施しの英雄    作:◯のような赤子

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教えてくれ、私はあと何度書き直せばいいんだ!?
今まで一話区切りでお送りしていましたが、いざ数話続くともう書き直しの連発よ!!(ボスケテ…)


それと前回、原作組が出ると約束したな?あれは嘘だ

これは所謂、コラテラルダメージというものに過ぎない。カルナさんの尊さを布教する為の、致し方無い犠牲だ。
(スミマセン文字数がエライ事になりそうだったんです…(汗)



英雄の来日―1

4年過ごした山を離れ数日後。カルナと帝釈天は一度、須弥山に寄り用事を済ませ、とある場所へと来ていた。

そこは長く平坦な道が続いており――端的に言えば滑走路だ。

 

ここは須弥山が民間会社に扮して所有している空港だ。聖書の悪魔と同じく、各神話もいざ人界に関わる際、お金が必要なことに変わりないらしい。

 

 

「本当にこんな鉄の塊が空を飛ぶのか?インドラ」

 

「ま、案ずるより産むが易しだ。それにこの空港にある旅客機には、俺様の他に天部の加護もある。何よりたとえ雷が落ちようが墜落しようが、お前死なねぇだろ」

 

 

それもそうかと目の前の飛行機に向かい、歩くカルナの恰好はいつもの鎧姿ではなく、誰がどう見ても最高級と一目で分かるダークスーツに袖を通し、その肩には深紅のコートが羽織られていた。更には自らの名の由来となった、父スーリヤより授かりし耳飾りの他に、左耳には虹色に光り輝くカフスが付けられている。

これはかつて、ヴァジュラを製作した工巧神トヴァシュトリが、スラー酒に酔っ払い製作したものだ。その効果は『身に纏うものを見た目上消し、衣擦れの音も消す』という、今まで使い所の無いものだったが何となく持っていて良かったと、この時帝釈天は初めて思った。

 

このスーツも帝釈天が彼に与えたものだ。

『使者として赴くのなら、それなりの身なりでなければならない』――これにはかつて、ドゥルヨーダナの下で将として、彼の傍にいたカルナも理解を示し、同時に自分の存在を隠したいという帝釈天の意図も察し、カフスも必要であるとありがたく受け取った。

 

これらを取りに彼等は一度須弥山に足を運んだのだが、カルナはその時、須弥山には入山していない。

と言うのも【施しの英雄】――カルナと須弥山のトップに立つ帝釈天(インドラ)の逸話はあまりにも有名であり、それは須弥山でもまた同じ。

何らかの勘違いを下の者が起こすやもと帝釈天は考え、ついでに言えば彼はカルナを須弥山に所属させる気など更々無く、今回の件も将来カルナの存在を公表した際の、下ごしらえ程度にしか考えていない。

 

 

その為カルナは今回、一人(・・)で日本に向かう事となった。

 

どうやら帝釈天にとって、会談の成功云々よりも、カルナが伸び伸び観光を楽しめるかどうかの方が大切らしい(まぁ、本人がそのことを口にすることはまずあり得ないが)

 

 

「だがインドラ、何故このような手段を?オレ自身が飛んだ方が、遥かに速く目的の日本とやらに着くだろうに」

 

 

とある世界において、空間移動に等しい速度に追いついていたカルナの飛行能力。その速さは目の前にある、小型旅客機などとは比べものにならない。

 

 

「今時の人間は、空なんか飛べねぇんだよ。見つかってもまぁ、どうせ見間違いなんかで済まされるだろうが、面倒はなるべく避けたい。何よりこれは、お前が言う所の後世の人間たちが明日を目指して歩んだ証だ。なら使ってやれ」

 

 

確かにそうだとカルナは思った。

生まれた時に感じたように、今と己がかつて駆けまわった時代とでは、人の思想や在り方さえも違うのだと。

 

 

「空を飛ぶ乗り物などあの当時、神々が所有していた“ヴィマーナ”くらいしかなかったが…人は神々しか成し得ぬ偉業にまで、その手を伸ばしたのだな」

 

 

「ありがたく使わせてもらう」と呟き、搭乗する為の手摺りにカルナは手をかけながら再度、自分を見上げてくる帝釈天(インドラ)へと振り向きながら一言。

 

 

「では行って来る」

 

 

 

「…おう、行って来い」

 

 

 

 

 

 

カルナが一人、乗客として乗る飛行機の中で、今回キャビンアテンダントとしての仕事に励む彼女は今、激しい胃の痛みに襲われていた。

 

