施しの英雄    作:◯のような赤子

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一応形になったので投稿します

一体いつになったら原作組や英雄派(笑)を出せるんだ!?


それと今回完全なオリキャラとの絡みしかありません
いつも以上に「この回必要か?」と思われるかもそれませんが、しっかりと作り込む上での致し方無い古くから続く因縁の犠牲の犠牲になったとでも思ってもらえれば助かります(オレのオレオれオレオレお!!)


英雄の来日―2

独特の文化を築き上げ、古より日本の中心地として栄え続けたここ京都。それはこの都の防人たらんとする者達が、陰陽師から妖怪に変化しようと変わりない。

 

 

「この国は色彩豊かなのだな。オレが父と母に育てられた山も、冬が近づくと、木々はその厳しさに備え葉を落としていた。だがまさか、それを慈しむ文化が存在するとは思いもよらなかった」

 

 

静かに過ぎ行く悠久の時。その断片を感じさせるこの場所で、カルナは思ったままの感想を、後ろを着いて来る京妖怪側からの使者に言葉にして伝える。

 

 

「それはよろしゅうございました。天帝様にも是非一度、今度は直接来ていただきたいとお伝えください」

 

 

その妖狐。名を弥々というのだが、男ならば誰もが見惚れる笑みを浮かべ、口元を着物の袖で隠す仕草はまさに、嫋やかな京美人と言った様子が似合っている。だがその心中は、言葉とは裏腹に、完全に真逆を唱えていた。

 

 

(何なんだこの人間(・・)は…確かにこちらにとって、今の状況は都合が良いが…)

 

 

先程、弥々は京都駅にて遅れた謝罪として、カルナに頭を下げた。だが神仏だろうと気配を探れば何だ、ただの人間(・・・・・)ではないか。

 

 

“トヴァシュトリ神”――彼が酔っ払ったまま適当に作り、まだインドラであった帝釈天にかつて押し付けた、カルナが今付けているこのカフス。これの効果は『身に着けた物を見た目上消し、衣擦れの音も消す』というものなのだが…その本質はまったく違う。

 

このインド神話最高と名高い工巧神が創り出した宝具本来の効果は、『身に纏う全てを隠す』というものだ。それはつまり、普段から特に隠す理由も無いとカルナが周囲に流している莫大な神格ですら、人外に悟らせぬという破格の性能を誇り、それ故に弥々はカルナの事を、『何らかの“神器”を宿した人間』としか受け止めなかった。

何よりも帝釈天はかつて、“神器”を集めていたことでも有名であり、それらの事前情報、今の世界情勢が、彼女をそのように勘違いさせた。

 

しかし……気に食わない。

 

 

「―?すまないが、あの店頭に並んだ野菜達は何だ?乾燥させ、日持ちを良くさせようとしているのだろうと思ったが、それにしては水分が多いようにも見える」

 

 

この使者は、使者でありながら今回の会談について、一切問いを投げかけて来ず、先程からその美貌を惜しげも無く晒し、この京都に来た理由をまるで、観光しに来ただけかのように見て回っていた。

 

いや、一度だけ。駅から街へと降りる際、車内で本来今日行われる予定だった会談を行えぬと告げた際、僅かに反応を示し、こちらに言って来た言葉がこれだ。

 

 

【いや、それならば問題無い。もとよりあの男からは、観光を楽しめと言われたのでな。お前達が受け継いで来たその意志を、オレは見定めさせてもらおう】

 

 

気に食わない、ふざけるな。

弥々達の御大将、九尾の八坂は今この京都にはいない。彼女は突如出現した、霧の中へとその姿を消していた。そのような理由もまた、弥々がカルナがこちらを見ていないからと、眉間の皺を隠そうともせず睨みつけている理由だろう。

それ以外にも、今回行われる二つの勢力――つまり須弥山と聖書の陣営それぞれとの話し合いは、彼女達にとって、大切な意味合いを含んでいた。

 

それは最近日本に好意的に歩みを近づけて来る聖書の陣営の見定め。それとこの20年近く、不気味な程に静観を決め込んでいる須弥山。及び、そんな彼等と同盟を組んでいるのでは?と噂に上がる、インド神話との関係性。

 

 

何よりコイツは何様なのだ?楽しめと言われたから会談など、どうでもいいと?我等が守り続けて来たこの京都が今、大変な事になり、それをこうも必死に悟られまいとしている最中(さなか)、それを見定めさせてもらうだと?

