はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

74 / 200
フフフ、息子よ。七月の特別実習だ②

 噴水清掃を終えたC班は昼食の時間になると、トワの叔父夫婦が経営している雑貨店にお邪魔していた。

 急遽参加することになったC班の二泊三日の宿泊施設として、ハーシェル夫婦が姪のためにこの場所を提供してくれたのだ。

 

「すみません、なんだか突然お邪魔してしまって……」

「いや、トワの同窓生と後輩なら遠慮することないさ」

「そうそう。ほら、たくさんあるからいっぱい食べな」

「それでは遠慮せずに……おお、すごく美味しいです」

 

 穏やかに笑うのは、トワの叔父であるフレッド。隣に座る叔母のマーサに同意したジョルジュが主に肉をメインにがっついていく。

 その姿に苦笑するトワの横には、叔父夫婦の息子であるカイがむっつりとした顔でクロウとリィンを交互に眺めている。

 

「カイ君だったか。俺達に何かあるのか?」

「ふん……どっちが良い仲か知らないけど、中身のないやつにトワねーちゃんは渡さないからな」

「も、もうカイ君。二人ともごめんね……」

 

 腕を組んでそう言い放つカイをたしなめるトワ。その想いに真っ先に気づいたアンゼリカが否定の声をあげる。

 

「ふふ、カイ君安心するといい。君の大好きなおねーちゃんは私が守っているからね。どちらの毒牙にもかかっていないよ」

「そ、そんなんじゃねーし」

 

 アンゼリカの指摘に顔を赤らめるカイに苦笑するリィン。

 つまり憧れのトワねーちゃんに近づく男子に警戒しているようだ。

 カイが睨んでいる中にジョルジュを含めなかったことを指摘すれば、こいつに危険は感じないそうだ。

 美味しい料理に頬を膨らませる姿は、男というよりペットのような目で見ているのかもしれない。

 

「俺は会長とはそこまで、だから怪しいとすればクロウ先輩ですよね」

「な~に~?」

「おまっ、勝手に生贄にささげてんじゃねーぞ」

「だって今回の特別実習も、クロウ先輩だけで良かったところを会長が助けてるんですよね? まさに世話を焼く女房そのものじゃないですか」

「リ、リィン君! 私はそんなつもりじゃ――」

「そうだぞリィン君。トワが女房なら旦那はわた」

「はいはい、ややこしくなるからアンは黙っていようね」

 

 ジョルジュがすっと差し出した柔らかいパンを口の中に放り込まれ、強引に台詞を中断させられるアンゼリカ。

 そこを皮切りに雑談が交わされ、カイの視線はリィンからクロウに固定される。

 クロウは慣れているのか軽く対応しているが、その態度が気に入らないのか感情のままに喚いては流されるの繰り返しだった。

 加えてそんなカイを諌めるトワの姿が、クロウを庇っているように見えているのだから炎上は不可避であり、乱入するアンゼリカとそれをなだめるジョルジュも入り混じった混戦模様となっている。

 その様子を、ハーシェル夫婦は慈しむように見守っている。

 

「本当に仲の良い友達に囲まれているようだね……」

「ここに居るのは特に親しい先輩達ですが、学院での会長は生徒全員から慕われていますよ。

 貴族生徒からも平民だと侮られることもなく、敬意を持って接されています」

「そうなのかい? もっと詳しい話を聞きたいな」

「客観的な視線でよければ喜んで」

 

 リィンもまた、入学当初の噂に惑わされず接してくれたトワの人柄や、要請を通じて知った生徒会長としての姿を二人に伝える。

 そんな中、リィンは彼らからトワが義兄夫婦の忘れ形見であることを知る。共に学者でり、祖父に至っては帝國博物館の館長も努めていたようだ。

 

「特にトワは星見が好きだったよな」

「う、うん。お爺ちゃんの影響で、かな。またみんなで星座の鑑賞会もしたいね」

「夏至祭の時は学院も休暇だし、終わったら早速やろうじゃないか」

「随分とまた急だね」

「こういうものは即実行するのさ。何よりトワがしたいって言うなら私はそれを叶えるために全力を尽くす!」

「少年、トワねーちゃんを心配するならまずこいつを真っ先に監視したほうがいいぞ」

「なに言ってんだよ、女同士で何をしんぱいするって言うんだ」

「あー、子供には通じるはずねえか」

「というか、一般の感性だったら普通そう浮かぶことはないしね」

 

 アンゼリカのトワ好きは傍から見れば危うい空気を放っているが、トワが本気で拒絶していないので問題ないのでは、とリィンは思ったが叔父夫婦の手前口には出さない。

 

(フフフ、可愛い姪っ子に仲の良い女友達が居る。そう知っていれば良いからな)

(あんぜりかガとわニ向ケル感情ハ、友情デハナイノカ?)

