はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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フフフ、息子よ。異次元マラソンのリザルトだ

 やる気に満ちているといえ、気持ちだけで勝利の結果が覆るほど勝負は甘くない。

 意気込みと共に繰り出されたクラウ=ソラスの(ぐー)に、リィンは太刀を使うことなく体を傾けることで避ける。

 そこへ殺到するラウラとフィー。

 双銃の乱射で空間を埋め、リィンの避ける範囲を制圧。

 意図的に空けた場所にラウラの一撃を叩き込む戦法はしかし、それを見抜いた緋空連斬による闘気の刃によって分断される。

 

 ラウラの突進が止められたことを知るや、アッシュが戦斧を構えるが視線の先にリィンはいない。

 どこへ、と首を巡らせるアッシュの襟が突然何者かに掴まれ、引きずり倒される。

 がはっ、と漏らした声の上を、リィンの斬撃が通過していた。

 

「くっ、前より早さも速さも上がってる気がするぞ!」

 

 導力散弾銃を撒き散らし、フィーと共に援護射撃を加えることでリィンの追撃を防ぐのはマキアス。

 アッシュの襟を掴んだのは彼らしい。

 

「アッシュ、下がるぞ! 君を狙ったということは、リィンはどうやら君の目を警戒しているようだ!」

 

 リィンとの模擬戦において、仮想指揮官として振る舞っていたのはユーシスだった。

 彼が大雑把ながら戦術を指揮することで、Ⅶ組の個を一つにまとめていたのだ。

 そんなユーシスを率先して潰し、戦術リンクの連携を崩すのはリィンの常套手段であることを実体験済みのマキアスはすぐにアッシュを抱えてその場から離した。

 最初は指揮官狙いなどなく、疾風を繰り出すだけで蹂躙されていた。その頃に比べれば比較にならないほど彼らも地力を上げているが、それだけで済むほど武芸者としてのリィンは優しくない。

 

「ナイス、マキアス」

「アッシュ、君の目はルーレでも活躍したそうだな。なら、今回の核になるのはアッシュだ。存分に使ってくれ」

「うん、アッシュの身体能力はともかく戦況を把握する目は指揮に向いていると思う」

「……目、目ってうっせえぞアンタら」

 

 言いながら、左目を抑えたアッシュが《見》の姿勢を整える。

 この場にロジーヌや魔女がいれば、アッシュの視界を戦術リンクで共有することも可能だったが、その手段を取れる方法はない。

 ならば、アッシュは自力でリィンの動きを看破しラウラ達へ伝えなければならない。

 

「――クラウ=ソラス」

 

 マキアスとフィーの銃弾を避けたリィンが再び動くが、そこにアルティナが割り込む。

 ノワールシェイドによる障壁を張ってしのぐが、リィンはバリアを強引に打ち破るのでなく、導力の層と刃が触れるように太刀を置いた。

 

「アルティナ、下げて!」

 

 叫んだのはフィー。

 《クーフリン号》におけるレオニダスとの戦いの中、アンゼリカを通して兄貴分を吹き飛ばした浸透系の攻撃が来ると直感で判断する。

 その予感は正しく、アルティナが即座にクラウ=ソラスを下げたことで放たれた幻葉切りは虚空を薙いだ。

 

 そこへ前方にラウラ、後方にフィーが迫る。

 さらにマキアスの導力散弾銃と、アッシュが投擲したダーツが加わった。

 リィンは瞬時に首を巡らせ、それぞれの位置を把握。

 先に着弾するのは導力散弾銃とダーツであることを見抜き、螺旋撃による壱の型が遠距離攻撃を一瞬で薙ぎ払う。

 即座にラウラとフィーに対応しようとするが、そこで振りかぶろうとした太刀の動きが止まる。

 

 見れば、太刀には漆黒の鎖が絡まっている。

 リィンはその鎖が、ダーツの中に紛れ込んでいたクラウ=ソラスが変化したものであると見抜くが、それに気づいた時にはすでにラウラとフィーはそれぞれの獲物を振り下ろしていた。

 

「取っ――」

「っ、フィー!」

 

 しかしリィンが太刀から手を離し、左手に集う闘気を認識したラウラは即座にフィーへ彼の意図を伝える。

 戦術リンクによってその意図を受けたフィーはとっさに双銃剣を交差させた。

 瞬間、リィンの左手から放たれた闘気の刃が双銃剣と鍔迫り合う。

 体格の軽いフィーは徒手・孤影斬に押されて距離を取られ、残った右手は大上段から大剣を振り下ろしていたラウラの両手を掴む。

 肌を軽く裂き、一筋の血を流すことを対価にリィンは攻撃を止め、そのまま肩でラウラを押し出す。

 零距離からのショルダーチャージにラウラがかはっ、と息を漏らす。

 