 

 

無論、彼女は理解している。これはどうしようも無い、醜い嫉妬(・・・・)なのだと。

 

弥々達妖狐は本来、この伏見に奉られる豊穣神“宇迦之御魂”の眷属だ。だが永き時の中でその在り方は、間違った伝承や大陸から伝わった神話に飲み込まれ、今や妖怪などという区分に落ち着いてしまった。

誇りを穢され、低位に堕ちて行きながらも、彼女達妖狐は神の眷属としての使命を全うし続け、今もなお、先程も述べたように、この京都を悪意の渦から守り続けている。

だが…それほどの献身を、それほどの忠誠を捧げようと、かつて掲げた誇りは帰って来ず。どれほど己が主神である、“宇迦之御魂”に尽くそうと、その献身は報われることなどなく、“高天原”は黙したまま、ついに悪魔がこの地に足を踏み入れた。

 

しかし…この人間はどうだ?

その身に纏うは美しき夜の帳を彷彿とさせるスーツ。肩に羽織りそよ風を受け、様々な様式を魅せる深紅はまるで、かつて戦国の世で彼女が見た、武士(もののふ)達が流し大地を潤した血のようではないか。

 

何より…先程の一言、【楽しめと言われた(・・・・・・・・)】――つまりたかだか人間風情が、主神たる帝釈天の言葉を聞いたのだ。

この事実が、弥々に激しい嫉妬を負わせた。何故なら何度語りかけようと、どれほどの献身を尽くそうと…“宇迦之御魂”はその忠義に応えることも、労いをかける事もなかったのだから。

 

 

これがただの、八つ当たりだという事は理解している。これがただの、人間風情に抱いてはならぬ嫉妬だという事も重々理解している。

だからこの程度…そう、この弥々のような妖狐にとって、軽い悪戯程度である“狐火”で、その変わらぬ表情を崩してやろう。静かな観光の中起こる、軽いハプニング…なに、軽い火傷風情、帝釈天が見初めた“神器”使いであれば、問題などないのだろう?ならば軽い辱めを持って、この弥々の情緒を鎮めさせておくれやす――。

 

 

「使者殿、あれは“漬物”というもの。其方が車内で言った、作物が育たぬ厳しい冬を乗り越える為に、我々が古くから受け継いだ知恵の一つと認識されよ」

 

 

初めのような態度はナリを潜め、かつて神々の眷属であった存在らしく、その口調を上からのものに変えながら、弥々はカルナに気づかれぬよう、歩法を用いた“人払いの陣”を敷いて行く。すると自然に人々は彼女達の周りから徐々に消えて行き、しかしカルナはその異常な状況に気づかないかのように、振り向く事なく弥々に語り掛ける。

 

 

「成程、母が作っていた、アチャールのようなものか。面白いものだ、海を隔てたこの地でも、どうやら思想というものは、そう変わりないらしい」

 

 

――?アチャール?そのような食べ物が、須弥山がある中国(・・・・・・・・)に、果たして存在していただろうか?

 

そのように弥々は口元を隠しながら考え…はたと気づく。

先程までこちらを見向きもせず、前を歩いていたこの男が、自分を睨みつけるように視線を向けていることに――。

 

 

「ところで――もう良いか(・・・・・)?」

 

「なに…が…?」

 

 

急に弥々の背筋に、氷を入れられたかのような悪寒が襲う。先程まで、何の変哲の無い人間にしか見えなかったこの男が急に、まるで歴戦の戦士のような威圧感を放ってきたのだ。

 

いや、勘違いだ。例えバレてもこれは悪戯(・・)。“人払い”はすでに済み、問題など起こりえないと。

 

だが…その考えはすぐさま取り消す事となる。

それはいつものよう(・・・・・・)に、言葉を飾る事を知らぬカルナが放ったこの一言。

 

 

「知らぬフリは止せ。最初に会った時から、お前の目には嘲りと侮蔑。それと嫉妬が浮かんでいた。仕掛けて(・・・・)くるなら早くしろ。一度だけならその使者への無礼、オレは許すこととしよう」

 

 

見抜かれていた!?と思う以前に、身体が動いていた。

人前ということで隠していた耳と尻尾を出し、印を組んで火傷程度では済まされぬ極大の焔を召喚し、カルナへと放つ。

 

 

「キサマ…キサマァァアアア!!我が心を覗くか!たかだか人間風情の分際でッ!!」

 

 

一つ、二つと次第に数えることすら難しい、数々の火炎球が建物を崩落させつつ、カルナが先程までいたであろう場所へと、次々と放たれる。後に残る、この崩れ落ちた建物に関しては何も問題無い。何故ならこの周辺は、人に紛れ生活している彼女達妖狐が治める土地であり、この建物も幻術を使いつつ修復すれば、ものの二日もあれば直ると、弥々は攻撃の手を緩めない。

 

覗かれた、たかだか人間に…化かし畏れられねばならぬこの妖狐がッ!!

