はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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予告通り5月の特別実習編の準備回。
いつも誤字報告ありがとうございます。


フフフ、息子よ。今回は女難の予感だな

 今月もこの時間がやってきた、とサラは自室の机で絡めた指の上に顎を乗せながら一人悩んでいた。

 毎年恒例のような雰囲気を出すそれは、来週行われる、まだ実施二回目に過ぎない特別実習のことだ。

 一応、先月の段階から班分けは決めているし実習地も決まっていたはずなのだが、サラを悩ませるのは机に置かれた一枚の手紙だった。

 宛先はサラ。差出人は、かのオーレリア・ルグィンである。 

 そしてその内容こそ、サラがただでさえ頭の痛い問題に追撃を仕掛けるものであった。

 内容は挨拶を省略すれば、実習地の変更の旨である。

 本来の行き先を変更し、オーレリアが示す場所へ赴いて欲しいという要望だ。

 もちろん、いかにオーレリア・ルグィンが伯爵の位であり学院の卒業生であり、帝国でも類を見ない傑物の一人だとしても学院のカリキュラムに口出しする権利はない。

 実習のために色々と現地協力者の予定を抑えるなど、事前の準備というものがあって始めて行われる企画であるのだ。

 だがオーレリアはそれらを全て踏まえたうえで、なお手紙にこう記した。

 特別実習地を海都オルディスへ変更の上、リィン・シュバルツァーを編成に組み込んで欲しい、と。

 

「あいつったら、まったくとんでもない人に目をつけられて……」

 

 海都オルディスと言えば四大名門の一つ、カイエン公爵が収める領地にしてオーレリアが総司令を務めるラマール州にあたる。

 リィンを引き込みたいのか、それとも別の目的があるのかはわからないが自分のお膝元へ呼ぶ辺り、オーレリアのリィンへの興味の度合いを示しているようだった。

 そして、気になるのはある一文。

 

 ――シュバルツァーと雛鳥次第ではあるが、ある意味どんな特別実習よりも『今』の帝国を知ることが叶うやもしれぬ。

 

 黄金の羅刹にこうまで言わせる『今』の帝国、というものがサラは気にかかる。

 オーレリアは私欲もあるが、それ以上に学院のためを思っていることに違いはない。

 なら、乗ってみるのも手かもしれないとサラは考える。

 それも踏まえての手紙だと思えば、かの鉄血宰相ほどでなくてもオーレリアもまた政戦両略の見がある。

 オーレリアの手紙は、理事長であるオリヴァルト筆頭に学院長であるヴァンダイクにも届けられている。

 ヴァンダイクは相変わらずのやんちゃ娘だとこぼしていたが、彼女の才知を存分に知る一人としてサラに判断を預けた。

 オリヴァルトやイリーナ、ルーファスもまた同意している。

 あとはサラの気持ち一つなのだ。

 

「先月のあたしの判断は功を奏した……でも今回は片方の班と合わせて、そう気軽に往復はできなさそうだけど……」

 

 それでも、生徒の成長に繋がるものであれば。

 そう決めたサラは、オーレリアへの返事をしたためるため筆を手に取るのであった。

 

 

「リィン・シュバルツァー」

 

 呼ばれて振り返ったリィンの目に映ったのは、金髪の貴族生徒の一人。

 平民と外国人を見下した雰囲気を持っていた……はずのパトリック・ハイアームズである。

 パトリックは腕を組み、リィンに呼びかけた口を開かない。

 取り巻きの生徒も、そんなパトリックの行動を見ているだけだ。

 やむなく、リィンはこちらから話しかけることにする。

 

「何か用か? 俺は生徒会の手伝い中なんだけど」

「う、む。……実家が世話になったようだ」

「ん?」

「先月、サザーランド州で起きた一連の事件はこちらにも届いている。そのうえで、四月の頭のことも踏まえて、礼を言いたい」

「そのことか。でもそれはハイアームズ侯からもう礼を受け取ったぞ?」

「それでも、だ。自分自身で言わなければ意味がない。――感謝する。サザーランドの平穏を守ってくれて、ありがとう」

 