前日彼女は上司に突如呼ばれ、そこで言われたのがこの一言。『今回乗る客に何かあれば、文字通り私達の首が飛ぶ』

初めはどうせ、いつもの冗談だろうと同僚と笑っていたのだが…それも先程の、自らが所属する須弥山の頂点に立つ男の姿を見て、瓦解した。

 

【帝釈天】――天帝とも名高く、その名の通り、数多くの仏神が彼に付き従う様はまさに、神々の王と言える。

そんな彼と、頬杖をつきながら窓辺に静かに座り、外を眺めているこの男は、タメ口(・・・)で話していたのだ。しかもその呼び名は、この須弥山では誰も呼ぶ事を許されていない、かつて捨てた名であるインドラ(・・・・)。それだけで、この何の身分や名すら聞かされていない謎の客が、とんでもない存在だと彼女は理解した。

 

 

(もうヤダァ…お家帰りたいよぉ…!!)

 

 

そうは心の中で思いつつ、顔には客に嫌な思いをさせるワケにはゆかぬと笑みを浮かべている。

この飛行機は普段人間が使うものだが、時折仏などが下界たる人間界に降りる際、使うこともあり、彼女はそんな修羅場を何度もくぐり抜けているのだ。

 

そうだ、私なら出来る。どうせあと3時間程度のフライトだ。なら私なら何の問題もないと、何の理由もない自信に身を委ね、彼女は客室サービスのプロとして、安定飛行に入った機体の中、彼に話しかけに行く。

 

 

「お客様。この度は当旅客機をご利用いただき、ありがとうございます。お手数ですが、手荷物などはございます…か?」

 

 

近づき改めその男の顔を見て、彼女は一瞬言葉を失った。

 

その肌と髪の毛は、まるで全ての色が抜け落ちたかのように真っ白で、目元を彩る朱色が鮮やかにその存在感を放っている。それとは対比的に見える瞳の色は、どこまでも涼やかな水色を讃えていた。今はコートを脱ぎ、その中に隠されていたスーツを着込んだ身体の線は、男性とは思えぬ程に細い。何より100人中、100人が美形だと断言できる顔の作り……はっきり言おう。

 

 

(ヤダ何この人!?滅茶苦茶タイプなんですけどッ!?)

 

 

彼女は即堕ち二コマのような速さで彼に一目惚れし、すでに胃の痛みなどとうに忘れ、その頭の中はどうやって彼を食事に誘おうかという思考に変わるという、お前本当に仮にも仏に仕える神職してんのかとツッコミどころ満載のものになっていた。

 

 

「預ける荷物など無い。持っている物もこれだけなのだが…」

 

 

荷物の有無を確認されたカルナだが、彼の言う通り、その手には普段持ち歩いている父の木槍も無い。これはこの世界でよくある異空間に収納している為であり、帝釈天が「あの国は何かと煩いから」と、カルナに教えていたのだ。

そんな彼が胸元から出したのは、スーツ姿に似合わぬボロボロの麻袋。そこから取り出された物も、ボロく今にも壊れそうな煙管(・・)だった。

これは初代から預かったあの煙管であり、カルナはあれからただの一度も、それを入れたこの麻袋を手放していない。

 

 

見せ終わり、彼女が何も言って来なかった為、カルナは大事に戻しながら彼女に話しかける。

 

 

「これでいいか?それと、先程の言葉は間違いがある。オレはただ、インドラに言われるがままに、この飛行機とやらに乗った。ならその発言はあの男にこそ、くれてやるものだろう」

 

 

普段であれば同じ須弥山所属として、初代がこの飛行機を好奇心から何度か利用し、その時出会った事もある彼女は、その煙管本来の持ち主に気づき問いただしていただろう……が、今はそれどころではないらしく…。

 

 

(キャー!すっごい良い声!しかも何!?すごい謙虚なんですケドこの人!?)

 

 

一目惚れがベタ惚れに変わった瞬間だった。

 

嗚呼、だが…悲しいかな。彼女はその男(カルナ)のことを何一つ知らない。

 

 

「ところで、オレと話をする暇があるなら、もっとマシな事に時間を割くべきだ。どうやら貴女はオレと何か、語り明かしたいようだが…あいにくと、オレは話すことなど何もない。墜落などという事故が起こらぬよう、職務に戻るべきだと、オレは思うのだが」

 

 

それは彼女達、この旅客機の運行に関わる者達を心配しての発言ではあるが…その言葉を彼女が聞いた瞬間。ピシリと何故か、カルナには何かが罅割れるような音が聴こえた気がした。

