はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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劫炎・西風とのバトル回。
いつも誤字報告ありがとうございます。


フフフ、息子よ。五月の特別実習だ⑤

「馬鹿、馬鹿、お馬鹿さん!」

 

 空気を凍らせたリィンにエマが激しく突っ込む。

 普段のキャラをかなぐり捨て、魔導杖を振りかぶってはリィンへと叩きつけた。

 リィンは真剣白刃取りで魔導杖を止めながらも、エマの癇癪(リィン視点)に対して目を輝かせながら言う。

 

「いやだってエマ、あの人親父が見えるんだぞ!? 言わなきゃダメだろ!」

「言うほうがダメです!」

 

 力では当然敵わないが、エマはそれでも目の前のお馬鹿さんに魔導杖で一発ポカッと入れてやりたかった。グーでもパーでもいい。

 リィンはリィンで、マクバーンと名乗った男へ熱い視線を送り困惑させている。

 突然始まった夫婦漫才に、西風の猟兵とマクバーンは沈黙を持って眺める。

 場が白けたとか、時の結界が強くなったとか、そういうものではない。

 アリサとエリオットも、きょろきょろと三者に目を向けるが誰も言葉を発することはなかった。

 だが、そこにノルドの肥沃な大地と自由の風をゆりかごに育った男が割って入る。

 

「リィン、エマ。その辺りにしておけ。話が進まない」

「ガイウスさん……」

 

 エマの砂漠の中でオアシスを見つけたが如き救いの目に一つ頷き、ガイウスは槍を構える。

 

「さしあたって、特別実習を進める上では彼らに話を聞く必要がありそうだ」

「そ…………そうだね! そうしないと!」

「ええ、ガイウスの言う通りだったわ!」

 

 同じように、切羽詰まった必死な声で武器を取り出す二人は戦術リンクを展開する。なんとか空気を元に戻そうと、二人は気力を充実させた。

 ここで西風の旅団も、リィンとエマを無視してやおら口を開く。

 

「おいおい、話し合いもせずに武器を抜くんか? 士官学院生ってのは気の早い奴らばっかやな」

「ではこちらが武器を捨て、誠心誠意話をすればそこの残骸や貴方達がここに居る理由などを教えてくれるのか?」

「フ……我らが団長ならばこう言うだろう。報酬は自らの手で勝ち取れ、と」

 

 戦闘経験豊富な猟兵はあの空気を体験したにも拘らず、場を仕切り直す。

 この辺りはさすが西風といったところだった。

 

「となれば、俺は当然あの人だよな」

 

 エマの魔導杖を片手で抑えながら、リィンは鬼の力を目覚めさせる。

 突然灰髪灼眼となったリィンに、エマを除いた全員が息を漏らした。

 

「エマ、悪いけどヴァリマールの本体を使って、あっちに手を貸してあげてくれ。流石にガイウス達だけじゃ大陸最高峰の猟兵、それも連隊長二人は無理だ」

「っ………………すぅー………………はぁー…………………」

 

 震える体をなんとか抑え込もうと、エマは怒りで赤くなった顔を徐々に元の白さへと戻していく。

 空気を壊した本人が真剣になり始めたのを見ると、いつまでも怒っている自分のほうが悪いんじゃないかと錯覚すら覚えた。

 

(フフフ、エマ嬢。息子への折檻はまた後にしておいてくれ。あの二人、仮にヴァリマールを操作したとしても、厳しいと言わざるを得ない)

「え、でも……」

(確かにヴァリマール本体の性能は高い。だが、肝心の意志が息子のほうにある以上、騎神の強さは操作する者……この場合はエマ嬢の指揮がものを言う。アーツを主体にするならともかく、ヴァリマールのスタイルは近接戦闘だ。それも武器がない、な。息子が操作しない限り、大きな騎士人形を動かしているだけに過ぎん)

 

 エマはシュミット教室において、自分が操作した時のリィンの対応を思い出していた。

 彼は灰のチカラによるロア・ヴァリマールで灰の騎神の攻撃をいなしていた。

 明らかに出力の差があったというのに、どうして防げたのかと聞けばあれはただ大きくて強いだけだ、と言われた。

 つまり、その差を埋める技の違いだ、と。

 西風の旅団が機甲兵を仕留めた鮮やかな戦術を思い出し、エマは自分が思っているほど楽な戦闘にならないと気を引き締める。

 そんなエマの様子を見ていた細目の男、ゼノは聞き捨てならない台詞を吐いたリィンへと目を向けた。

 

