はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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ベリルかロジーヌかで悩みましたが、筆が進んだ結果ロジーヌとのお話に。
彼女の話は、ほんと真面目になりますね…


フフフ、息子よ。人は誰しも秘密を抱えているものだ

 五月の特別実習を終えたリィンの放課後は、四月から変化を迎えていた。

 それはサラやナイトハルトの手が空いた時に稽古をお願いしている、というものだ。

 鬼の力や灰のチカラの強化はエリンである程度の目処が立ったので、今度はリィン自身の強化に務めるためである。

 八葉一刀流の中伝に至り、人外の力を宿したリィンはその全てを解放すれば達人クラスの強者にも渡り合うことが出来る。

 だが、それでは友達(劫炎)なれ(届か)ないと実感したリィンはとにかく己自身の技量を高めることに力を注いだ。

 鬼の力を抜きにすればサラは速さ、ナイトハルトは力がリィンより上、さらに両者とも戦闘経験も豊富だ。地力を高めるための相手として申し分なし、と連日暇を作っては二人の教官に立ち合いを申し込んでいる。

 加えてそれらで鍛えた剣術はシュミット教室による騎神、または博士自身が召喚に成功した魔煌兵相手に発揮され、密度の濃い一日を過ごしていた。

 

「――――すまないが、本日はこれまでだ」

 

 ナイトハルトが剣を置くと、リィンは汗を垂らしながらもまだやれますと告げる。

 事実、息を乱し疲れが見えてもリィンの気力になんら衰えはなく、日が落ちても未だに動きを維持する体力を持っていた。

 剛撃と称されるナイトハルトの剣は相手からすれば威力も当然ながら、当たればやばいというプレッシャーを重ねることで体力の消耗が常よりも異なる。

 だが無尽蔵とも思えるリィンの体力は、その剛撃を避け、流し、時に受けながらも変わらぬコンディションを保っている。

 叩けば叩くほど洗練される動きは、入学当初に感じていた不良の印象を吹き飛ばすほど鍛え甲斐のある生徒としてナイトハルトの目に映っていた。

 ナイトハルトは自分の言葉へ困ったように顔を歪めながら、可能ならば目の前の教え子と剣を交えることに異論はない。

 

「すまないな、シュバルツァー。お前達Ⅶ組A班が持ち帰った情報……特に機甲兵という存在に関しては、我々第四機甲師団でも聞いたことがない。つまり、正規軍に隠れた領邦軍独自の兵器というわけだ。それに関しての会議などが追加されてそう時間が取れんのだ」

 

 リィン達が持ち帰った情報はサラからヴァンダイクへ伝達し、必然的にトールズの教官達の知ることとなった。

 残骸を回収するべく派遣された軍の報告によれば、ブリオニア島での戦闘は猟兵と劫炎のものしか存在せず、機甲兵なる兵器を確認することが出来なかったという。

 当然、リィンの怪我を含めてそれを偽りと断じることはなく調査を続行しているそうだが、中々しっぽを掴ませてくれないそうだ。

 

「それじゃあサラ教官が最近忙しそうなのは……」

「彼女は彼女で、カリキュラムの変更による生徒への危機に傷心していた。故に持ち帰った情報を活かさんと、古巣のツテを頼って色々やってるそうだ」

 

 元A級遊撃士というだけあって、サラにも独自の情報ルートはあるそうで、今はそちらに追われているとナイトハルトは語る。

 

「なるべく時間があれば相手をしてやるが、今後はそれも難しくなるだろう」

「そうですか……ひょっとして、軍に戻ったりなんか……」

「いや、まだそこまでの事態ではないな。が、油断は出来んだろう。有事の際はおそらく、教官職を離れることとなる。そうはなりたくないものだが」

「俺もそう思います。ではナイトハルト教官、本日はありがとうございました。会議、頑張ってください」

「ああ。お前は……言うまでもないか」

「はい、もう少しここで剣を振っていきます」

 

 向上心溢れるリィンに笑みを向けながら、ナイトハルトは名残惜しくもありながら練武場を後にする。

 士官学院から生徒も少なくなっていく夜分まで型の反復を兼ねて剣を振るっていると、扉越しに慣れ親しんだ気配を感じた。

 

「ロジーヌ、どうした?」

「…………ふう、扉の向こうから断言するのは控えてください」

 

 そう言って入室したのは、シスター服に身を包んだロジーヌだった。

 平民生徒へ与えられた制服ではない、白黒のヴェールを被り、同色のそれを基調としたシスター服を身に着けている。

 ブーツまで覆うロングスカートが歩くたびに翻り、同窓生のシスター服という姿も相まって妙に意識してしまった。

 

「どうかされました?」

 

 リィンの視線に気づいたのか、小首を傾げるロジーヌ。見慣れているはずのその仕草が、シスター服というだけで妙な色気を感じてしまい、慌てて頭を振った。

 

(フフフ、息子よ。お前はシスター属性だったのか)

(うるさいですよ)

(おずボン。しすたー属性トハ?)

