今年もよろしくお願いします。
少し突貫作業だったので、ちょっとあっさりかつ短めな決着回。
いつも誤字報告ありがとうございます。
「ごほっ、がはっ!」
口に入り込んでいた水を吐き出す痛みで、リィンは意識を取り戻した。
体を揺らした背中に何かが当たる。
そこは、球状の空間だった。
リィンの意識とは裏腹に体が勝手に動き、目の前に置かれた盤のようなものを操作していく。
すると周囲の空間に光が満ちていき、不可思議なデータの羅列はやがて正面に海上の光景を映し出した。
「こ、これは…………」
「灰の騎神、ヴァリマールの中よ。はあっ、ようやくアンタ起動者として正しく搭乗したみたいね」
「セリーヌ」
横を向けば小さな台座にセリーヌが乗っており、その奥にデュバリィがすやすやと寝入っていた。
リィンはデュバリィの生存を確認するように起こすと、むにゃ……と口をまごつかせる。
目覚めることはなかったが、ちゃんと息があることに安堵した。
「フフ、ツイニト言ウベキカ乗ッテシマッタト言ウベキカ」
「ヴァリマール!? 無事だったのか!」
沈んだ時は聞こえなかったヴァリマールの声が聞こえてくる。
あの怪異を前に消滅してしまったのかと心配していただけに、リィンの声は喜びに弾んだ。
「我モアノ怪異ニヤラレタト思ッタ。真ッ暗ナ水底ヘ沈ム感覚ヲ覚エル中、不意ニりぃんノ声ガ聞コエテキテナ。ソノ呼ビカケニ応エタ瞬間、元ノ体ニ戻ッテイタ」
「フフフ、息子よ。ヴァリ君よ。その絆に感動を覚えなくもないが……のんびりしている暇はなさそうだぞ」
オズぼんの言葉に反応するように、海上で怪異が顔を出す。
ヴァリマールは霊力を噴射して飛び上がっているので沈むことはないが、生態によるあちらとエネルギー消費のあるこちらでは差がいずれ現れる。
目の前の怪異を打破しなければ、リィン達は鉄の棺桶に入っただけで死期が伸びただけだ。
「やることは単純明快よ。あいつを倒して帰る、それだけ! 感覚はどう?」
「…………動かせそうだ。遠隔操作と違って直接動かすのも、すぐ慣れると思う」
「空中戦だというのに頼もしいことだ」
オズぼんの言葉に軽く照れるリィン。
空を飛び続ける感覚は新鮮だが、空を跳ぶのはよくあることなのですぐに対処出来た。
三半規管も問題ない。
騎神の手に握られた巨太刀を一振りし、リィンは目の前の怪異を見据える。
ヴァリマールが登場したことで警戒しているのか、攻めてくる様子はない。
ならば、とリィンはヴァリマールを発進させた。
「焔よ、我が元に集え……緋空連斬!」
太刀に焔をまとわせたリィンは噴射されたバーニアの加速により一瞬で怪異に迫り、すれ違いざまに交差させるように緋空斬を放つ。
デュバリィとのリンクによって得た経験から、重ね当てによる威力増加を見込んでのことだ。
水の衣が焔の刃と相殺し、蒸発した水が湯気を発生させる。
それら水蒸気は散布された結果、濃霧のように広がっていく。
高温の湯気は騎神と怪異の体表に張り付いていき、二体の体を赤熱させた。
身悶え苦しむ怪異をよそに、リィンはヴァリマールの体を心配した。
「ヴァリマール、大丈夫か?」
「大丈夫ダ、問題ナイ」
「なら――」
リィンは言葉を続けることが出来なかった。
怪異の気配が海の中に潜り、察知が難しいほど遠ざかっていったからだ。
「くそっ、有効打はあるのにこう潜られちゃ……」
「りぃん。我ニ提案ガアル」
「言ってくれ」
即答し、リィンはヴァリマールの案に耳を傾ける。
内容に頷くリィンだったが、聞き届けたセリーヌが不安そうな声をあげる。
「それ、本気?」
