誤字報告、いつもありがとうございます。
「リィン。シュミット博士が呼んでるから、放課後は旧校舎に行って博士のところに顔を出して頂戴。しばらく生徒会の手伝いはいいわ」
トワには私から言っておくから、とリィンはHRでサラからそう告げられる。
目を丸くするリィンに、Ⅶ組のクラスメイト達が興味や不信といったそれぞれの感情を宿した目を向けてくる。
先日、旧校舎で起きた騒動を起こした生徒が誰であるかは箝口令が敷かれているが、その事件については生徒達に知れ渡っている。
加えて、帝国一の技術者であるシュミットの突然の赴任。
そこにサラの発言である。
Ⅶ組の面々はああ、彼かとエマを除いて心を一つにした。
関連付けるな、というほうが無理である。
エリオットやガイウスをはじめとする中立の面々は、ここまで来ると変なやつを超えて実はすごい人なのでは? と思い直していた。
無関心だったユーシスやフィーも、少し興味が出てきたのかリィンへの視線を投げる。
が、そこに割り込む一人の少年がいた。
「君! 旧校舎で何をしたんだ!」
「え? ああ……学院長から頼まれて旧校舎を探索していただけだぞ」
「嘘をつくな! だったらなんであんな騒ぎが起きている!」
「それは俺も知りたい。何があったかは言えないが、学院長から許可が出たら教えるよ」
突っかかるマキアスにリィンは特に嫌悪もなく応える。
むしろせっかく話しかけて来てくれたならチャンスでは? と内心で学院長からのアドバイスを思い出していた。
貴族への偏見を持つマキアスは、リィンを理解するつもりがない。
だが、そこにマキアスでも理解できる、せざるを得ない要素を持って接することである。
マキアスにも理解できる自分。
それを考えたリィンは、トリスタマラソンのさなかにマキアスがコーヒー好きであることを知って以来、こっそりと豆を挽いたりして練習を行っていた。
付け焼き刃ながら浅い知識も身につけた。
あとは切り出すタイミングだが、機銃のような勢いで喋り倒すマキアスになかなか口が挟めない。
どうしたものかと悩むリィンに、エマが大きく声を張って割り込んでくる。
「マキアスさん! あの……先日は私も同行していたんです。リィンさんが言っていることは本当なんです」
リィンだけでなく、クラス中がその行動に驚いた。
マキアスもぽかんと口を開けてエマを凝視していた。
エマは自分が注目されていることに気づいて顔を赤くしたが、ニ、三息をついてマキアスを落ち着かせるべく言葉を紡ぐ。
「詳しいことは言えませんが、昨日の騒ぎは突発的な事故だったんです。その……色々とリィンさんを疑う理由もわかりますし、100%彼が何もしていない、というわけでもありませんが……とにかく、根拠のない誹謗中傷はやめていただけると」
「あ、ああ…………すまなかった。少し頭に血が昇っていたようだ」
意外なほど素直にマキアスが謝罪する。
貴族、というものにどれだけのものが込められているかはわからないが、案外マキアスと仲良くなるのは簡単なのでは? とリィンはなんとなく思う。
(フフフ、息子よ。ならば友情のハグでもしてやればどうだ?)
