はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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ずっとミュゼのターン!
いつも誤字報告ありがとうございます。


フフフ、息子よ。彼女はどこまで見通せるのだろうな

 広大なバルフレイム宮の一角に足を踏み入れたリィン達は、リィンが危惧した貴族問題もなくアルフィンの案内の元に話し合いのための部屋に案内されていた。後で聞けばエリゼは知られていて、リィンのことはクルトの友人と思われていたそうだ。

 時に兄姉弟で紅茶を嗜んだり会話に興じたりする場所のようで、いわゆる客間とも取れる部屋だが……流石に部屋の広さ、規模の違いに圧倒される。

 調度品一つとっても導力車が買えるほどの高級品であるとクルトから教えられ、おっかなびっくり部屋に足を踏み入れる。

 流石に深夜まで、というわけにはいかないがある程度の時間を確保出来たことで、お茶会という名の暴露が行われる。

 

「《革新派》と《貴族派》の対立は聞いていましたが……」

「軍用魔獣の運用に機甲兵……領地の維持というには明らかに過剰戦力だわ」

「実際の対立らしい対立は、《革新派》のカール・レーグニッツ知事の息子であり、同じⅦ組のマキアス・レーグニッツがアルバレア公爵……《貴族派》に拉致されたくらいでしょうか。嫡男であるルーファス・アルバレアの口利きによって解放されたそうですが」

「ですが、先月の段階で敵対者の身内というだけで拘束を行う段階である、と言えます」

 

 ミュゼからもたらされた《貴族派》の水面下での動きは、リィン達が想像していたものを確信させる内容だった。

 そこにリィンは特別実習で掴んだ情報に加え、西風の旅団長であるルトガー・クラウゼルの生存。ならびに騎神の存在も明かした。

 普通であれば機密情報の暴露にあたるが、ことこの状況で彼女に隠し事をする必要はない。

 というより、彼女を巻き込まないためにリィンが率先して動き、ミュゼの存在に感づかれるわけにはいかないというべきか。

 

「ありがとう、ミュゼ。これは俺が学院長やナイトハルト教官……それにクラスメイトにクレイグ中将の息子がいるから、ちゃんと正規軍に伝える」

 

 推測を裏付ける事実が手に入ったのだ。

 正規軍からの横やりが領邦軍に入り、内戦への牽制となって開戦は避けられるはずだ。

 

「でも、オーレリアさんには協力してもらえないのか?」

「彼女は武人……内戦という気配があったとしても、武勲を立てる手段として見てしまうことでしょう。オルディスで協力してくれたのは、何をしようが叩き潰す自信がある、もしくは強敵が生まれるのは歓迎する、といったところでしょうか」

「……結構難儀な人なんだな」

「同じ方角を向いていればこの上なく頼もしいですが、そうでなければ……文字通り、彼女は羅刹として立ちはだかることでしょう。あるいは――」

「あるいは?」

「私の立ち回りに、自分が仕えるだけの価値を見極めているのかもしれません」

 

 どこか儚さを感じる微笑みのミュゼ。

 彼女は彼女で大変のようだ。

 だが、ここでオーレリアを頼るという選択が取れなくなったのは痛い。

 仮に領邦軍に切り込む時が来たさい、彼女の助けがあれば非常に心強かったのだが……

 

「しかし、ミルディーヌ様がここまで頭の回る方だったとは……」

 

 クルトが唸るように、紅茶を口に含むミュゼを見やる。

 最初は懐疑的だった内戦に対し、一つ一つ理由をつけて情報の精査を行い、その先の行動を予測していた。

 決定的だったのは、ヴァンダールの動きを完璧に把握したことだろう。

 クルトが見た限りの家族の行動をミュゼが補足することで、それらに確信を抱かせていった。

 さらに、ノルド高原という遠く離れた地におけるゼクス中将の動きも読み切っていた。

 ノルドでの特別実習の話もエマから聞いており、その内容に間違いないとリィンが太鼓判を押す。

 

(ミュゼ嬢の指し手としての力はこんなものではなかろう。二手三手、どころの騒ぎではない。年単位の動きの予測も可能であろうな)

(凄マジイ演算力ダ。我ラ騎神ニモせんさーノ類ハ搭載サレテイルガ、りあるたいむノ情報ヲきゃっちスルノデ精一杯ダ。ココマデ極マルト異能トモ言エルナ)

