はぐはぐオズぼんとの軌跡   作:鳩と飲むコーラ

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フフフ、息子よ。八月の特別実習だ④

「……以上がカイエン公からの伝言です。引き抜きこそしませんが、正規軍への武術指南や、今度行われる会合への参加などに対する立ち回りは気をつけたほうがよろしいかと」

「承った。だが、そなたほどの人物を寄越すとは、カイエン公はよほど忙しいようだな」

「ええ。本来ならば直接ここへ訪れるはずだったのですが、最近は色々と(・・・)あったようですからね」

 

 特別実習一日目の夜、アルゼイドの館、その食堂で一同は夕飯を囲んでいた。

 堂々と《貴族派》からの話題を話すオーレリアに、ユーシスやマキアスはしかめっ面を隠せない。

 

「この肉美味いな、何の肉だ?」

「それは猪肉だな。郷土料理というやつで滋養もたっぷりだ」

「脂が乗ってて最高。流れた血が作られてくみたいだよ」

「リィンさん、野菜も食べないとダメですよ?」

「今日は肉の気分だから。でもいただきます」

 

 そんな会話を耳に入れながらも、リィンは用意された食事に舌鼓を打っていた。

 大食漢というわけではないが、ヴィクターとの戦いで色々とエネルギーを使ったリィンは最低限の礼儀作法を残しながらも美味しそうに食事を摂っていた。

 隣では大人達が今後の帝国の未来に関わる重要な話をしているにも拘わらず、今日もリィンはマイペースだった。

 

(そうよエマ、美味しい食事を用意されてるんだから味わうのが礼儀ってものじゃない)

 

 薄切りの猪肉で野菜を包んで味わうリィンに同意するように、エマの隣で席を与えられたセリーヌも高級ミルクを堪能していた。

 そんなリィンの健啖ぶりにマキアスも呆れた様子だ。

 

「見ていて清々しいくらいの食べっぷりだな、物を食べることも才能だということを理解させられる」

「米が欲しくなる味だよ」

「クラウス」

「はい、お館様」

「あ、なんか催促しちゃったみたいですみません」

「構わんよ。そこまで美味しそうに食べるのなら、料理人達も冥利に尽きることだろう」

 

 リィンのつぶやきを聞き届け、ヴィクターは家令に用意させるよう目を向ける。

 もし息子が居ればこんなものだったのだろうか、などと昨日には微塵も思わなかったことを浮かべるヴィクター。

 そんなIFを考えながらリィンへ微笑を浮かべていると、ユーシスが何か言いたげな目を向けていることに気づく。

 

「どうかしたかね?」

「いえ……実家が迷惑をかけていることや、水面下での《貴族派》の行動を、こう直接聞くと思うことがありまして」

「この程度は貴族の間ではよくあることです、気にすることはありません。しかし、ルーファス卿も精力的に動いています。彼は《貴族派》としての行動より《帝国解放戦線》の補捉に対処しているようですが」

 

 尊大であるが、伯爵としての礼儀はわきまえておりユーシスには敬語を使うオーレリア。

 こういった割り切りも出来る女のイメージを固めるんだなと、リィンは口を動かしながら思う。

 

「そうなのか?」

「ええ。以前はまるでカイエン公の腹心とでも言わんばかりに接待をしていたものですが、ある日を境になりを潜めておりますね」

「ふむ……帝国を脅かす輩への対処としては間違っていないが、そつなく立ち回る彼の気質を考えれば少し異質にも思えるな」

「きっと報酬のためだからだと思います」

 

 ヴィクターの思案にエマが応える。

 その名にオーレリアが片眉をひそめた。

 

「ほう、気になる情報だな。詳しく説明を頼めるか、ミルスティン」

「えーっと、ユーシスさん……」

「構わん。隠していても、いつの間にか暴露されたことだろう」

 

 遠回りに口が軽いと言われた男は、クラウスが持ってきた白米に満面の笑みを浮かべていた。

 

「では改めて、七月のことなのですが――」

 

