はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

25 / 200
四月の特別実習、Ⅶ組B班との個別の話し合い。ユーシス編。
いつも誤字報告ありがとうございます。


フフフ、息子よ。オズボーン家は実は伯爵なのだ

「ユーシス、今日は時間あるか?」

 

 リィンはいつもの奉仕活動を終えたマラソン中、グラウンドにある馬術部へ足を運んでいた。

 白馬に乗ったユーシスはまさに貴公子といった出で立ちで、白いタイツにかぼちゃパンツでないことが残念だと語るオズぼんにそれは皇子様だと流しながらユーシスに話しかける。

 ユーシスはまさかリィンが来るとは思っていなかったようで、常に不遜から変わらない表情を驚きに変えている。

 突然のリィンに驚いたのか、ユーシスの白馬が少し騒ぎ出す。

 白馬を落ち着かせているユーシスを待っていると、馬術部の部員であろう女子生徒から声をかけられた。

 

「あれ、あなたリィン・シュバルツァー君?」

「そうだけど……君はユーシスの部活仲間か?」

「ええ、ポーラよ。よろしく。そっか、あなたが……」

 

 ポーラはポニーテールをゆらゆらと揺らしながらリィンを眺めている。

 勝ち気で物怖じのしなさそうな活発な表情に、値踏みをするような視線が混じっている。

 馬術部では何かした覚えはないので、リィンはそれを黙って受け入れていたがやがて観察に満足したのかポーラが笑みを浮かべた。

 

「噂じゃやばい人って聞いてたけど、全然そう見えないわね。ユーシスってば話を盛っていたのかしら」

「話?」

「ええ。ユーシスがなんだかとっつきやすくなった上に、先月に比べて張り切ってたからどうしたものかと思ったら、あいつって――」

「そこまでにしておけ。リィン、用があるならあちらで聞こう」

 

 会話を止めたユーシスが間に入り、リィンをグラウンドの隅へ押し出していく。

 ポーラは何か騒いでいるが、ユーシスが放っておけというのでその通りにしておく。

 

「それで、何用だ?」

「最初に言った通りだよ。少しユーシスと話したいことがある。立ち話もあれだし、どっかで話せないかと思ったんだけど……ユーシスも俺に話があるんだろう?」

「む…………」

 

 リィンの頭に浮かぶのは、先日マキアスによってフライングして聞いてしまった、ユーシスの生まれのことだ。

 公爵家でありながら妾腹の子というユーシスの出生を一方的に聞いてしまい、申し訳なさが溢れるため早く解消しておきたかった。

 

「俺は…………」

 

 そう言って黙ってしまうユーシス。

 リィンは気軽に言ったつもりだったが、どうやらユーシスの用件というのは彼の中で簡単に割り切れるものではないようだ。

 

(フフフ、息子よ。お前は悩みらしい悩みをすでに解消した身だ。そういった違和感が出るのは当然と言える)

(ゔぃーたト知リ合イニナッタコトデ、魔女達トノ繋ガリガ一気ニ増エタカラナ)

 

 いずれエリンには改めて顔を出したいので、ヴィータのことは言わずエマに話を通しておくとしよう。

 リィンが別のことを考えながら眉根を寄せて悩むユーシスを待っていると、第三者がそこに乱入してくる。

 

「ちょっとユーシス、何似合わないことをしてるのよ」

 

 馬からゆっくりと降りたのは、先程の女子生徒ポーラだった。

 おっかなびっくりと馬を扱う様子からは考えられない、強い口調でユーシスを咎める。

 

「いつもの偉そうな口調はどうしたのよ。物怖じしてるなんて、らしくないわよ?」

「口を挟むな、ポーラ。これは個人の問題だ」

「だから、らしくないから口を挟んでるんじゃない。個人の問題なのにあんたらしさが欠けた状態で話せるわけ? 全然いつものお坊ちゃん感がないわ」

「聞いていたのか」

「……………不可抗力よ。そこは謝るわ、ごめんなさい」

 

 頭を下げてそっと目を逸らすポーラ。

 ふとポーラの馬周りを見てみると、こちらへ走って来たかのような蹄の後を残している。

 つまり乗馬が上手くいかず、離れたリィン達のところへ近寄ってしまったようだ。

 

「乗りたてのお前に馬術は期待していない。気にするな」

「んなっ」

「つまり、初心者なんだからそういうこともあるだろう、気をつけろってわけか」

「フン」

「わ、わかりにくい……」

 

