はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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誤字報告ありがとうございます。
また、前回にも追加しておきましが前々回にて誤字報告への感謝を忘れておりました。
報告してくださった方、申し訳ありません。




フフフ、息子よ。異次元マラソンの開催だ

「アストラル体になって高位次元へ行く。戦術リンクが命綱になる……すでに滅茶苦茶ではあるが、そこに保険も加えておく。そこは悪魔の巣窟でもあるしの、むき出しの星辰(アストラル)など狼の群れに羊を放り込むようなものじゃ」

「そこは肉食魚の中に放り込まれた小魚って感じで」

「その表現の違いへのこだわりが妾にはわからんぞ」

「アングラーなので。それにただの羊と思い込んでるなら返り討ちにしてやりますよ」

「あー、うー、まあお主は羊の皮を被ったナニカじゃしなあ……」

 

 悪魔。

 それはアルテリア法国の聖典にも記載される、七十七柱の名称。

 高位次元に存在するという敵性霊体であるそれは、帝国由来でなくゼムリア各地に現れることもあるという。

 問題は、ゼムリアへ降りて来るということではなく、今リィンのいる場所が彼らの巣窟であるということだ。

 以前ロジーヌから聞いたことのある悪魔は、人間のトラウマをえぐり、嘆きを喰らうことに愉悦するような存在もいるという。

 

「とはいえ、護りはあって不足ではなかろう。少々荒療治ではあるが、直接ヌシの体に()()を入れる」

「ヤキ?」

「先に言っておくが――痛いぞ。肉体と違い、魂を直接傷つけるわけじゃからな。いかにそなたが怪我慣れしていると言っても、今回はそれらを更新する痛みじゃ」

 

 淡々と語るローゼリア。

 なんでもないように語るそれが、かえって信憑性を高めるようにリィンは感じる。

 ポンコツな面しか見ていなかったが、本当に真剣な空気を放つローゼリアはそれだけ真面目な事柄なのだと伝えてくる。

 が、数々の修羅場を超えたリィンにはその言葉では止まらない。

 

「怖くないと言えば嘘になりますが、このくらい約束を反故してしまったことに比べれば、ですよ」

「そうか……ならば何も言わぬ。とりあえず服を脱げ、一番影響を与えやすい心臓に直接する」

 

 言われた通りに服を脱ぐリィン。

 深夜に異性(幼女)のベッドの上で服を脱ぐという行為はアルティナが見れば不埒と言う言葉を止められないが、幸か不幸か咎める者は誰もいなかった。

 ローゼリアの小さな人差し指に灯った光が、リィンの心臓へ添えられる。

 

「――焔の眷属が願う――」

 

 妙なくすぐったさを感じていたリィンだが、その小さな手が心臓の周辺をなぞり――爪を突き立てた。

 

「痛っ……」

「我慢せよ。これからもっと痛くなる」

「それってどういう――」

 

 ざくり、と皮膚に何かが突き立つ。

 爪ではない、もっと鋭利なもの……刃物のようにも思えたが、数秒間は何も起こらなかったためさほど気にしなかった。

 数秒後、体の中にマグマが生まれた。

 

「う……がああぁぁぁぁああぁあぁぁぁあ!」

 

 熱い。

 熱い。

 熱い。

 熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!

 心臓が燃えるような痛みを発する。

 灼熱の激痛に暴れ回ろうと身をよじるが、ローゼリアに抱きしめられて身動きが取れない。

 歯をかみ砕かんばかりに力を込める。

 噛み締められた歯がミシミシと音を立てる。

 歯が砕ける前にローゼリアがそれ以上は許さない、と言わんばかりに口の中に手を突っ込んでくる。絹の感触のような滑らかな肌を、リィンは口蓋の中で蹂躙する。

 

 芸術作品を壊すような陶酔感(とうすいかん)

 常時であれば即座に引き離したであろうそれを、リィンは痛みに耐える、ただそれだけの理由で放棄した。

 リィンを一瞥するローゼリアの顔に痛みによる苦悶は見られない。

 左手をリィンの口に入れ、右手は心臓の傷跡をかき回すように弄っている。

 地獄のような激痛を、リィンはひたすらに耐えていた。

 

 

 暗がりの中に光があった。光は世界を照らすには脆弱だったが、温もりだけは失わず、静かにそこにあった。

 リィンはそれを見ていた。

 五感は失われ、心臓の鼓動も世界を認識する知覚全てが停止した世界で、それを見ていた。

 