(あー、うんうん、そうそう、友情友情。ヴァリマールはそう理解しとけばいいよ)

(フム……おずボン、一体――)

(親父、教えなくていいからな)

(フフフ、さて……どうしたものか。乙女の世界というのは存外、男だけでなく女同士も――)

(うるせぇ黙れ!)

 

 リィンが他の全員には聞こえない親子喧嘩を繰り広げている間にも、穏やかに昼食の時間は過ぎていく。

 やがて食後のコーヒーを頂く中、アンゼリカが旦那の努めだと率先して食後の片付けを手伝い、ジョルジュはフレッドやカイに学院でのもっと詳しいトワの様子について語っている。

 そんな中、トワはリィンとクロウを自身の部屋へと案内していた。

 

「へえ、ここが会長の部屋ですか」

「なんつーかトワらしい部屋だな」

「あはは、あんまり女の子らしくはないってわかってるんだけどね……」

 

 トワの自室は多くの本で埋め尽くされていた。

 この部屋は政治学と経済学の書物が主だが、隣の祖父の部屋は天文学以外にも雑多なジャンルが取り揃えられているそうだ。

 学者一家の孫と呼ぶに相応しい部屋であると言える。

 

「そう言えばフレッドさん達から聞きましたが、先輩はどうしてトールズに? 本に囲まれて育って、帝都の学区で一番の成績を収めたのにわざわざ軍事教育もあるトールズを選ぶなんて……」

「そういや奨学金が充実してたから、としか聞いてなかったな。他にも理由あんだろ?」

「うん……そうだね、二人なら話してもいいか」

 

 トワは苦笑しつつ、自分がトールズ士官学院の門を叩いた理由を明かしてくれた。

 

「帝国って、国民的にも伝統的にも《武》を……《力》を重んじてるじゃない? 私は戦争とか争いは嫌いだけど……

 お爺ちゃんから、都合の悪いことに目を逸らすな、って教えられて。

 だから、《武》や《軍事》。ううん、《暴力》についての本質を調べようと思って、トールズに行ったんだ」

「会長……」

「…………」

「武術を学んでるリィン君を前にして言うにも何だけど……特にリィン君は《騎神》なんてものを使える立場にいる。

 だから正直、それを手に入れた君のことを不安に思っていたんだけど、杞憂だった。

だってリィン君は決してその力を不当に使うことがなかったんだもん」

 

 胸に手を当てながら、トワはリィンを見上げる。

 

「むしろ誰よりそれを理解しようとしていたよね。シュミット博士を呼んで、それを調べるくらいに」

「はは、買いかぶりですよ。俺がヴァリマールを手に入れたのは偶然ですし」

「そうかなあ。私はリィン君は暴力を上手く抑止力に使ってると思ってるよ」

(トワ嬢は力の本質を誰より知りたいのかもしれんな。暴力を恐れつつ、暴力を

知ることでその対処を生み出そうとしている。

 フフフ、二十歳を迎えぬ少女の身でよくぞここまで。才女とは彼女にこそ当てはまる言葉かもしれんな)

(争イノタメニ生ミ出サレタ我ラガ抑止力ニナルノナラ、誇ルベキコトダナ)

 

 オズぼんも絶賛の言葉を送り、ヴァリマールもそれに頷く。

 家族が褒められたような嬉しさに、リィンの口元もほころんだ。

 ルーファスに騎神の試しを教えたのも、テロリスト対策以外にも元を辿れば《貴族派》への牽制だ。

 ルトガーに姿の見えないテロリスト騎神への対策と同時に、《貴族派》と《革新派》の戦力のバランスを保ち、拮抗させているとも言える。

 

「抑止力、ねえ」

 

 ぼそりとつぶやくクロウ。だがリィンはそこに深く追及せず、トワに言い訳のように訂正する。

 

「俺はまだ未熟もいいところですよ。友達が傷つけられたら、そんな考えがあったとしても怒りのままに刃を振るいます。いいや、振るいました。

 嗜めてくれた存在がいなかったら、どうなっていたことか」

 

