はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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突貫ですが、なんとか出来て良かった。
しばらく更新は途絶えますので、ご了承ください。
閃の軌跡完結編、果たしてどんな結末を迎えるのか本当に楽しみです!

そして毎度誤字報告、ありがとうございます。


フフフ、息子よ。三者面談は父が行くぞ

 トールズ士官学院本校舎一階にある学院長室。

 そこで学院長であるヴァンダイクは三人の教官を呼び出し、ある話し合いを行っていた。

 呼び出された教官はⅦ組の担当サラ。軍事学教官のナイトハルト。そして帝国史・文学を担当しているトマス・ライサンダーである。

 

 サラとナイトハルトは互いの思考に妙な噛み合わなさを持っており、表情こそ出ていないが部屋に入って相手を確認した時に僅かな不機嫌さをにじませていた。

 柔らかいサラの思考と、固いナイトハルトの考えがぶつかり合うのは必然でもあるが、戦闘では見事な連携を見せる不思議な関係である。

 

「さて、突然の呼び出し申し訳ない。君たちを呼んだのは、ある生徒について尋ねたかったからじゃ」

「ある生徒?」

「リィン・シュバルツァー君じゃ。サラ君は担任だから当然として、二人も授業を行ったことはあるじゃろう?」

 

 その名前が出ると、サラとナイトハルトは渋面を作る。

 トマスは分厚いメガネのせいで表情がわかりづらいが、ああ~と何度も首肯し件の人物を思い出していた。

 

「学院長、リィンがどうかされました? また何か問題を……」

「いや、問題……と言えば問題かもしれぬが、どちらかと言えば善行であろう」

「と、いうと?」

「彼が入学式の翌日から数日の間、宿舎はおろかトリスタにもいなかったことは知っておろう? どうやらその間、魔獣や猟兵くずれから近隣の街や村を守っていたようでな……」

「は?」

 

 間の抜けたサラの声。

 ナイトハルトも声こそ出さなかったが、同じく言葉を失っていた。

 予想できない、できるわけがない事実に脳が理解を拒んでいた。

 言葉の出ない二人に代わり、トマスがヴァンダイクへ質問を投げた。

 

「そのー、彼はどうしてそんなことを?」

「わからぬ。ただ、感謝状やら何やらが学院に届いておってな。赤い制服を着た、黒髪の生徒によって助けられたという旨が相次いでいる。ウォーゼル君が学院に居た以上、こちらはシュバルツァー君であろう。どうやらトリスタはどこかとしきりに聞きまわっていたようで、それが特定に繋がったそうだ。ハイアームズ侯からその報が届いた時は何事かと思ったわい」

「…………どう判断するか困りますね」

 

 ナイトハルトのつぶやきに、サラがこめかみを抑えながら呻く。

 一年の貴族生徒の中でも、特に貴族意識の強いパトリック・ハイアームズが最近大人しくなったのは、父親からリィンの行動を聞いたが故だ。

 曲がりなりにも貴族の息子、領地の民を救った恩を忘れて絡むほど愚かな子供ではない。

 

「オリエンテーションで、シュバルツァーに事情は聞かなかったのか?」

「入学式は友人のペット捜索、数日間授業に出なかった理由は友人の忘れ物を取りに、の一点ばりでその子も頷いていたわ……明らかな嘘だってわかったけど、今年度の主席入学者の言だったから判断を保留していたのよね」

「エマ・ミルスティンだったか。成績優秀で品行方正な、特に問題のない生徒かと思っていたが……」

「優秀ですよねえ、あの子。歴史にも詳しいようで、つい獅子戦役の話題で盛り上がってしまいました」

「トマス教官、今はそのあたりで。ミルスティンとシュバルツァーが友人同士だった、というのはいいとしよう。問題となるのは……」

 

 渡された資料には、リィンは鉄道で移動した様子もなく、明らかに着の身着のまま放り出されたかのように外出していたとある。

 加えてサザーランド州での目撃情報もあり、徒歩で移動したにしてはおかしすぎる場所なのだ。

 

「行動の理由がわからぬ。故にここへ呼び出す前に、リィン・シュバルツァー君の人となりというものを知っておきたくてな」

「……独り歩きする噂を廃して言えば、生真面目で天然、といった感じです」

「ふむ?」

「ペナルティとして与えた奉仕活動に対する文句はなく、真面目にこなしている姿が見れます。遠巻きに見る生徒こそ多いですが、生徒会の雑務の中で携わった生徒が言うには、噂ほどおかしい人じゃなかった、とも聞きますしね」

