はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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五十話達成記念回にして迷走回。
この一話で六月のリザルトまで行く予定でしたが、無駄にボリュームが膨らんでしまったので分割します。
また、前回のお話にほんの少し地の文を追加しました(神隠しにあった人物達の資料
いつも誤字報告ありがとうございます。


フフフ、息子よ。六月の特別実習だ⑧

「うっ…………」

(フフフ、息子よ。起きたか)

(覚醒マデ五分……長イトミルカ、短イトミルカ)

(周囲に敵がいないのであれば、長かろうが短かろうが関係あるまいさ)

 

 オズぼんとヴァリマールの声がぼんやりと聞こえてくる。

 体の気だるさを覚えながらも、徐々にリィンはうっすらと目蓋を開いていく。

 体を起こすと、意識の覚醒と共に記憶が脳裏に浮び上がってくる。

 

(確か俺は――)

 

 それに思い至り、リィンは跳ね上がるように飛び起きた。

 そして気づく。

 今自分達のいる場所が、ノーザンブリアではないことに。

 羊の鳴き声が遠く響き、家屋に取り付けられた煙突からは炊事の煙が上がっている。

 牧歌的な雰囲気のそれは、導力よりも自然の恩恵が強い村を思わせる。

 

 

「ここは一体……?」

「う、うあ、ん……」

「う、にゃーん……」

 

 聞こえてきた声に振り向けば、先程まで戦っていたはずのデュバリィと呼ばれた女剣士とセリーヌが倒れていた。

 リィンはセリーヌを抱き上げて避難させると、デュバリィが倒れてなお握っている剣と盾をどうするか悩んだ。

 

(フフフ、息子よ。寝ている女性に手を出すのは男としてどうかと思うぞ?)

(そういうのじゃないから。武器だけでも取り上げておくか悩んでるんだよ)

(やめておいたほうがいい。お前も見た通り、ノーザンブリアに居たはずの我々が見知らぬ土地にいる事実。争っている場合ではない。彼女に事情を話し、協力して事に当たるのが一番だ。そのうえで否定されたのなら、お前の自由にするといい)

(やっぱりそうなるか)

 

 リィンも考えたが、戦いを仕掛けてきたのは彼女達なので、現状に限らず目覚めた瞬間に戦闘を再開するかもしれない懸念があった。

 悩んだ結果、リィンはセリーヌをフードの中に入れて、改めてデュバリィの体を揺すった。

 感情豊かな面を見せていたが、リィンと切り結んだ彼女の技量は達人クラス。

 体の異変を敏感に察知し、ニ、三回体を揺らすだけで彼女は目を開いた。

 

「起きてください、デュバリィさん」

「………………」

 

 リィンがそうだったように、ぼんやりとデュバリィの目が開いていき――目の前の少年が自分に触れていると気づいた途端、目にも留まらぬ速さで後ろへ下がった。

 剣と盾を持ったまま器用に体のあちこちに触れて体をまさぐっている。

 

「な、なななななななな!?」

「言っておきますけど、貴女が想像しているようなことはしてませんからね? 俺はただ、体を揺すって起こしただけです」

「わ、わかってますわよ!? そのくらい、き、気づいてましたし!?」

(なんか可愛いなこの人)

 

 どう見ても気づいていなかったのに過剰な反応をするデュバリィは、明らかに動揺していた。

 羞恥なのか別の感情なのか、顔を赤くしながらも何かを誤魔化すように言葉を並べながらリィンと距離を取る。

 

「と、ともかく! 寝ている間に襲って来なかった精神は認めてあげますが、改めて決着を――って、何をしているのですか」

 

 剣の切っ先を向けてくるデュバリィに、リィンは持っていた太刀を納刀して両手を上げた。

 

「今は不戦協定を結びませんか?」

「降参ですの?」

「いえ、周りを見てください」

「それが何か――」

 

 リィンの言葉で、周囲の景色に気づいたデュバリィがぽかんと口を開けた。

 先程までの動揺はなりを潜めたものの、一気に沈静化した感情からは驚き以外のものが宿っているように思えた。

 

「私達はノーザンブリア……一面が塩の場所にいたはずなのに」

「どうも俺達は神隠しにあってしまったようです」

「神隠し……?」

「うん? 貴女達も、その調査に来たのでは?」

「……あいにくと私達は別件で訪れておりました」

「なら、俺達は協力出来そうですね。情報交換とか提案したいんですが」

「………………」

 

