施しの英雄    作:◯のような赤子

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遅くはなりましたが感想評価、そして誤字報告をくださり読んでいただいている読者の皆様、明けましておめでとうございます。
あとこれも遅くなりましたが、推薦をくださった方へ本当にありがとうございます。
(スンゲー驚きました)


今年も遅筆かつ展開の遅さに定評が付きそうな程に(てかもう付いてるか)中々進まぬこの『施しの英雄』ですが、どうかよろしくお願いしますm(__)m




抱く思いは様々な形と成りて

赤龍帝の三叉成駒(イリーガル・ムーブ・トリアイナ)】――歴代赤龍帝の先輩達や、俺の尋常じゃないスケベ心が起こした奇跡、“召喚(サモン)おっぱい”で呼び出したリアス部長のおっぱいのおかげで覚醒できた新たな力は一撃でこの空間を揺らし、今回の騒動を引き起こした新たな敵“英雄派”を名乗る者達の首魁、曹操をもう少しまで追い詰める事ができたんだけど…。

 

突如空間を引き裂く音が聴こえ、俺はついそちらの方に意識をやってしまった。いや、俺だけじゃない。

曹操もまた、体勢を整えてその裂け目を嬉しそうに眺めている。

 

 

「どうやら始まったようだ。あの九尾を使った魔法陣、そして君のドラゴンの気が、俺達の今回の目的、グレート・レッドを呼び出す事に成功したらしい」

 

 

ッ!コイツ等の目的は、あの次元の狭間を泳ぐ世界最強のドラゴンを呼び出す事だったのか!?

もはやこちらに興味が無いと言わんばかりに曹操は、今回俺達をこの異界に閉じ込めた張本人、これまた上位“神滅具”【絶霧】を持つゲオルグとかいう眼鏡に話しかける。

 

 

「ゲオルグ、予定通り『龍殺し』を召喚する準備に取り掛かって…――」

 

 

―?何だ、急に目を細めて次元の狭間を見つめたりして…。

 

 

「…違う、これは…グレート・レッドじゃない!あれは…それにこの闘気…ッ!?【西海龍童(ミスチバス・ドラゴン)玉龍(ウーロン)か――ッ!!」

 

 

曹操がそう叫ぶと、中から細長い印象を与える東洋タイプのドラゴンが出て来た!あれが五大竜王と名高い玉龍か!

 

更には鴉天狗と思える妖怪達も、玉龍の後を追うように出て来たけど…曹操の視線はすでにドラゴンの方ではなく、その背中に向けられており、俺もその視線に釣られ見ると、そこには小さな人影が…うぉ、落ちて来た!いや、降りて来たのか?あの高さから!

 

小さな人影はまるで高さなど感じさせないように、スッと静かに降り立ち。

 

 

「…あぁん?オイ玉龍、アイツの所にまずは行けっつったじゃねぇか。乱れまくった『妖』の気、中途半端な『覇』の気流渦巻くこんなチンケな場所に、アイツが居りゃ全部飲み込む膨大なうねりがあるに決まってらぁ」

 

 

小さな人影は老いたような皺嗄れた声音で一歩一歩、何だか不機嫌そうに歩きながらこっちに来る。てか口悪くねぇか!?

現れたのは園児くらいの身長しかない、小さな猿のような顔の人。顔は皺くちゃで、法衣みたいな服を着ており、肌は黒い。長い棍のようなものを肩に担ぎ、サイバーなサングラスをかけ煙草を咥えている。そして…その法衣の下には大量の包帯を巻き、時折火傷と思われる傷跡が、合間から覗いていた。

 

 

「おー、久しい限りじゃいクソガキ。チョロチョロとボスの後ろ着いて歩き回ってた頃が懐かしいねぃ」

 

「っ!闘戦勝仏殿…各地で我々の邪魔をしてくれた際、仲間から貴方の様子を聞きましたが…貴方程の達人が、いかような理由でそれほどの手傷を…!?」

 