 一瞬の脱力。

 それを見逃さないリィンは強引にラウラから大剣を奪い、そのまま天翔剣による袈裟斬りを入れようとするが、太刀と大剣という獲物の違いが技の完成度をわずかに下げる。

 故に付け入る隙が生まれ、ラウラはここしかないと判断し叫んだ。

 

「昂れ……オーバーライズ!」

 

 瞬間、ラウラの動きが加速し強引に体をひねってリィンの斬撃を避けた。

 大剣は少女の体を刻むことはなかったが、代わりにラウラの髪を止めていたリボンが切り裂かれ束ねられた蒼糸がぶわりと広がる。

 リィンは突然のラウラの加速に思考を一瞬だけ取られる。

 その間に、タタッ、と傍でアルティナが駆ける。

 向かう先はリィンが自ら捨てた太刀。

 狙いが武器であることを知ったリィンはすぐに太刀を回収しようとするが、そこへ徒手・孤影斬をしのいだフィーが割り込んだ。

 

(なんだ……これは!?)

 

 そしてフィーもまた、先程のラウラと同じく俊敏さに磨きがかかっていた。

 正確には速さが上がったわけではない。

 連携をさらに鋭敏化させ、無駄を消して早さを上げているとリィンは理解する。

 さらに今のリィンの獲物はラウラの大剣のため、太刀を使っている時よりもやや剣を振るう早さが下がる。

 この状況下によるそれは、リィンとフィーの反応速度の天秤を均衡に近づけていた。

 ユミルでのルトガーとの特訓が功を奏し、苛烈なフィーの連撃もなんとか捌くリィン。

 だがそれは、フィーの対応に専念してしまうことを意味していた。

 上空に影が差す。

 見上げずとも、その気配でリィンはラウラが上空に飛んだのだと理解した。

 

「……砕け散れ!」

 

 強引にフィーを弾いて吹き飛ばし、ラウラを迎撃するリィン。

 ラウラはアッシュが投げた戦斧を空中で回収、そこからお得意の鉄砕刃……と思いきや、彼女はそこに螺旋の動きを加えていた。

 それはリィンの八葉に触れたことで進化した、ラウラの新たな戦技・獅子連爪であった。

 ラウラの全力の一撃を大剣で受け、サングラール迷宮の地面にリィンの足がめり込む。

 まずい、と思った瞬間にはマキアスとアッシュのアーツがリィンの手から大剣を弾いていた。

 トヴァルの零駆動の如き速さで繰り出されたエアストライク(アーツ)は、ラウラやフィーの加速と同じ何かだとリィンは判断した。

 

「援護しな、チビ兎!」

「クラウ=ソラス!」

 

 そこへ疾走するのは、鎖から元に戻ったクラウ=ソラス。

 引いた右腕に集う導力を視認。

 大剣が弾かれてもリィンならば何かする、と思っていたラウラ。

 だがリィンはラウラの斬撃をあえて受ける。

 その無抵抗に目を剥くラウラへ、打ち上げるような肘が叩き込まれる。

 ラウラへの対処を終えたリィンの眼前へ迫るクラウ=ソラス。

 リィンは神速の如き反応速度で、腰から鞘を引き抜き迎撃した。

 驚嘆すべき反応でリィンはクラウ=ソラスから後の先を取り、逆手による残月が戦術殻の機体を打ち据える――その寸前、クラウ=ソラスの姿が消えた。

 

「!?」

「クラウ=ソラス……アルカディスギア……!」

 

 クラウ=ソラスが光った瞬間、後方からリィンへ飛び込んでいたアルティナの姿を認める。

 彼女の姿は普段のインナースーツに似た、新たな外装……それこそクラウ=ソラスを鎧にするようなフレームをまとい、重厚なブーツと宙に浮く剣のような翼が閃く。

 クラウ=ソラスが消えたことでリィンの鞘による逆手残月が空振る。

 リィンお得意の、実体を持つ分け身を囮にした奇襲として逆襲のように放たれる。

 

「神気……合一!」

 

