はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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残りの要請と、二日目最後の舞台へ。
いつも誤字報告ありがとうございます。


フフフ、息子よ。五月の特別実習だ④

「本日の要請……ブリオニア島の調査?」

 

 リィン達はマヤやミュゼと共に宿で朝食を済ませて彼女の母親を実家に送り届け、何度も礼を言って頭を下げるマヤと別れた後にルグィン伯使用人の少女より本日の要請の書類を渡された。

 カジノへ行っていたこともバレていたのか、要請の内容にはいつもの手配魔獣に加えてラクウェルでの依頼も混ざっている。

 だが何より目を引いたのは、リィンもつぶやいたブリオニア島と呼ばれる場所のことだ。

 

「誰か場所知ってるか?」

 

 リィンがA班に聞いてみるが、誰も知らないようだった。

 そこにミュゼが口を挟む。

 

「遺跡島、と呼ばれる孤島ですね。島の裏手には100アージュ近くある巨大な像が存在しています。私も話を聞いただけで実物を見たことはありませんが……」

「調査と言われても、何を調べればいいのかな?」

「えーっと……特に指定はないな。ミュゼ、これはどういうことだ?」

「……噂話程度ですが、そこが猟兵の根城となっている、という話があります」

「え? でも、昨日街を回った時はそんな噂なんてなかったけど……」

 

 アリサは昨日の騒動に頭痛を堪えながら、街の住人と積極的に会話するリィンのことを思い出していた。

 だが思い返すのは旗を持ったリィンへの反応や、海都の日常の話が多くブリオニア島のことや猟兵のことなど話になかったはずだ。

 

「根も葉もない噂とは承知です。ですが火のないところに煙は立たない、領邦軍にそんな噂が入ってくるということは、何かがあるのではないか、と要請を出したのだと思われます」

「ふむ、オーレリアさんなら直接島へ行きそうな気がしないでもないけど」

「流石に総司令ほどの立場であれば、そこまでの自由はないのではありませんか? リィンさんではないのですから……」

 

 魔術の疲労も完全に抜けたエマが、言外にリィンに大人しくするよう言っているがそれを聞き届ける素直な耳はしていなかった。

 責任ある立場にあるリィンかあ、とエリオットが夢想しているが、すぐに首を振ってその考えを散らしていた。

 

「また、閣下は少しお忙しいようで、仮に海上要塞へ向かわれても対応出来ないかと思われます」

「昨日の伝言のやつか。聞いても?」

「残念ですが、許可なく伝えることは」

「それは当然ね。でも、そうすれば要請の報告はどうすればいいのかしら?」

「私が宿にいますので、そこで代理を務めさせていただきますわ。島へは導力ボートで片道三十分ほどかかるそうなので、時間的にもブリオニア島を最後にした動きのほうがよろしいでしょう」

「確かに往復で一時間もかかるならそちらのほうが効率的だな」

「なら、まず手配魔獣を倒してラクウェルへ向かうとしよう」

「セリーヌさんのことは私が面倒見ておりますので、皆様、行ってらっしゃいませ」

(……何故かしら。ミュゼって子を見てると体から力が抜けるような……)

 

 リィンの突然の訪問と魔女の里への転移、魔の森の捜索というインパクトのせいか、昨日の記憶が抜け落ちているセリーヌであった。

 その後、宿を出立したリィンはサブメンバーとしてオーダーを駆使してA班の手配魔獣討伐を補助したり、オルディスの街の依頼者の要請を終えてラクウェルへと向かう。

 ただ、ラクウェルでの依頼の途中でリィン達は不良に絡まれてしまった。

 仕方ないので、ロア・ヴァリマールを召喚して代表の一人に強制空中散歩を味わってもらって大人しくさせた。

 今回は真上から真下への急転直下の旅である。

 すでに気絶しているが、不良達がブラッドと呼んだ少年は、空を飛ぶ不思議な不良として貴重な体験が出来たことだろう。

 こいつやべぇ……と言いたげな不良達の輪を抜けて、さらに一人の少年がリィンに声をかける。

 

「よお、ブラッドをやったのはあんたか?」

「いや、俺は単にその子を遊ばせただけさ」

 

 金茶髪の少年はリィンより年下に見えたが、年の割に大柄でしなやかな豹のような体躯を持ったそれは士官学院生にも負けない凄みを感じた。

 

「友達なのかグループのリーダーなのか知らないけど、世話はしっかり見ておいたほうがいいぞ」

 

