誤字報告いつもありがとうございます。
「一体君は何を考えてるんだ!」
「僕達一緒に寝たはずだよね? どうして途中で抜け出した上にそんな大怪我する羽目になってるのさ!」
リィンを搬送したサラの家では、騒ぎで起きたエリオットとマキアスがベッドで眠るリィンに詰め寄っていた。
時刻は日付を変更した深夜零時。
応急処置を終えて意識を取り戻したリィンは、場にいる全員に夕食を取った後のことを報告していた。
「そもそも、なんで抜け出したりしてるのよ……」
「いえ、なんか寝付けなくて。でも結果的にヴァレリーって子を助けられた上に、フィーも死んだはずの父親と再会出来たし言うことなしでは」
「言うことあるわよ! あんたそもそも寝なさい、って私の言葉に頷いてたわよね? なんでいきなり約束破ってるの!」
紫電の名に相応しい反射でツッコミを入れるサラ。
リィンが保護したヴァレリーを送り届けて帰ってみれば、家に灯りがついていて何事かと思えばまたリィンが重傷を負っていたのだ。
今回は生徒に怪我をさせない、と息巻いていたサラにとってこの結果はショック以外の何者でもなかった。
「いえ、俺も寝ようとはしたんですよ? でも、教官に返事をした後に家に入ろうとしたら視線を感じたんです。それも、なんだか不穏な感じの。それで寝る前に確認しておこうと思ったら……」
「団長が居た、と」
「そもそも猟兵王は死んだはずだろう? フィー、本当にルトガー・クラウゼルだったのか?」
「うん、私が間違うはずない。あれは西風の旅団長その人だった」
トヴァルは頭を抱えながらフィーに確認するが、その返答は彼が求めるものではなかった。ある意味求めてはいたが、出来れば間違って欲しかったというものだ。
「死んでいなかった……そんなはずない。なら、甦ったってことか?」
「そんなこと、ありえるんですか?」
「ゼムリアには色々と不思議なことは多いけど、死者蘇生の話なんか聞いたことがないよ」
「でも、フィーが確認したんなら本当なんでしょうね。加えて騎神持ちだなんて……」
思い直してみれば、紫色の騎士人形、あれは機甲兵か魔煌兵に類似するものではなくヴァリマールと同じ騎神であると判断した。
セリーヌにも確認してみたが、騎神の波長を感じたそうなので間違いないだろう。
(でも、まさか紫がここに居るなんてね……灰の準備、しておいたほうがいいんじゃない?)
(そうだな、いざとなったらヴァリマールの本体を呼び出す必要が出てきた。エマにも連絡して伝えておこう。しかし、騎神ってちゃんと乗り込めるものだったんだな……)
(あれが本来の乗り方で、アンタの使い方がトンチンカンすぎるのよ!)
ふしゃー、と突然興奮するセリーヌに驚く面々をよそに、リィンはセリーヌを抱き寄せて大人しくさせる。が、よけい抵抗が激しくなったので諦めた。
それでも爪を使わず、肉球でぺしぺしと顔を叩く辺り怪我をしたリィンを気遣うセリーヌの優しさが伺えた。
「こほん、騎神の名前はゼクトールって名前でした。前にベリルから聞いた話と照らし合わせれば、紫の騎神のことかと思います。……まさかヴァリマール以外の騎神をここで見るなんて」
「ウム。ドウヤラ帝国ニ戦乱ノ兆シアリ、ノヨウダナ」
「お、おう? リィン、お前さんからなんか別の声が聞こえてくるんだが……」
「そう言えば、トヴァルさんにはまだ挨拶してませんでしたね」
「灰ノ騎神、ゔぁりまーる。ソノ思考しすてむダ。とゔぁる、見知リ置キ願オウ」
「……………ああ、よろしくな!」
「あ、思考放棄した」
たっぷり返答に時間をかけたトヴァルが、満面の笑みを浮かべる。
破天荒な人物と知り合うことが多いため、彼なりの処世術と言えるだろう。
つまり、どう足掻いても苦労人となる宿命の下で生きているようだ。
「魔獣飼育施設、機甲兵、騎神……ヴァリマールの言うことを信じるなら、帝国の水面下で争いの影が差しているってことね」
「西風の旅団はカイエン公の護衛だったんですよね? なら、領邦軍が何か企んでいるということでしょうか」
