園遊会の開始まで時間があるということで、クリスタルガーデンを回ろうとしたリィンだったが、そこでクロウに止められてしまう。
「見回りは俺達がやっておくから、お前はここにいろ。下手すれば、外に出かねないからな」
「流石にそれは……」
「ない、とは言い切れないよね。リィン君の場合」
「うん、自分勝手に理由を作って行動しそうだ」
(フフフ、息子よ。彼らは昨日の夜中の行動を言っている。ヴィータ嬢の気配を感じたといえ、外に出たのはお前だ。
ここは黙って受け入れるがいい)
(ちぇー)
唇を尖らせるリィン。
その態度を了承と受け取ったクロウが、俺達はこっちへ回ると言ってジョルジュとアンゼリカを伴って離れていく。
離れるさい、トワに何らかの目配せをしていたが一体何なのだろうか。
その疑問は、トワの言葉で晴れる。
「ではせっかくですので、ご案内させていただきますね。接待相手が学生の私では役者不足ですが……」
「いや、構わないさ。アンゼリカ嬢の親友だと言うのであれば、十分だ」
マクダエル議長の柔和な笑みに恐縮するトワ。
もじもじと、体を揺らしながら遠慮する姿は愛らしさが先行し、エリィも微笑ましく思ったのか瞳を和らげている。
家族が政治学を学んでいたこともあり、外国の偉い人ということであれば、何か尋ねたいこともあるのだろう。
ならば、とリィンはトワの手助けを決める。
「マクダエル議長は元クロスベル市長とのことですが、もし良ければクロスベルについて教えていただけないでしょうか?」
「ふむ……?」
「申し遅れました、帝国の辺境、温泉郷ユミルで育ち、今年度にトールズ士官学院Ⅶ組へ入学したリィン・シュバルツァーと申します。
浅学ながら、クロスベルについては名前を聞くことは多いのですが、導力技術が発達した都市、くらいの知識しかなく……
もし良ければ、後学のためにマクダエル議長の薫陶を受けたいな、と」
「なるほど、熱心な若者なのだね。帝国出身でありながら、クロスベルを知ろうとするとは」
マクダエル議長の物言いは、感心以外にも何らかの感情を含んでいた。
嫌悪ではないが、どこか距離を感じるような複雑なものを覚える。
(フフフ、息子よ。クロスベルにとっての帝国は目の上のたんこぶ、では片付けられないものだ。
大国の傲慢とは異なるが、意識差について思うところがあるのだろう。ただ、顔に出さないのはさすがの経験というべきか)
オズぼんの言葉を聞いていると、マクダエル議長は一つ頷き、隣にいるエリィに目を向ける。
「せっかくだ、エリィ。試験というわけではないが、お前が半年の間に見聞きした経験で、己にとってのクロスベルという場所を語ってみるといい」
「お、お祖父様?」
「リィン君のような若者ならば、年寄りよりも耳を傾けたくなるだろう」
「別に俺は――」
「ふふ、そういうことにしておいてくれ」
悪戯を仕掛ける子供のように、マクダエルが笑う。
二人を見たときに、クロウがエリィの外見に注目していたことをしっかり見抜かれていたようだ。
リィンは別にそういう目で見てはいなかったが、祖父から孫への宿題というものなのだろう。
「エリィさんから聞かせてもらえるのなら、願ってもないことです。よろしくお願いします」
トワがぺこりと頭を下げることで、リィンは自分の思惑が上手くいったことに心の中でガッツポーズを取る。
こほん、と一つ息をついてエリィは語りだす。
「じゃあ説明させていただきますね。クロスベルというのは――」
そこで聞かされるクロスベル自治州は、あくまで帝国という場所で語られるものだった。
彼女の説明の合間に、逐一オズぼんからの補足がなければ大陸最大の貿易都市ということや、保養地ミシュラムの印象が強く残ったことだろう。
だが、オズぼんの言葉によれば、それは表でしかなく裏の実態については詳しく語られていない。