 

しばし時が止まったかのように、身じろぎ一つしなかった彼女は一言、「ごゆっくりどうぞ」という言葉と共に、急ぎ足で控室へと戻っていき、その後は別の男性乗客員が相手をすることになったのだとか。

 

 

 

 

その三時間後。カルナは大阪にある伊丹空港から、事前に帝釈天から伝えられていたリムジンバスに何とか乗り、ついに京都へと降り立っていた。

そこでカルナを待っていたのは、その珍しい見た目に目を引かれた人々の好奇の視線。

 

まずはその肌と髪に目を奪われ、次には彼が着るスーツの感想が飛び交い、女性達が彼の顔を見て、情を込めた視線を送る。

武人としての足運びは今の時代、誰もが見惚れる美しい姿勢を生み出し。その英雄としての気質が、カルナに目をやりながらも誰一人近づかないという、奇妙な空間を作り出していた。だがカルナはそんな自らに送られる視線を気にすることもなく、辺りを見渡しながら様々な感情を思い浮かべ、ポツリと呟く。

 

 

「…分かってはいたが、本当にオレが知る、かつての世界(インド)とは違うのだな」

 

 

これはそれぞれの神話世界に共通するのだが、各神話体系が創り出し、各々が統治していたものの一つが古代インドだ。ゆえに以前のカルナにとって、世界とは即ちインドであり、転生した今生でもしばらくはそのように考えていた。

だがその考えは、養父母によって訂正された。世界とはこの広大な地球を差す言葉であり、その中でインドは今や、星と比べて小さな国に過ぎないと。

カルナはその教えを聞いた当時、かなり驚いた。己がかつて駆け回り、友にして主君ドゥルヨーダナのために捧げ、制した世界(・・)と考えていた存在(もの)が、まさか一部にしか過ぎなかったのかと。

だが同時に歓喜もあった。己が駆けた世界はまだまだ果て無く広がり、ならば我が父より授かりし木槍を振るうに相応しい戦士も必ずやいるのだろうと、期待が更に膨らんだ。

 

 

そんなカルナに視線を送りながらも彼等――つまり日本人はその足を止めることなく行き交う。カルナにはその様子が、まるで何かに追われるようにも見て取れた。だが以前、帝釈天はカルナに一言、「あの国はインドと違い、常に急いで何かを成そうとしているから気にすんな」と言われた事を彼は思い出し、それもまた有りかと心の中で一人納得しつつ空港を出て、帝釈天から渡されたメモ用紙を広げながら今回の会談が行われる場所へ赴こうとするのだが…。

 

 

「मैं माफी चाहता हूँ ऐसे लोग मैं यहाँ जाना चाहता हूँ?(すまないが、そこの方。ここにはどう行けばいい?)」

 

「あ、その…あ、アイアムドントスピークイングリッシュ!」

 

 

島国に住む日本人にとって、外国語…それもヒンドゥー語はかなりの難門だったらしく、カルナが言葉を発しただけで、彼等は子グモのように彼の周りから離れる。

 

今生に転生し、初めてカルナを持ってしても倒せぬ強敵が現れた。それは“言葉の壁”である。

 

だが…実はこのカルナさん。神性持ちの特権として、悪魔などと同じように言語の壁など本来無いに等しい。

だがそこは今の世界情勢も考えず、うっかり息子を転生させた太陽神スーリヤの子。彼はうっかり、養父母の下に居た頃の名残り(・・・)としてヒンドゥー語を連発し、次第にこのままでは時間に間に合わないのではと焦り出していた。

 

 

 

 

 

「うひゃー、偶にはイベントの為に外に出てみるもんスねぇ~。白すぎる外人さん?まぁ、ボクも人のことあまり言えた口じゃないスけどね~」

 

 

そんな彼に、近づく小さな影が一つあった。

 

人が大勢集まる京都駅近くのこの場所で、人の目線など、どうでもいいと言いたげに手入れもされていない伸び放題の髪。それに着古したTシャツとカーディガン、窮屈そうなジーンズと、オシャレとは無縁の恰好をした少女は呟きながら、カルナに許可を得るでも無く、カシャカシャと手に持ったケータイで連写しまくる。

 

 

「ふぅ、これでネットに上げる面白画像が手に入ったッス!タイトルは『マフィアな白粉(おしろい)星人』!これは流行るッス!」

 

 

突然の出来事に、目を白黒させるカルナを放置したまま、その少女はコホンと軽い咳払いをし。

 

 