 そう言ってリィンは首根っこを掴んでいたブラッドを少年に突きつける。

 涙や涎といった顔中の穴から体液を流し、脱力した少年の体重を片手でブレなく持ち上げるリィンに、金茶髪の少年は息を漏らす。

 少年は気絶したブラッドの体を観察していたが、どこも怪我らしい怪我のない様子に軽く眉をひそめていた。

 

「てめぇ、一体何をした?」

「空を飛んでもらった」

「はあ? ふざけてんのか?」

「アッシュさん、こいつの言ってること本当なんです! マジやばいっすよそいつ!」

 

 その発言をきっかけに、リィンに恐怖した不良達が口々にアッシュと呼ばれた少年に意見する。

 アッシュはリィン達が同じ制服を着ているのを見やり、ハッと軽く悪態をついた。

 

「どっかの坊っちゃんか?」

「トールズ士官学院の生徒だ。今は特別実習って形で、ラクウェルでの要請を確認しようとしていたところでね。そこにこいつらが絡んできたから、怪我はさせずに大人しくさせただけだ」

「エリート共ってわけか……勉学ご苦労さんだな」

 

 斜に構えた物言いながら、アッシュは隙あらばリィンに何か仕掛けようとしている。

 それを承知しているからこそ、リィンはその場から動かずA班の面々、特にエマやアリサ、エリオットを守れる位置をキープしているのだ。

 一分の隙も見当たらないリィンに、アッシュは息をついてブラッドを周りの少年達に押し付ける。

 

「こっちが悪かったようだな」

「別に絡むなとは言わないけど、強引なのはよくないな」

 

 実際、ブラッドという少年はエマやアリサに目を付けたせいで空中散歩をしたとも言える。

 言葉で止まらなかったのだから、仕方のない処置と言えよう。

 

「だから、仲直りの握手としよう」

「!? ああ……これで手打ちとしとこうや」

 

 リィンはアッシュの手に己の手を添える。

 何故かアッシュは体を強張らせたが、軽く舌打ちして不良達共々去っていった。

 ことの成り行きを見守っていたエリオットが、ここでようやく息をつく。

 

「はああ~……どうなることかと思ったぁ」

「リィン、流石にあれはやりすぎではないのか?」

「怪我もさせてないから問題ないさ。ああいうのはこっちが下手に出ると調子に乗るタイプだろうし」

「見てて可哀想ではあったけど、確かに話し合いに応じるタイプじゃなさそうだったわね」

「ですが、アッシュさんと呼ばれていた子がいて何よりでした。騒ぎになる前にすみましたし」

「いやエマ、あれ十分騒ぎに……そっか、そんなに毒されて……」

「? 皆さん、どうかされましたか?」

「なんでもない、なんでも……」

 

 アリサ達がエマを見る目に憐憫が混じっていることに、彼女は気づくことが出来なかった。

 

「しかし、仲直りの握手に応じるなんて案外まともな不良なのね」

「いや、あれは仕込み武器……掌サイズだから小石やその辺りかな? それを投げて来ようとしてたから握手して封じただけだ。一見おとなしそうだけど、アッシュってのが一番危なかったな」

「うわぁ」

「時間取られたけど、さっさとラクウェルの要請片付けとこう」

 

 何事もなかったかのように探索を再開するリィンに、エマを除いたA班はなんとも言えない表情を作りながら付いていくのであった。

 

 

 一行はラクウェルで導力ボートを借りて三十分、ブリオニア島へとたどり着いていた。

 導力ボートの操作はリィン(オズぼん)が行っているため、残りの四人は海面を走る導力ボートの景色を堪能していた。

 

「うわぁー……泳げるわけじゃないんだろうけど、海なんだなあここ」

「俺は始めて見る景色だ……」

「ノルド出身ならそうなっちゃうわよね。んー、でも潮風が気持ちいいー」

「ふふ、童心に帰ってしまいそうですね」

 

 背後の四人の楽しそうな声を聞きながら、リィンは一人ブリオニア島での依頼を考える。

 導力ボートを借りるさい、従業員は話は聞いていると言って快く貸してくれた。

 それ自体は問題ない。

 リィンが気にしているのは、仮に島が猟兵の根城である噂を聞いていたら、従業員もその話を聞き及んでいるはずだ。

 だが従業員は調査ということしか聞かされていなかった。

 つまり、リィンは自分達と従業員の間に情報に齟齬を感じる。

 