 しかし、諦めの悪さに定評のある男はそれでも終わらない。

 鬼の力は消えたが、力の塊として残る己の闘気を強引に引き出した。

 両手をアルティナとラウラによって使われ、足は未だに地面の中。

 そんなリィンに残された攻撃手段は、首を旋回させた頭突きであった。

 相打ち、あるいは頭突きの反動で地面から足を抜く勢いを利用しようとしたリィンの目論見は、

 

「――うちます。ノワールクレスト」

 

 少女達が最後まで温存していた切り札によって覆される。

 神気合一による強化が施された頭突きが止まる。

 何かに反射するように弾かれたリィンを、アルティナが今度こそ拳を振りかぶった。

 

「はあぁぁぁぁ……ぐー!」

 

 アルティナ渾身の八つ当たり(ぐー)がリィンの頬へ突き刺さる――が、正面からリィンの両手がアルティナの体を抱きしめる。

 いや、抱きしめるように見えるがその拘束はアルティナの離脱を許さないベアハッグであった。

 左腕はアルティナの右腕を封じ、右腕はアルティナの左腕ごと背中に回され彼女の動きを封じている。

 ここから何か行動しようと動いた途端、零距離の浸透打撃(幻葉)でアルティナを止めるのは明白であった。

 それを理解しているのか、アルティナはぐーを打ち込んだきり大人しい。

 

「ってぇ……ここまでしてやられるとは」

 

 神気合一で止血しているものの、じんじんと響くほっぺの赤みやラウラに切られた痛みに涙目になりながらも、彼自身はまだ戦闘の継続が可能だった。

 アルティナがぐーを打ち込んだ瞬間、リィンはスリッピングアウェーで拳を打ち込んだ方向に沿って首を動かし、打撃力を緩和させたのだ。

 そしてアルティナを抱きしめながら、ゆっくりと地面から足を引き抜くリィン。

 追撃は、来なかった。

 

「…………むしろここまでしてその程度かっつーの」

「武器奪われたし、結構追い込まれてるんだぞ?」

「いや、そうなのかもしれないが」

「まるでそんな気がせぬ」

「……で、どうする? 続ける?」

「俺としては倒れるまでが勝負、でも良いと思うけど、ローゼリアさんからはみんなが持ち込んだ新しい力を見たらそこまでにしておけ、って言われたし……ここまでにしよう」

 

 そう言ってリィンはアルティナを離す。

 アルティナはその場で尻もちをついた。

 その様子を見てアッシュが息をつくが、ラウラとフィー、マキアスのⅦ組メンバーは未だに残心を崩さずリィンを見ている。

 その姿に頼もしいと思いながら苦笑し、手をひらひらさせて転がった太刀の回収に向かうリィン。

 転がった太刀を鞘に収めながら、微妙な沈黙を崩すようにリィンが口を開く。

 

「ところで、ラウラ達が使ったあれが……アリサが持ち込んだ力ってやつか?」

「うん、私が使ったのはオーバーライズというものだ」

 

 アリサがラインフォルトより持ち込んだ戦術リンクの新たな力――オーバーライズとブレイブオーダーを駆使した戦い。

 オーバーライズは戦術リンクを強化したもので、普段以上の連携の隙を埋めると同時に反応速度と思考共有を向上させる効果があるという。

 通りで、と思いながら次はアルティナに目を向ける。

 

「アルティナにはびっくりした。自分がクラウ=ソラスと合体するなんてな……してやられたよ。すごかった」

「あ……はい。ありがとう、ございます。あの人が導力バイクや騎神へアガートラムを合体させたと聞いたので、Ⅶ組の人達が協力してくれて、色々その、私も試行錯誤を」

「うん、良い成果だ。それに、あの反射はノワールシェイドとも違うよな?」

「あれは以前、リィンさんが特別実習で提供した灰のチカラのデータを解析して、試験的に導入された新システムのようです」

 

 どこかぼんやりとリィンを見ていたアルティナだったが、褒められたことで一拍遅れてブレイブオーダー……灰のチカラの残滓を説明する。

 九月の特別実習*1の折、灰のチカラによって生まれたオーダーシステムの検証のためにデータを提供したことがあった。

 それが今実を結び、オーバーライズと共にⅦ組を助ける力となって組み込まれたらしい。

 

「ったく、予定じゃチビ兎のオーダーでトドメのはずだったんだがな……」

 

