不死の王が振りかぶった錫杖に対し、マキアスが導力散弾銃を打ち込む。
牽制と同時に攻撃を阻害させるための散弾は錫杖を引かせ、その隙を狙いユーシスの鋭い連続突きが打ち込まれる。
手応えは十分、しかしさすがに一撃で倒せるわけもなく、小癪な餌を貪らんと不死の王が吠える。
だが呼び出した部下はまるで吸い寄せられるように群体へ向かうが、リィンにとって容易く斬られる藁人形のように屠られていく。
決めつけは出来ないが、それでも数を増やされる心配はなさそうだとマキアスは判断する。
「まったく、呆れるくらいに頼もしい!」
「同時に、敵に回すと厄介過ぎるがな!」
不死の王が部下を呼び出す隙を狙い、ユーシスが宮廷剣術を繰り出すことで、その硬直が僅かに遅延される。
「時の結界よ、砕けろ!」
それを狙い、マキアスがユーシスの敏捷性を底上げする。
加速された世界の中、ユーシスが導力魔法を使い不死の王を氷漬けにした。
「機を逃すな、一斉にかかれ!」
「言われなくとも!」
宣誓される号令に、負けん気を刺激されたマキアスの士気が上がる。
動けない不死の王の周囲を回るように走りながら、チェスのナイト・ルーク・ビショップを象る導力の力場を作り上げる。
同時にユーシスはアーツによる魔法陣を生成し、それを己の剣に宿す。
「これで終わりだ!」
魔法剣とも言うべき一撃を振るうと、マキアスが作り上げた三角形の力場にさらなる円形が覆う。
「もういっちょ!」
チェスのルールに則るように、二つずつあるナイト・ルーク・ビショップの力場を重ねるマキアス。
力場が重なり、六芒星を浮かべる魔法陣がここに作られる。
「クリスタル!」
「トリニティ!」
リィンの緋空連斬に倣うような交差させた斬撃とマキアスの導力散弾銃が放たれ、掛け合わされた
老人が生に未練を残し、執着するような金切り声は鼓膜を超えて脳に直接響かせるような振動を起こす。
思わず足を止めてしまう二人。
それが、逆に致命的な隙となる。
るぅぅぅぅぅぅぅぅおおおぉぉぉぉおぉぉぉぉ!!
言葉にならない声が再び叫ばれると同時に、ユーシスとマキアスの足元から蒼い焔が噴出する。
それは体以上に、二人の精神を焼いていった。
――妾として大事にすると言った!
貴族の婚約者となった、姉のように思っていた女性。
彼女は平民であり、貴族の相手として相応しくないとされ相手の家から様々な嫌がらせを受けていた。
それでもマキアスや父のカールに迷惑をかけないよう、ひたすら黙って耐えていた。
そんな決壊寸前の心を破壊したのは、他ならぬ愛したはずの男の言葉。
裏切られた彼女は失意の中に自殺を選び、幼いマキアスの心を傷つけ貴族への憎悪の種を宿らせた。
火傷の痛みよりもなお痛い、幻肢痛のような心の疼き。
それでも負けるものかと耐えようとしたマキアスの視界の端で、ユーシスの姿を捉えた。
(キ……ゾ………………ク)
そう認識した瞬間、マキアスの視界は蒼い焔に包まれた。
――お前は好きにしろ。ただし、アルバレアの名に泥を塗らぬことだ……
側室とも言えぬ、平民の母から生まれた妾腹の息子。
そも、自分が貴族の子だということを知らず過ごした日々。
父がいないというのは悲しかったが、そういうものだと思えば切り替えられる程度にユーシスは聡かった。
だが、母が亡くなって以来、己の出自を知り公爵家となった。
戸惑いもあったが、それよりも嬉しさがあった。
母を亡くし、家族がいなくなったと思った自分に父が存在したのだから。
けれど、現実は想像よりも残酷で。
迎えられた公爵家で、その華やかさとは裏腹にどこまでも冷たい空気がユーシスの心を包んだ。
それでも兄という救いがあったはずなのに、今まで見ていた家族は幻影のように儚げで。
今更こんなもの、と吠えるユーシスは、こちらに導力散弾銃を向けるマキアスの様子が見えた。
(なっ……!)
口を開こうとするが、言葉が出ない。
その理由は、すぐにわかった。
視界が、高い。
まるで空を浮いているように見下ろす視界はまるで、不死の王の姿のようで――ユーシスは、マキアスに伸ばそうとした手が動かず、代わりにあるはずの右腕が骨になっていることに気づいた。
(取り込まれている……!?)