「一度出来タコトダ。ソレニ、りぃんノ目的ノ達成ニモナル」
「俺も同感だよ、セリーヌ」
「正直、あの時のことなんて偶然以外のなんでもないはずだけど……大丈夫なの? 予想が外れてたら、アンタ達は……ううん、それ以前に前提条件を満たせるのか……」
「せりーぬ、心配スルナ。確信ガアル」
「確信……」
「フフフ、セリーヌ嬢。ここは信じてやるべきだろう。どの道、今の状況は砂漠から砂金を発掘するようなものだ。代案がないのであれば、ヴァリ君の意見を通してみる他あるまい」
「ジリ貧なのは変わらない、か……ああもう、わかったわよ!」
セリーヌはヤケになるように魔術を展開する。
リィンは改めてデュバリィを完全に起こした。
「起きてくださいデュバリィさん、反撃の時間ですよ」
「…………ふあ?」
ぼーっと寝ぼけ眼のデュバリィは、やがて瞳の焦点が合ってきたのか光彩が戻ってくる。
そしてすぐに覚醒し、至近距離でリィンと目が合ったことで咄嗟に離れようとして――コクピットの台座から落ちた。
「ひゃあっ!」
「っと!」
咄嗟に伸ばした手が転がったデュバリィの足を掴んで落下を防ぐ。
機体の中なので落ちても頭を打つだけかもしれないが、痛いのは嫌だろう。
デュバリィはすぐに腹筋を駆使して体を反らし、己の足を掴むリィンの手を取った。
「な、何なんですの!?」
「ここはヴァリマールの中です。津波に飲み込まれたデュバリィさんを回収したんですよ。それで、これからヴァリマールに乗って大逆転です」
迷いのない言葉に、デュバリィは反論を思いつくことが出来なかった。
真っ直ぐ自分を見てくるリィンに、デュバリィは頬を軽く染めながら顔を逸らす。
「な、何かアテはあるんですの?」
「もちろん、そのためにデュバリィさんを起こしたんですからね」
「私にやれることがおありなのですか?」
「はい、まず星洸陣を起動してリンクを繋げてください」
「なるほど、呑まれる前に使ったあの連携を騎神で行うのですね?」
「それもありますが、やって欲しいことは違います」
「はい?」
デュバリィはきょとんとしてリィンを見る。
騎神の強化でないのなら、一体何のために星洸陣を使うというのか。
「デュバリィさんにして欲しいことは――」
その疑問は、特大の爆弾を持って紡がれた。
「そ、そんなことが……」
「出来ます。問題があるとすれば、デュバリィさんの一撃をどれだけ高められるか、ですね」
その台詞はデュバリィへの挑戦であった。
生意気な物言いにムキになるところだが、デュバリィは堪える。
非常に、ひっじょーに悔しいことであったが今は協力して脱出が優先なのだと、主の元へ必ず戻るという意志が勝った。
「…………一つ、アテはありますわ」
「本当ですか?」
「ええ。問題があるとすれば、貴方の一撃をどれだけ高められるか、ですわね」
すぐに言ってやった、と言わんばかりにドヤ顔を披露するデュバリィ。
リィンはそんな彼女に苦笑しながらも、任せてくださいと言い切った。
*
空に浮かぶヴァリマールの中で作戦会議をするリィン達。
怪異は緋空連斬により傷ついた体を癒やしているだろうと予測し、次に水柱が上がった時がチャンスと伝える。
そのためヴァリマールは低空飛行を維持していた。
予測は正しく、神殿を倒壊させた時と同じく大量の水柱が上がった。
リィンは初騎乗と思えない巧みな操作でそれらを避け続ける。
だが怪異は水柱の数を増やし、避ける範囲をだんだんと狭めていく。
やがて避ける余裕のなくなったヴァリマールの動きが止まり、怪異はそこを狙い触手の翼を伸ばした。