 そう言って頭を下げるパトリック。

 この行動に、リィンも含めた取り巻きも一様に驚いた。

 リィンからしても、パトリックは最初に浮浪児やら蛮族やらで自分やガイウスのことを罵ってきた嫌味な奴としか思っていなかったが、こうも素直に頭を下げられるのもむずかゆい。

 それでも彼が誠意を見せてくれていることに変わりはない。

 リィンは胸に手を当てて、パトリックの感謝を受け取った。

 

「こちらこそ、勝手にその気持ちありがたく受け取らせてもらう」

「それと、だ。一つ忠告したいことがある」

「他にあるのか?」

「ああ。――何やらカイエン公が色々画策しているらしい。もしどこかで出会うことがあれば、気をつけろ」

「カイエン公……?」

(フフフ、息子よ。海都オルディスを治める四大名門の一角だぞ)

(いや、それは知ってる)

 

 リィンがいぶかしげだったのか、リィンからすればまるで接点のないカイエン公の名前がここで出ることが不思議だったのだ。

 パトリックもリィンのそんな疑問を察したようだが、深くは言わなかった。

 

「とにかく、用件はそれだけだ。これで失礼する」

「パトリック、どうして俺にそんなことを?」

「礼と言ったが、それ以上に貴様は何やら貴族と因縁を作りやすいようだからな。勘、といったところだ」

 

 それだけ言って、パトリックは去っていく。

 取り巻きも合わせて視界から遠ざかっていくパトリックを見送りながら、リィンはぽつりとつぶやいた。

 

「あいつ、意外にいいヤツだったのか」

(フフフ、息子よ。全てのきっかけである私のおかげだな)

(あーはいはい、ありがとありがと)

 

 オズぼんの茶々を流しながら、リィンはパトリックへの心象を改めて今日もトリスタマラソンを始めていった。

 

 

 実技テストの授業を受けるべくⅦ組の面々が移動した先は、今日もグラウンド……ではなく、シュミットが待ち構えていた旧校舎であった。

 通い慣れたリィンとエマを除いた七人は旧校舎に来るのは入学式のオリエンテーション以来のようで、皆変化した空間やヴァリマールの本体に驚いていた。

 普段は積極的に話さないといえ、リィンの心臓に居るヴァリマールのことはⅦ組の全員が知るところである。

 その本体が美しい彫像品のような灰色の騎士人形ということもあり、見慣れぬ七人は揃ってヴァリマールを見上げていた。

 

「賛辞トイウモノハ、イツ言ワレテモ照レルモノダナ」

「いや、驚き通り超えてすごいと思うよ……」

 

 リィンを通して聞こえてくるヴァリマールに反応したエリオットの、しみじみとした声に七人が同意する。

 一様に驚き、畏怖を感じる反応だ。

 

「そうですよね、普通こういう反応ですよね」

 

 エマはまるで感慨の浮かばない、慣れてしまった境地に一人達観の吐息を漏らした。

 リィンはそんなエマを心配したが、加害者が被害者を気遣うそれになんともいたたまれない気持ちになる。

 それでも変わらず実技テストは行われるようだが、今回は戦術殻だけなく――

 

「ミルスティン、始めるがいい」

「はい」

 

 エマが魔導杖を構えると、魔煌兵を囲うように魔法陣が展開する。

 そして霊脈から呼び込んだマナが魔煌兵に注がれ、肥大化した上半身を持った最初の魔煌兵オル=ガディアがゆっくりと立ち上がった。

 

「今回、バレスタインが用意した戦術殻の他、レベルに合わせてそちらの魔煌兵とも戦ってもらう。シュバルツァー、おまえはこちらの手伝いだ」

「え、俺が?」

「普段戦闘データ担当といえ、サポートの授業もしていたはずだ。この場で見事発揮してみせよ」

「はい、わかりました」

 

 てっきりオル=ガディアと戦うと思っていたリィンだったが、逆にこういったサポートは新鮮だったので少し気分を浮かれさせながらシュミットの手伝いをしていく。

 

「今回、リィンとエマはこの魔煌兵を動かすサポートだから参加しないわ。二人の実技テストはまたいずれ、ね。さて、それじゃあせっかくなら先月の班分けからいきましょうか」

