サブタイトルで察したかもしれませんが、ミリアム編入回です。
シャロンから受けた冤罪は彼女の気が晴れるまで続き、本人がアリサを尾行していたと告白したことでようやく誤解が晴れる。
アリサがどうしてここにいるのかと詰め寄れば、イリーナからの要請でリィン達が住む第三学生寮の管理人として働くことになったそうだ。
「むぅ……お母様ったら、こんなことに気を回す暇があれば、私との時間を作ってよね」
「あらあらお嬢様。ずいぶんと寂しくさせてしまわれたようですね。これからはこの私がたっぷり愛を補充してさしあげますわ」
「そういうのじゃないから!」
姉妹のようにじゃれ合う二人に笑みを浮かべるガイウスをよそに、リィンはしてやられたシャロンにいつかやり返そうと心に決める。
「では改めて。私はシャロン・クルーガーと申します。イリーナ・ラインフォルト様に仕えるメイド、今はアリサお嬢様の愛の奴隷です」
「アリサ……お前そんな趣味が」
「ないから! ありえないから! シャロン、もっとちゃんとして!」
「うふふ、お嬢様がそんな反応をしてくださるからやめられないのです」
「やめなさい!」
「愛されているようで何よりだ。俺はガイウス・ウォーゼル、よろしく頼む」
「リィン・シュバルツァーです。ところで、どうしてシャロンさんはアリサをストーカーしていたんですか?」
「リィン様、それは誤解というものです。私はお嬢様が殿方と夜のデートをしている様子をカメラに収めて、会長に報告する義務があったので」
「あーなるほど、そういうことなら仕方ないですね」
「でしょう?」
「だから違うって言ってるでしょうがあああああああ!!」
言葉が質量を伴って打ち付けるように怒声を浴びせるアリサ。
だがリィンもシャロンも涼しい風を浴びているように受け流す。ガイウス本人がそのやり取りを面白そうに見て止める気がなかったため、アリサの苦労だけが重なっていく。
「友達と買い物をしていただけじゃない! 男女ってだけですぐそっち方面に持っていくのは悪い癖よ!」
「ですが、今までそれらしい殿方との噂がなかったお嬢様がトールズに入学して以來、多くの異性と宿を過ごされるようになっているではありませんか」
「言い方!」
「最近はユーシス……アルバレア公爵家の次男とも距離が近いようですよ」
「まあまあ。お詳しい話を聞かせていただけますか?」
「さっきまで険悪だったのに何その距離の詰め方!?」
叫び疲れてアリサは疲労困憊だ。
リィンはシャロンに対してどこかでやり返そうとは思っているが、それはそれ。これはこれというものだ。
シャロンも同じ気持ちなのか、互いに目が合うと同時に頷いた。
「早速気が合うようで何よりだ。良き風が集まっている」
「ブレないガイウスが羨ましいわ……」
自分に味方がいないことを知ったアリサは、もはや泣きそうだった。
流石に本当に泣かれては困るのでこの辺りでからかうのを止めたシャロンは、真面目な話題を投げる。
「ですが許可なく尾行して誤解させてしまわれたのは申し訳ありませんでした、リィン様」
「いえ、護衛役も兼ねてるのなら納得です。アリサに悪い虫がつかないか、観察していたんでしょう?」
「ええ、私の愛と献身を捧げる方々の一人ですから……とはいえリィン様に捕まってしまったのは不覚でしたが」
「だが、俺やアリサはまるで気づくことが出来なかった。見事なものだと思う」
「ふふ、慰めのお言葉受け取らせていただきます」
「まあ、相手が悪かったって思ってシャロン」
「まるで俺が悪いみたいな言い方やめるんだ」
そんな主の気がねないやり取りに、口元をほころばせるシャロン。
アリサは笑みを向けられていることが気恥ずかしくなったのか、先行するように歩き出した。
「ほ、ほら! 思わぬ道草食っちゃったから早く帰るわよ!」
「ええ、私も他の皆様に挨拶をさせていかなければなりませんからね」
そう言ってアリサの一歩後ろ、従者の立ち位置として追いかけるシャロン。その堂々たる姿に感心を向けるガイウスをよそに、リィンは彼女の足元に注目していた。
「どうした、リィン。シャロンさんの足元を見ているようだが」
「あの人、足音が全然しないんだよ。重心もまるでブレないし……俺達が生徒だからって先入観なかったら、多分気づけなかったと思う」
「リィンが言うほどか……」
リィンの実力を知るガイウスは、不躾であると知りながらもメイドの姿をした女性の後ろ姿を眺める。
