はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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年内最後?だと思う投稿です。
この作品を読んでくださった方、感想をくださった方、推薦を書いてくださった方、お気に入りをしてくださった方、評価してくださった皆様ありがとうございます。
来年もよろしくおねがいします。

しかしデュバリィちゃんちょっと勝手に動きすぎる…
いつも誤字報告ありがとうございます。


フフフ、息子よ。六月の特別実習だ⑨

「あ、ありがとうございます……お、お礼は、言っておきますわ……」

 

 陸地に戻りデュバリィの鎧を回収したリィンは、ロア・ヴァリマールの中にデュバリィを入れて海を進んでいく。

 震えるデュバリィにオズぼん経由で取り出したタオルや温かいコーヒーを渡していると、セリーヌが呆れながらデュバリィに問う。

 

「普通、コレ見た後に泳いで追いかけるなんて発想しないでしょ。何考えてるのよアンタ」

「う、うるさいですわね……わ、私はただ負けたくないと思っただけですわ……」

 

 ロア・ヴァリマールとの水泳など競うものでもないはずだが、彼女の中では勝負として成立していたらしい。

 水を拭き取り温かい飲み物で体を保温したデュバリィが、へくち、と可愛らしいくしゃみを上げる。

 いくらアンダーウェアのような衣装でも、水に濡れたままというのは体を再び冷やしてしまう。

 

(フフフ、息子よ。デュバリィ嬢にはこれを着せるがいい)

 

 そう言ってオズぼんが取り出したのは、白いブラウスにリボン付のブローチ、コルセットスカート。黒いタイツにブーツのおまけつきだ。

 どこか貴族令嬢が着るような品の良さに溢れたその服を持ちながら、リィンは眉をひそめる。

 

(……? こんなの入れたっけ)

(ああ、入れたぞ。購入して以來使っていなかったから、忘れているのだろう)

(何年前の話だ?)

(さてな。私と出会って間もない頃だったか)

 

 で、あれば五年以上前になる。

 その頃のリィンは鬼の力の制御などやることが多く、言われるがままに購入したアイテムの整理もオズぼん任せだったので覚えていないのは無理もない。 

 服が乾くのを待っている時間も惜しいので、リィンはその服をデュバリィに渡す。

 

「じゃあデュバリィさん、これ使ってください」

「な、なんで貴方が女性モノの服をお持ちに?」

「こういうときのためですよ、サイズが違ってたら申し訳ありませんが」

「むむむ、なにか釈然としないものを感じますが……受け取っておきます。感謝しますわ」

「流石に下着はないのでご勘弁を」

「持っていたらむしろ切り捨ててやりますわ」

 

 デュバリィは服を受け取るが、そのまま動く様子を見せない。

 訝しむリィンに、デュバリィは言葉に詰まるように顔を震わせていた。

 

「デュバリィさん、何を――」

「何を、はアンタのほうでしょ。そのままじゃこの子が着替えられないわ」

 

 フードからリィンの頭の上に登ったセリーヌが前足を投げ出し、リィンの目を塞ぐ。

 肉球の感触が目蓋を覆い、視界が真っ暗に覆われた。

 リィンも意図を察して後ろを向く。そこでようやく、デュバリィは動きを見せた。

 

「デリカシーがあるようでないですわ、まったく……」

 

 ぶつぶつと言いながら、デュバリィが手を動かす音が聞こえてくる。

 アンダーウェアを脱いだのか、残っていた水滴が飛び散る音がした。

 

「ふぅ……」

 

