はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

187 / 200
フフフ、息子よ。夜釣りをするぞ

 気絶するように寝込んだリィンは、翌朝はおろか昼間になっても目覚めず起きたのは夜もふける時間だった。

 まぶたを開けたリィンの目に、月明かりを浴びた部屋と椅子に座って船を漕いでいるアルティナが映る。

 

「ある……てぃ……!」

 

 ぼんやりとした頭で現状をゆっくりと理解し、一気に寝ぼけ眼が消える。

 跳ね起きるように起こした上半身で、触れはしなかったものの強烈な気配を感じ取ったアルティナが半眼で意識を取り戻す。

 しかしリィンの勢いか半身を起こした圧が強かったのか、背もたれのない椅子から動いてしまったアルティナが後方に倒れた。

 

 背中に生まれる痛みを予感して目を閉じたアルティナだったが、その痛みは一向にやってこいない。

 なぜなら、リィンがシーツを翻し割って入ったからだ。

 寝起きの行動とは思えない反応だが、数々の強敵との戦いで気絶からの覚醒を繰り返すリィンの反射速度は尋常ではなかった。

 

「あっ……」

「ふっー、悪いなアルティナ。びっくりさせちゃったみたいだ」

「いえ……」

 

 背筋と大臀筋(お尻の筋肉)だけでそれを成したリィンに気持ち悪さすら浮かぶが、助けてもらったことに変わりはない。

 アルティナは今の自分が床に寝転がるリィンに抱きすくめられるような格好であることに気づき、妙な気恥ずかしさを覚えた。

 立ち上がる前にお礼を言ってないことに気づき、それでもまず離れようとする。

 けれどそれよりも早くばたばたと騒がしい音を立てて、誰かが入室してきた。

 

「リィン、起きたの!?」

 

 入ってきたのは手にカンテラを持ったエリオットとフィー。

 隣の部屋からベッドを大きく軋ませる物音がして入ってきた二人だが、リィンは床に寝転がってアルティナを両腕の中に抱えているという不可思議な状況であった。

 

「…………お楽しみ中?」

「せめて寝相が悪いと言ってあげようよ」

「エリオット・クレイグ。私は別にリィンさんと同衾していわけではありません。不埒な妄想はやめてください」

「そんなこと一言も言ってないよね!?」

 

 フィーのつぶやきと、アルティナの言葉に絶叫するエリオット。

 リィンはそれらを否定しながらも、腕の中でもぞもぞ動くアルティナを離した。

 

「おはよう、フィーにエリオット」

「おそよ」

「あはは、もう夜だけどね。丸一日寝てたよ、リィン。少し経てば日付も変更するし、他のみんなは寝静まっちゃってる」

 

 言われて窓を見れば、すっかり日も落ちたエリンの景色が飛び込んでくる。

 エリンに戻ってきたのが夜だったので時間が経っていないように思えるが、時計を見れば違うとわかる。

 どうやらⅦ組の面々は交代でリィンの見張りをしていたようで、今の時間帯はフィーとエリオットが担当していたらしい。

 

「あと、えっと、リィン。その……」

 

 口をもごもごろまごつかせるエリオット。

 内容は言われなくても察してしまう。

 リィン自身、ミリアムと遊びと言って共に同行していた。

 トワやアンゼリカを先に確保するか勝負、なんてことも言っていた。

 自分でもちゃんと、ミリアムは帝国軍情報局所属だと理解していたはずだった。

 けれど、実際に出し抜かれて自分から遠ざかるミリアムを思うと、思っていた以上にクるものがあった。

 

 共にヴァリマールを助け、レオニダスやスカーレットと戦い、アガートラムとの連携を含め戦術リンクに問題なかったことも、無意識にもう大丈夫だと判断してしまったのかもしれない。

 アルティナやフィーも言葉を待っているのか、沈黙の時間だけが過ぎる。

 

「リィン、起きたのか」

 

 その沈黙を破ったのは、窓から顔を突き出したマキアス。

 彼は本来リィンの見張り番ではなかったのだが、何やら用事があって外に出ていたようだ。

 マキアスは四人を見やり、一つ頷いて言った。

 