「天下のラインフォルトグループ会長の秘書? だからだろうな、特殊な訓練でも受けているんだろう」
「余所者の俺でも聞き覚えがある大企業だからな。忙しさもわかるが、前々から母親との会話をしたいと思っているアリサのためにも、どうにか時間を作って欲しいものだ。俺にできることがあれば良いのだが」
「いっそ直接ラインフォルト社へ行くか?」
「さすがに犯罪者になるのはアリサが泣くからやめたほうがいいだろう」
「見つからなければ……」
「リィンなら本当にやり遂げてしまいそうだ」
苦笑するガイウスだったが、その言葉に嘘は見受けられない。
本気でイリーナに会おうと考えたのならば、今この場にリィンはいないのだろうというここ数ヶ月の信頼がある。
「俺達にできることは、アリサから助けを求められた時、相談を受けた時に構ってやることだろうさ」
「そうだな、それが友へのあり方だろう」
泰然自若と構えるガイウスに同意しながら、リィン達も第三学生寮へ戻っていった。
*
シャロンが管理人になったことで、学生寮での生活が数段階ランクアップを果たした朝のHR。
朝食の折に自己紹介を終えたシャロンの姿に、年上好きのマキアスのテンションが妙に高い。それをフィーに指摘されてむきになって否定しているが、素直になればいいのにとⅦ組の全員は思っていた。
「はいは~い、それじゃあ今日はみんなに新しいお友達を紹介するわね」
「サラ教官、その言い方はなんか古……」
「なんか言った?」
「なんでもないです」
オズぼんが使う語録に似ていると感じたリィンが指摘するが、ギロリと鋭い目で射抜かれて押し黙る。
リィンを黙らせたことに満足したのか、サラは開けたままの扉へ首を向けた。
「さて、それじゃあ入って来なさい」
「はーい」
元気そうな女の子の声。
入室するなり駆け足で教卓へ寄った緑髪の少女は、人好きのするような快活の笑みを浮かべてⅦ組の生徒を見回した。
「ほう……?」
「ええっ!?」
「なに……?」
「君は……」
「ノルド高原で会った……」
ラウラ、アリサ、ユーシス、ガイウス、エマの五人が口々に驚く。
同時にリィンはオリヴァルトからもらった写真の少女が、目の前の本人であることに気づいた。
「えへへ、お久しぶりだねー。知らない人もいるから改めて自己紹介するね。ボクはミリアム。ミリアム・オライオンだよ」
ミリアムはそのまま自己紹介を終えず、瞳を閉じて手を上げる。
その動作に応じるように、ミリアムの背後の空白に銀色の浮遊物体が現れた。
「こっちはガーちゃん……正式名称は《アガートラム》。合わせてよろしくね!」
「なあああああ!?」
「ええええええ!?」
「オーロックス砦で見た……」
いの一番に驚いたマキアスとエリオットをよそに、フィーは冷静に浮遊物体を観察する。
銀色の棒の上部には目のような蒼い瞳がニつつけられ、頭のない頭部と両腕がそこにくっついていると言えばいいのだろうか。
奇妙なデザインをした浮遊物体、アガートラムは胸を張るように腕を腰? に当ててふんぞり返っている。
ミリアムの溌剌とした笑みと合わせて、やんちゃな人格の持ち主という印象を受けた。
「そのデッカイのは教室内で出すのは禁止ね、壁を壊したらあたしが怒られちゃうから」
「ちぇー、しょうがないか。さて、それじゃあ改めてよろしくね!」
くるりと一回転してポーズを決めるミリアムに、リィンは気兼ねなく挨拶を交わす。
「よろしくなミリアムにアガートラム。俺はリィン・シュバルツァーだ」
「えへへ、そうなんだ。こちらこそよろしくねリィン!」
真っ先に挨拶をしてくれたリィンに笑みを向け、とてててと近寄って握手を求めるミリアムと、それに応じるリィン。
さらに教室で出すなと言われたばかりのアガートラムを呼び出し、周囲を驚かせる中でも冷静にアガートラムの太い手を両手で掴んで握手を交わすリィン。
Ⅶ組のクラスメイト、特にエマは心温まるはずの光景に、何故か悪寒を感じずにはいられず、寒気を払うように頭を振っていった。
*
放課後、各々が部活動へ向かう中リィンはミリアムへの案内を買って出て士官学院内を回っていた。
入学式以降の不登校により、ペナルティとして義務付けられていた奉仕作業による生徒会の手伝いがなくなったことで、基本的にリィンは放課後の時間を余らせている。