触手はヴァリマールの足を掴み、一気に海中へ引きずり込む。
だが、それこそリィン達が最初に狙っていたことだった。
「まずは最初の前提……!」
引きずり込まれたヴァリマールの足に変化はない。
触れたものを水にするという怪異の特殊能力に対し、ヴァリマールの体を覆うゼムリアストーンは見事にそれを防いでみせた。
『よしっ!』
ヴァリマールの中で満場一致に喝采を上げるリィン達。
リィンはちらりとデュバリィに目配せした。
頷くデュバリィ。
瞬間、リィンは鬼の力を解放した。
「邪魔だ!」
ヴァリマールに鬼の力が満ちていき、水中にも拘らず動きが鈍ることなく強引に触手を引き剥がす。
「行くぞ、ヴァリマール!」
リィンはヴァリマールの言葉を信じて、深淵を開いた鬼の力を太刀へ流し込んでいく。
猟兵王の黒い闘気を練る様を見様見真似で再現したそれは、魔女の里で錬成された太刀を漆黒に染め上げていく。
さらにヴァリマールがあるクラフトを使う準備を整える。
これで下地は完成した。
リィンは意を決して、作戦を実行する。
「デュバリィさん、行きます!」
リィンはそう言って
「遅れるんじゃありませんわよ、シュバルツァー!」
二人が叫び、ヴァリマールがクラフトを発動させる。
「ぴーす・おぶ・ぱわー」
ロア・ヴァリマールが使った己の分身を生み出すクラフト。
騎神状態のそれは、鬼の力を下地として影よりもなお深い漆黒のロア・ヴァリマールとも言うべき灰のチカラが顕現する。
そこへ騎神から乗降するさいに使う転移が機能する。
向かう先は《ピース・オブ・パワー》で生み出した漆黒の分身の中だ。猟兵王から身を以て学んだ短距離転移である。
分身は実体のある分け身のようなもので、一度ダメージを受ければ消えてしまうが攻撃を受けなければその限りではない。
つまり、攻撃する分には問題なく使えるというわけだ。
リィンは漆黒のロア・ヴァリマールの中に転移して再搭乗、そこから霊子の刃を生み出し、極・緋空斬を放った。
放たれた鬼の刃へ向かうのは、デュバリィが操作するヴァリマール。
彼女の脳裏に浮かぶのは、主を除く中で最強の剣士。
剣帝と称された執行者との稽古でさんざん地を這わせてくれた屈辱の軌跡であり、リィンとの連携により到達させる一撃。
それをデュバリィは今、この場で模倣した。
「影技――鬼炎斬!」
デュバリィの操縦により、ヴァリマールは機体を螺旋のように回転させながら怪異へ迫り黒焔となった太刀を振るう。
彼女は今、ヴァリマールの仲介によって結ばれたリィンとのリンクにより、騎神を一時的に操作することが可能になったのだ。
本体のヴァリマールが彼女を準起動者として認めた荒業でもある。
『相ノ太刀・鬼焰万丈!』
騎神の力が相乗されたコンビクラフトは、海中でありながら勢いを削ぐことなく怪異の水の衣を蒸発させる。
さらにデュバリィは水の衣を剥ぎ取ったと同時に怪異を掴み、海上へと持ち上げていく。
飛翔するヴァリマールに当然妨害が入るが、死神の鎌はリィンの極・緋空斬の援護斬撃によりその威力を減衰させ、ヴァリマール本体へのダメージを減らす。
やがて水面が近づき、盛大な水飛沫を上げながらヴァリマールと怪異は海上へと姿を現した。
そこへリィンの檄が飛ぶ。
「セリーヌ!」
「まったくアンタって奴はもう……!」
漆黒の分け身にはヴァリマールの機能は存在しない。
故にリィンはセリーヌの介入により再転移する。
向かう先は――ヴァリマールが拘束する怪異の上空である。
リィンの脳裏に浮かぶのは、ヴァリマールが言った提案だった。
――アノ怪異ハ、精霊ノ気配ガスル
――精霊?
