はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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巻いたはずなのに、結局ノーザンブリア編の話数超えてしまった…
いつも誤字報告ありがとうございます。


フフフ、息子よ。今回のリザルトだ

 結論から言って、塩の杭の残留物は無事に取り戻すことが出来た。

 特異点の崩壊後、ローゼリアの転移により全員が帝都郊外へ移動する中で合流したトマスが自らの《匣》の中に封印し、星杯騎士と合わせて法国へ送ったそうだ。

 曰く、リィンが対峙したテスタ=ロッサ及びゾロ=アグルーガが居た玉座に塩の杭の残留物は埋まっていたらしい。

 安全を考えてバルクホルンが確認したそうだが、塩の杭の残留物が発するエネルギーに覚えがあるためそれと同じものを感知したそうだ。

 とはいえ、すでにその機能は喪失しているとのこと。

 どうやらマクバーンが最後に放った攻撃が塩の杭の残留物を間接的に破壊したらしい。それを聞いたリィンはさすがだなー、とのんきなことを考えていた。

 そして現在は特異点崩壊から二日後、リィンは再びバルフレイム宮の客間へと案内されていた。

 隣にロジーヌとエマにセリーヌが座り、対面にはオリヴァルトがソファーに腰掛けている。別のソファーにはシュミットとローゼリア、バルクホルンにトマスといった今回の事件に関わった面々が並んでいる。

 クレアさんはいないのか、と思ったがこれからの話し合いは情報規制がされるため、セドリックも含めて極力人数は少なくした、とのことだ。

 ベリルも居れば良かったのにな、とリィンは思ったが口には出さなかった。

 

「さて、まずはこのたびの騒動の顛末の処理を労おう。みんなお疲れ様だったね」

「いえ、結局犯人を逃がしてしまいました……」

「最優先だった塩の杭の残留物は奪い返したんだ、今はそれでいいさ」

 

 オリヴァルトの慰めの言葉にも、リィンは素直に頷けない。

 意外と責任感の強い子なんだな、と思いながらもオリヴァルトは気持ちの矛先を変える。

 

「確かに状況から見ればベストだった、とは言えないかもしれないが、少なくともリィン君はロジーヌ君を無事に救出することが出来た……なら、それはリィン君にとって最高の結末なんじゃないかな?」

「それもそうですね」

「切り替え早すぎじゃろ、お主」

「塩の杭の残留物のほうが優先ですよ、リィンさん」

 

 テンションの揺れ幅に呆れるローゼリア。

 自分を大事にしてくれているとわかっているが、従騎士見習いとしてはそう言っておかなければならないロジーヌは苦笑する。

 

「でも、どうしてロジーヌがあの場に? いや助かったことには助かったんだけど」

「ふふ、そこは彼女が望んだワガママといいますか」

「ライサンダー卿!」

「まあまあ、リィン君も知りたいでしょうしね」

「はい、ぜひ」

「うう…………」

 

 上司には逆らえないのか、俯いてしまうロジーヌ。

 エマはそんな彼女を慰めつつ、自分も後でヴィータとのことを指摘されるんだろうなと覚悟を決める。

 

「元々ロジーヌ君は私の《匣》に避難してもらっていました。当然、私の行く先に彼女が居たわけですが……帝都へ来る前にトールズでシュミット教室の皆さんからリィン君に渡した武器、ゼムリアストーンの太刀を預かったんですよ」

「シュミット教室のみんなが?」

「課題としてゼムリアストーンの加工を提示されていたでしょう? 君が数日の間いなかったことも合わせて、きっとどこかで何かをしていると判断されましたね。真っ先に君の太刀を作り、渡してもらうよう言われたんです」

「どうしてトマス教官に?」

「シュミット博士から、それを私に預けておけばリィン君に届けると言われたそうですよ」

「え?」

 

 思わずシュミットを見るリィン。

 

「手間を省いただけのことだ。其奴が帝都に行くことは知っていたのでな」

「はは、そうだったんですね」

「何を勘違いしているか知らんが、その顔はやめろ」

「すみません」

 

 わかりづらく、わかりやすいシュミットの気配りに苦笑するリィン。

 シュミットはそんなリィンにふん、と鼻を鳴らした。

 

「本当は私が特異点の中に入る予定だったのですが、ロジーヌ君から《匣》の制御に集中してください、と言われてしまいましてね。代わりに彼女が君の下へ向かったわけです。まあ、結果的にはそれで正解でした。でなければ、特異点を破壊した劫炎の一撃が外に漏れてしまいましたからね」

 