「なあ、みんなはミュゼの話をどう思う?」

「猟兵の根城、ということでしょうか」

「ああ。本当に島を根城にしているのなら、猟兵っていうより海賊って気がしてな。オーレリアさんが直々に猟兵の話をしていたし、あの貴族達も言ってたからいないってわけじゃないんだろうけど」

「確かに、孤島を根城にする猟兵っていうのは聞かないね」

「でも、それを調べるための要請でしょう? だったら行ってみるしかないわよ」

「何事もなければないで、そう報告すればいいからな」

「……まあ、それもそうか。そろそろ着く――」

 

 リィンの声が途切れる。

 それを訝しんだ四人がどうかしたかと聞いてみれば、リィンは黙って島を指さした。

 その先に見えるのは、一隻の船だった。

 小舟ではなく、大型というほどのものではないが遊覧船でもクルーズ客船でもない、貨物船に似たそれが島に着いている。

 つまり、自分達以外の何者かがあの島にいることは確かなようだった。

 

「…………裏につけるか?」

「いえ、流れて座礁しては大変です。いざとなればリィンさんの灰のチカラもありますし、逃げるのはそう難しくないと思います」

(つまり、いざという時は転移を解禁するということで良いのかなエマ嬢?)

 

 オズぼんの声に頷くエマ。

 灰のチカラというのはあくまでアリサ達へ向けた建前。

 未だに魔女のことを秘密にしているエマだが、あとはもうタイミングの問題なのだろう。

 

(どちらにせよ俺はエマから言うのを待つだけだ……)

 

 リィンは導力ボートを加速させ、周囲を警戒しながら停車させる。

 近くに人影はないが、すぐに異変に気づいた。

 人が歩いたような足跡の他に、その何倍も大きい足跡が付いているからだ。

 

「なんだ、これ……」

「足跡、だよね?」

「でも、普通の人の分もあると思うけどこの異様な大きさは……」

「騎神……」

「え?」

 

 エマのつぶやきを、リィンが補足する。

 

「みんなも実技テストの時にヴァリマールの本体を見ただろう? その騎神のサイズと似てるんだよ、この足跡」

「それじゃあまさか、騎神がこの島に居るってこと?」

「……エマ、ARCUSで博士に連絡してくれ。ひょっとしたら、ヴァリマールを呼ぶ可能性が出てきた」

「はい」

 

 エマがARCUSを使う傍ら、リィンはベリルとの話を思い出していた。

 すなわち、灰以外の六色の騎神の存在を。

 まさかここに居るのか、と警戒度を上げながら慎重に進んでいく。

 

(なんだろう、寒気がする……)

 

 リィンの胸にはかつてない不安と、それと同じくらいの高揚を感じていた。

 心臓に巣食う鬼の力が、勝手に発動してしまいそうだ。

 一歩足を踏みしめるたび、この先にいる何かと出会うことを禁忌するような、待ち望んでいるような不思議な感覚だった。

 そんなリィンの真剣な表情に、それだけまずい相手なのかとアリサ達も気を引き締める。

 島を進み、石畳を登る五人の耳が振動を捉える。

 それは、巨大な何かが地面を踏みしめる音であったり、爆発音であったりと、孤島の中で戦闘が行われていることがわかるものであった。

 

「リィンさん、博士には話をつけました。……呼ぶ時は言ってください」

 

 エマに頷き、リィンは先行して様子を伺う。

 するとそこには、騎神ではないが七アージュほどある巨大な騎士人形が今まさに動いている光景を目撃する。

 どうやら何か剣と盾を持って振り回しているようだが……

 

「あれが騎神? その割にはヴァリマールほど綺麗じゃないように見えるけど……」

「それにあんなに動き回ってるってことは、誰かと戦ってるの?」

「……猛き風を感じる」

 

 視線の先、騎士人形の側には黒い服を着た男が二人いた。

 一人は糸目で口元の緩んだ、萌黄色の髪の男。

 もう一人は、ドレッドヘアーの筋骨隆々の男。

 共にサングラスをかけている彼らは同じデザインの服に身を包み、和やかな雑談を交わしながら騎士人形に攻撃されている。

 そう、あれだけの質量を持った相手に襲われているというのに、彼らはまるで気負うことなく対応していた

 その姿に絶句するA班をよそに、リィンは彼らの正体を察する。

 

「あの二人……猟兵だ。それも、西風の旅団」

「え!?」

 

 リィンはフィーから猟兵ということを打ち明けられてから、西風の旅団についての話を色々と聞いた。

 その中で団服のデザインともいうべき鳥のマークを実際に描いて見せてもらったことがある。

 フィーの絵心についてはこの場では言及しないが、それに酷似したデザインの刺繍が施された黒い服と、騎士人形の攻撃をいなす技量はリィンに彼らを西風だと判断させた。

 