「先月の班分けってことは……」

「ケルディック班とパルム班ね。ケルディック班はエマがいないけど、三人で頑張って頂戴」

「わ、わかりました。二人とも、いけそう?」

「私とエリオットで遠距離主体、といきたいけどそうなるとガイウスが大変そうね」

「可能な限りは二人を守ってみせるさ」

 

 A班はガイウスを盾としたアリサとエリオットのリンクを主攻とする戦術に対し、B班はかなり気楽な様子だった。

 

「確かに大きいようだが、リィンに比べればなんら脅威ではない」

「そだね。むしろ図体が大きいだけ」

「奴のように攻撃を避けたり止めない分、楽と言えば楽だが防御を抜くのが大変そうだな」

「ラウラ君を主体とするべきだろう。フィー君は翻弄して、僕とユーシスは可能な限り二人のフォローとする」

「ん、問題なし。ラウラ、いける?」

「当然だ。リィンと思ってあれを切り裂こう」

 

 B班の様子にA班の三人は目を丸くする。

 マキアスとユーシスの和解は知っていたが、随分と四人揃って仲良くなっているからだ。

 その元凶であろうリィンを見るが、導力端末を前に難しい顔をしている。

 トールズを騒がせる問題児も、最新科学の前では形無しのようだ。

 

「はい、それじゃあまずA班から行くわよ!」

『イエス、マム!』

 

 実技テストの結果は、A班が評価B。B班はAというものだった。

 A班は倒しきったが時間がかかりすぎる、B班は内容こそ問題ないが、ラウラとフィー、マキアスとユーシスといった固定メンバー以外にもリンクを結ぶ応用が欲しかった、という評価がくだされる。

 その辺りはA班のほうが臨機応変にリンクを切り替えていたが、やはり攻撃力という点で劣るアリサとエリオットのコンビでは時間が一番のネックのようだった。

 ちなみに残った二人だが、リィンの一撃でオル=ガディアを崩し、エマの追撃からのアーツで終わったというシュミット教室での実績を聞いて、色んな意味で評価に値しない結果だった。A班は素直に称賛し、B班はさらなる研鑽を誓った。

 そして実技テストが終わると、今度は5月の特別実習の発表である。

 今月は、この組み合わせだった。

 

 A班:リィン、エマ、アリサ、エリオット、ガイウス。実習地は海都オルディス。

 B班:マキアス、ユーシス、ラウラ、フィー。実習地は公都バリアハート。

 

 班分けの発表に生徒達がざわつく。

 最初に反応したのはリィンだった。

 

「サラ教官、これって俺が移動しただけじゃないですか。エマと一緒なのは嬉しいですが」

 

 リィンの言葉にエマが軽く照れながらも、先の苦労を思って目を細めて口を閉じる。

 そんな表情の変化に、アリサは軽くエマの肩を叩いて慰めた。

 

「ええ、その通り。まだアリサ達はリィンのことそこまで知らないから、たっぷり味わって来なさい」

「な、なんですかその脅し文句……」

 

 アリサが引きながら言うが、リィン・シュバルツァーを知ったB班は一同揃って頷いている。

 

「いや、その通りとしか言えないな」

「うん、こればかりは実際に見てくれとしか」

「奴の奔放さは、油断すればすぐ持っていかれるぞ」

「エマがいるから、むしろ先月より元気になったりして」

 

 散々な言われようだった。

 

「サラ教官、私もA班でいいのでしょうか? B班はどちらかと言えばアーツを得意とする方がいないようですが……」

「ええ、そこは心配ないわ。――今回、私はB班のほうへ割く時間が多くなるから、私は同行できないと考えて」

「え?」

 

 思わぬ内容に生徒達が驚く。

 サラは腕を組み難儀な顔をしながらエマの疑問に答えた。

 

「A班は元々セントアークの予定だったのだけど、ちょっと実習地が変更になってね。その影響で私のフォローが難しくなったのよ」

「確かに、オルディスとバリアハートでは真逆の方角ですからね」

「その分、あちらで協力者を用意しているわ」

「協力者?」

「ええ、と言っても実習を手伝ってくれるってわけじゃないわ。単純に監督見届け、といったところかしら。ようは何か起きた時にフォローしてくれる責任者」

 

