はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

40 / 200
五月の特別実習、Ⅶ組A班との個別の話し合い。ガイウス編。
いつも誤字報告ありがとうございます。


フフフ、息子よ。風と女神の加護を

「ガイウス、今いいか?」

「どうした、リィン」

 

 エリオットを吹奏楽部へ送り届けて色々な相談をした翌日、リィンは放課後に美術室へと向かっていた。

 アリサ、エリオットというリィンとエマ以外のA班メンバーが特別実習で悩みを抱えていたため、ひょっとしたらガイウスにもそういったものがあるんじゃないか、と稽古の予定を変更して訪れたのだ。

 リィンがガイウスを訪ねた理由を話すと、彼はデッサンを続けていた筆を置く。

 何を描いているのか気になって見てみると、なんと機甲兵のイラストがそこには書き込まれていた。

 精密な模写というわけではなく、ふわっとした感じであるものの、直接見たリィンからすれば紛れもなく機甲兵に見える一枚だった。

 

「見ている時間は一時間もなかったが、記憶にある限り再現してみた。流石に曖昧すぎて教官達には見せられないが、上手く完成すれば手助けになると思ってな」

「悩みどころか、自分に出来うる手助けをしようと考えていたんだな。流石ガイウスだ」

「流石、はリィンもだろう。知っているぞ、学院に復帰してからサラ教官やナイトハルト教官に模擬戦を挑んでは実力の向上を図っている、と」

「最近は二人も忙しくてご無沙汰になっちゃってるけどな」

 

 どうやらガイウスは、リィンが稽古をしていることを知っていたらしい。

 言った覚えはないのだが、ガイウスなら知っていてもおかしくはない、という安心感を覚える。

 ……とリィンは思っているが、良くも悪くも存在感のある彼の行動は、基本的にニ、三日の内には学院中に広がるほどの有名人であることを彼だけが知らない。

 

「ただでさえ他のクラスの生徒の面倒を見ているのだろう?」

「ロジーヌのことだな。めきめきと上達して、法剣……ワイヤーが付いて、剣の軌道が蛇みたいに曲がる特殊な武器の扱い方もさまになってきてるよ」

「教会でよく見かけるが、あんな優しそうな彼女が剣を取る、というのも意外なものだな」

「そういえばガイウスは教会でよくお祈りしているな。入学式の日もしてた気が……」

「俺もリィンを見た。まさかその足で遅刻して、翌日から行方不明になるとは思いもよらなかったが」

「俺もだよ」

 

 苦笑していると、近くで驚いた目で二人を見る視線を感じた。

 リィンがそちらに目を向けてみると、急に振り向いたことで目を丸くするリンデの姿があった。

 

「あ……」

「リンデ、話の内容が気になったのか?」

「ご、ごめんなさい。盗み聞きなんてはしたない真似を……」

 

 ガイウスの指摘に顔を赤くするリンデ。

 リィンは苦笑しながらひらひらと手を振って、気にしてないとアピールした。

 

「いや、気にしてないからいいよ。せっかくだし、何があったか教えようか? 噂を鵜呑みにしない、って言ってたしな」

「いいんですか?」

「いいさ、今はクララ先輩もいないしな」

 

 前にノミを投げつけられたことを思い出したのか、リンデが顔を青くする。

 顔を赤くしたり青くしたりよく表情の変わる子だな、と思いながらリィンは入学式の件を一から説明した。

 ただし、エマの転移についてはハイアームズ侯からの助力だと置換する。

 これはハイアームズ侯から提案してくれたもので、数日の欠席に対するフォローとしてありがたく使わせてもらっていた。

 

「はあー……あのハイアームズ家から要請って。すごいんですね、リィンさん」

「たまたま、偶然だよ」

「いや、縁というのはどこで何が繋がっているかわからないものだ。後に振り返ってみれば、それが必然であった、ということもあるからな」

「人と人の出会いは因果ってことだな……」

「それは俺もここに来て実感している。特にⅦ組との出会いは運命のようなものだと、な」

 

 あまりにも堂々とした言葉にリィンは軽く感心する。

 リンデもほえー、とその自信に満ちた言葉に声を上げていた。

 

「フフ、どちらかと言えばリィンの影響だと思うがな」

「そうか?」

「胸に手を当てて考えてみるがいい。お前はいつも嘘偽りなく、噂に惑わされることもなくリィン・シュバルツァーという自分を隠すことなく見せている。それはお前が思っているよりも、Ⅶ組や皆に影響を与えているものだ。リンデも案外、そうなんじゃないか?」