 どこか艶めかしさを覚えるデュバリィの吐息。

 加えて張り付いた水滴を払っているのか、タオルで体を拭う音が加わった。

 リィンは咄嗟に自分で両耳を塞ぐ。

 これは、まずい。

 色々と、まずい。

 分け身といえ、フィーの入浴を見てしまった時は咄嗟に目をつぶっていた。

 湯着で部屋に乗り込んできたフィーを見たときのほうが、長く見ていたくらいだ。

 それに比べると、まるで真綿で首を絞められるような感覚がリィンを支配する。

 目の前で着替えることを躊躇していたというのに、見ていなければ男の前でも普通に着替えられる女性だったようだ。

 いや、本人としては早着替えをしているつもりなのかもしれない。

 だが至近距離に加え、下手に意識してしまった結果耳を塞いでも鍛えられたリィンの感覚が背中越しの音を捉えて離さない。

 ロア・ヴァリマールの中は騎神本体のコクピットと同じ広さらしく、一人用の大きさしかない。そんなところに二人も入れば、距離が近くなるのは当然で。

 セリーヌは目を塞いで安心しているのか、それ以上のことをしてくれない。

 かといって下手に伝えれば、デュバリィが泳いできた海よりも冷たい視線がリィンを襲うことだろう。

 自分の背後で半裸……もしくは全裸に近くなっているかもしれない女性がいる。

 そう考えるだけで悶々とするリィンは、先程見たアンダーウェア越しのデュバリィの体を思い出してしまい、即座に打ち消した。

 修行や魔獣退治のほうが圧倒的に楽な時間が、リィンに訪れていた。

 

(親父、ヴァリマール! なんでもいい、なんか話してくれ!)

(フフフ、息子よ。修行が足りんな)

(スマヌガ、泳グノニ集中サセテ欲シイ) 

(ヴァリマールはともかく、なんで親父はそんなに冷静なんだよ!)

(生憎と私はカーシャ一筋なのでな。目移りなどせんよ)

(くそがあああ!)

 

 オズぼんは思春期の息子の反応に愉悦を覚えているのか、リィンのヘルプに何ら手助けをしてくれない。

 自然、力んでしまったリィンが鬼の力を溢れさせる。

 その突然の変身に、セリーヌは元よりデュバリィも振り返ってしまった。

 

「ちょっと、突然どうしたのよ?」

「貴方いきなり何してるんですの!?」

「ね、念のために備えて、です」

「確かに、今まで出会っていないといえ海の中に魔獣がいないとも限りませんわね。むむ、常在戦場、その理をその年頃で体現しているとは……」

 

 どこかズレた物言いのデュバリィ。

 ある意味男の尊厳をかけた戦いをしているとも言えなくもないが、リィンが自分から言うことは決してなかった。

 リィンにとって幸運だったのは、結局デュバリィもセリーヌもリィンが抱えた悶々に気づくことなく着替えを終えたことだろう。

 そんな男の戦いが決着を終える頃、ロア・ヴァリマールが止まる。

 どうやら目的地に到着したようだ。

 くるしいたたかいだった、と憔悴したリィンは後に語った。

 

「ありがとう、ヴァリマール。助かった」

「気ニスルナ。マタ何カアレバ呼ブガヨイ」

 

 そう言ってヴァリマールはリィンの心臓の中に戻っていく。

 

「騎神ってなんなのですか……」

「私が一番知りたくなってるわ」

 

 その様子を見ていたデュバリィがなんとも言えない表情を作り、セリーヌが全てを諦観したつぶやきを漏らす。

 それでも頭を振って、デュバリィは元の話題を取り戻す。

 

「しかし、随分と風変わりな特異点ですわね。普通、迷宮のような場所にそのまま送られるのが普通のはずですが……」

「二分割、されているのかもね。海の孤島を含めたここが迷宮部分で、あの村はもう一つの特異点ってことかもしれない」

「二つの特異点が重なっているのか、二つに分けられるほど巨大な特異点なのか……どちらにせよ、この神殿を探索すればわかることでしょう」

 

 髪が濡れたためか、お団子のようなそれを解くと、背中に届く長い栗毛をかき上げるデュバリィ。

 髪を下ろした姿を見ると、幼い印象が変わり少しだけ大人っぽいように感じた。

 カーシャ一筋と言い切ったオズぼんが、髪を下ろしたデュバリィから目を逸らさない程度には感じ入るものがあるようだ。

 

「デュバリィさん、服はどうですか?」

「まあ、悪くないデザインですわよ?」

「いえ、動きやすさを聞いたんですが」

「問・題・あ・り・ま・せ・ん・わ!」

 

