はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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長かったノーザンブリア編、これにて終了です。
いつも誤字報告ありがとうございます。


フフフ、息子よ。六月のリザルトだ

「リィン!」

 

 己を呼ぶ声でリィンは目を覚ました。

 感覚的にまだコクピットの中のようだ。ヴァリマールの正面モニターには、両手を伸ばしてこちらを覗き込んでくるフィー達の姿がある。

 横を向けば海上で目覚めたときのように、セリーヌとデュバリィが気絶している。

 いや、そもそもフィー達が居るということは特異点から戻ることが出来たようだ。

 

「ヴァリマール、状況は……?」

 

 リィンが覚えているのは、ルトガーの理不尽な怒りで吹き飛ばされたところまでだ。

 その意味を込めた質問だったが、ヴァリマールは別の意図と解釈した。

 

「ウム、無事アノ怪異ヲ取リ込ムコトニ成功シタ。加エテ裏ノ試シナル一端モ開ケタ。ドウヤラ、アノ怪異ハりぃんガ呼ビ込ンダ霊脈ノ影響デ休止状態カラ強化サレテ復活シタヨウダ」

「霊脈の影響……?」

(フフフ、息子よ。お前が使った鬼の力の深奥……鬼気解放と呼ぼうか。あれによって眠っていた霊脈が活性化し、騎神の契約の儀式にも使える地が特異点として機能したようだ)

「つまり?」

(あの怪異は試しの門番が変異したものであり、お前は二度目の起動者の試練を受けた、というわけだ。デュバリィ嬢がヴァリ君に乗れたのもその影響だろう)

「活性化ニヨリ、本来ナラバ受ケナクテモ必要ナイ試シ……ダガ、ココデりぃん達ニ受ケテモラエタノハ因果デアロウ」

 

 つまり、あの怪異は灰色ノチカラたるロア・エレボニウスに相当するものだったようだ。

 今回はリィンでなく、ヴァリマールが吸収した形になる。

 けれど、それにしては強すぎる気がした。

 ヴァリマールを召喚していなければ、確実に自分達は全滅していたのだから。

 

(フフフ、その最大の原因は当然あるが……後で教えよう。今はフィー嬢達に元気な姿を見せてやるといい)

「それも、そうか。セリーヌ、デュバリィさん。起きてください」

「う、ん……」

「なんですの……」

 

 それぞれ寝ぼけた声を出すが、正面のモニターから周囲の様子に気づいて現状を理解する。

 デュバリィの視線の先は、フィー達の背後にいる鉄機隊の二人に向けられていた。

 

「アイネス、エンネア! 戻ってこれた、というわけですわね」

「みたいです。みんな、心配かけてすまない」

『!? リィン!』

 

 ヴァリマール越しに無事を届ける。

 ほっとするB班とサラやトヴァルをよそに、鉄機隊は難しい顔のままだ。

 リィンはデュバリィを促す。

 

「ほら、デュバリィさんも」

「わ、わかっていますわ。こほん、二人とも、無事で何よりですわ」

「デュバリィ!」

 

 ようやく破顔した鉄機隊を確認し、リィン達はヴァリマールから降りる。

 光に包まれた二人と一匹がコクピットから久しぶりのノーザンブリア……塩の大地に足を踏み込んだ。

 

「わっ、本当に乗ってたんだ。セリーヌも一緒で良かった」

「って、そっちの人と一緒だったの?」

「まあ、二人共に消えたからわからなくはないが……」

 

 B班の三人はヴァリマールから降りた二人と一匹、中でもデュバリィを目を丸くして見やる。

 そんなデュバリィに、鉄機隊からさらなる視線がぶつけられた。

 

「あらあらデュバリィ、私達の心配をよそに若い子とデートしてきただなんて薄情じゃない?」

「そうだな、我らが筆頭は随分と楽しい思いをしていたようだ」

「ななな何を言っていますの二人とも!」

「だって貴女、格好が違うよ?」

 

 わめくデュバリィに対して、フィーが彼女の格好を指摘する。

 ハッとするデュバリィ。

 彼女はリィンが渡した着替えに身を包み、剣と盾以外はどこぞの貴族令嬢のような姿となっているのだ。

 その可愛らしい外見に、トヴァルが思わず口笛を吹く。

 視線が自分に集中したデュバリィは顔を赤くしながらも、即座に鉄機隊の二人の下へ走る。

 それでも視線が止むことはなかったが、サラが話題を変えるようにリィンへ声をかける。

 