 許可を得たことで、エマは皇族が見守る中で交わされた契約について語る。

 アルバレア兄弟が金の騎神の起動者候補の試しを終え、《帝国解放戦線》の捕縛と引き換えにそれを譲ることも。

 補足として、騎神は七つあり現状で確認しているのは灰・紫・緋・金の四体であり、残る三体のうち一つは《帝国解放戦線》が所有していることも伝える。

 紫は《西風の旅団》がカイエン公の護衛をしていることから、少なくとも《貴族派》はニ体の騎神を所有しているという予測を立てていた。

 ちなみに金は旧校舎地下に厳重に保管されたままだが、そのうちエリンに運んだほうがいいのではという計画も立てられている。

 

「当初は、《帝国解放戦線》を支援していると思われるカイエン公への牽制のつもりだったのですが、何やら色々と予想外のことも起きているようで」

「帝都での宣戦布告だな? 前日にルーファス卿がTMPと連携し、帝都に潜んでいた解放戦線のメンバーの大半を捕まえたにも拘わらず、三ヶ所の襲撃が行われ皇族も危機に陥った……

 フフ、ルーファス卿の手が盤外から動かされたようだな」

「……結社《身喰らう蛇》、リィンが友になりたいという男が所属していると聞くが、そうすることで一網打尽を考えるわけか」

「いえ、リィンさんは純粋にその人と友達になろうとしているだけのようです」

「そ、そうか」

 

 ふっ、とエマが遠い目をしたことで、さしものヴィクターも追及をすることが出来なかった。

 

「伝説の騎神……そんなものがあるのなら、是非とも見たかったものだ」

「ルグィン伯が、ですか?」

「おや、意外だったかなラウラ嬢」

「貴女はあくまで己自身の武を極めようとしていて、そういったものにはあまり興味がないのかと」

「何、かのドライケルス大帝が駆った物の兄弟機というではないか。となれば、槍の聖女の逸話に近づくなにかもあるやもしれん。

 それにラウラ嬢、武が一番ということに変わりないが、これでも色々と技術は身につけているぞ。興味があるのなら、今度化粧でも教えるが?」

「い、いえ。私はまだそういうのは……」

「オーレリアさんは槍の聖女が大好きなんですね」

 

 焦るラウラを庇うように、一通り食事を満喫したリィンが、コーヒーで胃を整えながらどこか意外そうな声を漏らす。

 オーレリアは自分がどんな目で見られているのかをよく知るため、苦笑を漏らしながら答えた。

 

「かの伝説とうたわれる戦乙女。歴史から紐解くしかない故、多少は事実を改竄(かいざん)させられているかもしれんが……その逸話を知れば知るほど、現代に生きていればぜひ競ってみたかったものだ」

「なら、当時のことに詳しい人を知ってますので、今度聞いておきますよ」

「ほう、歴史学者に知り合いでもいたか?」

「まあ、ある意味で歴史の生き字引みたいな人です」

「リィンさん、まさかおばあちゃんのことですか?」

「ああ。ローゼリアさんなら当時の詳しいことも色々教えてくれるんじゃないか?」

「それはそうかもしれませんが……」

「それは重畳。機会があれば案内を頼む」

「ローゼリアさん次第ですけど、多分許可はもらえると思いますから今度聞いておきます」

 

 エマは仮にも隠れ里である実家に、また一人客が増えるのかとなんとも言えず目を細めた。

 数年も経てば、隠れ里から隠れが取れるのも時間の問題なのではという不安を隠せない。主に己が導く起動者のせいで。

 

(フフフ、息子よ。ローエングリン城は騎神の試しの地だ。すでに空っぽ(・・・・・・)だろうが、一度見に行ってみてはどうだ?)

(そうなのか。ローゼリアさんなら知ってるかもしれないけど……確かに、興味はあるかもな。エマ解析出来そうか?)

(すでに空っぽ……?)