 そう言って頭をかくトマスの手には包帯が巻かれていた。

 特異点を破壊した影響は、それを包んでいた《匣》越しにトマスへ火傷を負わせるほどのものだったようだ。

 

「あの男は放置しておくには殊更にまずい。そちらへの対策も必須じゃろうな」

「私の聖痕が満足に使えたとしても、結果は変わらなかっただろうな」

「それほどの……」

 

 マクバーンと直接戦った二人の顔は暗い。

 その雰囲気を払うように、オリヴァルトは朗らかな声で話題を変えた。

 

「ま、今はそれよりも法国と帝国の問題さ」

「そうですね、そちらはどうなったのでしょう?」

「クレア君が確保した星杯騎士の身柄は無事法国へ引き渡された。不法侵入及び余罪含めて賠償金はあるだろうが、本格的な政争にはならないだろう。第三者の真犯人に加え、宰相閣下が本格的に動く前に成果を上げられたことが大きい。なにせタイムリミットを二日も短縮出来たわけだからね」

 

 引き渡しまで四日、と言われながらリィン達は実質一日と少しで塩の杭の残留物を奪還した。

 クレアがオズボーンに報告する頃には、すでに星杯騎士達が法国へ送られたことも大きいだろう。

 失態であるとクレアは判断しているが、事前準備の差がそれを分けていた。

 

「そのクレアさんはどちらに?」

「彼女には外へ飛ばしたさい、トマス教官から塩の杭の残留物を省いた説明を受けた後にオズボーン宰相に報告へ向かったようだが、それきりだな。ただ、リィン君のことを心配はしていたよ」

「俺も挨拶出来ればしたかったんですが……」

「何、また機会はあるさ。宰相閣下もアーティファクト関連と察しはつけているだろうが、塩の杭の残留物とまでは思わないだろう。仮に知られていたら、こんな生易しい対処なんて取られない」

 

 事が済んだと知るやいなや、オズボーンは法国への政治交渉もそこそこに己の仕事に戻っていった。

 来月にクロスベルで開かれる《西ゼムリア通商会議》の準備もあるだろうが、基本的に彼は帝国で一番忙しい男なのだ。

 鬼の力を制御した頃から機会があれば会おうとするリィンが、未だに再会を果たせないのもそれが理由だ。

 もっとも、士官学院に入学してからエリゼも合わせて会おうとする気を忘れがちであったのだが。

 

「ロジーヌさんの処遇はどうなるのでしょう?」

「色々法国での問題はあるだろうが、少なくとも帝国での安全は保証しよう。今まで通り士官学院やトリスタの教会にも問題なく通える。実際、数日の休学は体調を崩して入院していた、で通したのだろう?」

「はい、少し大きなものだったのでトリスタから離れていた、という説明でなんとか。怪しまれることはありますが、大きな追及はありません」

「法国からの扱いは、しばらく近寄らないほうがいい、でしょうね。今回、強硬派の指示をした封聖省の一部は賠償金の負担の肩代わりを受けて財産の没収などを受けていますが、彼らからすればロジーヌ君の存在は己の罪の証でもありますので」

「肩代わりなんて生易しいことせずに、追放とか身分剥奪とかもっと厳しい処分は出来ないんですか?」

「全くの同意見ですが、彼らの今後はもうないと思ってもらって構いませんよ。生きてはいても、何のちょっかいもかけられないでしょうし」

 

 ふふふ、と眼鏡越しに黒い笑みを浮かべるトマス。

 リィンは思わず親指をトマスに立てたが、はしたないですよとエマにやんわりと指を降ろされる。

 ため息をつきながら、今度はバルクホルンが口を開く。

 

「ロジーヌには同情のほうも多い。今回の功績を加えれば、従騎士に本格的に昇格させても良いのではという声も上がっているが……」

「それは、私がお断りさせていただきました」

 

 ロジーヌが引き継いだ言葉に、リィンは理由を尋ねる。

 今のロジーヌは見習いなのだし、身分が上がれば色々出来ることも多くなるのでは、と思ったのだ。

 

「功績と言っても、私がしたことは多くありません。むしろ問題を大きくする引き金にもなってしまいました……少なくとも、ある問題を解決するまで、その話を引き受けられない、と思ったのです」

「ある問題?」

「テロリストの中に、私の知る人がいました。彼女を、どうにか引き止められないかと思っています。従騎士になってしまうと、任務も増えてそちらに割く時間が取れなくなってしまうかもしれないので」

