はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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Ⅳでは意外な人が機甲兵に乗ったりするので、もう誰が乗っても不思議じゃない気がします。
シリーズ完結編だけあってほんとこう来るか!が多くて楽しいですね。
そして誤字報告、いつもありがとうございます。お手数おかけします。


フフフ、息子よ。誰が乗る?

 旧校舎の騒動は学院でも噂となっていた。

 昼間にも拘らず旧校舎から鐘が鳴り響いて謎の光が広がっていき、さらにその間に一切入ることが叶わぬ結界が貼られ調査が出来ない始末。

 加えて謎の魔獣のような何かがトリスタに現れたのだ。

 幸い、魔獣のような何かは出現するだけで危害を加えることはなかったが、住人を怯えさせるには十分なものを秘めていた。

 一時期トリスタは騒然となり、あわや帝都から軍の派遣も視野に入れられたそうだ。

 自由行動日ということもあり、多くの生徒がそれを目撃し学院の行事という出来事にすることも不可能であった。

 

 困ったのがヴァンダイク学院長である。

 出来事を起こしたのが生徒かつ話題のリィン・シュバルツァーであることも頭を悩ませたが、他ならぬ自分の依頼によって引き起こされた事件だからだ。

 頭を悩ませる教官達の中で、遅れてやってきたトマスがある提案を行った。

 ルーレ工科大学の学長、G・シュミットをトールズ士官学院の臨時教員として迎え、彼が行った実験によるものとすればいい、と。

 博士は実績と同じくらいに性格も知られており、旧校舎を光らせたり、魔獣の幻を出す程度のことなど彼の名を持ってすれば納得と理解をされることだろう。

 マカロフ教官はそれに賛同しつつ、こちらに派遣されることに対しては反対を行っていた。

 

 一旦その案を受け入れられた教官達であったが、問題はそんな彼をどう迎えるか、である。

 シュミット博士は自分本位であり、興味の持つ出来事にしか関心が向かず他人の意向に沿うように動いたためしがないため、ただトールズ士官学院へ来て欲しい、という依頼では決して頷くことはないだろう。

 

 再び答えの出ない議論へ続くかと思われたそれは、提案者であるトマス自ら博士の勧誘へ赴くことで一旦の沈静化を迎えた。

 本人と本来の事情を聞いた学院長以外は不可能だと思われていたスカウトは当日のうちに行われ、その多くの予想を裏切ってシュミットはトールズ士官学院への派遣を了承し翌日のうちに学院の一室を与えられた。

 

 当然いくつかの約束事も取り決められたが、不祥事とそれにまつわるメリットの提示を受け学院長はそれらを全て受け入れた。

 しばらくの間、トマスはマジカルトマスという異名で騒がれることとなるが、本当に彼だけで勧誘が成功したわけではない。

 当然のことながら、シュミットを納得させるだけの材料が彼にあったからだ。

 

 

 

 少し時間はさかのぼり、リィンがロア・エレボニウスを取り込んだところから始まる。

 

「リィンさん、ご無事ですか?」

「ああ……今のところ心臓も落ち着いてる。それに、あの影――ロア・エレボニウスのこともわかる。まるで知識が頭に流れ込んで来るみたいだ」

「本当に取り込めたんですね……」

「ウフフ、ここまで来ると呆れより感心してしまうわ」

 

 異能生存体でも見るような目でリィンを眺める少女達をよそに、本人は気軽な様子で体の調子を確認していた。

 そうしているうちに灰色の戦場が消える。

 四人は旧校舎へと戻っており、再び切り替わった地形の中であるものと遭遇する。

 灰色に輝く騎士人形――エマ曰く灰の騎神・ヴァリマールと呼ばれる巨いなる力。

 その精密に細工された騎士人形を前に、リィン達はエマが語る騎神とそれにまつわる話を聞いていた。

 

「――なるほど、ドライケルス帝が獅子戦役を制した立役者ってわけか」

「実物を見るのは当然始めてですが、私はすごく既視感があるんですよね」

「アタシも」

「そうなのか?」

「あの……リィンさんが学院で遠巻きに見られる理由といいますか」

「――――――ああ、あれか」

 

 リィンは納得いったと手を叩く。

 その軽い反応にセリーヌが吠えた。

 

