不運。
そこから数百年封印され解き放たれたと思えば、起動者以外に操られる己。
守るべき国と皇族を軽んじて争う者達への憤怒。
騎神が思考を、人格を持つ存在であれば溜まりに溜まった感情が呪いのように蓄積するものだ。
それが今、正当な起動者と正当な
その溜め込んだ感情の矛先は、サザーランド州全ての住民の意志を持った霊子の軍勢を呼び出すに至った。
「来ルガイイ……コノ愚カ者ドモガアアァアァアァァ!」
かくて緋は解き放たれる。
帝国を彩る歴史に、一つの英雄譚が加わった瞬間であった。
セドリック
「この人達みたいになりたくない……!」
ディーター・イアン
「」
テスタ=ロッサ
「体ガ軽イ。コンナ気持チデ戦ウノ初メテ! モウ何モ怖クナイ」
セドリックの演説が難産です。こういう人を奮い立たせる言葉ってほんと難しいですよね。
戦記モノには欠かせないので入れざるをえませんが、投稿が遅れるのであんまりしたくない…
そしてテスタ=ロッサ、ついにアルノールを乗せるの巻。贅沢に二人分!
出落ちの騎神、面目躍如?
そして投稿からちょうど二周年となりました。記念日なのに主人公もオズぼんも出ない不具合。
途中、更新停止期間が半年以上あったので正確に二周年ってわけではないかもですが、二年間投稿を続けられたのは感想やお気に入り、評価やレビューなどしてくださった読者の皆さんのおかげです。
まだまだ内戦が終わらない閃の軌跡Ⅱ編と合わせて、今後もよろしくお願いします。
創の軌跡一言感想:全部さん!プレイアブル化だよ全部さん!
スクショで火焔魔人モードってことはリィンみたいに神気合一的なやつで変化、Sクラで魔神化でしょうかね。
まあ幻夢鏡的には本人ではないかもしれませんが…
追加シナリオよりそっちのほうに全部持ってかれました。
リンクの掛け合いとか、汎用じゃなくて専用頼みますよファルコムさん!