虚数の海を潜ったり危機契約に時間取られてました。
気絶したアリサに消耗したユーシスやガイウスをⅦ組が客室へ送り届ける間、リィンはダリエの工房にいるエリオットを連れ出し広場へやってきていた。
ちなみにアルティナもしっかり連れている。
特にやることがなくても、リィンの後ろに付いていく姿はカルガモの親子のようだった、とⅦ組は語る。
広場には灰と銀の騎神が並んでおり、かつての獅子戦役において
実情を知らなければ壮観な構図であるが、エリオットは新しく増えた銀の騎神に目を向ける。
「リィン、また騎神増やしたの?」
「分け身とは違うぞ? 彼女の名前はアルグレオンさん。本来の起動者はクロスベルにいるんだけど、交渉で協力してもらえることになったんだ」
「え、クロ……え? リィン、高位次元ってところに飛んでいったんじゃ」
「色々あって目的は達したけど、そこからクロスベルに行けてそのままな」
「うん、わかった」
エリオットは深く考えないことにした。
リィン・シュバルツァーとの付き合い方で最初に学ぶべきことである。
そしてリィンはエリオットを連れ出した理由、つまりアルグレオンが《
「エリオットは楽器があれば作業が捗るんだよな? アルグレオンさん曰く、騎神が楽器に相応するんじゃないかってことで助言してくれるかも、ってことなんだ」
「あ、やっぱりリィンの知り合いの騎神ってそういうのなんだね」
灰の騎神オズぼんという前例がなければ危なかった、と思うエリオットだった。
「魔力の籠もった声、正確には精霊の力を騎神を通して出力する、っていうのが《魔王の凱歌》の概要なんだ。その、アルグレオンさんは清廉な騎神……で良いのかな? 緋は呪いに侵されているせいで魔王なんて呼び方される楽器になっちゃったみたいだけど」
「ああ、聞いて驚け。かのリアンヌ・サンドロットが起動者なんだ。救国の聖女の騎神、清蓮でなくて何だって話になるぞ」
「リアンヌ・サンドロット……ごめんリィン、一応情報共有いいかな?」
「もちろんだ、最初から説明すると――」
もはや慣れたと言わんばかりに淀みのない説明だが、騎神達を除けば理解が追いつかない単語の羅列にも思えた。
リアンヌ・サンドロットが獅子戦役で死亡し、起動者となり今日まで生き永らえる、というのはわかる。
その目的が帝国に蔓延る呪い、ひいてはその元凶である黒の騎神の打倒というのも非常にわかりやすい目的だ。
けれどアストラル体になって大地の聖獣を宿し、クロスベルへ行って銀の騎神を借り受けるという行動の横転には何故そうなったのかがわからない。
故にさらなる詳細を求めようとするアルティナだったが、そこにエリオットが口を挟む。
「確かに、話だけ聞けば騎士の神で騎神って感じだね」
「お嬢様っぽい面もあるから、女性を相手にするように接してほしい」
「わかった」
「フフフ、息子よ。女性の扱いに慣れてきたな」
「ヴァリマールの人格は消えていると伺っていましたが、貴方のことも詳しく聞きたいところですね」
「あ、なら俺が説明しますよ」
オズぼんのことを知りたい、というアルグレオンの言葉に目を輝かせるリィン。
アルティナはそれに関して文句を垂れる前に、エリオットへ疑問を抱く。
「待ってください、エリオット・クレイグ。今の説明が理解出来たのですか?」
「アルティナちゃん、リィンの行動は過程じゃなくて結果だけ受け入れて話したほうが楽だよ?」
その目は優しかった。
「過程をおろそかにして、結果と結びつくのですか……?」
「理論派っぽいアルティナちゃんにはまだ理解しかねるかもしれないけど、そういう理屈を求めてたらすぐ置いていかれちゃうよ?」
その言葉にアルティナの息が詰まる。
昨日の夜、日付で言えば今日になるが深夜の夜釣りの言葉が一向に伝わっていなかったことへの懸念はぐーで解消したものの、今のままでは同じことの繰り返しになるのは容易く予想出来る。
「ゼムリアには《
思わずエリオットを見上げるアルティナ。
言外に、リィンはアーティファクトのようなもの、と言っているようだ。
それに、とエリオットはアルティナの耳に唇を寄せ、オズぼんとアルグレオンに話しているリィンには聞こえないような声量でつぶやく。
「君がリィンに感じていることも、理屈で説明出来ないでしょう?」
「……それ、は」
「エリオット? アルティナに何を言ったんだ?」
「ん? んーっと……アルティナちゃんってほら、声が綺麗じゃない? 僕と姉さんの演奏で、魔力を必要とせずに精霊を呼び込むことは出来たんだけど、やっぱり『呪歌』なんだからボーカルもほしいかなーって」
「それでアルティナに頼んでいたのか」
エリオットのでまかせに首肯するリィン。
実際に投げかけられた言葉を知っているアルティナは、突然の流れ弾に驚きを隠せない。
(エリオット・クレイグ?)