「って、なんでそんな気軽なのよ!」

「あれのおかげでエマ達と仲良くなれたからな。俺としては正直どうでもいいというか」

(フフフ、息子よ。この格好にも意味はあったというわけだな)

 

 オズぼんがそう言うと、リィンの服装に変化が現れる。

 制服自体はそのままだが、以前エマとセリーヌを驚かし長距離転移を発動させた――今見れば灰色の騎神に似た不審者ルックである。

 オズぼん同様に、灰の騎神セットはロジーヌには見えていないようで、突然体を震わせたエマとセリーヌを不思議そうに見ている。

 ベリルはいつもの笑いを二倍増しにしている。やっぱり見えてるだろうと思う中、リィンは冷静にこめかみに怒りの筋を浮かばせながら元に戻せと告げる。

 

「悪いなロジーヌ。親父はよくわからん不思議な力を持っていて、エマ達にしか見えないようだけど衣装変えたりアイテムを出すことが出来るんだ。何故かアイテムは見えるようだけど……ほら、こんな風に」

 

 そう言って取り出したのは、リィンとロジーヌにとっても思い出深い傘だった。

 ただしロジーヌからすれば突然手の中に傘が生まれたように見えたようで、先程から丸くしていた目にさらなるきょとんが加わった。

 

「実際に見ても手品と思ってしまいそうですが……先程の低く艶のある声が、オズぼんさんなのですね?」

(フフフ、息子よ。年頃の娘にそう言われるのは照れるものだな)

「ウフフ、リィン君。私には説明してくれないのかしら?」

「いや、君ならなんか全部知ってそうだから……」

「ウフフ、ほったらかしだなんて傷ついてしまうわ」

「ご、ごめん……」

「言ってみただけよ、気にしないで」

 

 面倒な女ね……というセリーヌのつぶやきに心の中で同意しつつ、元の制服に戻ったリィンはエマ達に少し離れてもらうよう指示した後、鬼の力を使うように己の心臓に語りかける。

 引き出すのは鬼の力ではなく、先程取り込んだロア・エレボニウスなる灰色ノチカラ。

 リィンは何かと繋がる感覚を覚えながら、その力を顕現させる。

 

「――――――」

 

 現れたのは、灰色の戦場でまみえたロア・エレボニウス……に似た影だった。

 似てはいるが、同一ではない。まるで元になったプロトデザインのようだ、とオズぼんが言う。

 灰色ノチカラではなく、灰のチカラとでも呼ぶしよう。

 

 灰のチカラはリィンを覆うように現れ、体を鎧のように包みこんでいく。

 十アージュに迫る巨体の上半身だけが顕現し、その胸の中心を基点にリィンを守る。

 鎧というにはあまりにも巨きなものであるが、リィンは鎮座する騎士人形と見比べあれも鎧みたいなものか、とぼんやりと考える。

 そんなことよりも大事なことを確認するため、リィンはロジーヌに振り向く。

 サイズ差のせいか、ロジーヌは少し体を震わせたので謝罪と共に左腕を掲げた。

 

「どうだ、ロジーヌ。俺の左腕に抱きついてる人形が見えるか?」

「……ごめんなさいリィンさん。私に見えるのは、先程の影がリィンさんを覆っている姿で、オズぼんのことは見えません……」

「そっか……」

 

 様々な気持ちを込めて嘆息する。

 さっきのあれは女神が起こした奇跡だったのか?

 思いつきだったといえ、手伝ってもらったみんなにも申し訳なくなる。

 

(フフフ、息子よ。先程とは状況も違う。そう焦ることもないだろう)

「そう、ですね。ロジーヌさんがオズぼんさんのことを認識出来たのは、あの特殊な空間だったから……ということも考えられます。でも、あの影をクラフトのように扱えるってだけでもすごいことだと思うんですけど……」

「アンタ、アーツよりもそっち使ってたほうがずっと強いんじゃない?」

「ウフフ、その鬼の力も最初は今よりもおとなしかったのでしょう? 使い込めば、また進展も迎えるのでなくて?」

「みんな……」

 

 彼女らの言うことも一理ある。

 外の理のものでないといえ、あの空間が特殊なものであることは疑いようがない。

 条件を調べるためにも、灰のチカラを使いこなせばまた見えてくるものがあるだろう。

 鬼の力も、制御する前と後では引き出す力が段違いだったこともある。

 