「……元、がつくが法国の従騎士だ。初任務を受ける前に法国から去ったが、それに相応しい強さと信仰を持っていた。私のかつての部下の娘でもある」

「かつての部下?」

「塩の杭の調査をするさい、随伴した従騎士の一人が彼女の母親だったのだよ。本人は塩の杭の異変を機に星杯騎士を辞めてしまったが……これも因果というやつか」

 

 ベリルは占うさい、複雑に絡み合った因果が見えたとのことだが、テロリスト一人にしてもこの縁。

 ヴィータやマクバーンといった予想外の介入もあり、本当に色々な思惑が重なっているのだなと感じる。

 

「エマ、ヴィータさんとは話し合えたのか?」

「え? は、はい。結局結社に居る理由はわかりませんでしたが……それでも、色々話せたと思います」

「どんなことを?」

「そ、それはあまり言いたくないと言いますか」

「なんじゃエマ、もったいぶらず教えるが良い。あの放蕩娘と何を話したのじゃ」

(泣きじゃくって慰められて、思い出話しかしてないなんて言えません……セリーヌ! 絶対に言わないでよ!)

(はいはい、猫にだって情けは存在するから安心なさい)

 

 トマスにからかわれたロジーヌ同様、エマも顔を俯かせて無言になってしまう。

 リィンはローゼリアに顔を向けるが、彼女もお手上げと言わんばかりに肩をすくめた。

 そんな中、オズぼんが声を上げる。

 ローゼリアは何故かバルクホルンに目配せをしていた。

 

(フフフ、息子よ。あの話はしなくていいのか?)

(あーそっか。シュミット博士もいるし、ちょうどいいな)

 

 会話に一拍の沈黙が生まれたのを見計らい、リィンはそこで口を開く。

 

「件のテロリスト……というより塩の杭の残留物を盗まれた件ですが、犯行は内部犯が居ると思います」

「本当かい?」

 

 思わぬ声にオリヴァルトが眉根を寄せる。

 リィンはそれに頷きながら、その理由を言った。

 

「まず、ヴィータさんがローゼリアさんの存在を知っていたこと……これは彼女の実力なら察知することが出来るかもしれませんが、問題はシュミット博士と一緒にいる隙を狙われたということです。お二人が共に作業する時間や、交代の時間を事前に知っていたとしか思えないんです。加えて、テロリストには騎神の詳しい情報を知られていました」

 

 思い返すのは、《V》と呼ばれた巨人機に乗っていた男の言葉。

 セリーヌ曰く、わざわざ専用のMクォーツを用意してまで搭乗せずに騎神を動かすのは非常識。にも拘らず、そんな遠隔操作を誰かに聞いたような口ぶりであったのだ。

 入学した頃のリィンは、今でもだが色々やりたい放題でトリスタの有名人となっている。そこからの噂で聞いた話だとしても、ヴァリマールが騎神であることを知っていた以上、やはりシュミット教室の活動を知る者であることは有力だろう。

 リィンはついでとばかりにミュゼから指摘された諸々を語っていく。

 すると、それに反応したのはシュミットだった。

 

「……ならばちょうどいいな。授業は今月を持って修了とする」

「えっ! それってどういう……」

「どうしたもこうしたもない。私のデータが内部犯によって奪われたのならば、すでにあの場所は再犯の可能性が高いということだ。データもある程度収集した、あそこを離れる良い機会だろう」

「でもシュミット教室がなくなるなんて……じゃあ博士ともお別れなんですか?」

「だからなんだ。私がどこに居ようと貴様には関係がないだろう」

「でも、寂しいです……ミント達だってそう思いますよ」

 

 しゅんとするリィン。

 しゅんバルツァーじゃのう、とのたまるロゼにエマが冷めた目を送り、慌てて目を逸らしていた。

 

「フン、確かにマカロフの姪は特別うるさそうだな。だが、別に今生の別れというわけでもあるまいに。現に――」

「案ずるが良い、シュバルツァー。そやつの身柄は妾が引き受ける。ガンドルフと共にエリンで共同作業を引き続き行う手はずじゃ」

「魔女、貴様……」

「ぬふふ、わかりにくいツンデレじゃのう。ま、簡単なことじゃ。ヴァリマールともども、テスタ=ロッサのメンテナンス要員として、妾が雇っただけの話じゃ」

「え、テスタ=ロッサって……」

 

 エマはそのルーツを知っているため、オリヴァルトへ目を向ける。

 するとオリヴァルトは苦笑しながら答えた。

 

「後でお願いをしようと思ったが、リィン君と魔女殿に協力してもらって緋の騎神を確保してもらおうと思ってね。……その身を蝕む呪い共々、暗黒竜対策をしていたという彼女に任せたというわけさ」