「ちょうどいい、今夜釣りの準備をしていたところなんだ。よかったら一緒にしないか? 寝起きなら、見ているだけでもいい」

 

 言いながらマキアスは背後へ振り向く。

 視線の先では、中央に設置された石碑の側に何かが置かれていた。

 小箱やバケツ、何より立てかけられた竿を見ればどうやら釣りの準備をしているようだった。

 

「釣り……」

「ん、いいね。せっかくならお邪魔する」

「そ、そうだね! 僕もいいかな」

「ああ、当然だ。アルティナ君はどうする?」

「私は……」

 

 アルティナの目がリィンに向く。

 彼女の参加は自分次第なのだろう、と察したリィンは反射的にやると告げ、彼女も遅れて頷いた。

 

「わかった。ならもう少し道具が必要だな、取ってくるからその間に着替えておきたまえ」

「着替えって言っても、すぐ側なんだしジャケット羽織るくらいでいいだろ」

「今は冬なんだから、もう少し防寒しようよ」

「俺よりそっちの二人に言ってあげたほうがよくないか?」

「別に問題ないよ。こう見えて保温効果高いし」

「同意です」

「見てるこっちが寒くなるんだって」

「それに、寝汗がないとも言えない」

 

 それもそうだな、と納得しリィンは一度全員に出ていってもらい西風の旅団の服装からいつもの衣装へ着替えに戻る。

 フィーが少し残念がっていたようなので、せめてジャケットだけ黒いそれに変えておく。

 アルティナには元のリィンのジャケットを羽織らせ、改めて五人はエリンの釣りスポットへとやってきた。

 

「色々用意したね、マキアス」

「普段、リィンがしてるみたいに釣り竿とクーラーボックスくらいかと思ってた」

 

 マキアスが用意したのはそれぞれの釣り竿や餌に撒き餌以外にも、タモ網と呼ばれる、大きな魚を釣った時にすくう持ち手のついた網だった。

 釣れずとも、側まで引き寄せればこれで魚を取ることが出来る優れものだ。

 

「初心者も多いしな。明かりは導力ライトを持ってきたが」

「いえ、こちらにおまかせください。――クラウ=ソラス」

 

 アルティナが呼びかければ、クラウ=ソラスがマキアスの持ってきた携帯ライトよりも広範囲を照らす導力光を生み出す。

 頭部から発光するさまは、贅沢なヘッドライトと言えた。

 必要なかったか、と苦笑しながらもマキアスは池の前に五つの小椅子を均一に並べた。

 

「エリオットは釣りは初めてだったよな。アルティナもノルドじゃ結局釣らなかったし、それじゃ、中央に俺が座るから横に並んでくれ」

「一応私とマキアスも初心者なんだけど」

「二人は釣れるようになってるだろう?」

「ほう、ルーキー卒業といったところか」

 

 リィンから、無事白竿釣師から茶竿釣師への認定を果たしたフィーとマキアスだった。

 四月の特別実習やその後に教えてから半年経つが、特別実習も合わせて帝国各地で釣りをしているリィンと違いたまの息抜きでする二人の釣果はそれなりらしい。

 次は黒竿釣師を目指して頑張って欲しいものだ。

 

「じゃあリィン、餌の付け方はどうするの?」

「ん、ああ。こうしてだな――」

 

 エリオットに乞われ、リィンは少しぼんやりしながらも餌の付け方を教える。

 アルティナは少しおっかなびっくりな様子だったが、物覚え自体は悪くないのかすぐにやり方を覚えていた。

 

「そんじゃ……ほっ、と」

 

 全員の準備が終わり、まずリィンが手本を見せるように竿を振るう。

 夜釣りのため、互いの糸を絡ませぬよう注意しながら、フィーとマキアスも続く。

 初心者であるエリオットとアルティナは、リィンの半分程度の距離に小さく投げた。

 ややあって、以前も釣っていたカサギンを釣り上げる。

 きらめく鱗が特徴の美しい小魚は、水質や環境の変化に強いため帝国各地でも頻繁に見かける一匹。

 針にかかる小気味良い引きが醍醐味なんだ、と無駄なうんちくを垂れ流して初心者二人におすすめする。

 