(フフフ、それはな――)

 

 また一つ無駄な知識を増やしていくヴァリマールに辟易しながら、リィンはロジーヌに対応する。

 

「いや、なんでも。それにどうかしたのかは俺の台詞だよ。制服じゃなくてシスター服で来るなんて、一体どうしたんだ?」

「いえ、教会の手伝いでベアトリクス教官へ薬のお届け物があったので。戻る途中に練武場で聞き覚えのある音を感じて顔を出した次第です。まあ、出す前にバレていたみたいですが」

「なるほどね、仕事お疲れ様。俺はナイトハルト教官と稽古をしていたんだ」

「そういえば最近はサラ教官とも稽古をつけておられたようで……」

「ああ。地力を上げないと届かない人がいてな。でも二人とも忙しくなってきてるから、放課後は自習が増えそうだ」

 

 苦笑するリィンだったが、格上の相手との稽古は非常にありがたいのでその時間が少なくなるのは少し痛い。

 オーレリアを頼ろうにも、彼女はサラとナイトハルトよりも忙しい身の上だ。

 彼女が乗り気であっても、環境がそれを許さない。

 残る候補はヴァンダイク学院長であるが、彼もまたリィン達が持ち帰った情報をオリヴァルト皇子らと相談をしているようで、最近は学院で見る機会が少ない。

 そういう意味で身の入った稽古は、これでしばらく収めかな、と残念に思う。

 リィンの落胆を知ってか、ロジーヌが頬に手を当てて困ったような表情を作る。

 

「悪い。ロジーヌに言っても困るよな」

「いえ、私も法剣の修練を手伝っていただいている身ですので」

「今日は教会の手伝いだから見送ってたけど、もう帰るだけなら少しやりあっていくか?」

「…………そうですね、一手よろしいでしょうか?」

「よし、どんと来い」

 

 シスター服であっても武器は持ち歩いていたようで、ロジーヌはどこからともかく法剣を取り出し連結刃を一閃する。

 抜刀とも言うべき動作であるが、先月に比べれば無駄な動きをなくした脱力を身に着けている。

 

「今日のリィンさんなら一本取れるかもしれませんね」

「ははっ、確かに疲れてるけどまだまだ簡単には取らせないさ」

 

 ナイトハルトとの稽古で疲弊しているといえ、逆にそれが高揚による精神の充実に繋がっている。

 ロジーヌもそれはわかっているのだろう、軽口で言っている……と思っていたのはリィンだけだったらしい。

 

「そこですっ!」

 

 制服での稽古に慣れていたが、シスター服のロジーヌはどうもいつもよりキレがいい。

 まるで慣れ親しんだ戦闘装束に身を包んでいるかのような軽快な動きは、一手一手の剣さばきにも現れている。

 だが、それでも地力はリィンのほうが遥かに上。力関係はそのまま、先のナイトハルトとリィンの関係を逆転させたかのような指導へと切り替わる。

 だがロジーヌは粘る。

 リィンが彼女に近接戦闘の教練を授けて以来、はじめてと言っていいほどの長時間の一本だった。

 リィンが疲れていることもあるが、ロジーヌの気迫が違う。

 単に教会の手伝いの帰りに立ち寄った流れの稽古にしては、意気込みの差が別格であった。

 雑な力任せの攻撃をすれば、体格と筋力の差でロジーヌは弾き飛ばされてしまうが、自分から後方へ跳んだことときちんと衝撃を受け流す技術が身についているおかげで戦闘続行に支障はない。

 仕切り直しと攻め込もうとするロジーヌに、リィンはすばやく太刀を反転させて鞘に収めた。

 伍の型、残月。

 相手の攻撃をいなし、カウンターを叩き込むスタイルだ。

 それに気づいたロジーヌが足を止める。

 呼吸を整えている合間を見計らい、リィンは声をかけた。……会話をするために伍の型の構えを取ったとも言う。

 

