要請を受けたC班は帝都地下道を進んでいた。
時折現れる魔獣達はリィンが戦うまでもなく、Ⅶ組よりも洗練された先輩達の連携の前に屠られていく。
クロウやアンゼリカの強さはわかっていたが、ジョルジュ……何よりトワも戦えるとは思っていなかった。
導力銃片手に魔獣へ七属性の弾丸を打ち込むさまは、下手な軍の新兵よりも上と思える。
「えへへ、これでも一年間リィン君たちと違う形でARCUSのテストをしてたんだもん。それに帝国は《武》を尊ぶから生徒もだけど、メアリー教官だって有事の際にはちゃんと戦えるはずだよ」
「マジですか!?」
まさかの事実に、リィンは素で驚いた。
リィン達同様、今年度から教官となった新米であるメアリーは音楽に芸術、調理技術を生徒に教える慈愛に満ちた女性だ。
戦えないロジーヌが教官になったらあんな感じだろう、と思っていただけに驚きも大きい。
「マカロフ教官はシュミット教室である程度知ってましたし、トマス教官もかなりのアーツ使いと聞き及んでましたが、まさかハインリッヒ教官も?」
「そうだね、僕達も見たことはないけどきっとある程度自衛手段はあるんじゃないかな」
「サラ教官とナイトハルト教官は言わずもがなだが、学院長やベアトリクス教官という最後の壁もそびえてるしね」
「噂じゃ学院長は装甲車をぶった切る達人って話だぜ」
「はぁ~……」
よく手合わせをしてもらっているサラやナイトハルトとしか接していなかったリィンからすれば、中々貴重な話だった。
ヴァンダイクも強いことは理解していたが、これは機会があれば改めて手合わせをお願いする他ないなとリィンは決める。
「それより私はリィン君のほうが気になるんだけど」
「何かおかしいことありますか?」
「戦うたびに背後で旗持って応援されたら気が散るっつーの」
「でもARCUSを通じて援護してるからたまらないよねえ」
「気功を使いこなせば、応用で体すら変化させられると言うが、これはなんと表現したものか」
先輩達の目は、かつてオルディスでアリサ達に披露した灰のチカラとARCUSを絡めたオズぼん命名のオーダーである。
力と防御が上がるだけの単純なものだが、それだけに効果は高い。
「戦いを見ているだけ、ってのもなんですからね。文字通り応援です。旗振らなくても使えますが」
「ならいいよ、普通にして! なんかこっちが恥ずかしくなる……」
「楽と言えば楽なんだけど」
「こいつに関しちゃ突っ込むほうが野暮って思ったほうがいいぞ。シュミット教室でさんざんやらかしてきたからな」
そんなリィンの非常識ぶりをシュミット教室の実験でよく見たクロウとジョルジュは呆れと苦笑しか沸かない。
ここ数日で急激にリィン・シュバルツァーを理解していくトワとアンゼリカも、なんと言っていいかわからない様子だった。
「まあまあ、時間短縮ってことで良いじゃないです――アンゼリカ先輩!」
「わかってる、さ!」
真っ先にそれに気がついたリィンは旗を持ったまま突進、アンゼリカもその後に続き二人の間にARCUSのリンクが結ばれる。
リィンはそれの足元に旗を突き出し、浮かせるように転倒させた。
その動きを察知していたアンゼリカは跳ね上げられたそれに合わせるように回し蹴りを打ち込み、一撃で意識を狩る。
リィン達が連携して気絶させたのは、何の変哲もない男だった。
二人の動きで、こちらへ向かって走ってくる男かやってきていたことに、トワとジョルジュが遅れて気づいた。
クロウはすでに双銃を抜き放っていたが、引き金を引こうとする頃にはリィン達が駆け出しており、謎の硬直もあって何も出来ないまま終わっていた。
「ちょ、ちょっとリィン君にアンちゃん! いきなりその人気絶させて何してるの!? ただの帝都民じゃ……」
「いえ、最初は普通に止めようと思ったんですが」
「見てごらん、トワ。ただの市民はこんな物騒なものを持っていないよ」
アンゼリカがその男の手に握られていた導力銃を見せる。
小型のタイプで、口径こそ小さいがその分携帯性に優れている。
「よ、よく気づいたね」
「視力は良いほうさ」
「殺気を感じたので」