(いきなりそんなことされたらむしろ拒絶の一方だろ……)
「でも、彼が呼ばれているのに一緒にいたエマが呼ばれないのはどうしてかしら?」
アリサのつぶやきに、リィンは確かにとマキアスへの接し方をいったん置いて考える。
シュミットという人物には詳しくないが、博士というからにはおそらくあの騎士人形の調査員なのだろう。
起動者候補である自分を呼ぶのはわかるが、同じはずのエマに声をかけないのは……
(フフフ、息子よ。百聞は一見にしかず。エマ嬢達が必要なら、博士に言えば済むことだ。ひとまず行って見て考えればいい)
そうだな、と心中で応えてリィンは一つ頷く。
せっかくクラスメイトが話題を出してくれているのだ、少しでも会話をしておこうとリィンは口を開く。
「実は、旧校舎探索の依頼はⅦ組全体へ出されていたんだ。下見に行った後にみんなを誘おうと思っていたから、ひょっとしたら今後呼ばれるかもしれないぞ?」
ほんの少しだけの希望を込めて、遠回しに一緒に旧校舎へ行こうと呼びかけたリィンへの反応は、沈黙する教室が示していた。
(フフフ、息子よ。会話の間合いは武術のようにはいかぬな)
「学院長、Ⅶ組のことリィンと同じような子ばかりって勘違いしなきゃいいけど……」
解せぬ。
*
「初めまして、リィン・シュバルツァーです」
「G・シュミットだ。貴様があれの乗り手か」
放課後、旧校舎ヴァリマール前にやってきたリィンは騎神の前で何やら機械をいじるシュミットを発見して挨拶を交わす。
自己紹介から用件に入るシュミットに目を丸くするリィンだが、すぐに頭を切り替えして答えた。
「あれというのは、騎神っていう騎士人形のことですか?」
「そうだ。未だ動く気配のないあれだ」
「動かして欲しいってことでしょうか? 残念ながらあれ、乗り方がわからないんです」
「それは聞いている。だが、あれは根本的な問題……動くための核がない状態だ」
「エネルギー切れってことでしょうか? 結構時間経ってるし、導力で動いてるならもう回復しても……」
「馬鹿者。あれは導力で動くものではない」
(フフフ、息子よ。あれはマナ……いわゆる霊子エネルギーで動くものだ。導力で動く人形は、また別のものだな。エマ嬢が言っていたであろう?)
一通り説明は聞いたが、その機構についてはあまり深く聞かなかったかも、とリィンは自省する。
すると目の前のシュミットが眉間に刻まれていたシワをさらに深くしてリィンに質問する。
「仮にもトールズ士官学院生なら答えられるはずだが、聞いておこう。導力とはなんだ?」
「え、っと。七曜石から生み出されるエネルギーのことで、最大の特徴は、時間が経てば回復するという点にあります」
「その辺りはもはや常識だな。では貴様らが使う戦術オーブメントの特徴も言ってみよ」
「戦術オーブメントの特徴は三つ。
一つ目に携帯性。
二つ目は所有者とシンクロし、魔法現象の展開プロセス構築を代行する共鳴現象。
三つ目は柔軟性。クォーツの組み合わせ次第で無限の可能性を発揮するというもの、です」
「ふむ、最低限の知識はあるようだな。話を戻すが、あの騎神はエネルギーがあっても動かない状態だ。人間にとっての心臓のように、注入されたエネルギーを全身へ巡らせる核が存在していない。貴様、それをどこへやった?」
「ど、どこへって言われましても……俺はあの騎神に何も触ってませんよ?」
リィンがしたことと言えば、オズぼんがやらかしたハッキングという不正行為によって現れた灰色ノチカラを取り込んだくらいで――
「まさか、あれが……?」
「ほう。やはり心当たりはあるようだな」
「一応は……ちょっと広い場所が必要なので少し下がります」
事情を話し、リィンはヴァリマールから十分な距離を取って下がる。
シュミットは手に携帯型の導力器を持っていたが、何かのエネルギーを観測するものらしい。
合図と同時に、リィンは灰のチカラを発現させる。
上半身だけながら五アージュに迫る竜のような巨大な灰のオーラは、リィンの鎧になるように彼を胸部へ包み込み、その姿を安定させていく。
リィンとオズぼんもまたここ数日、鬼の力の要領で灰のチカラの制御を行っていたが、なかなか上手くいっていない。
シュミットは灰のチカラを前にしても微塵も動揺することなく、計測器を片手にリィンと灰のチカラを交互に眺め、結論を語る。
「ふむ……思った通りだ。お前のその灰のチカラとやら、それは騎神の核と繋がっているようだな」
「え?」
(フフフ、息子よ。つまり、灰の騎神が現在エネルギー切れなのは、灰のチカラがそれに該当するから、ということかもしれんぞ)
