はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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午後といいつつ夜まで。
いつも誤字報告ありがとうございます。


フフフ、息子よ。六月の特別実習だ⑥

 午後の要請、木材の調達。

 まだ緑が残る場所へ赴いたB班はこれからの作業に顔を曇らせるのもつかの間、木材調達は予想以上の捗りを見せた。

 なんとなく、程度のものであるが鬼の力を目に使った霊視を使えば、どの木が塩の異変を受けているか否かを判別出来たのだ、

 影響がある木には白いオーラのようなものがまとわりついており、そうでないものは普通の木に見える。

 いやらしいのが、見た目は普通の木なのに中身が塩害の影響があるというものもあったが、それもリィンが見れば問題なく判別出来る。

 最初は訝しんでいたB班だが、リィンの灼眼による目利きと死んだ木の感触を知っているサラが実際に確かめたことで納得してくれた。

 よってサラのブレードとフィーの双銃剣の刃が木々を切断し、エリオットとマキアスが持ってきたロープで固定していく作業となる。

 周囲の魔獣はロア・ヴァリマールだけで倒すことが出来るので、誰かが手持ち無沙汰になることもなく順調に作業は進んでいく。

 いくつか束ねたそれをロア・ヴァリマールが持ち運び、それを繰り返せば要請は完了だ。

 

「なんか順調過ぎて、強制送還とか脅されたのが嘘みたいになってきました」

「あんたが色々規格外すぎるのよ……」

「悪いことはないんだし、気にしなくていいんじゃない? 木だけに」

 

 フィーの冗談に軽く息をつくサラ。突っ込む気力もなくなっているようだ。

 エリオットは先程のヴァレリーとの会話でモチベーションを取り戻したのか、汗を流して作業に復帰している。

 木を切るよりも簡単な作業といえ、何本も重ねた丸太を固定するのはそれなりの重労働だった。

 

「そもそも人の力で縛ったものだと、途中で解れたりしないだろうな」

「なら、ロア・ヴァリマールで縛るか?」

「そうしたら硬すぎて解けなくなりそうだよ」

「それもそうか。にしても教官、ノーザンブリアの資源ってこんな簡単に切り崩していいんですか?」

「……生きるための処置だからね。導力機械が満足に使えない層のほうが多いから、やむなくの処置なのよね。ミラを稼いだ先から食料に変換されるから、冬に備えて暖を取る準備は必須なの」

「まだ六月なのに……」

「もう六月、とも言えるわね。色々準備してると、時間なんてあっという間よ」

 

 サラの言葉の節々からリィン達にはわからない、ノーザンブリア独自の過ごし方が伺える。

 疑問も解消したところでリィン達は依頼者に木材を届ける。

 普段北の猟兵達が伐採するよりも多くの木材を届けたことで、過剰ではないかというほどに礼を言われた。

 

「本当に助かります……これで今年は凍死する者の数も減るでしょう」

「とっ……!」

 

 マキアスがその言葉に絶句する。

 エリオットも目を見開き、フィーはさもありなん、というように瞳を伏せていた。

 

「導力革命以降、七曜石のおかげでエネルギー問題はほぼ解決されていたかもしれませんが、ノーザンブリアでは焚き火を起こすのも一苦労ですからね……」

「戦術オーブメントで……」

「マキアス、俺達は当たり前のように持ってるけど、これって一応貴重品だぞ?」

「うっ、そう言えば……」

 

 依頼者はそんなリィン達にやり取りに苦笑する。

 外国人だと気づいているようだったが、それでも何も聞かず偏見の目を向けることもない。

 木材の調達というのは、それだけ彼らにとっての生命線の一つということなのかもしれない。

 

「いえ、お力になれたなら何よりです。それでは私達は――」

「ここか、あんな大量の木材を運んでくれたという者は――」

 

 用件を済ませたサラがそそくさと退散しようとしたその時だった。

 紫色のアーマーやヘルメットに身を包んだ男達の一団がそこへやってくる。

 彼らは自然とリィン達に目を向け――その目がサラに固定された。

 

「サラ・バレスタイン……!?」

「っ」

「教官……?」

 

 男達――北の猟兵はサラとリィン達を交互に見やり、さらにその視線がフィーに止められた。

 

妖精(シルフィード)まで……一体、どういうことだ?」

「シルフィード……?」

「それって確か、フィーの猟兵時代の」

「ん。どうも顔が割れてるみたいだね」

 

 マフラーに顔を埋めながら、どうする? と言いたげにサラへ視線を投げるフィー。

 自然と、リィンはその言葉を発した。

 