トワの疑問をよそに、リィンはネクタイを解いて簡易の拘束具として、武装解除させた男の後ろ手に回した手首を縛り付ける。
簡単に解けないよう、結び目などを複雑にしておくことも忘れない。
「手慣れたものだね」
「武術の師から、縄抜けの手ほどきを受けたさいに縛り方も何パターンか一緒に教わったので」
アンゼリカの疑問に答えていたリィンのARCUSが鳴る。
トワ達に一つ頭を下げて通話状態にしてみれば、聞き慣れたサラの声がリィンの耳に届く。
「サラ教官、どうされました?」
「リィン、あんた達今地下道にいるのよね?」
「はい、要請の落し物の探索を行っています」
「ならちょうどいいわ。現在、TMPの緊急要請で地下道を封鎖してるの。理由はテロリストの捕縛よ」
「テロリストが地下道に居るんですか!?」
その言葉にトワ達が振り向く。
リィンは全員に聞かせるように受話の音量を上げた。
「どうも帝都潜伏中の奴らに一斉検挙を行っていたみたいでね。上手く誘導させて地下へ追い込んでいるみたい。
他のみんなにも事情は説明してるから、荒事は本職に任せてあんた達も要請を中断して上がって来なさい。
途中で怪しい奴らを見つけたら事情を話して、TMPに連れてって。
たまたま迷い混んだ一般人が居たとしても、しばらく我慢してもらえばすぐ解放するわ」
「でしたら、それらしい男をすでに捕らえました」
「あらま、仕事の早いこと」
「それじゃあそいつは送り届けますね。情報ありがとうございました」
「……迷子になったとしても、ちゃんと戻って来なさいよ?」
「……ありがとうございます、教官」
そう言って連絡を切るリィン。
サラは戻って来いとは言ったが、リィンが素直にそれを行うと思っていなかった。
故にある程度の寄り道を許可したのだ。
その気遣いにこそ、リィンは礼を言う。
「じゃあそいつは俺がTMPに届けて――」
「それには及びません」
クロウが提案したが、リィンは分け身を一体生み出すと男を抱えてもらってTMPへ届けるよう走らせる。
苦い顔で頭を掻いているクロウをよそに、リィンはトワ達へ目を向けた。
テロリスト憎しの彼がサラに従って、途中で抜ける気など微塵もない。
「先輩、午前中の要請なんですが……」
「話はちゃんと理解してるから大丈夫。本を落とした人には悪いけど、少し待っててもらおう。流石にこっちのほうが重要だもん」
「トワがそう言うなら私は頷くだけさ」
「それ以前の問題だからね、アン」
「……俺も異論はねえ」
全員がテロリスト探索に同意し、改めてC班は地下道を進んでいく。
TMP自身も地下道に入っているようで、リィン達の耳に時折地下道に大量の銃声が木霊する。
加勢に行こうとするリィンだったが、トワから実力と面子が揃っている相手に無理やり加勢する必要はないと諭され、TMPが回っていない場所を巡っていく。
そうして進んでいく先で、リィンは覚えのある気配を感じた。
「……この気配。皆さん、気をつけてください。おそらくこの先にテロリストがいます」
「気配って……」
「実は先日、テロリスト一味と遭遇したことがありまして。その気配は覚えています。
これは……ギデオンってやつですね」
「ギデオン……」
クロウが繰り返すようにつぶやく。
リィンはそこに注視せず、続けた。
「そいつは魔獣や幻獣を操る笛を持っています。見つけたらそれを破壊なり奪うなりして無力化しましょう。
本人の直接の戦闘力はそう高くないはずです」
「なら遠距離から攻撃出来るトワかクロウ……二人とも?」
「いや、テロリストがいるなら気張らねえとって思っただけさ」
「……………」
「トワ会長?」
リィンが声をかけると、俯いて何かを考えていたトワが何か思いつくように顔を上げた。
「思い出した! ミヒャエル・ギデオン! 帝国学術院で助教授をしていたことがあって、『ディストピアへの途』も確か政府に禁止処分を受けたって……」
「はあ? ギデオンのやつ、自分の本が禁止された腹いせにテロ起こしてるんですか?」
まさかのギデオンの正体発覚にリィンは声を荒げる。
(フフフ、息子よ。今回の要請……案外、落とし物という名の本人の探索だったのではないか?)