「西風の旅団?」

「父さんから聞いたことがある。軍でもその名が通る、大陸でも有数の猟兵団だって」

「それが、オルディスに潜む猟兵ということか」

 

 リィン達が彼らの正体を推測する中、戦いは続く。

 糸目の男が放った槍のような何かが騎士人形に触れるたびに爆発を起こし、その機動性を奪っていく。

 さらにドレッドヘアーの男が、その巨躯の右手に身につけられた機械化手甲(マシンガンドレット)の一撃で騎士人形がよろめく。

 加えて、彼らの周囲には罠が設置されていたようで、鋼線によってほんの少し動きが鈍ったところを狙いすますかのように、糸目の男のブレードライフルから放たれた銃弾が騎士人形の関節部を崩し、そこにドレッドヘアーの男が駆ける。

 彼が拳を振るうと、先ほどと違い杭のようなものが発射し騎士人形を打ち据える。あれもまた手甲のギミックなのだろう。

 細身の男の持つブレードライフルに似ているところから、作り手が同じ武器なのかもしれない。

 どちらにせよ、あれで終幕だとリィンは判断し、実際戦いはその通りに終わった。

 

「ば、馬鹿な……機甲兵が生身の人間に!」

「乗り物で気を大きくしすぎたなぁ」

「確かにそれは達人に迫る戦力を会得するが、逆に言えばそれだけだ。攻撃力で言えば戦車のほうが高いうえに、単体でありこの場所ではその性能を最大限に発揮する機動力を活かせん」

「ま、次の講釈は起きてからやな?」

 

 糸目の男が再び槍のような何かを投げ、それをブレードライフルの弾丸が貫く。

 連続して起こる爆破に巻き込まれた騎士人形が膝をつき、そこで機能を停止させた。

 丁寧に戦いの解説をする猟兵達は、敵対というよりも指導の面が強いように見受けられた。

 

「ひょっとして猟兵の訓練ってやつかな?」

「エリオットが聞いたというあれか。……待て、そうなると貴族は騎神を所有しているのか?」

「いえ、あれは騎神ではありません。《巨いなる騎士》にしては弱すぎます」

「……………あれは、機械ね。どこの工場で作ったかわからないけど、人造騎神ってところかしら。破壊された部分を見て。機械が露出してる」

「ほんとだ! じゃああれは導力人形ってこと? リィン、どちらにせよ猟兵を見つけたんだし、早く戻って報告を…………リィン?」

 

 エリオットの声にリィンは答えない。

 答える余裕がなかった。

 

「はっ、はっ、はっ…………」

 

 服ごと心臓をかきむしるように強く胸元を握る。

 顔からは異様なほどの汗が垂れ、エマが目を見開いてリィンの肩に手を添えた。

 

「リィンさん、大丈夫ですか?」

「あ、ああ……」

「……リィンの尋常ではない様子も気になるが、気づかれる前に早くここを離れたほうがいいだろう」

「わかりました。リィンさん、私に肩に掴まってください」

「それじゃあさっさと――」

「まあまあ、そう急がんでもええんちゃう?」

 

 その声にA班の面々が背後へ振り返る。

 そこには、いつの間にか移動していた糸目の男が佇んでいた。

 騎士人形のほうに振り向けば、中に乗っていた領邦軍兵士――つくづく縁があるようで、ガイウスを侮辱した貴族だった――を引きずり下ろしているドレッドヘアーの男がこちらを見ていた。

 貴族の男は気絶しているようで、ぐったりとしたまま男に抱えられている。

 

「オルディスに来てた学生だったか。ここまで来るとはご苦労さん」

「だが、見られてしまった以上なんらかの措置をしなければならないだろう」

 

 男達の威圧感が高まる。

 これから起こる戦いを前に、リィンを抱えるエマが覚悟を決めた目でARCUSを開いた。

 

「来て、ヴァリマール!」

 

 エマがARCUSを操作すると、そこにはめ込まれたシュミット謹製のMクォーツ『ギアス』を発動させる。

 エマが魔煌兵を操作するさいに開発された、転移の魔術を落とし込んだ特別製だ。

 これによりエマは魔煌兵を召喚することが出来るのだが、ヴァリマールも遠隔操作するうちにコツを覚えたようで、リィンの側……正確には灰のチカラに眠るヴァリマールが側にいなければ無理であるが、それでも遠く離れたトールズから騎神を呼び出せる切り札に近いものであった。