 デュバリィはしばらく悩んでいたが、やがて剣と盾を収めて腕を組んだ。

 顎でつい、と先を促す仕草はリィンから情報を明かすよう言っている。

 どうあっても優位を崩したくないようだ。

 その姿に苦笑しながらも、リィンはまず自己紹介をする。

 

「俺はリィン・シュバルツァーと言います。こちらはセリーヌです」

「私は鉄機隊筆頭隊士、デュバリィ。神速、とも呼ばれております」

 

 あの足の速さなら納得だ、と思いながらリィンは自分達がトールズ士官学院の生徒であり、そのカリキュラムの一環でノーザンブリアに訪れたことを話す。

 その要請の中で、昨日から発生した神隠しの調査をしている時にデュバリィ達と出会い、そちらが襲ってきたのだと。

 全てを明かした後、デュバリィは一つ息をついて己があの場に居た理由を語る。

 

「我々鉄機隊は、マスター……私達の主に代わり、この地における霊脈の乱れを調査しに参りました」

「調査?」

「それらの乱れが、ある計画の障害になるかもしれない。と、ある方から指摘されたのです。最初はマスター自ら訪れようとしていましたが、そのような細事にあの方の手間をかけさせるわけにはいかないと、私達が志願した形でここに派遣されたのです」

「そのマスターというのは、ひょっとしてヴィータさんのことですか?」

「深淵を存じてますの? 意外に情報通ですのね……とはいえその問いには否、と答えましょう。あの方の魔力や叡智はマスターも認めるほとですが、私が剣と忠義を捧げるのはただ一人――鋼の聖女、アリアンロード様に他なりません」

(…………………)

(親父?)

(いや、なんでもない。彼女達がここにいるのは、劫炎が言っていたヴィータ嬢が年内に事を起こす、といった計画の前準備ということだろう)

(つまり、ヴィータさんがしようとしている計画のイレギュラーがここにある、と)

 

 デュバリィにこれらの会話への反応はない。

 残念ながら、彼女にはオズぼんが見えていないようだ。

 おそらく、鉄機隊と呼ばれた他の二人の女性も同様であろう。

 そのことを残念に思いながらも、デュバリィは言葉を続ける。

 

「おそらく神隠しはその副産物なのでしょう」

「その根拠は?」

「この場が特異点だからでしょう?」

 

 デュバリィの言葉を遮って重ねたのは、フードの中で眠っていたはずのセリーヌだった。

 どうやら復活したらしく、リィンの肩に足を乗せている。

 デュバリィは喋る猫であるセリーヌに軽く目を瞬かせたが、すぐにその通りですわ、と肯定した。

 

「転移というには明らかにゼムリアではない……異空間、次元の異なる場所ですわ、ここ」

「異次元……幻獣や悪魔とかが居るという?」

「それはまた別の次元ね。そうね、ゼムリアという箱があるとして、私達が居るのはその箱の中にある小さな箱、と言えばわかる?」

「箱の中の箱……」

「その箱からの脱出法はあるのですか?」

「鍵を見つけるか、箱の主……つまり特異点を作り出している存在を叩けばいいわ。大抵は主が居るものだから」

「主、と言われてもなあ」

 

 リィンは改めて周囲を見やる。

 魔獣も見当たらないこの場所は、確かな人の営みを感じる。

 こんなのどかな場所に異変らしい異変は見当たらない。

 

「異変がないのが異変、ということですわね」

「普通、特異点は作り出した奴の心象風景が深く影響を受けるはずなのよ。なのにこんな村の風景だなんて……」

「とりあえず連絡先交換しません?」

「今の流れで何を言ってますの!?」

 

 きょとんとした顔も一瞬、デュバリィは言われた言葉に顔を赤くしながら絶叫した。

 セリーヌはまたか……と遠い目をしてツッコミを放棄した。

 

「デュバリィさんが結社所属ってことなら、俺の目標とする人――劫炎のマクバーンさんとの仲介役になって欲しいんですよ。アーベントタイムに送っても連絡ないってことは、ヴィータさんはマクバーンさんの連絡先知らないみたいなので。ついでに、はぐれて連絡が取れなくなった時のためです」

「劫炎を知って……それに目標とかちょっと何を言ってるのか――って、普通は後者が理由でしょう! というか私はそこまで馴れ合う気は――」

「俺のARCUSの番号は――です。あ、それともヴィータさんを知っているなら、アーベントタイムのほうが確実なんでしょうかね?」

「話を聞きなさい!」

「ダメなんですか?」

「心底なんで? って顔をすんな! ですわ!」

 

