はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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フフフ、息子よ。三者三様だな

 転移したヴィータを追いかけてきたエマとセリーヌは、裏翡翠庭園を脱して裏ドライケルス広場へと舞台を移す。

 ドライケルス像の前に立つヴィータを、少し遅れてエマ達がたどり着く。

 数多くの人で賑わう帝都最大の観光名所の一つであるドライケルス広場には、瘴気の溢れる特異点であるため戦場にいるのは魔女の眷属達のみ。

 存分に渡り合える、とエマは魔導杖を掲げた。

 

「来て、オル=ガディア!」

 

 Mクォーツ「ギアス」による座標の発信により、旧校舎に安置されている全ての魔煌兵のプロトタイプ、オル=ガディアが顕現する。

 本来であれば対騎神と起動者へのカウンター兵器であるそれは、帝国……いやゼムリア屈指の天才の叡智により魔女のサポートと合わせた完全支配下に置いていた。

 

「召喚……?」

「トマス教官から『許可』を受けている私には、転移制限はないんですよ、姉さん」

「用意周到、というわけね」

「それでも簡単にアンタに届くとは思わないけど、ね!」

 

 セリーヌが吠えると同時にオル=ガディアが肉厚の大剣を振りかぶり、ヴィータへ振り下ろす。

 身体能力は高いと言えないが、それでも鈍重な魔煌兵の動きを避けることはたやすい。

 ヴィータはひらりと舞うようにその攻撃を避けるが、その地点に向けてエマは戦技を発動していた。

 

「昏き刃よ!」

 

 中空に具現化したイクリプスエッジがヴィータに向かう。

 オル=ガディアで相手の体勢を崩し、エマが追撃を行う、単純ながらも効果的なコンビネーションはしかし、同じく虚空より生まれた刃が全て弾き返す。

 

「返すわよ」

 

 見せつけるように、霊力で編んだ刃を縦横無尽に走らせる。

 一直線に飛ぶ自分の刃との歴然たる差を感じるエマだったが、己と姉に差があることは百をも承知している。

 そのための手数、そのための魔煌兵。オル=ガディアの手で拘束出来れば、それだけで勝負はつく。

 オル=ガディアの行動に変わりはない。攻撃は全てブラフ、ヴィータの確保を最上の命令として受け付けている。

 そんなエマの思考を、当然ヴィータは看破する。

 

「エマ、相手に伝わる思考はもう少し惑わしなさい」

 

 蒼く輝く杖を一振りすれば、己に迫っていたオル=ガディアの手が止まる。

 いや、凍りついていた。

 足元から生まれる氷の柱に包まれるように、オル=ガディアの立つ地面ごと魔煌兵はドライケルス像に並ぶような氷像と化す。

 さらに氷獄は範囲を広げ、エマとセリーヌも飲み込まんとその牙を剥いた。

 

「迸れ、焔よ!」

 

 放たれたヴォーパルフレアが自身に迫る氷とオル=ガディアを溶かそうと炎熱を浴びせる。

 だがその氷は容易く溶けず、迫る速度を緩めることと、凍てついた魔煌兵から流水を滴らせるも即座に解凍出来るようなものではない。

 エマはオル=ガディアの解凍を諦めて、別の使い方に切り替えた。

 

「セリーヌ、サポートお願い!」

「わかったわ!」

 

 そして行われた次のエマの行動に、ヴィータは軽く目を剥いた。

 エマはオル=ガディアを転移したかと思えば、それをヴィータの頭上へ移動させていた。

 動かぬならば、その重量を活かして落石のように使う始末らしい。

 咄嗟に短距離転移で避けるも、そこから先は転移による追いかけっこが始まる。

 だがエマはセリーヌのサポートがあっても、氷像のオル=ガディアでヴィータを止めることが出来ずにいた。

 ヴィータはヴィータで、魔女らしからぬ攻撃的……言ってしまえば脳筋に等しい使い方をする妹に苦言を漏らす。

 

「エマ、しばらく見ないうちにずいぶんと変わったようね。でもそのやり方はスマートじゃないわよ」

「スマートさでは姉さんに勝てませんから」

「かといってこの強引さ、リィン君に影響受けてない? いくら起動者を導く魔女だからって、そんなところまで似なくていいのよ」

 

 その台詞に思うことがあるのか、エマは無言。

 

「……今は、姉さんに届くことが優先です!」

 