「リィン、一体何があったの?」

「色々と。俺も、俺達が消えた後のことを知りたいですが……戦いは中断したんですか?」

「そりゃねえ、お互いの陣営から行方不明者が出たわけだし。一度休戦して、調査をしようって提案したところでアンタ達――正確にはその騎神が突然吹き飛んできたのよ」

 

 あれは驚いたわ、とサラはしみじみと語る。

 どうやら殴られた勢いで特異点を抜けたようだ。なんとも奇妙な脱出劇である。

 加えて時間もあまり経過していないらしい。

 特異点というのは、時間からも切り離された空間だったようだ。 

 

「とりあえずこっちは無事ですが、神隠しにあった人達の行方は俺達にも――」

「りぃん。少シ離レタ先カラ人々ノ反応ガアル。オソラク、神隠シニアッタ者達ダロウ」

「本当か?」

「嘘ヲツク理由ハナイ」

(フフフ、息子よ。私見だが、おそらく猟兵王が救出していたのではないか? 彼は元よりこの事件を解決する気でいたようだからな。結局あの村の詳しい秘密はわからなかったが……)

(……完璧ってわけじゃないけど、人命優先ってことにしておこう)

 

 遊撃士としての挟持か、ヴァリマールの言葉にトヴァルが真っ先に反応する。

 

「マジか! とりあえず確認が先だが――」

 

 だが鉄機隊の三人を横目に入れて、相手の出方を伺っているように見えた。

 そこへ呼吸を落ち着かせたデュバリィがこほん、と息をついて言う。

 

「無辜の人々へ手を出す理由はありません。確認に向かうのなら早くしなさい」

「とは言ってもなあ……」

「大丈夫です、トヴァルさん。デュバリィさんは信用できます」

「ふーん、デュバリィさん」

「ねえ」

 

 フィーがジト目をリィンに向け、サラが猫のような口を作ってニヤニヤとしている。

 特にフィーは何か言いたげだったが、それより早くマキアスが感心の声を上げた。 

 

「どうやら、敵同士でありながら向こうで打ち解けたみたいだな」

「リィンと仲良くなれるってことは、悪人じゃないってことかな?」

 

 相槌を打つように、エリオットも信頼の篭った言葉を乗せてくる。何気にそれが一番嬉しく感じるリィンだった。

 

「ま、今はそう思っておくか。サラ、俺は確認してくるからこっちは頼んだぜ」

「了解」

「とゔぁる、案内シヨウ。ソノホウガ早イ」

「お、おう」

 

 ヴァリマールがトヴァルへ乗るように、と意図を込めて手を差し出す。

 トヴァルから見れば巨大な騎士人形がフランクに話しかけてくるものだから、及び腰になるのは仕方ないと言えた。

 

「本当に機械なのかこれ……?」

「頼もしい奴ですよ」

 

 冷や汗を流しながらヴァリマールの手に乗ったトヴァルを見送り、リィン達は改めて鉄機隊と対峙する。

 リィン本人はもう敵意はないのだが、サラ達やアイネスとエンネアと呼ばれた鉄機隊の女性達の真意はわからない。

 故に二人が率先して話し合いをするのは必然だった。

 

「貴女方の事情はデュバリィさんから聞きました。マスターと呼ばれる主の命令で調査にやってきていたんですよね? 一応、完全とは言えないものの解決はしましたが……それでも戦う気ですか?」

「私達としては、霊脈の乱れで発生した特異点の消失を確認できればそれで構いません。いいですわね、二人とも」

 

 だが、そんなリィンとデュバリィに注がれる六対十二個の視線。

 明らかに息が合って戦闘を避けようとする二人への好奇心を生むな、というほうが無理な話であった。

 

「私は構わないわよ? ただし、あっちで何があったか詳しく話をして欲しいわね」

「同感だ。それを休戦の対価としよう」

「別に構いませんが……そうですね、まず俺達は穴に吸い込まれた後に脱出するまで共闘することに――」

「シュバルツァー! お口を閉じなさい! 二人とも、そんなことはいいですからマスターへ報告に参りますわよ!」

「あらあらデュバリィ、随分ムキになってるのね?」

「本当に彼と何かあったのか?」

「ちちち違いますから! えーっとそうだ、あの騎神が戻って来たら厄介でしょう? 負けるつもりは一切ありませんが、主命を解決した以上、消耗を強いられるのは得策ではありません!」