 ガシガシと頭をかくアッシュは、悔しさを覚えながらもどこか納得を示す。

 アッシュの予想では、オーバーライズで武器を奪いその反撃をアルティナのブレイブオーダー、絶対反射の力で封じ込める――ここまではお膳立て通りだ。

 だがラウラから武器を奪い、それすら捨てて鞘を使い、最後には手足どころか物理的に頭を使ってまで立ち回るリィンは呆れを通り越して感心すらした。

 

「そう言うなって。フィーだって、まだ攻め込もうとしてただろ?」

「まあ。ね。アルティナを人質に取られて台無しになったけど」

「人質言うな」

「いや、実際似たようなものだろう……」

 

 マキアスが呆れながら言うが、多対一なのだからそのくらいするのは当然だと譲れない。

 なんやかんやと試しを終えたⅦ組は、ようやく戦闘の終わりを実感して息をつく。

 その中で未だにぺたんと女の子座りで動かないアルティナに、リィンは手を差し出す。

 

「ほらアルティナ、立てるか?」

「あ……はい」

 

 ゆっくりと上げられた手を優しくつかみ、ゆっくりと立ち上がらせる。

 改めて彼女の格好を見やり、じろじろと観察するリィン。

 進化したスーツもだが、それ以上に出血したリィンと密着していたせいで彼女の小さな体にはリィンの血が付着している。

 戦闘を終えた今では、少し申し訳ない気分になった。

 だがアルティナはその視線に何故か気恥ずかしさを覚えたのか、身じろぎしながらもリィンへティアラを使って怪我を癒やすと、すぐクラウ=ソラスと分離し、元の格好に戻った。

 元に戻ればリィンの血もどういう理屈か綺麗になくなっている。

 その仕草に一言告げようとするリィンだったが、その台詞は中断する。

 位相空間であるはずのサングラール迷宮に、地震が起きたのだ。

 

「な、なんだ!?」

(ふむ、どうやらあちらの試練も終わったようだ)

 

 アルグレスの言葉と同時に転移陣が現れ、そこからローゼリア達が帰還する。

 アリサ達三人はぐったりとしており、アルグレオンの白銀の機体には軽くない損傷が伺えた。

 その様子に驚き、見上げるリィンにアルグレオンが応える。

 

「起動者不在といえ、私もまた彼女の技を見てきた者。そうそう遅れを取ることはありませんが……中々に興味深い出来事でした」

「フフフ、人の可能性は無限大ということだな」

「親父!」

「フフフ、息子よ。ただいまだ」

 

 その中にヴァリマール、オズぼんの姿を確認したリィンが灰へ駆け寄る。

 久々の再会に喜ぶ横で、リィンはアリサに止められる。

 

「ちょっと待ってリィン、先にこれを渡しておくわ。今さっき、()()()()も終わったから」

 

 そう言って渡されたのは、一つの戦術オーブメントだった。

 中身を開いてみれば、そこにはクオーツが二つしかセット出来ない仕様であり、その二つもすでに埋められている。

 

「これは?」

「Mクオーツ……ううん、D(デウス)クオーツ《アークルージュ》そして《ロストゼウム》……世界で一つしかない、リィン専用のARCUSよ」

 

 至宝の名を冠するそれに、リィン達は息を呑む。

 その反応を見たかった、と言わんばかりにニッと笑ったアリサは、そのまま気絶するようにリィンへ倒れ込み、慌てて彼女を受け止めるのだった。

*1
124話参照




ぐーはやっぱり直接ね!
予想されてましたが、斬!の代わりのぐー!でした。

アリサ達の試練はカット。その成果はここで出すよりその時に出すほうが面白いかな、と思いまして。
その時の更新までお待ちください。
そしてリィンVSⅦ組はオーダー込みで痛み分け?
Ⅲのアリアン&マクバーンもオーダーがあれば余裕というアレなので、リィンとの実力差をほとんと埋める感じに。
まあ星杯時のアリアンもマクバーンも本気じゃないのは承知なのですが、あの二人がタッグ組むならオーダー使っても無理~な絶対強者でいて欲しかった…
まあ機甲兵よろしく技術の進化は凄いということで。

特務支援課に比べれば閃メンバーの戦闘力や導力技術が上な分、楽になったという設定なのでしょうかね。

まあパッパとマッマ(仮)のドリームコンビ戦もAP取得を考えると難しいですが、勝つだけならアレな辺りもう少しこう…負けイベってこういう時に使ってと思わなくも。
いやあの時の戦いで負けたらゲームオーバー感ありますが。

次回と次次回辺りで交渉とか準備を終えて、200話から内戦編の最終章な決戦にいきたいところ。
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