――オ主ラガろあ・ゔぁりまーるト呼ブ状態ノコトダ
――フフフ、息子よ。ヴァリ君はこう言いたいのだ。あの怪異はロア・ヴァリマールの亜種、つまり灰色ノチカラに似通っているのだと
――じゃあ……
――ウム。りぃんヨ、アレヲ取リ込ンデヤルトシヨウ――
そうして行われた作戦の結実が今、結ばれる。
リィンは灰色の戦場の出来事を思い返しながら、重力に従って落ちていく。
携えた太刀には、力の一滴すら押し込むように凝縮されていく鬼気。
それを今、解放した。
「終ノ太刀・黒葉!」
かつてのロア・ヴァリマールへ振るわれた時と同じように、漆黒の刃が迫る。
だが怪異はせめてもの抵抗にと構えたハサミのような翼をリィンに走らせた。
デュバリィの操作は間に合わず、リィンの太刀よりも早く死神の鎌はリィンを真っ二つにせんと迫り――突如何かにぶつかったように弾かれた。
「おいおい、無茶しやがるなリィン」
オズぼんとはまた違う、渋みのある声が響く。
リィンの横目に映るのは先日己を苦しめた紫の騎神、ゼクトール――西風の旅団長、ルトガー・クラウゼルであった。
どうしてここにという疑問を封じ、全霊を込めた太刀が怪異の頭部へ叩きつけられるも、武器が耐えきれずに自壊する。しかし折れた刃先は頭部にめり込んでいた。
足りない。故に、共に戦う仲間が押し込んだ。
「大人しくやられとけ、ですわああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
デュバリィは渾身の気合を込めながらヴァリマールを操作し、振るわれた太刀は怪異の頭頂から股間を通り抜け――同時に世界に亀裂が入る。
崩れ落ちる世界の中、転移によりヴァリマールの中に戻ったリィンは改めてデュバリィと操縦を代わり、ゼクトールと空の上で睨み合う。
通信が繋がったのか、ヴァリマールの正面モニターにルトガーの顔が映った。
ニヒルな笑みを浮かべながらも、どこか感心した様子を見せている。
「俺がやるつもりだったが、どうやらお前さん達でなんとかしちまったか。本当に面白いやつだ」
「ルトガーさん……」
「あ、あれが猟兵王?」
「ええ。でも、どうしてここに?」
「ノーザンブリアは世話になった相手の故郷でな。今回の神隠し、こっそり解決しておいてやるかと思ったんだが、必要はなかったらしい」
そう言って光に包まれるゼクトール。
転移の合図だ、とリィンは直感ながらそう確信した。
「待ってください、フィーと話を……!」
「それは、あいつが掴み取る報酬だ。そんで、こいつは――」
追いかけようとヴァリマールを発進させようとした瞬間、目の前にゼクトールが居た。
不意の行動に硬直した隙を見逃すほど猟兵王は甘くなく。
「フィーにハグしてもらっておいて別の女連れ込んでるところを見た、父親の怒りってやつだ!」
「ハグはアンタのせいだろおおおおぉぉぉ!?」
「わ、私は別に何も思っておりませんから!?」
「アンタ達何でこの状況の中で騒げるのよ!?」
振るわれた拳を顔に受け、ふっ飛ばされたヴァリマールの中で絶叫する二人と一匹の声は、やがて特異点の崩壊と合わせて消えていった。
一緒に消えた二体と一匹の会話
ヴァリマール
(コレガ修羅場・・・・・・)
オズぼん
(フフフ、その通りだ)
セリーヌ
(なわけないでしょ!)
デュバリィちゃん準起動者になるの巻。
タグのご都合主義が働く時と言いつつ、相克において決着が他人任せなことが少し疑問だったので、そのための仕込みです。
まあ最初がデュバリィになったのは作者も困惑ですが…
次回できっとリザルトになります。