はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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 急遽思いついたので割り込んだ双子(主に妹)とのお話。
 特別実習の日とクエストの時系列がズレてますが、そこはタグにあるご都合主義ということでお流しください。
 いつも誤字報告ありがとうございます。


フフフ、息子よ。双子を見たことはあるか?

 フィーが所属する園芸部の裏にある池で、リィンは餌もつけずに釣り糸を垂らしていた。

 今回は釣る気がなく、考え事をするために精神統一の一貫として釣りを行っているためだ。

 ロジーヌの異変(リィン命名)から一日が過ぎた。

 リィンは教会を訪ねて教区長やシスターにロジーヌについて話を聞きまわったが、あまり芳しい成果をあげることは出来なかった。

 どころか、法剣を使った修行の相手をしていると言えば皆一様に驚いていた。

 

(ロジーヌは教会の手伝いの縁で法剣を譲ってもらったそうだけど……)

(フフフ、法剣が送られたことは周知のようだが、それを実際に使っているという話が出回っていない以上、ロジーヌ嬢は教会ではその話をしていないということだな)

 

 騎神のデータ収集のサポートという名目で始めた法剣の訓練だったが、どうもロジーヌと教会で意思疎通が取れていない気がする。

 あのロジーヌに限って、そういう報告を怠っているとも思えない。つまりロジーヌは教会の人達に黙って特訓をしている、ということになる。

 だったら、何のために? というリィンの考えはそこから先に進まない。

 これが何の関係もない相手なら無遠慮に踏み込んで暴くところだが、ロジーヌにそういうことはあまりしたくない。

 そうやってうんうんと悩むリィンの背に、声がかけられた。

 

「あなた、リィン・シュバルツァー君だよね?」

「うん?」

 

 リィンが振り向いてみると、そこには桃色の髪の少女が空のバケツを覗き込んでいた。

 緑色の制服は平民生徒を証明し、下ろした髪が背中にかかるほど長い。

 その特徴的な容姿は以前、トールズマラソンをしたさいに見かけたことがある。

 

「確か、リンデだったっけ?」

「え……? うん、うんうん。そうなの。リンデです」

 

 リィンが尋ねると、一瞬だけきょとんとした顔を作り、そこからすぐにうなずいた。

 髪が濡れて湿っているのは、シャワーでも浴びて来たからか。少し、シャンプーの良い香りが鼻孔をくすぐった。

 一瞬だけ浮かべた悪戯っ気が伺える表情に、リィンはこんな子だったか? と記憶を辿ろうとし――

 

「まあまあ、それより何をされているんですか? 今日は全然釣れてないみたいですけど」

「いいや、今釣れた」

「へ?」

「餌もないのに、自分から食いついてきた元気の良い子だよ」

 

 リィンが釣り竿を引き、糸しか垂らしていないことを見せる。リィンの言葉を反芻していたリンデが、あ、と間の抜けた声を漏らす。

 どうやら自分がその魚であると気づいたようだ。

 不満気に頬を膨らませるリンデに、よく表情が変わる子だなとリィンは彼女の印象を改める。

 

「むぅ、意地悪そうって印象は同じですね」

「悪い悪い、こういう言い回しをしてみたかっただけでさ。それで、俺に何か用件でもあるのか?」

「え、ああ。単に興味本位、です。最近、部活の子が貴方のことをよく話していたのがきっかけで。前から遠回しに眺めているだけだったけど、その子から聞くのと噂とでズレがあったのが気になりまして」

「それでわざわざ話しかけてきたのか。案外暇というかなんというか」

「ええ、まあ、そんな感じで。それで、リィン……さんは今日の初釣果が私みたいだけど、一体何をされちゃうんです?」

 

 大仰に自分を抱きしめるリンデ。

 食べられちゃいます~とのたまっているが、互いに冗談をわかっているのでリィンは呆れ声を出そうとして――

 

「そうだな、リリースするのはやぶさかじゃないけど、どうせなら一つ釣果らしく、その身柄を俺に預けてもらおうか」

「へ?」

 

 

 ブティック〈ル・サージュ〉にやってきたリィンは、リンデのアドバイスを聞きながらロジーヌに送るプレゼントを画策していた。

 様々な服飾品が立ち並ぶ店で物色するリンデは、あれでもないこれでもない、と楽しそうにショッピングをしている。

 