「ボン。お前マジで何者や? 俺らの所属に加えて、役職まで知ってるとは。猟兵時代でもお前さんは見たことがない。なあ、レオ?」

「ああ。あんな奇天烈な子供が居ればたいてい記憶に残るはずだが……あいにくと見たことはない」

「あんた達が置いていった、かわいい娘さんから聞いただけさ」

『ほう』

 

 瞬間、空気が軋む。

 リィンはフィーのことをほのめかし、彼らもまたそのことに気づく。

 目の前の少年が、自分達の家族からそこまで明かされるほどの信頼を得ているということに。

 それはちょっと、詳しく話を聞かなければならないと親心が発揮された。

 

「ちょ、ちょっとリィン! なんかあの人達すごく顔が怖くなったんだけど!?」

「なんで怒らせてるのさ! それに、その姿は一体……」

「すまない、ちょっと家族愛を確かめたかったというか。ちゃんと愛されてて何より、って報告が出来る。どうでもいい、とは思われてないようだからな。この姿は、この場が終わったら教えるよ。……エマ、本気でやばくなったら俺を置いてみんなで逃げてくれ。こっちはこっちでなんとかする」

「ですがリィンさん、あの人は……尋常ではありません。あの機甲兵と呼ばれる巨大な騎士人形を、一瞬で溶かしたあの焔は人の身では」

「だから、俺しか対応できないんだ。それに、返事も聞いてないしな」

 

 結局それか、と思いながらエマは戦術リンクをガイウスと結び、騎神を操作する。

 エマの意図を察したA班が、それぞれ行動を開始する。

 

「ちっ、まずはこっちか……」

「劫炎相手に一人だけを送り込むとは、あの焔を見て頭が正常に働いていないのか?」

 

 レオの言葉はある意味で正しく、ある意味で違う。

 エマはそれに応じるように、騎神の拳を振りかぶらせて二人へ落とした。

 それが、A班と西風の旅団の戦闘開始の合図だった。

 

 

「さっきの焔でみんなが巻き添えになると危ないから、場所を移しませんか?」

 

 リィンは鬼の力を全身に浸し、灰のチカラで補強しながらマクバーンに問いかける。

 西風との会話を眺めるうちに気を取り戻したマクバーンは、鷹揚に頷いた。

 

「それは構わねえが……さっきの話、マジで言ってたのか?」

「友達になってくださいってやつですか? 大マジです」

「割と長く生きてきた人生だが、そんなことを言われたのは始めてだぜ」

「なら俺が最初の一人になれるかもしれませんね」

「調子の狂う奴だ……」

 

 マクバーンは周囲に首を巡り、親指を立てて背後を指す。

 

「島の裏側、巨大な像がある場所でどうだ?」

「俺、ここに来るの初めてなんですけど」

「はっ、テメェなら感じ取れるはずだろ?」

 

 マクバーンの足元に、赤い……いや、焔の転移陣が展開する。

 次の瞬間、マクバーンはその場から消えてしまったが、宣言通り島の裏側に巨大な存在感を感じた。

 鬼の力が眠る心臓が強く脈打つ。何故かわからないが、リィンの心臓はマクバーンに反応しているようだった。

 

「来い、ロア・ヴァリマール!」

「応!」

 

 リィンはロア・ヴァリマールを召喚し、昨夜マヤの母親を助けた時にも使った移動を行う。つまり、ロア・ヴァリマールに掴んでもらって投げてもらうという手段だ。

 何度か繰り返し、リィンはマクバーンが指定した位置へと降り立つ。

 そこには、ミュゼからも聞いた巨大な像が確かに鎮座していた。

 百アージュに迫る巨大な像は見る者を威圧し、俯瞰するような偉大さに溢れていた。

 

「いや、鎮座というわけではないな。何かと衝突して弾かれ、ここで止まった、といったていだ」

「こんな巨大な質量を持ってるのに?」

「ノルド高原にある巨像と同じだ。特別実習を続けていれば機会もあるだろう」

「ふぅん。……でも、この像……」

「似てるだろ? 騎神ってやつに」 

 

 像を見上げていたリィンの前に、巻き上がった焔と共にマクバーンが現れる。

 

「まるで力を感じねえ。昔は中身が詰まってたんだろうが、今は空っぽだ。暇つぶし程度のものでしかねえ」

 

