はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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前回、あとがきに記載しようとしましたが、余韻的に没になった台詞。
リィン
「親父は親父として、本当の父さんのことはなんて呼べばいいかな……ファースト父さん、セカンド父さん?」
オズぼん
「うむ、ダブルお父さんが泣くからやめなさい」

また、前話において、エリィ達の描写を地の文に数行追記しました。
いつも誤字報告ありがとうございます。


フフフ、息子よ。七月のリザルトだ

 オズぼんの宣戦布告とも言える言葉に続き、リィンもまた再会のために何か言おうとする。

 だが、不意打ちの出会いに上手く舌が回らない。

 せっかくオズぼんがお膳立てをしてくれたというのに、この体たらく。

 実父との再会と同じく、彼もまたオズぼんが見えるという歓喜が全身を支配する。

 喜びの感情が溢れすぎたリィンは、その目端に涙を浮かばせながら、必死に叫ぼうとする。

 それでも震える舌を懸命に動かそうとした矢先、オズボーンが言葉を紡ぐ。

 

シュバルツァー君(・・・・・・・・)、だったね? 先日のトールズ士官学院の盗難事件の詳細は伺っている。

 そして此度の一件に関しても実に見事な働きをしてくれたそうだね」

「何を……父さ――」

「テオ殿とは親交ある身、実に素晴らしい若者へと育て上げたものだ」

(フフフ、私よ。お前はそちらを選ぶか)

 

 オズぼんの言葉に軽く唇を歪ませるオズボーン。

 彼は優秀な政治家であるため、リィンが何も言えずにいる間に先の動揺を短い時間の間で制御していた。

 そのため、わずか数秒ながらリィンが言おうとしていたことを察することはたやすい。

 そして、その上で否定した。

 お前はテオ・シュバルツァーの息子なのだと、言外に告げたのだ。

 当然、オズぼんの薫陶を受けたリィンもその言い回しを察する。

 

(だが、息子を甘く見ないほうがいいぞ?)

 

 そこに、オズぼんの不敵な声が響く。

 己の身を蝕む幻聴とは方向性の違う、悪意なき意図をありありと感じた。

 

「俺はリィン・オズボーンです」

「シュバルツァー君」

「貴方の息子です、父さん」

「シュバルツァー君!」

 

 浮かべた鉄面皮に焦りが出ないように務める。

 政治においては息を吸うように出来たことが、今この場においてはもっとも難しい行為となってオズボーンを苛む。

 リィンは真実、今この場でオズボーンを父と呼ぼうとしている。

 彼もオズぼんから真実を告げられているため、それを理解していたが、その上で十年以上出会えなかったことで積もった想いを制御しきれず、このチャンスをものにしようと動いているのだ。

 だが、それはまずい。時期が悪い。

 《革新派》と《貴族派》が争うこの時期、政治においてこの情報は即弱みとなり、ひいてはシュバルツァー家を巻き込むこととなる。

 だが打開のために与えられた時間は、もって数秒。

 その間に全てをまとめる言葉をどうにかして編み出そうとするオズボーンだったが、その魔法を使ったのは彼を導く魔女だった。

 

「リィンさん、いくら《鉄血の子供達(アイアンブリード)》に興味があるからって(・・・・・・・・・)、直接尋ねるのはダメですよ!」

 

 そう言ってエマはオズボーンから隠すようにリィンの正面に回る。

 エマもまた、リィンの真実を知る者の一人。

 政治には疎くても、その地頭の良さはオズボーンの意図を即座に見抜いていた。

 エマがこじ開けた穴に、かつてなく頭を巡らせるオズボーンの視界は、世間的には愛娘と言える少女の姿を捉えた。

 今この時、オズボーンの脳裏に幻聴でなく女神の福音が聞こえた気がした。

 実際にエマを女神の使徒と勘違いする程度には追い詰められていた。

 

「ミリアム、君がシュバルツァー君に《鉄血の子供達》のことを教えたのかな?」

「んー、そうだったっけかなー?」

「確か私は聞きましたよ、ミリアムちゃん」

 

 エマの瞳が黄金に光る。

 首を傾げていたミリアムは、ぽんと掌に拳を乗せて肯定した。

 

「うん、そうだよー。結構食いついてた。えへへ、そうなったらリィンはボクの弟だね!」

「そうか、つまり君は《鉄血の子供達》の一員になりたい、そう言うわけだな?」

 

 オズボーンはエマから魔術の気配を感じて、即座に意図を把握。

 まるでARCUSによる戦術リンクを結んだかのような、見事な連携を発揮する。

 

「なっ…………!」

 

 オリヴァルトが驚愕の声を上げる。

 当然リィンにもオズボーンにもそんな意図はまるでない。

 ただ、この場で血縁関係を明かしたくなかったオズボーンが必死で誤魔化そうとしているだけに過ぎない。

 

(まさか……そういうことなのか!?)