 何故か怒声を浴びられてたじろぐリィン。

 神殿の中には確実に何かいるはずなので、服のサイズが違っていて動きにくかったら下がっていてもらおうという気持ちを察したのかもしれない。

 

「はいはい、コントはその辺にして行くわよ二人とも」

「何がコントですか!」

 

 顔を赤くしながらセリーヌに怒鳴るデュバリィ。

 セリーヌは、はいはいわかってる、とけんもほろろに流していく。

 そんな二人に苦笑しながら、リィンは先頭を進む二人の後ろを辿った。

 神殿の中に入った途端、リィンはそれまでと一線を画する感覚に襲われた。

 境界を通り超えた、と言えばいいのだろうか。

 自然に抜刀し、周囲を警戒するように感覚を研ぎ澄ませていく。

 デュバリィもまた、リィンと同じものを感じたのか剣と盾を構えていた。

 

「……! 何か来ます!」

「ふんっ!」

 

 リィンの声が響くと同時に、道の先で何かが現れる。

 しかしそれを確認するより前に、疾駆したデュバリィがその影を両断していた。

 

「…………デュバリィさん」

「な、なんですの? 敵を倒して何が悪いと言うのです」

 

 責めるようなリィンの視線にうろたえるデュバリィ。

 セリーヌがその理由を明かした。

 

「まあ急ぐ気持ちもわからないわけじゃないけどね? 村に居たのが神隠しにあった人間なら、この神殿にもそれに類似した人がいるかもしれない……ってことでしょう?」

「ああ。幸いにも魔獣みたいに倒したら消えるやつだったから良かったですが、今度は気をつけてくださいね?」

「言われなくてもわかっております! ちゃんと確認して斬りましたわ!」

「そうなんです?」

「我が神速は足だけでなく、それらを正確に見極める目あってこそです。己の速さに振り回されず、対象を認識するなんて朝飯前ですわ」

 

 言われてみれば、とリィンは反省する。

 いかに信じがたいスピードで動けたとしても、それだけでは自分の速さに目を回してしまうだけだ。

 その足を活かす目など併せ持っていた当然のはずなのだが、今まで接していたデュバリィの雰囲気がその当然を持っているとは言い難い。

 

「なんですの?」

「いえ、なんでも」

 

 心に浮かべたことを見抜かれそうになり、リィンは首を振って対処する。

 すぐに移動を再開するが、背中をジト目で見るデュバリィが見えなくても感じられるようだ。

 

「それで、デュバリィさんが斬ったのはなんだったんですか?」

「小さな鬼のようなものでしたわ。少なくともゼムリアの魔獣ではありません。かといって高位次元のものでもない……同位次元の存在、と申しましょうか」

「どう違うんです?」

「高位次元が縦なら、同位次元は横の別世界とでも考えてちょうだい」

 

 了解、と補足するセリーヌに頷きながら二人と一匹は神殿の中を進んでいく。

 まるで迷宮のように入り組む道に加え、魔獣とは異なる異形の怪異が数多く行く手を阻む。

 だがこの場にいるのは、鬼の力を解放し達人クラスに手を届かせるリィンと、同格のデュバリィ。魔女の術を多く修めるセリーヌというメンバーだ。

 物理的にも精神的にも穴はなく、ARCUSによる戦術リンクがなくとも苦もなく神殿を踏破していく。

 

「デュバリィさんもARCUS持っていればいいのに」

「幻獣を倒したあの見事な連携の秘密でしたか。生憎とそんな道具は持っておりませんが、リンクという形なら別のものがありますわね」

「それって、鉄機隊の二人とやろうとしていた?」

「勘が鋭いですわね、その通りです」

 

 リィン達がこの特異点に吸い込まれる前、デュバリィから霊的なリンクが発生しそれは他の鉄機隊の女性達に繋がっていた。

 突如発生した穴に吸い込まれたことでそれらは断たれてしまったが、道具によるリンクを繋げるARCUSと違う、魔術版ARCUSとも言うべきものなのだろう。

 だが逆に言えば、それを繋げることが出来るのではなかろうか?