「教官、もしかして北の猟兵と知り合いなんですか?」

「知り合いも何も、そこの女は――」

「はーいはいはい、レディの過去を勝手に話すのはルール違反よ?……悪かったわね、邪魔するつもりはないから、私達はこれで」

「待てサラ!」

「…………何よ」

「依頼を受けてくれたこと、礼を言う。それだけだ」

「そ。それじゃ、ありがたく受け取っておくわ」

 

 ひらひらと手を振って歩き出すサラ。

 その背中を、B班も慌てて追いかける。

 そんな中、リィンが北の猟兵の一人に呼び止められた。

 

「時にそこの赤い服の少年、名は?」

「俺ですか? 俺はリィン・シュバルツァーです」

「そうか。お前のおかげで、本来より多くの木材を確保出来た。合わせて、礼を言わせてくれ。ありがとう……」

「いえ、助けになったなら何よりです。では」

 

 リィンも頭を下げて返礼し、四人は夕方ごろにサラの家へと戻ってくる。

 再び夕飯の材料確保のために作業分担される中、今度は私が釣ってくると意気込むフィーに釣り場を任せ、自身はサラの監視の元魔獣からの調達を担当することとなった。

 と言っても今日はまだ自分で動くのを禁じられているので、後方で旗を振ってサラを応援するに留めた。

 オーダー自体は旗を使わなくてもいいのだが、そこは気分だった。

 おかげでサラは普段より捗る魔獣狩りになんとも言えない気分を味わいながらも、夕飯分の食材の確保に成功する。

 その合間にリィンは廃棄されたドラム缶を発見した。

 やや汚れているが、まだ使えそうでもったいないと思った瞬間、リィンの頭に浮かぶものがあった。

 

「教官、ちょっとお耳を拝借」

「どうしたの?」

「ええ、実は――」

 

 リィンの提案を聞いたサラが口元を緩めて、びしっとドラム缶を指した。

 

「そういうことなら問題ないわ、遠慮なく持ってっちゃいなさい」

「了解です」

 

 鬼の力を使い、ドラム缶を引きずっていくリィン。

 鬼の力を使わずとも持ち運べるが、体の負担を考えればこうしたほうが軽く持てる。

 何ならサラ教官も運びましょうか、と言えば調子に乗るなと軽くデコピンされた。

 それでも止めないことを見れば、リィンがやろうとしていることを楽しみにしているのだろう。

 そのままサラの家への帰路につこうとするが、ふとサラがぽつりとつぶやいた。

 

「聞かないの? 私の過去」

「俺だけ聞くのはアンフェアでしょう。夕飯の時に言わなかったら、寝る前にみんなと相談してから聞くつもりでしたよ」

「そ。ちゃんと相談が出来るようになったのなら、成長しているってことね」

「まるで俺が相談したことない、みたいな口ぶりですね」

「違うの?」

「違います、ちゃんとしてました」

「嘘だあ」

「ホントですよ」

(フフフ、四月に比べれば確かに成長はしているな)

(ウム。りぃんモ我モマダ伸ビシロガアルトイウノハ、喜バシイコトダ)

 

 冗談混じりの雑談を交わしながら戻り、フィーも見事に一匹釣り上げたことでB班はそれぞれ夕飯の支度をしていく。トヴァルは先に食べていてくれとのことだったので、彼の分も残しておくのを忘れない。

 本来ならセリーヌ用にも一匹釣っておきたかったが、残念ながらフィーの一匹を全員で食することにする。

 あからさまにテンションの下がったセリーヌが見ていて面白い。

 ノーザンブリアでは非常に豪華、帝国では少し物足りなくもある食事を終えると、全員の視線がサラに集中していた。

 その意味を察せないほど、サラは鈍くない。

 一つ息をついて、トヴァルが置いていった酒を一気にあおった。

 

「ま、どの道隠す気はなかったから話しちゃうけど……私はね、元は北の猟兵の一員だったのよ」

「教官が!?」

 

 サラの告白にマキアスが驚きの声を上げた。

 そんな生徒に苦笑しながら、サラは続ける。

 

「元、ね。そこから遊撃士になって……これも元、がついちゃうか。なんだかんだ今は君たちの教官やってるってわけ」

「遊撃士だったことも驚きですが、どうして北の猟兵に……」

「エリオット、教官の故郷はノーザンブリアだ。そして北の猟兵は故郷を救うために、ミラを稼いでいる……地元の人なら、北の猟兵に入ることは何もおかしくないと思う」

「リィンの言う通り。塩の異変による影響で、私は孤児だったのよ。そこで父親……北の猟兵のリーダー格の一人、元ノーザンブリア公国軍のバレスタイン大佐に拾われて育ったわ」

 

 そこから明かされるサラの過去。

 十三で猟兵となり、十八の頃に部隊長を任されたサラであったが、ある大口依頼による大企業と大貴族の代理戦闘にて自分の判断によって生まれた窮地を父親に救われ……その結果、父親は死亡した。