 

 ティータイムでは黙っていた二人もミュゼの力、異能に感心の声をあげる。

 二人、特にオズぼんが手放しで称賛するのはよほどのことだ。

 畏敬の目をミュゼに送るクルトと対照的に、アルフィンの顔は優れない。

 

「姫様、お顔が……」

「いいえ、大丈夫……大丈夫よ」

 

 帝国の至宝と呼ばれた美しい顔は焦燥にかられ、エリゼが支えているが顔色は悪くなるばかり。

 少し夜風を浴びてきます、と言ってミュゼは席を立ってバルコニーへ向かう。リィンはクルトに二人の様子を見てもらうよう言付け、その後を追った。

 バルコニーへ向かうと、初夏の風がリィンに吹き付ける。

 日差しのきつくなってきた日中に加え、風の涼しさが心地よく感じる。

 そんな夏の風が、ミント色の長い髪の毛を揺らす。

 女学院の時はまるで気づかなかったが、高級品のシャンプーを使っているのか、なんとも言えない良い香りが鼻孔をくすぐった。

 背後のリィンに気づいたミュゼは、振り向いて彼を出迎える。

 

「さて、改めての話し合いと参りましょうか、リィンさん」

「いいのか? ミュゼも休まなくて」

「先に内戦の話をしたのは、このためですから」

「……姫様の体調が崩れることがわかって、切り離したわけか」

「はい。お優しい姫様のことですから、きっと気に病むと思ったので」

 

 女学院でリィンに振り回された時と違い、冷静さを取り戻したミュゼの声は平坦なものだった。

 観の目でその様子を見るリィンには、努めてそうあろうとしていることが丸わかりである。

 先程見た一つ一つの情報を把握し、予測し、導くその思考力とは裏腹に、月の光に照らされた顔は年下のミュゼの顔がさらに幼く見える。

 リィンはここで初めて、ミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエンという少女の素顔に触れた気がした。

 それを思うと――心の中で燃え盛っていた焔が沈静化していくのを感じる。

 

「あーミュゼ、これから大変なことを言う俺が言う台詞じゃないけど、そんな顔してないと頭って働かないのか?」

「え?」

「私、無理してますって顔に出てるからな。急ぎの用事ではあるけど、明日でもいいぞ」

「……女学院に来たあの勢いを考えると、一秒も無駄に出来ないのでは」

「最初は、というか今もそう思うんだけど……俺が助けたい友達は、子供好きでさ。子供を泣かせてまで助けた、なんて言ったら怒られちゃうよ」

 

 ロジーヌが士官学院の生徒というのは偽りの身分であったが、教会のシスターとして働き子供達に笑顔を向けていた姿は嘘ではない。

 偽っていたのは身分だけであって、士官学院での生活は真実だとリィンは思っている。

 見えていないにも拘らずオズぼんの存在を信じ、友となってくれたロジーヌだからこそ、リィンは助けたいと思うのだ。

 彼女の身柄を助けたいのでなく、心も伴わないとそれは救出と言えない。

 リィンがロジーヌを友達と思ったのは、彼女の容姿でなく心あってこそ。だから、それを台無しにして助けても意味はない。

 そう伝えると、ミュゼは驚きの顔をリィンに向ける。

 

「――リィンさんは」

「うん?」

「なぜ、リィンさんはそんなご友人の救出を、私に求めたのですか? こう言ってはなんですが、私はこの力を明かしたのは一部の人だけです。当然、先輩や姫様にもです」

「でも、さっきはヴァンダールの人達の動きを予測してクルトを納得させたじゃないか」

「それは、実際に見たからでしょう? たとえオルディスでの要請が私からのものだとしても、それはあくまで内戦の関係。ご友人の救出と何ら関係ないと、リィンさんは思っていたはずでは? ですが、リィンさんは見る前、知る前から私を頼ってきた。一体、どうして」

「簡単だよ、俺の友達がミュゼを頼れって言った。それが全てだ」

「お友達……?」

「占いが得意な子でね。最近はご無沙汰になっちゃってるけど、あいつの占いは百発百中だ」

「そんな、ただ占ってもらっただなんて理由で……?」

「俺はベリルの占い――友達を信じてるから。理由はそれだけだよ」

 