 フィーやマキアスはリィンに続くが、エリオットとアルティナはなかなか苦戦しているようだ。

 そしてフィーに至っては、警戒心の強いロックを釣り上げていた。

 エリン周辺ならば魔の森で釣れるはずだが、内戦の影響で移動していきたのだろうか。

 

「やるなフィー、そいつは結構釣るのが難しいんだ。ロックが連れたなら中級者かな?」

「ぶい」

「あ、そいつたまに琥曜石飲み込んでるから、捌く時は注意したほうがいいぞ」

「りょ」

「むむ……次は僕が釣ってみせるぞ」

 

 意気込むマキアスだが、初心者組と似たように中々目的の魚が糸に引っかからない。

 けれど、それも釣りの醍醐味。苦労した時ほど、釣った時の達成感が高いというものだ。

 ノルドで釣りをしていた時も思ったが、心が落ち着いていく流れを実感する。

 

 大地や街があればマラソンするように、釣り竿があれば魚を求めるように、フィッシングというのは母なる海に身を委ねるような安らぎに満ちた行為なのではなかろうか、と顔をほころばせた。

 導力ネットワークもあるいは、サーバーへ端末で入るというは海に釣り糸を垂らす行動から来ているのかもしれない。

 

(ねえマキアス、別にリィンの釣り竿だけ変なものってわけじゃないよね?)

(そんなわけあるか。ちゃんとエリンにあったものだし、ユークレスさんに貸してもらったものだぞ)

(リィンに釣り竿が合わさるとおかしくなるってことかな?)

(釣りでメンタルを回復するおかしい人ではないのですか?)

 

 没頭するリィンの様子を見て、ひそひそ話をする四人には気づかなかった。

 特にアルティナはリィンをそういう人物としてカテゴリーしているようで、早急な修正が必要だと三人は感じ取った。

 その後、初めての釣りが夜釣りということもあって釣果が芳しくない初心者組のために、エリオットとアルティナにはタモ網を渡そうとする。

 エリオットは素直に受け取ったが、アルティナは何やら釣り竿で釣って見せると意気込んで竿から手を離さなかった。

 

 しかし現実は無情なもの。

 エリオットがリィンが指示した場所にタモ網を突っ込むと、カルプが姿を現した。

 それをすくいあげ、クラウ=ソラスの明かりに照らされながら両手で初釣果となるカルプを握りしめるエリオット。

 はしゃぐエリオットを見やり、無言で水面を凝視するアルティナ。その後ろ姿からは、絶対に釣ってみせるという意志を感じる。

 

「アルティナは良いアングラーになるな……」

「……そう言えばアルティナ君とは、どういう子なんだ? ルーファス卿から要請を受けて手伝っているとのことだが」

 

 ふと、マキアスがアルティナへの疑問を抱く。

 ノルドで初めて出会った時はリィンとの再会に気を取られ、詳しい説明を受ける間もなく行動していた。

 帰ってきてもすぐにリィンにくっついてルーレに向かったため、落ち着いて自己紹介するのは何気に初めてなⅦ組であった。

 

「アリサにも説明したけど、黒の工房って場所から派遣されたってことくらいしかわからん。黒の工房自体、色んな猟兵に武器を作っては渡してる武器会社ってイメージだけど」

「裏世界のラインフォルトってことかな?」

「詳しい記憶はロックされているので私自身にもわかりませんが……少なくとも私は、黒の工房という場所で生まれた人造人間(ホムンクルス)ですね」

「えっ」

 

 突然の情報暴露に、リィン達が時の結界に囚われる。

 

「人造人間……?」

「ちゃんとした両親が居るのではなく、人工的に生み出された存在が私になります。どういう技術で作られているかはわかりませんが」

 

 息を呑むリィン達。

 だがアルティナは自分の発言におかしいことなど感じていないように、続けた。

 