 

 だが、オリヴァルトは違う。

 元々ミリアムは、テロリストのスパイをあぶり出すという目的でトールズ士官学院に編入した少女だ。

 だが、もしその意図がリィンを《革新派》ないし《鉄血の子供達》に引き抜くためだとしたら……そんな仮定が浮かんでしまった。

 繰り返すが、お互いにその意図はない。

 だが奇跡的に噛み合った誤魔化しによって、そう勘違いせざるを得ない土台が出来上がってしまった。

 

「え? いや俺は貴方の――」

「リィンさん。今は皇族の前ですから……ね?」

 

 再びエマの瞳が輝く。先程のミリアムとは比べ物にならない強力な催眠魔術は、ほんの少しだけリィンの意識を別に向けさせた。

 

「リ、リィン! それ本当なの?」

「そんな風に思っていたなんて……」

「……なんということだ」

 

 Ⅶ組の面々は、リィンならこれくらい言ってのける、と三ヶ月の間に積み上げた信頼によって、リィンの言葉を勘違い(真実)として認識していた。

 リィン・オズボーンと直接的に名乗りを上げるなど、しかも鉄血宰相にまでやってのけるとは、とある意味感心すら覚える者もいる。

 セドリックなど、なんて豪胆なと言ってクルトに嗜められている。

 だがそんな中でもユーシスは渋い顔だ。

 《鉄血の子供達》の一員になるということは、貴族であるユーシスはそうなればリィンと敵対する可能性が非常に高いからだ。

 この男を本格的に敵に回してしまうのか、と苦悶の表情を作るユーシス。

 中立派ながら、貴族でもあるラウラがそんなユーシスの背中を叩いて慰めている。

 

「に、兄様……シュバルツァーの名をお捨てになるのですか……?」

「いや、そんなことはないぞ?」

「ですが、リィン・オズボーンと……」

「ああ、それは俺が――」

「安心したまえ、エリゼ嬢。確かに面食らう場面ではあるが、君が懸念することにはならない。

 君の義兄は、今後もリィン・シュバルツァーであり続けるであろう」

 

 流石に無視出来なかったエリゼが割り込んでくるが、オズボーンは真摯な言葉で彼女に弁明する。

 リィンを《鉄血の子供達》に入れるつもりはないのだ、と。

 そしてリィンとエリゼの言葉の温度差に、鉄血と呼ばれた己の血が凍りつくような錯覚すら覚えた。

 

「シュバルツァー君。皇族の皆様の前であるし、今回は若者のやんちゃであるとして不問にしよう。

 だが、言葉には気をつけるがいい。魑魅魍魎が住まう帝国において、迂闊な失言は己だけでなく周囲も滅ぼす刃となってしまうことを……」

(フフフ、息子よ。今はここまでにしておけ。認知してもらうのは遠回りになりそうだが、何、機会はまだある)

(わかった)

 

 そして、場を散々荒らしたリィンはと言えばオズぼんの言葉に従って、宰相かつ伯爵へ対する非礼を詫びてクラスメイト達の下へ戻る。

 オズボーンは、自分の言葉よりも姿を模倣した人形の意見に従うリィンに複雑な感情を抱かずにはいられない。

 

「オリヴァルト皇子。彼についてはともかく、《帝国解放戦線》についてはかの結社が関わっていることは明白。

 先日の一斉拿捕によって終わりを迎えたと思われましたが、どうやらまだ因縁は続く模様。

 解決が伸びてしまわれますが、必ずその壊滅をお約束しましょう」

「フフ、根回しの良いことだ。だが、身喰らう蛇(ウロボロス)は国が相手でもその鎌首がもたげることだろう……《通商会議》も、いっそうの護衛を手配しなければ」

「ええ、私も無事に《通商会議》が終わることを願います」

「ところで宰相、リィン君についてだが……」

「ご安心を。殿下が危惧するような結末にはなりませんので」

 