『………………』

「何か言いなさい!」

(やっぱりデュバリィさんって弄られキャラなんだな、わかる)

(アンタみたいなのがいるせいでしょう……)

 

 うんうんと一人頷くリィン。

 セリーヌはそんなリィンの肩に乗りながら、苦難を共にしたデュバリィの代わりに突っ込んでおく。頬に感じる肉球の感触は、ツッコミというよりほっこりとしか感じないリィンだった。

 沈黙する二人の生暖かい目にごほんごほんと切り返しながら、デュバリィは腕を組んでリィン達を睨みつけてくる。

 

「そんなわけで! この辺りで失礼させていただきますわ。色々と報告もありますので」

「争うことがないようで、何よりですよ」

 

 それはリィンの本音だった。

 一時の敵対からの共闘は、リィンからデュバリィへの友情を感じるに値するものであったのだから。

 

「次は素の力でも貴女に追いついてみせますよ」

「フン、そう簡単に追いつかせませんわ。シュバルツァーこそ、せいぜい腕を磨いておきなさい」

 

 そう言ったデュバリィの足元に魔法陣が生まれる。

 セリーヌが転移、と小さくつぶやいた。

 

「ま、いいわ。本当なら彼もいる場で聞きたかったけど、向こうなら逃げる場所もないしね?」

「ああ。マスターへ話を通せば、きっと興味を抱いてくださることだろう」

「ちょ、あの方を巻き込むのは反則ですわ――――!」

 

 姦しくも仲の良い様子を見せながら、鉄機隊の三人は去っていく。

 見えていないだろうが、リィンは別れの挨拶を告げるように手を振っていた。

 そんなリィンを見てマキアスがメガネのフレームを指で押し上げる。

 

「リィン、随分と仲良くなったみたいだな?」

「サバイバルじみたことをやったからな。協力しないと生き残れなかった影響かも」

「サ、サバイバル?」

「その辺は帰りの列車の中で話してもらからね」

「ここで話さないって選択はないさ。それからフィー、今回の事件なんだけど――」

 

 リィンがルトガーについて言おうとすると、そこへサラのARCUSに連絡が入る。

 同時にリィンにはヴァリマールからの念話が入った。

 

(りぃん、コチラヘ来テ欲シイ)

(ヴァリマール?)

 

 何事かと思う前に、サラがトヴァルからの連絡で神隠しの人数が多く、子供もいるので一緒に連れていって欲しいということだった。

 

(わかった、人手不足なんだよな? すぐに――)

(ソレモアルガ、アル意味ソレヨリ厄介ナモノダ)

 

 ヴァリマールの言葉に眉をひそめるリィン。

 共に聞いていたセリーヌも首をかしげていた。

 

(フフフ、息子よ。考えていても仕方あるまい。向こうへ行けば嫌でもわかることだろう)

 

 それもそうか、と頷きリィン達はヴァリマールの下へ向かう。

 そこでは神隠しにあったノーザンブリアの人々が倒れていた。ヴァリマールの両手に溢れた人数、その数おおよそ十数人。

 これじゃ全員で運んでも、と悩むリィンにヴァリマールから再び通信が入る。

 

「りぃん。灰ノちからヲ使ウノダ」

「え? でもあれは……って、まさか!」

「ウム。吸収シタノハ我ノ本体ダ。故ニコレヲ代用シ、再ビりぃんノ心臓ニ戻ロウ」

「出来るのか?」

「無論ダ」

「そうか、良かったな!」

 

 話を聞けば、あの怪異のエネルギーをヴァリマールが再構成するとのことだ。

 憑依融合だな、とオズぼんが語りセリーヌが気軽に人格を移動するその内容に絶叫した。

 当然サラ達も話は聞いているが、深く聞くまい、聞きたくないと暗黙の了解がそこに広がっていた。

 そんな周りの空気など微塵も気づいていないリィンは、勢いよく手を掲げる。

 

「来い、灰のチカラ――ロア・ヴァリマール!」

 

 リィンの呼びかけに応え、灰のチカラが顕現する。

 灰色の影としてリィンと共にあったロア・ヴァリマールはその体を白く染め上げ、どこか存在感とも言うべきものが濃くなっている気がした。

 以前の姿は影に相応しい揺らめいた陽炎のような体が、光に包まれた白い影となって形を成したというべきか。

 これにはサラ達も流石に声を上げた。

 

「リィン、今までと違うチカラのようだけど……」

「あの穴に吸い込まれて、一度失ったんですけど……パワーアップして帰ってきたようです」

「そ、そう」

 