「おっ!へへ、良いだろい?オイラの宝モンさ。簡単に治すにゃちと勿体無くてね、まだ時々燃えるように痛みが襲うが…まぁ、それすら心地良いってモンだ」

 

 

話の内容を聞く限り、あの二人は知り合いか?それに何だか、あの曹操が畏敬を持って接しているようにも見える。それに何だ、他の英雄派の構成員が猿の爺さんを見る目が厳しいようにも思える。五大竜王である玉龍を、何だかタクシー代わりに使っているような印象を受けたし…(何だかあのドラゴンすげー疲れてるみたいだし)

 

 

「…誰だ、あの猿のような…爺さん?」

 

 

思わず疑問を口から出すと。

 

 

「恐らくは…孫 悟空。それも初代だよ」

 

 

治療を終えた木場が俺に近寄りながら教えてくれって…な、な、な、何だとぉぉおおお!?

 

 

「しょ、初代孫 悟空ぅぅううう!?あ、あの爺さんが西遊記で有名な…っ!?」

 

 

マジかよ!スゲェ!そうか!もしかしてアザゼル先生が言ってた助っ人っていうのは――。

 

猿の爺さんは俺の視線に気づいたのか、こちらをサングラスで隠された瞳で見て来て。

 

 

「オメェさんが今代の赤龍帝の坊やかい?呵呵っ!こりゃ良い、面白ぇ感じの龍の波動だ。まっ、確かにアザ坊に頼まれたんだ、しょうがねぃ。後はこの爺ちゃんに任せときな――玉龍、九尾を押さえとけ」

 

 

猿の爺さん――初代が空を舞う玉龍に指示を出したけど、玉龍はどうやらそれが不満らしく。

 

 

『おいおい、ザケんなこのクソザル!!須弥山からここまでどれだけ飛ばしたと思ってんだ!?オイラ、チョー疲れたんですけど!?白龍皇の兄ちゃん達が手伝おうかっつっても無視して無理やり入りやがって!っておいおい、見ろよアレ!ヴリトラだ!うわっ、懐かしーなオイ!あの真っ白な兄さんやボスがいたら何て声かけんだろーな!』

 

 

…テンション高いな、あのドラゴン!?

 

 

「良いじゃねぇか。言っとくがこれが終わっても、お師さんのとこには帰らねーぞ?生臭坊主の説教なんざ、誰が聞いていられっか。このまま京都に居座って、即会談済ませて修行代わりに【禍の団】を狩って狩って殺しまくる。オメェさんも鍛えれるんだ、ありがたく思えや」

 

『お師さぁぁあん!!助けてー!!殺される!?オイラ過労死しちゃうから、今すぐコッチ来てこのクソ猿止めてっ!!』

 

 

何か泣きながら玉龍は、巨大な九尾の姿となり、ヴリトラと化した匙と相対している八坂さんへと向かった。てかコエェェエエエ!?何この爺さん!何かすげぇ怖い事言ってるんですけど!?

 

初代が曹操達へと歩もうとした時、放たれる()にあてられたのか…“神器”【龍の手】の亜種“禁手”である6本の腕を展開したジークフリートが突貫していった!

 

 

「お猿の大将!相手に取って不足は――」

 

 

曹操が止まれというが、もう遅い。

 

 

「オイラが不足だタコ。お前のような半端モンにゃコレ(・・)で充分よ」

 

 

初代がそう呟くと、そのまま振り下ろされた剣を全て軽々と避け、ジークフリートの腹を軽い動作で蹴り付ける。するとジークフリートは軽々と瓦礫の中へ、凄まじい勢いで吹き飛ばされてしまった。つ、強ぇぇええ!!な、何だあのジジィ!?手に持った武器も使わずに、木場や新デュランダルを持ったゼノヴィアが二人がかりでも勝てなかった、あのジークフリートを!?