「え? そ、そうでしょうか……」

「噂を信じていたのは周りの影響もあっただろうが、リィンはどこ吹く風と過ごしていた。それが巡り巡ってヴィヴィからの接触に繋がり、こうして誤解が解けたわけだからな」

「で、でも私がそう思ったのはガイウスさんからの言葉のおかげですし……」

「だが、それでちゃんとリィンを見るようになったのは紛れもなくリンデの決断だ。リンデは俺の言葉だけでリィンに謝ろうと思ったわけではないのだろう?」

「は、はい。四月の頃は噂だけで判断してましたけど、五月になってから横暴な振る舞いの貴族に面と向かって意見したり、平民生徒を助けてくれる割合が増えたとか、不良以外の話も聞こえてきてました。それに……四月の段階で、奉仕作業と言ってもトリスタ中を走り回っては人助けしていたリィンさんも見ていたので……」

「そういうことだ。リィン、これはお前があるがままの自分を貫いた結果と言えないか?」

 

 面と向かって言われるのも気恥ずかしくなったリィンは照れを誤魔化すように頬をかく。

 

(フフフ、息子よ。パトリック君のこともそうだぞ? お前がサザーランド州に飛ばされただけなら、彼は未だに平民を見下し、お前のことも浮浪児と社交界の噂で判断して絡んで来ていたことだろう。だがお前はトールズへ帰るときにも人助けを忘れず、特別実習でも魔獣飼育施設を潰す手助けをした。それらが彼らを曇らせていた目を晴らしたわけだ)

(称賛ハ素直ニ受ケ取ルガイイ。ソレガ、互イノタメダ)

 

 オズぼんやヴァリマールからもそう言われたリィンは、素直にガイウスからの言葉に感謝を告げる。

 それに釣られるように、リンデもまた改めてリィンにぺこりと頭を下げた。

 

「おいおい、リンデまでやらなくていいだろ」

「あ、すみません。なんか釣られてしまって」

「フ、仲良きことは美しきかなというものだ」

 

 それはまた微妙に例えが違う気がするぞ、と言いながらしばし三人で談笑しているとクララが美術室へ戻ってくる。

 見慣れぬリィンに一瞥したが、すぐに自分の作品を作るべく椅子に座り黙々と像を彫り始めた。

 

「うーん、自分を偽らないっていうのはクララ先輩にこそ相応しい気がするな」

「あはは、確かにそうかもしれませんね」

「俺も先輩のああいうところを見習って、腕を磨いていきたいものだ」

 

 三人で頷きあい、リィンはクララの居る場で雑談をするわけにはいかない、と美術室を後にしようとする。

 だが、そこにガイウスが待ったをかけた。

 

「リィン、これから稽古か?」

「ああ、学院が閉まるまで体を動かそうと思ってたけど……」

「もし良ければ、後で俺も参加させてもらえないだろうか?」

「構わないけど、部活はいいのか?」

「今日はクララ先輩の用事もあって、遅くまでは活動しないという話だからな。問題ない」

「わかった、それなら一足先に汗を流してる」

「感謝する」

「リィンさん、お稽古頑張ってくださいね」

 

 ああ、とガイウスとリンデに頷きリィンは練武場へ向かうのだった。

 

 

 自分だけで行う稽古というのは型の反復や素振りといったものが基本となる。

 だがリィンは灰のチカラなるロア・ヴァリマールを持っているため、騎神の影とも言えるそれと直接刃を交えることも可能としていた。

 

「りぃん、未ダ一撃ハおーれりあニ至ッテイナイ」

「ちっ……緋空斬――七の太刀・刻葉」

 

 ロア・ヴァリマールの灰の光線を妨害しながらリィンは分け身と合わせて駆ける。

 縦横無尽にロア・ヴァリマールを切り裂くリィンの一撃はエネルギー体のそれを瓦解させていくが、瞬時に修復された体から繰り出される巨腕を太刀で受け止める。

 

(フフフ、息子よ。今のは残月でカウンターを入れられるところだ。オーレリア嬢であれば、あそこから突進して腕を斬り飛ばして仕留めてくるぞ)

「ありありとその光景が浮かぶのがすごいよな……」

 

 オーレリアとの戦いを経験したのはオズぼんとヴァリマールも同じのため、ロア・ヴァリマールをサンドバッグ兼組手の相手をする場合はオーレリアとの対比を告げることで基礎力の底上げを行っていた。

