はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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フフフ、息子よ。今月の特別実習の時期だな

 ユーシスは圧倒されていた。

 明らかに常識では考えられない巨大な空間。不可思議な建造物に宙を巡る歯車。煙とも雲とも言える霧がかったもやが立ちこもる領域。

 試しという騎神との契約における試練の場についてはリィンから聞いていた。

 実際に目にしてみれば、普段トールズでよく見るあの騎神は本当にこんな場所をくぐり抜けて得たものだったのかという感情が湧いてくる。

 

「ユーシス、興奮しているようだね」

「す、すみません兄上」

「いいや、構わない。私も同じ気持ちだからね」

 

 言われて、ユーシスは兄の声に高揚感が宿っていることに気づく。

 普段感情を荒らげず、高貴さと冷静さを持った尊敬の人物が見せる、貴重な光景だった。

 

「本当に、まさか本当にこんな巡り合せが訪れるとは思わなかった」

 

 それは誰に向けた言葉なのか。

 少なくとも自分ではないと感じたユーシスは、歩き出したルーファスを追いかける。

 この影の領域とも言うべき場所に徘徊する傀儡や魔獣を一太刀で、あるいは導力魔法で屠っていく兄の姿に、ユーシスは本当に自分がサポートなど出来るのかと遠い背中を見つめる。

 現にルーファスはユーシスのことを振り返らず、領域を進軍していく。

 熱に浮かされるように、夢遊病と言うには力強い足取りにユーシスは貴公子然とした、自分の憧れた背が見えないことに困惑を覚える。

 

「あ、兄上……?」

「ん、なんだいユーシス」

 

 片手間に魔獣を殲滅したルーファスが振り返る。

 ユーシスはそこに見えた彼の顔に息を呑んだ。

 

「あ、あの封鎖された扉はギミックを作動させることで開くようです」

「うん、そのようだね。……結構バラけているように見える。ユーシス、少し分かれて進もうか」

 

 咄嗟に出た言葉で誤魔化せたことに安堵するユーシス。

 早歩きでギミックを操作し、先の道を解放するルーファス。そことは別の場所にあるギミックの場所に向かいながら、ユーシスは先程ルーファスが浮かべた顔を思い返す。

 

「なんだ、アレは……本当に兄上なのか?」

 

 ユーシスが見たルーファスは笑顔だった。

 幼少より見慣れた、優雅な笑みではない。どこか、闇を孕んだ偽りの……それこそ優雅という仮面でも隠しきれない何かを感じてしまった。

 それをユーシスは表現することが出来ない。

 ただ……自分が今まで見ていたルーファスは、本当にありのままの当人だったのか、という疑問だけが浮かんでいた。

 

 

 守護者と呼ばれる門番を打ち倒し、ルーファスとユーシスが旧校舎内に戻ってきた。

 そのことを感じたエマがそう告げると、リィンはミリアムを伴い三人で旧校舎内へ入り込む。

 一緒にオリヴァルトやセドリック、その護衛であるクルトも合わせた六人が旧校舎の中へ入れば、かつてヴァリマールが鎮座していた場所に鋭角の角のような兜を備えた黄金の騎士人形が鎮座していた。

 

「金の騎神、エル=プラドー……」

 

 エマがその騎神の名をつぶやく。

 機体の色から察していたが、アルバレア兄弟が勝ち取った力は金の騎神だったらしい。

 その威容さ美しさを前に、セドリックが感嘆の声を上げクルトも声もなくその機体を見上げている。

 ユーシスは騎神というより、隣にいるルーファスへ目を向けていた。

 

「ユーシス、お疲れ。無事試しを突破出来たみたいだな」

「あ、ああ。だが俺は居ても居なくても変わらなかった」

 

 どこか消沈しているユーシス。

 曰く、自分が居なくてもルーファス一人で突破出来た。ただの時間短縮にしかならなかった、と。

 そんなユーシスへ慰めの言葉をかけるミリアムをよそに、リィンはルーファスを見やる。彼は先の学院長室でも見た微笑みを携えている。

 だがリィンには、その表情以上の喜びをルーファスが発していることに気づいた。

 

「おめでとうございます、ルーファス卿」

「フフ、今はただのルーファスだ。先程のようにルーファスさんと気軽に呼んでくれたまえ。この機会を与えてくれた君には感謝しているのだから」

「ならルーファスさん、と。テロリスト達を捕まえるまでは譲ることは出来ませんが……少し、動作の確認でもしてみますか? いわゆる体験版ってやつです」

「君が持つ騎神との模擬戦ということかな? 是非とも、と言いたいところだが、今はやめておくよ。まだ約定を果たしたわけではないのでね。皇族の方々に見守られた正式な契約……そういう意味で、握手も控えておこう。全てが終わった時に、よろしくお願いするよ」