 

「ってわけで試してみませんか?」

「無理ですわ。星洸陣は鉄機隊にのみ扱える陣形。いかにラインフォルトが開発した最新の戦術オーブメントだとしても――」

「ナラバ我ガ仲介シヨウ。ソレゾレノりんくヲ変換シ同一ノモノニ仕立テレバイイ」

「一体何なんですのこの者は!」

「灰の騎神、ヴァリマールの人格ですよ」

「モウ一度自己紹介シタホウガ良イカ?」

「何常識じゃないですか、みたいな顔してるんですのおおおおおおおおお!!!」

 

 一体何にそんな怒っているのか心底不思議だという顔のリィンに絶叫するデュバリィ。

 仮にも敬愛する主より授けられた叡智を元に三人が共同に開発した力を、こうも簡単に解析された上にいち道具に同一とされることがデュバリィの自負を大いに刺激した。

 そうこうしているうちにもリィンはARCUSから戦術リンクを起動させ、ヴァリマールの介入により準備待ち状態となる。

 あとはデュバリィが星洸陣なるものを使ってくれれば良いのだが、この調子では試すのはまだ先になりそうだった。

 ぷりぷりと頬を膨らませるデュバリィを追いかける形で神殿を進むリィン達は、やがて最奥と思われる広場へとたどり着く。

 だが広場には何もなく、今まで襲ってきた怪異の影も形もない。

 リィンはセリーヌに話しかけた。

 

「セリーヌ、魔術で何かわからないか? ここまで来て何もないってことはありえないはずだけど……」

「ちょっと待ってなさい、今調べてみるわ」

 

 言うと同時にセリーヌの足元に魔法陣が展開する。

 警戒は怠らぬまま、リィンとデュバリィはセリーヌを守るように円陣を組みながら構えていた。

 

「……索敵に逆探知!? 来るわっ!」

 

 その甲斐あって、セリーヌが発した声に即座に反応することが出来た。

 リィンはセリーヌを抱えながら虚空より伸びる何かを避ける。

 

「なあっ……!?」

 

 対してデュバリィは剣で打ち払っていたが、切っ先が鋭利な刃物で切られたように裂かれていた。

 

「デュバリィさん!」

「心配無用! リーチが少し減っただけです! が、許してさしあげませんわ……!」

 

 そう言ってデュバリィは自分の剣を斬った業敵を見据える。

 それは、まるでロア・ヴァリマールを想起する龍人だった。

 異なるのは翼の形だろうか。

 まるで甲殻類のハサミを思わせる二又の翼は意志を持つかのように蠢き、先端に光る刃の煌きが敵対者を両断する死神の鎌に見えた。おそらくあれがデュバリィの剣を断ち切った正体だろう。

 そしてそれ以上に――

 

「いけない! 二人とも、跳んで!」

 

 リィンは信頼から、デュバリィは目の前の敵への危機感からセリーヌの指示に従った。

 同時にセリーヌは魔術を唱えると、着地と同時に二人の足元に魔術の足場が生まれた。

 

「貴女、いったいどういう――」

「デュバリィさん、あれ見てください」

 

 足場を作った理由を尋ねるデュバリィに、リィンが太刀でそれを示す。

 リィンの太刀の先へ視線を投げたデュバリィが、ごくりと息を呑んだ。

 視線の先、謎の怪異の足元の床が崩れて海が広がって――否、怪異が足元の床を水に変化させていた。

 怪異から溢れ出る水が広がるように、徐々に足場を崩していく。

 この神殿の周りが海であるのは、この怪異の特異性によるものだと推測する。

 

(フフフ、息子よ。弱点か直接斬ってもいい場所がわかるまで、近接攻撃は控えたほうがいい)

「デュバリィさん、俺は遠距離から攻めますが……」

「言われずとも、私が囮となって翻弄してさしあげましょう。ですが」

「トドメは譲れない、ですね?」

「当然です」

「セリーヌ、デュバリィさんの動きに合わせて足場を作れそうか?」

「その都度用意するのは難しそうね。だから……」

 