 

 

「年期が違う。赤い坊や、悪ぃがお前さん等みたいな若造と比べてくれンな。これでも斉天と名乗りを上げてんだ。流石に失礼と思わんか?」

 

「え、ご、ごめんなさい…」

 

 

な、何だか知らないけど、怒られた。でもあの二人だってかなり強いんだぜ?それと比べて怒るって…。

ちょっと落ち込んでいると、そこへ玉龍が悲鳴を上げた。

 

 

『うぉぉっ!?おい、クソジジィ!!この狐の嬢ちゃん、中々強ぇぞぉぉおっ!』

 

 

見ると玉龍と匙が、九本の尾に締め付けられている!

 

 

「気張れぃ、玉龍。アイツがもしかしたら、見てるかもしれねぇんだ、無様を晒すんじゃねぇ。疲れたから…なんて、言い訳すんなよ?」

 

『ヒェ……分かったよ、頑張りたい!』

 

 

や、やっぱこの爺さんコエェェ…っ!でも何か、良いコンビっぽい…?

――っと、ゲオルグとかいう眼鏡野郎が、八坂さんを捕縛していた魔法陣を解いて、手を初代へと突きだした!今はグレード・レッドの召喚より、あの爺さんをどうにかしなきゃという事か!

 

 

「捕縛する!霧y――「甘いねぃ」…何!?」

 

 

霧が初代の周りに集まっていたけど、空気をかき混ぜるような仕草一つで、霧があっという間に霧散した!ゲオルグも信じられないといった顔をしている!そうだよな、“神滅具”の中でも上位ってのがまるで効かなかったんだからさ!

 

 

「槍よ!!」

 

 

奇襲するかのように、曹操が槍を構え、ギュンっ!!と穂先が初代へと凄まじい勢いで向かう――が…ウソだろ?あのジジィ、咥えた煙草(・・・・・)で止めやがった!?

曹操も流石に呆けたような顔を晒し、信じられないと口が開きっぱなだ!

 

 

「…これで英雄目指してんだっけか?ふざけんなよクソガキ(・・・・・・・・・・)。アイツが魅せてくれた鋭さは、こんなモンじゃなかったぜぃ?」

 

 

初代の一言に、曹操は苦笑いを浮かべ、頬を引きつらせ。

 

 

「…俺が居た頃でも、ここまでバケモノじゃなかったぞ…一体何が、貴方をそこまで変えたというのだ」

 

 

曹操の問いかけに、初代は不敵にニヤリと笑うだけだ。

その間に、瓦礫に埋まっていたジークフリートはどうやら仲間に掘り起こされたらしく、お腹を押さえ、口元からは血を流しながら肩を借り、曹操にここが引き際だと告げる。曹操もそれを感じ取ったらしく、今までやって来た鴉天狗などの妖怪達と戦っていた“英雄派”のメンバーが素早く一か所に集結し、霧使いゲオルグが足下に巨大な魔法陣を描き出した。

 

 

「ここまでにしとくよ。情報収集としては、上出来だ。初代、グレモリー眷属、そして赤龍帝、再び(まみ)えよう」

 

 

曹操が捨て台詞を吐くが…待て待て待て、逃がすかっ!!

俺達の楽しい修学旅行を、九重のお袋さんをこんな酷い目に合わせやがって!!

 

俺は残ったオーラを集め、左手にキャノンを生みだしてパワーを装填し、静かな鳴動音を上げ籠手のキャノンに一撃が溜まった。一発だけでいい、アイツに届けばそれでいい!!

 

 

「あぁ、確かにコイツはお前さん達が始めたケンカだ。坊や、あのガキ共にお仕置きしてみぃ。手助けくらいはしてやるわい」

 

 

初代が笑いながら、コツンと棍の先で鎧を叩く――途端、身体中からオーラが吹き出てきた!仙術の応用かな?まぁいい!

 

 

「お咎め無しで帰れると思うのか!?こいつは京都での土産だ!!」

 

 

濃縮されたオーラが、キャノンから放たれる!

途中、その肉体を生かし盾になろうとヘラクレスが前に出るが…ここだ!サーゼクス様が見せてくれた、縦横無尽の動きじゃなくていい!少し…ほんの少しでも…っ!!