「そういうことなら、責任を持って預からせていただきます」

 

 少なくとも二度とテロリストに入らせないよう、施錠以外にもしっかり見ておかなければとリィンは拳を握った。

 

「ル、ルーファス卿! もう少し近くで見たり、触ったりしてもいいですか?」

「セドリック、いくらなんでもはしたないぞ」

 

 目を輝かせるセドリックを抑えるクルトに笑みを向けながら、ルーファスは構いませんよと許可を出し、それを受け取ったセドリックが天使のような笑みを浮かべた。

 たたっと走り寄るセドリックを抑えようとするクルトだったが、リィンはそこに彼自身の興味もあることを見抜いて背中を叩く。

 

「ほら、クルトも間近で見て来いよ。気になってるんだろう?」

「え……い、いえ、しかし僕の役目は……」

「他ならぬルーファスさんが許可を出してるんだ。ルーファスさん、クルトも一緒に見学して構いませんか?」

「ああ、当然だとも。殿下共々、伝説の一端を見てくるといい」

「クルトだけにな」

「リィンさん! い、いえ失礼しましたルーファス卿。で、では」

 

 ごほんと咳払いを一つ、クルトもセドリックの横に並んでエル=プラドーを眺めはじめた。

 しっかりしているようだが、まだ十四歳。ああいうものに興味を覚える年頃なのはリィンにもあったのでよくわかる。

 

「しっかし、こう見ると大元に繋がってる感じかなー」

 

 突然、隣に来ていたミリアムがエル=プラドーを見ながらそうつぶやく。

 

「繋がってる?」

「うん、オジさんから色々聞いてたけど、こればっかりは繋がってないとわからないよね。まあでも、色々報告は出来そうかな」

 

 意味深な言葉を放つミリアムに眉をひそめるリィン。

 詳しい情報を知っているわけではないが、ミリアムとアガートラムの関係は騎神と起動者にも似ている……と漠然と感じた。

 

(結局、ルーファスさんの疑惑は晴れそうか?)

(なんとも言えないかな。でも、テロリストを相手にしてくれるんなら、疑惑が明らかになるのは時間の問題かもよ)

(確かに、疑われているのならそれを晴らすために必死になるでしょうし、仮に繋がっていたらその動きを察知されてしまう、と)

 

 どうあれ、今後のルーファスの動きには要注目ということだ。

 

「ところで殿下。少しお話が……」

「ん……わかった。だが、いいのかい? 後の相棒を放っておいて」

「リィン君が責任を持って預かるとのことですので、信用していますよ。立ち話もなんですので、こちらへ……」

 

 そんな目を向けられているルーファスは、オリヴァルトを連れて旧校舎から出て行こうとする。

 リィンは二人を引き止めるべく、その背に話しかける。

 

「あ、ルーファスさん。殿下も、これから祝勝会というか打ち上げのようなものを企画しておられるのですが……」

「いいや、ここは弟のために使ってあげて欲しい」

「なんだいルーファス卿。せっかくのお誘いも袖にするのかい?」

「それは失礼。ですが、一刻も早くテロリスト対策を講じたいところですので」

「おっと、そう言われてしまえばボクも頷くしかないね。まったく困るなぁ」

 

 一本取られた、と言わんばかりのオリヴァルトは誘ったリィンに謝罪しながら、ルーファスと共に今度こそ旧校舎から離れていった。

 改めてテロリスト対策へ一歩前進したな、と思うリィンだったが、ミリアムに慰められていたはずのユーシスが、神妙な顔でこちらを見ていることが気になった。

 試しの中、兄弟で何やら話していたはずなので何か思うところがあったのだろうか。

 

「さて、それじゃあユーシス。ルーファスさんは行っちゃったけど、第三学生寮でシャロンさんが待っているはずだから、セドリック殿下やクルトにも試しの話をしてもらっていいか? 俺も聞きたいし」

「お前も受けたのではないのか?」

「俺の場合ちょっと事情が特別でな。あんまり説明出来ないんだ」

 

 オズぼんのおかげで試しをショートカットした結果、番人であるロア・エレボニウスと戦いそれを取り込んだ話をされても困ります、とエマが横で物語っているからだ。

 リィンとしては別に構わないんじゃないか、と思ったがセドリックとクルトの夢を壊すことは出来ないと毅然とした態度で言うエマに押されて頷いた。

 何故かガッツポーズしているエマをよそに、オリヴァルトとルーファスこそ辞退したが、シャロン用意の元に、セドリック、クルトも参加することになった盛大な食事会となった。