 振り返るのは、つい近日の盗難事件。

 ロジーヌ救出のお題目を掲げるままに、法国や直接の関係を持たないバルクホルンにまで怒りを向けた事実は忘れられない。

 オズぼんやクレアによって止められなければ、一体どうなっていたことか。

 

「そんな《暴力》を嗜めてくれる人が居たから《怒り》が収まったんでしょう?」

「だが本当に怒ってる奴は、言葉じゃ止まらない……オマエの《怒り》は、理性で蓋が出来るくらいだったんだろうぜ」

 

 ここでクロウがトワの言葉に被せてくる。

 だがその内容はどこかリィンを軽んじているようにも聞こえる。

 リィンは別にそれに対して何か言うことはなかった。

 怒りを否定するのでなく、受け入れて理性で抑え込めるのなら、良いことではと思ったくらいだ。

 そこまで詳しくクロウのことを知らないからと言えるが、トワはクロウのらしくない物言いに首を傾げた。

 

「クロウ君? なんか機嫌悪そうだけど……」

「いや……なんでもねえよ」

「……ともかく、その天秤の調整は難しいことかもしれないけど、リィン君のおかげで学院の風紀が向上した事実もあるってことを忘れないで欲しいな」

「……そーだな。なんやかんや新入生の貴族生徒っていうのは一年くらい調子に乗るモンだが、今年は夏を迎える前には大人しくなっていたからな。そこはオマエの成果だろ」

 

 クロウからも言われて、リィンは少し照れるように鼻をかく。

 気恥ずかしくなったリィンは、慌ててトワへの言葉を紡いだ。

 

「でも、トワ会長のことが少しわかりました。力を知り、それを踏まえることでその問いへの答えを出そうとしている…

 並大抵の覚悟では出来ないことだと思います。ねえ、クロウ先輩」

「ああ……すげえよトワは」

 

 同窓生と後輩からの褒め言葉にすっかり恐縮するトワ。

 そんな可愛らしい先輩の姿をもっと見ていたかったが、ふと机の上に写真が置かれていることに気づく。

 トワはこれ幸いと言わんばかりに、その中身を説明した。

 

「これは私のお父さんとお母さん。この写真を取った後に事故で亡くなっちゃったけど……隣はお爺ちゃん。

 両親が亡くなった頃からずっと一緒だったなあ」

「お、これも懐かしいな」

「へえ……これはこれは」

 

 ここでクロウがトワの家族写真の横にある写真に目をつける。

 普段はタイツも着込んで肌の露出を見せないトワが、肩やヘソ出しという露出強な衣装に身を包んでマイクを握っている。

 背後ではアンゼリカも似たような露出であり、ジョルジュに至っては上半身が裸の上にベスト一枚という有様だ。

 

「これはまた……」

「そ、それは見ちゃだめだってば!」

「つれないこと言うなよ、ノリノリだったじゃねえか」

「も、元はと言えばクロウ君が――」

「何があったんです?」

「おお、詳しく教えてやるぜ後輩」

「だめ――! だめったらだめ――!」

 

 両手を忙しなく振って写真への視線を守ろうとするトワ。

 そんなトワを意地悪な笑みを浮かべて手を出したり引っ込んだりさせるクロウには、先程リィンに対して漏らした悪感情は伺えない。

 

(確かヴァレリーが言ってた北方系ロックがこんな感じだったっけ……?)

 

 ヴァレリーへの手紙のやり取りの中、エリオットが調べて教えてくれた音楽がこんな格好だった気がする。

 知りたい気持ちもあるが、顔を真っ赤にして叫んでいるトワをこれ以上追い詰めるのも良心が痛んだリィンは、さらにその横の写真に目をつけた。

 

「これは先輩達が一年の時の?」

「う、うん! ARCUSの運用テストを四人で引き受けた時の写真。懐かしいなあ」

「あー、この写真見ると真っ先にアンゼリカとの喧嘩を思い出すな」

「喧嘩したんですか? あんなに仲良さそうなのに」

「最初はアンちゃんとクロウ君は結構揉めてたんだ。……その……」

「ま、あんまり人様に言うもんじゃねえがな。俺の薄ら笑いが気に入らなかったんだとよ」

「……詳しくは省くけど、そこで色々あって、サラ教官に助けられたり、テストの時のピンチを一緒に助け合ったりして、なんだかんだで親友になれたんだ」

 