 

 

「曲がれぇぇええええ!!」

 

 

ヘラクレス達を飛び越え、確かに俺の魔力弾は曹操の顔面を捉え、アイツは目を押さえている。

 

やった!――と思った時…。

 

 

 

 

「真の英雄は眼で殺す……!梵天よ、地を覆え(ブラフマー・ストラ)――!!」

 

 

打ち出して曹操達の後方へと飛んでいった魔力弾は、突如聴こえて来た声と共に、視界が真っ赤に染まる程の凄まじい光線の中へと消えた。何が何だかワケが分からなかった。

思わずこの中で、アザゼル先生がいない今の状況、最も頼りになると思える初代の方を見ると――。

 

 

「――っ!?」

 

 

ブルリと寒気がするほどの(オーラ)が初代から立ち昇り、その表情は凄まじいとしか言いようがない笑みを浮かべていた。

 

あまりの恐ろしさに俺は曹操達がいた場所に顔を戻すと、どうやら彼らは、すんでの所で逃げたらしい。でも…――。

 

 

「むんッ!!はぁ…ッ!!」

 

 

その声の主。光線をよく見ると目から放ち、次々とこの異界に作られた京都を焼け野原にしていく男の人。それは昨日団子屋でみたあの外人さんで、その腕の中には同じく一緒にいたあのドエロイお姉さんが抱かれていた。

 

 

 

 

 

地獄がこの世に顕現した。

かつて閻魔帳から名を消す為、本物の地獄に赴いたことのある初代をもってすら、そうとしか形容しようのない光景の中。

 

 

「…んだよ、そんなのもあんのかよ…っ!!」

 

 

(初代)は歯を剥き出しにして笑い、ミシリと棍が折れん限りに強く握りしめる。

 

あの時はそんなもの見せてくれなかったじゃないか、それを使えばもっと簡単にお前は勝てたじゃないか、それを……それを自分は、使わせることすら出来なかった(・・・・・・・・・・・・・・)じゃないか…ッ!!

 

二律背反の心情が、イッセー達を近寄らせず言葉も出させない。

その為、邪魔無くカルナは初代へと近寄り。

 

 

「この場でお前に会えた幸福に感謝しよう。斉天大聖よ、どうか彼女を助けてほしい」

 

 

燃え滾る闘争心を理解した上で、今は何よりも彼女を助ける事が先決だと、カルナは迷いなく以前負かせたこの敗者に頭を下げた。嗚呼、この男は…どこまで…っ!

 

 

「頼むよ…お前さんにそれだけ(・・・・)はしてほしくねぇ。あぁ任せてくれ、オイラの全てを賭してでも、この嬢ちゃんは必ず助ける」

 

 

「感謝する」と目礼を初代へと送り、初代は力強く頷き弥々を受け取り横たわらせ、容体を確認していくが。

 

 

(これは…!?)

 

 

初代が驚きの表情を見せるのも無理はない。

明らかに毒されていたであろう顔色は、見ている間にも徐々に回復の様子を見せ、更には身体中に付けられた生傷は、見る見る内に傷口が塞がれていくのだ。それだけではない、仙術を使うがゆえに分かる気の流れも正常に戻っていき、体内を凄まじい勢いで駆け巡っている。

一体何がと見ていて気付く。弥々の手の中に、黄金に輝く金属と思わしき破片が握られていることに。

初代はそれの正体にすぐ気づき、本来の持ち主へと問う。

 

 

「おい…これはまさか…」

 

「あぁ、鎧を剥がした」

 

 

誰の鎧かなど、もはや問うまでも無い。

カルナの鎧は決して誰にも奪われぬようにとスーリヤが彼の皮膚と同化させ、その事実を帝釈天から聞き及んでいた初代は思わずカルナの方を勢いよく振り向き足下を見ると、すでに止まっているようだがスーツには血が滲んでいるではないか。

 

 

「この程度、どうということはない。…もしやオレは、何かいらぬ世話を彼女に焼いてしまったか」

 

「いや、それは問題ねぇ。むしろオイラがいらねぇくらいだ。気を失ってはいるが、これなら明日には全快して目を覚ますわな」

 

「っ!そうか…良かった」

 