 ごまかすような物言いに、ヴィータは可愛い妹があの破天荒な少年によって染められてしまったのだと嘆き悲しむ。

 だが戦況は膠着しており、イタチごっこの繰り返しだ。

 エマは転移の傍ら、導力魔法による追撃を行ったがヴィータは即座に同じアーツを選択して相殺する。

 明らかに見てから放たれる後の先、というより駆動準備の違いを見せつけられたせいか、転移の精度が落ちてくるのをヴィータは感じ取った。エマとの魔法組手――というにはいささか華が欠けるものだが――をひとしきり堪能したことで、エマを気絶させることに決める。

 

「因果律操作を打ち破ったのは褒めてあげるけど、それだけね。まだまだ精進なさい――グリアノス!」

 

 ヴィータがその名を呼ぶと、エマにとってのセリーヌと言える己の相棒、蒼き鳥グリアノスがどこからともなく姿を現し、ヴィータの魔力を受けその小さな体を巨大化させる。

 グリアノスは長い首を仰け反らせた。その口蓋に溜まっていく霊力を感じ取り、純粋な魔力の息吹を叩き込む気だとエマは察し――これを待っていた、と意を決した。

 エマは駆け出す。目標はヴィータだが、彼女は防御行動を何一つ取らず真っ直ぐヴィータへ向けて走り出す。

 

「エマ!?」

 

 ヴィータは慌ててグリアノスの攻撃を中断しようとするが、もう遅い。

 すでにグリアノスはその吐息をエマに向けて吐き出していた。

 何の備えもなく、自殺願望でもあるようにそれに向けて駆けるエマは、ARCUSをセリーヌに投げながら叫んだ。

 

「セリーヌ!」

「ヴィータ、アタシだってアンタに怒ってるんだからね!」

 

 呼びかけと同時に、疾走するエマの足元に合わせるように転移陣が起動する。

 ヴィータは直接狙ってくるかといつでも短距離転移の準備を行っていたが、転移したのはエマでなく――新たに召喚された漆黒の巨体だった。

 のっぺりとした頭部はそのままに、オル=ガディアよりも洗練された機体はより戦闘用にチューンナップされた進化を感じる。

 その名はダイアウルフ。

 シュミット教室においてシュミットが独自に鹵獲し、召喚した魔煌兵である。

 エマの前に立ったダイアウルフはグリアノスの吐息を受けながら、強引に両手を振りかぶって霊鳥へ叩きつける。その動きのままにグリアノスを抑え込み、その動きを封じた。

 

「グリアノス!?」

 

 ヴィータが杖をかざそうとしたところへ向けて、エマは魔導杖を振りかぶり、槍投げのように投擲する。それはヴィータの杖に命中し、彼女の手を強く弾いて行動を阻害させる。新たな魔煌兵の召喚に、ヴィータの対応が一手遅れた機をエマは逃さなかった。

 騎神との戦闘データ収集やロア・ヴァリマールとの模擬戦においてエマも戦闘技術は確かに上がっていた。

 決してヴィータが思うほどに彼女は弱くない。

 エマの戦技や魔法は確かにヴィータに通じることはなかったが、それでもトールズへ来て磨かれたものがある。

 それもこれも、全てはこの一瞬のため。

 

「姉さん―――――!」

 

 エマは全速力からヴィータに向けて飛びかかり――そのまましがみつくように抱きついた。

 

「え…………?」

「姉さん、姉さん、姉さん……!」

 

 勢いのままにヴィータはエマを伴って倒れる。

 だが妹からは強い抱擁をされるだけで、戦技も魔法も何も使ってこない。

 そのことが逆に不可思議で、ヴィータは魔法を使うことなく手を止めてしまっていた。

 

「寂しかった……置いてかれて、すごく泣いて、音沙汰も全然なくて、おばあちゃんは忘れろって言うし……でも、私はそんなこと出来なかった! だから……だから……巡回魔女になって姉さんを探そうって……!」

 

 エマはただ、姉の名を紡ぎ溢れ出る涙と共に感情を吐き出していた。

 そう、これが彼女がトールズで――いや、リィンとの縁によって身につけたもの。

 彼が常日頃から当然のように行っている、素直に感情を出すという難題にして簡単な気持ちの出し方だった。

 なんてことはない。

 逃がす逃さないは建前で、エマはヴィータと再会出来たことを喜んでいた。

 その気持ちをわかりやすく伝えるために、ぎゅっと抱きついて離さない。

 

「エマ…………」

 

 どんな戦技やアーツも跳ね除ける自負と事実があったヴィータだったが、妹の泣き顔には諸手を挙げて降参する他ない。

 

「ごめんなさいね……」

「やだ、許さない! 許さないんだから……うわあああああああああ!!」

 

