はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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誤字報告いつもありがとうございます。


フフフ、息子よ。迎えに行くぞ

「阿呆阿呆だと思っていたが、ここまで阿呆とは思わなかった! 行方不明だったお前がご姉弟への無事を告げる大事な一言に、あんな戯言を使うやつがあるか!」

「いるさ、ここに一人ね!」

「たわけ!」

 

 通信端末から聞こえてくる、オリヴァルトとその親友にして護衛であるミュラー・ヴァンダールの怒号が会議室に響き渡る。

 ぽかんとするハイアームズに、兄の楽しげな声に笑いで涙が溢れるセドリックとアルフィン。

 緊張していた空気を一撃で砕く皇子と友人のやり取りがしばし続き、ややあってミュラーが息をついて口を開く。

 

「……帝国の恥を晒して申し訳ない」

「あ、兄上。無事だったのですね」

「クルト、お前も無事で何よりだ。魔女殿からこれまでの活躍を聞いたぞ。よくぞヴァンダールの努めを果たした。お前も立派な守護職になったな」

「い、いえ。僕なんてまだまだで……周りの皆さんに助けられてばかりで……」

「謙遜するな。護りきれた、という事実こそ我らヴァンダールにとっては至上なのだから」

 

 オリヴァルトと違い、健全な感動の再会を果たすミュラーとクルト。

 そんなクルトは自分が生暖かい目で見られていることに築き、頬を赤くしながら口をつぐむ。

 端末の先で弟がからかわれているのだろうと察したミュラーも苦笑をこぼした。

 

「ローゼリアさんからは協力者、としか聞いてませんでしたが、まさか殿下達だったとは」

「本当に生きているとは……誤報ではなかったはずだが……、壮健そうで何よりだシュバルツァー」

「うん、さすがのリィン君も、なんて思っていたけど、僕の常識では測れない存在になってしまったんだね。魔女殿から色々聞いたよ」

「おばあちゃんが、殿下達との仲介を?」

「うん、昨日のうちにね。セントアークでセドリックやアルフィンの活躍を聞いて、すぐに駆けつけたいところだったのだけど、何分こちらは移動が目立つからどうしたものか、と思っていたところにかの御仁が現れたんだ」

 

 しっかり働いてたローゼリア。

 リィンのわんぱくに振り回されてツッコミを入れるだけの古娘ではないのだ。

 

「そして事情も聞いている。すでにトヴァル殿がカレル離宮への侵入経路や近衛兵を調査しており、君たちの教官もそれに協力している」

 

 ミュラーに続くのはヴィクター・S・アルゼイド。

 オリヴァルト達が乗るカレイジャスの艦長を務める人物でもある。

 どうせならラウラを連れて来るべきだったな、と思いながらもリィンはサラがいない理由に頷く。

 

「そういえばサラ教官、別に動いてるってローゼリアさん言ってたっけ」

「ですが、サラ教官はともかく、遊撃士のトヴァルさんが内戦に介入して良いのですか?」

 

 遊撃士の知名度はゼムリア大陸全土に轟くものだが、同時に彼らは中立性を遵守している。

 国家権力への不干渉を貫く彼らにとって、帝国の内戦というのはそれに当たるのでは、という不安が浮かぶ。

 

「カレル離宮への突入、ひいては皇帝救出による内戦の早期決着は民間人への被害が少なくなる、ってことで抜け道を通るようだ。直接戦うことは出来なくても、こういう情報戦で助けになりたいと、ありがたい言葉をもらったよ」

「屁理屈って時に大事ですもんね」

「リィンさんのはゴリ押しって言うんですよ」

 

 エマにやんわりと嗜められながらも、トヴァルの協力は問題ないとして進めていく。

 ちなみに元帝国解放戦線であるギデオンの情報もあり、ルート調査などの下準備は順調らしい。

 元テロリストとしての経験を存分に活かすギデオンだが、その内心は冷や汗が止まらない。

 そのため、ギデオンが慌てて話題を変えた。

 