「あ~、まぁ面白いモン撮らしてくれたお礼ですけど…Can you speak English?」

 

「――?यह कहते हैं कहां?(それはどこの言葉だ?)」

 

 

流暢な英語で話しかける少女だが、カルナは変わらずヒンドゥー語で聞き返した。

カルナは英語は理解している(・・・・・・・・・)。だがそれは何を意味するのか?どこの言葉なのかは分からず、そのまま返してしまったのだ。

 

 

「あちゃー、お手上げッス。てかアンタ、日本に来て日本語喋れないんスか?」

 

 

オーバーなリアクションで諦めの仕草を見せる少女。すると…――。

 

 

「いや、喋れるが?」

 

 

いきなり先程のヒンドゥー語から、当たり前のように日本語を喋り出したカルナを前に、少女は思わずズッコケる。

 

 

「ちょっ!?だったらソッチでいけば良いじゃないスか!?何でインドかどこか分からない言葉で聞いて回ってたんスか!?」

 

「そうか、初めからこちらの言葉で声をかければ良かったのだな。気づかせてくれて感謝する」

 

 

頭を下げて感謝の意を示すカルナに、少女も怒るに怒れないといった顔を見せ。

 

 

「う~…まぁ良いッス。これも何かの縁だろうし…それで?どこに行きたいんッスか?」

 

「あぁ、ようやく聞く事が出来る。ここなのだが…」

 

 

カルナがメモ用紙を見せると、その少女は普段からずり落ちそうな眼鏡を掛け直し、フムフムとしばらく頷くと。

 

 

「あぁ!ここッスね!ここはこう、ブワァーと行って次の信号をズキュゥゥウン!って感じで、そこからメメタァ!って先にある交番に聞けば分かるッスよ」

 

「成程、感謝する。取りあえずお前が行き方を知らないことだけは理解した」

 

「いやいや!それのどこに感謝の要素があるのかナゾッスよ!?」

 

「―?何故だ。交番とやらに行けば、分かると提示してくれた。他の者がオレを何故か怖がり近づかぬ中、オレにこうして日本語で喋ればいいと教えてくれたことにも、改めて感謝したい。ありがとう」

 

 

あれ、この人見た目に寄らず、かなり天然なのでは?と少女は呆れたように溜息を吐き。

 

 

「まぁ、問題が解決したようで何よりッス。じゃ」

 

 

手をヒラヒラとさせながら、カルナの方を見向きもせず、その少女は踵を返していく。カルナは咄嗟に恩を返そうと、せめて名前だけでも教えてほしいと手を伸ばそうとするが――彼の背後から、こちらを呼ぶ声が聞こえた。

 

 

「す、すみません!須弥山からの使者様ですね!?本当に申し訳ありませんでした!こちらの不手際で、駅構内でお迎えするはずが…」

 

 

カルナがその声に反応し、振り返ると人間の女性に化けた妖狐がペコペコ頭を下げていた。カルナもこの狐が、京都からの使者なのだろうかと確認しつつ、返事を返す。

 

 

「いや、気にしなくていい。こちらも今着いた所だ」

 

 

向こうがこちらの言葉にホッとしているのを見届け、再びカルナは先程の少女の姿を探そうとするのだが、すでに影も形も無く、彼女は立ち去っていた。

 

 

(そうか…名を聞きたかったのだが、致し方無い…か)

 

 

礼の一つも出来ず、残念に思うカルナだが――その直後、先程彼女が言った言葉を思い出す。

 

 

そうだ、あの少女が先程言っていたではないか。『これも何かの縁』だと。ならばその縁を信じ、もう一度会えた時にこそ、名を聞かせてもらおう――そう心に決めて。

 

 

「ではこちらへ」

 

「あぁ、よろしく頼む」

 

 

京都側の使者に連れられ、駅を後にするカルナ。

 

()しくもと言うべきか、それらの出来事は、赤龍帝と呼ばれるドラゴンをその身に宿し、数奇な運命によりその“神器”を覚醒させ、悪魔となったとある高校生とその仲間達が、修学旅行として京都に来る数時間前のことであった――。

 




カルナさんの恰好は、某概念礼装の際のあの恰好です。

大阪から京都に来れた理由は、たまたまそこにいたヨガを極め過ぎて宙を飛んだり口から火を吹く謎のインド人が丁寧に教えてくれたからだとか(いったいどこのヨガフレイムなんだ…)

それと途中、カルナさんに話しかけた女の子についての質問は一切お答えできませんので、あしからず


※次回更新はまた1か月後くらいになりそうです

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