 実際、彼女の占いのおかげでリィンは最短で協力者を得ることが出来た。

 そうでなければ、闇雲に帝国中をヴァリマールで飛び回って無為の時間を過ごしていたことだろう。

 シュミットに釘を刺されているにも拘らず、法国へ足を伸ばすことはおろかオリヴァルトに突撃し、件の神父の情報を引き出した上で足止めに動いた可能性もある。

 それらは問題の先延ばしにしかならず、解決とは言えない。

 だが、今しがた見たミュゼの未来予知とも言える洞察力があれば、ロジーヌ救出の大きな手助けになるとリィンは確信している。

 

「だから、問題があるとすればミュゼが協力に頷いてくれるかどうかだった。ただの女の子を俺達の問題に巻き込むわけだから――ミュゼ?」

「――いいえ、なんでもありません」

 

 そうつぶやくミュゼの顔は優雅に微笑むだけで、その感情を察することは出来ない。

 

「一つ、協力に条件を付け加えてもよろしいですか?」

「いいぞ、なんだ?」

「即答なんですね……」

「ロジーヌを助けるためだからな」

「あら、女性と会話をしている時に別の女性の名前を出すのは禁句ですよ? それも二人も出すなんて……」

「友達なんだけどなあ」

「女性、特に女の子は繊細な生き物なんですよ? たとえご友人といえ、気になる殿方から異性の名前を言われる、というのは飲み込むものがあるので注意してくださいね?」

「わかったよ、それで条件っていうのは?」

「ぜんぶ、終わってから言います。それで、リィンさんの用件というのは?」

「ああ、それは――」

 

 条件というのは気になるが、リィンはミュゼに自分が彼女を訪ねた理由――ノーザンブリアで発見した塩の杭の残留物が盗まれ、ロジーヌが冤罪によって犯人に仕立て上げられようとしていることを伝える。

 さすがのミュゼも塩の杭という特大の爆弾には面食らう。

 

「し、塩の杭、ですか」

「正確にはその残骸。シュミット博士と、魔女って言われる帝国に古くから存在している一族の協力を得て、調べていたんだ」

 

 言いながらリィンはベリルから渡されたレポートをミュゼに渡す。

 ペラペラとめくりながら、一部の資料で止まる。

 気になってミュゼの隣に移動して横目で見てみると、カメレオンオーブの項目だった。

 

「光学迷彩による透明化……今、騎神が居るのですか?」

「ああ。流石にこの場で姿を現すことは出来ないけどな」

 

 リィンは空中を指差す。

 バルフレイム宮の高度五十アージュほどの位置にヴァリマール本体が待機しているのだ。

 いざとなれば転移でここへ来ることも可能なのである。

 

「……今、リィンさんに悪意があったらとんでもないテロリストの誕生ですね」

「そんなつもりは一切ないから安心しろ」

「――ですが、もし居るとしたら?」

 

 その声は、大きくも小さくもない声量でありながらリィンの耳に深く残る。

 

「居る……?」

「テロリストが、帝都に居るとしたら?」

「――詳しく聞かせてくれ」

 

 ミュゼは頷き、彼女の予測した手を示す。

 

「リィンさん、帝都に来た時に何か気づいたことはありませでしたか?」

「気づいたこと……夏至祭の見回りでもないのに、軍人が多かった、かな」

「はい、まさにそれです。実は昨日……正確には二日前に帝都で導力灯の破壊といった騒ぎが起きました。見回りにあたっていたHMPが早く駆けつけたことで大きな事件にはなりませんでしたが、犯人を逃がしています。そして昨日も帝都郊外で似たような事件が起きました。同じく、犯人は捕まっておりません。姿を見たのに、幽霊のように目の前で消えて撒かれた。さらに、それは人間ではなく魔獣のように巨大なものだった……こちらが上がっている証言です」

「それに、何の関係が――」

「塩の杭の残留物を盗んだ犯人は、シュミット教室のデータも盗みこのカメレオンオーブのことも同様に……ということもありえるからです」

 

 まさかの言葉、だった。

 盗まれたのは塩の杭の残留物、ということしか意識していなかったが、同じシュミット教室から他のものも盗まれる可能性だってある。

 今回のカメレオンオーブは試作品、何度も試行錯誤を繰り返すための予備があってもおかしくはない。

 

「帝都を騒がせるテロリストが、犯人である可能性が?」

「発生したのは塩の杭の残留物が盗まれる前なので、同一とも断言出来ませんが、無関係とも思えないのです」

「……EXオーブを組み込めるのは騎神だけだ。紫の騎神を持つルトガーさんが領邦軍に所属しているのなら、依頼を通じてテロまがいのことも引き受けて不思議じゃない」

 

 ルトガーほどの実力者であれば、あの場にいた全員を出し抜いても不思議ではない。

 なら、ロジーヌを襲ったのもルトガーなのだろうか?