「可能性はかなり高いな。機甲兵の残骸も、調べにいった正規軍が欠片も見つけることが出来なかったそうだ。そこまで隠蔽しているってことは……」
(フフフ、息子よ。正規軍と領邦軍の関係を照らし合わせてみるがいい。自ずと答えが見えるはずだ)
「《革新派》への対抗戦力……内戦?」
ぽつりと、リィンがつぶやく。
オズぼんへの返事だったが、その言葉で真っ先に反応したのはマキアスだった。
「そんなはず!……いや、ありえる、のか?」
「マキアスがバリアハートで捕まった経緯を思い返すと、《貴族派》は直接関わってないマキアスを人質に取るくらいには、《革新派》を排除したいって考えてるよね」
「じゃあ、本当に一連の流れは内戦の準備ってこと……?」
「小競り合いならともかく、軍用魔獣や機甲兵の運用、トドメに騎神まで領邦軍が抱えているのに、何も起こさないってことはないだろうな」
「…………たとえ材料が揃っていても、断言するのは早いわ」
サラが懸念するのは、ルトガー・クラウゼルの生存もだがもし内戦となりそこに騎神が使われた場合のシュミット教室……ひいてはリィン達の処遇である。
現状、灰の騎神を動かすことが出来るリィンやエマ達といった生徒は戦況次第では戦力として投入される可能性が高いからだ。
そして内戦を止めるため、ひいては友人を守るという理由があればリィンは躊躇なく参加するかもしれない。
故にサラは教官として、生徒を止めなければならない。
「でも、事を起こされてからでは遅いのでは?」
「かと言って、証拠がない限り流れは変わらないわ。《貴族派》が先か、《革新派》が先かの違いだけよ」
「トヴァルさん、遊撃士は介入出来ないんですか?」
「残念だが、不可能だな。前にも言ったが、遊撃士が帝国に介入することが難しい。民衆を守るって名目で介入したとしても、泥沼になる未来しか見えねえ」
「確たる証拠を掴むなり、動きを抑えて事前に処理するのが理想の流れってことですね……」
「やっぱり正確な情報が欲しいですね。またルトガーさんを見つけて情報を引き出すのが一番か。でもルトガーさんは俺の分け身が追いかけてはいますが、騎神の速さに追いつくのが難しいので、あまり期待しないほうがいいかもしれません」
「そう…………」
(……ん? 分け身ってそんな便利な代物だったか? 違うだろ? でも、サラや他の奴らが特に驚いていない。…………とにかく便利ってことだな、うん)
トヴァルは素早く意識を切り替えて別の話題を提供する。
わからないことは、深く考えてドツボにはまる前に手を引くのが賢明だ。
それから全員でああでもない、こうでもないと夜通し話を続けていく。
だが深夜2時を超えたところで、一度頭を冷やすという名目で全員が休むことになった。
今度はトヴァルもリィンが使っていた場所で寝ることになる。言わずもがな、リィンへの監視だ。
ベッドはリィンが使い、簡単な仕切り布をかけて全員が雑魚寝とあいなって、一日目……すでに二日目となっているが、彼らの初日は終わりを迎えた。
*
「……………リィン、起きてる?」
「ん?」
全員の寝息が聞こえる深夜。
リィンは枕の傍で寝るセリーヌの声がしたのかと目を向けてみるが、彼女は体を丸めてすやすやと寝入っている。
なら誰だ、とまぶたを開けると、顔を向けた先にはフィーの顔があった。
(フフフ、息子よ。フィー嬢がベッドに潜り込んで来たという、淡い期待でもしたか?)
(するか!)
馬鹿なことを言うオズぼんを放置しながら、リィンはよくフィーを観察する。
どうやら彼女はベッドに肘を置き、体を乗り出してリィンに迫っているようだった。
園芸部の影響なのか、フィーの髪からは土と花の香りがした。
(フィー、近いぞ……)
(でも、これくらいでないとサラやトヴァルが起きちゃう)
フィーは寝ている皆に配慮しているのか、小声かつ距離を詰めているらしい。
普段であったり、昼間なら特に問題ないそれも、ベッドの上というだけでリィンはなぜか妙な焦りを覚えていた。
(そ、それで、一体どうした?)