ミリアムは調理部に興味を持っていたようだが、リィンは途中で部活に入る気にはならない。それでも基本的にいつでもどこでもトリスタマラソンを行うリィンにとっては、生徒会の手伝いがあってもなくてもやることに変わりはなかった。
それでも日々生徒のために奔走する会長のトワを見ていると、手伝ってやりたいという気持ちはあるので要請があれば適当に郵便受けに入れておいてくださいと伝言はしておいた。……他の生徒会役員に。
トワはおそらくする必要がないならやらなくていい、と恐縮して自分の負担を増やすからだ。ならリィンと同じく、トワを心配する周りにそう言っておけば配慮してくれることだろう。
現に以前ほどではないが、ちらほらと何件か要請は届いている。ミリアムの案内がてら、それを済ませていった。
一通りの施設を案内した後、リィンは《裏》の事情を聞くため、誰もいない屋上へやってきていた。
「はー、中々面白そうなところだね。ガクセイセイカツも結構上手くやれそう」
「それは何より。ところで、ミリアムはテロリスト探しでアテみたいなのは言われたりしてないのか?」
「ほえ? あーそっか、リィンがボクの協力者なんだっけ」
「後で紹介するけど、同じクラスメイトのエマ・ミルスティンとⅠ年Ⅴ組のロジーヌって子が同じ協力者になる。基本的には俺がサポートするから、状況に応じて聞きたいことがあったら聞いてくれ」
「ん、了解~。でもまさかガクセイセイカツでの潜入調査に協力者がいるなんて思わなかったよ」
「それはこっちの台詞だ。ミリアムみたいな子が情報局に所属してるなんて思わなかったよ」
「へへー、すごいでしょ。こう見えてもえりーとなのさ」
腰に手を当ててえへんと胸を張るミリアム。その姿は自己紹介の折に見たアガートラムとそっくりだった。
「ガーちゃんのあの自己紹介はミリアムの影響を受けてるんだな」
「あ、リィンはちゃんとガーちゃんって言ってくれるんだね」
「渾名ってのは親しい呼び名ってことだろう? まあ、初対面の俺が言っていいかわからないけど」
「ううんいいよいいよ、ボクの知り合いみーんなアガートラムって正式名称でしか呼んでくれないからさあ」
「はー、そりゃ寂しいことで」
「だよねー。でもリィンはそんな風に言わないから嬉しいなっ!」
そう言って小さな体躯を跳ねさせ、リィンに向けて飛び上がるミリアム。
やっぱりまだ幼いな、と思いながら抱きついてくる彼女を受け止めると、子供にするように脇に手を入れて高く掲げてやった。
「うおー、なんかこの視界もしんせーん」
「たかいたかーい、なんて十を過ぎればそうそうされないからな」
「ん、そうなの? ならボクはまだきょよーはんいだね!」
嬉しそうに笑うミリアム。何かおかしい台詞があった気がするが、自身の精神年齢を意外にも自認しているのかもしれない。
ならば、とリィンはユミルの子供達にしたようにその場でくるくると回ってクロスベルはミシュラムで有名な観覧車という遊具に似た動きをしてやる。
驚きながらも楽しそうにするミリアムに、リィンも笑みを返した。
「ねえねえリィン、ガーちゃんもお願い!」
「え?」
そう言って手を掲げると、銀色の浮遊物体アガートラムが屋上に現れる。
さらに彼女は宣言通りアガートラムをリィンに突進させてきた。
ぴょーんと飛んでくるアガートラム。浮遊しているため実際の重さが何トリムあるかわからないが、素直に受け止めるのは危険と判断。
故にすぐさまリィンは叫んだ。
「来い、ロア・ヴァリマール!」
「応!」
瞬時に召喚に応じた白い影がリィンの足元から飛び出し、突っ込んできたアガートラムを受け止める。
灰のチカラを間近で見たミリアムは慌てたようにリィンに抱きついてきた。
「うわわわわ、何、オバケ!?」
「んっ……ぶぐっ……ぷはっ、違う違う、これはまあ……俺にとってのガーちゃんみたいなものだよ。ヴァリマールって言うんだ」
ミリアムの足がリィンの腰に巻き付き、顔に体を押し付けられて首に手を回されたリィンは息を求めてミリアムを引き剥がす。
空気を吸い込んで一息ついたリィンは、ミリアムの行動を嗜めながらヴァリマールについての説明をする。
「ほらヴァリマール、挨拶頼む」
「ウム。我ノ名ハゔぁりまーる。ヨロシク頼ムみりあむ」
「うわーっ、リィンが取り憑かれてるー!」
心臓から聞こえる声に、俊敏な動きでリィンから離れて後ずさるミリアム。