 そして本日何度目か、彼からすれば生涯でも一日で驚いた数を更新するかもしれないペースで呆れた声を出した。

 

「しかし、転移どころか投擲でここに来るとはな。その人形と合わせてつくづくよくわからん小僧だが、悪くねえ。お前なら俺をアツくしてくれるかもな」

「アツく?」

「簡単さ。俺は俺をアツくさせてくれる相手を探しているってだけだ」

「つまり、俺が貴方をアツくさせ続けたら友達になってくれるんですか?」

「さてな、ま、俺を満足させたら考えてやる」

「言質は取りましたよ」

 

 静かに抜刀しながら、リィンは鬼の力を太刀に、灰の鎧を体へ伝える。

 漆黒のオーラをまとった太刀と、リィンの体を守るように展開されたロア・ヴァリマールにマクバーンが唇の端を釣り上げた。

 

「そんなもん見せてくれたんだ、あっさり終わってくれるなよ!」

 

 先手はマクバーン。 

 右手から詠唱もなしに放たれた焔が一直線にリィンへ向かってくる。

 

「滅・緋空斬!」

 

 リィンはそれを太刀で迎撃。両断した勢いで飛ばされた斬撃はしかし、焔によって威力が弱まっていたのかマクバーンの腕の一振りで弾かれた。

 だがそれを予想していたのか、リィンは斬撃を飛ばしたのと同時にマクバーンへ疾駆していた。

 

「裏疾風!」

 

 リィンの太刀がマクバーンへ迫る。

 姿が霞んで見えるほどのスピードで動くリィンに対し、マクバーンはまともにその一撃を受けると思われたその時、リィンは危機を感じて咄嗟に攻撃を中断した。

 

「ハッ、中々カンがいいじゃねぇか……焼き尽くせ!」

 

 放たれた炎は獣を形どり、炎熱の牙を持った猛獣としてリィンに迫る。

 リィンは灰の鎧で耐えようとするが、直感で受けることを止めて避けた。

 それは正解だったようで、避けた地点に当たった岩の一部が赤熱する姿に炎の激しさを伺わせる。

 

「まともに受けたら武器も体も骨ごと蒸発しそうだな……」

 

 鬼の力で強化されているといえ、最初のように太刀で炎を斬るのは控えたほうがいいと気を引き締める。

 

「燃えろ!」

 

 そんなリィンの思考すら許さないと言わんばかりに、下手投げの要領で投擲された炎が再び迫る。

 リィンは即座にその場を離れたが、先程までリィンが占めていた空間に立ち上った火柱に冷や汗すら蒸発しそうな勢いだ。

 

(攻めるしかない……ヴァリマール!)

(応!)

 

 灰の鎧が縮小する。

 ロア・ヴァリマールの上半身によって覆われていた灰のオーラがリィンの太刀へと流れ込んでいく。

 リィンは防御を己の体捌きにだけ頼り、他の全てを攻撃へ回したのだ。

 

 

「そらよ!」

 

 再び牙を剥いた焔の猛獣に対し、リィンは直撃を避けてマクバーンに殺到する。

 それでも余波が肌を焼き体から水分を奪い身体機能を奪っていく。

 だがリィンには、この焔を超えた先にこそマクバーンを認めさせるものがあると確信した。

 そうして見事焔の獣を突破したリィンを待っていたのは、己の身を包む火柱、ギルティフレイムであった。

 連続で放たれていた焔を前にリィンは為す術なくその身を焼かれ、倒れる。

 つまらなそうにするマクバーンが気を抜いた、その瞬間。

 

「――裏疾風!」

「――ガアッ!」

「滅・螺旋撃!」

 

 背後に回り込んでいたリィンの一撃がマクバーンの背を切り裂き、追撃と合わせて彼を吹き飛ばす。

 マクバーンは地面を転がり、ゆっくりと立ち上がるも痛みを感じているのか顔をしかめた。

 それも一瞬、すぐにその表情に歓喜を刻んだ。

 

「ハッ、分け身かよ。レーヴェの阿呆に迫ってるかもな」

 

 言いながら、マクバーンは己が燃やしたはずのリィンを見やる。

 焔の猛獣、ヘルハウンドをかいくぐり、待ち構えていたギルティフレイムにより燃えていたはずの少年は、無事な姿で太刀を構えている。

 