「は、話を元に戻しますが、ここで連絡を繋いだということは」

「うん、僕たちも君たちが提案する作戦に協力させてもらうよ。さしあたっては、セントアーク方面を引き受ける。父上や母上を救出するのは、次代を継ぐセドリック達のほうが適任だ」

「オリヴァルト殿下なら、テスタ=ロッサの乗り手としても問題ない――」

「イヤ待テ。本当ニコノ男ガあるのーるナノカ?」

 

 そこにツッコミを入れるのは、アルノール以外乗せないと豪語するテスタ=ロッサ。

 セドリックやアルフィンといった、まさに守るべき皇子と皇女は何ら問題なく、むしろずっと乗っていて欲しいとまでは思っていたテスタ=ロッサだが、急にてこを外される感覚に陥っていた。

 

「そのとおり。初めましてだねテスタ=ロッサ。今は亡き庶子の母から生まれた、腹違いの兄ではあるが紛れもなくアルノールの皇子さ」

 

 通信端末越しといえ、その陽気な声をテスタ=ロッサの音声認証システムが認める。

 もしかしたら、ただ皇族を騙る楽師か何かではないかという懸念がテスタ=ロッサの中で晴れないのだ。

 事実、それを口に出せばミュラーの重々しすぎるため息が返ってきた。

 

「テ、テスタ=ロッサ。最初のインパクトで不安になっているかもしれないけど、兄上は本当にすごい人なんです。かつて、空の至宝に関連する事件を解決した立役者の一人でもあったり……」

「そうなのよテスタ=ロッサ。見ていて不安になるのはわかるけど、あれは場を和ませるジョークなだけで本当は帝国の皇子としての教養や知性も持つ素敵なお兄様なの」

「時の皇帝が駆った伝説の騎神相手にこう言わねばならぬのは失礼に過ぎると思うのだが、誠に残念ながらこの男はアルノールの血筋を受け継ぐまごうことなき皇室の皇子なのだ」

 

 怒涛のフォローが行われることで、ひとまずテスタ=ロッサは口を塞いだ。

 当時の起動者であるヘクトル一世を神聖視するあまり、アルノールに変な理想をこじらせた厄介ファンボーイみたいだな、とリィンは思った。

 

「……話をまとめますと、オリヴァルト皇子率いるカレイジャスがテスタ=ロッサと共にセントアークの戦いを引き受ける。

 セドリック殿下達がカレル離宮へ乗り込み、皇帝を奪還、という形でよろしいので?」

 

 ギデオンが話をまとめれば、オリヴァルトはその通りだと頷く。

 

「本来、僕達はマテウス殿と共に西部での戦いに貢献していたんだけど、セドリック達の活躍に何やら機を見出したらしくてね。

 戦の潮が変わる、ってやつなのかな? それを感じ取ったマテウス殿が僕達を送り出してくれたんだ」

「父上が……」

「夫がそう読んだというのであれば、ますます我々の動きが重要となりますね。メンバーに関してはどう考えておられるのですか? カレル離宮への道も決して楽ではないはずですが……」

「その件に関して、戦力のアテはある」

 

 口を挟むのはユーシス。

 アルバレア家の行動指針なども含めて、ユーシスは彼が持つ情報を開示した。

 それは、戦力として機甲兵の調達を可能とした、ということだ。

 

「さすがアルバレア、機甲兵を融通出来たんだな」

「正確にはアルトハイム伯から色々あったそうだ」

「アルトハイム……メアリー教官が? 会長達のことを気にして独自に動いてたみたいだけど、頑張ってくれたのか」

 