帝国と共和国の間に挟まれ、共に宗主国であることを認めて自治州となったものの、お互いを唯一の宗主国とする二国の間に挟まれた土地は争いが絶えないそうだ。
(力の本質は暴力。クロスベルへ向けられる暴力について、トワ会長は話を聞きたかったんだろうけど……ミスった。聞く場所が悪かった)
仮にも帝国の園遊会という会場に誘われた身分で、帝国を批判するような説明を帝国民に与えるわけにはいかない。
そういう意味では、抜け目なく闇を隠してクロスベルを語るエリィは政治家の孫娘らしいと言える。
ただ、トワが聞きたかったであろう話まで持っていくのは難しかった。
それでもエリィの話はクロスベルを誇らしく思い、故郷への気持ちが詰まっていることが不幸中の幸いと言えた。
何より、その中でも興味を引いたのが……
「特務支援課、ですか」
「ええ、私も所属していた特別なチームなんです。今は一時的に解散していますが、クロスベルにおいて市民や組織団体といった、あらゆる依頼を引き受けて解決する……
当時は遊撃士のモノマネ、なんて言われてたりもしましたが、今は市民にも受け入れられていると思います」
そう語るエリィの声は先程に比べると非常に弾んでおり、聞いていて心地いい。
やはり会話というのは、話す人が楽しんでこそだろう。
「俺もオリヴァルト殿下が設立し、立場の異なる三人の理事の意向の下、特別実習というものを通して帝国中を回っています。今回、帝都に来たのもその一環ですね。
振り返れば、これも遊撃士の活動とも似てますね……」
それだけゼムリア大陸において、遊撃士という存在は大きいのだろう。
「今年の一月に結成したばかりの頃は私自身、とても不安なものだったけど……頼れる仲間達が居るおかげで、クロスベルの《壁》も超えられるんじゃないかって思っています」
「壁?」
「え? あ、ああ達成が難しい内容って意味です。今も多くの壁がクロスベルにはそびえ立っているけど、ディーター市長が就任したことで、流れが変わったと思っています」
「ディーター市長……どこかで聞いたような」
「ディーター・クロイス。IBC……クロスベル国際銀行の総裁を務める実業家で、世界一のお金持ちだよリィン君。今はクロスベル市長に就任したとのことですが」
リィンの疑問をトワが補足する。
ディーターの名前が出たことで、マクダエル議長とエリィの顔に笑みが浮かんだ。
「ああ、愛国心ある頼れる後任だよ。彼が就任してからはほんの少しだが、住心地が良くなっているからね」
「当時のクロスベルタイムズは読ませていただきました。
マクダエル市長の理念を引き継いで、健全な政治体制を築くという公約がしっかり守られているようで、私も自分のことのように嬉しいです」
微笑むトワの顔に嘘はない。
政治家としての経験や、特務支援課として活動したエリィからもそう信じることが出来た。
逆に言えば帝国人にも拘らず、クロスベルを憂いてくれる少女に全てを語れない申し訳なさがエリィから感じ取れる。
慰めとは違うが、リィンはここで口を挟んだ。
「トワ会長は、帝国の暴力を知るためにトールズへ入学したそうですが、エリィさんも何かを求めて特務支援課に入ったんですか?」
「リ、リィン君?」
「暴力?」
きょとんとするエリィに、リィンは一昨日に聞いたトワがトールズへ入学した理由を教える。
戦争が嫌いな彼女が、あえて軍学校としての面もある士官学院へ知識を求めたことを。
それは、ある意味政治家に近い道と感じたからだ。
「なるほど……トワさんも別の道を探している、ってことなんですね」
「あ、あはは……お爺ちゃんからの教えに従ってるだけです。都合の悪いことに目を逸らすな、って。
今は、それで良かったと思います。アンちゃんにクロウ君にジョルジュ君……大好きな親友も出来て、わんぱくですごく苦労が絶えないけど、頼もしい後輩も出来ましたから」
トワの笑顔が眩しい。
リィンは頼もしい後輩ということにだけ着目し、苦労が絶えないというのは別の相手だろうと勝手に思った。