(ん、お礼。言う前にリィンは倒れちゃったし、回復した後も話し合いに時間取られて言う暇なかったし……)
(別に明日でもいいだろう。なんでこんな遅くに……)
(すぐ言いたかっただけ。深い意味はない)
フィーも自分の行動に羞恥を感じているのか、少し気恥ずかしげに顔をそらす。
どんな理由であれ、年頃の少年が寝るベッドに近寄る少女という現状に違いはないのだからそれも当然だろう。
(改めて、ありがとねリィン。正直、突然過ぎて、驚き過ぎて、なんだか心がほわほわしてるけど……また団長の声が聞けて、私のことを褒めてくれたってことがすごく嬉しくて)
(……ルトガーさんは、死んだって話だったよな)
(うん……とっても、いっぱい、悲しかった。また会えるなんて思ってもいなかった。さっきまで寝てたし、リアルな夢? なんて思ったりしたけど、リィンの声も聞こえてそうじゃないって思ったんだ。と言っても、はじめはARCUSに連絡が来た時、リィンの腹話術? なんて馬鹿なことも思っちゃったけど)
(俺の腹話術は残念ながら…………ヴァリマールくらいだな)
つい親父と言いかけてしまい、すぐさま訂正する。……こうして思うのは、かつてほどオズぼんのことがわからない相手でも、そこまで悲しくならないことだ。
側にいるセリーヌ、遠く離れたノルドで同じく頑張っているエマ、トリスタの寮で寝ているはずのロジーヌにベリル、心臓に宿ったヴァリマール、ローゼリアを筆頭とするエリンの里の魔女達やヴィータ、現在の目標であるマクバーン。
思えば色んな人がオズぼんを見えるようになっている。
それはある意味、死んだ父親の声が他の人にも伝わることを喜ぶフィーに似ているのかもしれない、と漠然と思ってしまう。
(……………………)
(どうした、フィー)
急に無言になってしまったフィーを訝しむリィン。
フィーはうろたえるように、唸るようにリィンにも聞こえないさらなる小声で何か口元を動かしているが、やがて意を決したようにリィンに近寄ってきた。
(何? 何なの? 俺、何かしたの?)
(お願いが、あるの)
動揺するリィンに、フィーは潤ませた瞳を向けてくる。
一体何を言われるのかとハラハラしていると、フィーは顔を引いて頭を差し出してきた。
(頭、撫でて欲しい)
(………なんで?)
(さっき、団長と思ってリィンに抱きついちゃった時……どうしてか、団長と勘違いしてた。だから、頭撫でてもらって、違いを確かめたい)
(ちょっと何言ってるのかわからないんだが)
突然のお願いに、リィンは混乱してしまう。
そもそもフィーは自分のことをライバル視していて、こういうお願いをしたりされたりする関係ではなかったはずだ。
(フフフ、息子よ。思春期の少女の行動を推し量ろうとしないことだ。どんと構えて受け入れて、その上で対処するがいい)
(情けなさすぎる……)
(では、私の溢れ出る父性がお前を通じてフィー嬢に伝わったのだろう)
(絶対違うから安心してくれ)
(ダメ? それとも、まだ体痛む? だったらいいけど……)
体を気遣いながらも、どこかしょんぼりとした顔を見せるフィー。
その姿にリィンは、言葉を多用して本音を誤魔化すエリゼのことを思い出していた。
かつて風邪を引いたエリゼを見舞った時に、風邪が伝染るからとリィンを遠ざけようとしながらも、言われた通り離れようとした時に見せた寂しげな顔だ。
ルトガーと出会ったことで、リィンとの距離感を忘れるほどにアンニュイな心を刺激されたのかもしれない。
そう思うと、自然とリィンの手がフィーの頭に伸びる。
(あ…………)
(寝たままで悪いけど、これでいいか?)
(ん、だいじょぶ)
しばらく、フィーの気が済むままに頭を撫で続ける。
さらさらの髪は猟兵稼業をしていたと思えないほど滑らかで、質の良い絹のような感触をリィンの手に与える。
女性の髪はケアが必須と聞いたことがあるが、フィーも案外そういったものを嗜んでいるのかもしれない。
それでも
フィーはむぅ、とか、ん、など感情を言葉に出していたが、リィンには読解不可能なものだった。
やがて満足したのか、ゆっくりと頭を引くフィー。
ありがと、と言って寝床に戻ろうとするフィーに、リィンは声をかけた。
(それで、どうだった?)