(ってことは今日の活動、ルーファスさんが手を回したのか? どんだけだよ……まさかC班の要請って全部テロリスト対策活動だったりするのかな)
オズぼんが推薦するルーファスの能力に感心していると、一瞬、クロウからかすかな怒気を感じた。
それを指摘するより早くトワが言葉を乗せる。
「ううん、確か本の内容が宰相の批判だからって理由だったと思う。でも、仮にも帝国学術院の助教授だった人がそんな理由でテロリストになるほど、狭量じゃないと思うんだけど……」
「推測は推測にしかならない。気になるなら直接尋ねればいいさ」
「そう、だね……私も気になるし」
アンゼリカのフォローに、トワは気合を入れるようにぺちんと柔らかな頬を自分で叩く。
想定より痛かったのか、少し涙目だ。
ほっぺに差した赤みで、ただでさえ身長の低く童顔のトワがますます子供に見える。
「しゃぶりたい」
「お静かに」
リィンは危険なことを言い出して、一歩トワへ足を踏み出したアンゼリカを遮る。
ちゃんとトワの両耳を塞いでおくのも忘れない。
ジョルジュからも肩を掴んで止められたことで、アンゼリカははっとした我に帰った。
「い、いけないいけない。つい消毒するように舐めてあげたいという気持ちが抑えられなかったよ」
ドン引きである。
耳を塞いだことでアンゼリカの言葉を理解していないトワのきょとんとした顔に、再び変態という名の淑女が目覚めかけるがなんとか守りきった。
「クロウ先輩、無視して先に進まれるより、コントしてるのかって目で見られたほうがマシです」
「ずっとそこにいりゃあいいんだよ」
一同は先に進もうとしていたクロウを引き止め、リィン達は武器を構えながら進む。当然、リィンは旗から太刀に武器を持ち替えた。
やがて帝都墓所に繋がる地下道までたどり着いたC班の耳に、ギデオンが使っていた笛の音が聞こえてきた。
「これは……気づかれてたのか!?」
「隠れても意味はない、行きます!」
不意打ちどころか警戒されていたことを認め、リィンは疾走する。
その先には、まるで骨組みが自動で形成されるように宙に浮かび、やがて一匹の巨大な竜を模した形を整えていく。
やがてその姿を安定させた骨竜は暗黒の瘴気を垂れ流しながら声なき声で咆哮を上げた。
「なっ……!」
「ほ、骨の竜!?」
背後で追いついたトワ達が驚きの声を上げる。
リィンは目の前の骨竜に見覚えがあった。
「あれは暗黒竜、ゾロ=アグルーガです。かつてヘイムダルを魔都へと変えた魔竜、その遺骸を降魔の笛と呼ばれるアーティファクトで操っているんでしょう」
笛の情報はバルクホルンから聞いている。
あれも星杯騎士が確保すべきものなのだろう。
「貴様、リィン・シュバルツァー……!」
視線の先では、笛を吹き終えたであろうギデオンがリィンを射殺すような目で睨みつけていた。
その視線はしばらくリィンに固定されていたが、やがて追いついたトワ達を見ると驚愕の表情に切り替わる。
しばらく逡巡するように何もしなかったギデオンだが、同じく暗黒竜の巨躯に圧倒されるトワ達も足がすくんでいるのか動かない。
リィンは丹田に力を込めた。
「神気……合一!」
鋭い呼気が吐き出されると共に鬼の力を使ったリィンは、周囲に漂っていた瘴気を払う。
澱んだ空気が払われたことで、トワ達も意識を取り戻した。
その威圧に怯みながらも、ギデオンは手を大きく振りながらゾロ=アグルーガへ指示を出した。