 その後、リィンが提案してはデュバリィが絶叫するというコントのようなやり取りを幾度か行った。

 言葉を変えても結果的には教えて、教えないの二択しかなく、時間の無駄でしかないと判断したセリーヌが仲介する。

 根本的な原因として、ARCUSが使えるかどうか、の確認である。

 リィンは早速サラやトヴァル、B班に連絡を入れるが音沙汰がない。

 戦術オーブメントとしての機能は生きていたが、通信のほうは完全にダメだった。

 よって連絡先の交換はお流れになり、見事な仲介を見せたセリーヌをデュバリィが恩人を見る目つきになっていることに、彼女は心底謎の申し訳無さを感じていた。

 

「次は情報収集だな。マラソンの開始だ!」

「マ、マラソン? なんで走るんですの?」

 

 突然妙なことを言い出したリィンに目を開閉させるデュバリィ。

 セリーヌはその姿に、自分は何の違和感もなくマラソンという言葉を受け入れていたことに愕然としていた。

 リィンは初心者ランナーのデュバリィに、ベテランとして指導者の顔となる。

 

「マラソンというのは、その土地の人々に話しかける行為のことを言うんです。トリスタで行えばトリスタマラソン、って風に。ノーザンブリアではその機会がなかったので、なんだか久々に感じるなあ」

「そんな遊び心のような面持ちと気持ちで調査など……」

「じゃあ行きましょうか、デュバリィさん」

「まだ私は共に行動するなどと――あ、こら! お待ちなさい!」

 

 話を聞かずに飛び出したリィンを、デュバリィがその俊足で追いかける。

 リィンが走り出したことでバランスを崩し、肩の上からフードの中へぽすんと倒れ込んだセリーヌは、デュバリィの焦った声に親近感を抱くのだった。

 

 

 村を一周したマラソンを終え、二人と一匹は村の端にある川のほとりで腰を降ろしていた。

 村には宿や食堂といったものはなく、旅行者を迎える施設のない辺境の土地を思わせる。

 よってリィンが食料調達のために釣りを行いながら、その隣でデュバリィが焚き火の準備をするのは自然な光景――なわけなかった。

 

「お待ちなさい! 食事なんて悠長な真似をしている場合ではないでしょうに!」

「腹が減っては戦は出来ぬ、って言いますよ。落ち着いた話し合いには、美味い食事があったほうが良い案も出ます」

「そうね、私もそう思うわ」

「魚をガン見していなければ、同意出来ましたわ……というか、ちゃんと食べられるんですのよね? お腹壊したりしません?」

 

 文句を言いながらも律儀に準備を進めるデュバリィ。

 釣った魚を捌き、木の枝に刺した魚を焚き火の近くに配置する動きは流されやすい性格が伺える。

 適当に釣ったりリリースしたり魚が焼けるのを待つ傍ら、リィン達はマラソンの中で得た情報を整理していく。

 

「ひとまず、お互いにここがこうだった、って話していきましょう。まず俺からですが、ここがノーザンブリアってことに違いはないと思います」

「その根拠は?」

「釣った魚です。俺はノーザンブリアに来た当初に釣りをしたんですが、釣れる種類が同じなんですよ。正確に言えば、異常進化をする前、でしたが。釣り場っていうのは、土地によって釣れる魚が決まっていますからね。繰り返して確認したので、多分合ってると思います」

「魚を釣り始めたり、戻したのはそういう理由でしたの……意外と考えて行動しているようですわね」

「そして、この村にいる住人は神隠しにあった人達で間違いないと思います。記憶はないようですが」

「本当ですの?」

「はい、こちらを見てください」

 

 リィンはトヴァルから受け取った資料をデュバリィに見せる。

 一部の写真を見たデュバリィが、これは……とつぶやく。

 

「全員分があるわけではありませんが、住人の一部がこれらに一致しています。どうして神隠しにあった人達がこんなことになっているのか、というのはわかりませんが……」

「そこは一旦置いておきましょう。次に私ですが、どうも文明レベルが古い、と思いましたわ。家事一つとっても導力機を使っているところは少なく、まるで導力革命以前の文明を思わせます」

「私は村外れの建物っていうのが気になったわね。村は普通に人が居て生活してるのなら、原因が外にある可能性もあると思う」

 