 サザーランド州に属する名門貴族の一家、アルトハイム家は貴族連合に属しているが、メアリーの説得もあり離反してセドリック達に付いてくれたようだ。

 従来ならばそう簡単に離反など出来ないはずだが、そこはラインフォルトが間を取りなしたらしい。アリサ様様である。

 その一環でシュピーゲルを一機調達出来たそうで、話し合いの結果これはクルトが使うことに決まった。

 また、ログナー候が副官であるシュライデン伯爵が使っていた機甲兵を独自に送ってくれたそうで、これはアンゼリカ達がガレリア要塞決戦で使うだろうとのことだった。

 

「カレル離宮へは、エマの転移で急襲を仕掛ける……で良いのか?」

「そうですね、サラ教官達の情報待ちになると思いますが、ここぞというタイミングで一気に決着をつけるのが最良だと思います」

「ですがその場合、カレル離宮に機甲兵が駆けつけてくるのは予想出来ます。迎撃戦力がクルトさんとエマさんだけで大丈夫なのでしょうか?」

「戦う場所次第で、なんとかなると思います。狭い道で戦うことが出来れば、同時に相手をする機甲兵の数を減らすことが出来るでしょうし」

 

 アルフィンの不安も、クルトは問題ないとする。

 

「ええ、転移妨害をするかもしれないヴィータさんはこれから交渉で仲間に引き入れますからね。そうなれば魔女の独壇場ってやつですよ、姫様」

「つくづく、魔女の皆様が無闇に世に出てこない理由がわかる気がします……」

「そうですね、深淵殿とは協力者ではありましたが、常に手を貸していただける関係を築いていれば、我々の活動がそれこそ止められなかった」

 

 元帝国解放戦線として、転移の万能性に恐怖を抱くギデオン。

 もし転移が好き放題に使えれば、オズボーンの元へ直接飛んで己もろとも自爆テロを決行していただろう、というのは想像に難くない。

 最も、騎神と起動者の関係上オズボーンを爆発で吹き飛ばしたとしても、それは無駄になってしまうのだが。

 

「カレル離宮突入組は元のセントアーク組が請け負ってくれればいい」

「いえ、我らヴァンダールはテスタ=ロッサと共にオリヴァルト殿下の下で戦いましょう。かの騎神の能力であれば、そちらのほうがより効果的です」

「俺はガレリア要塞のほうに向かわなければなりませんが、Ⅶ組からも何人かは殿下達と共に突入組に入れてもらえれば、と思います」

 

 リィンにエリオット、ユーシスにガイウス、アリサとアルティナの六人がガレリア要塞へ。

 ラウラとフィー、マキアスとアッシュ、エマとセリーヌに加え現地で合流するサラが突入組と言ったところか。

 アッシュはミリアムに借りを返すべく特訓に励んでいたが、ミリアムはオズボーンの元にいるであろうしここは我慢してもらう他ない。

 

「そうだ兄上。僕が使う《ギアス》ですが、兄上がお使いください」

「クルト?」

 

 クルトはARCUSからMクオーツ《ギアス》を外しながら、端末の先にいるミュラーへ声をかける。

 

「今のテスタ=ロッサは、僕のヴァンダール流を使っています。ありがたいことですが、動きを模倣するなら兄上に倣ったほうがよほど強化される。当然の理由です」

「……クルト」

「ホウ、殊勝ナ意見ダ。其方ハ皇子ノ護衛ダト聞イテイルガ、ソノ職ヲ自ラ手放スノカ?」

「それが殿下を守ることに繋がるならば、惜しくはない」

「……フッ、ソウイエバ、名ヲ聞イテイナカッタナ」

「クルト・ヴァンダールだ。今更か?」

「あるのーる以外ニハ興味ナカッタノデナ」

「筋金入りめ……」

 

 苦笑しながらも、《幻想の唄(ファンタスマゴリア)》の先に浮かぶテスタ=ロッサはどこか笑っているように見えた。

 今まで起動者以外の者に外部操作されていた憤りは確かにあったはずだが、ここにきてクルトを認めたらしい。

 その様子にアルフィンが目を輝かせている。

 人間と機械でありながらも、確かな友情をそこに見ているのだろう、とリィンはうなずいた。なおエリゼは渋面を作っており、その表情も可憐だと痘痕(あばた)(えくぼ)するパトリックである。