(あはは、ごめんごめん。でもアルティナちゃんの声が綺麗なことに嘘はないよ。せっかくなら本当にやってみる?)
リィンへの感情を誤魔化してくれたことには感謝するが、それはそれとして突然の無茶振りは違う。
アルティナにとって歌、というものがよくわからないということもあるが、話を聞く限り精霊での魔力だの、いわゆる感覚的なものへの理解が難しいということもある。
「ボーカルならユーシスやマキアスに頼んでもいいんじゃないか?」
「二人には確かに実績もあるけど、重要なのは精霊が気にいるってことだからね。僕の見立てじゃ、学院祭はともかく精霊相手は難しいと思う。
その点アルティナちゃんは無垢というか、『熱』さえ入れ込めばきっと精霊も気に入る声になると思うんだ」
「熱、ねえ。ガイウスの絵みたいなものか……時間があればお願いしたいところだけど、流石に期間が短い――」
「いえ、リィンさん。お願いする、ということならその要請は引き受けます」
条件反射のように、アルティナは反応していた。
後から自分の発言に驚くくらいに、漏れた言葉だった。
リィンが自分に頼みたい、という台詞がトリガーだったのは違いないが、何故か無性に決まりが悪かった。
なるほど、エリオットの言う理屈で説明出来ない感情というのもうなずけるが……
(なぜでしょう……今、この場から離れたくなっています……)
生まれた感情に戸惑うアルティナをよそに、リィンとエリオットはアルグレオンを交えて何やら話している。
アルティナが落ち着いた頃合いを見計らい、リィンが口を開いた。
「それじゃあアルティナ、少し試してほしいことがあるんだけど、良いか?」
「はい」
「まずこの導力ウォークマンに入ってる曲の一節で良いから、覚えてもらっていいか?」
「了解しました」
なぜそんなものを持っているのか、という疑問はあったがエリオットの言葉を思い出して流すことにするアルティナ。
実際はオズぼん収納アイテムからの一品である。彼が傍にいるので、その機能を使うことが出来たのだ。
一分ほどでアルティナはイヤホンを外し、息をついて声を震わせた。
「ラー――――」
無歌詞で響くアルティナの声音に、思わずリィンとエリオットが目を見開く。
感情表現はともかく、メロディとリズムが正確なアルティナの声は耳に心地よさを与えていた。
「なるほどな、エリオットの言うように熱が入ればすごく良い歌になる」
「だよね、だよね! 僕もここまでとは思ってなかった!」
音楽のことになればリィンを凌駕する熱を放つエリオット。
興奮してアルティナに詰め寄るが、件の少女はクラウ=ソラスを呼び出しその突撃をガードする。
「エリオット・クレイグ、落ち着いてください」
「あ、ご、ごめん」
「俺の時みたいに不埒って言わないの?」
「……エリオット・クレイグにはその意図は感じられませんので」
俺もそうなんだけど? とリィンは抗議したかったが、クラウ=ソラスに抑えられながらもエリオットが言葉を続ける。
「あとは熱……でも精霊自体は僕達の曲で来場してもらえるから、
一人沸き立つするエリオット。
リィンも音楽には手慰み程度に覚えがあるが、エリオットほどの情熱を持っているわけではないのでアルティナと共に彼の様子を眺めるのみ。
ぶつぶつと頭の中で情報を整理していたエリオットが静かになったかと思えば、キリっと目をアルグレオンに向ける。
「アルグレオンさん! 呼び込んだ精霊は、貴女を通して変化させることは出来るんでしょうか?」
「召喚術式……この場合貴方が使うのは召喚術指揮、でしょうか。その意図を把握出来れば……」
「戦術リンク! リィン、戦術リンクはアルグレオンさんと結んでないの!?」
「どうだろうな。親父、アルグレオンさんとは戦術リンク結べそうか? デュバリィさんとは星洸陣で疑似リンク結べたし、エリオットを乗せて出来ないかな?」