「ふふ、私も同じなんです。……いいえ、同じ。祖父や父とは違う切り口を求めて警察に入った流れなのよ」
敬語を止めたエリィは、親近感を覚えるようにトワに提案した。
「トワさん、私には敬語を使わなくていいわ。貴女とは友好を結びたいの」
「良いんですか?」
「ええ。それとも、外国人とは仲良く出来ないかしら?」
「とんでもないです、ううん、とんでもない! こちらこそよろしくね、エリィさん」
「お互いにさん、は抜けないんですね」
「えーっと、そこは今後の宿題ということで」
「そうね、そうしましょう」
お互いに苦笑しながら、今度はトワが帝国についてエリィに教えていく。
そのやり取りはつい先程まで初対面だったとは思えない。
トワとエリィ、お互いの性格の良さもあるだろうが、年齢が近く、互いが目標とする分野が同じというだけあってすぐに打ち解けていた。
その光景に、マクダエル議長が眩しそうに目を細める。
「まさか、帝国に赴いて友が出来るとは。今回の園遊会、誘って良かったよ」
「やっぱり、クロスベルの議長としては帝国へ赴くのは腰が重いのでしょうか」
「……政治に無関心、というのはフリだったのかな?」
「いえ、ただ含むものを感じただけです」
親父のおかげですと言えれば楽だったが、オズぼんのことを説明するわけにもいかないので、勘ですと言っておく。
「だとしても、その直感は優れている。トワ君へ逐一フォローを回していたようだしね」
「政治は知識を蓄えたとしても、上手く立ち回れる気がしません。俺は感情の赴くままに生きてますから……」
「人間、そういったものだよ。私達はみな、感情を切り離して生きていけないのだから」
含蓄のある言葉を受けつつ、リィンはトワとエリィの会話を横目にマクダエル議長との会話を進めていく。
流石に政治方面での話で盛り上がることは出来なかったが、オズぼんというサポーターがいることで、会話が止まることなくスムーズに時間が流れていく。
マクダエル議長はと言えば、エリィよりも年下のリィンが自分との会話に苦もなくついてくることに、帝国の若い世代の有能さを覚えずにはいられない。
そうしているうちにクロウ達も戻り、エリゼを伴ったアルフィンが姿を現し、レーグニッツ知事の挨拶と合わせて園遊会が開始されることとなった。
――そして三時を告げる鐘が響いた瞬間、事件が起こる。
「…………」
「リィン君、どうかしたの?」
エリィをエスコートしていたトワが、同じくマクダエル議長の相手をしていたリィンが突然周囲に首を巡らせたことを訝しんで声をかける。
リィンは来るべき何かに備え、静かに抜刀した。
「リィン君、何を――」
「――会長。先輩方、
「え、ちょっと!?」
言うが否や、リィンは全速力で駆け出した。同時にヴァリマールの《ピース・オブ・パワー》を経由した実体を持つ分け身を十体生成し、気配を感じた場所へ飛ばす。
本体のリィンの目標はアルフィン及びエリゼ、レーグニッツ知事の周辺。
リィンに気づいた警備兵が声をかけようとするが、その寸前、クリスタルガーデンの各地で爆発音が響いた。
「きゃあああああああああああ!」
「な、なんだあ!?」
音と煙を割いて現れたのは、機械仕掛けの巨大な傀儡――人形兵器だった。
爆発音に園遊会の参加者達から悲鳴が上がる。
ただ、十人以上いるリィンを見て驚く声も少なくなかった。
「人形兵器だと?」
結社が絡んでいるのかと思いながら、リィンの視線はエリゼ達に固定されていた。
彼女達の周辺、気配はレーグニッツ知事に迫っていた。
「緋空斬!」
先手必勝、とリィンは抜刀した太刀から斬撃を飛ばす。
放たれると同時、虚空から姿を現した人形兵器がレーグニッツ知事へその銃口を向け――リィンの緋空斬によって両断された。
「エリゼ、殿下、レーグニッツ知事! ご無事ですか!?」
「兄様!?」
「リィンさん!」
「シュバルツァー君!?」