 ユーシスの口調は尊大なものだが、本質を見抜く観の眼の前では彼の気遣いがよくわかる。

 リィンは勝手にユーシスの過去を聞いてしまった謝罪も込めて、ポーラにフォローする。

 

「ユーシスは口調に気をつければ、実は人一倍優しいぞ。怒るのはわかるけど、少しだけ言葉を反芻してから口を開けば、きっと出る前に言おうとしていたことと変わるはずだ」

「リィン、勝手に代弁するな」

「否定はしないんだな」

「どうでもいいことだ」

「むぅ」

 

 ジト目でユーシスを見るポーラだが、その程度で態度が収まるユーシスではない。

 このままでは埒が明かないと判断したリィンはいっそオカルト部でも借りようかと思ったが、ポーラのほうからこんな提案をされた。

 

「秘密の話し合いなら、街道に行って馬を走らせながらすればいいじゃない。リィン君は馬に乗れる? 乗れなくても、ユーシスならリィン君を後ろに乗せて走らせるくらい余裕だから」

「おい、勝手に決めるな」

「ウジウジと悩んでる貴方は張り合いがないんだから、さっさと元に戻って頂戴。それでどう?」

「あー、ああ。一応馬には乗れるから問題ないけど、肝心の馬がないぞ?」

「それならこの子に乗って。ノルドから来た馬だから、脚は保証するわ」

「お前こそサボりか」

「他の片付けはしておいてあげるって。ほら、さっさと行って来なさい。リィン君、よろしくね」

 

 そう言ってポーラはリィンに馬を預けてくる。

 リィンとしては異論もないのでうなずき、ユーシスに目を向けた。

 

「俺は構わないぞ。ユーシスはどうする?」

「……………ここまでお膳立てされて断るわけにもいくまい。あちらの門から街道に出られる。遅れるな」

 

 そう言ってユーシスは白馬に跨って先行する。

 それでも歩調がゆっくりな辺りにユーシスの気配りが見て取れた。

 

「よし、っとと。少しの時間だけど、よろしく頼むぞ」

 

 ポーラから借り受けた馬を駆り、リィンはユーシスの後を追いかけた。

 

 

 馬術部の常連コースなのか、ユーシスが駆る白馬、シュトラールは迷いのない足取りで街道を進んでいく。

 リィンもしばらく馬を走らせ、慣れた頃を見計らってユーシスに並走した。

 ポーラに発破をかけられたものの、ユーシスの感情は未だに整理がついていないと判断したリィンは、自分の用件から先に済ませることにした。

 最悪、それだけ告げて今日はさよならしても問題ない。

 

「ユーシス、先に謝っておくな。ごめん」

「なんのことだ?」

「お前の出生のことを、ユーシスの口からじゃなくて人づてに聞いてしまったんだ。事故みたいなものだったといえ、勝手に聞いてしまったことに違いはない。だから、ごめん」

 

 馬の足を止め、こちらに振り返ったユーシスに頭を下げる。

 リィンの鍛え抜かれた平衡感覚なら手綱を離していても問題ないが、歩きながら謝罪というのは格好がつかない。

 ……返事はない。

 沈黙が会話を埋め、まだ暖かな陽気を持った光が二人に降り注ぐ。

 

「そうか、副委員長殿――マキアスか」

「知ってたのか?」

「いや、自業自得だ、気にするな」

「気になるから教えてくれ」

「貴様という奴は……」

 

 呆れながらも、ユーシスはリィンに自分の出生を教えたのがマキアスと推測出来た理由を語る。

 

「単純明快だ。お前がハイアームズ侯の館で体を休んでいる間、俺はB班の皆に自分の出生は自分で伝えておくと言った。マキアスはおそらく、俺なら変に遠慮せずにさっさと用件を告げていたと思っていたのだろう。……フ、当の本人は予想以下の存在だがな」

 

 自嘲の笑みを浮かべながら、ユーシスはシュトラールを歩かせる。

 リィンも慌ててその後を追った。

 横に並ぶと、ユーシスはどこか自棄になるように言葉を連ねる。

 

「俺はお前に嫉妬していた」

「え?」

 

 リィンは思わず声が出た。

 妾腹の子といえユーシスは公爵家の出身であり、男爵家の嫡男に加えて浮浪児のリィンに何を妬むことがあるのだと。

 

「生まれからして貴族という身分はどうしようもない。ならば、自分に誇りを持つこと……兄上から教えられた言葉だ。俺はそれに従い、〈貴族の義務〉を己に律してきた。だが、それはあくまでアルバレアとしての自分であり、個人のユーシスはただ一つ、家族と普通に過ごしたかっただけなのだ」