 懐かしむ表情のトワとクロウ。

 詳しく聞きたいところだが、それを話すには昼食という時間はあまりに短い。

 クロウに関しては、元から強さを隠していることといい何か秘密があるように思える。

 アンゼリカもそこを突っ込んだのだろうが、またいつの日か改めて聞かせてもらおうとリィンは決める。

 

「こら、二人だけでトワの寝室に入るなんてずるいじゃないか! 何故私を混ぜない!」

「アン、言い方」

 

 そこへドアを叩いて乱入してくるアンゼリカと、それに続くジョルジュ。

 どうやら食事の片付けも終えて、午後の要請の開始を教えに来てくれたようだ。

 リィン達はハーシェル夫妻に改めて礼を言って、午後の要請に向かっていった。

 

 

 その夜、C班は午後の要請を終えて再びハーシェル雑貨店へ戻ってくると、それぞれ与えられた部屋でレポートの作成を行っていた。

 アンゼリカはトワと共に彼女の自室に、リィン達はトワの祖父の部屋で過ごすこととなる。

 昼間に一年生の時の写真を見て記憶を刺激されたのか、トワは自室にて思い出話をしようと提案した。

 当然のように参加するアンゼリカとそれに続くジョルジュ。

 クロウは夜の街に繰り出そうとしたそうだが、特別実習の名目で参加している都合上、監視役のトワから逃げることが出来ずに思い出話という名の監禁を受けている。

 リィンもそこに混ぜてもらおうとするが、そこへARCUSの通信が入った。

 

「はい、もしもし。こちらトールズ士官学院Ⅶ組、リィン・シュバルツァーです」

「……リィン君ですか?」

「クレアさん?」

 

 連絡をしてきたのはクレアだった。

 そのことに驚くリィンだったが、さらにその内容にも目を見開く。

 何やら話したいことがあるので、これから会えないか、とのことだった。

 リィンは疑問を浮かばせながらも了解し、通信を切る。

 そこへ図ったかのようなタイミングでセリーヌが戻ってきていた。

 

「セリーヌ、帰ったばかりで悪いが良いタイミングだ」

「え?」

 

 そう言ってリィンはセリーヌを持ち上げると、自らの頭に乗せる。

 驚いて声を出そうとするセリーヌだったが、ここが一般人の家であることに気づいて慌てて口を塞ぐ。

 エマがⅦ組のメンバーに魔女であると明かしたが、セリーヌは未だにただの猫として振る舞っているためだ。

 そんなセリーヌをさておき、リィンはそのままトワの部屋へ向かう。

 

「会長、すみません」

「あ、リィン君待ってた――ほえ?」

 

 トワが扉を開けると、頭にセリーヌを乗せたリィンが現れて目を瞬かせる。

 だが声をあげないのは、昼間の分け身掃除で耐性が付いてしまったためだった。

 

「ちょっとセリーヌをエマのところへ返して来ようと思うので、ちょっと出かけてきます」

 

 トワの性格上、勝手に出ていけば怒られること間違いなし。

 クレアの話は秘密裏とは言われなかったが、リィンだけ呼び出すということはあまり人に知られたくない話なのだろう。

 故にリィンは、クレアとの話し合いの後に本当にエマのところへ向かうためにセリーヌに協力してもらう。

 

(ってわけだ、よろしく頼むぞ)

(アンタってやつは……)

「そうなんだ。でもトラムは今の時間大丈夫かな……」

「屋根伝いに移動してくので、大丈夫です」

「明日の一面飾らないでね……? う、ううん。変装、そうだ変装していこ!」

 

 トワの脳裏に、深夜に頭に猫を乗せた怪人が屋根の上を跳ぶ姿が納められた記事が掲載されている新聞のイメージがありありと浮かぶ。

 そのため、分け身達にも使った変装セットでリィンを着替えさせて送り出すトワ。

 本人は良い仕事をした、と思ってのことだったが――

 

「エミル……!?」

「え?」

 

 待ち合わせ場所である夜のマーテル公園にて、突然クレアに抱きしめられるリィン。

 呼び出した人物を大いに刺激する外見だったなど、神ならぬトワには知る由もない。




リィン君、特別実習の毎夜に宿にいないノルマを無事達成。
エミルっていうかリーヴェルト一家生存してたら、軍人にならずにクレイグ一家との音楽家な縁もあったんだろうなあと思う辺り、軌跡は横の繋がりが妄想でも広がっていきますね。
薄幸属性がなく不憫じゃないクレアさんとか、キャラの濃いブラコンサブになりそうですが…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。