 セリーヌが改めて魔術を唱えると、広場にところどころ足場が作られていく。

 細かな制御を諦めた代わりに、足場を数多く用意することで代用したようだ。

 

「悪くありませんわ。これだけあれば問題ありません」

「同感ですね。セリーヌ、フードの中に隠れてろ」

「ええ、フォローは任せなさい」

「それじゃあ参りますわよ――」

 

 デュバリィが意気込んで動こうとしたそのとき、怪異の翼が伸びた。

 まるで触手のように迫る死神の鎌を、デュバリィは余裕を以て回避する。

 

「剛雷剣!」

 

 反撃とばかりに、切っ先がなくなったデュバリィの剣から雷がほとばしる。

 雷をまとわせた剣はサラ以上の速さと共に怪異へと突き刺さるも、まるで水に剣を突き込んだようにその刀身が埋まる。

 剣を戻せば、デュバリィの剣は半分が折れてほぼ使い物にならなくなっていた。

 

「っ……なんて厄介な……!」

「緋空斬!」

 

 下がったデュバリィと入れ替わるように、鬼の力によって強化された緋空斬が怪異に迫る。

 リィンが放った焔をまとわせた飛ぶ斬撃は先程デュバリィが突いた場所を抉るが、怪異の外殻が泡立つだけで傷らしい傷はない。

 

(どうやら奴の体は水の装甲で覆われていると思ったほうがいい。いや、足場を海にしたように、何らかの変換能力が鎧としても機能していると言うべきか)

(なら、攻撃が効かないってことか?)

(いいや、お前の緋空斬で体面が泡立っていた。水を蒸発させていたということだな。つまり、純粋な攻撃力が足りていない)

「なら……デュバリィさん、さっきの俺の攻撃に合わせられますか?」

「?…………なるほど、了解しましたわ」

 

 リンクは結んでいないが、同じ剣士としてリィンの意図を読んだデュバリィが怪異へ迫る。

 伸びる刃と水へ変質させる体との接触を避けながら近づくデュバリィに、リィンは再び緋空斬を放つ。

 

「豪炎剣!」

 

 デュバリィはリィンの斬撃に合わせて、己の剣に炎をまとわせた。

 その炎の刃をリィンの緋空斬と交差させるように重ね合わせ、怪異の体へと叩き込む。

 

「合わせて緋空炎斬!」

「勝手に名付けるんじゃ……ありません!」

 

 文句を言いながらも、同格の剣士の連携戦技は水の衣を剥ぎ取った――ように見えたが、怪異は自らが生んだ海の中へ体を沈み込ませた。

 そこから昇る水柱。

 咄嗟に避けたが、水柱は天井に穴を穿ち立ち昇る数多くのそれを避けきるには、足場が足りなくなってくる。

 リィンはデュバリィの側に寄り、即座にロア・ヴァリマールを召喚し神殿の天井を崩す。先程の水柱は密閉空間で防ぐにはあまりにもこちらが不利だからだ。

ついでに倒壊による生き埋め……といきたかったが、顔を出した怪異が手をかざすと、落ちてくる瓦礫は全て水となり海へと流されていく。

 再び海上に姿を表した怪異は、先程リィンとデュバリィの連携によって与えたダメージを修復させていた。

 どうやら、自己回復の能力もあるようだ。

 

「これは……いよいよ手がなくなってきたな」

「諦めている場合ですか!…………シュバルツァー。私の速さを超えたあの力、もう一度出せますか?」

「デュバリィさん?」

「星洸陣を使います。それとあれをかけ合わせて、もう一度やってみますわよ」

「確かに、打てる手は打たないと、ですね」

「そういうこと、ですわ!」

 

 デュバリィが吠えると同時に、彼女の体が光に包まれていく。

 それは事前準備していたARCUSと連携し、リィンとの間にリンクを結んでいく。

 

「行きますわよ……ライトニングソード!」

 

 オーダーを理解しているわけではなさそうだが、それでもデュバリィは星洸陣と灰のチカラを合わせた加護を発揮する。

 その間にリィンは鬼の力の深奥を開いた。

 