「ふむ。そこは私に乗らずとも、魔女達の力を借り受ければよかろう。騎神の機械部分は地精が担当したが、霊的機関は魔女の役割であったからな」
「なら、ダリエさん達と協力して僕達の調律を常にアルグレオンさんに把握してもらえば……いける……きっと!」
「では、再びサングラール迷宮へ戻るとしよう。あそこで召喚術指揮を試せばいい」
「わかりました! アルティナちゃん、歌は後から覚えてもらうけど、一緒に来てもらっていいかな?」
エリオットの要請に、アルティナは自分で頷かずリィンへ目を向ける。
苦笑しながらも、リィンは頼んだとアルティナを送り出した。
「その要請、引き受けました。では、行きましょうか」
「うん、その前の姉さん達も呼んで来なきゃ!」
そう言って走り出すエリオットと、それに付いていくアルティナ。
アルグレオンも先にサングラール迷宮へ向かうと言って転移していく。
ひとまず編曲作業はなんとかなるかな、と安堵しながらリィンはヴァリマールを見上げた。
「それじゃあ俺達もセントアークに行こうか」
「ほう、先にミュゼ嬢の元へ向かうのではないのか?」
「夜には、ってことだからね。もう少し時間あるし、夜までにはエリオット達の作業も済んでると思うからその前にエマ達にも情報を伝えないと」
「その前にⅦ組の皆に出かける旨を伝えなければ、な」
「ああ!」
そう言ってリィンもまたⅦ組の元へ向かう。
サングラール迷宮の戦いの疲れを癒やすために休息していたⅦ組に、リィンはセントアークへ向かうことを告げる。
すると疲れを残しながらも、ユーシスが共に向かうと言う。
「四大の一人として俺が貴族連合から離脱し、合流することも殿下達にも説明せねばなるまい」
「一度東部に戻って伝言でも残しておくか?」
「いや、そこはアリサがルーレにいる間に上手くやってくれたらしい」
「ラインフォルトの一人娘といえ、アルバレア家がよく納得したな」
「……言ってはあれだが、兄上が関わらない些事だろうからな。父上にイリーナ会長と渡り合う交渉力を持っているとは思えん」
「イリーナさんが動いてくれたのか?」
「アリサの成果だろう」
Dクオーツの一件といい、出来る女アリサであった。
「その他諸々、アルバレアの情報もアリサを通してもらってきた。それらの報告も欠かせぬだろう」
「わかった、ならユーシス一緒に来てくれ」
他のⅦ組は休息や連携の見直しなど、色々独自に動くそうだ。
それらの見送りとローゼリアからのお土産を持たされ、リィンとユーシスは精霊の道を通じてセントアークへと向かった。
*
正規軍と貴族連合からの挟撃とも言える激戦を制した翌日、セントアークでは今後の協議が加熱していた。
大まかに分類すれば、今回の戦いは偶然の勝利であり、同じことを続けられるほどの余裕はないという守備的な意見と、テスタ=ロッサを使った強襲作戦の二択だ。
基本的に皇族姉弟やフェルナンが前者であり、ヴァンダールの剣士達やサザーランド州の住人……騎神を通じてといえ、自分達が故郷を守ったという熱に浮かされた者達が後者だ。
従来ならばセドリック達の意見が適用されるのだが、後者の中に当のテスタ=ロッサが混ざっていることが混乱に拍車をかけていた。
ちなみに会議室の一角には、エマが《
「起動者達ヨ。今ノ我ナラバぜくとーるヲ相手ニシテモ遅レヲ取ルコトハナイ。ココハ一気呵成ヲ推奨スル」
「確かにテスタ=ロッサの力はこれ以上なく見た。でも、相手はルトガー・クラウゼル……今はライラックと偽名を名乗ってるそうだけど、名高い猟兵王がその起動者なんだ。僕とアルフィンとじゃあ、猟兵王の足元にも及ばない」
「ソレデハ遅イノダ。我自身、昨日ノ力ガ長続キ出来ルト思ッテイナイ。故ニマダ使エル内ニ戦力ヲ少シデモ減ラシテオクノガ大事ダ」
