はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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六月の特別実習について回。
いつも誤字報告ありがとうございます。


フフフ、息子よ。今月も大変なことになりそうだ

「ご紹介します。こちらが騎神に詳しい職人のガンドルフさんです」

「おう、よろしく頼まあ」

 

 旧校舎で開かれるシュミット教室の実験場にて、リィンはエリンからやってきたガンドルフを以前話した外部協力者としてシュミットに紹介していた。

 リィンは気軽に踏み込んでいるが、仮にもエリンは魔女の隠れ里のためガンドルフのことはかつて騎神に関わった一族の職人だと紹介する。

 間違ってはいないので問題ない。

 

「そこの坊主に騎神用の太刀の調達を頼まれてな。そいつを運んで来たってわけだ」

 

 魔女の眷属といえ、今のゼムリアは導力革命による文化が広がっている。

 外の知識も吸収しているガンドルフには、導力車の扱いも手慣れたもので一旦トリスタの外へ導力車ごと転移して運んで来てもらったわけだ。

 ちなみに転移はローゼリアが担当している。

 彼女もここに来て欲しかったが、魔女と紹介するならともかく技術者という立場で訪ねるには、あまりにも彼女は子供だった。

 そのため、ガンドルフが派遣されてきたわけだが……

 

「ほう、EXオーブか……」

「すげえなアンタ、魔煌兵を鹵獲したのは聞いてたけど、そいつを餌にして同じ波長のものを探査、霊脈から引っ張ってくるとか普通じゃねえ」

「フン、こんなものデータが揃っていればそう難しいものではない。だがこちらも聞きたいことがある。EXオーブなるもの、取り付けられるのは騎神だけか?」

「いや、坊主のARCUSを通じてヴァリマールは戦術リンクを結ぶことが出来るんだろう? その繋がりを利用して――」

 

 初対面にも拘らず、なかなか意気投合をしているようだ。

 時折、静と動の皮肉と罵声が混じるのはご愛嬌といったところか。

 

「ヴァリマール、太刀はどうだ?」

「ウム。りぃんノ八葉一刀流ハヨク見テイル故、戦技ハトモカク武装トシテ使ウコトニ問題ハナイ」

「…………普通、騎神って話に聞く機甲兵と同じで乗り込むタイプなんじゃねえのか?」

「えっと……バンダナ先輩」

「名前覚えてねえのかよ、クロウだ。クロウ・アームブラスト」

「失礼しました、クロウ先輩」

 

 本体と戦術リンクを結んだヴァリマールと会話をしていると、背後からクロウが話しかけてくる。

 外に漏らすことはしないがシュミット教室の面々にも機甲兵なる存在は話しており、現在の技術で作った騎神や魔煌兵と似たようなものだと言えば皆納得してくれた。

 だがそんな中でもクロウだけは微妙な表情をしたままで、今も顔を向けるのはヴァリマール本体のほうである。

 

「先輩、ヴァリマールと話したいならここにいますけど?」

「いやだから、なんか慣れねえんだって。なんでお前の心臓から騎神の声が聞こえて来るんだよ」

「そうは言われましても、俺自身どうして取り込めたのかわからないですし」

「マジかよ……」

「我モ気ガツケバりぃんニ宿ッテイタ」

「腹話術の芸人で食っていけるレベルだぞ」

(フフフ、息子よ。私とヴァリくんと三人でユニット結成だな)

 

 クロウには見えていないようだが、さらにオズぼんが居るのでもし腹話術だとしても、親父の声が聞こえるならそれはそれで嬉しいなとリィンは破顔する。

 だがクロウから見れば芸人扱いに喜ぶリィンに、理解出来ないという瞳を向けた。

 

「ところでクロウ先輩は何かご用ですか?」

「あーいや、一応シュミット教室の仲間なわけだし? 騎神に新しい装備が付いたってなら気になるだろ」

「だったら先輩も戦闘データ収集に参加すればいいのでは?」

「無理無理、騎神と生身で戦うなんて頭おかしいだろ普通は」

 