 グリアノスは止まり、ダイアウルフもセリーヌが操作するARCUSによって動きを止める。

 かける言葉はエマの涙声にかき消されてしまったヴィータは、昔そうしたように彼女が泣き止むまで優しくその頭を撫でるのだった。

 

 

 黒剣と法槍が互いに重々しい音を残して弾き合う。

 マクバーンが放つ黒焔はローゼリアが封じ込んでいたため、戦いはバルクホルンとの近接戦闘へ移行していた。

 そのなかでバルクホルンは目の前の火焔魔人の身体能力に舌を巻く。

 決して剣術を修めていると思えない、力任せの剣であるにも拘らず槍術を学んだバルクホルンが押され気味だった。

 迎え撃とうにも、人の膂力と思えないパワーにより技が崩される。それでも老練に至る身で鍛えたものが勝負を互角に持ち込んでいた。

 少なくともローゼリアの援護がなければ、黒焔によって常時火傷と呼吸器官の損傷は免れなかったとバルクホルンは考える。

 

「ハッ、良い感じじゃねぇか!」

 

 焔が封じ込まれているというのに、マクバーンの顔に焦りはない。とはいえバルクホルンも《匣》の強化のために聖痕の力を全力で扱うことが出来ない。

 千日手になるか、と疲労を滲ませるバルクホルンに対し、マクバーンはただ強者との戦いに愉悦を感じるバトルジャンキーの顔を覗かせている。

 

「お主、それほどの力を持っていながらなぜ胡散臭い組織に属しておる?」

 

 仕切り直しのために距離を取った二人に割り込むように、ローゼリアが話しかける。

 バルクホルンはすぐに迎撃の構えを取ったが、意外にもマクバーンは手を止めてローゼリアの問いに答えた。

 

「なんてこたぁねえ、必要だからやってるだけだ」

「必要……?」

「お前も魔女ならわかってんだろ? 俺がどういう存在なのか」

「お主は《外の理》そのもの……ゼムリアと異なる世界からの来訪者であろう」

「何?」

 

 ローゼリアの指摘にバルクホルンが目を剥く。

 マクバーンは気にした様子もなく、ローゼリアの答えにくつくつと満足そうに笑った。

 

「正解、その通りだ」

「!?」

 

 笑うマクバーンの背後に、影が浮かぶ。

 騎神と似たサイズのシルエットのそれは、影法師のようにマクバーンに連れ添っていた。

 

「だいたい五十年前くらいか。どういう理由か知らねえが、俺はよそからやってきた何かと混ざった。この姿自体はゼムリアの俺だが、もう半分はこの後ろのやつだ」

 

 顔を手で覆い、さらに笑うマクバーン。

 ローゼリアとバルクホルンには、それが自嘲のようにも見えた。

 

「俺はずっと自分を探してるんだよ。元の世界の記憶、ゼムリアに現れた理由……どういうわけか、俺がこの力を使うたびに時折頭が疼く。そしてわかった。記憶を取り戻すには、俺の本気……元の姿(・・・)に戻る必要があるってな」

「元の姿……」

「となると、今のそれでも手加減した状態というわけか。妾が言うのもあれじゃが、たまらんのう」

「だが本気を出して元の姿に戻るってことは、ゼムリアの破壊と同意義だ。それこそ今回の事件のきっかけになった、塩の杭同様にな」

「塩の杭と同様……だと……!?」

 

 バルクホルンは戦慄を禁じ得ない。

 マクバーンが余力を残しているのは察していた。

 たとえ《匣》へ力の譲渡をしていたとしても、己の聖痕一つで目の前の魔人を抑えるのは不可能だと。

 だが、それが塩の杭と同種の存在であるのなら……その本質は災厄そのもの、人の身で届くものではない。

 

「深淵の誘いに乗ったのも、ここがゼムリアと隔離された次元って話だからだ。ここなら普段よりは力を出しても構わねえからなあ!」

 

 マクバーンの背後の影法師が色濃く存在感を発する。

 姿形は人型から変化していないが、封じていた焔が徐々に小さな火花のように散っていく。

 その熱量と出力に、ローゼリアは小さく舌打ちした。

 

「まずい、抑えきれんかもしれぬ」

「おいおい、そりゃねえだろ。これでもなかなか期待してるんだぜ? 俺の本気を封じてくれるんなら、それに越したことはない。俺が本気で暴れても、世界が壊れずにいるってことだからな」

「無茶を言うでないわ! ババアは労れ!」

「だったら年配者らしく、家に帰って茶でも啜ってるんだな!」

「妾は甘味派じゃ!」

 