 細かい説明を省いた簡単な詳細であったが、元が元なのでサラにはそう答えるしかなかった。

 

「りぃん、ソレヲ我ノ体ニ」

「わかった」

 

 ヴァリマールに応じるように、騎神と白い影が手を合わせる。

 すると、その手を通じてヴァリマールの意志とも言うべき光の玉が騎神から白い影へと転移していく。

 まるで起動者の乗降を見ているようだ、とリィンは感じた。

 意識の移し替えが完了すると、わずかに騎神本体の動きが変わったように見えた。

 

「元鞘ニ収マル、ト言ウヤツダナ」

「あ、元に戻った」

 

 リィンの心臓から聞こえてきた声に、エリオットがのんきな声を上げる。

 今まで騎神本体から言葉を発していたヴァリマールだったが、彼の言う通り心臓からの声に慣れたリィンにとっては確かな安心があった。……セリーヌは苦虫を噛み潰すような顔だったが。

 

「おいおい、大丈夫なのか? こいつが転んだら抱えてる人達が……」

「ギアスのMクォーツないけど、平気か?」

「アア、怪異ヲ取リ込ンダコトデ基本性能モ上ガッテイルヨウダ。勿論、ぎあすノ補助ガアレバヨリ俊敏ニハナロウ」

「とのことです」

 

 リィンとしてはこれで安心ですね、と笑みを浮かべたがトヴァルから返ってきたのは呆れとどこか引いたような距離感だった。

 

「……………とりあえず今は納得しとくよ」

「ずっとでいいんですよ?」

「お兄さんね、ちょっと一気に情報渡されすぎても困るのよ。リアクションが交通渋滞してるの」

「はあ」

「リィン、それよりみんなを運んで頂戴」

「わかりました」

 

 助け舟を出すようにリィンに指示を与えるサラを見て、トヴァルは戻ったら一杯奢ってやるかと厄介な生徒の担任である教官にささやかなエールを送った。

 B班やサラがそれぞれ待機させたロア・ヴァリマールの両手の中に人々を運ぶ中、ヴァリマールはリィンに告げる。

 

「サテりぃん。本題ハココカラダ」

「本題? 手が足りないんじゃ……」

「イヤ、特異点ノ原因ト思エル物ヲ発見シタノダ。……アレダ」

 

 示された先は、塩の大地の一部である。

 一見何もないように見えるが、鬼の力を目に集めて霊視してみれば、ほんの僅かであるが何か力の漏れを感じ取った。

 言われなければ気づかない、本当に僅かなものだ。リィンはさらに目を凝らし、鬼気を目に集めてようやく形をはっきりと視認する。

 リィンはそれを回収するために側により、塩を掘り返そうとして――

 

リィン(・・・)。直接手を触れるな。……念の為だ)

 

 オズぼんから、かつて聞いたことがないほどに真剣な声が飛ぶ。

 驚くリィン。セリーヌもまた、振り返るように左腕のオズぼんを凝視していた。

 

「あ、ああ……」

 

 言われるがままに、リィンは塩の周囲を掘り返して慎重に調べていく。

 それは、円錐のような形を取った小さな固形物だった。

 見たところ何の材質で出来ているかわからないが、塩と同化するように埋もれていたそれを、リィンはオズぼん経由で取り出した箱に直接触れないよう、ロア・ヴァリマールの一部を切り離し灰の鎧ならぬ灰の篭手を装備した状態で周囲の塩ごと入れていく。

 

(セリーヌ嬢、魔術で厳重な封印をしてくれ)

「わ、わかったわ」

 

 いつになく真剣なオズぼんの声に、セリーヌもまた素直に従う。

 やがて塩で囲んだ何かを敷き詰めた箱が完成し、オズぼんはリィンの了承も得ずにしまい込む。

 その疑問を尋ねる前に、サラから戻るよう指示が飛んだ。

 

(帰りに話す。――今は人命救助を優先するがいい)

 

 結局、オズぼんはそれから黙ってしまう。

 リィンとセリーヌはもやもやした気持ちを抱えながらも、言葉通りに人命救助を優先してノーザンブリアの人々を運んでいった。

 やがて送り届けた街の住人や北の猟兵から感謝の言葉をいただき、六月の特別実習は終了を迎えた。

 

 