 途中、戻ってきたⅦ組のメンバーが皇族の姿に盛大な動揺を起こしたが、リィンの仲介もあったり、ラウラとクルトが姉弟のように親しげな抱擁を交わした再会に沸き立ったりと、第三学生寮では驚きと笑い声が木霊してく楽しい時間が過ぎていく。

 そんな中、リィンとミリアムによって強引に絡まれるまでユーシスはルーファスの言葉を延々と繰り返していた。

 

「ユーシス。友というものは、そこまで価値のあるものなのかな? それこそ、あらゆる思惑を吹き飛ばし、騎神にまるで興味を抱かないほどに」

 

 あの問い……いや、漏れた言葉に対して、ユーシスは未だにその答えをルーファスに返すことが出来なかった。

 

 

 自由行動日も過ぎ去り、すっかり衣替えの季節となった七月でも実技テストは変わらない。

 だがリィンの実力は元より、今月に入って急激な伸びを見せたエマ。二人の連携はもはやサラをも打倒しうる力となっていた。

 傀儡など意味をなさず、リィンの影響で実力を伸ばしたⅦ組の戦術リンクによる連携も随分と上達した。

 癪であるが、ナイトハルトを援軍に呼ばなければいけないかと考えてしまうサラだったが、そこは教官の意地とも言うべきもので全員を相手にした。

 リィンには鬼の力もロア・ヴァリマールもない素の力での一騎打ちだったが、五月以降時折サラとの稽古に励んでいるリィンの動きは鋭く、サラの勝率は七割、いや六割まで縮められたかもしれないと危機感を覚えるほどだった。

 そんな内心を悟らせずに、サラは今月の特別実習の組み合わせを発表した。

 

 A班:エマ、フィー、ミリアム、マキアス、ガイウス。実習先は帝都ヘイムダル。

 B班:アリサ、ラウラ、ユーシス、エリオット。実習先は帝都ヘイムダル。

 C班:リィン、その他。実習先は帝都ヘイムダル。

 

「同じ実習先だと」

「いや、それより」

「C……班?」

「その他?」

「リィンさんを一人にするとか、色んな意味で何を考えてるんですか?」

「教官、これは一体――」

 

「お待たせしました、サラ教官」

 

 リィンが質問しようとしたその時、朗らかな声音が割り込んだ。

 振り向けば、トワにクロウ、ジョルジュの三人と見慣れぬ姿の女性がこちらへやってきている。

 

「やあ子猫ちゃん達。君たちが汗を輝かせながら躍動させるその肢体の数々……目の保養をさせてもらったよ」

 

 そう言って優美なスタイルのラインを強調するようなスーツ姿の女性が手を上げる。

 特にその熱視線は女性陣、主にフィーとミリアムに向けられているような気がした。

 

「会長にクロウ先輩にジョルジュ先輩まで……それに」

「やあ、リィン君。要請で時折会っていたが、改めて自己紹介しておこう。アンゼリカ・ログナー。よろしく頼むよ」

 

 そう言ってウインクするアンゼリカ。

 それでもどうして先輩達が居るのかわからないⅦ組、特にリィンにサラが説明する。

 

「この子達はARCUSのテストのテスト生、真の意味でアンタ達の先輩にあたるんだけど、急遽特別実習に参加してもらうことになったわ。本当なら一人だけで良かったんだけど……」

「もう、クロウ君ったら留年するほどサボるなんて許さないからね! 休日返上で、私達と一緒に卒業してもらうんだから!」

「へいへい、流石に悪かったと思ってるよ」

「なんだかんだクロウなら、って思ってたのにこれだもんなあ」

 

 仲の良さそうな四人に代わり、サラは告げる。

 

「そこの男子……クロウ・アームブラストが出席日数の問題で留年の危険があってね。その補習代わりに、帝都での特別実習に参加してもらうことになったわ。それがC班――リィンの特別実習のチームメイトよ」

「ってわけだ、一時期だけどよろしく頼むぜ後輩」

 

 そう言って挨拶するクロウに、Ⅶ組一同は言葉を失う他なかった。




本当は五人五人でちょうどいい特別実習になるはずでしたが、そろそろ先輩達とも本格的に絡ませたいなと思ったらこんなことに。
トワ会長の面倒見の良さと、クロウの出席日数不足コンボはアンゼリカとジョルジュを問答無用に巻き込める頼もしい性格ですね…

とはいえロジーヌ編に結構使ったので、普段の特別実習より短くなるかと思います。
実際に書いて長くなる可能性も否めませんが、きっと、多分、短縮する、はず。
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