「剣士としてはちょっとしたズルかもしれないけど、これは試合じゃないですからね。遠慮なく使わせてもらいました」

 

 燃え尽きた残骸から漏れる灰のオーラで、マクバーンはリィンが無事な理由を悟る。

 エネルギーを太刀に回しても、ロア・ヴァリマールのクラフトが使えないわけではない。

 かつてオーレリアとの戦いの時は姿しか真似られなかったピース・オブ・パワーによる分け身は、熟練度を上げたことで本物と変わらぬ質量と気配を持ったものへと強化されている。

 対峙した相手からすれば、単純にリィンが二人に増えたと錯覚することだろう。

 リィンはそれを利用して分け身を囮として、マクバーンに一撃を加えたのだ。

 

「別に構わねえさ……それに、テメェもなかなか上手く力を使いこなしてる。それじゃあ、もうちょいアツくするぜ?」

 

 マクバーンは右手に火球を生み出す。

 掌サイズのそれは、徐々にその大きさを広げやがてリィンを呑み込んでなお余裕のある巨大さに膨れ上がっていく。

 

「ほうら、こいつはどうする?」

 

 さらに左手から次々と炎を飛ばし、リィンとマクバーンを包み込むように周囲に炎の壁が形成されていく。

 熱気がじりじりとリィンの体を焼いていき、呼吸すら難しくなってくる。

 リィンは即座に太刀に回したエネルギーを灰の鎧に当て、熱気と乾燥を防いだ。

 だがあくまで薄い防波堤でしかなく、マクバーンの右手に揺れる特大の火球をなんとかしなければすぐに燃やし尽くされる。

 加えておそらく脱出防止用の炎の壁は、徐々に厚みを増していく。

 灰の太刀で切り裂いたところで、すぐに炎が補充されて崩すことは叶わないだろう。

 ならば答えは一つ。

 マクバーンを斬り裂くのみ、だった。

 

「……………ふー」

 

 リィンは鬼の力と灰のチカラを解除する。

 灰髪から黒髪に戻り、黒いオーラすら消えたリィンにマクバーンはやや苛立ちの声を発する。

 

「なんだ、諦めたのか?」

「いいや、まさか、まだ貴方と友達になってないんですから、そんなことしませんよ」

 

 リィンは静かに太刀を鞘に収める。

 怪訝そうだったマクバーンだったが、すぐに驚きからの歓喜を顔に刻んだ。

 リィンの狙いは単純明快だ。

 鞘の中に収めた刃に、寸分の漏れもなく鬼の力を付与させた一刀を放つ。

 

「ヴァリマール」

「応!」

 

 名を呼び、己の心臓に宿った彼と戦術リンクを結ぶ。

 イメージは先月のオーレリアとの戦い。

 リィンはⅦ組B班の皆と戦術リンクで繋がったさい、途方もない力が溢れていた。

 一刀がオーレリアの一撃と同じ、時には押し返すほどの強さを生み出していた。

 ヴァリマールに意志はあれど、未だ記憶がおぼつかない。

 戦術リンクによる結びつきも、先月ほどの力を発揮するのは難しいかもしれない。

 それでも、戦術リンクによる相手への信頼がリィンの意志を違わずヴァリマールへと伝える。

 

「…………オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 鬼が吼える。

 姿形がリィン・シュバルツァーを保っていようとも、心臓から刃へ伝う形なき力の管がリィンを鬼の力に浸らせる。

 マクバーンはリィンの灼眼に黒が混ざりかけるのを見て、さらに笑みを深めた。

 そして、激突の時が訪れる。

 

「ジリオン……ハザード!」

「極・緋空斬!」

 

 特大の火球と一刀に鬼の力の全てを乗せた飛ぶ斬撃がぶつかり合う――かに見えた瞬間、マクバーンは斬撃が火球をかいくぐって己に迫るのを見た。

 さらに放たれた斬撃がやがて形を変え、ロア・ヴァリマールを形作る。

 クラフトを使った直後、マクバーンは火球を放った体勢のまま、ロア・ヴァリマールの巨腕の拳によって打ち抜かれた。

 そして放たれた火球はリィンへと迫り――

 

「親父!」

「フフフ」

 