同時に疾風による高速斬撃で、周囲に次々と現れた人形兵器を一撃の元に破壊していく。
目の端に転移陣を見据える。
リィンは鬼の力を目に集め、霊視による先読みで転移陣でワープしてくる何かへ向けて手を向けた。
「来い、灰のチカラ――ロア・ヴァリマール・アーム!」
「応!」
「総員、作戦かい―――ぐああっ!?」
現れたのは人間だった。
銃器とプロテクターを身に着けた不審者が次々と転移陣から現れてくるが、リィンはロア・ヴァリマールの腕だけを召喚し、まとめて全員薙ぎ払う。
複数居た侵入者を全員気絶させ、警備兵がいる方角へ投げ飛ばして三人の無事を確認したリィンは、エリゼに短くつぶやいた。
「エリゼ、俺の分け身を付ける。殿下と知事を安全な場所までエスコートしてくれ。出来るか?」
「え、あ……」
「テロリストか何か知らないが、ここは襲撃を受けている。大丈夫だ、お前は絶対に守る。当然、殿下と知事もだ。やれるな?」
リィンの真剣な声と、周囲で耳をつんざくような悲鳴と不気味な機械人形や不審者の群れを目視したエリゼが小さく悲鳴を上げる。
だが、それ以上に義兄と同じ顔をした……というより本人そのものが十人近く存在し、それらが先程と同じように襲撃者を駆逐している姿に、エリゼの驚きが度を超えて感情が飽和してしまった。
しかし、そんな中でもエリゼの心は義兄の奇行より信頼が勝った。
「わかりました……兄様は努めをお果たしください。兄様の憂慮は、私が切り払います」
すぐに細剣を取り出し、リィンの分け身が作る道をアルフィンの手を引いて進んでいく。
アルフィンは混乱から抜け出せずされるがままだったが、レーグニッツ知事は大人の意地かリィンの言葉に従い避難してくれた。
目端では、率先して避難誘導するトワや、その道を守るために戦うアンゼリカにクロウ、ジョルジュの姿が確認出来る。
パトリックも混乱していたが、リィンの分け身達が襲撃者をなぎ払っていくさまを見て、負けていられないと吠え声を上げて剣を取り戦っていた。
頼もしいと思う中、クロウは呆れ百%の視線をリィンに向けている。
リィンは親指を立てて、任せてくださいと心の中で言葉を送った。
無視された。
そんな行動にもめげず、事前の襲撃をいち早く防ぎ、リィンの分け身達によって数を減らす襲撃者達。
警備兵も混乱から混乱を繰り返すが、目前で破壊活動を行う敵を相手を前に遅れながらに行動を開始する。
そんな中、一際魔力密度の濃い転移陣を霊視が捉えた。
「フフ……ごきげん――」
「破甲拳!」
「おぐぅ!」
遅れて登場した青い髪の男が転移してきたことで、リィンは刀から拳へ切り替えて気絶させ――ようとしたが、赤いプロテクターを身に着けていることでダメージを軽減したのか、現れた男を殴り飛ばすだけに終わってしまう。
「な、何をするんだ! 僕はまだ何も――」
「破甲拳舞!」
「ぎゃあああああああああああああ!!」
単なる破甲拳のラッシュだが、その威力は折り紙つき。
プロテクターでは体に当てても軽減されてしまうと判断したリィンは、その拳の全てを顔面に打ち込むことで男に何もさせず気絶させた。
「クロウ先輩、こいつ重要参考人です。確保お願いします!」
そう言って、気絶した青髪の男を掴んで放り投げるリィン。
それを受け取ろうとするクロウの目は、何故か死んでいた。
いつかの星見の塔。
デュバリィ
「中々やりますわね。ですが、これはどうですか?」←分け身発生。
ロイド
「くっ、速さに加えてこれは……」
エリィ
「一人くらい何てことないわ、リィン君みたいに十人くらいに増えるわけじゃないもの!」
デュバリィ
「な、シュバルツァーに私が劣るですって!? くんのおおおおおお!!」←分け身HP超絶UP
ランディ
「何してんだお嬢!?」
ティオ
「何してんだはあっちの人も大概だと思うのですが」
リーシャ
(気合入れて性能上がるのが分け身なほうって意味では彼女結構ポン……)