 

(でも、呼び出しなんてまどろっこしい真似をあの人がするのか?)

 

 確かに搦め手は得意そうであるし、必要なら実行するだろうが……なにかしっくり来ない。

 何故なら、ロジーヌには怪我一つなかったからだ。

 導力魔法などで治癒をした可能性もあるだろうが、それでも軽傷だろう。

 なら、ルトガーが実行犯だとしたらそれはおかしい。

 彼の実力から考えて、ロジーヌを仕留め損なうことはない。

 法剣だけ折って去る、というのも依頼を受けた猟兵が行うにはあまりにも中途半端。

だから、リィンにはルトガーは関係ないのでは、という考えが離れない。

 その間にも、ミュゼは続ける。

 

「目的は治安維持における正規軍の信頼の低下、でしょうか。近衛軍だけでなく、正規軍にも《貴族派》が幅を効かせる、というメリットがあります。あるいはテロによって手を散らし、何かをするのか……どちらにせよ、ルトガー・クラウゼルがテロリストの直接の犯人という可能性は低いと思います」

「そうなのか?」

「はい。リィンさんに情報が抜かれている以上、見せ札としてならともかくこんなあからさまに怪しんでください、なんて真似をかの猟兵王はしないと思うので」

 

 確かに、ルトガーは戦上手であることはリィンも身をもって知っている。

 未確認だが、カメレオンオーブがなくなった直後、それを用いて暴れるなんて犯人とバラすようなものだ。

 犯行声明を出しているならともかく、ゲリラ戦のように行われる正体不明の散発にそんなものは必要ない。

 

「ここで大事なのは、騎神は他にも存在しており、私達が知っているのは灰と紫だけ、ということです。他の騎神が領邦軍にいない、とは断言出来ません」

「そうか、騎神は全部で七体。確認したのは二体だけで、まだ五体がどこかにあるんだ」

「故に候補に上げるのは、三体目の騎神――その起動者が襲撃犯ないしその関係者であると推測出来ます。そしてその者は昨今帝都を騒がせるテロリストに関係がある」

「つまり、俺がするべきことは今帝都を騒がせるテロリストを捕まえるってことか」

「はい、直接の犯人でなくとも真犯人にたどり着くヒントになりえる可能性はあるかと。シュミット教室のデータが本当に盗まれているのなら、内部犯も疑ったほうがいいでしょうね」

「わかった、その辺はこっちで連絡しておくよ。……そろそろ姫様も落ち着いた頃だろうし、戻ろうか」

「はい♪」

 

 どこか最初の頃より気分が良さそうなミュゼ。

 塩の杭の残留物、などという爆弾を投下したはずなのに、どうしてそんな表情が出来るのだろうか?

 

(フフフ、息子よ。女性に約束を与えてしまった結果、かもしれんぞ?)

(約束程度でそんなになるか?)

(フム、ドンナ無茶ブリガ来ルカ、ソレトモ別ノ……)

 

 協力のための追加条件、が機嫌に関係していることに違いはなさそうだ。

 一体何を言われるのかと戦々恐々しながら部屋に戻った二人だったが、そこで空気の変化に気づく。

 リィンはすぐに部屋の中を確認したが、原因はすぐわかった。

 入口付近に、見知らぬ金髪の少年が立っているからだ。

 赤を基調とした豪華な衣装に身を包んだ少年は、女顔のような中性的な顔に呆然とした表情を刻んでいる。

 一体何事か、とリィンはエリゼに声をかけようとするが、それより早くクルトが少年の正体を伝えた。

 

「セドリック殿下、どうしてここに……」

 

 少年――セドリック・ライゼ・アルノールは己の名を呼んだクルトを一瞥し、軽い笑顔を浮かべようとしたが、すぐに別の言葉が漏れた。

 

「アルフィン……内戦って、どういうことなの?」

 