 刹那、リィンの足元に転移陣が展開しロア・ヴァリマールのもとへ運ばれる。

 短距離転移。

 今、リィンがしたのは種を明かせばそれだけのことだ。

 エマがヴァリマール本体を呼び出すには、ギアスのMクォーツが必要だ。

 ギアス本来の役割は座標を示すレーダーに過ぎない。

 ヴァリマールがそれを補足し、己をそこへ飛ばしている単純明快なものだ。

 そして、それを行っているのは本体の騎神ではなく、意志のあるロア・ヴァリマールのほうである。

 つまりギアス抜きでも、短距離であるならばヴァリマールは自己の判断で対象の相手を転移させることが出来る、というわけだ。

 もっとも、起動者や準起動者限定になってしまうし、オズぼんの霊力補充が必要不可欠であるが、この場では有効に活用された。

 ロア・ヴァリマールによって殴られたマクバーンを追い、転移したリィンが走る。

 今持てる最高の技に鬼の力を乗せて、リィンは太刀を走らせた。

 

「灰ノ太刀……絶よ――」

「あア、イイジャネエヵ」

 

 振り抜かれた鬼の太刀がマクバーンを斬り裂く寸前、リィンは瞠目した。

 こちらを向いたマクバーンと目が合う。

 彼の瞳は、闇夜のように黒く染まり、全身に謎の模様が走り、髪もリィンの鬼の力のように変色していた。

 

(―――――――死)

 

 そのイメージを抱いたまま、リィンの心臓が弾けるような熱さに包まれ――彼の意識はそこで糸が千切れるようにぷっつりと切れた。

 

 

「くっ――!」

「アカンで嬢ちゃん、攻撃の意志ってのはもっと上手く隠さへんと」

 

 エマの指示によって動く灰の騎神の攻撃は、ゼノに当たらず避けられる。

 もちろんサイズ差の違いもあり、ゼノはその身一つで避けるのも大変な様子に見えるが、それでも当たらないと確信しているのが見てとれる。

 エマは、オズぼんから言われたことを痛感していた。

 騎神の攻撃は確かに強力で、何度も西風の猟兵達の攻撃からA班を守り、仕切り直しのために活躍してくれた。

 だが、それだけだ。

 本来なら人間と騎神の戦いなど勝負になるはずもないそれは、ゼノの巧みな罠の設置やレオニダスの機械化手甲による崩しのせいでその真価を発揮出来ずにいた。

 

「エマ、下がれ!」

「悪いが、この程度では押されんよ」

「このぉ!」

「ほいよっと」

 

 戦術リンクによってエマがどう騎神を動かすのかを把握しているガイウスが、隙を狙って槍を突くがレオニダスの機械化手甲に弾かれる。

 アリサの導力弓もまた、ゼノが放る槍型の簡易爆弾に阻まれることで狙いを逸らされる。

 加えてトラップは騎神の妨害だけでなく、エマ達の体も傷つけていった。

 蓄積した怪我はエリオットが回復させているが、西風の巧みな連携の前に治療が追いつかず徐々にジリ貧となって追い詰められていた。

 こちらの行う一手一手が丁寧に潰されていく感覚に、A班の皆は気力が尽きかけていた。

 

(こんな時は……私がなんとかしないといけないのに……!)

 

 今、この現状をなんとか出来るとすれば騎神を操作するエマだった。

 だが、エマは魔女として様々な術を持つ身なれど戦士ではない。

 実戦経験豊富な猟兵を前に行うことと言えば、騎神という騎士人形を操作したとしても殴る蹴るといった大振りな動作の攻撃しか出来ないのだ。

 攻撃を相手に当てる技が彼女には不足していた。

 

「こ…………の…………!」

「おっと、そこははずれや」

「えっ―――」

 

 騎神の拳を避けたゼノがそう言うと、穿った大地から光が漏れる。

 それが罠によるものだと気づいた時にはすでに遅く、ついに騎神は地雷によって体勢を崩して転倒してしまう。

 それは、彼らを守る盾がなくなった瞬間だった。

 すぐに起き上がらせようとするエマだったが、眼前に迫るレオニダスを前にそれを行うことは出来なかった。

 

「エマ!」

「おおっと、ボン達もおとなしくしといたほうがええで。下手にレオに攻撃して、手元が狂ったら大変やからな」

 

 ガイウスの槍をブレードライフルでいなしながら、ゼノの言葉に動きを止めたガイウスの腹に蹴りが刺さる。

 

「ガイウス!」

「すぐ回復を――」

 

 くの字に体を曲げて蹴り飛ばされたガイウスが地面に倒れ、アリサが悲鳴を上げた。

 エリオットは咄嗟にアーツを使おうとするが、何も起こらない。……もう、エリオットにアーツを使う力は残されていなかった。

 