(やっぱり団長とは違う。団長の手はゴツゴツしてて、大きくて無遠慮だった。リィンの手はそれに比べたらゴツゴツしてるのは同じだけど、小さいし、なんか遠慮を感じる)
(人にさせておいてなんて言い草だ)
(でも)
悪態をつこうとするリィンだったが、フィーは最後に言葉を付け足した。
(心がポカポカするのは、一緒だったよ。それじゃ、おやすみ)
そう言って寝床に戻り、一分もしないうちにフィーの寝息が聞こえてくる。
結局、フィーは何がしたかったのか。
そのことを悶々と考えているうちにリィンのまぶたはだんだんと重くなり、気づけば彼も静かな寝息を立てて眠りについていく。
(フィー、甘えん坊だったんだな……)
最後に、そんなことをぼんやりと思った。
*
リィンを強引に休ませることになった特別実習二日目、B班は彼を除く三人でノーザンブリアでの要請を行っていた。
トヴァルの仲介の下、ノーザンブリアの自警団も兼ねる北の猟兵が対処出来ない仕事の代行が今回の依頼となる。
本日の午前中の要請は、手配魔獣の退治、昨夜起きた原因不明の地震の調査。午後は生きた木材の調達に教会の手伝いである。
原因不明の地震の調査に関してはリィンとルトガーの戦いによる影響だと判明しているため、放置しても構わないとのことだった。
生きた木材というのは、塩化の被害を逃れた建築などの材料に使える木の確保に当たる。
異変の影響を受けた木は、たとえ塩化した部分から無事な部分を切り取ったとしても満足に使うことが出来ない。
家屋や薪に使おうとしてもすぐに壊れたり、焚き火に使う火力程度では燃えない軽度の不燃性であったり、いわゆる死んだ木として放置されているようだ。
そのため、生きた木材……ちゃんと使える材料の確保は急務と言える。
ちなみにリィンの午前中の監視はトヴァルに任せ、午後からはサラが代わりを務める予定だ。
「再調査で何かわかるかもしれないし、木材の調達以外の行く行かないは君たちに任せるわ」
「全部やりますよ。先月や先々月の特別実習も、何一つ漏らすことはありませんでしたからね。リィンがいないから何も出来なかった、なんて言わせませんよ」
「ん、同感。リィンが復帰する明日も、代わりに全部解決する勢いで私達が頑張る」
フィーがそう言うと、エリオットがなんとも言えない表情で彼女を見ていた。
その視線の理由が気になったフィーは、特にためらうことなくエリオットに聞いてみる。
「どしたの、エリオット」
「いや、その……フィーってば張り切ってるなーって」
「確かに、普段だったら眠そうな目で面倒とか言うな。やはり死んだ父親との再会が大きかったのか?」
「そだね……そんな感じ」
「あはは、そうだよね~」
会話自体におかしいことはないが、やはりエリオットは何か含みがあるようにフィーは感じた。
「エリオット、言いたいことがあるなら言って。何か気になる」
「うえ? え、えっと……」
「どうしたのよエリオット、気になることがあるなら言いなさいな。ノーザンブリアでは僅かな情報も大事よ」
「い、いえ。ノーザンブリアとかそういうことではなく……実は昨日、なんとなく目が覚めちゃった時にリィンとフィーの会話を聞い――むぐっ!」
隠していた理由を明かした途端、フィーは凄まじい速さでエリオットの口を塞いだ。
音の聞き分けに優れたエリオットの聴覚は、いかに小声であったとしても二人の会話が耳に入っていたらしい。
切羽詰まった表情かつ無言で首を振り、フィーはエリオットに二の句を継げさせない。
だがそんなことをすれば、興味が湧いてしまうというのが人間であり……
「はーいはいはい、フィーちゃんそこまでよ」
「ちょっ、サラ!」
サラがにんまりとした笑みを浮かべながら、フィーを背後から抱え込んでエリオットから引き離す。
次いで宣言されたものは、フィーにとって大いに羞恥心を刺激される言葉だった。
「それじゃエリオット、一体二人は何を話したのか教えて頂戴。さっきも言ったけど、ノーザンブリアでは情報が大事だからね」
「おかしい! 個人情報はノーザンブリアと関係ない!」
「いえいえいえいえ、やっぱり、猟兵王のこととか、色々あるじゃない?」
「絶対違う!」
羽交い締めされるフィーにはサラの顔が見えないが、きっといやらしい顔をしていると確信していた。
そしてそれは正解である。
マキアスが引いた目でサラを見ていることに気づいていながら、彼女は気にせずエリオットに続きを促した。
「エリオット、エリオット。言ったらひどいよ」