 リィンに残されたのは、自我の意識だけ。それすらも失ってしまえば彼に待っているのは冷たい死であった。

 死とは孤独であると同意、と言ったオズぼんの言葉を思い出す。

 世界中に一人きりなら、それは死んでいることと同じなのだと。二人いて三人いて、世界があって。人が生きるためには別の誰かとの触れ合いが必要不可欠なのだと。

 怖い。

 純粋にそう思った。

 こんな世界に一人でいることの恐怖。

 一人は……一人は嫌だ。

 そう願ったせいか。思いに答える声があった。

 

「世界は単一では意味をなさない欠片。欠片と欠片を組み合わせ、一つの形として作り上げる。それが宇宙の本質」

 

 聞き覚えのある声。つい最近、どこかで……

 

「妾が誰であるかを感じる必要はない。重要なのはそなたがこの世界に『居る』ことを強く認識すること。我は海。汝は船。次元という名の海洋を渡り歩くちっぽけな子供」

 

 言葉による概念がリィンの頭に刻まれる。

 世界は海。

 自分は船。

 ただそれだけの単語で、リィンは大海に浮かぶ葉に乗る己という世界のイメージを固めた。 

 八葉にも似た概念があったことが、リィンにとって幸いだった。

 

 ただ、単なる水ではない海がどうしても想像出来ないリィンの浮かんだ次元は、いつか導力端末で見た光情報の画面を想起させた。

 認識した途端、世界に色が付着する。ここでようやく、暗黒が晴れたのだ。

 

「認識したようじゃな。これでそなたは現実と同じように、視界や感覚から情報を得てこの世界を認識できる。周りには何か見えるか?」

 

 夏の夜を彩る蛍のような淡い燐光がリィンの周囲を漂う。

 その一つ一つに、リィンは導力――いや、絆の光なのだとリィンは直感的に知った。

 戦術リンクによる命綱を想像していたが、実際はリィンを守るように包む繭のように感じた。

 リィンはそのまま、漂うように次元をたゆたう。

 するとうっすらであるが世界の中に質感と質量を感じた。本来ないはずの、実体がそこに感じられるのだ。

 

「それは一つの世界の雛形、崩壊した世界の残骸、形成されつつある異世界。ゼムリアに干渉する平行世界の一つ、世に存在させないために生み出された幽閉にして監獄の世界」

 

 ……リィンには、何を言っているのかわからなかった。

 

「今は気にする必要はない。それよりも、煌魔城を探すのであろう? 鬼の力……あの者の力は、そなたが誰よりも知っているはず。それを探り、突き止めよ」

 

 周囲の光には色が付く。

 それら一つ一つに属性がついていることを知る。

 慣れ親しんだ導力の力、七属性の力。

 けれど、求めるものはこれじゃない。

 

 リィンは、無の呼吸法で強く八葉の力を意識する。

 自分にとって八葉一刀流とは、鬼の力を封じ込める鞘であり、鬼を理解する知識だった。

 そうすれば、体内にある巨大な力の塊を実感する。

 その瞬間だった。

 かつてルーレで感じた悪意に近い何かがリィンに接敵し――一瞬で焔に包まれて消えた。

 驚くリィンに、疲れたような声が届く。

 

「ふーっ……加護はなんとか安定したか。全く、エマが帰って来たらこの魔術も伝えねばな。毎回こんなことされたら、ババアには厳しいというに」

 

 ……やはりリィンにはよくわからなかったが、なぜか途方もない安堵を覚えた。

 この焔は決して自分を傷つけるものではない、と理解したのだ。

 その安心が体に伝わったのか、足元に光の道が駆け抜ける。

 道は光へ向かってまっすぐ直線に向かうと思いきや、中々に複雑な構図を描いて道筋を示している。

 まるで螺旋階段のようだった。

 漂うだけでは決して到達出来ないが、道筋が示されているのであれば……導きの灯火に沿って進んでいくことは難しくない。

 その先に目的のものがあるのだろう、と直感的に理解し――同時に、道筋から少し逸れた横道に己を護る()()()()()()を探知した。

 ふらりと、リィンは自覚なくそれに引きずられる。

 

「えっ……ちょ、ちょっと待て! 道が逸れておるぞ! 待てリィン、そちらは違――」

 