 最寄りの駅までトヴァルの導力車で運んでもらったリィン達は、名残惜しい別れの挨拶を済ませ帰りの列車の中で揺られていた。

 ヴァレリーにも最後に会って、手紙を出すよ、と言って別れたが主にエリオットがメインになるかもしれないな、と音楽の話で盛り上がっていた二人を思い返す。

 最初に出会った時よりは打ち解けたが、結局彼女のことも、ノーザンブリアの問題も何も解決していないことにB班は鬱屈した気持ちになるのを隠せない。

 

「教官、今回の実習は――」

「いいのよ、アンタ達はノーザンブリアの人々に食事と暖を確保して、神隠しを解決した。それだけで助かった人は確実にいるんだもの。……いち学院のカリキュラムで国を救うなんて真似は出来ないわ」

 

 重くのしかかる現実に、マキアスやエリオットが拳を握りながら顔を震わせる。

 フィーもまた、考え込むように座席に背を預けていた。

 

「リィン、団長が神隠しを解決しようとしていたっていうのは本当?」

「本当だよ。特異点に居たのは驚いたけど、なんでも世話になった人がいたからその人の故郷のために動いてたって。フィーには心当たりあるか?」

「多分、サラのお父さんのことだと思う。亡くなった当時、バレスタイン大佐には世話になった、って言ってたから」

「そう……そんなことが」

「あの人のおかげで、俺は命拾いしました。神隠しの解決は、ルトガーさんも含まれていますよ」

「そっか」

 

 怪異との最後の攻防、ルトガーが防いでくれなければリィンはどうなっていたかわからない。

 何より、リィン達にはどうにも出来なかった神隠しにあった人々の救出を行ってくれた。

 そういう意味では、彼もまた今回の事件の立役者と言えよう。

 

「なら、どうしてリィンと戦って怪我をさせたのかな……」

「大人しくしていてもらう、って言ってたけど……」

「神隠しを解決するのなら、怪我をさせる必要はない。なら、別のことをしていたとも考えることは出来る」

「単にフィーに近づくなって釘を刺したんじゃないの?」

「威嚇で大怪我は笑えんな……」

 

 すっかり回復したリィンだが、ルトガーに負わされた傷は常人であれば数ヶ月はベッドの上に寝たきり生活を送るほどのものだった。

 養父がクラスメイトへ暴行を加えた事実にフィーの顔が曇るが、リィンは助けてもらったから気にするなと彼女を慰めた。それがいっそう、フィーを追い詰めると知らず。

 その気配に気づいたサラが、両手を叩いて話題を変えた。

 

「ま、色々あるけど今はトリスタに着くまで寝てなさい。何時間かあるんだし、気が滅入る話はここまでにしておきましょう。リィンとあのデュバリィって子の話も気になるけど、そこはまたおいおいと、ね」

「確かに、そうですね……」

「サラ、起きれるの?」

「何時間単位での睡眠なんて朝飯前よ。それじゃ、みんなおやすみ~」

 

 率先して眠り始めたサラに倣うように、B班の面々も次々に寝息を立て始める。

 全員が疲れを癒やすように眠る中、リィンはセリーヌと共にまだ起きていた。

 オズぼんには、聞かなければならないことがあるからだ。

 

「親父、結局あれはなんだったんだ?」

 

 あれとは当然、最後に回収した何かのことだ。

 人生でもかつてないほどの真剣さを帯びたオズぼんの声。

 そうさせるほどの何かを、リィンは改めて取り出そうとするがオズぼんが許可をしてくれず箱を取り出すことが出来なかった。

 

「親父……?」

(――迂闊には話せぬのでな、今はシュミット博士に渡すのが最善であろう。もっとも、調査を考えればそのまま渡るとは思えぬが……)

「だから、一体なんなんだあれは?」

「私も気になるわね。なんなのよ」

「我モ気ニナルナ」

 

 一人と一匹と一体の声に、オズぼんから聞こえないはずのため息が聞こえた気がする。

 そして、オズぼんは厳かに語った。

 

(あれは塩の杭と呼ばれた外の理の産物、その残留物が変質したものだ)

 

 その言葉がもたらす意味を、今のリィンが知ることはない。




オリジナルオンリーのノーザンブリア編、いかがでしたでしょうか。
特別実習編で最長となり、相変わらず当初のプロットから変化する話で進む展開でしたが、楽しんでいただけたなら幸いです。
一通りⅦ組メンバーとの個別回も終えたので、7月からはノーザンブリアから持ち帰ったものの処理も含めて合間の日常話も変化していきますが、今後ともよろしくおねがいします。
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