「ナイトハルト君はどうかね?」

「基本的に素直で真面目な生徒かと思われます。加えてフィジカルに関しては上級生すら……明らかに学生レベルを超えているかと。私が課した軍隊式の訓練にも、疲れはあれど何の問題もなくこなしておりました」

 

 ナイトハルトは水練の授業で行った相克修練法でスピードを落とすことなく自分についてくるリィンに瞠目し、入学式とその数日の間のことがなければ素直に絶賛していた。

 いかに才能溢れた生徒であれど授業をサボる一面がある、という事実がナイトハルトからリィンへの称賛を抑え込まれていた。

 

「体力だけじゃなくて戦闘技術に関して補足すると、ひょっとしたら私達でも危ういレベルだと思います」

「なに?」

「かの紫電殿にそう言わせますか」

 

 ナイトハルトは眉をひそめ、トマスが感心の声を上げる。

 サラは酒好きで掃除もできない、女として生活力が危うい面があるものの、面倒見の良さやその強さ――元A級遊撃士としての実力に疑いはない。

 そんなサラに自分でも危ういと言わせるリィンに、ナイトハルトやトマスは興味を抱いた。

 

「オリエンテーションのさい、素手であの旧校舎地下を抜けてきた時点で生徒にしては強いと思っていました。ガーゴイル相手でも不足していたかもしれません。そのため、本来の得物である太刀もありませんが、軽く実力を見るべく模擬戦を行いました。当然こちらが終始優勢でしたが、一瞬だけ、自分が地に伏せるイメージが浮かびました……もちろん、実際はそうなりませんけど」

「なるほど……トマス君の印象としてはどうかね? 授業態度などだ」

「お二人の言葉とそう変わりありませんね。真面目に授業を受けておりますし、エマ君から遅れた分の勉強を取り戻す姿も見たことがありますし、私にわからない箇所の質問をしてくれることもあります。なぜ入学式にあんなことをしたのか不思議なくらいですよ。ただ、授業と関係ない雑談の中でしたが、生徒らしからぬ知識の豊富さや政治への造詣が深いことを伺わせます。まるで、彼にそういった助言を行えるブレインがいるような……」

「解釈はほぼ同じなれど、明らかに生徒レベルではないということか」

 

 机に座るヴァンダイクは絡ませた両手の上に顎を乗せる。

 その姿に、トマスはこんなことを言った。

 

「ひょっとして、どこからか送り込まれたスパイ、とか疑っているのでしょうか?」

「…………ARCUSのこと?」

「ええ。特科クラスⅦ組が存在する理由。オリヴァルト皇子の計らいで生まれた組といえ、そこに使われる技術は場所によっては喉から手が出るほど欲しいものでしょう」

「仮にスパイだと仮定しても、そんな任務を受けた相手があからさまに不審な行動を取るだろうか? なぜわざわざ目立つ真似をする。ARCUSが目的なら行方不明になっていた時点で姿を晦ませ、ここへ戻る必要もない」

「リィンのARCUSは、自室の机に置かれっぱなしだったそうですよ? それにシュバルツァー家と言えば男爵家でありながら皇帝の信頼も厚いと聞くわ。野心なんて持つことはないと思うから、実家からの要請というわけでもないと思います」

「……うーん、点はあれど線が繋がらないですねえ」

 

 トマスの指摘にごもっとも、と部屋にいる全員が頷いた。

 

「あ、追加として毎日走り回っている印象が強いです」

「確かにシュバルツァーは暇があれば常に移動しては、誰かに話しかけていたり何かしている気がするな」

「私もよく見ましたねえ。本人に聞いたこともありますが、マラソンとしか言ってもらえませんでしたよ」

「話を聞いてますますわからなくなったぞ」

「やはり直接話すのが一番では?」

「そう、なるか。ではサラ君、すまないが放課後にシュバルツァー君にここへ来るよう伝えてもらえぬか?」

 

 