 

 だが、エマはオズぼんの言葉に思案しておりすぐに返事が出来なかった。

 エマ? と直接声に出すことで、慌てて思考の海から這い上がる。

 

(すみません。騎神の試しを行う儀式は同一とは思いますが、私もあの古城は気になっていましたからね。直接見たいとは思います)

(よし、なら決まりだな)

 

 リィンは自然と、ローエングリン城の話題を口にする。

 

「そう言えば、レグラムにあるローエングリン城はもともと槍の聖女の城なんでしたっけ」

「うむ。古今東西の英雄達が集ったという。私もレグラムへ来たときは、願掛けに顔を出すことも多い」

「それは気になりますね。ヴィクターさん、古城へ行く要請とかってありますか?」

「要請はあくまでトヴァル殿の担当だからわからんよ。だが、興味があるのなら鍵を渡しておくから、時間があれば行ってみるといい」

「ありがとうございます! オーレリアさん、滞在はいつまでですか? せっかくなら、自由時間が合えば一緒に行きませんか?」

「ほう、女の誘い方も学んでいるようだな。だがあいにくと、この後すぐに戻らねばならん。時間をかけては、ただでさえ余裕のないカイエン公からの不興を買ってしまうのでな。

 私だけなら構わんが、これでも伯爵家当主なので家の者まで巻き込むわけにはいかん。悪いなシュバルツァー」

(断られたといえ、《黄金の羅刹》を流れるように誘うとは……)

 

 下心のなさが良いほうに作用しているといえ、下手な男ならば気後れするしかない上に真っ二つに断られる女傑を前に自然体でいるリィンに、ユーシスは戦慄を覚えた。

 あるいは、揺れすぎる自分が抱く羨望か。

 その後、夕飯を済ませたオーレリアがラマール州に戻ることになり、せっかくならとA班が全員揃って見送ることとなった。

 オーレリアはマクバーンとの対決のさいには声をかけてくれ、と武人的に見惚れる笑みと共に颯爽と去っていく。

 夜も深まる頃、入浴して身を清めた後に寝室とは別の部屋に集まったA班が本日のレポートを制作する中、リィンがふと思ったことをマキアスに聞く。

 

「そう言えばマキアスはオーレリアさんには反応しなかったな。年上の美人だぞ?」

「い、いや。確かにその通りなのだが、なんだか気後れしてしまってな……」

 

 突然の話題に声を詰まらせて手に持った鉛筆を乱しながらも、オーレリアが居る時に言われなくて良かったと安堵するマキアスだった。

 

「あー、なんかわかる。劣等感とは違うんだけど、揺るぎない自負って言うのか? ああいう佇まいをされると、自分が小さく見えるってやつだな」

「リィン、そなたは自分が小さく見えることがあるのか?」

「今日まさにヴィクターさんにコテンパンにのされて、小さく思ってるよ」

「比較対象がおかしいだけのような気もするが、それでこそリィンという気もするな」

 

 時に雑談を交えながらもレポートを完成させ、後は寝るだけとなったA班。

 エマとラウラが女子の寝室に戻り、リィン達も与えられた男子用の寝室でベッドに入ろうとする前に、マキアスがユーシスに言った。

 

「ユーシス、夕飯以降から眉間のシワが全然取れてないぞ。今ここで気にしたってどうしようもないだろう」

「まさか、貴様に言われるとはな……」

 

 自嘲するような笑みを浮かべるユーシス。

 リィンは食事に夢中ながらも、レグラムとアルバレアの話題については耳にしていたのでその指摘に納得するように頷く。

 

「こればかりは止められんのだ。未だ未熟な公爵家の次男として、貴族の高潔さを考えるとどうしても、な」

「頼れるルーファスさんは最近、自分のことで忙しいからな」

「……兄上が、ああも『我』を出すことなど、俺は見たことがない」

 

 つい、ユーシスは口にこそしないが気心の知れたⅦ組メンバーだからこそ、己が調べた様々を言葉にする。

 ルーファスは幼少期から才覚を発揮していたが、それは表面だけの情報。彼自身を深く知ろうとすればするほど、執事達の口が固くなっていくということも。

 それらを聞いたリィンは、逡巡することなく告げる。

 