「あ…………」

「だい、じょうぶだエリオット。俺はまだ……」

「へえ、見かけ通りタフやな。でも、わかっとるやろ? もう詰みやで君ら」

「な、何を言って――」

 

 アリサの言葉が止まる。

 

「頑張ったようだが、所詮は学生。ここまでのようだな」

 

 レオニダスの巨大な機械化手甲がエマの目の前にある。

 備え付けられた杭がエマの顔に照準されており、レオニダスの意志一つで打ち出されたそれはエマの綺麗な顔を穿つ――その選択から逃れられないことを悟った。

 

「ああ…………」

 

 エリオットが膝をつく。

 もはや、勝負は決したのだと誰もが理解した。

 

「さて、と。そんじゃあ――」

「ゼノ!」

「んおっ!?」

 

 何か言いかけたゼノと、エマに武器を突きつけていたレオニダスが咄嗟にその場から離れる。

 何事かと思うA班の前に、上空から何かが降ってきた。

 

「すまない、遅れた」

「リィン!」

 

 そこに現れた、トールズ士官学院の赤い制服を見てエリオットが歓喜の声を上げる。

 アリサも目尻に涙を浮かべ、ガイウスも苦痛の中で笑みを浮かべた。

 ただ、エマだけはリィンの背中に常と違う違和感を覚えていた。

 

「まさか劫炎のを退けたんか?」

「いいや、逆だよ。見逃されたんだ……悔しいけどな」

「リィンさん……?」

 

 エマがリィンの背に声をかけるが、その返事は彼からあふれる鬼気であった。

 黒髪から灰髪へと変化するさまに、エマは言いようのない不安を感じた。

 

「久々に感じたよ……力の足りない悔しさってやつを」

 

 リィンは融解した刀身を持つ右手をそのままに、ロア・ヴァリマールを展開してA班を守る。

 自身は鬼の力を溢れさせたまま……強く、深く、沈み込むように引き出していく。

 

「ふむ、負ける気はしないが、なかなか手こずりそうだ」

「あんま時間かけると、依頼人の機嫌も悪くなりそうやなあ」

 

 二人は互いに見合わせて頷くと、被害を受けないよう隠していた貴族を抱えてその場から跳んだ。

 人を抱えながらも岩場を軽々と乗り越える跳躍力に目を剥く一同に向けて、ゼノが手を振ってくる。

 

「そこのボンには聞きたいことたっぷりあったけど、今回は控えとくわ。ま、どのみちまた会えるやろうし、そん時に、な」

「うむ、いずれまた会おう――ところで」

 

 力強く、今日一番の言葉を発した。

 

「手は出していないだろうな?」

「むしろライバル宣言されたよ」

「ほー? 嘘やないやろな……」

「なら、直接言えばいいだろう」

「中々なー、そうはイカンのや」

「そういうことだ……そちらから伝えるのは勝手にするがいい。ところで」

 

 さらにギアを上げた言葉を発した。

 

「本当に手は出していないだろうな?」

「してません」

 

 その返事に満足したのかしていないのか、西風の猟兵は文字通り風のように去っていった。

 戦いにならなかったことで安心したのか、リィンは鬼の力を解除してロア・ヴァリマールも消した。

 

(エマ嬢)

「は、はい」

(息子を頼む)

 

 え? という声は、果たしてエマのものだったのか。

 ただはっきりと聞こえたのは、誰かが地面に倒れて――その誰かがリィン・シュバルツァーということだった。

 

「リィン!」

 

 ガイウスが真っ先に近寄り、うつ伏せに倒れたリィンを反転させ――息を呑んだ。

 背中からではわからなかったが、リィンは心臓から腹部にかけてひどい火傷を負っており、焼けただれた肌が黒く変色していた。

 ガイウスやエリオット、アリサがそれぞれアーツやアイテムを駆使してリィンの治療をする中、エマはその事実を認めることが出来ず、アリサに声をかけられるまで呆然とその光景を眺めていた。




全部さん そう簡単に デレないよ
実習の最終日は大怪我するのがノルマになってきてる…
前回の最後がギャグ過ぎて息してなかったシリアスさん、無事に息を吹き替えした模様。
全部さんが見逃した経緯とか、三人がここにいる理由とかまでは書けなかったので、そこはリザルト回で明かします。
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