 確かに最初の頃は自分よりも数倍の身長を持つ巨体と対峙することに緊張があった。

 武器のない手足だけの攻撃といえ、避けても風圧で体勢が崩され本体が足を踏みしめるたびに揺れる大地にバランスを崩すこともあった。

 だが灰のチカラという異能を獲得したことで、そちらも問題なくなったのだから構わないのでは? とリィンは思っている。

 

「つーか、なんでお前はそんなに熱心なんだよ。この騎神だって明確に欲しかったわけじゃなくて、偶然手に入れただけなんだろ?」

「最初はそうでしたけど、今はどうしても追いつきたい人がいるので。下手をしたら、騎神本体のヴァリマールでも倒せないほどの」

「一体何を追いかけてるんだよ」

「劫炎のマクバーンって人です」

「……誰だよ、それ」

 

 一瞬だけ、クロウが言葉に詰まった気がした。

 少しでもマクバーンの情報がほしいリィンは、無意識にそこを突く。

 

「もしかして知り合いですか?」

「いや、会ったことはねえな。ってか誰だよって言ったよな俺」

「ブリオニア島で会ったんですが、機甲兵も一瞬で溶かせるすごい人なんですよ」

「やばい人の間違いだろ。それってつまり、魔煌兵とか騎神でも燃やせるってことだろ?」

「ともあれ、せっかくならクロウ先輩手合わせどうですか?」

「ともあれの意味がわからんっつーの。どういう流れで誘ってんだよ、一拍会話を挟め」

「だって、先輩強いですよね? 本気でやればサラ教官やナイトハルト教官にだって劣らないのに」

 

 リィンの指摘にぎょっとするクロウ。

 クロウは騎神との戦闘データ収集には一度も参加せず、ジョルジュやミント、ムンクと同じく端末を弄ってデータを打ち込む後方支援のポジションだ。

 だがリィンは独自の感覚で、彼の強さを見抜いていた。

 鬼の力の制御の一環で、リィンはとにかく力の流れを掴む感覚が鋭い。

 自らを通して起こす気の波紋とも言うべき感覚の湖の中で、クロウはその響きに対して穏やかに流れを通すものの、その先に発生している渦巻きに吸い込まれるイメージを受けるのだ。

 このイメージは近づけば穴に落ちる……一件穏やかな流れに見えて危険という、一種の擬態だ。

 つまりクロウは本来の実力を隠している、とリィンは考える。比較対象に出したサラとナイトハルトのイメージは、それぞれ浮島と岩である。

 ちなみにオーレリアやマクバーンは、リィンの起こす波紋に小揺るぎもしない巨木と触れた瞬間に蒸発する焔のイメージであった。

 当のクロウは何を言っているんだ、と瞳が物語っていたが、リィンが無言で見返せばやれやれと手を振った。

 

「俺は別にそこまでじゃねえよ」

「無理強いはするつもりはないので、そういうことでしたらさっきのは流してください」

「だったら最初から言うなっての」

「でも、まず言葉にしないと伝わりませんから」

「ま、そこは同意するぜ」

 

 話はそこで一度途切れる。

 別の話題を振ろうかと思ったリィンだったが、そこに割り込む声があった。

 

「クロウ、少しいいかな?」

「ああ、大丈夫だ。そんじゃな後輩」

 

 ちょうどやってきたジョルジュに声をかけられたことで、自然と会話は流れていく。

 二人は親友同士のようだが、ジョルジュはクロウ本来の実力を知っているのだろうか?

 

(フフフ、息子よ。彼が気になるか?)