 

ほっとした表情を極僅かに見せるカルナ。だが直後、ポカリと軽い音と共に少しばかりカルナの身体が揺れ、その足下には弥々とよく似た金髪を覗かせる小さな少女の姿があった。

 

 

「お前っ!弥々に何をした!この人間めが!!」

 

 

涙を溜めつつ再びカルナに殴りかかるのは九重だ。

姉のように慕ってきた弥々、そして最愛の母。大切な家族が二人も目の前でこうして傷付き、その全てがこの男と同じ、人間のせいと来た。

 

無論、九重も馬鹿ではない。彼が弥々を助ける為にこうして駆けつけた事くらい理解している。理解はしているが…――。

 

一瞬の内に火の海を形成したカルナに相変わらずポカポカと殴りかかる九重を、彼女を心配し、初代に無理を言い助けに来た鴉天狗達が身体を抱え引き離す。このままでは凄まじいとしか言いようのない、得体の知れない力をもったこの男が、次代の御大将を担う一粒種に手を掛けないという保証はなく、同時にこれ以上須弥山側との亀裂を深めないようにとの行動だ。

 

その間も九重は鴉天狗の腕の中で暴れ、次第に大人しくなるがその眼から大粒の涙を流し出し。

 

 

「…私達が何をしたというのじゃ。嫌いじゃ…人間なんか、大嫌いじゃ!!」

 

 

叫ぶ。出て行けと、母上をもとに戻せと。それは悲痛としか言いようの無い、小さな身体で何とか受け継いで来たこの京都を守ろうとしてきた無力な少女の思いであり、初代やイッセー達ですら、ただ黙って聞いているしか無い中。

 

 

「そうか。だがお前がオレをどれだけ嫌おうと、お前の母は戻って来ないぞ」

 

 

まるでどうでもいいと言わんばかりの言動。勿論真実は違う。『お前の怒りは至極当然であり、正当なものである。だが今はまず、八坂をもとに戻す事が先決のはずだ』――カルナとしては、そう言ったつもりである。しかし彼はどこまでも言葉が足りず、そして…。

 

 

「っ!テメェ何様だよ!何て言い方だよそれ!?女の子がこうして泣いてんのに…それがかける言葉かよ!?」

 

 

もはや魔力は空っぽであるにも関わらず、イッセーは鎧を纏ったままカルナに噛み付く、が。

 

 

「オレが何者であるかなど、お前に一体何の関係がある?悪魔よ、お前のそれは、ただ時間を無駄に浪費するだけだ」

 

 

『己のような男に構っている暇など、今は無いだろう』――だがイッセーにはこう聞こえた。『お前の事など眼中に無い』と。思わず反射的にイッセーは、カルナの胸倉を掴みかかりにいこうとするが…途端、グラリと姿勢を崩し、駆け寄った木場に肩を借りる。もはや限界だったのだろう。すると他のグレモリー眷属も心配するようにイッセーの周りに駆け寄り、その様子を見ていたカルナは、『人徳がある男のようだ』と感心すらするが…そんなカルナを見る彼らの視線はまるで、先程の“英雄派”と対立しているかのように鋭い。

 

 

「おいおい、下らねぇ事でケンカなんざしてる暇は無ぇだろい?」

 

 

流石に見かねて初代が間に入る。何よりこれ以上有らぬ疑いがこの男にかけられる事が、我慢ならなかったのだ。

 

すでに弥々の中に残っていた僅かばかりの毒は外に出し終え、そろそろこの異界から出ねば崩壊する危険すらあると彼らに伝える。

この異界を形成していたのはゲオルグであり、その彼がいない今この状況はあまりに不安定だ。無論それだけでない事など、今は説明する必要も無いだろう。

 

 

「やりすぎだぜお前さん。見な、デカイ次元の狭間が開き始めてらぁ」

 

『オイラ達が無理やり入って来たのも原因だろうけどな!元気してた?白い兄さん』

 

 