「おおおおおおお……シャアアアアアアアアァァァァア!!」

 

 灼眼が黒く染まり、リィンの体に黒いオーラがまとわりつく。

 怪異へ殺到するデュバリィに向けて、リィンは鬼気を焔に変換させて援護斬撃を送る。

 デュバリィは炎の剣に鬼の刃を重ね合わせ、リンクによる寸分の狂いもない連携を解き放った。

 

『連ノ太刀・鬼炎万丈(きえんばんじょう)!』

 

 それは一筋の流星のような一撃。

 隕石の落下を思わせる高々度からの炎の一撃は怪異の肩を基点に袈裟懸けに斬り裂いていく。

 怪異の体はぐらりと倒れ、盛大な水しぶきを上げながら倒れていった。

 

「やったわ!」

 

 セリーヌが歓喜の声を上げる。

 リィンも笑みを浮かべながら、ほっと一息をついた。

 功労者たるデュバリィは、セリーヌが作った足場に大の字に寝転がるも、ナイフのようなサイズにまで小さくなった剣を掲げて勝利を示していた。

 離れていても見えるドヤ顔に苦笑しながら、リィンはデュバリィを迎えに行こうとして――まだ戦いが終わっていないことに気づいた。

 

「デュバリィさん!」

「ほえ?……ってきゃぅ!」」

 

 海が盛り上がり、デュバリィが足場ごと空へ投げ出される。

 リィンは分け身を展開し、それぞれに緋空斬を撃たせて牽制しながら自身はロア・ヴァリマールに投げてもらいデュバリィを回収する。

 空中でデュバリィを抱えて受け止めたリィンは、すぐさまロア・ヴァリマールを召喚し直してその場を離れた。

 

「くそっ、あれでもダメなのか。炎をまとった攻撃が弱点、ただし俺達だけじゃあいつを殺しきれない……セリーヌ、攻撃用の魔術はないのか?」

「あるにはあるけど、焼け石に水だわ。たとえあいつを半壊させたとしても、周囲の海に潜られたらどうしようもない」

(フフフ、息子よ。やるならば一撃で決着をつける必要があるぞ)

「ナラバ我ガ」

「いや、神殿が崩れた以上セリーヌに足場を作ってもらうのも限界だ。ヴァリマールには俺達の足場になってもらわないと。それに……言っちゃあれだが、今のヴァリマールの攻撃より、さっきの連携のほうが強い」

「ムウ…………」

「シュ、シュバルツァー! 考察する前にとりあえず離しなさい!」

「おっと、失礼」

 

 リィンは顔を真っ赤にしながら喚くデュバリィを下ろしながら、今の攻撃でも倒しきれなかった怪異に対して顔をしかめた。

 

「……っこなんて、されたの初めてですわ……」

「何か言いました?」

「何でもありません! わ! まったくデリカシーのない……………?」

「どうしました?」

「シュバルツァー。確か、私達が最初に目覚めた陸地って普通に目視出来ましたわよね?」

「ええ。千アージュはありましたがそれでも見えないほどでは……」

 

 リィンはそこで初めて、自分達の周囲に陸地が存在していないことに気づいた。

 首を巡らせたり、目を凝らしてみても見えるのは一面海ばかり。

 神殿は元より、村があった陸地すら確認することが出来なかった。

 

「これは……!?」

(奴の仕業ということは確定だろう。おそらく、ダメージを与えた分、よそから補給したということか)

(補給……?)