「ロジーヌ、なんか今日は違うな」

「そうですか? 確かに服装は違うと思いますが」

「今までの稽古もちゃんと真面目に全力で取り組んでいた。けど今日のロジーヌは、まるでそうしなきゃいけない強迫観念じみたものを感じる。自主的なトレーニングだったはずなのに、まるでそれがカリキュラム……必須の事柄になってしまったみたいに」

「違いが、よくわかりません」

「趣味が仕事になった、って言えばわかるか?」

 

 ロジーヌは沈黙する。

 どこか呆然とした感情がうかがえる、気の抜けた顔。

 張り詰めていた糸がリィンによって解かれることで、ロジーヌ自身気づいていない感情が顔に出ていた。

 心は読めない。けれど、先月までの稽古と明らかに異なる心構えを持っていることは理解できた。

 

「何かあったのか? 俺が手助け出来ることならなんでもするから、言ってくれよ」

「…………いいえ、何も、ありません…………!」

 

 ロジーヌは、体と心のズレを自覚していない気がした。

 だから、リィンの言葉に肉体と精神の乖離が行われた結果――法剣から冴えは消え去り、抜刀された太刀によってロジーヌの白い手から弾かれ稽古場を転がっていった。

 

 

 あの後、ロジーヌは教会に戻ると言ってリィンに礼を言って練武場を後にした。

 普段であれば稽古の後なら軽く水分を補給した後に感想を言い合ったり、汗を流すためシャワーを浴びに行くのが常だったが、まるで逃げ去るように去る姿はやはりロジーヌの異変を感じさせる。

 とはいえ、一体彼女に何があったのかを察することは出来ない。

 故にリィンは知っていそうな人物を尋ねていた。

 

「こんに……こんばんは、ベアトリクス教官。今、少しいいですか?」

「あらシュバルツァー君、怪我かしら?」

「いえ、ちょっとお聞きしたいことがありまして」

 

 やってきたのは保健室。

 ロジーヌが先程教会の用事で薬を届けたという場所だ。

 リィンは事の事情を話すと、ベアトリクスは軽く椅子を鳴らしながら答えてくれる。

 

「あくまで私の主観ですが、確かに彼女は悩みを抱えているようでした。最近、何やら教会への薬の発注が増えていましたからね。薬を届けに来たあの子に、まず貴方のことを言ってしまったり」

「俺のこと?」

「ハイアームズ侯の屋敷まで診察に行ったでしょう? 今月の特別実習のこともあるし、また貴方が怪我をしたんじゃないか、ってついね」

「あの時はお世話になりました……気がついたらベッドの上だったので」

(フフフ、ベアトリクス教官は元帝国正規軍大佐、〈死人返し(リヴァイバー)〉と呼ばれたほどの軍医だ。彼女が来た時点でお前は助かっていたというわけだ)

 

 マクバーンとの戦いでの治療はエマがしてくれたが、彼女があの場にいなければリィンは再びベアトリクスの世話になっていたことだろう。

 

「ともあれ貴方のことを話題に出したら、一瞬だけ何か思いつめた顔をしていましたね。すぐに元に戻りましたが、悩んでいるというのであれば原因は貴方にあるということです」

「でも、心当たりがまるでないんです」

「また怪我をしたから心配、ということではないのですか?」

「そこは復帰した時に言われたので、違うとは思うんですが……」

 

 学院に復帰してすぐに生徒会活動の奉仕作業をするリィンを見かけたロジーヌが、体を心配して高級品のティアラルの薬をくれたことも記憶に新しい。

 ティアやティアラでなくティアラルな辺りにリィンの怪我の度合いが伺えるとも言える。

 

「男の子はみんなそう言って、女の子を困らせるものですね」

「いえ、そうしみじみ言われましても」

「なら怪我を控えたりは出来ないの?」

「すみません、ちょっとやりたいことを考えると、無理です」

(フフフ、息子よ。保険医の前で言うのもなかなか肝が据わっているな)

「あ、いえ。なるべく俺も気をつけてはいるのですが、何分体を気遣って成し遂げられるものではなくて」

「…………ふう、そういうところが彼女の悩みなのではありませんか?」

「うーん、そうなんですかね……」

 

 その後、ベアトリクスから助言をもらったリィンであるが、いまいちしっくり来ない。

 そもそも情報が少なすぎると判断したリィンは、再び思いついた場所へ足を向けた。

 