オズぼんの補足を声に出して言ってみると、シュミットが片眉を上げる。
「ほう。察しは良いようだな」
「ははは……」
(フフフ、博士は無駄話が好きそうではないのでな。カンニングとは言うまい)
脳内でオズぼんに感謝するリィン
その間にもシュミットは説明を続ける。
「騎神には思考システム……疑似人格とも言うべきものが搭載されている。そんなものがある以上、エネルギー切れだというのなら、それを告げる音声データが残っているはずだ。だが、あの騎士人形はそれを発することがない。つまり、その思考システム……ヴァリマールを名乗る騎神の人格は、あの人形の中にはないと推測出来る」
「え、機械、なんですよねあれ? それなのに人格なんて……古いものですし、動作不良を起こした、とか?」
「作られたのが大崩壊時代であるならばそれも可能であろう。忌々しいがこれはある種の永久機関の上に自己修復機能を備えている。壊れても然るべき場所に置いておけば時間が経てば元に戻る」
「ある意味で導力みたいなものなんですね」
「然るべき場所、と言ったぞ。太陽光発電のように、限定される補給など、欠陥を残しておくのは問題だな」
一度言葉を区切ったシュミットは、ヴァリマールに人格があることの根拠を示す。
「現にこの計測器では、騎神が持つエネルギーと貴様のそれが同一であることを示している。加えて、エネルギーにはムラがある。それともバグというべきか。これは種類の異なるものが混じり合っていることが過去の結果から算出されている。データに波があるものか、と一笑に伏すところではあるが、実例がある以上は否定できん」
「この灰のチカラに、ムラ……? それはつまり――」
確かに、これを取り込む前に聞こえた声。
あれがプログラムによって作られた人格だというのなら。
心臓に吸収されたエネルギーの中にあの声が、ヴァリマールの人格があるというか?
たった数日で騎神のシステムをそこまで暴くシュミットに、リィンは尊敬の念を覚える。
だがシュミットはそんな視線は慣れているのか、構わず続けた。
「事前に戦術オーブメントの話をしたのは、お前にわかりやすくするためだ」
「あの、それがあの騎神と何の関係が?」
「お前の灰のチカラは見方を変えれば戦術オーブメントとも取れる。マスタークオーツでもない、騎神専用のデバイスとも言えるものを私が設計してやろう。上手くいけばアーツのように騎神を扱うことが出来るはずだ」
(携帯する騎神、ということだな。召喚と呼ぶべきか。どちらにせよ画期的なものであることに違いはない。機動者が居ても乗り込めない騎神を、まさに人形のように操るということだ)
「騎士人形使い、ってわけですか」
「その通り。当然様々な実験は付き物だろうが、授業の一貫で取り入れるので大量のデータが望めるだろう」
「博士が教員を受けた理由って……」
「私の手伝いを行えるのだ。むしろ近年で一番幸運な生徒と言えよう」
詳しく聞けば、急な授業スケジュールの変更が難しいため、しばらくは選択授業方式で放課後に実験を行うそうだ。
ちゃんと工学の授業も行うそうだが、騎神デバイスの実験がメインなのは間違いないだろう。
「貴様には当然参加してもらうぞ? それから共に騎神を見つけたという小娘どももな」
「うっ」
自分はともかく強制授業に参加することに三人にリィンは後で謝りに行こうと決める。
「しばらくは貴様がメインだ。それが嫌なら一刻も早く灰のチカラとやらを使いこなして、人格を起こすのだな」
「でも、本当にこの力の中に人格があるんでしょうか」
シュミットは目を細める。その威圧感は無言で私を疑うのかと言っているように見えたが、リィンからすれば突然過ぎて実感がない。
どう答えたものかとオズぼんに頼ろうとしたその時、灰のチカラに異変が起こった。
「ウム。まいすたーノ推測通リ、コノ力ニハ我ガ宿ッテイル」
「…………………………‥」
喋ったああああああああああああああああ!?!?
「ほう。すでに自我が目覚めていたとは話が早い。実用化も遠い話ではないな」
動じてない!?
(フフフ、息子よ)
親父!?
何を言えばいいか一つ頼む!
(ヴァリくんとは仲良くするように)
リィンは諦めを知り、全てを受け入れた。
そうして、リィンの中で共存する生物? が一体増えたのであった。
ヴァリマール
「……逃サン……オ主ダケハ……」
騎神召喚(遠隔)を先取りしていくスタイル。
閃Ⅳ、メイン終わりました。シリーズ集大成って感じですごく楽しかったです…
でもクリアしたからこそベリルの謎がさらに深まりました。
あの子マジ何者だよ…