そう、不死の王は二人への攻撃で怯んだ隙にユーシスを取り込んだのだ。
ユーシスは苦痛と共に、力が抜かれていく感覚に陥る。
抗おうにも、その気力を根こそぎ奪われる。加えて、先程己の身を焼いた蒼い焔が全身を這う感覚が湧き上がる。
ただでさえ気力の減る体に肉体的な追い打ちをかけられたユーシスは、徐々に目蓋が閉じていくことを感じた。
「…………ぅ…………ぁ…………」
けれど苦痛を発する声すら奪われ、ユーシスの意識は朦朧としていく。
それでも倒れないのは意地か挟持か。
だが、現実はやはり残酷で。
容赦なく不死の王の責め苦はユーシスを蝕んだ。
「ユーシス!」
リィンの声が遠く聞こえる。
群体ごと切り裂くような赤い焔の刃が放たれるが、群体は身を呈してその威力を殺していく。不死の王へ到達する頃には、ほとんどの力が相殺されていた。
そして、リィンのその一手が届かないことでユーシスの視界は闇に閉じられる。
同時に、マキアスの導力散弾銃の引き金が引かれた。
ばら撒かれ、己に向かう散弾をユーシスは他人事のように受け入れ――
「させません!」
突如、目の前に覆われた光の壁が視界を白く塗りつぶした。
「おおおおおおおお!」
光の壁が散弾を弾き返すと同時に、裂帛の気合が込められた叫び声が部屋を震わせる。
瞬間、ユーシスは己の体――不死の王を食い破る獅子の牙を見た。
「無事か、ユーシス!」
ぐい、っと強引に引き上げられる体。
何が起きているのかを認識するより早く、口の中に何かを押し込まれる。
されるがままにそれを飲み込むと、失われた生命力と活力が胸の奥から湧き上がり視界がクリアになる。
そうしてようやく、ユーシスはラウラにその身を抱えられていることに気づいた。
「ら、らうら?」
「うん。間一髪だったな」
「マキアスさんも無事のようです」
見れば、セリーヌの猫パンチを受けて気付けをされたマキアスが呆然とユーシスを見ている。
そしてすぐに頭を下げた。
「すまない、僕はお前を……」
「……まだ終わっていない。後にしろ」
「な、何」
腹を食い破られた不死の王が、凄絶な怒りの目を向けてくる。
骸骨の顔からは空虚な穴しか見えないが、そこに明確な憎悪を向けていることは理解した。
「まったく、寝起きの運動にしてはやや過剰だな」
「すみません、ラウラさん」
「いや、説教は後でまとめてするとしよう」
どういう理由かわからないが、ラウラ達はユーシス達を追いかけて来てくれたようだ。
エマはかつて、Ⅶ組に転移術を見せたことがあるため、追いついた理由は言わずともわかった。
だが、ラウラが構えた大剣の前にユーシスとマキアスの手が差し込まれる。
「助けてもらった手前言いづらいのだが、ここは控えてくれないか?」
「何?」
「僕からも頼む。都合の良い話かもしれないがあいつは、僕の……
戦術リンクは解除されていたが、それでもユーシスはマキアスの言葉に同意する。
あの蒼い焔によって見た過去の幻視、悪夢とも言うべきそれを見せつけて同士討ちを狙わせた相手に黙っているわけにいかなかったのだ。
身勝手な男の理屈に対し、ラウラはやれやれと剣を下ろす。
「危なくなったら強引に乱入する」
「ラウラさん、良いんですか?」
「いい。こういう手合いは門下生達の間でもよく見た。男というものは、私達女にはたまに理解できない考えで動くからな」
「まあ、よくわかります」
エマが向ける視線の先は、リィンが群体剣を微塵切りに消滅させ、残る群体へ太刀を向けているところだった。
即座にユーシス達を助けようとしたリィンだったが、ラウラ達が割り込んだ時点でこちらに全てを任せている。
信頼と言えば聞こえはいいが、それでもエマはため息をつかずにはいられない。
任せてもらえたと判断したことで、再びユーシスとマキアスの間に戦術リンクが結ばれる。
ラウラの獅子洸翔斬を受けた不死の王は視線こそ活発だが、体をまともに動かすことが出来ないでいる。
チャンスは、今しかなかった。
「それで、勝算はあるのか? 言ってはあれだが、あの連携技で倒せなかった以上、リィンやラウラ君より攻撃力が劣る僕達では……」
「……手段はある。が、俺に出来るか……」
「どういうことだ?」
「リィンはこいつがかつてアルバレアの始祖兄弟が討ち滅ぼした相手だと言った。その時倒した兄弟剣がアルバレアには伝わっているのだが……兄上がいない今、俺に出来るだろうか……」
「何を言うんだユーシス・アルバレア。勝算があるんだろう? 言え、手伝ってやるから」
「何を……」
「お前は嘘を言わない。それだけで、十分だ」
「……………フン」
無言で剣を構えるユーシス。
その心はわからないが、マキアスも同じく無言で必要な行動を取った。