「ってわけで、ロジーヌに何があったか知らないか?」

「ウフフ、珍しいわね。リィン君なら私を尋ねなくても直接ロジーヌさんに突撃すると思っていたのに」

 

 来なかったのは数日くらいのはずなのに、久しぶりと感じられるオカルト研究会の部室の主、ベリルがリィンからの相談に薄く笑みを浮かべる。

 

「稽古で聞いてみたけどダメだったんだ」

「なら、そこで言えるほど軽いものではないということね。ロジーヌさんの性格を考えれば、誰かとの約束に近いのかもしれないわ」

「その心は?」

「リィン君も知っての通り、彼女は誰にでも分け隔てなく優しく接することが出来る。誰にでも平等に、対等に、差別というもの抜きにね。だから自分よりも他者からの言葉を大事にするのかもしれない、と思って」

「俺もそんなロジーヌの性格に助けられたよ。親父のことが見えないのに、まともに信じてくれたのはロジーヌが初めてだし」

 

 今にして思えば、逆にロジーヌが頭のおかしい少女と見られても仕方のない光景だったと思う。

 ロジーヌを知る相手でも、見えないところに話しかけている姿を見れば体調でも悪いのかと真っ先に心配してしまうほどに。

 

「そういえば俺って全然ロジーヌのこと知らないな」

「ウフフ、人間なんてみんなそんなものよ。親しい相手でさえ、その全てを知っているのは稀だもの」

「ベリルの場合は、教えてくれないだけだろ」

「そこは、ロジーヌさんも同じではなくて?」

「つまり、ロジーヌは何か隠し事をしてる?」

「ウフフ、誘導尋問が上手くなって何よりだわ。ただ、別にリィン君に何かする類のものではないわ」

「そうなのか? 俺のことで悩んでるって言うから、てっきり友達を裏切るなんて……とかそういう悩みと思ったのに」

(りぃんヨ。ソコハ流石ノ我モ図太イト言ウゾ)

 

 友達認定しているロジーヌが、リィンが向けるものと同じだけの友情を持っていると信じているリィンに突っ込むヴァリマール。

 リィンの言う友情とはオズぼんが見える唯一であり、従来の意味での友情とはかけ離れたものであることを忘れている。

 有り体に言えば重かった。

 

「そんなリィン君に一つアドバイス。彼女の悩みを知るファクターを求めるのであれば、混沌なる知識渦巻く櫃へ赴くがよし、よ」

「混沌なる知識……図書館のことか」

 

 ベリルとの付き合いも慣れたもので、雑多なジャンル、つまり混沌の知識が多くある櫃……部屋へ向かえということだ。

 ベリルも一瞬で自分の言葉を理解したリィンに満足気にうなずいた。

 

「ありがとな。……ロジーヌだけじゃなくて、俺はベリルのことも生涯を通じて付き合っていきたい友達って思ってるから」

 

 そう言ってリィンはオカルト部を後にする。

 残されたベリルは、リィンの残した言葉に、

 

「―――――そう」

 

 僅かに普段と違う声音を返したつぶやきは、リィンの耳に届くことはなかった。

 

 

 図書館にやってきたリィンは、部屋の主と言わんばかりに本を読み漁る少女の背中を確認して僅かな安堵を覚えた。

 彼女がここにいないと図書館ではない、とそんな錯覚すらある。

 そんな自分にだけわかる気持ちを再確認しながら図書館を調べようとしたリィンだったが、すぐにベリルがここを指定した理由を理解する。

 

(トマス教官……)

 

 士官学院で帝国史への教鞭をとる、図書館の現管理者トマス・ライサンダーがそこにいた。

 彼はロジーヌと旧知の仲ではないか、と彼女に尋ねたこともある。

 ひょっとしたら男女の関係なのかと邪推したこともあったが、他ならぬロジーヌに否定されたことで昔の知り合いと思っていたのだが……

 

(思えば、ロジーヌが普段と違って疲れた様子を見せていた時は高確率でこの人がいた)

 

 リィンの脳裏に浮かぶのは、ボウガンを持ったロジーヌと一緒に居たトマスの姿。

 あの時はトマスがロジーヌに魔獣退治の手伝いでもしていたのか、と思いすぐに違うと否定したが、行動を振り返ってみれば指摘出来る点はある。

 

「トマス教官」

「おや、リィン君ではありませんか。いかがされましたか? ひょっとして帝国史について深い興味が――」

「ロジーヌについて、詳しく教えてもらえませんか?」

「ふむ?」

 