「行け、暗黒時代の魔物よ! 魔を以て同じ魔を討ち滅ぼせ!」
「誰が魔だ!」
そう言って身を翻すギデオン。
TMPに追い立てられた身だ、ゾロ=アグルーガにこの場を任せて逃走を測るのだろう。
「転移術も持ってない癖に、逃げられると思うなよ!」
鬼の力をさらにもう一段引き上げ、鬼気を解放させたリィンは一瞬の間にギデオンに殺到する。
目を見開くギデオンが構えるより早く、諸々の感情を宿した破甲拳を腹に打ち込んだ。
多少鍛えていたのかもしれないが、鬼気解放したリィンの拳は手加減すれどギデオンの骨を何本かへし折って悶絶させる。
くの字に曲げた体により、無防備になった首へ手刀を打ち込んで一瞬でその意識を刈り取った。
その隙に鬼気解放を解除しながら降魔の笛を回収、分け身を使って泡を吹いて倒れるギデオンを抱えさせてその場を離れさせた。
「先輩、こちらは大丈夫! あとはこのデカブツをやっつけるだけです!」
「はは、頼もしすぎる後輩で何よりだ。それじゃあ、竜退治と行こうか!」
ゾロ=アグルーガが吐く瘴気の吐息を回避していたアンゼリカは称賛の声を上げながら拳を打ち込み、リンクを結んでいたトワが導力銃による追撃を打ち込んだ。
「絶唱陣《神楽》!」
そこにリィンが灰のチカラによるオーダー、かつてローゼリアに与えられたアーツの詠唱をトヴァル並かそれ以上の速さへと押し上げる効果を与える。
そのことをリンクによって理解したジョルジュが、即座に導力魔法を使い全員を強化する傍ら、クロウの動きに精彩が欠けていることに気づいた。
「クロウ、何してるんだ。動かないと!」
「あ、ああ……」
ちらちらとギデオンを見るクロウ。
「大丈夫です、分け身といえ実体がありますから、仮に目覚めても逃しませんよ」
「ったく、クソッタレな技持ってやがんな!」
クロウの双銃がゾロ=アグルーガが生み出した瘴気の蝶を打ち抜く。
すると体を撃ち抜かれた蝶は爆散し、連鎖するように自壊していった。
「エアリアル!」
「螺旋撃!」
その特性を見破ったトワが《神楽》による速攻の導力魔法で竜巻を生み出し、リィンの戦技との相乗効果で瘴気の蝶を全て天井へ送り出し、爆破の被害を最小限に抑える。
ならば、とゾロ=アグルーガはその巨体の前足を大きく振りかぶった。
「ラ・クレスト!」
「防御陣《鉄心》!」
叩きつけからの振動攻撃と瞬時に看破したC班は、導力魔法とオーダーを切り替えて、防御に備える、
その対応は功を奏し、ダメージを最小限に抑える。
「突撃陣《烈火》!」
「クレセントミラー!」
「ゼロ・インパクト!」
トワの援護が飛び、それを受け取ったアンゼリカが駆けて拳を打ち込む。
ゾロ=アグルーガは周囲に瘴気を撒き散らすことで強引に巻き込もうとするが、その動きを読んでいたトワがアーツで瘴気の影響を無効化する。
導力魔法とオーダーによって強化された拳は、人間サイズであるアンゼリカから放たれたものであってもゾロ=アグルーガの体を揺らした。
「今だ、クロウ!」
「…………クロス……レイヴン!」
ジョルジュのダメ押しの導力魔法で強化されたクロウの双銃から放たれた、意志を持つかのようにうねる弾丸が、アンゼリカが体勢を崩したゾロ=アグルーガへと撃ち込まれる。
「ダメ押し、レインボーショット!」
上位三属性、下位四属性が入り混じったトワの銃弾による追撃。