テスタ=ロッサも無謀な突貫がしたいわけではない。
シュミットと魔女のおかげで幾分か散ったといえ、呪いに浸された機体の酷使と、蓄えられたマナの大盤振る舞いは、セドリックやアルフィンへの影響を考えればあと一度だけ。
故に下手に護りを固めて、マナを使い切ってしまうことこそテスタ=ロッサは恐れていた。
「マナ不足というのであれば、エマさんのほうでなんとかならないのですか?」
「騎神を動かすだけならともかく、今のテスタ=ロッサに求められているのはサザーランド州そのものと言える霊具の具現化ですからね。一人では足りません。殿下達、アルノールの魔力でさえ消耗が激しいことは承知でしょう?」
「それは……」
エマの問いに、姉弟は口をつぐむ。
昨日の戦いの後、セドリック達は緋から降りるなりベッドに運ばれているのだ。
今も完全に調子を取り戻しているわけではないのは、疲れた顔を見ればよくわかる。
「……一度休憩しましょう。今のままでは冷静な意見も出ますまい」
ギデオンが音頭を取ることで、一度会議は中断となる。
それぞれが会議室を出ていく中、アルフィンのために軽食や飲料を用意するために席を立ったエリゼにパトリックが声をかけた。
「エリゼ嬢、僕も父上達に食事を持っていきたい。共にいいかな?」
「ええ、構いませんよ」
特に断る理由もないので、エリゼはその申し出を受ける。
まずは第一関門突破だと、パトリックは心の中で喝采を上げた。
パトリックはここ数日、互いに忙しかったためエリゼとの時間を作ることが出来なかった。
その中で僅かな二人だけの時間がどれだけ希少のものであるかを自覚し、すぐに冷静になる。
「会議は、一体どこに落ち着くのだろうね」
「わかりません……ですが、どんな結果になろうとも、私は姫様のために剣を振るうだけです」
まずはジャブ。
お互い共有出来る意見を発端に会話の糸口を掴んでいく。
ちなみにエリゼは昨日の戦いでオリエと共に数々の機甲兵を両断する姿から
花弁のような儚さと美しさを持つ容姿と細剣から繰り出される鋭い斬撃が、戦場では花の刃のように思えたのだろう。
よく似合っていると心の中で思いながらも、パトリックはここで攻めに転じた。
「無理はしないで欲しい。貴女が倒れれば、姫様だけでなく僕……達も悲しい。共に戦う仲間なのだから」
「……はい。ありがとうございます、パトリック様」
くすりと笑うエリゼ。
美しい顔がほころぶ様子にパトリックの心臓の鼓動が跳ね上がるが、顔の赤みを隠しながらも落ち着けを自分を鼓舞する。
ここで動揺してしまえば今までと同じ。
だが今日のパトリック・T・ハイアームズは一味違うのだと覚悟を決めた。
「リィン・シュバルツァーがいない分、僕が代わりに貴女を助けます」
「え? そう、ですね。確かに兄様はこの場にはおられませんが……」
きょとんとするエリゼの顔も可愛いと思ったが、死亡した兄のことを思い出させて悩ませる気はパトリックにはない。
その柔らかな手を取って詰め寄りたい衝動を必死で抑えながらも、パトリックは十七年の人生で一番の緊張と共に言葉を紡いだ。
「いいえ、この場だけでなく今後……一生僕は貴女を――」
「エリゼ!」
「兄様!?」
「へぇあ?」
パトリックの告白を向ける相手が、目の前から消える。
同時に乱入した聞き覚えのある声に、パトリックは間抜けな顔をさらしながらもその方角を見た。
「久しぶり!」
「に、兄様……人が、パトリックさん……ユーシスさんも見ております!」
「ははっ、いいじゃないか。これくらいは兄妹の日常だよ」
「も、もう……」
そこには、居た。
リィン・シュバルツァーが、居た。
何食わぬ顔で、士官学院で見せる何の悩みもなさそうな笑みを浮かべて、居た。
エリゼを正面から抱き寄せ、頭を撫でるリィン・シュバルツァーが!