「身柄を預かるなんて言われたから、女好きって噂ホントだった? って思っちゃいましたけど、こういうアドバイスならどんと来いです」

「悪いな、義妹にならプレゼントを送ったことはあるんだけど、同い年の子に渡すのは始めてなんだ。それに、ロジーヌなら何でも受け取ってくれそうな気がするから、逆に難しいというか」

「よく教会で手伝いをしている子ですよね。毎日早起きしてすごいなーって思ってました」

「知ってたのか?」

「クラスは違いますけど、教会で手伝いをしている生徒、っていうのも珍しいから結構話には上がりますよ。なにせロジーヌさん、美人だし」

「わかる」

「んー、この組み合わせはどうですか?」

 

 力強く同意しながら、リンデが手に取る服を見やる。

 今にして、制服やシスター服以外のものをロジーヌが着るだろうか、と。

 送られたら断ることはないだろうが、せっかく送るのであれば悩みの解消に繋がるものがいいのではないかと思い直してきた。

 

「いや、選んでもらって悪いけど服はやっぱり止めていいか?」

「どうして?」

 

 リィンは不満そうなリンデに、その理由を説明する。

 そうするとリンデは意外にも素直に頷いてくれた。

 

(ほう、年頃の娘らしい振る舞いと思いながら思いの外に素直だな)

(ソモソモ、初対面ノ相手ニろじーぬヘノぷれぜんとヲ選ンデモラウトイウノモ、オカシナ話ダ)

 

 ヴァリマールはだいぶ人間の機微を理解してきたらしい。

 

「でもロジーヌさんに悩み……クラスも違うしそんなに話したことがなかったけど、あの子もそういうことあるんですね」

「やっぱり他のクラスから見ても、ロジーヌって悩みなさそうに見えるか?」

「ええ。誰にでも優しいし、極端なものはダメでもある程度なら受け入れてくれるので。……うん、やっぱりリィンさんが選んだほうがいいと思います」

「それを悩んでて……」

「とりあえず、ロジーヌさんとどう出会って、今までどんなことを話したか教えてもらえますか?」

 

 興味津々といった瞳を隠しきれないリンデ。

 リィンは頬をかきながらも、オズぼんのことには触れずに今までのロジーヌとの思い出を語っていく。

 

「すごい、知らない間にそんな青春していたなんて!」

 

 恋バナと勘違いしているのか、目をキラキラさせるリンデ。

 敬語も忘れて素に戻っている。

 だがすぐに落ち着きを取り戻すと、スニーカーが置かれたジャンルへとリィンを引き連れていく。

 これは? と目で質問するリィンに、リンデはぽつぽつと語りだす。

 

「私は二人のことを詳しく知らないけど、ロジーヌさんはリィンさんとの稽古に力を入れていたんですよね? なら、靴とかすぐにダメになっちゃうかも、って思って……」

 

 ものは使い続ければ潰れてしまう。

 特に運動を主とする道具の消費は激しい。

 武芸者であるリィンも、それはよくわかる。

 何せ先月今月と愛用の太刀をダメにしてしまい、服もよくボロボロにしている。

 リンデの言葉には一理あった。

 幸い、観の眼ではないが、常人より高い観察力はロジーヌのブーツのサイズは把握している。

 自分はそういったことには縁はないけど、とリンデはおちゃらけるように笑う。

 

「ありがとう、せっかくならストレガー社の良い奴でも送るよ」

「わっ、お金持ち」

 

 手にとったブーツの値段に目を剥くリンデ。

 リィンは幼い頃から修行と称して魔獣退治をしてセピスを稼いでいたり、マラソンの一貫でユミルの何でも屋めいた依頼をこなしており、浪費する趣味もないので地味にお金を持っている。

 一万を超えるミラもぽんと出せるくらいには懐は暖かかった。

 代金を支払い、ブーツを箱に納めてもらったリィンは袋に入れたそれを抱えてリンデに向き直る。

 

「ありがとう、それじゃあついでにもう一件いいか?」

「うーん、まあ、ここまで来たらお付き合いしますよ」

「助かる」

 

 そう言ってリィンが訪れたのは、街のガーデニングショップだった。

 リィンはそこである花の種を購入し、それをリンデに渡した。

 

「え、リィンさん……?」

「良かったら園芸部で育ててやってくれ。……ヴィヴィ、でいいよな?」

「…………そこで明かすならせめて名前はちゃんと覚えて。でも、いつから?」

「最初は気づかなかったけど、前にリンデと話す機会があってな。あの子は気が弱く見えたし、こんな積極的じゃなかった。何より、俺のことを怖がっていたからな」

 