ゾロ=アグルーガは最後の抵抗とばかりに首を上げ、暗黒の吐息をぶつけようとしてくるが、その巨体に小さな影が差し込んだ。
「灰ノ太刀・絶葉!」
実体を持つ二つの分け身と共に三方から縦横無尽の剣舞が暗黒竜の体を切り裂く。
体はおろか骨身に染みた瘴気ごと切り捨てるような斬撃は、トワ達の事前攻撃もあり抵抗の間もなく暗黒竜を両断した。
「…………ふう、なんとか倒したみたいですね」
「やったぁ!」
残心を忘れず、暗黒竜が崩れ落ちたのを見計らい太刀を収めた。
そのリィンに呼応するように、トワとアンゼリカはハイタッチを交わし、ジョルジュやクロウにも労いに手を打ち合わせる。
戦闘も無事に終えて、ギデオンを回収しようとしたリィンは、ふと異変に気づいた。
ギデオンの体から黒い靄のようが溢れ、まるで取り付くように漂っていることに。
(りぃん。アレハ呪イダ。えりんデ取リ除イテモラッタガ、アノぎでおんトイウ男モ似タヨウナモノナノダロウ)
(呪い……ってことはギデオンって、あれが理由で暴走してるのか)
(であろうな。元は帝国学術院に努めていた賢人。普通に考えれば、いち助教授がテロリストに身をやつす理由はないが……魔が差した、という言葉を呪いに変えれば話は変わる)
(どのみち、そうとわかったら普通に突き出すんじゃなくてエリンへ連れてったほうがいいか)
ギデオンの暴走は呪いによるもの。
それを看破したリィンは、ディストピアへの途という名の本人の確保を決めて手を伸ば――す前に、リィンはトワ達に言った。
「ところで先輩方、今から犯罪するので見逃してくれる気ありますか?」
「え?」
あまりにも気軽にかけられた言葉に、トワ達は喜びを忘れてリィンを見やる。
これからリィンが行うことは、重犯罪者を一個人の事情で匿う公務執行妨害をすることになる。
ローゼリアからオリヴァルト経由で説明すればその罪も軽減されるだろうが、サラから、TMPから、ルーファスの要請に逆らうことに違いはない。
「リ、リィン君?」
「ちょっとこいつに個人的に用があるんです。ですので、引き渡しをちょっと伸ばしたいなと。引き渡さない可能性もありますが」
「何を言ってるんだ?」
「簡単に説明すると、この人は催眠みたいなので洗脳されてる可能性があるんですよ。それをまず解きたいって考えてます」
何せ呪いという馬鹿げた話、一見で信じてくれるとは到底思えないだろう。
テスタ=ロッサから始まり、色々と秘密にしなければならないことが多いためどうしてもこんな言い回しになってしまった。
逃げたほうが早いかな、と思い口を開こうとしたところでジョルジュが言った。
「すまない。もう少しくらい詳細な説明は欲しいかな、って」
「んー、なんと説明すればいいのか……」
(フフフ、息子よ。ヴァリ君を通じてリンクを結ぶのだ。そうすれば霊視をトワ嬢達にも付与することが可能だろう)
(出来るのか、ヴァリマール)
(ヤッテミヨウ)
「じゃあすみません、俺とリンクを結んでください」
「う、うん」
困惑しながらも、真っ先に指示に従ってくれるトワに笑みを浮かべる。
同時にリィンは灰のチカラを通じて、分け身が確保したギデオンを差した。
「こ、これって……?」
「ギデオンの体に変なものが取り付いてるの、わかりますか?」
「ああ……でも、これは一体なんなんだ?」
「暗黒竜の呪い、だそうです」
「……取り除けんのか?」