カルナを軽く小突く初代に、八坂のもとからこちらへと移動してきた玉龍がカルナに話かけ、その間に同じく先程まで八坂の相手をしていた匙は人の姿に戻り、今はアーシアに治療されていた。

 

「無視していいぞ」と初代が言い、それを聞いていた玉龍の『酷ェ!?』という声を無視する形で「さて」と呟き、動きを止めた八坂を見据える初代。

 

 

「どうしたもんかねぃ。オイラの仙術で邪な気を取り除いてもいいんだけどねぃ…」

 

 

それでは時間がかかりすぎると初代は悩む。

先程言った通り、すでにこの異界は崩壊の兆しを見せ、今もカルナが入れた罅が広がり次元の狭間が顔を覗かせている。

 

 

「斉天大聖、オレのこれ(・・)は使えないだろうか」

 

 

自分自身。つまり今は見えない弥々にも与えた鎧を指差し、カルナは提案する。

 

 

「駄目だ。そこの嬢ちゃんは良かったが…九尾(・・)じゃあまりにこの国の神々に近すぎる(・・・・)。使えば高天原は、あのお姫さんを裏切り者として、この京都の地を見限るだろうねぃ」

 

 

八坂、そして弥々を含めた妖狐という種族は、この日の本における豊穣神“宇迦之御魂神”の眷属であり、末端も末端であった弥々程度ならばともかく妖狐の中でも最上級、つまりもっとも“宇迦之御魂神”と繋がりが深いと言える八坂では、スーリヤの加護を与えてしまうワケに行かぬと初代はカルナに説明し、再びどうしたものかと思慮していると――突如、イッセー達の方を思い出したかのように顔を向け。

 

 

「赤い坊や、そういやお前さん、女の胸の内が聴ける能力があったよなぁ」

 

 

“レーティングゲーム”は今や、各神話の娯楽となっている。そして娯楽とは即ち、暇つぶしには丁度良いバラエティ番組(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ということだ。また、初代も“悪魔の駒”を使った疑似戦争(命を賭けると軽々しく口にするお遊び姿)を下らないB級映画のように眺め、その中でイッセーの『乳語翻訳(パイリンガル)』があったなと思い出した。

 

 

「え、えぇ、ありますけど…」

 

「そうか、それが一番手っ取り早い。手伝ってやるから、そこの小さな嬢ちゃんとあの九尾のお姫さんに掛けろや」

 

 

まさかあんな下らない技が、こうして役に立つ日が来るとは!

何が起こるか分かったもんじゃねぇと、初代はやれやれと首を振りながらイッセーに命令する。

 

どこか納得のいかないような顔をするイッセーだが、重ねて言うが時間がない事は確か。「いけぇぇええ!!『乳語翻訳(パイリンガル)』ッ!!」とイッセーが叫び、同時に【赤龍帝の鎧】が解除されたのを確認し、初代はしゃがみ込み、トンっと軽く地面を叩く動作を見せる。(はた)から見れば何をしているのだろうかと疑問に思うところだろうが、様子を見ていたカルナには分かる。

明らかに変わった辺りの雰囲気を作り出したのは、間違いなくこの男だと。同時に法衣から覗く包帯へと目をやり。

 

 

「それは恥からか?それとも…」

 

「オメェさんとの約束を忘れない為に、文字通り身体に刻んでいるのさ。それに勲章ってのは、これ見よがしに晒してこそだろ?」

 

 

もはや自分の仕事は終わったといわんばかりに、煙草を咥える初代。

あの日から煙管は一度もやっていない。吸えば何だか、あの日から抱くこの思いが吐き出されるような気がしたからだ。

 

初代はカルナに顔を向けず、ただ前を向き、イッセーの『乳語翻訳(パイリンガル)』によって届くようになった声を、必死に母親にかける九重へと視線を固定している。

 

『覚えているか、あの約束を』『まだ持ってくれているか、あの証を』――聞きたい事など山ほどある。しかしそれではこの男を信用していない事になるのでは?と、初代は燻る思いを煙へ込めて、静かに吐こうと火を付けようとすると――横から手が伸び。

 

 

「無論、忘れた日など一度も無い。次はオレも本気で、お前を迎え撃つ」

 

 

指先に火を灯したカルナが代わりに火を付ける。これは良いものを見せてもらった礼だと言うように。

認められたような気がした。今もまだ、追いついていないと断言できる…こんな雑魚でしかない自分を確かにこの大英雄は、挑戦を迎え撃つに相応しい相手と認めてくれたのだ…っ!!

