施しの英雄   作:◯のような赤子
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あらすじにもあるとおり、カルナとインドラの会話が見たいが為に書いたものです

しばらくイッセー達は出て来ません


新たな叙事詩はここに幕開く

インド神話において、『施しの英雄』と呼ばれた無欲な大英雄がいた。

 

 

母親であるクンティーが後の夫である弓の名手、クル王パーンドゥは呪いにより子作りをすることが出来なかった。しかしクンティーは彼と結婚する以前、リシのドゥルヴァーサより、任意の神を父親とした子を産む真言(マントラ)を授かっていた。

 

パーンドゥは彼女が神々と交わることを了承し、彼女は3柱の神と交わり子を成した。更に二人目の妻マードリーもアシュヴィン双神との間に二人の子を成し、これが後にパーンタヴァ五兄弟と呼ばれ、クル族は更なる発展を約束された。

 

 

では、彼の大英雄はどうか?

 

まず彼の話をするには少し、時間を戻す必要がある。

 

クンティーはパーンドゥに一つだけ、胸の内に秘めた事があった。それは彼と結婚し、子を授かる以前に一度だけ、神を呼び出しその神と子を成したこと。

 

まだ好奇心の塊であった生娘の時、その真言(マントラ)を唱えてしまったのだ。呼び出された神は太陽神・スーリヤ。神々の王と称されるインドラ、今では帝釈天と名を変えた最強の武神と並び称される途方もない神格の持ち主を。

 

 

好奇心が冷め、彼女は恐れた。未婚の女性が子を宿すなど、醜聞極まると。

 

故に彼女はスーリヤに求めた。「神の血を引く証を、そして初めて宿したこの命に貴方と同じ黄金の鎧を」と。

 

スーリヤはその愛情に感激し、生まれる赤子に己の子である証である黄金の鎧と耳輪(ピアス)を与え、神界へと戻って行った。この女ならば、我が子を大切にするだろう――そう思って。

 

しかし…クンティーはその期待を裏切り、醜聞を恐れ生まれた赤子を箱に入れ、川へと流してしまう。

 

その後、その赤子は御者である老夫婦に拾われ、生まれつき耳飾りを付けていたことから“カルナ”(“耳”の意味)と呼ばれることとなる。

 

これらはクンティーがパーンドゥに嫁ぐ前の話であり、つまり後に敵対し、最大の好敵手となるパーンタヴァ五兄弟、その中でもインドラとの間に産まれ、『授かりの英雄』と呼ばれたアルジュナとは異父兄弟であり、カルナはパーンダヴァの長兄であることを意味する。

 

 

彼、カルナは成長していくと共に己の中に流れる彼の太陽神、自分の父がスーリヤであると理解し、同時に母に感謝した。

 

 

“――母は殺すこともできた己を殺さず、川へ流してくれた。更に父スーリヤに懇願し、これほど立派な鎧を授けてくれたのだ。何と恵まれ、そして様々なものを授かっていることだろうか。

 

ならば…俺もこの恩を他者へ還元していこう。それこそが産んでくれた父と母に対する恩返しである――“と

 

 

遥か先、インドラこと帝釈天は今生において再び命を授かった(・・・・・・・・)彼にこう言った。

「まさかあの馬鹿野郎の息子が馬鹿を超える大馬鹿だったとは…」と。

 

それに対し、帝釈天が言う馬鹿から生まれた大馬鹿野郎はこう返した。

「俺もまさかあそこまで露骨に分かりやすい変装でこの鎧を寄こせと言う神だとは思わなかった。次はもっと上手く化けろ」と。

 

 

話を戻そう。彼は『施しの英雄』と呼ばれるようになるほど高潔な精神の持ち主でありながら、同時にマハーバーラタにおいて悲劇の英雄でもあった。

 

異父兄弟とはいえ、同じ母に生まれた肉親との殺し合い。その中でも最大の好敵手と定めたアルジュナとの決戦クルクシェートラの戦いの前日、父に捧げる正午の沐浴の際、バラモンに化けたインドラにその身を包む黄金の鎧を求められ、沐浴の際中求めを断ることのできないカルナはこれを了承。この事象と二つの呪いにより、カルナは戦いの最中命を落とすこととなる(なお、インドラの正体はこの時分かっており、このことを本人から聞いた帝釈天はひたすらバツの悪そうな顔しか出来なかったとか)

 

 

鎧と引き換えにインドラから必殺の一撃を一度だけ放つ槍を貰い、死後その身を父である太陽神・スーリヤと同化した彼だが、その生涯は決して楽ではなかったと言えよう。しかし彼は誰を恨むこともなく、その生涯を否定することも後悔することもなかった。

 

産んでくれた、授けてくれた。施すことしか知らぬ己が初めて勝ちたいと思える好敵手と槍と弓を交えることができた…満足だ。

 

 

しかし、その生涯に待ったをかけた者がいる。何を隠そう、父である太陽神・スーリヤだ。

 

彼はその身を晒すことも(まぁ、太陽として日々照らしてはいたのだが)語りかけることもなかったが、それでも息子であるカルナのことを思わぬ日はなかった。

 