 宣言通り、マクバーンは出力を上げる。ローゼリアは頬に小さく汗が垂れた。

 焔を抑えきれず、熱がローゼリアの体に伝わっている証拠だ。

 

「意志のある塩の杭とか洒落にならん! バルクホルン、ここで仕留めきれるか?」

「……届くかわからんが、やってみよう」

「ハッ、これで終わらせるのはもったいねえが、どのみち早いか遅いかの違いだったな。せいぜい壊れねえでくれよ……どっちもな!」

 

 マクバーンは剣を収めると、その手に特大の火球を生み出す。

 同時に背後の影法師が、その火球に力を与えるかのように手を支えている。

 元の姿には戻らないようだが、かつてない焔がこれから迫ってくると二人は理解していた。

 

「我が深淵にて煌めく金色の刻印よ……その猛き咆哮を以て我が槍に無双の力を与えよ!」

「ええい、防御は捨てられんが……ほかは全部持っていけ!」

 

 バルクホルンの背後に聖痕が煌めく。

 黄金の槍と化したそれに、ローゼリアの力が添えられる。

 高まりあった二つの力が一つとなり、巨大な一に放たれた。

 

吼天(こうてん)……紅月槍(こうげつそう)!」

「ジリオン……ハザードオオオオオオ!」

 

 極大の火球と真紅の金槍は互いにぶつかり合い喰らい合い……裏翡翠庭園を蒸発させながら、《匣》ごと特異点を融解させていく。

 その激突の果ては、特異点の崩壊を示していた――

 

 

「うおおおおわあああああああああ!!」

 

 マクバーンによって開けられた大穴に落ちたリィンは、光の見えない闇の中を落ちていく。

 体感的に百アージュ以上落ちた気がするが、落ち続ける先に光は見当たらない。

 ここが特異点ということに加えて、《匣》に収まったということが大きいのかもしれない、と逃避気味にぼんやりと考える。

 

「フフフ、息子よ。《匣》で強化されているということは、特異点はもう大抵のことで揺らぐことはないだろう。ならば、ヴァリ君を呼んで問題なかろう」

「そうか!……来い、ヴァリマール!」

 

 落下しながらリィンはヴァリマールを呼び出す。

 普段であれば即座に応答が来るヴァリマールだったが、特異点ということもあり少し遅れてその声が届いた。

 

「…………応!」

 

 リィンの背後にヴァリマールが召喚される。

 空中で光に包まれたリィンはそのままヴァリマールの中へ転移して搭乗する。

 

「なんだかんだ久しぶりに感じるな」

「ウム。ダガ、ドウヤラ尋常デハナイ事態ニイルヨウダナ」

「ああ、今はマクバーンさんが来てるからな。それじゃあヴァリマール、ローゼリアさん達のところに戻って――」

「いや、このまま下を目指すがいい」

「下?」

 

 コクピットに移ったリィンが改めてヴァリマールを操作して空中に浮かぶと、図ったかのように下に光が見えた。

 

「劫炎に関してはロゼ嬢達に任せよ。今はこちらの捜索が優先だ」

「何があるのか?」

「そこは直接確かめてみるがいい」

 

 ここまで来て遠回しか、と文句を言いたい気持ちだったがリィンはそれでもオズぼんに従い降下する。

 やがてリィン達は見えた光の中に飛び込んだ。

 光の先は、玉座のような場所だった。

 中央には巨大な柱のようなものがそびえ立っており、そこに紅くて大きい何かが鎮座していた。

 

「あれは……?」

「テスタ=ロッサ……」

 

 リィンの声に反応するようにオズぼんがつぶやく。

 テスタ=ロッサ、というのは聞き覚えがある。

 ベリルが言っていた緋の騎神――

 

 ――三体目の騎神――その起動者が襲撃犯ないしその関係者であると推測出来ます。そしてその者は昨今帝都を騒がせるテロリストに関係がある――

 

 脳裏に閃くミュゼの言葉。

 咄嗟に動こうとするが、バルクホルンとの戦いがリィンに冷静さを与えていた。

 一度呼吸を整えようとするリィンに、オズぼんの言葉が響く。

 

「フフフ、息子よ。あれには誰も乗っていない――つまり、斬っても構わんぞ」

 

 気づけば、リィンは鬼気を解放しヴァリマールを操作していた。

 

「鬼神覇斬――」

 

 許容もなく容赦もなく。

 躊躇もなく慈悲もなく。

 純粋な暴威と怪異を孕んだ刃は、当然のように緋の騎神を斬り裂いた。




オズぼん
「一度注意すれば、うちのリィンは待てがちゃんと出来る賢い子だぞ」
ヴァリマール
(冷静トハ……)
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