 他にも気になったことはあったが、主に点をあげるとすればこの四つだった。

 中でも注目したのは、やはり神隠しの対象と村外れの建物であろう。

 リィンとデュバリィが言ったのはあくまで村の中の気になる点であり、直接の原因に当たるとは思えなかったからだ。

 

「では、この後に早速その建物の調査ですわね……ん、美味しいですわねこれ」

 

 おっかなびっくりと、オズぼん経由で用意した塩を振った焼き魚へ上品に口をつけるデュバリィを見やり、結局食べるんですねと思ったが口にはしなかった。

 ただ、その仕草からデュバリィは礼儀作法を習った覚えが伺える。ひょっとしたら、どこかの貴族令嬢だったのかもしれない。

 食事と今後の計画を話し終えたリィン達は、村の外れにあるという建物へと向かう。

 

「でも、自分で言ってあれですが本当にここはノーザンブリアなんでしょうかね。俺が見たこの国は、正直こんな生活が出来る基盤が失われた国でした。よく似た別の土地と言っていいほど、ここは別物です」

「特異点っていうのは、理屈では信じがたい現象を起こすから特異点とも言えるのよ。案外、ここはかつてのノーザンブリア、って可能性もあるわ」

「あの穴が、過去に繋がっていた、と?」

「それを調べるための調査……と思っていたけど、アンタの推測は合っている可能性はあるわね」

「えっ?」

 

 セリーヌが前足を示す先は、件の建物だった。

 一見すれば遺跡のようにも見えるが、それだけだ。

 リィンの推測を裏付けるものには見えなかった。

 

(フフフ、息子よ。気づかないのも無理はないが、思い出してみるといい。ここへ来る前に見た、塩と化したオブジェクト……その形をな)

 

 オズぼんの言葉に、リィンは記憶の底を探る。

 大部分が塩と化していたあれを俯瞰するように想像し――目の前にある建物が、それと一致することに気づいた。

 

「デュバリィさん。俺達が遭遇した時にあった建物、覚えてますか?」

「え? ええ……ただ、大きな塩の塊としか認識しておりませんでしたが」

「それとこの建物、一致するんです。奇妙なほどに」

「なんですって?」

 

 デュバリィが建物を凝視する傍ら、リィンは鬼の力を目に集めて霊視する。

 すると、建物の入口の扉が異様な霊力に満ちていることに気づいた。

 当然、魔女の眷属たるセリーヌも一目見て看破していた。故に真っ先にリィンの推測が正しかったことを指摘したのだ。

 デュバリィもまた霊視が可能なのか、建物の入口を閉ざす扉をじっと見据えている。

 

「あの扉……いえ、門をくぐった先に特異点を作り出した元凶が居る、ということですわね?」

「ええ、俺もそう思います。でも、そうなるとあの村はなんだったんでしょう? 俺達が吸い込まれて目覚めるのなら、この建物の中であるほうが自然だ」

「情報が揃ってない中での推測は妄想みたいなものよ。とにかく、入って確かめるのが一番なんだからさっさと行くわよ。早く現実へ戻る必要もあるんだし」

「そ、そうでした。本来なら私達は相容れない存在……こんなことしている場合ではないのです!」

 

 デュバリィが我に帰るようにリィンから距離を取り、先んじて扉の中へ入っていく。

 リィンは慌てて彼女を追いかけ、セリーヌと共に扉をくぐる。

 その先にあったのは、岩礁と海に囲まれた海域だった。

 というか、海であった。

 あんぐりと口を開いて呆然としているデュバリィを発見し、リィンは声をかけようとする。が、それより早くデュバリィがリィンへ振り返り、詰め寄ってきた。

 

「一体、一体何がどうなってるんですの! こんなの、どう探せと言うのですか!」

 

 リィンの胸元をつかみ力の限り揺すってくるデュバリィ。

 フードを揺らされて中から落ちたセリーヌがふぎゃっ、と色気のない声を上げる。

 

「うう、あんまりですわ……私が何をしたというのです……」

 

 よよよ、と膝をつき口元を抑えて泣きそうになるデュバリィ。

 だがリィンは容赦なく言った。

 

「少なくとも俺達と会話する気なく襲ってきましたよね?」

「んぐぅ!」

 

 胸を抑えて震えるデュバリィをよそに、リィンはセリーヌを再びフードの中へ収めながら言った。

 