 

パァァアアっと辺りが光に包まれ、その中から人の姿となった八坂が出て来た。どうやら九重の()いは、確かに届いたらしい。見ればその光景に感動した、グレモリー眷属達が涙を流しているではないか。

初代もまた、別に意味で溢れそうになった思いを、男がそう簡単に涙を見せてなるものかと法衣で素早く拭い。

 

 

「ま、何はともあれ解決だねぃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トントントン、クツクツクツ――台所を心地良い調理の音が包み込み、女はその中央で、まるでオーケストラの指揮者のように、忙しなくその腕前を振るう。

手にはリズムを刻む包丁が握られ、彼が育て収穫した野菜を食べやすいサイズへと切っていき、その横では鍋蓋が跳ね、料理が出来たと自己主張をしている。その様子はまるで、彼女の今の心境を現しているかのだ。

 

鼻歌を歌いながら、着物の袖を紐で縛り、調理を続ける女。その頭には獣の耳が生え、臀部からはこれまた毛並みの良い尻尾が左右に揺れている。女がどれだけ御機嫌か、それだけで窺い知れるというものだ。

 

味見用の小皿を、そのふっくらとした艶やかな口元へ近づけ味を確認。いい塩梅だと皿へと料理を移し、折角できた料理を落とさぬようにと静かに彼が待つ、居間へと持って行く。

 

そこにいたのは女の身である己からしても、羨ましい程に白い肌と処女雪のような印象を与える髪の色をした、細身の男性。

その姿が見えた瞬間、女――弥々は誰もが見惚れる程の、幸せとはまさしくこれだと思わせる優しい笑みを見せ、愛しい男の名を切に願うように囁く。

 

 

【カルナ様――】

 

 

 

「――悪いね(・・・)オイラ(・・・)はあの大英雄様じゃねぇんだ」

 

 

だが帰って来たのは望んだ声音ではなく、酷く皺嗄れた、弥々が全く知らぬ声。

 

 

「…ッ誰ぞ!?」

 

 

寝かされていた布団を蹴飛ばし、声の持ち主から離れた部屋の隅へと瞬時に移動し構える弥々。

そこにいたのは身体中に包帯を巻き、その上から法衣を着てサングラスをかけたひどく小柄な、猿のような老人。その身体から洗練された気を立ち昇らせる様子から、弥々にはこの小柄な老猿が誰かすぐに分かった。

 

 

「まさか…闘戦勝仏様…?」

 

「おぉ、オイラはその闘戦勝仏だよ。そういうオメェさんの名は弥々で間違い無いねぃ?いやぁ、カルナが世話になった(・・・・・・)らしいじゃねぇか」

 

 

「良かった、良かった」と初代は呟くが…何がなんだか分からない。

何故あの初代孫 悟空がこの京都にいる?いやそれよりもここは一体…何故貴方程の御仏(みほとけ)がと、弥々は今だ回らぬ頭を抱えて問いを投げかけるが、初代は「その前に」とサングラスのブリッジを中指で上げ。

 

 

「色々見えてるぜ?こんなおいちゃんで良ければ、そりゃ頑張らせてもらうけどねぃ?」

 

 

何の事だと思い…そしてはたと気づく。

誰かに着せられたと見える襦袢は、先程これまた誰かに寝かされていたと思える布団を蹴飛ばした際に酷く着崩れ、片膝を立ていつでも動けるようにと身構えていたその姿は、ぶるんと豊満な胸が今にも零れ落ちそうになり、その太ももの奥も軽く初代が首を動かせば簡単に見える仕様となっていた。

 

 

「~~~っ!!?あ、あ…その…見苦しいものを…っ」

 

 