(いや、鍛錬に付き合ってくれたら嬉しいな、って思っただけだよ。教官達やⅦ組のみんなが時々手伝ってくれるようになったけど、相手は多いに越したことはないし)

(フフフ、まるで戦闘狂だな)

(マクバーンさんがそこまで強くなければ、こうする必要もないけどな。相応の強さを身につけないと、興味すら持ってもらえないから仕方ない)

 

 まだまだ遥か頂に立つ相手を思い、リィンはシュミットとガンドルフに呼ばれ、二人の元へ向かった。

 

 

「やあサラ君。わざわざ僕に個別の連絡してくれるなんて嬉しいよ」

「お忙しい中申し訳ありません、殿下」

 

 サラは自室の机で様々な資料の乱雑に置きながら、トールズの理事の一人オリヴァルト皇子にARCUSで連絡していた。

 幸いにもオリヴァルトの手は空いているようで、ほんの少しの会話時間を設ける。

 

「気にしなくていいさ。それで用件というのは何かな? 僕としては、今日のディナーへのお誘いなんかでも嬉しいけど」

「お酒を奢っていただけるならやぶさかではありませんが、今月の特別実習についてです」

「なるほど、そちらの用事か。構わないよ、ディナーに誘えたとしても、その話題を避けるつもりはなかったからね」

 

 サラの言葉に、オリヴァルトの声のトーンが切り替わる。

 放蕩皇子と揶揄されるオリヴァルトであるが、それは彼の一面でしかない。

 真面目に問題に取り組むことがあれば、彼は思慮深い一面も見せることもあるのだ。Ⅶ組を発足させたのも彼であり、自国を出て漫遊する放蕩皇子と噂される部分だけの男ではない。

 

「でも、わざわざ僕に連絡を求めるってことは、帝国内はルーレ、もしくは帝国の外への実習を考えているのかな?」

「お察しの通りです」

「まさか、ルーレへ直接切り込む、と考えていたり?」

「いいえ、残念ながら最も怪しいと思われるラインフォルトの第五開発部は未だに見つけることは叶いませんので、時期尚早と思われます」

「フフ、案外『彼』を送ればあっさり見つけてしまいそうな気がするけどね」

 

 彼――リィン・シュバルツァーのことを出されてサラが沈黙する。

 教官としてはあまり積極的に採用したくはないのだが、彼が動く先で何らかの帝国の問題がことごとく明るみに出ることは否めない。

 生徒会の奉仕活動を通して生徒や住人と触れ合うことを楽しそうにこなすさまは、遊撃士としての適性も高そうだと思ったことは一度ではない。

 先月の特別実習で、オーレリアからの要請を受けた結果機甲兵という存在が明るみに出たことは素直にリィンを褒めてあげたくもあった。

 しかし、西風の旅団ともまた違う、謎の人物によってリィンが負傷した報告を受けた時は自分の選択を悔やんだことに違いもない。

 帝国の闇が暴かれる反面、体は保証しない。

 つまるところ、大局を取るか個人を取るか。

 リィンを動かすというのは、それに尽きる。

 

「リィン君に関しては、早速水面下での動きもあるようだしね。ハイアームズ侯やオーレリア将軍は元より、アルゼイドにヴァンダールといった二大武門、伯爵であるイーグレット家からも彼について尋ねられたよ」

「一体何をしてるのよあの子は……」

 

 ハイアームズ侯やオーレリアは直接面識があるからわかる。

 ヴァンダールもクルトという、ヴァンダール家の次男と知り合っていたのでまだ理解出来る。

 だがアルゼイドにイーグレットがどうして、という気持ちが拭えない。

 アルゼイドがリィンに興味を持つ理由があるとすれば、ラウラから何らかの報告があったということだろう。あるいは光の剣匠が剣仙から何かを聞いたのか。

 イーグレットに関しては、本当にわからない。

 オルディスで負傷したリィンを預かってくれた場所なので、数日の間に気に入られたということもありえるが。

 

「今は中立の穏健派からの動きしかないが、おそらく今後は主だった《貴族派》が介入することも予想出来る」

「機甲兵の存在が明るみになった場所を考えれば、ラマール州……カイエン公爵からの何らかの牽制はありえるかもしれませんしね」

 