「ここは上位三属性、下位四属性が渦巻いてるように思えます。だからあんな空間を書き換えるような真似も出来たのでしょう。場と力が合わされば、大抵のことは叶います」

「特殊な場か……まずはそれを自分で作ることから始めるか。これからは稽古の時に――」

「お待ちくださいリィンさん。その力は姿を変化させる鬼の力よりもずっと大きくて派手です。稽古場で下手に使えば、大抵の場所そのものを壊してしまうのでは?」

「うっ」

(フフフ、息子よ。その力の扱い方も大事かもしれんが、アレはどうするのだ?)

 

 オズぼんが示したのは、未だに動くことなく鎮座する灰色の騎士人形。

 省略かつ不正介入だったといえ、試しの場の番人を倒したリィン達にはこれに乗る資格があった。

 乗り方がわからないが、中に入って動かすことが出来るのだろう。

 

「……エマはこの騎神に乗る起動者を導く使命のためにこの学院に来たんだよな?」

「はい。この騎神は巨いなる力の一片。悪しき道に進まぬよう起動者を導く……はずだったんです。でもまさか、こんな風に出会うとは思いもよりませんでしたが」

「俺は灰のチカラを制御しないといけないし、別に乗るつもりないぞ。そうだ、エマが乗ったらどうだ? 本人が乗れば道を誤ることもないだろ」

「何言ってんのよ!」

「でもセリーヌ。エマなら自分を制御出来るだろうし、悪人になることなんてないだろ?」

「そ、そうだけど……でも魔女の使命が……」

「ロジーヌやベリルはどうだ? 多分、二人にも一応乗る資格はあると思うけど」

「え? そ、そうですね……」

「せっかくだけどご遠慮させていただくわ。手助けならやらなくもないけど、乗り込んで戦うのは趣旨じゃないの」

 

 頬に手を当てて困った笑みを浮かべるロジーヌと、ばっさりと断るベリル。

 

「うーん、そうなるとここに置いたままがいいのかな。元々ここにあったものなんだし」

(フフフ、息子よ。どの道調査の手が入るなら、ルーレにある工科大学の学長に依頼するといい。彼は導力工学の第一人者だ。調べるなら現代の専門家に任せるのも手だぞ。灰のチカラとやらの解析にも役立つやもしれん)

「なるほど……」

「リィンさん?」

「ああ、悪いなロジーヌ。親父が言うには、ルーレ工科大学の人に調べてもらえばいいんじゃないか、ってさ。餅は餅屋って言うし専門家に任せるのも筋かもな」

「話はわかりますが、一応この施設は士官学院のものですし、一度教官方に預けてみてはどうでしょう? 私達の手には余りますし、調査が入るのは必須かと思います」

 

 ロジーヌの至極もっともな提案に、エマがおろおろと慌て始める。

 

「え、大学か学院預かりになってしまうんですか?」

「勝手に乗ってしまっていいのでしょうか?」

「そ、それはそうかもしれませんが、それならおばあちゃんに相談を……」

「おばあちゃん?」

「魔女の長よ。エマを育ててくれた人でもあるわ。何百年と生きてるから、騎神について最も詳しいんじゃないかしら」

「それじゃあその人に預け――」

「いやー、これは驚きました~」

 

 リィンがそう言おうとする前に、のんきな声が混ざった。

 四人が振り向くと、そこには歴史学の教官であるトマスが手を振ってこちらへ近づいていた。

 驚きに目を剥くリィン達に、トマスは自分がここへ来た理由を語る。

 セリーヌは黙って猫のフリをした。

 

「え、旧校舎が?」

「はい。謎の光に包まれてあたりは騒然ですよ。一体、何があったのですか?」

 

 あの戦いでそんなことが引き起こされていたとはつゆ知らず、ただ驚くのみ。

 硬直するリィンをよそに、ロジーヌがトマスにここで何が起きたのかを語った。

 

「なるほど…………」

 

 トマスは見たことないほど真剣な様子で考え込む。

 普段微笑を絶やさない相手にしては珍しい、とリィンは当事者であるにも拘らずまるで他人事のように感じた。

 今は灰のチカラを使いこなす、それに思考を奪われているせいだ。

 