 そんな話が行われていたとは知らないリィンは、サラからの伝言に従い学院長室へと足を運んでいた。

 伝言を受け取るさい、やけにリィンを訝しむ視線が強かったことが気になったが、彼は特に気にせず学院長室の扉を軽く叩いた。

 ノックの後に改めて挨拶と共に入室したリィンは、振り返ったヴァンダイクの体躯に圧倒される。

 齢七十を超えていると思えないほど鍛えられた肉体に、二アージュ近い身長を持ったそれに男として尊敬を覚えてしまう。

 

(フフフ、気にするな息子よ。十数年も経てば、お前もまた立派な体格を手に入れていることだろう)

 

 オズぼんの言葉に、リィンは未だに出会えぬ実父であるギリアス・オズボーンの容姿を思い出した。

 その姿自体はオズぼんで見慣れたものだが、将来俺もああなるのかとなんとも言えない気分になる。

 正直に言うと嫌だった。

 宰相が知れば曖昧な表情で沈黙しそうである。

 

「学院長、要件とはなんでしょう?」

 

 暗澹とした気分を晴らすように、リィンは気持ちを切り替える。

 学院長自らの呼び出し、あまり良い予感はしていないが逃げるわけにもいかない。

 

「そう緊張するでない。いつもトワ君が君に回している依頼を、ポストでなく直接言いたいがために呼び出したのだ」

「依頼?」

「うむ。君たちⅦ組がオリエンテーションに使った旧校舎なのだが――」

 

 そこでリィンは、一年前から旧校舎に生まれた扉や不審な声の調査を頼まれる。

 貴重な自由行動日に申し訳ないとヴァンダイクは言ってくれたが、リィンとしては何も問題なかった。

 

「調査には手が空いているⅦ組の面々でも誘って――」

「すみません、エマを除けば自由行動日を潰してまで付き合ってもらえるほど親しくないので……」

「ん? む、うん……」

「どうかされましたか?」

「これはⅦ組全員への依頼のつもりだったのでな」

 

 リィンは返答に詰まる。

 Ⅶ組全員への依頼ということなら、自分とエマを除いた他の七人に協力してもらわなければならない。

 ある程度話せるようになったといえ、いきなり休日を潰して欲しいと誘えるのか? と思い悩む。

 さしあたっての問題、マキアスとの一方的な確執は未だに続いている。

 だがルールを遵守するマキアスならば、学院長の依頼ということで押せば問題ないのでは? 他の面々も同様にとリィンは彼らへの誘い文句を頭に浮かべていく。

 そんな風に思案するリィンを、ヴァンダイクはじっと見据えて目を細めている。

 それに気づいたリィンは、若干の期待を込めてヴァンダイクへ聞いた。

 

「学院長、俺に何かついてますか?」

「…………いや、気の所為だろう。なんでもない」

「そうですか……」

 

 残念だが、やはり魔女でなければ難しいかと嘆息する。

 

「……ところで話は変わるのだが、君は入学式の翌日以降どうして学院に来なかったのだね?」

 

 突然の話題の投入にリィンは言葉を詰まらせる。

 エマとセリーヌのことを言うのは簡単だが、帝国において、学院において魔女の眷属という存在を明かしても大丈夫なのかという疑念が浮かぶ。

 世の礎たれ、を基盤とするトールズの思想や優秀な教官達を見れば下手に危害を加えることはないのだろうが、やはり勝手にエマの事情を話すのはよくないことだとリィンは気持ちを押し止める。

 生徒としての義務や自分への不審よりも、エマとの友情のほうがリィンにとっては大事だった。

 

「友人が故郷に忘れ物をしたというので、それを取りにいってました」

「随分と友人想いなのだね?」

「はい。俺にとっては、本当に。生涯を通じて付き合いをしていきたい人です」

 

 まるでプロポーズのような言葉に面食らうヴァンダイク。

 だがすぐに真顔に戻り、リィンの観察を続ける。

 不審に思っているのか、思索しているのかの判断なのかはリィンにはわからない。

 逆に事情の全てを知っていて、こちらの言葉を待っているのかもしれない。

 困窮するリィンの窮地を救ったのは、オズぼんだった。

 

(フフフ、息子よ。ここは下手に嘘を言わないほうがいいであろう。今は旧校舎の話題にかこつけて言い逃れるがいい。そして探索の中でエマ嬢に事情を打ち明け、改めて話すのが現状の最善であろう。どのみちこうなることは必須だったのだから)

(わかった……)

 

 そうと決まれば、と話題は出せど深く突っ込まれないことを幸いにリィンは旧校舎への問題へ意識をすり替える。

 