「そういう意味ではミリアム・オライオンも同じですね。ルーレではリィンさんと協調していましたが、彼女の所属は帝国軍情報局。ギリアス・オズボーンの子飼いである《鉄血の子供達(アイアンブリード)》です。

 彼女に頼るくらいなら、私に言ってください。性能としてはこちらのほうがより最新鋭なので」

 

 それはアルティナという無垢な少女にしては、やや棘を含んだ言葉だった。

 一体どうしたんだ、とリィンが言うより早くフィーが割り込む。

 

「でも、リィンとの相性はミリアムのほうが良い。アルティナはミリアムほど柔軟じゃないと思う」

「そんなことはありません」

「じゃあ、導力バイクにクラウ=ソラスを合体させたり、空を飛んだり、騎神の腕になってヴァリマールを助けたり出来る?」

「……要請してくだされば、やります」

「無理だって切って捨てたりしない?」

 

 出来たら隻腕の時にとっくにクラウ=ソラスをくっつけてるよね、とやけに突っかかるフィーに、男性陣はハラハラとその場を見守るしかない。

 リィン達は互いに目を合わせるが、右往左往するだけの置物となっていた。

 

「……彼女は所属が違います。雇い主の意見一つであの時のように、大事な瞬間に()()()()()を裏切ります」

「だから、絶対に裏切らない自分を頼るべき?」

「客観的に見て、そちらのほうが作戦遂行達成の確率も高まります。今の私はリィン・シュバルツァーのサポートとして派遣されていますので。私はそのように設計されました。

 彼女のように、無駄に感情が育っているためにリィンさん達を惑わせることもしません」

 

 言外に自分は人でなく道具なのだ、と語るアルティナ。

 流石にその発言は見逃せなかったリィンだが、すぐにフィーが切り返す。

 

「だからって、無理にミリアムを()()()ような物言いはしないほうがいいよ。リィンの性格なら、そっちのほうが悲しくなるし」

 

 だよね、とフィーがリィンを見上げれば、彼はお、おうとどもりながら頷く。

 その発言に、アルティナは釣り竿を握る力を無意識に強くした。

 

「フィ、フィー? 一体何を」

「わかるんだよね。私も、西風の時にそうだった。家族の助けになりたいから、認めてもらいたいからって自分の価値を証明しようとして焦ってた時にそっくり」

「……おっしゃる意味がわかりません」

「気づいてないだけで、貴女はリィンがミリアムを頼ってることが気に入らないってこと」

「―――――――そんな、ことは」

「それって、すっごく人間だよ。感情持ってる」

 

 あっ、とエリオットとマキアスが声を上げる。

 自分が造られた存在であり道具だと語るアルティナに、フィーは遠回しにそれは違うと言っていたことに。

 

「フィー、俺は別にアルティナをそんなふうには」

「うん、リィンはそうだよね。でも、受け手がそう思わない限りはそうじゃない。実感とか納得って、思っている以上に大事だよ?」

「う、ううむ。別にアルティナを頼ってないわけじゃないんだぞ?」

「………………」

「アルティナ、文句は言っておいたほうがいいよ? リィンがこう言うってことは、貴女の気持ちが届いてないってことだから」

「……フィー・クラウゼル……」

「ほら、早く」

 

 こつん、と肘でアルティナをつつくフィー。

 アルティナはそんな彼女をジト目で見ていたが、ややあって釣り竿を起きリィンを見上げた。

 

「……その……ミリアム・オライオンの代わりは私に出来るので……あまり落ち込まないで……ください。寝ている時……苦しそう……だったので」

「……あー……」

「どうやら、アルティナちゃんはリィンの寝言を聞いて思うところがあったみたいだね」

「リィンは何て言ったんだ、アルティナ君?」

「…………知りません」

 

 マキアスの質問にぷい、と目をそむけるアルティナ。

 ショックだったのか、マキアスは絶句した。

 

「マキアス、女の子の扱いがなってない」

「え、ええ……?」

「そうだよマキアス、今のはちょっとデリカシーがない」

「君達までそんなこと言うのか!?」

 