 

 母が病死し、公爵家に引き取られたユーシスに待っていたのは家族としての情ではなく、ただ妾が産んだからという理由で引き取られた義務だけのもの。

 それは兄のように思っていた相手の息子を預かった、シュバルツァー夫妻とは真逆のもので。

 

「だが父は俺を見ることはせず、距離を置くばかり。そんな俺にとって、貴族の教えを施してくれた兄は母を亡くして以来に見えた希望だった。そんな兄も最近は気軽に会うことが出来ない。……そんな折だった。兄上がお前に興味を持ち、俺に調査するよう言付けるようになった」

 

 リィンはその告白に目を丸くする。

 ルーファス・アルバレアと言えば貴族界の貴公子とも呼ばれ、アルバレアの後継者に加えてトールズ士官学校の理事長の一人でもある人物だ。

 そんな人が自分に興味を持っているなど、想像の埒外だった。

 けれど、今のリィンにはその思惑に心当たりがあった。

 

「騎神か」

「ああ。どうやら兄はそれに深く興味を持っているそうだ。だからお前の調査を頼んだのだろう。おそらく、そういう意味で兄は俺のことなどもう――」

「だったらユーシスも騎神を手に入れたらいいんじゃないか? それを渡すなり、自分で動かしてお兄さんの力になるなりすればいい」

「何……だと……?」

 

 目を見開くユーシスに、リィンはベリルから聞いた騎神の試しの再試行について教える。

 条件はまだ不明だが、残った騎神の起動者になる方法がある、と。

 

「ま、待て! そもそも灰の騎神というのは、元々あの旧校舎に安置されていたからこそ、なのだろう? 影も形もない騎神を呼び出すことなど……いやそもそも騎神とは他にあるのか?」

「全部で七体あるみたいだな。ベリルが提唱したのはむちゃくちゃな理屈だけど、可能性はあるんじゃないかって思ってる」

「なぜ、そうまで言い切れる」

「ベリルのことを信頼しているからだよ。ユーシスとルーファス卿はそれよりもっと近い、家族なんだろ? だったら俺がベリルに抱いてる感情より、ずっと確かなものじゃないか。ま、友達が家族に劣るとは言わないけど」

 

 家族の絆より友情が上と言わないのは、リィン自身シュバルツァー家の家族のことを友人とは別に大事に思っているからだ。

 家族を証明することに血の繋がりなど必要ないと、リィンは身に染みてよく知っている。

 

「話を戻すけど、騎神のことでもダメなら、俺に構えコノヤローって言えばいいさ。だって兄弟なんだから。兄の無茶振りに弟が応えてるって言うならその逆も然り。ユーシスだって甘えればいいと思うぞ?」

「だが、そんなことは貴族の――」

「ユーシス自身が言ったじゃないか。アルバレアとユーシスは違う、って。ルーファス卿に甘えるのは、ユーシス個人の願望なんだから矛盾しない。ルーファス卿から〈貴族の義務〉を教えてもらってそれを大事にするあまり、お兄さんの前では個人としてのユーシスじゃなくて、貴族としてのユーシスを優先してるんじゃないか?」

「……………っ、お前は――――」

 

 思いもよらなかった、という驚愕を顔に刻むユーシス。

 リィンがユーシスを見ていて思ったのは、常に貴族たらんとした毅然とした姿だ。

 本人が望んでそうしているのだから、それについて口を挟むつもりはない。

 だがルーファスからの要望でそれが崩れかかり、個人の願望が膨れ上がって来ていることをリィンの観の眼は見抜いていた。

 だからリィンは言うのだ。

 

「奉仕には報酬を。家族としてのわがままを受け止めてくれるのに建前が必要なら、騎神の情報とか持っていけばいいさ。貴族のしがらみがあっても、対価があればお互いに言い逃れは出来ないだろう?」

「…………俺は…………」

 

 ユーシスは彼が持つ大きな力、アルバレア公爵家という権力を己の私欲に決して使わぬと高い理性でそれを律して来た。

 相応に鍛え抜かれたそれが、かえって家族同士の触れ合いさえ邪魔をしている。

 それがユーシス・アルバレアの長所であり短所でもあった。

 故にユーシスはそれでも悩む。

 

「兄上は、俺がそんな気軽に接していい相手じゃない」

「家族なのに?」

「俺とは何もかも違う。次期公爵が持つに相応しい全てを持っている」

「なら頼れる弟になればいいさ」

「努力はしている! だが、遠いのだ……」

「それを補うための、騎神だろう? ヴァリマールは流石に渡せないけど、他の騎神をユーシスが手に入れて、渡すなりそれを使ってルーファス卿を助ければいい話だ。って、さっきも言ったな。ともかく、この情報はユーシスが頼れる弟として見てもらうチャンスだろ?」

「施しのように受け取れと?」

(うーんこの面倒くささ)

(フフフ、仕方あるまい。男爵家と公爵家ではその身分に絡まる鎖と重責は比ではないからな。それを外してやるには、自分でなんとかする他ないのだ。だが――きっかけを与えることは出来よう)

(ツマリ、勝負ダナ?)