 思い出すのは、美術部のクララへ物を届けに行ったときだ。

 生徒会活動の奉仕作業の一貫として訪れたさいに、ガイウスと軽く挨拶程度に話した後にリンデにも声をかけたのだが、リィンの噂を知っていたのか小動物のように愛らしい怯えっぷりを披露してくれた。

 そんな彼女がいきなり自分に声をかけてくる、なんて考えてみればおかしいことなのだ。

 リンデ――に化けた双子の妹ヴィヴィに理由を告げると、してやられたと手で顔を覆った。

 

「まさか事前に知り合っていたなんて……よくトールズを走り回っていたし、考えればわかることだったかな」

「知り合いってほどでもないさ。今も声かけたら怯えられるかもしれないし」

「んー、そうでもないと思うわよ? リンデも当時のことを気にしてたみたいだから」

「そうなのか?」

「そもそも、私がリィン君に話しかけてみようと思った動機がリンデからの話だしね」

 

 ヴィヴィ曰く、同じ美術部のガイウスからリィンのことを聞いて自分が噂を鵜呑みにしていてリィン本人を見ていなかったことを気にしていたそうだ。

 謝りに行きたいけどその勇気が中々……といったところにヴィヴィが一肌脱いでリィンに話しかけたということだ。

 

「ほんとは偶然なんだけどね。園芸部で汚れちゃったから、シャワーを浴びて戻って来てみたらリィン君が居てさ。それでつい」

「なるほどね。ちなみに俺がヴィヴィ、って判断出来たのは、フィーから君のことを聞いてたからだ。園芸部には双子の姉妹の妹が居て、美術部に所属してる双子の姉がいるって」

「フィーちゃんと? なんかかなり意識してるっぽかったけど、仲良いんだね。やっぱり噂はアテにならないかー」

「その割には、かなり衝動的に動いてるよな?」

「あはは、まあなんだかんだ誤解も解けたみたいだからいいじゃない? でもさ、なんでプレゼントが種なの? 花じゃなくて」

「釣り上げた魚には餌を上げないと」

「わーい餌だー、って違うでしょ!」

 

 両手を上げて喜んだのも一瞬、すぐにがーっと喚くヴィヴィ。なかなか良い反応である。

 

「プレゼントっていうならもっとさー、〈ル・サージュ〉に戻らない? ちょっと欲しい服もあったし……リィン君お金持ちっぽいし、余裕でしょう?」

「一気に俗っぽくなったな……ロジーヌへのプレゼントだから奮発したんだよ。それに、初対面の男から服を送られても困るだろ?」

「面識なかったけど、お互い知っていたみたいだし、これはもう知り合いと言って過言ではないのでは?」

「過言です」

「ちぇー。でも、やっぱり噂は噂ってよくわかった。こんな面白い人とは思わなかったわ」

「そんなに面白いことしたか?」

「うん、色々とね」

 

 笑みを浮かべるヴィヴィに、リィンは今までの行動を思い返すがそれらしいことは浮かばない。

 

(親父、俺ってなんかしたか?)

(フフフ、息子よ。年頃の娘の気持ちは世界一わからないものだ)

(自信持って言う割に情けないぞ)

 

 そんな風に花屋の前で会話をしていると、店員の女性がヴィヴィをじっと見ていることに気づく。

 店の邪魔になるか、と思ったリィンがヴィヴィを連れて離れようとすると、店員は何やら花を持ってヴィヴィに渡した。

 

「気づくのが遅れてごめんなさいね、はい、ご注文のスノーリリィ」

「え……?」

「美術部のリンデちゃんでしょう? 可愛い子だから覚えていたわ」

「あ、えっと私はヴィヴィと言いまして。リンデは双子の姉です」

「あら、そうだったの? 勘違いしちゃってごめんなさいね」

「その話だと、リンデから注文を受けていたんですか?」

「ええ。取りに来るって話を聞いていたから、てっきりそうだと思ってたんだけど……」

「リンデったら絵に夢中で忘れてるのかも。あ、それじゃあ私が代わりに届けますよ」

「あら、いいの?」

「どの道この後に姉のところに顔を出す予定だったので」

「そう、だったらお願いするわ。代金は受け取っているから、そのまま持っていってね」

 