「明らかに何か爆弾抱えてます、としか言えないんだが」

「貴様……」

「いや、僕も同意見だ。普通、人が生きて誰かと接している限りその人柄も自然と認識されていくものだが、君の兄上はどこか機械じみた……少なくとも、人前では定めた行動しかしない、というように伺える」

 

 いつの間にかユーシスからの情報をメモに取り、それらを眺めていたマキアスが言う。

 軽いプロファイリング、というのは簡単だが、口頭の情報だけでそれらを推測したマキアスにオズぼんが感心した。

 

(ほう、マキアス君は将来警察や監察官といった、物証集めなどの適正が高いのかもしれんな)

(そうなのか?)

(ああ。ミュゼ嬢という前例を見ているお前には分かり辛いかもしれんが、これも確かな才能だ。どれ、テオからの印象も少し伝えてやるといい)

 

 そこでリィンは、オズぼんからテオ・シュバルツァーがルーファスに鷹狩りを教えたことがあり、そこでつまらなそうな表情をしていたことがある、と教える。

 ユーシスはルーファスが人前でそんな表情を出すのか、と驚きマキアスはさらなる情報をノートに羅列していく。

 オズぼんからの情報もあり、ルーファス・アルバレアを暴くような捜査とも言える話し合いと化した寝室。

 そろそろ日付変更が迫ると思われた頃、突然リィンの脳内に言葉が響いた。

 

(ねえ、まだ起きてる?)

(っと、セリーヌか。どうしたいきなり)

 

 突然の念話に驚き、何事かとリィンを見るユーシス達になんでもないと言いながら、ノートに目を向ける仕草のままセリーヌに応える。

 

(アンタ達が夕飯の時に話していたローエングリン城なんだけど、ちょっと様子がおかしいのよ。窓から見えない?)

(わかった、ちょっと待ってくれ)

 

 少し空気を吸ってくる、とリィンはベランダへ出る。

 そこから鬼の力を目に集め、霧を超えた先にあるはずの城を灼眼で見据える。

 すると、古城全体が輝くようにうっすらとした光が放たれていることに気づいた。

 

(なんだあれ……)

(試しの地って話だけど、それはつまり霊力の集まる場所でもある。アンタの鬼の力に感化されて、刺激を受けた結果かもしれないわね)

 

 鬼の力による霊脈の刺激は特異点でも実感したが、まさかここでも起こるとは。

 リィンは自分のせいで古き英雄の城がまずいのか、と判断しセリーヌに返答する。

 

(ありがとうセリーヌ、ちょっと様子を見てくる)

(え? いや私が言いたかったのはそうじゃなく)

 

 夜も遅いしセリーヌを巻き込むわけにもいかない、と言い残してリィンは念話を切る。

 ノートと睨めっこしている二人に、ちょっと出かけてくると言って去ろうとするが、その動きをマキアスが止めた。

 

「待て、こんな夜更けにどこへ行こうとしている。君が夜中に出かけると何かしら問題しか起こさないんだから、ここに留まっていてくれ」

「そうだな。四月や七月でも無事に夜を過ごした試しがないぞ」

「ちなみに五月も夜に色々あったそうだし、六月も騒ぎが起きた」

 

 そして八月の今日である。

 もはや夜中にリィンが出かける=何か起こると確信している二人だった。

 

「いや、ローエングリン城がな? ちょっと何か起きてるみたいなんだ」

「なんだと?」

 

 ユーシスが怪訝そうな声を出しながら、先程のリィンと同じくベランダへ出る。

 マキアスもそれに続き、霧の中に佇むローエングリン城を見るがなかなかそれを見ることが出来ないでいた。

 

「見えづらいが、君が言うのならそうなんだろう。だが! 一人で行くのはやめるんだ。僕も付いていく」

「マキアス?」

「どうせ何か問題が起きたら、エマ君がその尻ぬぐいをするんだろう? 僕はミスティさんから直々に頼まれたんだ、彼女に苦労をかけるわけにはいかない」

 