 

 オズぼんのアシストにヴァリマールが応える。

 リィンはそこまで聞いて、彼らの言いたいことに思い至った。

 

「施し? まさか、それは俺に勝ったらの話だ」

 

 言いながら、リィンは馬を反転させる。

 足を止めて振り返ったユーシスに、リィンはトールズ士官学校へ指をさした。

 

「競争だ。今から馬を走らせて、先に学院に戻ったほうの勝ち。俺が負けたら、さっきの情報はユーシスのものだ。それを持ってルーファス卿に渡せばいい。俺が勝ったら、騎神のことは黙っててもらう」

「リィン…………」

「逃げるか?」

「…………言うではないか。俺に馬術で挑もうなど」

「俺も一応馬の扱い方は知ってる。それに、今のユーシスなら勝てる可能性は高いからな。そんな心情でまともに勝負出来るのか?」

「フン、言われるまでもない。その挑発に乗ってやろう」

 

 ユーシスは意を決した瞳でリィンの横に並ぶ。

 それを見届けたリィンは、ロア・ヴァリマールを簡易発動させて竜の手を顕現させ、手頃な石を浮かせる。

 少し馬が動揺したが、これくらいはすぐに落ち着かせる。

 

「今からこの石を投げるから、落ちた時からスタートだ。それでいいな?」

「それは構わないが、自然とおかしいことをするのを止めろ」

 

 すでに手足の延長としてロア・ヴァリマールを使っているリィンに、ユーシスが呆れるのは当然だった。

 伝承に謳う騎神にまつわる力を、こうも気軽に使われてはありがたみというものを感じることが出来なかった。

 

「行くぞ。三、ニ、一……!」

 

 リィンが石を放る。

 適当に投げたそれを後ろに放り、音が鳴ったことを確認した二人は同時にスタートを切った。

 先手を取ったのは意外にもリィン。

 馬は繊細な生き物であり、ユーシスの愛馬シュトラールは主の動揺を無意識に感じ取って遠慮しているのではないか、と思ったがその通りだった。

 リィンの目論見は成功し、リードを広げることに成功する。

 馬上の振動は慣れていなければ一瞬で落馬する。

 けれど鍛えられたリィンのバランス感覚は、競馬場の騎手に決して劣ることはない。

 対してユーシスは、突然ふっかけられた勝負と報酬に心中が穏やかではない。

 そもそも他人が所有するものを盗み伺うような真似がユーシスには辛く、兄からの要望でなければきっと行わなかった行為だ。

 だがルーファスを尊敬するユーシスに断ることは出来ず、忙しい兄が何より優先してその報告を待っている事実が彼の律した心に揺れを生じさせた。

 加えて特別実習での一件が、ユーシスの心に深く影を落としていた。

 様々な感情が揺らぎ、飽和した先に生まれたのは――叫びだった。

 

「リィン・シュバルツァー!」

「!?」

 

 ユーシスがリィンに追いすがる。

 振り向いた先にあるその顔は貴公子然としたユーシスとは思えないほど必死で――しかし今まで見た中で一番彼の感情が現れていた。

 

「俺は、お前に感謝している!」

 

 ユーシスがリィンに並ぶ。

 リィンも必至で手綱を握り、離されないよう付いていく。

 

「嫉妬も嘘ではないが、それ以上に礼が言いたい! お前がいなければパルムでの出来事を俺は知らなかった。解決出来たのはひとえにおまえのおかげだ。今日は、それが言いたかった!」

 

 追いつき、追い抜き、二人を乗せた馬は疾駆する。

 その足に、騎乗者の心の叫びを乗せながら。

 