(何のために神隠しが行われていたか知らぬが、仮に餌として保存していたとすれば……辻褄は合う)

「そんな! まさか、あの村の人達を吸収したっていうのか!」

「えっ…………」

 

 オズぼんの推理に、リィンは思わず口に出してしまう。

 それが事実だとすれば、自分達はむざむざ神隠しにあった人々を犠牲にしてしまったということになるのだから。

 

「シュバルツァー、今の言葉は一体――」

「二人とも、逃げて!」

 

 セリーヌの声は遅かった。

 気を取られていたリィンも、そんなリィンへ注意を向けてしまったデュバリィもそれに気づくのに遅れた。

 二人と一匹に影が指す。

 呆然と、その事実を認識出来ないままリィンは顔を上げる。

 そこにはロア・ヴァリマールすら飲み込む海嘯(かいしょう)が迫り――抵抗する間もなく彼らはその津波に呑まれていった。

 

 

 沈んでいく。

 従来の海と違うのか、体が異様に重い。

 意識もうっすらと消えかかっていく。

 体も頭も、溶けるように何も考えられなくなっていく。

 デュバリィは打ち所が悪かったのか、咄嗟に手を掴んで離れ離れになることは避けたが気絶していた。

 セリーヌも同様で、なんとかフードの中から投げ出されることはなかったが、反応がない。

 海中で怪異の瞳が光る。

 すでに勝利を確信しているのか、怪異はゆっくりとその翼をリィン達へ伸ばしてくる。

 何の抵抗も見せなければ、切り刻まれることは必至だろう。

 リィンは動けるのが自分だけと知り、懸命に消えそうになる意識を取り戻して動く。

 

(ロア・ヴァリマール!)

 

 リィンはロア・ヴァリマールを再召喚して海面に上がろうとする。

 だがその瞬間、怪異が動いた。

 海上では考えられないほどの俊敏な動きを見せ、ロア・ヴァリマールをズタズタに斬り裂いていく。

 すぐに修復するものの、即破壊を繰り返され結果的に硬直状態となってしまう。

 リィンは息が苦しくなり、デュバリィを抱えて浮上しようと試みる。

 だが怪異はそこで翼を切断でなく、抹殺のためにロア・ヴァリマールを覆い尽くす。

 

(ヴァリマール!)

 

 声は遠く、ロア・ヴァリマールの体は怪異によって水となって弾け飛んだ。

 その質量が一気に溢れたことでリィン達は海中でさらなる衝撃に襲われる。

 

(ヴァリマール!)

 

 呼びかけに答える声はない。

 心臓に宿って以來、声をかければ応えてくれたヴァリマールの声は、帰ってこなかった。

 ごぼっ、と息が漏れる。

 鬼の力が解ける。

 いくら体を強化しても、呼吸が続かなければ衰弱するのは当然であり、リィンの灰髪が黒に戻り全身から力が抜けていく。

 ゆっくりと迫る怪異を前に、リィンは抵抗する力を失い目を閉じ――力なく垂れた手がARCUSに触れた。

 

『………ン……ィ…………』

『………リ……ン…………』

『リ………ィ…………ン!』

 

 ――こえがきこえる。

 じぶんをよぶこえが。

 そこでリィンは意識を取り戻す。

 ARCUSの光に包まれるリィンの脳裏に、自分に向けて手を向ける誰か――それは、フィーとエリオットにマキアスの三人だった。

 さらに光が膨れ上がり、サラとトヴァルの顔が見える。

 五人とも何か言っているが、聞こえない。

 言葉を読み取ることも出来ない。

 リィンのARCUSから広がった光がデュバリィに伝わる。

 二人が繋いでいたリンクに(かす)かな光が灯り、鉄機隊の二人が映し出された。

 星洸陣の霊的なリンクがARCUSを器とし、灰の残滓を次元を超えて届かせる。

 

(ARCUSを通じて特異点と現実が繋がった。今こそその時だ)

(なに、を……)

(起動者として――いいや、絆を結んだ友として彼の名を呼べ、リィン)

 

 オズぼんの言葉が染み渡る。

 リィンにはその意味がわからない。

 だが、結んできたものが深く沈みゆく水底でその名を紡がせた。

 

ごい゛(来い)! ゔぁ゛い゛の゛ぎじん゛(灰の騎神)……ヴァ゛リ゛マ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ル゛!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――応!」




デュバリィちゃんに渡した私服は察しの良い方は気づかれたかもしれませんが、リアンヌさんの私服に合わせたデザインです。
髪下ろしと合わせて、髪の色が違うリアンヌさんモードとも。

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