 気づけばその戦いの経過を調査しに来た帝国軍に拾われ、今は士官学院の保健医を担当するベアトリクスに拾われ一命を留めたそうだ。

 

「私はお礼も言わずに故郷に戻った。街のみんなは暖かく迎えてくれた。結果として、代理戦争に勝利した北の猟兵には、多額のミラが支払われたからよ。おかげで今年は餓死者が出ずに済む……それを聞いた途端、私は自分のしていることがわからなくなったの」

 

 悩んだ末にせめて血のついていないミラを送るため遊撃士へと転職し、紆余曲折を経てトールズ士官学院の教官となったそうだ。

 そんな教官の壮絶な過去を聞き終えた生徒達は、皆一様に思いを胸に抱く。

 

「ま、そこまで気にしないで。過去は変わることはないんだし、こんなことがあった、くらいに留めておけばいいのよ。さて、それじゃリィン。例のアレ、よろしくね」

「あ、はい」

「例のアレ?」

「少し待っていてくれ。きっとみんな喜ぶはずだからな」

 

 そう言ってリィンは外へ出ていく。

 サラを除いた三人の目に不安が宿るさまに、リィンへの信頼感が現れていた。

 

「気持ちはわかるけど、そう心配しなくていいわ。リィンがやることは私が聞いてるから」

「一体何をするんです?」

「フフ、見てのお楽しみ。さて、それまでアンタ達はレポートでも書いてなさい。私は一眠りするから」

「ちょっ、あんな話をした後で――寝てる」

「相変わらず寝付きいいなあ……」

「猟兵には結構必須スキルだよ」

「羨ましいというべきか、それを身につけることになった経緯を思えばそうではないのか……」

「――とりあえず、私はリィンを手伝ってくる」

「フィー?」

「団長に会わせてもらったお礼が言葉だけ、ってのもね。少しでも恩を返しておかないと」

 

 そう言ってフィーはその場を後にする。

 その姿を見てエリオットが、続くように立ち上がった。

 

「エリオットもか?」

「うん。今日、落ち込んでいたところを助けてくれたのはリィンだからね。本人はヴァレリーちゃんのおかげって言うだろうけど、紛れもなく、リィンのおかげだと思うから」

「むう。そういうことなら、僕も一緒に行こう」

「いいの? サラ教官と何か話しておかなくて。きっと話しかければ起きるよ?」

「……頭の整理がしたい、というのもあるからな」

「そっか。なら、外へ行こうか」

 

 結局B班全員がリィンを追って外に出ると、彼は横にした大きなドラム缶を磨いていた。

 目を点にする二人をよそに、ドラム缶の中からフィーが這い出てくる。

 その手にタワシを握っており、どうやら中の掃除をしているようだ。

 

「一体何をしているんだ?」

「なんだ、待っててくれてよかったのに」

「見たところ、ドラム缶だよね? それもかなり大きい……」

「へへっ、魔獣狩りの途中で見つけてね。これに水を入れて沸かせば、ユミルでは五右衛門風呂、って呼ばれてるお風呂になるんだ」

「ポットの中に入るようなものだね」

「一気にダシになった気分だが……なるほど、確かに昨日は風呂というより、お湯で湿らせたタオルで体を拭くくらいしかしてないからな」

「足を伸ばせるお風呂って贅沢だった、って気づいたからね……」

「横じゃなくて縦になるのはご愛嬌、ってね」

「だが、貴重な木材を薪にするのか?」

「いや、自前であるから大丈夫だ。以前、サザーランド州でサバイバル生活をしたことがあってな。それ以來、火を起こす材料は持ち運んでいる」

「一体何をしているんだ君は……」

 

 それは、エマとセリーヌの合わせ技によって転移事故を起こした入学式初日。後の魔獣飼育施設発見に繋がった出来事だ。

 着の身着のままサザーランドへ飛ばされたリィンは、そこである一つの出会いがあった。

 年下の少年ながらサバイバル技術に優れた、三白眼が特徴の少年だった。

 フハハとよく笑う少年で、虫や草をはじめ独特な料理を好む趣味もあったが、このさい置いておこう。

 ともあれその少年との出会いにより簡易ながらサバイバル技術を学んだリィンは、オズぼん経由のアイテムストックに色々と保管するようになったのだ。

 

「リィンさんもお好きですねぇ! と言ってその少年は……」

「リィン、趣旨がズレてるズレてる」

「おっとすまん、とにかく火元については安心してくれ。水を入れた後に直接アーツの炎を撃ち込む案もあったけど、火で温めるほうが趣があるからな」

「どちらにしろ、ノーザンブリアでは贅沢なお風呂」

「とりあえずリィンのやろうとしてることはわかったけど……僕達にも何か手伝えることはないかな?」

「そうだな、だったら薪を切っておいてくれ」

 