「でも、見てください。千アージュ以上先ですが、陸地が見えますよ」

「え? あ、ああ……霊視で見るのですね。なんといやらしい」

 

 デュバリィの言う通り、一面大海洋に見える景色も霊視で見ることで孤島のような場所に神殿を確認できた。怪しさ大爆発である。

 岩礁があるといえ、飛び移るには厳しい……というか無理である。

 船を探すか最悪泳いで行くしかない、と憂鬱な気分に支配されるデュバリィにリィンが声をかける。

 

「ほら、デュバリィさんの足ならアレがいけるんじゃないですか?」

「あ、アレ……?」

「片方の足が沈む前に、もう片方の足を前に出して水の上を走るんです」

「出来やがりませんわ!」

「それなら、ここで待っていてください。俺が探索に出ます」

 

 文法がむちゃくちゃな絶叫を上げるデュバリィをよそに、リィンは海を前に一歩踏み出す。

 その姿に、デュバリィはまさか、とつぶやいた。

 

「シュバルツァー……本当にやるのですか?」

「いえ、俺はこうします。来い、灰のチカラ……ロア・ヴァリマール!」

「応!」

 

 リィンが叫ぶと、目の前に竜を模した巨大なエネルギー体が顕現する。

 

「これは、幻獣と応対した……」

「よし、ヴァリマール。頼んだ」

「ウム。ヤルノハ初メテダガ、問題アルマイ」

 

 そう言ったリィンに、ヴァリマールが覆いかぶさる。

 普段の灰の鎧と違い、完全にリィンを取り込んだ疑似搭乗といった具合だ。

 その姿に眉をひそめるデュバリィは、次の瞬間言葉を失った。ついでにセリーヌも絶句した。

 なんとロア・ヴァリマールが海に飛び込んだと思えば、見事なフォームで泳ぎ始めたからだ。

 海をかき分け進むさまは、とても泳ぎの初心者とは思えない。

 それもそのはずで、士官学院におけるナイトハルトの水泳の授業や相克修練法をリィンの心臓の中で見守り続けたヴァリマールは、彼の泳ぎを模倣することで達者な泳ぎを披露することが出来たのだ。

 

「り、理想的なフォーム……!」

「そこ!?」

 

 ロア・ヴァリマールの中で唖然とするセリーヌが、デュバリィに振り返って吼える。

 リィンは満足気に頷いており、オズぼんも喜びの声援をヴァリマールに送っていた。

 放置されたデュバリィは、呆然とその姿を眺めるのもつかの間、置いていかれたことに憤る。

 待っていてください、と言ったリィンの言葉に素直に頷くことは出来なかった。

 そもそも座して待つのが苦手なデュバリィにとって、成果を見ているだけで捧げるのは彼女の主がされることであり、己は捧げる側なのだと自覚しているためだ。

 加えてデュバリィは自身の最大の武器である速さにおいて、一度勝てないのではというイメージを鬼化したリィンに植え付けられた。

 築き上げた自信を揺らがせるリィンに対して、負けられないという気持ちだけがデュバリィの中に湧き上がってくる。

 故に彼女は呼気を整え、鎧を脱ぎ身軽になったその姿で意を決して海に挑み――当然、最初の一歩で沈んでいった。

 それでも負けじと泳ぐデュバリィであったが、鎧を脱いだといえ水を吸って重くなった服は鉛のようにデュバリィの体にまとわりつくのは自然なことで、どんどんリィン達と距離が離されていく。

 いくら鎧の下がアンダーウェアという動きやすい服装だとしても……そもそも騎神本体でないといえ、ロア・ヴァリマールのサイズは十アージュに迫る巨体だ。

 サイズの違いは歩幅の違い、当然泳ぎで水をかき分ける動き一つとっても細身の女性であるデュバリィがその差を埋めることは叶わない。

 

「ま、待ちなさいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!! 待ちやがれですわあああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 そんなハンデを背負っているにも拘らず、陸に上がらず泳ぎ続ける彼女の意地は果たしてどこにあるのやら。

 あまりに切羽詰まった声に、リィンはロア・ヴァリマールにデュバリィを回収するよう言うのであった。




Q.どうして最初からダンジョンに行かなかったんですか?
A.我が作品は(プロットが)無にして(物語の体裁が)螺旋――

すみません、二人と一匹の絡み書いてたら掛け合いだけの回と化しました。
デュバリィちゃんみたいなリアクション系キャラはリィンと相性良すぎる…
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