何たる屈辱、何たる辱め。何より…何だ先程の物言いは?

 

この地を治める“宇迦之御魂”。その末端ながらも誇り有る、眷属である己に対し許してやる(・・・・・)だと?

 

怒りが彼女を支配していた。今ここにいるのは、京都側の使者として、その内面を隠していた、ただの妖狐ではない。

【古事記】に描かれた、いと神格高き“宇迦之御魂”の眷属――報われぬ京都の防人、その一員としての誇りが、弥々を激情へと向かわせた。

 

だが無論、此度の使命を忘れるような者を、使者として向かわせたワケではない。弥々は確かに怒りに支配されながらも、しかと手加減を施していた。何より須弥山の使者を殺しては、本当に戦争の引き金となるのだ。ならば彼の戦神であれば、戦いを司るあの神であれば、おそらく許すであろう程度で済ませる気でいた。

 

意外にも見えるが仏教がこの日本に伝わり、はや千年を超えている。その中で、天部筆頭とされる帝釈天の逸話はここ京都にまで聞き及んでおり、弥々としては最悪、この首一つでむしろ会談を上手く進め、協定の先。つまり更なる千年京の礎になれるやもと考え、敢えてその身を焦がす、激情に身を委ねたのだ。

 

 

「――フゥーッ!フゥーッ!!…頼むから生きていろよ人間。お前が死んでは我が望みが(つい)える」

 

 

肩で息をし、祈るように呟きながら、彼女は朦々と上がる土煙の先へと視線を飛ばす。が――。

 

 

「…死んだか」

 

 

その先には生地の切れ端すら残っておらず、形成されたクレーターだけが弥々を出迎え…そこで気づく。

おかしい、あれは見た目だけが派手であって、その威力は確かに人の形が残る程度。何よりコートの切れ端すら残らないとはどういう…――。

 

 

 

「――…成程、オレと戦いその武功を示し、インドラの機嫌を伺おうとしたわけか」

 

 

変わりない、静かな水面の如く変化を見せぬ声音が聴こえてきた、崩壊した瓦礫の上を弥々が汗を浮かべ見ると…そこには羽織るだけのコートすら落ちておらず…いや、土埃一つ付けていない、カルナの姿があるではないか。

 

 

「キサマ…ただの人間ではないな!?一体何の“神器”をその身に宿している!?」

 

 

この時彼女は、まだカルナが“神器”使いであると勘違いしていた。それもそうだろう。彼女達人外の攻撃を、こうも容易く躱す者など、それくらいしかいないと思うのが普通だからだ。

 

だが、彼女を見下ろすこの男は、“神器”使いどころの騒ぎではない存在。

かつて修羅神仏さえ押さえ、三界を征するとさえ謳われた大英雄。

 

 

「あいにくと、オレはそのような“神器”なるものを持って、生まれてなどいない。我が身に宿るは父の加護のみ。さて、一度は許すとオレは言ったが…満足したか?」

 

「ッゥ!?キィサァマァアアアア!!!」

 

 

しかし彼女はそれを知らず、カルナの挑発染みた言葉に血が昇り、もはや殺さずという考えは抜けていた

 

 

「眷属召喚!焔より、我が怒りの化身となりて権限せよ!“焔狐―火炎の陣―”!!」

 

 

再び印を組み、大きく薙ぎ払う仕草をしたと思えばその先に、見えてくるのはその身を陽炎の先より出でるように現れた、火炎を纏いし狐の群。

これは本来、一介の妖狐に扱えぬ術式ではあるが、弥々は元々この京都の守護者に名を馳せた勇士。本来であれば、襲撃を受けた八坂の守護に着くハズだった。しかし八坂自身が、須弥山を見定めよと命じ、こうして残りカルナを待つこととなっていたのだ。

 

 

『グルル』と獣達が、群れの長へ命令を促すように喉を鳴らす。

早く命じろ、早くあの肉を喰らわせろ。そう言わんばかりに。弥々もまた、その美しい顔を凄惨なものへと変え、掲げた手を振り下ろし――。

 

 

「殺sッ……え?」

 

 

――振り下ろそうとした手は、そのまま宙に固定され、弥々の瞳には、すでに召喚された焔狐を駆逐し終わりインドラから授かりし槍を、自身の細く白い首筋へと突きつけているカルナの姿が映されていた

 

 

「なん…で…私の眷属は…?」

 

「あの程度の熱、オレには涼風に等しい。何より殺してくれと言わんばかりに遅い初動だったのでな、全て駆逐した」

 

 

馬鹿な、あり得ないッ!一体何匹いたと思っている!?この京都を守る我等の絆をそんな容易く…ッ!?