 

 その後さらに細かい打ち合わせを行いながら会議を進めていく。

 やがて時刻は夕闇を迎える時分となった。

 

「さて、だいたい決まったというところか。後はリィン君の言うミルディーヌ嬢との交渉だが……」

「そうです、兄様! ミルディーヌと連絡が付いたのですか!?」

「あ、すまない。エリゼ達のことをそう言えば伝えていなかった」

「それは……それも悪いですが、あの子が無事なら、それで……」

 

 突然の報告に驚きながらも息をつくエリゼとアルフィン。

 行方不明だった後輩の情報に力が抜けたのか、立ち上がったアルフィンがふらふらと椅子に崩れ落ちる。

 慌ててセドリックが支えたが、力ない笑みは彼女の心労を物語っているようだった。

 

「リィン君、ミルディーヌ嬢は西部にいるんだね?」

「はい。ジュノー海上要塞でオーレリアさんの影に隠れて指揮を振るっているようです」

「なるほど、普段のオーレリアよりも手強い打ち手がいるとは思っていたが、彼女が……」

 

 神妙に頷くヴィクター。

 オリヴァルトが西部に居たということはヴィクターもまた、西部で剣を振るっていたのだろう。

 その上で手強いと評するミュゼの指揮力が伺えた。

 

「せっかくだ。()()()カレイジャスでラマール州へ行くかい?」

「え?」

「今、から……?」

「それは、流石に厳しいのでは? そもそも殿下達は今どこに……」

 

 ふと、リィンやオリエ、エマとセリーヌが揃って上を向く。

 突然のことに驚く一同だが、リィンは失礼、と言い残し席を立って開けた窓に首を突っ込んだ。

 

「兄様!?」

 

 それに返事をせず、リィンは上空に首を向けた。

 そこには何もない暁の空が見えている。

 夜の帳が下りる直前、黒に侵食される橙はしかし、その色彩を深紅に染める一角をリィンの目が捉えた。

 

「何かいる……?」

「迷彩を施しているようだが、巨大な建造物が空に浮かんでいるようだな」

 

 リィンの疑問にアルグレスが答える。

 同時にリィンの瞳へ注がれる霊力。

 鬼の力の鬼眼とは異なる、アルグレスの助力を得た霊視によりその姿をはっきりと視認した。

 その雄々しくも美しき翼翻し、突如としてセントアーク上空に現れたのは《紅き翼》――高速巡洋艦カレイジャスだった。

 

「な……!」

 

 同じように、リィンの行動に驚き窓に顔を近づけたエマとセリーヌが驚愕する。

 他の面々は首を傾げているが、反応したオリエは何かがそこにいると確信している様子だった。

 

「霊的迷彩……おばあちゃんの防護魔術?」

「はは、姿を見せないのは失礼だが、セントアークの住人を騒がせるわけにはいかないからね」

「えっと、リィンさんにエマさん。一体何が……」

「カレイジャスが、今この上空を飛んでいるんです。少しお待ちください、今皆さんのARCUSと連動しますので……セリーヌ、手伝って」

「ったく、相変わらずロゼは秘密主義なんだから!」

 

 ぷりぷりと怒りながらも、エマとセリーヌの魔術が展開すると同時に、窓から上空を見上げていた一同の目にカレイジャスが映る。

 大騒ぎになる会議室。

 当然、外にいた護衛や使用人達が何事かと不安になるが、フェルナンがとりなすことで落ち着きを取り戻した。

 

「エマ君達の予想通り、ローゼリア殿からの連絡と共に結界術を貼ってもらってね。使い切りという不便さはあるが、一時的にステルス機能を持たせることが出来るんだ」

「本人は因果律操作の応用と言っていたが、実際に目の前で正規軍や貴族連合の飛行船を素通り出来たのは保証する」

「お姫様を迎えに行くんだ、それなりのものを用意して行くのがマナーだろう?」

 