「ぼ、僕は言う気は……」
「それじゃあ教官命令。昨日の会話教えてくれないと、単位考えちゃうぞ?」
「卑怯者!」
「教官、流石にそれはどうかと思うんですが……」
「だーってリィンのせいで頭痛いんだもの、少しは発散させてもらわないとね」
「私関係ない!」
「エリオット。真面目な話、どうなの? 本当にプライベートってことならここで終わるけど、猟兵王のこととか、昨日共有されてない会話だったら言って欲しいんだけど」
一瞬で真面目な顔に代わり、フィーを離すサラ。
最初からそんな顔をしていれば、とマキアスは渋面を作っていた。
「えーっと、至極プライベートなこと、です」
「はー、なんだそうなの。何フィーったら、リィンのベッドに潜り込んだりしたの?」
「……………えーっと」
「………………マジ?」
エリオットの沈黙に、サラとマキアスの視線がフィーに集まる。
フィーはフィーで昨日の自分の行動を思い返して、首に巻いたマフラーに顔を埋める。
でなければ、赤くなった顔を見られてしまうからだ。
が、顔は見れずとも耳は赤く、その仕草でサラは察していた。
この子は本当にリィンのベッドに潜り込んだのだと。
「起こしたの!? 間違いを起こしちゃったの!? みんなが居る中で、公開しちゃったの!?」
「っ!」
仰天するサラに羞恥心が天井を超えたフィーは双銃剣を抜き放ち、一片の躊躇なく発砲した。
だが仮にもトールズ士官学院の教官にして元A級遊撃士、《紫電》の二つ名を持つサラである。
フィーの銃撃を簡単に避け、生徒同士の禁断の一夜の妄想をはばかることなく口にしていく。
満面の笑みを浮かべるサラは、普段反応しないフィーのリアクションを新鮮に感じているのか、ストレス発散を兼ねたからかいモードに移行しているらしい。
サラの言う『間違い』が実際に行われていれば、流石にサラやトヴァルが気づく。故にサラはわかっていてフィーをおちょくっているのだ。
だが冷静さを失ったフィーは、サラの口を強引に閉じんと最近の特訓により開発した
そして追いかけっこを始める二人に、マキアスは真実をエリオットに尋ねた。
「で、実際はどうだったんだ?」
「フィーの名誉を守るために言うけど、基本的にはお礼だったよ。死んだと思っていた父親と再会させるために、リィンは大怪我をしたみたいだから。ただ、その後にフィーのお父さんとリィンを比べるために、頭を撫でてもらっていたってだけ」
「ふ、ふむ。確かにこっそり頭を撫でてもらった、なんて言うのは恥ずかしいな」
「あはは、でも僕はそんなフィーの行動でようやく彼女が年下だって実感したよ」
元猟兵で、今年入学した生徒の中でもトップクラスの実力を持つ少女。
どこか浮世離れして周囲との常識の差に壁を感じていたようだが、エリオットはそんなフィーの壁を壊したリィンに改めて尊敬の念を抱いていた。
自分が同じ立場だったとしても、あんなに体を張ってまで誰かのために動けただろうか? その時になるまでわからないが、きっと身がすくんでしまうのだとエリオットは自嘲する。
だから躊躇なく誰かのために必死になれるリィンを、素直にすごいと思った。
「なんだかんだ、リィンって頼れるよね。僕の相談にも乗ってくれたりしたし」
「む……まあ、ただの不良じゃないことは確かだな」
「はは、不良だなんてもう思ってないくせに」
「ぐぐ。とはいえ、毎度毎度特別実習明けを休む彼が悪いんだ。たまにはまともに活動すればいいものを」
「本人からすれば、きっとまともだと思っているんだろうけどね」
その結果、水面下で少しずつ動いていた領邦軍と思われる一連の流れに気づけたとも言える。
そういう意味では、リィンが一番特別実習の成果を上げているだろう。
「そう考えると、負けてはいられないな。いや、そういう考えはノーザンブリアという土地に対して失礼か……」
「意気込みのやり方は人それぞれなんだから、大丈夫じゃないかな。それじゃ、僕達も頑張って要請を片付けていこうか」
珍しくエリオットから突き出した拳に、マキアスは軽く驚きながらも拳を返す。
こつん、と軽く手の甲同士を合わせる少年達をよそに、大人げない教官とそれを追いかける生徒の争いは、さらにヒートアップしていく。
冷静になるまで続いた追いかけっこのせいか、午前の要請だった手配魔獣は怒りのはけ口としてフィーのストレス発散に使われていった。
フィーが勝手に動いて夜会話が追加されました。
まあ死んだと思っていた父親に会わせるために頑張った姿を見てしまったら、是非もないよネ。