 

 ロジーヌと再会し、全員と合流したリィンは特異点の中で起きた事実を報告していた。

 その中でもテスタ=ロッサの場所とヴァリマールを犯した暗黒竜の呪いの除去を最優先ということで、ヴァリマール本体はエリンに運ばれていた。

 現在、魔女達が総出で呪いを洗い流したとのことでヴァリマールは無事との報告を他ならぬ本機(・・・・・・)から受けている。

 

「ウム、アレガ人間ノ言ウ風邪トイウモノダッタト思エバ、中々ニ貴重ナ機会デアッタ」

「騎神が風邪を引くってどうなのよその表現……」

 

 リィンの心臓から無事に聞こえるヴァリマールの声に、セリーヌが呆れた声を返す。

 

「再現された劣化の呪いに加え、劫炎が特異点を壊したことで強制的に供給を断ち切ったおかげじゃな。そうでなければ、こうも早い復帰は叶わんかったじゃろう」

「だとしても、発見した当初を思えば並々ならぬ回復力だが……騎神は起動者に似る、というものか?」

「はっはっは、バルクホルン卿。なかなか愉快なことを仰りますね~、さすが大先輩のジョーク」

「皮肉に聞こえるぞ、ライサンダー卿」

「いえいえまさか」

「ライサンダー卿、そう聞こえないからバルクホルン卿は言っているのだと思いますよ」

「身内が厳しいです……」

 

 ロジーヌからも言われて肩を落とすトマスに笑いながら、リィンは話を元に戻す。

 

「では、テスタ=ロッサをエリンに移して、その呪いを排除する、と」

「うん。シュミット博士はそのお手伝いとして、僕からもお願いした」

「じゃあ、エリンに行けば博士に会えるんですね?」

「内部犯が出たばかりで、気軽に会いに来るな。本来ならば、もっと少ない人数……それこそ、そこの魔女と皇子だけ知っていれば良かったのだ」

「それはそれで、シュミット博士が行方不明、なんてことになりませんか?」

「適当に言っておけばいい」

 

 取り付く島もないシュミット。だがその機嫌の悪さは、どこか気恥ずかしさを隠すものだというものをうっすらと理解する。

 シュミットに言わせれば、そんなことはないと断言するだろうが。

 

「呪イモ含メテ緋ノ波長ハ認識シテイル。我ガ探セバソウ時間モカカラズ見ツカルダロウ」

「でも、封印されてるんですよね? 場所を移して平気なのでしょうか?」

「そこは妾が面倒を見る。それに緋の呪いもじゃが、あの劫炎のマクバーンという男への対処も、早急に手はずを整えねばならん」

「テスタ=ロッサと同じ程度に急ぐんですか?」

「彼と直接対峙して思ったが……強い自制心があるといえ、あの男はいわゆる意志を持った塩の杭だ。その目的も知った以上、その破壊が無為にゼムリアへ向けられるわけにはいかない」

「目的?」

 

 うむ、と言いながらローゼリアがマクバーンの目的を語る。

 自身が異世界の存在であり、己のルーツを探るために全力を出す必要がある。

 ただしその全力というのは、塩の杭の異変に匹敵する災害と言える強大さだった。

 故に五十年もの間、彼は自制しながらもさまよい歩いているのだ、と。

 

「マクバーンさんが、そんな……!」

 

 全てを聞いて思わず立ち上がろうとしたリィンの肩と手と頭を、エマとロジーヌとセリーヌが抑える。

 皇族の前であることに加えて、数ヶ月の付き合いといえこうしておかなければローゼリアに迫ると危惧したためだ。

 実際、彼女達の手にかかった瞬間的な負担はその証左である。

 

「うぐぐ……」

「落ち着いてくださいね、リィンさん」

「お婆ちゃんは逃げませんから」

「……なんでアタシがこんなこと」

 

 エマはともかく、ロジーヌにまで止められたリィンは大人しく力を緩める。

 今まではエマとセリーヌが止めてロジーヌは苦笑しながら見ているイメージだったが、なんだか距離が近く感じた。

 息の合った生徒達の連携に笑うオリヴァルトをよそに、ローゼリアは続ける。

 

「シュバルツァーが友人になりたい、などと言った時は世迷い言と思ったものじゃが、理由があるのなら放置は出来ぬ」

「我々星杯騎士団としても、彼自身をアーティファクトと明記するわけではないが、可能な限りその災厄が向けられぬようにしたいとは思っている。とはいえ今回の事件が起きたばかりなので、封聖省は混乱が静まるまで協力を得られそうにないが」