だが彼女の視点では己の相棒がロア・ヴァリマールに捕まっているため、自分だけ逃げるわけにいかずうううう~……と唸り声を上げてリィンとロア・ヴァリマールを交互に見ている。
「なんだミリアム、オバケとか苦手なタイプなのか? でも安心してくれ。ヴァリマールは一見幽霊に見えるかもしれないけど、本当は灰の騎神っていう騎士人形に宿った人格なんだ」
「取り憑かれてるってことならやっぱりオバケじゃんー!」
「えーっとあれだ、導力機械にも簡易音声とかそういうのあるだろ? あれの進化版」
「ほ、本当?」
「本当本当。ほらヴァリマール、ガーちゃんにもやってあげてくれ」
「承知シタ」
そう言ってロア・ヴァリマールはアガートラムの両腕の間に手を差し込み、先程リィンがミリアムにしてあげたようにゆっくりと旋回を始める。
最初は目をパチクリとさせていたミリアムも、やがておおお~とその瞳を輝かせた。
やはり誠意ある行動というのは大事だとリィンは思った。
「っていうか騎神って何、何なの?」
「なんだ、聞いてないのか? ミリアムの上司は……かのギリアス・オズボーンなんだろう?」
ちらりとオズぼんを一瞥してから、リィンは当初の目的……実父である鉄血宰相について言った。
そのことがなくてもミリアムの案内は努めただろうが、やはり率先して彼女と仲良くなろうと思ったのはオズボーンについて聞きたかったからだ。
とはいえ相手は情報局所属のエージェント。そう簡単に教えてくれはしない、と思っていたのはリィンだけで、彼女はあっさりと告白する。
「うん、オジさんから命令を受けてきてさー。テロリストのこともだけど、旧校舎の異変の詳しい調査も依頼されてたんだよね」
「旧校舎の異変……? そんなのあったっけ」
(フフフ、息子よ。元々旧校舎は最初からヴァリマールへの道があったわけではなかっただろう? 入学式のオリエンテーションと、その後に増えた階層は傍目から見れば謎だ)
(あーそっか、元々学院長から旧校舎の調査も頼まれていたっけ。あれからシュミット教室の根城になってて変化後が標準になってたな)
シュミット教室の課外授業として、リィン達は変化した旧校舎を大いに活用していた。そのための認識のズレと言えよう。
リィンはその違いを改めてミリアムに説明する。
旧校舎の異変は帝国に伝わる巨いなる騎士伝承が一機、《灰》が眠っていた、と。
そして件のテロリストは他色の騎神を所有し、《貴族派》にもかのルトガー・クラウゼルが駆る《紫》が雇われている可能性があることも。
それらを説明すると、ミリアムは感心したようにリィンを褒め称える。
「ほえー、ボク達よりずいぶん情報掴んでるんだね。さすがは協力者ってことか」
「むしろそこは伝えられてなかったのか、って思ったぞ」
「テロリストの調査が主な命令だったからねー。必要ないって判断したのかも。でもヴァリマールはオバケじゃないんだね、よかったあ」
てっきり情報局……というよりオズボーンはオリヴァルトの協力者と思い込んでいたが、違うのだろうか?
今の帝国は《革新派》に《貴族派》、《皇族派》とも言うべき三つの勢力に分かれているのかもしれないとリィンは考える。
(フフフ、息子よ。鉄血宰相は彼女に学生生活を満喫させるために送っただけかも知れぬぞ? 当然、名目上の指示はあるだろうがな)
(あ、そっか……異名の割に思いの外優しいんだな。まあ、親父と同じ人ならそれもそうか)
まだ見ぬ実父の思惑が合っているかわからないが、そうであるなら嬉しいことだとリィンは口元を緩める。
そうしている間に、ミリアムは何やらポケットから何かを取り出す。
それは、Ⅶ組で試験運転しているはずのARCUSだった。
「ミリアム、それ……」
「ん、これ? ARCUSって言う最新の戦術オーブメントだよ。リィン達も持ってるんじゃないの?」
「いや持ってるけど、ミリアムにも渡されてたんだな」
「うん、ここに来る時にね。適正が高かったんだって」
ARCUS――All-Round Communication & Unison Systemと呼ばれる戦術オーブメント。
今もよく使っている戦術リンク。ロア・ヴァリマールとすらリンクを繋げることが可能なことを考えれば、ふとリィンは思うことがあった。
(なあヴァリマール。もしかしてARCUSの所有者なら試しを受けなくても準起動者にすることができるのか?)
(ウム?)