 そんな絶叫と共に、世界が消失した。

 

 

 リィンがアストラル体となり、高位次元をマラソンという名の遊泳をしているエリンの夜。

 ローゼリアとの騒動は彼女の部屋の中でのみ行われていたが、騒がしいことに変わりはない。

 通常ならばその音は漏れないはずだったが、Ⅶ組の中でも聴覚に優れた少年――エリオット・クレイグにとってはその絶叫は就寝中であっても聞き逃すことは出来ない友の声だった。

 

「ど、どうしたのリィン!?」

 

 寝ぼけ眼から一気に覚醒したエリオットが、ARCUSを手にリィンの絶叫が聞こえた部屋へなだれ込む。

 そこに待っていたのは、ベッドの上でうずくまるリィンと、その口の中に手を突っ込んだローゼリアがエリオットを出迎える。

 

「なんじゃ……こんな千客万来、妾はいらんぞ」

「ロ、ローゼリアさ……!?」

 

 そこでエリオットは、ベッドに滴る赤い雫に気づいた。

 ローゼリアの白い左手から垂れたそれは白いシーツを緋色に染めており、なおもその染みを広げていく。

 リィンがローゼリアの左手を噛んでいることも理解出来なかったが、目の前の少女が怪我をしているという事実に心優しい少年であるエリオットはそれを見過ごすことは出来ない。

 

「と、とにかく治療を。包帯とか薬とかありますか?」

「ん、そこの棚の上に一式揃っておる」

 

 Ⅶ組の中でもエマに次いでアーツの資質に優れ、特に治癒力に秀でたエリオットは自然とその方面への理解を深め、ベアトリクスからの薫陶もあり医療の技術も覚えていた。

 ローゼリアは右手をリィンの心臓に置いたまま、ゆっくりと左手を彼の口から抜く。

 鍛えられた咬合力(こうごうりょく)は、ローゼリアの手を無残な姿へと変えていた。

 

「ひどい怪我……」

「いや、一応護りはしていたから骨までは達しておらんよ。血で誤魔化されているだけじゃ」

「血が流れる時点でひどいんですよ」

 

 アーツで出血を止め、ローゼリアの指示によって薬の効果を聞いたエリオットが応急処置を施していく。

 包帯を巻こうとするが、それは止められた。

 

「放っておけば治る」

「だからって……」

「これ見よがしに包帯なんぞ巻いてみよ、こやつのほうがひどい顔になるぞ?」

 

 そう言ってローゼリアは無事をアピールするように手をぷらぷらと揺らす。

 つまり、リィンによって傷ついたという事実を隠そうと言うのだろう。

 彼女の気遣いと優しさに溢れた仕草だった。

 

「……魔導杖を取って来ます。そちらのほうがより効力上がりますから」

 

 ただでさえミリアムのこともあって、夜釣りによって立ち直ったリィンに再びの精神ダメージを与えるわけにはいかない。

 故にエリオットはぐっとその感情を飲み込んだ。

 改めて持ってきた魔導杖によって再びローゼリアの治療に取りかかりながら、エリオットはこの現状の理由を聞く。

 

「……ということは、今のリィンはその……魂が別にある抜け殻ってことでしょうか?」

「うむ。さすがリィンの友人よな。理解度が高い」

「いえ、正直深く考えないだけで理解しているとは……」

 

 夜釣りを楽しんで就寝したはずなのに、友の絶叫で目覚めてみればリィンは幽体離脱していた、などと普通に考えれば二度寝案件である。

 それでも半年以上のリィンとの付き合いが、エリオットを色んな意味で強くしていた。

 

「にしても編曲、ですか」

「正直話半分で聞いておいたほうが良いと思うぞ。そもそもお主は魔術を収めぬ身。そこに呪歌のことなど――」

「……言われればそうかもしれませんが、リィンが僕に頼むってことならやってみようと思います」

「お主、リィンに弱みでも握られておるのか?」

「違いますよ!?」

「それにしては、些か献身が過ぎるようにも思えるが」

「それはローゼリアさんに言われる台詞じゃないです」

 

 起動者を導くのが魔女の努め、とはエマから聞いていた。

 けれど実際にリィンを導いたのは彼女であり、ローゼリアはエマの祖母なのだから直接ここまで手助けする理由はないはずだ。

 ならば、答えは一つ。

 彼女達が善き魔女であるから、であるようにエリオットもリィンを助けたいと思っているからだ。

 