 そして、オズボーンはようやくⅦ組に気づいたというていを取って正面を向いた。

 

「――諸君への挨拶がまだだったな、見苦しい姿をお見せした。

 帝国政府代表、ギリアス・オズボーンだ。鉄血宰相のほうが名の通りがいいかな?」

「あ…………」

「は、初めまして閣下。お噂はかねがね……」

 

 初手で躓いたものの、圧倒的な存在感を取り戻したオズボーンを前に萎縮するⅦ組の生徒達。

 生徒はおろか、皇族の三人も同じように彼の覇気に飲み込まれようとしていた。

 

「君たちのことは伺っている。今回の事件だけでなく、《貴族派》が抱える機甲兵の情報などをもたらしてくれたことも含めてな。案外、教職というのは天職であったのかな?」

「ええ、その節は本当にお世話になりました。気難しい子供達を導くことになりましたが、それでも楽しくやらせていただいてます」

 

 オズボーンの視線は、サラに向けられている。 

 サラの前職、遊撃士と帝国の関係を知る一同は二人の間に火花は散ったような幻覚が見えた。

 

「ヴァンダイク元帥は私の元上官、その意味で私もささやかながら協力をさせていただこう。とはいえ、今日のことを思えば先に助けてもらったのだがね」

 

 皆が今回の《帝国解放戦線》からの皇族の守護であることを示している、と思ったことに対し、エマはオズボーンが自身へ目を向けていることに気づき、頭を下げた。

 その姿に、オズボーンは合わせて感謝を示す。

 

「どうか今後も健やかに、強き絆を育み、鋼の意志と肉体を養って欲しい。

 これからの、激動の時代に備えてな」

 

 その言葉を噛みしめる一同に対し、リィンは今後どうやってオズボーンに息子と認めてもらおうか、と場違いな、そうでもないような悩みを思案するのだった。

 

 

 その日の夜。

 トリスタへ戻ったリィンが自室のベッドの上で寝転がっていると、そこにドアがノックされる。

返事をすると、エマの声が聞こえたのでリィンは許可を出して扉を開けた。

 

「エマ、どうしたんだ?」

「どうしたんだ、はこちらの台詞です。一体何を考えて宰相に実の息子だと言おうとしていたんですか」

「いや、実子だし」

「それはわかっています。ですが、宰相閣下がリィンさんをシュバルツァー家に預けた経緯を思い返せば、バラすのは得策ではないでしょう?」

 

 リィンの事情を知るエマは、つき慣れてしまったため息を残しながら机の備え付けられた椅子に座る。

 ベッドの上に座るリィンは変わろうか、と言ったがこのままでいいですと断られる。

 

「でもそれは当時のことだろう? 今の父さんや俺なら、ある程度対処は出来ると思うんだが」

「政治分野は詳しくありませんが、《貴族派》は直接敵対していないマキアスさんを拉致するほど強引なのです。

 仮にエリゼさんやご家族、ユミルの方を人質に取られたらどうなさるのですか」

「そんなの正体隠して救出した後に、犯人を――」

「すみません怖いのでそれ以上言わないでください」

「手を出しちゃいけない、って目に合わせてやろうと思ってるだけだよ」

 

 リィンの黒い瞳が灼眼に染まるのを見やり、エマは即座に謝罪した。

 当時ならいざ知らず、今のリィンは素の技量が達人クラスに迫り、鬼の力を使えばそこに並ぶ潜在能力を秘めている。

 加えて、ロア・ヴァリマールや騎神という巨いなる力。

 なるほど、確かにこれらがあればある程度の事態には対処出来るという自負も頷ける。

 だがエマはそれらを無視して、魔女として、起動者が力に溺れる結末を防がねばならないと使命感を強くする。

 そこにリィンのARCUSが鳴った。

 

「はい、シュバルツァーです」

「妾じゃ」

「ローゼリアさん?」

「うむ、テスタ=ロッサ回収の目処が立ったので連絡をと思ってな」

「本当、おばあちゃん?」

「なんじゃ、エマも居たのか……ほむ、部屋でしっぽり?」

「おばあちゃん」

「謝るからそう怖い声を出すな……」

 