 騒ぐマキアスと、それを見て笑うフィーとエリオットをよそに、リィンは少し屈んでアルティナと目を合わせる。

 知らぬ間に彼女を苦しませていた自分に罵倒しつつ、リィンは言葉を紡ぐ。

 

「ありがとな、アルティナ。でも、ミリアムの代わりとか、そういう風に言う必要はない。ショックではあったけど、こうして俺を慰めてくれる気持ちはアルティナ自身が抱いた気持ちだ。

 うん、すごく、嬉しいよ。アルティナがそうしてくれることが、とっても嬉しい」

 

 笑みを浮かべながら、いじらしい少女の頭を撫でる。

 普段であるならば不埒です、と言って振り払う頭の上に乗せた手をアルティナは払うことはなかった。

 しばらく頭を撫でていたが、アルティナはその光景をフィー達に見られていることに気づいて咄嗟にリィンの手から離れた。

 

「あれ、もういいの?」

「…………」

 

 フィーの指摘に、無言で釣りに戻るアルティナ。

 わかりやすくなったね、とエリオットが言えばマキアスは無言で頷いた。

 声に出さないのは、何がデリカシーに引っかかるかわからないためだった。

 と、そんなアルティナの釣り竿に水面で揺れる。

 一瞬、何が起きたかわからなかったアルティナだったが、すぐにリィンが叫んだ。

 

「アルティナ、引いてるぞ!」

 

 反射的に、アルティナは腕を振り上げる。

 肉体年齢十二歳という子供でしかない腕力だが、月明かりとクラウ=ソラスのライトによって照らされる魚体は七色に輝く鱗を反射させる。

 勢いが強かったのか、背中から転がってしまったアルティナだったが、己の側で跳ね回る魚――レインボウを前に呆然と己の釣果を見た。

 

「やったなアルティナ。初めて釣ったのがレインボウなんて縁起が良い。フィーの初釣果はカルプだったし、ちょっとした反撃だな」

「むっ」

「……想定の範囲内です。私の性能は最新鋭なので」

「その言葉、宣戦布告と受け取った」

「まあ待ちたまえ。結構釣ったし、締めとしては良い感じじゃないか?」

「あはは、縁起物ってことなら食べちゃう? 夜に食べるのはどうかと思うけど、リィンは丸一日何も食べてないんだし」

 

 そんなエリオットの提案で、栄養補給のていで調理が始められる。

 慣れた手付きでレインボウからセピスを吐き出させ、綺麗に食べられる部分を切り取るリィンは経験者の技術を滲ませ四人を感心させる。

 

「でも、色々ぶつけあった後に釣り上げるなんて、中々ロマンチックだな」

「いいじゃん。それならこれがリィンにとっての悪いものってことで、全部食べて飲み込んじゃえばいい」

「悪いものの擬人化ってことか」

「正確には擬魚化(ぎぎょか)ですね」

「それ以前に悪いものって吐き出したり外に出すものであって、飲み込むものじゃないよ?」

「いや、リィンなら全部噛み砕いて栄養にしそうだ」

「体に悪いものって基本的に美味しいからな」

 

 みんながみんな言いたい放題だった。

 どうせなら豪快に、というエリオットの発言で実行されるレインボウの丸焼き。

 自然と、全員がリィンが食べる場面に注目する。

 

「それじゃ、いただきます」

 

 身にかぶりつき、魚肉を引き千切る。

 その味は、リィンが感じていた様々を凝縮したような味だった。

 酸いも甘いもあるような、素材の味以上に心に刻まれた感情を咀嚼していく。

 

「味は、どうですか?」

 

 アルティナの静かな問いに、リィンは噛み締めた味を飲み込み、答えた。

 

「美味しいよ。ありがとな、アルティナ」

 

 そう答えた瞬間、月光がひときわ強くリィンに降り注ぐ。

 一瞬の眩しさに目を瞑るリィンだったが、まぶたを開けた先には、無表情だったアルティナの口元にわずかに浮かぶ微笑みのはじまりが映し出されていた。




あるてぃなちゃん、にんげんじょうちょいちねんせい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。