「多分……ですが。俺としても無理を言っているのかわかってます。でも、どうか任せてもらえませんか?」
真摯に告げて頭を下げるリィン。
他ならぬテロリストに一番怒りを燃やしていたリィンからの懇願に、上級生達は顔を見合わせるばかり。
そんなリィンに許可を告げたのか、意外にもクロウだった。
「俺は構わないぜ、なあジョルジュ。こいつのすることにいちいち説明求めてたらきりがねえよ」
「え、まあそうなんだろうけど……」
クロウの発言をきっかけに場が揺れる。
それでもアンゼリカはログナー侯爵家の長女として、帝都を騒がせた犯人は確保するべきだと否定の声を上げようとする。
だが、そんなアンゼリカを止めるのは、止められるのは彼女だった。
「いいよ、リィン君。君の無茶苦茶なところは昨日今日で改めて思い知ったけど……悪い子じゃないってことは、今までの学院生活で知ってるから」
「いいんですか?」
「言ったでしょ、リィン君は不当なことはしないって。それに、生徒を信じるのは生徒会長の努め。まあ、リィン君なら会長じゃなくても信じたと思うけど」
照れるようにはにかむトワ。
リィンは感謝の言葉を送ろうとするが、それより早くアンゼリカがトワに頬ずりしたことで遮られてしまった。
そんな二人を苦笑しながら見やり、リィンは手を掲げた。
「来い、灰の騎神ヴァリマール!」
「応」
呼びかけに応じて、騎神が召喚される。
さしものアンゼリカもこの行動にはトワへの愛撫を止め、その巨大な騎士人形を見上げた。
「これが噂の騎神……」
「どうするつもりなんだ、後輩」
「黒い靄……呪いを除去してくれる場所をあたってみようと思います。サラ教官への面目もあるので、今日中には帰りますが言い訳のほうお願いします」
「任せとけ、トワがなんとかする」
「クロウ君も手伝ってよ!」
「わかってるって。……なあ、本当にそいつは洗脳されてるのか?」
「ええ。魔が差した、って言葉があるじゃないですか。呪いはそれに巧妙に入り込んで唆すそうですよ。案外、テロリスト全員そういう被害者の集まりなのかもしれませんね」
「にわかには信じがたいが、今まさに伝説の再現を見てしまったところだからね……」
竜退治という偉業を前に、アンゼリカは浮かない顔だ。
色々と情報が多すぎて整理しきれないのかもしれない。
「勝手にすみません。こちらのほうからも、オリヴァルト皇子に連絡して先輩達には迷惑かけないようにするので……ヴァリマール、頼んだ」
「ウム」
抱えたギデオンごとヴァリマールはリィンをコクピットの中に転送する。
その搭乗に驚くトワとアンゼリカをよそに、灰の騎神は起動者の意に従い、エリンの里へ転移していった。
後に残された上級生達は、規格外がすぎる後輩にお手上げと言う他なく、改めて各方面への言い訳を考えるべく、全員で頭を悩ませた。
*
(洗脳? 呪い? そんなものであってたまるかよ……俺の、俺達の怒りは俺達だけのものだ)
その感情は憎悪によって塗りつぶされてしまったが……それでも、ギデオンが助かる可能性が見えたことに、その人物は確かな安堵の息をついていた。
ギ デ オ ン 生 存 ル ー ト
逆に言えばクロスベルでの騒動が否応なく変化するという、自らの首を締める展開(いつものオリジナル
まあ襲撃だけなら、フォローは簡単……簡単……多分。
Ⅲのディストピアへの途の推察といい、無駄死にするにはほんと惜しかったですね。
軌跡の教授は良くも悪くも有能です。