「僕は、言ってしまえばⅦ組の中でもリィンの手助けをできることは少ないんです。エマは言わずもがなですし、戦闘ならフィーやラウラがいるし、身分ならユーシス。マキアスだってお父さんが帝国の重鎮の一人。ミリアムだって帝国情報局にいる。

 ガイウスはいつだって頼れて場の空気を落ち着かせてくれるし、アリサは鬼の力も得て、ラインフォルトとの伝手もある。僕だけが、普通なんです」

 

 それは、五月の特別実習を終えた後のことや、六月のノーザンブリアでも。

 リィンは気持ちを沈めたエリオットを慰め、励ましてくれた。

 だからエリオットは、自分が頑張る理由は恩返しなのかとも思っていたが……素直に、友を助けたいと言う気持ちが勝っていた。

 一方的に助けられてばかりでは、堂々とリィンの友であると言えない気がしたから。

 

「だから、リィンが頼ってくれたってことは、僕ならできるんじゃないかって可能性を考えてくれたと思うんです。

 もちろん、リィンなら僕がダメだった場合でも他のやり方を考えるかもしれません。でも……頼ってくれたなら、それに応えたくなるのが友達でしょう?」

「……ふむ。リィンの一方通行な面も大きいと思ったが、夜釣りといい案外お主ら『普通に』友達しとるんじゃな」

「あはは、常に刺激ばかりじゃアレですしね」

 

 どちらにせよ、とエリオットは覚悟を決める。

 

「あの、トマス教官に連絡って取れます?」

「ふむ?」

「前にリィンから聞いたんですが、降魔の笛ってアーティファクトがあるって聞いたんです。音楽で魔獣や幻獣を操るなら、呪歌にも何か参考になるかな、と」

「んー、それならガンドルフを訪ねたほうが良いかもしれんぞ。以前、あの笛をギデオンから取り上げてからシュミットが少し興味を持ったことがあってな。

 音の波長やら導力機械での再現やら何やらで、色々データを取った覚えがある」

「本当ですか!」

「うむ。だから明日の朝にでも――」

「ありがとうございます、ローゼリアさん!」

 

 行くといい、と言おうとする前には治療を終えたエリオットが、勢いよく部屋を飛び出していた。

 

「……類は友を呼ぶ、いや友が類になる、か」

 

 あるいは、朱に交われば赤くなる。

 色んな意味で変わってしまった少年の背中を、ローゼリアは色んな意味で遠い目で見つめていた。

 その後ガンドルフやダリエなどに連絡を回すローゼリアだったが、連絡を終えた直後に高位次元で誘導していたリィンが横道に逸れて盛大に慌てることを彼女はまだ知らない。

 

 

 一方、道筋から逸れたリィンは―― 

 

「――なんという、因果」

「貴方は一体……何者?」

 

 焔に似た何か(ローゼリア)と対となるような気配――碧色のゆらめきを見せる()()()()()()との邂逅を示していた。




曖昧な描写が多くなってますが、高位次元という揺らぎってことでなんかぼんやりしてるほうがいいかな、って感じで書きました。わかりにくかったらすみません。

エリオットが普通とか言ってますが、後に音楽で呪い祓ったりしますし、やはりファルコムのプレイアブルキャラは逸般人…

以下、創の軌跡追加アップデートのネタバレ
































内戦編は無理だけど姫いずれ絶対出す……!
オリキャラ扱いになってもいい、なんですかあの美味しすぎるキャラ。
ファルコムはオタクに刺さるキャラを作ってくれてとても良いと思います。
そしてひとたび歩けば女にあたるリィン教官は流石。しかし銀髪に縁ありますね。ファルコムが銀髪好きなだけかもですが。

やっぱり結社の新しい第七柱候補なんでしょうかね。
リィンにもついに名前付きの武器フラグが追加されたり、黒神一刀流やら再び考察が捗る設定をお出ししてくる展開は二次創作的にも最の高。
そして、パッパはやはりリィン達が幸せにしなければならぬ…

全部さん強いしまさかのトマス教官ですし特典にもあった学生分校長などなど、ネタの供給おいしいです。でもロジーヌさん参戦マダー?
それにしてもアルティナ、ほんと完全に公式ヒロインとなりましたな…
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