「だが、この勝負に勝つのは俺だ! 俺は、兄上を助ける。アルバレアにおいて自分の存在を作れた、その恩返しをしたいからだ!」

「そうか、だからってふっかけておいて負けるのは嫌だし、一応これシュミット博士にも言ってなかったから負けてられないな!」

「お前はそういうところを直せ! 俺たちB班がパルムでS評価を取れなかったのは、お前のそういった独断専行のせいなのだからな!」

「勝つのは俺だから、言って構わん!」

「ふざけた男だ!」

「俺はいつでも大真面目だ!」

 

 そして大真面目に周りを振り回すのがリィン・シュバルツァーという男であった。

 

「知っている!」

 

 だからこそ、ユーシスは横で走る男に負けたくなかった。

 学院への門が迫る。

 横並びで走る少年達の意地の張り合いを制したのは――ユーシス・アルバレアだった。

 

「くっはあ……」

「っぜっぜっぜっぜ…………」

 

 うなだれるリィンに、ユーシスは滝のような汗で濡れた髪を張り付かせ、息を欲して喘ぎ続ける。

 やがて体を起こすことも億劫となって馬上で倒れた。

 落馬するかと思われたが、シュトラールが上手くバランスを取りユーシスを落とさず運んでいく。

 その姿を認め、リィンは馬の首に顔を預けるユーシスに並んだ。

 

「シュトラールか。良い馬じゃないか。それは貴族の義務じゃなくて、ユーシスが大事に育てた相棒なんだろう? だったら、これはユーシスが勝ち取った報酬だ」

「情、け、を、かけ、た、の、か?」

「俺が余裕なのは単純に体力差。でも勝ったのはユーシスなんだから、さっきの騎神の試しのことをどうするかはユーシスが決めてくれ。それじゃあ、また明日」

「ま、待、て……………」

 

 その声は届かず、リィンはさっさと馬を操作して去っていってしまう。

 ユーシスは手を伸ばして彼を止めようとしたが、強引に体勢を崩したせいで受け身を取ることが叶わず落馬してしまう。

 

「ちょ、ユーシス!?」

 

 ごろんとグラウンドに大の字で倒れたユーシスにポーラが駆け寄る。

 ポーラはユーシスが激しく体力を消耗していることに気づき、少し逡巡してから彼を起こして肩を貸してやった。

 

「…………………ポー、ラ、か」

「一体何をしてきたのよ……もしかして、リィン君に乱暴でもされたの?」

「馬鹿を、言う、な。奴は、そんな、こと、しない。単に、競馬を、して、きた、だけだ」

「あーごめんごめん、喋らなくていいから今はちょっと適当なところに寝かせるわよ」

 

 ユーシスは声を出すのも辛くなったのか、無言でポーラを睨むが彼女は構わずユーシスを部室まで運んで適当なソファーに寝かせる。

 そのまま寝入ってしまいそうだったが、意地で耐えた。

 

「あんたがそこまで必死になるなんてね……それで、勝負はどうだったの?」

「勝、った」

「そ。なら良かったわね」

「な、に?」

「だって、あんた嬉しそうじゃない」

 

 言われて、ユーシスは己の口にゆっくりと手を運ぶ。

 だがすでに口元の緩みを隠しても無意味だと気づいたのは、ポーラの笑い声が部室に響いてからのことだった。

 一応ベアトリクス教官呼んでくるわね、と言って部室を後にするポーラの後ろ姿を眺めながら、ユーシスは天井を見上げる。

 

「勝った、か……………」

 

 ふと、無意識に握られた拳に気づく。

 リィンに負けたくない、というⅦ組B班共通のそれに、ユーシスは奇妙な達成感を覚えていた。

 ユーシスはリィンから預かった騎神の試しをどうするか、頭を悩ませながら目を閉じる。

 緊張の糸が切れ、我慢していた睡眠欲が容赦なくユーシスに襲いかかる。

 後に寝顔は案外かわいいのね、とポーラから言われるそれは、遊び疲れた子供のような面持ちを作っていた。

 

 後日、自由行動日にアルバレア兄弟が並んで歩く姿が見られることを今のユーシスは知ることなく、心地よい夢に浸るのであった。




ユーシスが騎神の試しのことを言ったのか言わなかったか、あえてぼかしていくスタイル。
馬がバイクに勝てるわけないので、馬同士で競ってもらいました。
でもどんな場所にも呼べば来てくれるシュトラールなら可能性あったかな…
ユーシスはポーラとなんかあるかな、って思ってたらⅢで何もなくミリアムルートまっしぐらだったので彼女とも絡みを。
ランベルト部長はその、すまない…口調が思い出せなかったのだ…
観の眼が地味に万能に活躍中。エセふわミント攻略に必須技能なだけはあります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。