「………………(パクパク)」
「うん? 貴様……パトリックか。どうした、そんな呆けたツラをして」
「シュ、シュシュシュ……」
「…………ああ、なるほど」
愕然とした顔でリィンを見るパトリックにユーシスが声をかけるが、彼のパニックぶりを見てすぐにその理由を察する。
おそらく、自分と同様にリィンが死亡していたと思っていたのだろう。
Ⅶ組以外の、友人とは違う意味で交流していた相手のよしみでユーシスはパトリックに教えた。
「あいつは心臓を撃たれたくらいで死ぬタマではない、ということだ。全くもっておかしなやつだ」
「……………はあああああああああああああああああああああ!?」
この日、パトリック・T・ハイアームズ人生初の告白に使われるはずの声量は、絶叫となってハイアームズの館へ響き渡るのだった。
*
早速セドリック達と挨拶をすませたリィンは、ユーシスも交えた会議室で情報交換を行っていた。
「と、こっちではこんな感じです」
「ノルドやルーレでの一件は聞いていましたが、実際に鬼の力が多く使われているんですね」
「味方はアリサにアッシュ……あ、ラクウェルで合流したやつです。敵だとクロウ先輩に《V》にスカーレット……ギデオンを除く帝国解放戦線のことごとくが使ってますからね。鬼の力のバーゲンセール、って感じですよ」
「誰かさんが大安売りどころか無償で提供してたので、原価割れして当然だと思います」
久しぶりに会ったというのに、エマは辛辣だ。
セリーヌも無言で同意する辺り、この扱いに懐かしさすら覚えるリィンである。
実際に流用しているのはシュミットなのだが、そこをつかずリィンに不満を漏らす辺りエマ達なりの甘えであるのかもしれない。
「鬼の力も気になるが、それより重要なのはガレリア要塞での一件だ。上手くいけば、あの鉄血宰相と翡翠の城将に、蒼と金の騎神を封じ込められる、と」
「東部の要がなくなるわけですからね。トワ会長を救出するのも絶対条件ですが」
「……帝都の封鎖に変化はないかもですが、共に中核をなしている人物の不在は大きいでしょう。殿下達がご家族を奪還する援護にはなるかと」
「僕たちが……」
「お父様やお母様を……」
セントアークの一件で戦争を経験したといえ、その次に早速帝都奪還の作戦を聞かされる二人にはプレッシャーが強かったようだ。
初陣を飾ってすぐに、なのだから無理もないが。
「それは、殿下達でなければならないのでしょうか? いえ、当然殿下達が皇帝を救出することの重要さは理解しています。ですが、殿下達がいなければ……」
「ウム。あるのーる以外ヲ乗セル気ハナイ」
そこに割り込むのはクルトとテスタ=ロッサ。
テスタ=ロッサが会議に参加していることに驚くのも一瞬、オズぼんのこともありすぐにそのことを受け入れる。
「事実、紫の騎神に対抗するにはテスタ=ロッサが必要です。それとも、リィンさんが相手をしてくれるのですか?」
「いや、俺はガレリア要塞のほうに行かないとだから無理だな」
「ナラバ、今スグ出撃カ?」
「それも無理。タイマンならともかく、戦争でルトガーさんを出し抜くのは俺には無理だ。経験値が違いすぎる」
実際に薫陶を受けたことで、リィンはルトガーとの差を正確に理解していた。
少なくとも集団戦という面において、リィン・シュバルツァーではルトガー・クラウゼルには勝てないと理解している。
「そんな……!」
「だから代わりに、お土産を持ってきた」
頼みの綱とも言えるリィンの断言に絶望するセドリックだったが、代わりに置かれた携帯の通信端末に全員の視線が集まる。
「お土産……?」
「ポチッとな」
疑問のつぶやきに応えるように、リィンが端末――ローゼリアからのお土産を起動させる。
すると――
「繋がったようだね。やあやあみんなお待たせ! 愛と勇気の伝道師、ラブアンドピース+エロスの申し子オリヴァルト・ライゼ・アルノール。満を持して喉越しの登場さ!」
十月戦役勃発以来、行方知れずだった帝国の第一皇子の声と、その直後に頭をどつかれる音が、会議室に木霊していった。