 楽しみにしてなさい、とサラは言うがリィンを除いたA班が先行き不安になるのは仕方のないことだった。

 

「あとリィン、あんたは今回エマ達のフォローに徹しなさい。戦力差もあるからね」

「え?」

「シュミット教室のデータ見せてもらったけど、あんたが率先してたら他のみんなの経験に繋がらないもの。魔獣との戦闘に関しては応援でもしてなさい」

「応援って言われても……」

「旗でも振ったらどう? なーんて」

「ああ、その手がありましたか」

「え?」

 

 サラは純度百パーセントの冗談で言ったことに対し、それは名案だと言わんばかりにリィンは笑顔を作る。

 サラは自分が早まったことを言ったと気づくも、やる気になってしまったリィンを止めるのは不可能だった。

 サラはゆっくりとエマの肩に手を置き、つぶやいた。

 

「リィンのフォロー、よろしく♪」

「サラ教官!」

 

 気の毒に、という視線がエマに集まるのも、仕方のないことだった。

 

 

 特別実習当日。

 トリスタ駅に現れたリィンは早速A班の面々の頭を悩ませていた。

 

「リィン、それ……」

 

 代表してエリオットが指摘する。

 リィンは待ってましたと言わんばかりに手に持ったそれを掲げた。

 

「有角の獅子、トールズを示す真紅の旗だ。ヴァンダイク学院長に見繕ってもらった」

「だがリィン、流石にそれは持ち込むには大きすぎるのではないか?」

「大丈夫。ほら」

 

 そう言ってリィンはオズぼん経由で旗をしまう。

 その見慣れぬ行動に、アリサとエリオットは口を揃えて叫び、ガイウスもまた目を大きくして驚いていた。

 A班を遠く見るB班は、かつて自分達も辿った軌跡に目を細めていた。

 そんなリィンへの、歴戦のフォロワーとなってしまったエマは三人に語る。

 

「慣れますよ」

 

 その目は死んでいた。

 

「僕、今からすごく不安なんだけど……」

「私も……」

「大丈夫だ二人とも。確かに不思議なことかもしれないが、俺にとっては帝国自体が不思議に包まれたようなものだからな。何事もまず受け入れて、それから判断すべきだろう」

「ガイウス……」

 

 ノルドという自然と大地に包まれた環境で育ったガイウスから見れば、戦術オーブメントを始めとした導力車なり機械なりといったものは全て同一に見えた。

 これもその一端なのだろう、という判断は決して間違っていないのだが、逆に言えばリィンを人でなく現象扱いをしているのでは、と思い浮かんだエマは決してそのことを突っ込まなかった。

 迎える特別実習日、トールズ士官学院Ⅶ組A班・B班は互いの実習地へ赴くべく列車へ乗り込んでいく。

 海都オルディスへ向かう間、先月に比べれば人間関係に問題はなく和やかな会話を行いながら進んでいく。

 アリサ達も当初はおっかなびっくりリィンに接していたが、エマという永続の身代わりマペットによるフォローと、再び連れてきたセリーヌのアニマルセラピーによってそのメンタルを持ち直していた。

 目的地に付いたリィン達を、一人の少女が待っていた。

 メイド服に身を包んだ、リィン達よりも年下に見えるミント色をした長い髪の少女は笑みを浮かべながらスカートをつまみ、優雅な一礼でA班を出迎えた。

 

「Ⅶ組A班の皆様、ようこそおいでくださいました。私、皆様の案内を務めさせていただきます、ルグィン伯に仕える使用人のミュゼと申します。以後お見知りを」




ミュゼは公女衣装が一番好きです。長髪なのがギャップあっていい…
リィンが持ち込んだ旗は、閃の軌跡ⅠのOPのやつです。結局ゲーム中では見られなかったのでこちらでお披露目に。
今回もオリジナル路線を突っ走ることになりますが、楽しんでいただけたら幸いです。
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