 リィンの脳内に、ウインクしているオリヴァルトの顔が浮かぶ。

 実際そうしているのだろう、と確信出来る楽しげな声だった。

 

「わかりました、お願いします。一緒にエマ達やエリゼにアルフィン殿下を連れて行っても構わないでしょうか?」

「当然さ、姉や友人の心配をする少女を放っておくつもりはないよ」

「感謝します。エマ、早速だけど構わないか?」

「……会議、まとまったといえまだ話すことはたくさんあるんですけど……」

「ヴィータさんが待ってるぞ?」

「だから、行かないわけにはいきませんよね」

 

 リィンの発言を予想していたように、困ったような笑みを浮かべるエマ。

 なんだかんだ姉に会えるのは、エマとしても嬉しいのだろう。

 

「こちらのことは任せておきなさい。リィン君、君は君が思うままに動くといい。巡り巡って、それが一番の成果を出しているのだからね」

「ありがとうございます、ハイアームズ候。ユーシスはどうする?」

「いや、俺はまだ話すこともあるから残ろう」

「僕も付いていきたいが、邪魔しかしなさそうだからな……悔しいが、任せるぞシュバルツァー」

 

 最後にリィンはセドリックに目を向けるが、彼もまた静かに首を振った。

 

「カレル離宮への突入に関して、詰めておきます。アルフィン、こちらは僕がやっておくから、安心して行って来てよ」

「セドリックだと不安……」

「なんでさ!」

「あの、アルフィン殿下。一応セドリックも成長してますので……」

「うふふ、知ってますわクルトさん。弟をよろしくお願いしますね」

 

 どうやらアルフィンの茶目っ気が出たらしく、先程崩れ落ちていた印象から心配していたセドリックが憤慨する。

 それを宥めるクルトを見て苦笑しながらも、リィンはテスタ=ロッサにもどうするか聞いた。

 

「……我ハ後デ構ワナイ」

「テスタ=ロッサ?」

 

 それきり黙ってしまうテスタ=ロッサ。

 リィンは自分に向けられるテスタ=ロッサの複雑な感情を察するが、今まで自分がテスタ=ロッサにしたことを思い出せば黙るしかない。

 その微妙な沈黙を埋めるように、クルトがリィンに話しかける。

 

「リィンさん、《ギアス》を兄に渡しておいてください。あ、でもこれは元々リィンさんのでしたね……申し訳ありません、まるで自分のもののように」

「気にするなって。もうクルトに譲渡したようなものだし。でも、預かるよ。ちゃんとミュラーさんに渡しておく」

 

 うなずき合うクルトとリィン。

 同行メンバーが決まったことでリィンはエマに目を向けた。

 

「では、直接カレイジャスへ飛びます……!」

 

 宣言と同時に、リィン達の足元に転移陣が生まれる。

 五つの光は線となり、セントアーク上空へと飛んでいった。

 

 

 カレイジャス三階にある会議室。

 そこには今後の内戦の行方を決定付ける話し合いが行われようとしていた。

 リィンはミュゼとヴィータだけを招待する予定だったのだが、そこにさらなる来客を迎えることとなる。

 

「まさか迷彩船とは……事前に連絡が回っていたからいいものの、深淵殿が気づいた時点で迎撃準備を整えても良かったのですがね?」

 

 不敵な笑みを浮かべるのは、西部戦線の要にして貴族連合の総大将オーレリア・ル・グィン。

 ミュゼとヴィータの様子からリィンの介入を察したオーレリアは、即座に自分もそこに加わるよう手を回した。

 前線をウォレスに任せ、ここに来ていることをマテウスに進言すればまた違った展開が生まれたかもしれないが、オーレリアはそれを彼らがするとは思っておらず、オリヴァルトもまたする気はなかった。

 