 そう言ってリィンはオズぼん経由のアイテムから薪をいくつかと、斧を取り出す。

 相変わらず出鱈目な光景にマキアスが遠い目をしていた。

 

「それか、こっちのドラム缶を綺麗にするかだけど……どうする?」

「リィンはまだ病み上がりなんだし、こっちは僕が頑張るよ」

「なら、僕もそっちを手伝おう。切った薪を整理するのは任せたまえ」

「マキアス、さりげに楽なほう選んでるね」

「そんな意図はない!」

 

 マキアスをからかうフィーに笑いながら、B班は協力して五右衛門風呂を作り上げていく。

 直火の上に乗るのは危険ということで、持ってきていた死んだ木を加工して蓋にする。

 焚き火程度では燃えないという不便も、使い方次第で利点は生まれるものだ。

 やがて五右衛門風呂は完成し、湯加減を整えていく。

 

「よしっ、完成だ!」

「疲れたぁ……」

「自動でお湯を沸かす導力機械の恩恵を実感したな……」

「リィン、私が先に入ってもいい?」

「構わないぞ。どの道レディーファーストって思ってたからな。フィーが遠慮したら、サラ教官を起こそうと思ってたし。あ、せっかくならセリーヌも一緒に入れてやってくれ」

「ん」

 

 着替え用の仕切り布は設置済みなので、外から誰か来ても安心だ。

 外で着替えて外で風呂に入るというのは女性としてどうなんだ、と至極もっともなマキアスのツッコミが入ったが、フィーは気にしなかった。

 リィンはセリーヌをフィーに渡して、一緒に綺麗にしてもらうよう頼んでおく。セリーヌは面倒臭そうにしていたが、体が綺麗になるのは文句がないのかそのままフィーの手に抱かれていった。

 その間、男三人はレポートを書くことになり、サラの自宅へ戻っていく。

 レポートを書き進めていると、突然家の扉が開いた。

 三人は何事かを目を向け――即座にそれぞれが明後日の方向を見た。

 そこには、湯着のフィーが立っていたからだ。

 

「フィー君! 女子がそんな格好で男が居る部屋に入るのは――」

「緊急事態」

「き、緊急?」

 

 そう言ってフィーは片手に持っていた何かを突き出す。

 彼女の小さな手の先には、もう一人のリィン(・・・・・・・・)が首根っこを掴まれていた。

 

「俺の分け身じゃないか」

「気配を感じて探って見たら、そこにいたの」

「実体を得たせいで、気配察知に引っかかったのか。これは要改善だな」

「稽古の時にも見たが、これに驚かない自分に驚いている……」

「慣れちゃったんだね僕達……エマの気持ちがわかってきた」

 

 何か言っているニ人をよそに、分け身は本体であるリィンに戻る。

 ロア・ヴァリマールのピース・オブ・パワーという分身を生み出すクラフトの影響を受けたそれは、自律行動する分け身が得た情報をその場で獲得することが出来るのだ。

 そして分け身が戻ったことで、リィンは新たな情報を獲得する。

 

「これは……どうも妙な場所を見つけたようだな。他の分け身が消えるとかなんとか……」

「実体があるそれが消えるってことは、攻撃を受けてるってこと?」

「可能性は高いな。まさか、ルトガーさん……?」

「団長が?」

「確信はない。わかってるのは、分け身が攻撃を受けて消えたってことだな。とりあえず、夜は遅いし明日改めて捜索したいところだけど……」

「要請次第、かな」

「最終日だからな。時間はある程度取れるかもしれないが、ひとまずサラ教官を起こして相談しよう」

 

 四人は頷き、リィンは改めてフィーに着替えをするか五右衛門風呂に戻るよう言おうとする。が、それより早くフィーの追及が迫った。

 

「ところで、分け身が見た情報がリィンに伝わるってことは、間接的にリィンは私のお風呂を覗いたってことだよね?」

「…………………………」

 

 リィンは言い訳がしたかった。

 報告に戻った分け身が、見知らぬ布があったので中を探ってみたらフィーが入浴していたなどと、独自行動していた分け身は気づかなかったのだ。

 今後は常時本体の情報も分け身に送らなければならないとリィンは決心する。

 が、その現実逃避をフィーは許さない。

 

「どうなの?」

「すいませんっしたあああああああああ!」

 

 この後めちゃくちゃ土下座した。




ちなみにノルドであったアリサとの星空イベントは、誰か一人が追いかけるのでなく全員で様子を見に行って聞いてます。
この作品では、原作よりもⅦ組の友情の部分を深めていきたいですね。
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