それでも決して彼に語り掛けなかったのは、己が神であるという心情だ。何よりそう易々と地上を照らす太陽(自分)が地上に降りては世界が闇に包まれてしまうと。

 

クンティーが息子を捨てた時は激怒した。しかし殺すことなく川に流したので溜飲を下げた。

友を作ったことに安堵したが、何故あのように強欲の化身が如き男と友情を交わすのかと嘆いた。

…インドラの愚かさに殺意が沸いた。本来スーリヤとインドラは同格…つまりスーリヤの子であるカルナとインドラの子であるアルジュナと同じ好敵手同士なのだ。何度あの駄神の下へ我が子と同じ鎧を着て戦いを申し込もうとしたことか…それをしなかったのは――分かるからだ。

 

もし、あれが我が子可愛さではなく、ただ己の欲を満たすためだけであったならスーリヤは己の使命すら忘れ、カーリー神やシヴァ神ですら巻き込んだインド神話大決戦を開催しようとしたことだろう。しかし今回インドラが我が子から鎧を奪った理由が子供の為…同じ父として、また同じ神でありながら動かなかった自分と我が子の為に動いたインドラ(好敵手)――愚かと断じることもあるが、同時に嫉妬したのだ。

 

 

だからこそ、スーリヤは己と同化したカルナを切り離した(・・・・・)

もう一度、今度こそ我が子に幸せな…人としての生をちゃんと全うし、そして再び己の下へ戻ってくれば良いと(なお、これを知った帝釈天は「お前だけ何で息子生き返らせてんだア゛ァン゛!?俺様のガキもだったら生き返っていいだろうが!!」と激怒したとかなんとか)

 

 

憎いアンチクショウことインドラが奪った鎧を再び授け、しかしインドラがその高潔な在り方に感激し、与えた槍をそのままにスーリヤは同化した影響で眠り続ける我が子カルナを輪廻の輪へと解き放った。

 

 

だが…彼は幾つか、うっかり(・・・・)忘れていたことがあった。

古代、神々と人が近かった時代ならいざ知らず、しかし現代ではもはや神や神話、魔といったものは人とかなり離れてしまったのだと。

 

とあるこの世界において最大の信仰を誇る勢力が、その勢力内の争いにより信仰を一身に受ける唯一神。彼が敵対するルシファーをはじめとする4大魔王――彼等と共に、その戦乱のさなか関係あるかと言わんばかりに乱入してきた二匹のドラゴン。それらの封印と共に命を落としていたこと。その唯一神が置き土産として人々の為に“神器”(セイクリッド・ギア)を世界中にバラまいたこと。そのせいで、力ある人間の中には不幸な最後を迎え、更には悪魔等の一部の人外に良いように扱われていること。己の最大好敵手であるインドラが、自分とは違い今だ現世に関わりを持っている事(すでにスーリヤはこの世界に対し、これ以上関わりを持つ気は少なくともなかった。なお、カルナに関してはまた別なのだとか)

 

そして最後――己の息子があまりにも高潔に過ぎたこと。

 

太陽神・スーリヤは、何もカルナ(息子)を“カルナ”として転生させる気など毛頭なかった。

輪廻の輪に加わり、そこで別の人間として生を全うしてほしいだけだったのだ。前世において無欲であった息子に少しでも楽しみというものを知ってほしかった。

 

 

しかし…先程も言ったとおり、太陽神・スーリヤの子カルナは高潔に過ぎた。

 

輪廻の輪に知らない内に加わり、本来ならば他者として生を授かるはずであった『施しの英雄』。しかし英雄という生き物はかなり酷…と言うか濃い(・・)のだ。

 

「己が彼の大英雄ヘラクレスの生まれ変わりである」――と勘違い(・・・)した者が、ただそれだけで人外染みた力を発揮できるように『英雄』という生き物はその存在したという事実だけで、世界に大規模な干渉を成してしまう。

 

更にジャンヌ・ダルクのほんの少しの“残滓”を魂に受け継いだ少女はジャンヌに関係するように、その身に“聖剣”に関わる“神器”(セイクリッド・ギア)を宿した。

 

 

では…世界各国にある神話において、更に頭がブッ飛んだインド神話が誇る大英雄。その本人(・・)が転生した場合どうなるか…。

 

輪廻という、魂や在り方ですら洗い流す機構を用いてもその身に宿した最大神格(更にこのカルナは一度、父である太陽神・スーリヤと同化している)は落とすことができず、授けられた黄金の鎧、インドラの槍もまた同じ。

前世の行いをもって性別性格、更には顔の醜悪が決まるのだが、カルナの場合はカルナ以外に真似もできるワケもなく、結果カルナはそのままカルナとして生まれ変わることとなった。

後に三大勢力、その中でもいっとう頭がキレる堕天使総督ことアザゼルは今生において保護者(・・・)となった帝釈天にこう言った。「マジでインドいい加減にしろ」と。

 

 

 

こうして『施しの英雄』カルナは再び現世に蘇った。

その身にこの世界において最も価値ある“神器”(セイクリッド・ギア)。その中でも神すら殺しうると言われる“神滅具”(ロンギヌス)…すら超える正真正銘の“神殺しの槍”と“神殺しですら貫けぬ鎧”を携えて――。

 

 



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