「さて、ミルディーヌ様から話は聞いている。何やら、この内戦を終わらせるためにこの方を連れ去ろうと言うのだな?」

「ええ。俺たちの作戦にミュゼは必要不可欠です」

 

 先手の火花がリィンとオーレリアの間に生まれ、散る。

 本来ならば友人や姉との再会からの交渉へ移行するはずだった会議室は、打って変わって戦場の様相を呈していた。

 それを静かに見守る一同。

 戦力、という点ではオーレリア達が不利な状況だ。

 なにせここはカレイジャス。

 あちらからすれば敵地へ乗り込んでいるようなものだ。

 己と五分以上に渡り合うアルゼイドの師、ヴィクターがいる時点で武器を用いた戦いはない、と断言出来るだろう。

 

 本来の目的を考えれば、無理強いも可能かもしれないが、作戦決行直前に痛い出血を強いられることも確実だ。

 強引に進めれば勝てるが、今後の作戦には参加出来ないといった危機を孕んだ会談。

 それが、今回のカレイジャスでの交渉だった。

 

「ミルディーヌ様や魔女殿は、納得されているのですか?」

「それは……」

「私はリィン君の発言次第、かしら。と言っても、かなり自信ありげなようだけど」

「ええ。ヴィータさんの幻焔計画をつつがなく決行出来ると思ってもらって構いません」

 

 ぴくりと反応するヴィータ。

 クロウのこともあり、結社の面々もクロスベルの事件で振り回される中に投げられた言葉は魔女の興味を惹くには十分だった。

 

「ひとまず、そちらから良いですか?」

 

 無言で頷くオーレリア。

 ミュゼ側の主導権は、どうやらオーレリアへ切り替わっているようだ。

 どこか申し訳ない、といった表情を浮かべるミュゼに安心しろと言わんばかりの笑みを浮かべながら、リィンはヴィータへの説明をする。

 と言っても、彼女に説明するのはオルディーネを核として煌魔城顕現のことだ。

 その裏で進めている真の計画の前フリ、騙し討ちのためなのだが。

 

「相克の試し……本来なら蒼と灰で行われると考えていたようですが、この作戦なら金と灰で行わることになる。

 俺はそれで構いません。むしろ、ルーファスさんを打倒出来れば内戦の終結に一歩近づきますからね」

「………………」

 

 リィンの説明に、ヴィータは思案顔だ。

 いくら根っこが《魔女の眷属(ヘクセンブリード)》といえ、今は結社ウロボロスの使徒として悪女ムーブをこなしてきたヴィータだ。

 リィンの言葉にある裏を察しているのかもしれない。

 だが、それを感じても問題ない。

 ヴィータが取れる選択肢が少ないことが問題なのだ。

 今のままでは、蒼の調整に手間を取られるだけで内戦が終わる。

 幻焔計画の達成こそ主命とするヴィータにとって、与えられたチャンスであろうと無視することは出来なかった。

 

「シュバルツァー、中々に大胆なことを考えたな」

 

 ここでオーレリアが口を開く。

 リィンにとって問題なのは彼女だ。

 何故ならば、オーレリアが戦う理由は貴族の行く末ということもあるが武勲を求めている面もある。

 ようは内戦をただで終わらせることなど、彼女にとっては無視出来ないのだ。

 

「そなたも知っているだろうが、この戦いで鉄血宰相殿は我ら貴族を殲滅せんとする勢いだ。こちらとてただ滅ぼされるわけにはいかぬ」

「承知しています」

「仮に煌魔城を呼び出し、我らの総参謀殿と宰相殿を行動不能にしたとして、内戦が終わったとして、《革新派》と《貴族派》の溝は深まるだけだ。ならば、あるのか? シュバルツァー。あのギリアス・オズボーンの怒りを鎮めるものが」

「ええ。ギリアス・オズボーン――父の、本当の目的を俺は知っているからです」

 