 クルトの顔が歪む。

 彼が守るべき相手は、今まさに遠ざけようとした問題に入ってきてしまったのだから――




さすがの塩の杭の残留物のことまでは話せないので距離を取ったら、エリゼ達の出番が控えめになってしまいました。
次回はちゃんと出番あるはず…

しかしミュゼの予測って本当にどこまで出来るんでしょうね。
黄昏を見抜くとか、普通は知りえないはずの情報も知ってそうな。
この辺はヴィータと手を組んで師事した中で色々知識も増えた、ってことかもしれませんが…


以下、修正したけど最後までどっちにするか悩んだ修正前のラストNGシーン。
興味ある方はスクロールバーを下げてご覧ください。
「つまり、俺がするべきことは今帝都を騒がせるテロリストを捕まえるってことか」
からの分岐になります。






























「つまり、俺がするべきことは今帝都を騒がせるテロリストを捕まえるってことか」
「はい、直接の犯人でなくとも真犯人にたどり着くヒントになりえる可能性はあるかと。シュミット教室のデータが本当に盗まれているのなら、内部犯も疑ったほうがいいでしょうね」
「わかった。ミュゼ、ありがとう。お礼はまた今後絶対する。そうと決まれば早速確保してくるからエリゼ達にはよろしく言っておいてくれ。来い、灰の――」

 リィンはミュゼに礼を言ってバルコニーの柵に足をかけ、そのまま騎神を召喚して飛び去ろうと――

「リィンさんお待ちください、下に人が!」

 したところを、ミュゼが眼下の人物に気づいてリィンの右腕にしがみついて引き止める。
 だが鍛えたリィンと非力なミュゼとではあまりにも筋力に差があり、ミュゼはリィンを止めることなく引きずられてしまう。
 結果、跳躍したリィンと一緒にミュゼはバルコニーから落下してしまった。

「きゃ、きゃあああああ!!」
「うわあああああああああ!」

 地上から誰かの悲鳴が上がる。
 リィンは咄嗟に召喚する相手を切り替えた。

「――チカラ、ロア・ヴァリマール!」
「応!」

 一瞬だけ顕現させたロア・ヴァリマールを灰の鎧として足にまとわせ、軽やかに着地する。
 リィンの体術と合わせて、完全に衝撃を殺して地面に着地する。
ミュゼには微塵も衝撃を伝えていないが、彼女はきつく目を閉じて右腕を抱きしめ、ぷるぷると体を震わせている。
 目尻に涙が浮かんでいるように見えるのは、気の所為ではないだろう。
 衝撃はなくとも視界までは隠せず、バルコニーから飛び降りた光景までは避けられなかったようだ。
 まさかあの状況で引き止めてくるとは思わず、リィンの胸に罪悪感が湧いた。

(フフフ、息子よ。急がば回れ。少なくともバルフレイム宮での突発的な行動は極力避けるがいい。目の前のお方のように、誰かに見られる)
「…………(パクパク)」

 目の前にいたのは、金髪の少年だった。
 赤を貴重とした服は豪華な素材で編まれたものだとひと目でわかる高級感を出しており、少女と見紛う愛らしい顔立ちの少年だ。
 口を開閉してリィンを見る姿はどこか愛嬌すら浮かんだ。

「すみません、お見苦しいところを……」
「あ。え、は、あ……だ、大丈夫なんですか?」
「鍛えてますので、平気です。ただ、彼女はそうでもないので休ませてあげたいのですが……」
「そ、そうですね。ミルディーヌ、平気かい?」
「………………………え?」

 しばらくリィンの右腕に抱きついて震えていたミュゼだったが、少年から心配をかけられると目尻に涙を浮かべたまま呆然とその少年を見やる。

「ミュゼ、知り合いか?」
「し、知り合いも何も……殿下です」
「うん?」
「姫様の双子の弟君、セドリック・ライゼ・アルノールその方です」
「…………え?」
「ど、どうも。ご紹介に預かりましたセドリック・ライゼ・アルノール、です」

 あはは、と気弱そうに笑うエレボニア帝国の皇子。
 こうしてリィンは、ミュゼを伴ったバルコニーからの飛び降りという鮮烈な光景と共に、セドリックと出会った。




という、最初は飛び降りダイナミック挨拶というお話だったのさ。
子供を泣かせる手段を使ってまでロジーヌを助けるわけにはいかない、と言っておきながら二度目の夜間飛行でミュゼを泣かせかけたため、NG行きとなりました。
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