その赤子は
今生における母と呼べる存在は娼婦であり、望まれぬ命でありながら赤子を殺すという大罪を背負いたくないが為、赤子は箱に入れられ川へと流された。それだけではない、その娼婦は生まれ落ちた我が子を気味悪がったのだ。
生まれたと同時にその身は黄金に輝く鎧に包まれ、また耳にも同様の輝きを持つ耳飾りを付けていた。
髪と肌は産んだ自分や、恐らく父親であろう
故に捨てた。後ろ髪を引かれる思いは確かにあったが、子供がいては客が寄ってこないし、何より自分が食べるだけで精一杯。
「…恨んでいいわ、許してとも言わない。でも…良い人に拾われてね?」
名も授けなかった我が子の額にそっと口づけを落とし、名も無き赤子はその後、子を授かることが無かった老夫婦が天が与えた子だと育てられることとなる。
◇◇◇
…生まれた瞬間から、今生における母に悪いが意識はしっかりしていた。
再び生まれた。それも父であるスーリヤの意とは違い、オレはオレとして。
生まれたばかりのこの身では、身動き一つとることが出来ず、川の流れのままに漂流を続けた。途中これが生存本能というやつか。己の意志とは関係無しに大声で泣き、小さなこの身は一生懸命訴えた。「ここにいる、腹が減った」と。
泣いては寝る、泣いては寝るを何度も繰り返し、次第に声も嗄れ何も口にしていないこの身は衰弱していった。もはや寝る元気も無い、泣く余裕も無い。しかし前世の記憶をもったこの頭は考えることを止めなかった。
様々なことが気になった。我が生涯最大の好敵手、アルジュナとの戦い。己は負け、我が友にして主ドゥルヨーダナはどうなったのだろうか?
(…いや、あの男のことだ。笑って敵に討たれたに違いない)
勝ちたかった、友の友情に応えたかった。しかし…後悔だけはない。
衰弱しきった己、赤子のソレとなった手を見やる。前世では槍を弓を引き無骨にしてマメだらけだった手が今や本当にここにあるのかと思うほどに柔らかい。手だけではない。微かに見えるこの身体には、再び我が父、太陽神・スーリヤの鎧を授かっていた__父はインドラの子であるアルジュナに負けた己を今だに愛してくれているのだ。それをこうして直に感じられただけで…嬉しかった。
今生における母親もそうだ。名も顔も分からぬ彼女ではあるが、こうして己を殺さず更には額に口づけと愛情を示してくれたではないか。
(なら…充分だ。生まれて幾日の命、我が父と名も知らぬ今生の母には悪いが短きこの命、もう充分に貰い過ぎた)
父スーリヤには悪いが、そもそも己は前世を十分謳歌した。返せぬほどに貰い受け、偉大な父と共にあったではないか。
眼前には薄く広がる暗闇、しかし箱の間からは、確かに父スーリヤを感じる太陽光が己を優しく温め、今生の母が寒くないようにと暖かく、柔らかい布で包んでくれている。これ以上はあまりにこの身に不釣り合いだ。あぁ、だが……。
(偉大なる父スーリヤよ、この不義理な息子を許せ。オレは…貴方の気持ちを無碍にしてしまった)
眼を閉じ、生を全うしようとした瞬間…突如目の前が眩しくなり、太陽に包まれた気がした。
(父スーリヤよ…オレに生きろと…そう…仰る…か)
◇◇◇◇
それはたまたまだった。
人より獣の方が多い山間部、上流には都市があり、近年発展と共に川の水は汚れ人が徐々に住まなくなったような場所に取り残されたように農業に励む老夫婦。彼等には子がいなかった。
子が出来ぬ妻を夫は支え、また妻もこうして中高年に差し掛かってもなお愛し、幸せに暮らしていた。
それでもつい望んでしまうのだ。もはや成せぬと分かっていながらも子を、例え血が繋がらずとも、愛情を持って接したいと思える存在が。
彼等は農業に励む一般人であり、山間部に佇む地に世界最大の信徒を誇る某宗教の教えは存在しない。
彼等は自然と共にあり、ゆえに最も信仰するは天より恵みを与えてくれる太陽。即ち太陽神・スーリヤだ。
――ある朝、妻が起きると同時に信じられないといった顔で言ってきた。「スーリヤから神託があった」と。何でも今日、太陽が最も昇る時間に川へ行き、そこで捨てられた幼子を我が子として育てよと。
確かに私達が最も信仰するのは自然の恵みを与えてくださる太陽神・スーリヤだ。そして子供も欲しいと思ってはいたが…本当だろうか?