「とりあえず俺達はこれをどこに預けたものかと悩んでいまして」

「……騎乗は出来ないのですか?」

「ここにいる四人なら可能かと思います。ただ、乗り方がわからない上に誰も乗ろうと思っていないので……よければトマス教官、乗られてみますか?」

「いえいえ、聞けば搭乗者を選別するタイプのものなのでしょう?」

「試しをクリアすれば誰でも乗れるようですよ? トマス教官なら可能かと思いますが」

「いえいえ、私はしがない文系教官なので……しかし、騎神ですか……まるで……」

「まるでアーティファクトの一種のようね」

 

 ベリルが指摘すると、トマスはそうですね~と朗らかな声を維持しながらもメガネの奥の瞳を細くする。

 それに気づいたのはロジーヌとベリルだけであり、それに気づかなかったリィンは気兼ねなくベリルに尋ねた。

 

「アーティファクト?」

「七耀教会が『早すぎた女神の贈り物』として指定する古代遺物のことよ。大半はその機能を失っているのだけど、稀に稼働状態のものもあるようね。リィン君の鬼の力や灰のチカラが道具で引き起こせるものなら、それが該当するのかも」

「へえ。それじゃあ親父が見える可能性のあるものも……」

「親父?」

 

 トマスの声にリィンは慌てて首を振る。

 

「ああいえ、なんでもないです。結局、この騎士人形は学院預かりになるんでしょうか?」

「そうですねえ……ですが、本当にアーティファクトなんでしょうかねこれ。見た感じ、導力や他のエネルギーのようなものは感じませんが……」

 

 トマスの物言いが気になったリィンはこっそりと目を鬼化させて霊子の流れを確認する。

 するとどうだ。

 この騎士人形にはそれらしきものが確認出来ず、大きな金属の塊にしか見えない。

 それこそ現代の技術で彫刻された人形、と言われたほうが納得出来た。

 もしくは美しい細工をこしらえた彫像品。

 どちらにせよ、戦闘で使えるとは思えない。

 リィンはそれが気になり、ロジーヌと話し込むトマスの目を盗むようにエマとセリーヌに確認を取る。

 

(エマ、セリーヌ。これが本当に伝承にうたわれる騎神ってやつなのか? まるで『らしさ』を感じないんだが)

(え、そんなはずは………って嘘っ………)

(なんで? マナがまるで感じない……ひょっとしてエネルギーが枯渇してる状態?)

(だからか。なんだか、『空っぽ』って気がするのは)

(空っぽ……)

 

 それきり、二人は騎士人形の前でひそひそと話し合いを始める。

 魔女の言葉なのか、理解出来ない単語が混じってきた時点で会話に入ることを諦めたリィンの耳に、ベリルが唇を寄せた。

 

「ウフフ、これからが大変になりそうね?」

「何他人事みたいに言ってるんだよ、ベリルだってこれからも付き合ってくれるんだろ?」

「あら、私も巻き込まれちゃうの?」

「一日限りって話だけど、そうも言ってられないしな。資格を得たことで何か不具合がベリルに起こったら大変だし、この騒ぎが落ち着くまでは手伝って欲しい。俺もベリルに何かあれば助けたいしな」

「……………………ふぅ、まさか、溺れる者の藁になるなんてね」

「ん?」

「ウフフ、なんでもないわ。まあ、戦うことは出来ないけど見守るくらいはするから安心してちょうだい」

「それで十分だ。……ロジーヌ達の話し合いも済んだみたいだし、とりあえず出ようか。学院長にも報告しないと」

 

 その後、学院長に報告したリィン達は後処理という名の面倒事を買って出たトマスに任せて自分達はブランドン商店で買い込んだ食材を調理して、オカルト部の部室で打上げパーティを行った。

 トマスを手伝おうとしていたロジーヌも引っ張ってきたため、彼女は終始恐縮していたが、こういうのも教官の仕事と納得させてその後の一日を楽しんだリィン達だった。

 なお、事後処理を任せた結果、さらなる面倒事がリィンとそれに巻き込まれた少女達に降りかかることを彼はまだ知る由もない。




シュミット博士はⅡの数ヶ月前に機甲兵のプロトタイプが完成したのを見届けたそうなので、多分一息ついてるところにトマスからの打診があった、という風に繋げています。
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