 戦技を使わずにロア・ヴァリマールを無効化するオーレリアとの差を噛みしめるたびに、自分はまだ強くなれるとリィンは己を鼓舞した。

 

「やっているな、リィン。待たせたか?」

 

 仕切り直しに鬼の力を使おうとしたリィンだったが、ガイウスが来たことで止める。

 ロア・ヴァリマールも解いて納刀し、近くに置いた水筒で喉を潤していく。

 

「っ、ふー……いや、大丈夫だよガイウス。そっちも機甲兵の絵は上手くいったか?」

「まだまだ、といったところだな。どうもあの姿よりも、溶けた後のほうが印象に強く残ってしまっている」

 

 機甲兵は西風の猟兵やマクバーンが片手間に出した焔で片付けられてしまったが、普通に考えれば脅威に他ならない。

 比較する相手が悪いというのは、難しいものだった。

 

(フフフ、息子よ。後でエマ嬢を尋ねるといい。彼女ならば記憶の底から機甲兵の姿をすくい上げる魔術も知っていよう)

 

 言われて、すぐにその可能性に思いつかなっったことにリィンは反省する。

 友人として、友が持つ力と可能性に気づかなければならなかった。

 

「ガイウス、後でエマに相談してみよう。エマならきっと鮮明に思い出せるはずだ」

「む、委員長がか? 彼女は彼女で最近忙しいようだったが……」

「指摘するくらいなら大丈夫だろうさ」

 

 最近のエマは、時間を作ってはエリンへ転移してローゼリアの師事を受けていると聞く。

 シュミット教室に文芸部もあるのに大変だな、と言えばリィンさんには負けますと何故かため息をつかれた。

 リィンは生徒会活動の奉仕、シュミット教室、ロジーヌの稽古、トリスタや学院での自主的なマラソン、釣り、今もこうして行っている自主練など行動の範囲がとにかく多岐に渡る。

 エマはそのことを言っていたのだが、最早それらが習慣となったリィンは自分がしていることに無頓着であり、実感していないのだ。

 

「それでガイウス、今日はどうして声をかけてくれたんだ?」

「……俺も、あの特別実習に思うことはあってな。もっとも皆ほど深刻なものではないが」

 

 そう言ってガイウスは槍を取り出す。

 リィンはガイウスの悩みを察して水筒を適当に転がし、太刀を抜き放った。

 

「ウォレス准将との稽古のことか?」

「ああ。今の俺があの人に槍を届かせるのは難しいとわかっている。機甲兵のことで悩む皆を差し置いて自分のことを優先するようで気が引けるのだが……」

「みなまで言わなくていいさ。――悔しかった、ってことだろ?」

「ああ。リィン達が領邦軍の兵士達との練武を行っている間に、准将と俺とで個別に話せる時間を設けただろう? あの時に色々と聞いてな」

 

 帝国におけるノルド人や外国人の認知度をはじめ、独特な風習の違いに苦労したことやそれでも帝国に骨を埋める覚悟をするまでの様々を聞いたらしい。

 それこそもっと話をしていたかったそうなので、実は手紙のやり取りも行っているそうだ。

 

「ウォレス准将とそんなことを……」

「だから俺に送られたノルドの茶葉といった、故郷を感じるものを時折おすそ分けしているな。喜んでくれているようで俺も嬉しい。だが……」

 

 ガイウスの気迫が槍に伝わる。

 

「武を尊ぶ帝国に置いては、何かを成すにしてもこれが必要だったらしい。それだけではないが、これに助けられたことは数え切れない、とな。俺自身、あの特別実習でもっと強ければリィンを助けに行けたと幾度も思った。たとえそれが蟷螂の斧だとしても」

「ガイウス……」

 

 仮にあの時のA班全員が揃っていたとしても、マクバーンが最後に見せた鬼の力のような変身……あれがある限り無意味なものだったと、過酷な現実(りせい)が告げる。

 ガイウス自身も自覚している。

 リィンの強さはⅦ組もよく知っている。そんなリィンが死にかけたという時点で、相手の実力も推し量れるものだ。

 だが、それでもと。

 言葉以上に伝わる気持ちが、穂先からリィンに届く。

 それに応じるように、リィンは太刀を穂先に重ねた。

 

「なら、強くなろう。お互い、目標とする相手に届くように」

「ああ。胸を借りるぞ、リィン」

 