 ギリアス・オズボーンを父と呼ぶリィンに、オーレリアは動揺を見せない。

 あるいはミュゼやヴィータから事前に聞いていたのか。

 どちらにせよ、主題は別だ。

 

「黒の史書――魔女殿なら聞いたことがあるかもしれないが、宰相殿と父はそれに沿って帝国を動かしている。

 ようは宰相殿は父の意に沿っているとも言える。――ルグィン伯、皇帝から言葉を賜るのであれば、その剣を止めざるを得ないだろう?」

 

 ここでオリヴァルトが動く。

 オーレリアの帝国への忠誠心は決して低いものではない。

 ミルディーヌを敬称で呼び、敬っているのもその一例であろう。

 

「つまり、第三者、《皇族派》の総取りを目論んでおられると。なれば、目的は皇帝の奪還でしょうか」

「話が早い」

「オーレリアさんが下手に戦いをやめないのは、貴族を残すため。正規軍が勝っても、おそらく粘りに粘って交渉へ持ち込む準備もしていたのではないですか?」

「フフ、聡いなシュバルツァー。その通りだ、仮にこの内戦が我らの敗北で終わったとしても、私はこのジュドー海上要塞に立てこもり、戦うつもりだ」

「ですが、父の動きが皇帝の代理であるならば、その皇帝が貴族に対しての言葉を送れば執り成しは可能では?」

「異論はありません――我らが敗北すれば、ですが」

 

 その言葉に空気が変わる。

 《黄金の羅刹》の異名を持つオーレリアの覇気が、オリヴァルト達の提案を受け止めた。

 

「未だ内戦の結末は示されていない。このまま我ら貴族連合が勝利し、帝国を支えていくという選択肢も残されているではありませんか」

「……そのために民衆に犠牲を強いるのか?」

「戦争とはそういうもの。どれだけ消耗を少なくしようと被害は出るものです。ならば二度とこのようなことが起きないよう、明確な決着を付けておくべきではありませんか?」

「正規軍も貴族連合も健在なうちに、皇帝が言葉を投げても勝手な解釈をして取り合わない、と」

 

 無言で微笑むオーレリア。

 それはリィンの発言が合っているのだと後押ししていた。

 

「ルグィン伯」

「失礼、ミルディーヌ様。貴女とてわかっておられるでしょう? 今の鉄血宰相殿とは、雌雄を決する戦いでなければ蹂躙されるだけだということが。生半可な交渉が通るとは思えませぬ」

「なら、俺が父さんを説得します」

 

 力強く、リィンは告げる。

 

「父の怒りに自分が関わっているのであれば、それを正すのは息子たる俺の役目でしょう」

 

 凛々しくも、どこか嬉しそうな笑みを浮かべるリィン。

 父と慕う自分の気持ちが一方的なものでなく、オズボーンからも確かに息子への気持ちもあるのだと再確認出来たからだ。

 

「その上で、オーレリアさんもガレリア要塞に来てください。敗北を認めなければ止められないというのであれば、そこで決着を付けましょう」

「ほう」

 

 それは、決闘の誘い。

 ミュラーですら飲み込まれる羅刹の覇気に、リィンは真っ向から立ち向かう。

 

「私が総参謀殿に此度の計画を告げると考えないのか?」

「それは、難しいのでは?」

 

 そう言って、リィンはヴィータを見る。

 自分がリィンの計画に乗る道しか残されていないことを察しており、そのためには余計な邪魔をされては困るとその頭脳が答えを導いていた。

 故に、そのヴィータの表情から情報がルーファスに届くことはない(因果律操作)と察したオーレリアは苦笑をこぼした。

 

「前準備段階でこの場を引くのは決まっていたか」

「オーレリアさんなら、ここから反撃できそうですけどね」

「それは、私がこの後動けなくことと引き換えであろう。そうなれば先の結末は言わずともわかる」

 