「いりませんいりません、そんなのより俺のほうが百人力ですよ!」

 

 蛇蝎とまではいかないが、目に見えて法国を嫌うリィン。しばらくロジーヌにトマス、自分以外の星杯騎士とリィンとの接触は控えようとバルクホルンは決めた。

 会わせたら問題が起きそうだ、とバルクホルンは被害を受けていないにも拘らず、リィンのトラブルメーカーぶりを見抜いた。

 

「まあ、そう言うと思っておったよ。とりあえずヌシには、テスタ=ロッサの回収を手伝ってもらうとしよう。構わぬな、皇子」

「うん、古くはヘイムダルを災厄から退けた守護神だ。君たちの手で救い出してあげて欲しい。父上の説得は任せてくれ」

「うむ。妾にも因縁ある騎神じゃからな。これを機に禊をそそぐとしよう。シュミットの手伝いは里の者にさせれば、教室と変わらぬ成果が期待出来よう」

「馬鹿を言うな。導力技術を一から仕込むとなれば時間がかかるぞ」

「大丈夫じゃ、里の者は基本的に皆優秀じゃからな。すぐ覚えるであろう」

 

 妾もあーくすを使いこなせるようになったしの、とローゼリアはドヤ顔で胸を張る。

 なんとも言えぬシュミットの沈黙に、エマは乾いた笑いを残しながらシュミットに謝罪した。

 

「では、シュミット教室の機材は私が《匣》でエリンへ運びましょう」

「緋を回収したら、俺も手伝いますよ」

「一応、伝説の機体なのになんだか扱いが軽い……」

 

 マクバーンの目的を聞いたことで、その願いを叶えんと息巻くリィンの行動力は上がっている。

 そのフットワークの軽さにエマとセリーヌがため息を漏らし、ロジーヌは苦笑する。

 

「まずはエリンという場所に機材を運ぶのが先だ、馬鹿者。何もない状態で緋を配置しても、何もできんからな」

「う、そうですね」

「ならリィン君、君はセドリックやクルト君……というよりヴァンダール家から面会を求められているから、先にそちらを済ませてもらえないか?」

「わかりました。そう言えば二人からすれば急にいなくなったんだっけ……後でエリゼのところにも顔を出して、ミュゼにも報告しないと。そうだオリヴァルト皇子、聖アストライア女学院へのアポを取ってもらうことは出来ますか?」

「わかった、伝えておくよ。リィン君には許可証を発行しておくから、妹への面会は定期的にするんだよ?」

「ありがとうございます!」

「代わり、と言ってはなんだが……エマ君にロジーヌ君も合わせて、君たちにお願いがある」

「お願い?」

 

 首をかしげる三人。ARCUSも抜きに、何故かその動きがシンクロしていた。

 

「今回の内部犯、という推測を何故か宰相閣下も予測していてね。ヴァンダイク学院長からは、事件の間に居なくなった生徒はいないということだから、内部犯が居たとしても、まだ学院に何食わぬ顔で通っていることだろう。故に、だ。閣下は調査員を送ることを提案してきた」

「スパイ、ですか」

「生徒として士官学院に通いつつ、内部犯を見つけ出す人物だね。君達には、その人物に協力……同時に見定めを行って欲しい」

 

 そう言ってオリヴァルトは、一枚の写真を渡す。

 

「この子は……」

「知ってるのか、エマ」

「はい。特別実習の折、ノルド高原で見かけたことがあります」

 

 エマの言葉に頷くオリヴァルト。

 リィンがその写真を手にとって眺めると、そこにはまだ日曜学校に通っている程度の幼い少女の姿が映っている。

 

「その子の名はミリアム・オライオン……情報局に所属する《白兎》の異名を持った、《鉄血の子供達(アイアンブリード)》と呼ばれるギリアス・オズボーン直属の部下の一人だ」

 

 

「いいのかい? 絞りカスを抽出したといえ、効果は一回限りで、ごくごく小さなサイズだよ?」

「問題ない。――たった一発でも、奴に届けばそれでいい」

 

 どこかの闇の中で、短く行われた会話。

 この因果が再び絡みだすのは、まだ先のこと。




というわけで、ミリアムが先んじて編入です。
すぐに編入、というわけではなくワンクッション辺り別の話を入れるかもしれません。
とりあえず他のⅦ組メンバーとかそろそろ出したいので。

ノーザンブリアに引き続いたオリジナルルートのロジーヌ救出編を読んでくださり、ありがとうございました!
色々反省も多く、もっとうまく出来たんじゃないかという点もありますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
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