 ただでさえリィンは灰の騎神を動かすことが出来る。

 思っていたのと違うが、あの騎神がひとたび動けば強大な軍事力として効果を発揮するのは間違いない。

 報告では西風の旅団の連隊長二人に完封されたともあったが、エマには悪いがリィンが動かしていれば結果は違ったと思う。

 と言っても相手は西風の旅団。それも連隊長というのだから、仮にその場を騎神で制圧出来たとしても、逃げ道を残すくらいのことはするだろう。

 散々苦渋を舐めさせられた故の信頼がそこにあった。

 

「そこでだが」

 

 オリヴァルトの声音が変わる。

 何を持ち込むつもりなのだろう、とサラは直感で次の言葉を待った。

 

「確か、次の実習地の候補にノルド高原が上がっていたね?」

「はい。すでにコンタクトは取っていますので、片方はそちらに決定済みです。もう一つの候補はオルディスだったのですが、先月の段階で済ませていますからね。あとはノルディア州……やはりリィンをルーレに送るのですか?」

「いいや、片方がノルド高原というのなら、もう一つも帝国の外を候補にすればいいと思ってね」

「ノルド以外の外……クロスベルやリベールでしょうか? 流石に共和国は難しいと思いますが……」

「いいや、あまり君に直接言うのもどうかと思うが、そういった案もあるという提案だよ」

 

 そしてオリヴァルトが言った実習地の候補に、サラは思わず椅子から立ち上がった。

 

「殿下、一体何をお考えで……?」

「『彼』の狙いの一つは、きっとそこだからね」

 

 オリヴァルトの言う『彼』は、リィンのことではない。

 リィンに対しては親しみや年下の子供に向けるような庇護を滲ませる愛情があったことに対して、その『彼』のことを語るオリヴァルトには闘争にも似た熱が存在していた。

 鉄血宰相、ギリアス・オズボーン。

 それがオリヴァルトの語るもう一人の彼であった。

 

「故にサラ君、君は当然生徒達に付いていくのだろうが……もし私の告げた候補に赴くのであれば、君が実習中は側にいればいい。そうすればリィン君を止めることも出来るだろう。ノルドに関しては、ゼクス中将なら上手く取り計らうことも出来るだろう」

 

 サラは考える。

 本当にこれはオリヴァルト皇子が提案したものなのだろうか?

 確かにオリヴァルトは帝国の行く末、行き着く先において常に考えている。

 だがその中で積極的に生徒を利用する、といった動きは極力廃止していたはずだ。

 Ⅶ組の発足理由にしても、決してオリヴァルト独自の遊撃隊を求めてのことではない。

 

(成果を、上げすぎた? いいえ、仮にそうだとしてもオリヴァルト皇子はそこを突いてくる人じゃない。誰かの思惑が絡んでる? でも、だとしたら誰の……)

「これは、私が決めたことだよ。あるいは、彼が起こす波紋を見極めたい、とも。どちらにせよこれはあくまで提案にすぎない。最終的な判断は彼らの担任である君に任せるよ、サラ教官。ただ……どんなことであれ足掻くのなら、まずは動いてみるのがいいと思うけどね」

 

 その後、他の案件を話したがサラの脳裏を占めるのは、やはり今月の特別実習地についてである。

 候補を外して何度か書き直しても、一度浮かべてしまったそれが頭から離れない。

 書きなぐるように記されたノートには、こう記されていた。

 

 A班:エマ、アリサ、ラウラ、ユーシス、ガイウス。実習地はノルド高原。

 B班:リィン、マキアス、エリオット、フィー。実習地はノーザンブリア自治州。

 ただしB班は、サラ・バレスタインを案内役とする――と。

 




というわけでやってしまいました、六月の特別実習地はノーザンブリアです。
土地の名前もハリアスクとかその辺しかわからないので、かなりふわっとした描写で進みそうな気がします。
省略したり、会話多めのストーリーだけ進める感じになりそうな。
ちょっとやってみたいネタがあったので、結局ノルドでなくこちらに行ったリィン君の活躍にご期待ください。
ほんとファルコムさん、北方戦役を体験出来る外伝なり断章のDLCとかやってください…

ミリアムに関してはⅦ組に来てから本格的に絡んでいこうと思うので、ノルドでの出会いに期待していた方は申し訳ありません。
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