 

言葉を出すことはすでに不可能。指先すらも動かすことなど出来ようがない。何故なら弥々を見据えるカルナの眼は、一切の容赦や手加減をしないと、あまりに雄弁に語っていたのだ。

 

 

「二度目は無いと言ったはず。俺はクシャトリヤとして、女子供に手を出さぬ誓いを立てている。だからといって、無抵抗でやられる気も無いのでな。何よりお前のその眼は、守るべきものを持つ、戦士の眼だ。ならば…容赦はむしろ、お前への侮辱となる」

 

 

言葉を飾る事を知らず、武人らしくどこまでも直線的な言葉は、弥々へ確かな賛辞を贈っていた。

人間の女として、表で活動する事もある彼女は、欲情した男の視線に晒されたことなど何度もある。だが防人の一員として、幼い頃よりこの地を守ると心に定めた弥々自身を見た者が、一体何人いた事だろうか。

 

もしや自分は、この男を見誤っていたのではという気持ちが、沸々と沸く。だがそれを早々に認めるには、この妖狐という種族はあまりに気位が高くありすぎた。穂先の鋭さに顎先を汗が伝い、それでも彼女は気丈にも鼻を鳴らし。

 

 

「ふん、クシャトリヤ(・・・・・・)とはまた古い言葉を…古代に生きた益荒男の真似事か?使者殿」

 

 

“クシャトリヤ”――それはインドにおいて、戦士や王族の階級を差す言葉であり、この遠く離れた地で何故、彼女はそれを知っているのだろうかとカルナは眼を薄く閉じるような仕草をし。

 

 

「…そうか、オレ達が駆けたあの時代は今もなお、海すら超えて受け継がれているのだな」

 

 

そう呟いて槍を下げ、どうしようもなく…己を拾い上げ、友誼を求めた男と語り合いたくなった。『我々の意志はこうして、確かな形となって残っている』と――。

 

 

 

弥々は呆けたような顔を隠すことが出来なかった。

 

先に仕掛けたのはこちらで、死ぬやもしれぬ攻撃を放ち…そして圧倒された。

自分は負けたのだ。その始まりが例え、ただの悪戯であっても、最後のアレは本気で殺そうとしていた。敗者に残された選択など、二つに一つ。即ち『殺されるか』『生き恥を晒すか』。更に女の身である自分には、辱められるという最悪の選択まである。だというのにこの男は穂先を下げ、闘志を讃えた瞳はすでに、その熱を下げている。

 

だからつい、問いかけてしまった。「殺さぬのか」と。

 

 

「お前の目には、見覚えがある。守るべきものを持つ者のみが、持ちえる目だ。お前は死を望んでいたようだが、死地はここにあらず。何よりお前はオレに大変喜ばしい事を教えてくれた。それを持って、先程の二度目を無き事(・・・)としたいのだが…どうだ?」

 

 

「防人としての任を果たせ」と、そう言われた気がした。

 

この男はこの京都に住まう者達を、舐めてなどいなかった。舐めていたのはこの弥々であり、例え悪戯から始まったものであっても、彼は先程の戦いの中で、摩耗し妖怪に格を落としたこの身に、戦士としての誉れを抱けと言ってくれた。

やはり己は見誤っていたのだ。何と…高潔な精神の持ち主であろうか…っ!

 

膝を折り、弥々がその旨を伝え謝罪しようとした…その時。

 

 

「クセ者じゃ!京都を穢すクセ者じゃ!」 「仲間を守れ!弥々殿を助けよ!!」

 

 

異変を感知した鴉天狗と見える妖怪達が、カルナを取り囲み弥々から離れさせようとする。その手には捕縛用と見える鎖が音を立て、カルナに警告を送っている。

 

違う!彼は何もしておらず、全ての責は私にあると弥々が叫ぶも、その身は先の戦闘で、激しく動いた所為か肌蹴ており、見る者が見れば乱暴されたかのように見えていた。彼女はカルナに有らぬ罪など背負ってほしくなく、どうか起こったままを言ってほしいと願うも、相手はあのカルナだ。

 

 

「連れて行け。その方が、互いに手早く用事が済む」

 

 

言葉少なく、一切事情を説明しないその言動は、彼等がカルナを鎖で縛り上げるにそれ以上の理由を必要としなかった。

 

 

こうしてカルナは当初の予定通り、その身を“裏京都”へと入れることとなる。ただ通されたその場所は牢獄であり、それは弥々が必死に事情を説明し釈放され、そこで更にひと悶着あるまでの、束の間の休息であることを、この時はまだ誰も知らない。

 




次回投稿は昼頃だぁ!!
(今回はガチです。なおその後またしばらく開きます)

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