 祖母から下卑た感情を察したエマの冷たい声に、ローゼリアが謝罪する。

 その物言いに家族だなあ、とリィンは呑気に思った。

 

「ともあれ了解です。エリンに転移しますか?」

「いや、まずはオリヴァルト皇子に連絡を回して欲しい。あやつにも居合わせてもらったほうが都合が良いからの」

「本当に回収するんですね……」

 

 まさか数百年もの間、帝都に封印され続けた緋を自らの代で回収することになろうとは思わなかった。

 ふと、オズボーンが言った激動の時代という言葉が蘇る。

 トールズへ入学した時には想像もしなかった様々が、ここ数ヶ月で一気に襲いかかってくる事実にエマは気を引き締める。

 

「妾も少し性急とは思うが、結社と呼ばれる者達が至宝を狙う者ならば話は別というものじゃ。

 騎神は至宝の欠片。多少強引にでも回収しておけば悪用はされぬじゃろ」

 

 結社に関しては、すでにリィンがローゼリアへ報告していた。

 ヴィータが所属する組織ならば、ローゼリアもある程度調べてくれているという期待からだ。

 結果としては調査の進展はあまりなかったが、テスタ=ロッサの回収を早めるという結論に至った。

 

「呪いの影響は……」

「大丈夫だよ、エマ。もしエリンに呪いが溢れたら、俺が回収するから。鬼の力は呪いと同じらしいからな」

「そうさせないために私達が居るのですから、自己犠牲はやめてくださいね」

 

 その場にはいなかったが、呪いの影響を受けたギデオンという男は、行動の枷が剥がれた状態にあったという。

 ただでさえ暴走するリィンにそんなものが合わさった日には……と、エマの脳裏に浮かんだそれを強制的に振り払う。考えたくなかった。

 だが、今日のオズボーンへの態度と合わせて、おそらく少なからず影響はあるのではないか、という懸念は晴れない。

 

「ギデオンとやらも目を覚ました。皇子と連絡がついたら、こちらにも頼む。こやつを連れて、またトールズへ行くのでな」

「エリンには行かないんですか?」

「一応隠れ里じゃからな。こういうのは安売りしないのが肝なのじゃ」

「了解です、じゃあ殿下と連絡繋がったらまた言いますね」

「うむ、待っておるぞ」

 

 そう言ってローゼリアがARCUSを切る。

 早速殿下に、とまるで隣の家に住む気安いお兄さんへ連絡するような気軽さで皇族へ繋ぐリィンを見やり、頼もしさと不安が同居する不思議な感情が浮かぶ。

 テスタ=ロッサ回収というサイコロが振られる結果はわからない。

 でも、リィンならば振られたサイコロを蹴って、強引に出目を書き換える真似すら出来るかもしれない。

 少なくとも、ヴィータとの再会には彼の因果が大いに関わっている。

 おそらく歴代でも類を見ない起動者を前に、エマはリィンの左腕へ手を伸ばす。

 

「オズぼんさんも、ちゃんとリィンさんを見ててくださいね?」

「フフフ、エマ嬢。見るだけでいいのか?」

「危なくなったら止めてください」

「善処しよう。嫁候補の頼みであるからな」

 

 実はこの人が呪いそのものでは、なんて思ってオズぼんへ魔導杖をぐりぐりと押し付けながら、エマはセリーヌを呼ぶために退室していく。

 その後、話し合いの結果ギデオンはそのままエリンへ匿うこととなり、テスタ=ロッサもなんとか回収されることとなる。

 塩の杭の残留物の盗難事件から始まった激動の七月は、こうして終わりを迎えるのであった。




ギデオン&テスタ=ロッサ
「私達の出番は?」
ヴァリマール
「かっとダ」

実際は回想シーンという形で小出しにしていこうと思います。
Ⅶを冠するせいなのか、今月の描写が長すぎました…この辺で畳んでおかないと、またずるずる引きずりそうなので、実際の話し合いと回収シーンを期待していた方がいましたら申し訳ありません。

ようやく作品的には八月に入ります。
80話以上書いてまだ八月に加え、イベント的にまた長くなりそうですが、今後も楽しんで読んでいただけたら幸いです。
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