 実際、ヴィータまでもリィン達に付いてしまえばヴィクターを引き離すのが手一杯だろうとオーレリアは考える。

 転移という瞬間移動を持つ彼女らに、自分とヴィクターだけを別の場所へ飛ばしてしまえば終わることだ。

 抵抗はするが、その抵抗をヴィクターが止めてしまえば己は転移による妨害を受け入れざるを得ない。

 交渉による機会を得られたのは、オリヴァルトの温情と言えた。

 

 オーレリアがゆっくりと席を立つ。

 それは交渉が終わることを示していた。

 

「では、私も一度戻りましょう。この後のことも考えねばなりませんので」

「送り迎えくらいは私がするわ」

「このまま、内戦の終わりまで付き合ってくれるほうが良いのだが?」

「それは、ごめんなさいね。私と貴女の目的は違うの」

「ならば、戦場でまみえた時はその借りを返すとしよう」

 

 怖い怖い、とおののくヴィータをよそに、同じく立ち上がったリィンがオーレリアに手を差し出す。

 少し面食らうオーレリアだったが、ゆっくりとその手を取る。

 無言の握手に、オーレリアは少しだけ眉をひそめる。

 しばし黙っていたが、握手を交わした彼女は静かに引いてミュゼを見やる。

 

「ミルディーヌ様。ここまでのご助力、誠に感謝致します。その神算鬼謀がなければ、我が軍の被害はさらに広がり師マテウスの軍に遅れを取っていたかもしれませぬ」

「いえ……元々は私がそちらにお邪魔した身。これまでの保護を思えば、感謝の言葉しかありません」

「それは重畳。では、しばしのおさらばです」

 

 礼を告げ、足元に生まれた転移陣と共に消えていくオーレリア。

 彼女が本当にガレリア要塞に来るかはわからないが、リィンはおそらく来るだろうと予想する。

 やることがまた一つ……ニつ増えたが、やりきるだけだと心を改めてる。

 そしてオーレリアを転移させたヴィータに、無言でエマが抱きつきセリーヌの猫パンチがヴィータの頬に突き刺さる。グリアノスはそんなセリーヌを引き離さんとその爪を振るう。

 ヴィータもセリーヌも痛い痛い、と苦笑しながらその顔は微塵も痛がる様子はない。つまり、そういうことなのだろう。

 残されたミュゼが、静かにリィンへ目を向ける。

 リィンは笑みを浮かべると、その目を横へ――少女の友人たる二人へ移した。

 

「ミルディーヌ……」

「先輩……」

 

 奇妙な沈黙。

 今にも走り出しそうなのに、なぜか躊躇する彼女らに苦笑を浮かべながら、リィンはゆっくりとミュゼの背後に周り、優しくその背を叩く。

 

「ほら、行って来なさい」

「あ…………」

 

 弾かれるように、距離を詰めるミュゼ。

 だが急な動きは足元をもつれさせ、彼女の体が崩れ落ちそうになり――途方もない重圧を抱えていた華奢な体躯を、その友人達が支えた。

 

「ミルディーヌ……!」

「先、輩……!」

 

 やがて、同時に少女たちの目元から涙の堰が崩れる。

 抱きしめ合いながら、わんわんと泣く三人の姿を、リィン達は彼女達が泣き止むまでずっと見守っているのであった。




後半が駆け足になってしまいましたが、ガレリア要塞決戦に羅刹様参戦?
こういう真面目にならざるを得ない交渉回は難しいですね、コメディが足りない。

全部さんがクロスベルの裏で暗躍してる影響で結社の手が帝国に伸びなくなっている現状、魔女の皆さんやり放題です。
人形兵器?…なんかもう演出…かな…

次回は記念すべき200話、内戦編の最終決戦に入ります。
クロスベル編やⅡのルーレ編を超える話数でお届けする予定なので、のんびりお付き合いいただけると幸いです。

今週の呪術廻戦(早売りジャンプ)、東堂はホント気持ち悪いな!そりゃ頭無量空処になるわ!
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