 読んでいた本を閉じて棚に戻すと、トマスは近くのテーブルに座るよう促す。

 リィンの目に真剣さを感じて、立ち話でなく本腰で聞いてもらえるようだ。

 二人がソファーに腰掛けると、リィンが口を開く。

 

(フフフ、息子よ。直接攻めてものらりくらりと避けられるだけだ。わかっている事実だけを明らかにすればいい)

 

 オズぼんに頷き、リィンはかつてロジーヌがボウガンを手にトマスと歩いていた姿を見たことがある、と告げる。

 

「最近、ロジーヌが悩んでいるのを知りまして。ひょっとしてトマス教官、ロジーヌの性格につけ込んで何か無理を言っているんじゃないのか、と」

「つまりリィン君は、私がロジーヌ君に何か要請をしたのではないかと疑っているんですか?」

「ええ。加えて、俺がロジーヌに稽古を付けているのは知ってますよね? それが原因で学生寮まで運んだ時、たまたま居た教官に色々と質問を受けましたが……偶然にしては、回数が多い気がするんです。俺も時々トマス教官に珍妙料理を届けたりしてますが、ボウガンを使う時点でそんな和やかな依頼じゃないですよね」

「…………仮に私がロジーヌ君に何か要請をしていたら、どうするおつもりで?」

「俺に声をかけてください。ロジーヌが何をしているかわかりませんが、帝国のフィールドワークをしているとか、薬の材料調達で魔獣と戦っている、とかなら俺が手伝います」

 

 ロジーヌは法剣の技量も上がり、ボウガンと合わせることでかなり強くなっている。

 それこそラウラやフィーとだって、勝つのは難しくても良い勝負が出来るんじゃないかとリィンは睨んでいる。

 さらにトマスは帝国の伝承などに詳しいことから、フィールドワークも行っている。それにロジーヌを付き合わせて、彼女に修行も兼ねてと丸め込んで色々と無茶をさせているのではないか。

 それがリィンの出した結論だった。

 そう告げると、トマスは丸メガネの奥の目をさらに丸くしていた。

 

「あはは、いくらなんでも生徒(・・)にそこまで付き合いを求めませんよ。ロジーヌ君とは昔から縁があるだけで、仕事を手伝ってもらったわけではありません」

「…………本当ですか?」

「そう疑われても、私が彼女に出した要請は一度だけです」

 

 つまり、ボウガンを持ち制服をくたびれさせていたあの時には、何らかの要請をしたことは事実なわけで。

 

「しかし、リィン君ならばロジーヌ君の代わりに代行する、くらいは言うと思いましたが」

「経緯は知りませんが、受けたのはロジーヌですからね。彼女の意志を尊重するだけです」

 

 もしロジーヌの意志に反して強引に要請をしていたというのなら、リィンは士官学院を辞める覚悟でトマスに八葉一刀流の真髄を教え込むことだろう。

 無言の気迫を感じ取ったのか、トマスは常に浮かべる柔和な笑みを崩しながら両手を上げる。

 

「はは、私も怪我はしたくありませんし、生徒を退学させるわけには行きません。もし今後フィールドワークで外へ行くことがあれば、生徒会を通してリィン君に要請しますよ」

「そうしてください。……突然押しかけて申し訳ありませんでした」

 

 ぺこりと頭を下げるリィン。

 疑っていたのは事実だが、ロジーヌが引き受けた結果であるというなら自分が口を出すことは出来ない。

 故に体を出して彼女の負担を和らげてやる、とリィンは覚悟を新たにする。

 結局ロジーヌの悩みを知ることは叶わなかったが、今度は教会へ行って教区長さんとかに話を聞いてみよう、とリィンはトマスに一礼して図書館を出ていく。

 颯爽と走り去っていったリィンに、図書館は走らないようにと告げながら、トマスはぽつりとつぶやいた。

 

「しかし、ロジーヌ君が……思いの外、彼女もリィン君に入れ込んでいるということでしょうね」

 

 あるいは……と、その先に続けた小声は、誰に聞こえることなく図書館に染み渡っていった。




エマが初日から魔女バレしたことで、秘密持ちの絆キャラがロジーヌへ移り変わる不具合。
トマスとロジーヌの星杯騎士団バレを、二週目限定クエストにしたのはどうしてなんでしょうね。
Ⅲでわかることなのになぜ二週目に…
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