(みんなとリンクを繋げた時の感覚が、デュバリィさんやロジーヌがヴァリマールに搭乗した時に似ていてな。灰のチカラもリンクに合わせることが出来るし、試しを受けなくてもフィーをヴァリマールに乗せられるかも、って。そもそもARCUS持ってないデュバリィさんが動かせたんだから、ARCUSもいらないかもしれないけど)
以前、ユーシスに騎神の試しのことを話したさいにフィーがその候補に名乗り出た。
紫の騎神ゼクトールを直接見た一人として、父親を追いかけるには生半可なものでは無理だと彼女も思っていたのだろう。
だからヴァリマールに乗ってもらって、存分に追いかけてもらえばいいと考えていた。
(準契約者ハ、りぃんガ信頼ヲ寄セル……我ヲ貸シ与エルニ相応シイト思ッタ相手ダッタカラコソデアロウ。ソウイウ意味デアルナラ、ARCUSデ絆ヲ感ジヤスクナッタ相手ヲ乗セラレルトモ言エル)
ヴァリマールはそう答える。
だがそうなると、そんなことを可能にするARCUSとは一体何なのだろう?
思考の海に沈んでいくリィンを、ミリアムが引き上げる。
「それよりリィン、連絡先交換しようよ。リィンに聞いたほうが色々早いだろうしね」
「ん、ああ、悪い。……よし、これでいいな。ミリアムはARCUSについて詳しい説明を受けているか?」
「通信機能もついた戦術オーブメントでしょ?」
「あー……うん、そうそう」
どうやら自分達と同じ情報量のようだ。
そうなると、これを開発したエプスタイン財団とラインフォルト社に聞いたほうが早いかもしれない。
そんなことを考えるリィンだったが、そこへヴァリマールをオバケではないと判断したミリアムが寄ってくる。
「ねえねえリィン、ボクにもあれやって!」
「あれ?」
言われてミリアムが指を差した方角を見ると、そこにはロア・ヴァリマールがアガートラムをお手玉して遊んでいる光景が見えた。
アガートラムの言葉はわからないが、連続して何かを発しているのを見るとどこかテンションが高いような気がする。
「ガーちゃん楽しそうだからさ、ボクもやって欲しい!」
「構わないけど……スカートの下に何か履いてくれ」
「え、別に気にしないけど?」
「こっちが気にするの」
そう言ってスカートをたくし上げようとするミリアムをはしたないと言いながら抑えて、リィンは制服の上着を脱いでミリアムの腰に巻きつける。
元々のサイズ差もあり、リィンの上着はミリアムのスカートから膝までをしっかりとガードする。
ノーザンブリアでトヴァルから言われた、オズぼん経由のアイテム取り出しはあまり見せないほうがいい、という指示を律儀に守るリィンだった。
デュバリィには見せたが、あれは緊急事態ということで例外にした。
「足は閉じたままでいること。それを守れよ」
「はーい!」
そう言って元気よく手を上げるミリアムに、リィンは鬼の力を解放した。
「わわっ。リィン何それ!」
「武芸者が闘気で自分を高めたりするだろ? それと似たようなものさ」
鬼の力を誤魔化しながら、ロア・ヴァリマールと合わせるように軽々とお手玉をしてやる。
すぐにその疑問を笑顔に変えてはしゃぐミリアムを見ながら、リィンは今後の学院生活が騒がしくなりそうだと笑みを返した。
なお、潜入調査にも拘らず屋上で派手に目立った上に、たった一日でリィンと意気投合したミリアムの姿に、Ⅶ組……主にエマは今後の学院生活がさらに騒がしくなってしまうんですね、と乾いた笑みを浮かべて、クラスメイトの同情を大いに誘っていた。
その後のアーベントタイム
ミスティ
「はい、次のハガキはラジオネームマッキーさん。常連さんね、いつもありがとう。えーっと、最近見るに絶えない疲れのあるクラスメイトに差し入れをしたいのですが、相手が女性なので何を渡せば疲れが取れるのか、そういったものに疎いのでミスティさんからアドバイスをいただきたい、と。
そうねマッキー君、貴方の気持ちはそのクラスメイトからすればとっても嬉しい尊いものだと思うわ。でも貴方が本当にしなければならないのは、疲れの原因を取り除くことだと思うの。
それは並大抵のことでは無理な厳しい道のりだけど、千里の道も一歩から。おそらくそんな貴方の行動すらも疲れの原因は粉砕していくでしょうけど、諦めずにその女の子を支えて上げて欲しいわ。可能ならクラスメイト一丸となって休ませてあげて――」
以下、ディレクターに止められるまで彼女のアドバイスは続く――