 何のことだ、とリィンは首を傾げる。

 ちなみにその回のアーベントタイムは、塩の杭の残留物やミリアム編入、スパイ捜査にルーファスへの騎神案内など、イベント目白押しでたまたま聞き忘れていたリィンだった。

 よくわからないが、一緒に行くというなら拒む理由もない。リィンはそれに応じようとするが、そこにユーシスが割り込んだ。

 

「……俺も行こう」

「ユーシス?」

「お前達だけを行かせて、俺だけがぐっすり眠るわけにもいくまい」

「そこまで責任感じる必要もないと思うぞ?」

「…………少し、気分転換もしたいだけだ」

「そっか。なら、男の深夜訪問といこうか」

 

 三人で向かうことになり、それぞれ武器や道具の準備を整える。

 ちなみにヴィクターに折られた鞘は、オズぼんが保管しておいたストックの一つを使うことで、今もゼムリアストーンの刃を納めている。

 

「だが、こんな時間ではボートを出してくれるか……」

「大丈夫、もう鍵はもらってるし城まではこれで行く」

 

 そう言って、リィンは手を掲げた。

 

「静かに来い、ヴァリマール」

「ォゥ」

 

 その呼びかけに応え、灰の騎神が音もなく出現する。

 カメレオンオーブによる光学迷彩も機能したそれは、ユーシスとマキアスの目には見えないがリィンにはしっかりヴァリマールの姿を捉えていた。

 

「よし、それじゃあ行くぞ」

「んなっ」

 

 リィンが言うと、ヴァリマールの機能により三人は同時に機体の中に転移する。

 操縦席にはリィンが座り、その両横にユーシス達が収まるが突然の転移に二人はバランスを崩して転びかけた。

 

「な、なんだぁ!?」

「ヴァリマールの中だよ。これでひとっ飛びだ」

 

 霊力による推進で、従来に比べれば遅いが導力ボートをゆうに超える速度で一気にローエングリン城へ向かう三人。

 急制動により、操縦席にしがみつくユーシスとマキアスはメインカメラから霧をかいくぐって高速移動する物体の中にいるという実感をようやく得た。

 

「こ、これが騎神……」

「なんという速度……」

「いや、全然遅いからなこれ。夜中だから音立てずに移動してるだけだし」

「……そうだったな、お前は客観的な視点が欠けるやつだった」

「いや、説明するより実際に体感させたほうがいいだろう?」

「……エマ君もこういったところに影響を受けてるんだよな」

 

 なぜか神妙な顔の二人に首を傾げるリィンをよそに、ヴァリマールは無事にローエングリン城へ到着する。

 夜だからこそ一層美しく輝く古城を前に、ユーシスは呆然とそれを見る。

 

「救国の聖女が本拠地とし、歴戦の勇士達が集まったという古城……この外観のみならず、レグラムを彷彿とさせる幻想的な光景はまさに伝説といったところか」

「な、なんでうっすらと青白く光ってるんだ?」

「わからん。その理由を知るために、こうして来たわけだからな。ヴァリマール、マナの異常は感じられるか?」

「最上階ガ怪シイナ。ソコニ霊力ガ集マッテイル」

「なら、最上階だな」

「鍵なんてなかった」

 

 マキアスが不法侵入に顔をしかめながらも、リィンがヴァリマールを操縦し、最上階に飛び上がり転移で降り立つ三人。

 窓から侵入したリィン達の目に、巨大な宝珠が台座に設置されていることに気づく。

 美しい球体の中には蒼い焔のようなものが揺らめいており、ヴァリマールはそこから霊力が渦巻いていることを言う。

 

「にしても大きいな……アガートラムくらいないか?」

「美術品、というわけではないだろう。おそらく、子爵閣下やラウラすらもわからないのではないか?」

「エマ君なら何かわかるかもしれん。魔女というなら、そういった知識も持っているだろうし」

 

 ヴァリマールに搭載されたEXオーブよりも遥かに大きいことから、騎神の装備というわけでもなさそうだ。

 