ARCUSの恩恵が、戦術以上に二人へ力を与えていた。
「眩き光よ、我が剣に力を!」
「受け取れ、ユーシス!」
ユーシスの剣に導力が集う。
加えて、マキアスが作り出したチェスのコマを象る導力の力場の力も加わった。
だが、足りない。
これでは先程の繰り返し。ダメージはあってもトドメには至らない。
故に、ユーシスはイメージする。
聖剣エルヴァース。
かつてアルバレア兄弟が不死の王を討伐した時に使用していた兄弟剣の片割れ。
聖剣イシュナードを持つルーファスはここにいない。
兄弟剣の真の力が発揮される条件をクリア出来ずに、果たして目の前の存在を打ち倒せるのか。
その不安を、マキアスが晴らす。
「血の繋がりがない兄弟だっている! 今この時、僕を……僕達をそう思え!」
放たれるのは、散弾銃を構成する導力エネルギー。
先ほどが流麗な連続であるのなら、今回は重厚な合体。
ユーシスが剣を撫でるように指を這わせる。そこから生まれ変わるように、剣が変身していった。
父を同じくしても、母の違う兄弟であるルーファスではなく、同じく血の繋がりのないマキアス……そして、ARCUSを介して今も傍らで戦うリィン、二人を見守るエマとラウラから受け取ったエネルギーによってそれは誕生する。
「アイオロス……セイバー!」
聖剣エルヴァースを模倣した導力剣は、引き寄せられるように不死の王の胸元へ放たれる。
不死の王は迫りくるそれが、己への滅びをもたらすものだと理解し、蒼い焔を再び噴出させ壁のように並べていく。
だが、聖剣はそれを容易く貫いた。
触れた瞬間に弾けて吹き飛んだ蒼い焔を超えた先で、エルヴァースが炸裂する。
不死の王は金切り声を上げる間もなくその光に包まれ――やがて、エルヴァースが生み出した爆発の中へと消えていった。
*
「ほら、よっと」
終ノ太刀・暁による七閃の斬撃により群体を滅ぼしたリィンは、太刀を収めながら倒れる二人に寄ってその肩に手を回す。
練武場の時と違い、今度はリィンが二人に手を貸す番だった。
「僕達があんなに苦労したというのに、リィンはまるで平気だな」
「……まったく、ここまで差があると笑うしかない」
「ラウラ達が来なかった時は焦ったけど、どうにかなって良かったよ」
「それですがリィンさん、お話があります」
「うげ、それは館に帰ってからにしないか?」
「むむむ」
エマとしては今すぐにでも説教したかったが、リィンが抱えた二人の疲労を見て口をつぐむ。
そんな彼女に、特にマキアスは申し訳ない気持ちで一杯だった。
「でもなんでラウラ達がここに?」
「セリーヌが知らせてくれたんですよ。リィンさん達がローエングリン城へ勝手に出かけた、って」
「それで急遽転移でここにな。視界が切り替わった瞬間に、ユーシスがピンチだったのは驚いたが、なんとかなって良かった」
「礼を言う……」
「けど、まさかマキアスがねー」
頭を下げるユーシスをよそに、リィンが口元を緩めながらマキアスを見る。
「な、何だリィン。その目は」
「いや、ユーシスのことを兄弟のように思ってたなんて思わなくてさ」
「あ……い、いやそれは、言葉のあやというやつで……」
「良いではないか。我らの繋がりがただのクラスメイトでなく、血の繋がりがなくとも結ばれた義兄弟というのも。面映いが……悪くない」
噛みしめるようなラウラ。
対するエマは目を細め、口元をもごもごとさせている。
セリーヌはそれを、嬉しいけど素直に喜べない、微妙な気持ちの現れなのだと察した。
「じゃあユーシス、これからは俺のことを兄上と呼んでいいぞ」
「謹んで断る。俺の兄上はこの世で一人だけだ」
「どちらかと言えばリィンさんって弟では……」
「いやいや、年齢的には上だし? もう十八だし?」
「そうやって年齢を前面に出すところが、弟っぽいぞ」
「なんだとー?」
「ではユーシス、私は姉上でいいぞ」
「乗るなラウラ、寝ぼけているのか」
「うん、寝起きだからな」
夜中で戦闘の後だというのに、騒がしいものだとユーシスはため息をつく。
(まったくこいつらは……だが、悪くない)
しかし、家族を求めていた少年は、貴族以外の兄弟が生まれた事実に笑い、その心地良い疲れに身を委ね、やがて静かに寝息を立てていく。
その寝顔は、普段の凛とした表情からどこかあどけなさすら感じるような、幼子のようなものに映っていた。
このためのマキアス。
原作通りメンバーがガイウスの場合、ノルドメンタルによる包容力も依存にも似た甘えとなり、リィンは自分ともはや別存在の視点だしで、一番言葉への実感を与えられるのがマキアスだと思うんですよね。何度も衝突してますし。
エリオットは問題なく受け入れてくれそうで、物語的にはやはりある程度凸凹コンビのほうが映えますよね…