 そうして二人は武器を打ち合った。

 当然一対一ではガイウスはリィンに槍を届かせること叶わなかったが、己に足りない部分へ即座に斬撃を飛ばしてくるリィンにガイウスはやり甲斐を感じる。

 リィン自身の訓練には、鬼の力を解放したリィンにロア・ヴァリマールと戦術リンクを結んだガイウスとニ対一の稽古も行った。

 ロア・ヴァリマールに対しても驚きはしたが、冷静にリンクを結んだガイウスはやはり器が大きいと再確認する。

 流石に鬼の力、それもエリンのペンダントにより暴走の心配なく力の深度を増したそれを前には、ガイウスとロア・ヴァリマールの二人もたまらず膝を折った。

 だがガイウスはこれに手応えを感じたのか、なんと灰のチカラとARCUSを連動させることでオズぼんがオーダーと名付けた力に開花した。

 面食らうリィン。オーダーに目覚めたガイウスとロア・ヴァリマールによる連携は彼らにタフさを与え、リィンは応じるようにギアを上げた。

 だがオーダーを以てしてもリィンに膝を折らせることは出来ず、ガイウスは苦笑しながらも次は槍を届かせると意気込み新たに稽古を切り上げた。

 

「そうだガイウス、絵は持ってきてるか?」

「いや、美術室に置いてあるが……」

「ならエマに連絡するから、取りに行ってくれないか? 部屋で完成させて、明日サラ教官に提出しよう」

「フフ、拙速はリィンの持ち味といったところか」

「完成度が高いのは悪くないけど、それに拘っていたら足止めしちゃうからな。ま、臨機応変に、だよ」

「わかった、ではリィンは先に寮へ……」

「別に寄るところはないから、学院の前で待ってるよ。俺は連絡するだけだから、ガイウスこそゆっくり持って来てくれ」

「なら、その言葉に甘えよう。また後でな」

 

 そう言って一旦ガイウスと別れ、リィンはARCUSでエマに連絡を入れようとして……少し思案した後、別の相手にかけた。

 やや時間はかかったが、目的の相手は出てくれた。

 

「も、もしもし? これでよいのか?」

「はい。通じてますよローゼリアさん」

 

 おお、とARCUSの向こうで驚く声がする。

 リィンはローゼリアにARCUSを慣れさせるために、エマに直接でなくローゼリアを通じて間接的に伝えようとしていた。

 

「ふーむ、文明というものは進化するものよ。妾がドライケルス達と駆けた時代では文が最大の伝達手段じゃったしな。もちろん、妾達の念話を除くが」

「はは、導力革命以降、技術の進歩は人間の歴史とも言うべきものですからね。ともあれ、エマはそちらにいますか?」

「うむ、先程妖精の湯へ汗を流しに……おお、エマ。シュバルツァーからじゃぞ」

「え、リィンさん?」

 

 ARCUSの向こうでエマの声が遠く聞こえてくる。

 予想通り、今日もエリンに帰省していたようだ。

 ややあって、エマはARCUSに出た。

 

「リィンさん、どうされましたか?」

「ちょっとお願いがあるんだが――」

 

 リィンはガイウスが機甲兵の模写に挑戦していることを伝えると、彼女はすぐに応じてくれた。

 

「そちらは考えが及びませんでした……早速覚えた魔術が役立ちそうです。ガイウスさんのお部屋に行けばいいですか?」

「いや、まだ学院に居るから寮に近づいたらまた連絡するよ」

「わかりました、お待ちしてますね」

「温泉から出たばっかだろ? 湯冷めしないか?」

「いえ、大丈夫ですよ。転移ですぐに帰りますので、ご心配なく」

「わかった、それじゃあまた」

「はい……ほらおばあちゃん。電源切ってみて」

「う、うむ。えーっとここがここで……」

 

 試行錯誤をしていたのか、十秒ほどかかってローゼリア側の通話が途切れる。

 そんなローゼリアの姿を思うと微笑ましい気持ちになりながら、リィンは学院の前でガイウスを待つ。

 そうして寮へ戻ったリィン達は、エマが新たに覚えた想起の魔術により機甲兵の模写を完成させ、翌日にサラへと渡されるのであった。

 




リィンとガイウスの絡みが予想以上に書きやすいことが判明。これが風の導きか…
ローゼリアもかなり書きやすいです。
エマは言うに及ばずですが、やんちゃ系弟属性高まってるここのリィンには、保護者属性の高いキャラや精神が幼いキャラと相性良いのかもしれませんね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。