「何にせよ、あれが異変の原因みたいだな。エマを起こすわけにもいかないし、ひとまず回収で無理そうなら破壊――」

 

 リィンが再びヴァリマールを呼ぼうとした瞬間、宝珠から光が溢れた。

 衝撃と風を伴って走る霊力の奔流が収まると、そこにはどこか司祭を想起させる服装に身を包んだ巨大な骸骨が佇んでいた。

 

「魔獣か!?」

不死の王(ノスフェラトゥ)だな。かつて、アルバレアの始祖である兄弟が打倒したという伝説の魔物だ)

 

 オズぼんからの補足に、リィンは以前ローゼリアとの雑談の中で聞いた話を思い出す。

 帝国各地で伝えられる、錫杖を持った青白い骸骨の姿で現れ、居合わせた者の命を奪い去るという。

 その来歴は定かではなく、死神と同一視するとも聞いた。

 不死の王は、その名に応じるように次々と仲間、部下を呼び出していく。

 

「何だ、あれは」

「アルバレアの始祖兄弟が討伐したっていう魔物みたいだ。案外、ユーシスに反応したのかもしれないな」

「何だと……アルバレアが?」

「検証は後だ、来るぞ!」

 

 周囲を囲う魔物、シャドウスピリッツの群れに囲まれながら三人それぞれ武器を抜き放つ。

 だがここで、シャドウスピリッツの群れに異変が生じる。

 彼らは一体を基点にするように次々と集合していき、まるで吸収するようにその姿を大きく膨らませていく。

 群体とも言える巨大な魔物となったシャドウスピリッツが、同じように集まった動く剣の群れが一本とかした群剣が展開される。

 

「やばっ……」

 

 リィンは咄嗟に鬼の力を解放する。

 同時に群体達がリィンへ目を向ける。

 命を奪う相手なら、当然『活き』のいい相手を狙うと思ったリィンの推測は当たり、三人の中で最も生命力に溢れたリィンを狙い群体達が殺到する。

 

「ユーシス、マキアス! こいつらは俺がなんとかするから、不死の王を頼む!」

「わ、わかった!」

 

 ゼムリアストーンの太刀が群体を切り裂くも、すぐに召喚され直した別の魔物が取り込まれ異様なまでの再生力を発揮していく。

 同時に鬼の力によって刺激された霊力が溢れ、無尽蔵とも言える数が呼び出されていった。

 すぐに鬼の力を止めて供給を防ぐが、数が減ったわけではない。

 

(ヴァリマール、乱入出来るか?)

(イヤ、何カ結界ノヨウナモノガ作用シテイル。強引ニ破ルコトモ出来ナクハナイガ城ガ崩レテ、オ主達ノ身ノ安全ガ保証デキヌ。何ヨリ、賠償金ガ払エヌゾ)

 

 それは困る。切実に。

 

(フフフ、息子よ。加えて鬼の力も控えるといい。全員がお前に向かってくるといえ、再召喚のさいに漏れてユーシス君達のほうへ行く可能性がなくもないからな)

(素の力で倒せってことか。時間がかかりそうだな)

 

 それでも倒せないことはない。ならば、リィンに出来ることは一秒でも速く殲滅させることだった。

 

『ARCUS、駆動!』

 

 一方、ユーシスとマキアスの間に結ばれる戦術リンク。

 突発的な遭遇、リィンを頼れない戦場で二人は不死の王と対峙する。




ローエングリン城の宝珠、結局どこかで明かされましたっけね…
アルグレオンを得た場所であることは明かされましたが、結局あれは一体。
クロスベルの鐘と連動にしては時期が違いますし、エマが取り込まれるって言ってる以上は騎神関連のことだとは思いますが。

異界化ってことですし、不死の王と合わせて悪魔関連のものと合わさっていたのかもしれませんね。

それ以上に、アリアンはなぜあの時あの場所に…と思ってましたが、Ⅳの後だと息子(仮)を見に来たんですか聖女様と思わなくもなかったり。
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