 礼を言って、二人はトールズ士官学院の美術室へと向かう。

 ロジーヌが教会の手伝いを終えるのはまだ先なので、リィンも彼女に付き合うことにする。

 せっかくなら今誤解を解いておこう、と言えばヴィヴィも了承してくれた。

 そうしてやってきた美術室は、常に黙々と作業をするクララをよそに一人の少女が油絵を描いていた。

 集中して作業するさまは美術部員らしいが、集中しすぎて注文の品を忘れるというのはかなりあわてんぼうなのだろう。

 

「リンデー、描いてるー?」

「あら、ヴィヴィ……に、あっ」

「えーっと、久しぶり、でいいのかな」

「あああああああああああ!」

「うるさい、作業の邪魔だ」

 

 リンデが絶叫すると、クララから彼女に向けてノミが投げられた。

 威嚇のつもりなのでリンデに直撃するコースではないが、それでも危ないと判断したリィンはその軌道にすっと人差し指と中指を差し込んでそれをキャッチする。

 この程度の速さを見切ることは、造作もないことだった。

 

「おっと」

「うわっ、リィン君すごっ!」

「……………え?」

「ヴィヴィ、今のうちに渡してあげたらどうだ?」

 

 そう言ってリィンは指に挟んだノミをクララへ返す。

 クララはリィンの動きにほう、と興味を抱いたのも一瞬、すぐに返却されたノミを受け取って作業へ没頭していく。

 ある意味職人の極地だなあ、とリィンは目標に向かってひらすら突き進む姿に共感を覚え、自分も頑張って強くならなければとその姿に励ましを受けた。

 リィンが戻る頃にはリンデはヴィヴィから一通りの説明を受けていたようで、椅子の上から恐縮しそうに彼を見上げていた。

 

「あ、あのリィンさん……」

 

 もじもじと体をまごつかせながらも、リィンはリンデからの言葉を待つ。

 ヴィヴィはそんな姉の姿に可愛いなあ、と楽しげに眺めていた。

 

「以前はごめんなさ――」

「だからうるさい」

 

 再び投擲されたノミを捌きながら、リィンは消沈してしまったリンデを慰めながら美術室を出る。

 その姿を見て笑うヴィヴィに軽く呆れながらも、場所を変えたところでリィンはリンデに頭を下げられる。

 

「改めて、前は不愉快なことをしてしまって申し訳ありません……」

「いや、気にしてないよ。でも、謝罪はちゃんと受け取っておく。うーんそれにしても、やっぱり本物は口調に雰囲気出るんだな」

「どういう意味―?」

「ヴィヴィはリンデの真似をしていても、要所要所で地が出てたからな」

「あらら」

「それに、スノーリリィのことまで……」

「そこはある意味ヴィヴィのおかげだな。双子のおかげでもあるかな? 店員さんがヴィヴィをリンデと勘違いしていたから知れたことだし」

「リンデなら、部活が終わった後に尋ねてもう店は終わってました、なんてこともあったかもしれないしね」

「そ、そこまではいかない……ゎょ……」

 

 声がだんだん小さくなる辺り、自覚はあったのだろう。

 その姿に苦笑しながら、リィンは話を切り替える。

 

「さて、それじゃあ俺はここで失礼するよ。ガイウスを尋ねてまた来るかもしれないけど、その時はよろしくな」

「はい、その時はちゃんと改めてお話を伺いたいです」

「ああ、姉妹揃って釣り上げられちゃうのね……」

「釣り上げ……?」

「うふ、今日はリィン君に釣り上げられて街を巡っちゃったのよ」

「え、それって……?」

「こら、せっかく話を元に戻したのにこじらせるな」

「あは、ごめんごめん。まあ今日の出来事はゆっくり話してあげる」

「まったく。それじゃあな二人とも。ヴィヴィもアドバイス助かった」

「うん、ロジーヌさんによろしくね」

 

 親指を立てるヴィヴィと、ぺこりと頭を下げるリンデに手を振り、リィンは教会へ向かう。

 手伝いを終える時間までロジーヌを待ったリィンは、改めて彼女にプレゼントを渡す。

 結局悩みのことを聞き出すことは出来なかったが、無理のないロジーヌの笑顔を見てゆっくり解決すればいいか、と彼女への気持ちを改めるのであった。




リンデの出番を期待した方は少なめで申し訳ありません。
顔合わせみたいな感じだったので、多分ガイウスとの個別回でユーシス回のポーラみたいな感じで出番があるかもしれません。
多分。
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