「そうだ、Ⅶ組への依頼ということですが、他の協力者を要請しても構わないでしょうか?」

「と言うと?」

「Ⅲ組のベリルと、Ⅴ組のロジーヌです。最近付き合いがあるので、彼女達なら問題なく協力してもらえるのではないかと思いまして」

「また両極端な相手との親交があるのじゃな。……全てをその四人で行う、というのは好ましくないが、一度の探索ならば許可しよう。ただし、以降はⅦ組のメンバーを連れていくのじゃぞ?」

「はい、わかりました。あの、旧校舎とは関係ないのですが少し相談があるのですが……」

「ほう、言ってみるといい」

「学院長は、身分を理由に距離を置く相手と親しくする方法に心当たりはありませんか?」

「なるほど……そういった相手ならば――」

「それと、こちらに興味を持っていない相手に――」

 

 ちゃっかりⅦ組メンバーとの関係を改善する方法を聞いたリィンは、今度試してみようと意気揚々に学院長室から退室していく。

 そしてそんなリィンを遠くから見つめる、ある教官の姿があった。

 

「……危険はないと思いますが、保険をしておいて損はありませんね」

 

 

「――ってわけで、三人とも旧校舎探索に協力して欲しい」

 

 場所はオカルト研究部の部室。

 ベリルに許可を取り、呼び出されたエマとロジーヌはその提案を受けてそれぞれ考え込むようなリアクションを取った。

 

「自由行動日だし、何か用事があるなら無理にとは言わないが……一応学院長からの依頼でもあるから、協力してもらえると助かる」

「私は問題ありませんが、ベリルさんにロジーヌさんも、ですか?」

「ああ。ちょっと話したいことがあってな」

(フフフ、彼女らと付き合いを続けるのであればセリーヌ嬢のことも説明する必要があるだろう。機会はまとめて、というやつだ)

 

 ロジーヌにオズぼんのことは言ったが、ベリルには言ってない。

 ベリルにセリーヌのことはバレていたが、ロジーヌは知らない。

 各々が情報に欠落があるので、リィンはオズぼんの言葉に頷いてこれを機に鬼の力も含めた事情を明かそうと思っていた。

 隠し事全てを言う必要はないが、それでも自分という存在をリィンは三人に知ってもらいたかったのだ。

 

「ウフフ、話があると言うから部屋を貸したのに、まさかこんなことを言われるなんてね。やはり貴方は読めないわ」

「お話を伺いますに、Ⅶ組への依頼なのですよね? 私達が関わっていいものなのでしょうか」

「恥を晒すようで悪いが、入学式とかの一件で距離を置かれていてな。次回はⅦ組のみんなを誘うつもりなんだが、今回はある程度の下見のための探索なんだ。それなら二人が参加しても構わないとのことだ」

「ウフフ、私達は釣り餌ということかしら」

「ベリルさん、リィンさんはそこまで考えては……」

「いや、結果的にそうなってしまうから気に障ったなら謝る」

「いいえ、言ってみただけだから問題ないわ。ロジーヌさんもごめんなさいね?」

「ああいえ、こちらこそ……」

 

 謝罪しかない場に軽く苦笑しているエマ。

 一通り謝り通したところで、ベリルはリィンの協力要請を了承する。

 

「私は構わないわ。あの旧校舎はかの灰が眠る地……ひと目見ておきたかったし」

「え……?」

 

 ベリルのつぶやきにエマが呆然としているようだが、それを遮るようにロジーヌが言葉をかぶせる。

 

「私も構いません。でも、リィンさん達の足手まといにならなければいいのですが……」

「いや、戦闘は俺とエマを主導にしてもらえばいい。ARCUSもあるからな。二人は取りこぼしのフォローとかを頼めればいいと思っている」

「はい、精一杯お手伝いさせていただきますね」

 

 たおやかな笑みを浮かべるロジーヌに嬉しさを返し、今日はその旨を伝えて解散とする。

 そうして訪れる自由行動日、リィン達四人は旧校舎の探索を開始するのであった。




うーんエマとロジーヌで敬語キャラが被ってしまった。
ここまでクルトもとい来るとⅦ組との絆を延々と引き伸ばしたほうが作品の味が出るのではなかろうかと思う次第。
これも全部オズぼんってやつの仕業なんだ。
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