 転移に使うエネルギーはヴァリマールが負担し、その霊力を何故かオズぼんが補充出来るため遠慮なく使える。

 事実、西風の二人は突如現れた灰の騎神を前に目を大きく見開き、すぐさま距離を取った。

 

「へえ、そいつが噂の騎神か」

「外見からして機甲兵とは格が違うようだが……我々の知るものとは違うな」

「機甲兵……それがあの騎士人形の名前ですか? それに、他の騎神を知ってるんですか!?」

「おっと、口が軽いでレオ」

「ふふ、少しばかり高揚しているようだ。これは自ら汚名をそそぐとしよう」

 

 そう言って武器を構える西風の二人。

 

「あんたがレオ……レオニダス。ってことは、細目のあんたがゼノか」

「おん? ボン、俺らのこと知ってるのか」

「ちょっとした事情でね……」

「リィンさん、ヴァリマールの操作をお願いしま――」

「――ごめん、エマ。それ、無理」

「え?」

 

 リィンは西風の二人とは反対の方角へ振り向く。

 それと同時に、沈黙していた機甲兵が突如焔に包まれる。

 そのあまりの熱気は遠く離れたリィン達にまで届き、熱風がひとたび吹くたびに気持ち悪い汗がその場にいる全員を襲う。

 そして――気づけば機甲兵と呼ばれた騎士人形は融解し、見るも無残な姿へと変貌していた。

 

「そんな……! あれだけの質量の金属が、あんな一瞬で!?」

「なんや、来てたんか劫炎の」

「おもちゃに興味があって見に来たんだが……まさか、予想外のものまで出てくるとは嬉しい限りだぜ」

 

 リィンの視線の先に、その男は居た。

 いつの間に佇んでいたのか、そこには浅黄色の髪と赤いコートをまとった男が佇んでいる。

 その右手からは焔が猛々しく燃え盛り、騎士人形を燃やした下手人が彼であることを示していた。

 メガネの奥に潜む気だるげな瞳とは裏腹に、リィンは目の前の男をこの場でこれ以上なく危険な存在だと判断した。

 エマ達もまた、オーレリアやウォレスの時に感じた以上の何かに押され、上手く言葉が回らない。

 

「へえ、俺に気づいてたとはな。なかなか有望な小僧…………へえ、お前混ざってやがんのか。しかしなんだ、その左腕の妙な人形は。あまり趣味が良いとは言えねえぞ。今どきの学校はそんなもんが流行ってんのか?」

「――――――――――え?」

(ほう、私が見えるのか)

「しかも喋んのかよ。最近のおもちゃは色んな意味で進んでやがるな」

 

 その瞬間、リィンが抱いていた焦燥感の全てが消えた。

 代わりに出るのは何の変哲もない、しかしこの場においては異常な質問。

 

「貴方の、名前は?」

「あん?」

「名前を、教えてください」

「別に構わねえが……俺はマクバーンだ」

「俺はリィン・シュバルツァーと申します」

「リィンさん……?」

 

 エマだけでなく、その場にいる全員がリィンの突拍子もない行動に眉をひそめる。

 自己紹介をして精神を落ち着かせたリィンは、一つ息をつく。

 紡ぐのは、衝動的で暴力的な勢いを持ったたった一つの言葉。

 

「マクバーンさん」

「あーん?」

「俺と友達になってください!」

「―――――――――――は?」

 

 ぽかんと、呆けた顔でリィンを見るマクバーン。

 彼だけでなく、その場にいる全員が同じ表情でリィンを見ていた。

 機甲兵を燃やし尽くした恐るべき焔の使い手に対して向けるとは思えない言葉に、状況も忘れて全員が等しく絶句していた。

 

 

 リィン・シュバルツァー十七歳、今月十八歳。

 オズぼんが見える最初の相手がセリーヌだったことで、人外でも問題なく受け入れる下地を持ってしまった少年。

 器が広すぎて穴の空いてしまった彼はもう、色々と後戻り出来ない状態だった。




みんな大好き全部さん。
元々好きなキャラでしたが、Ⅳの後は全部さんをもっと絡めたいってずっと思ってました!
なんか最後が駆け足になってインパクト薄れたような気もしますが、今回の特別実習はこれをするために書いていたとも。
そのかわり、ミュゼの思惑やらアッシュや西風の皆さんがちょっと印象持ってかれてしまった気がするのは申し訳ない。
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