すぐさま後ろを向き、顔を真っ赤にしながら弥々は襦袢の裾を正していく。初代はその後ろ姿を眺め、ただヘラヘラと笑うばかり。そのまま「もういいね」と煙草に火を付け、吐いた煙がこの密室となった空間に漂う。

起きたばかり、そして獣の嗅覚を持つ身としては、今すぐ吸うのを止めてほしい所だが…今はそれよりも、どうしても聞きたい事がある。

 

 

「あの、闘戦勝仏様…その、カルナ様は…この弥々と共におりました、あの方はいづこへ…」

 

 

あの時自覚したこの恋慕は、今も確かに弥々の胸を焦がし続け、ギュっと胸元に添えられ握られた手は、彼女の思いを現しているかのように見える。

 

だが初代は突如、口元を真一文字へと結び、持った煙草の火元を障子へと、つまりはこの部屋の外へと向ける。開けろという意味なのだろうかと、この時初めて弥々はここが“裏京都”に存在する八坂の屋敷だと気づき、急ぎ障子に手をかけた…その時――。

 

 

「――っ!?う、ぁ……」

 

 

人化の術が半ば解け、狐の耳と尻尾がブルリと突如密室のはずの部屋の中にも吹き荒れた、凄まじい気配に充てられ逆立ち、あまりの圧に耐えられぬと弥々はその場にペタリと座り込み、恐る恐るといった感じでようやく隔てられた障子を開けた先。

 

 

そこにいたのは見覚えのある顔の数々。そのどれもが弥々が幼少の頃から見て来た、年老い皺だらけの顔馴染みばかりでありその手には…。

 

今はもう、振るう事叶わぬはずの巨大な金棒を携えた細身のやつれた鬼がいる。

以前は水神と敬われ、しかし信仰薄い今の世では、かつての神通力を振るえず皿の乾いた河童がいる。

神々の眷属でありながら、その身を妖怪に貶められ、今や人間の作った農具である鍬すら満足に振るえぬ老狐の姿がある。

 

他にもまだまだ、まるで百鬼夜行のような様がそこには広がっていた。

 

種族の全く違う彼らではあるが、幾つかその姿には共通点がある。それは誰もが今やひっそりと暮らす老いさらばえた、かつての栄光色褪せた妖怪達であり、その手には誰もが明らかに殺生を目的とした、思い思いの武器を握っているという事。

 

 

一体何がと弥々は縁側へと飛び出し、辺りを見渡す。するとようやく、彼女は愛しい思いを連ねる男の姿を見初めるが…言葉を、彼の名を呼ぶことができない程に、弥々はその眼を見開き――。

 

化外である彼女ですら目を背けたくなる程の、怨嗟渦巻く悍ましい穢れを黒衣として身に纏い、その上から神威吹き荒れる神々しいとしか言いようの無い、黄金輝く鎧を重ねたカルナの姿がそこにはあった。

 

すると向こうもこちらを捉えたのか。

 

 

「…良かった、無事で何よりだ」

 

 

耳介に心地いい声が響き、それだけで男であれば誰でも蕩けるような笑みを浮かべる弥々。

 

だが…それも次にカルナが口にする言葉を聞くまで――。

 

 

カチャリとカルナはその手に持った、かつて弥々にも向けた長槍を彼女が幼い頃から世話になり、家族に等しいと慕う彼ら老いた妖怪達へと水平に掲げ。

 

 

「弥々、オレを恨んでくれて構わない。だがオレはこれから…」

 

 

 

この者達を全て、お前の目の前で塵殺(・・)せねばならない――。

 




新年一発目から書き直しの連続よ…(汗
八坂を救い出したイッセー達のその後は、次回描いていきます(そして何故、このようになったのかも)

ん、英雄派?…そんな連中いましたっけ?


もうね、書いてて思った。
こういう風に描かないと、納得できずに更新すらしなくなるって。
『また展開が遅ぇ!どんだけ焦らしプレイが好きなんだよ!?』だって?
ハハっ、我慢しやがれくださいマジでお願いします何でもしまs――

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