今一度妻に確認するも、彼女もどうやら半信半疑らしい。
兎に角、スーリヤからの思し召しであれば確認しないワケにゆかぬと、いつものように昔と比べ、痩せ細った畑を耕し太陽が最も昇る時間、昼頃に近くの川へ行くと――。
「…おぉ、あれは!」
妻の肩を抱き、信じられんと眼を見開く。
確かに防水加工が施された箱が流れてきており、何よりその箱にいるであろう赤子を守ろうと後光が常に差しているではないか!
濡れることも気にせず、急ぎ箱を川から出してみると…神託の通り、中には生まれたばかりであろう赤子が入っていた。
眩い輝く黄金の鎧らしきものに包まれ、どれだけ長い旅路だったのだろうか。顔と髪の毛はまるで幽鬼のように真っ白だ。
微かに呼吸音のようなものが漏れているため、かろうじて生きている…つまりいつ死んでもおかしくないと悟った私達は、急いで家畜として育てていた山羊の乳を布に染み込ませ与えた。
その間、妻が絶対に落とすまいと腕の中に抱いたが、その赤子の肌と同化しているように見える鎧が痛そうだ。それでも妻は必死の表情でその赤子を生かそうとしたし、それは私も同じだった。
しばらく経ち、ようやく峠は越えたのか、ケプと可愛らしい音を立て、スヤスヤと安心したかのように眠りについたこの赤子を見つめ、妻と顔を会わせ決意する。
「きっと…スーリヤ様がお与えくださったのよ…」
「あぁ、きっとそうだ。神に感謝しよう」
妻が子守歌を歌う中、赤子が入っていた箱を隅々まで見るも包んでいた布以外何も無い。つまりこの子の名が分からないのだ。
それを妻に伝えると、妻はしばし赤子に着いていた耳飾りを見つめ。
「…カルナ。スーリヤ様には悪いけど、彼の偉大な英雄と同じ名を付けさせてもらいましょう」
「カルナ…か。そうだな、それがいい」
“カルナ”――そう名付けられた赤子は、しかし普通の家ならば薄気味悪がられるような子であった。
まず泣かないのだ。泣いたとしてもそれは普通の赤子のソレではなく、まるで泣かねば将来声が出なくなると知っているような、そんな感じで泣くのだ。
次第に身体が出来てきて、山羊の乳だけでなく離乳食を食べれるようになると、拾った彼等をただじっと眺め、時には外を――太陽を常に眺めるような、そんな奇妙な子であった。
しかし老夫婦は赤子を疎むことも、気味悪がることもせず
こちらを見てくれば静かに微笑み見返し、ハイハイを始めた時にはまるで我が子のように喜んだ。
しばらくして、徐々に声を出すようになるとその赤子はまるで喋るとはこういうことかと確かめるような仕草をし――そしてある日
「済まないが、あなた方に話がある。俺には前世の記憶があり、名付けてくれたこの名、確かに俺はカルナその人だ」
齢にして3歳、しかしその言動はすでに成人した男性のそれであり、静かな水色の瞳には確固とした意志を覗かせていた。
突然の告白、子供とは思えぬ態度に男の妻は驚き口元に手をやり、それを見たカルナは目を伏せた。
「…俺のような者を今生では忌み子と嫌うそうだな。俺を育んでくれた養母よ、情を持って接してくれた養父よ、太陽神・スーリヤに頼み、この地に祝福を願い出た。もう俺は歩く事ができる。出て行くことができる。…世話になった」
自分が分かっていた。転生した今の時代、この時代において己はあまりに
カルナは虚偽、嘘は言わないし考えもしない。ただあるがまま、思ったことを口にするだけだ。それは前世においてもそうだし、今もそうだ。
気味が悪いと自覚はある。何しろ前世がそうであったからだ。
疎まれ続け、しかし武を磨くことしかできなかった。生まれ変わろうと、この身に刻まれた経験は消え去っていないし、何より当時と比べ今の己は一度太陽神そのものと同化していたのだ。
かつてほど神秘はこの世界に溢れておらず、今のカルナは歩く魔力炉心が如き有り様であった。
その証拠に、カルナが来る以前では畑で中々農作物が育たなかったものの、今では比べ物にならないほどに豊作を毎年迎えていた。
更に夫婦の肌艶も良くなっており、健康そのもの。後にカルナを一目見た白音こと塔城小猫が言った言葉がこれだ。
『あの人の氣…何なんですか…星が…まるで太陽そのものが歩いているような…!?』
強大な力が災いを招くことを彼は知っている。ゆえに世話になった彼等に迷惑がかかる前に立ち去ろうと言葉をかけたのだが…。
立ち上がり、去ろうとしたカルナに次の瞬間痛覚が襲った。
「…ッ」
頬を叩かれた――どんな攻撃もその概念すら10分の1にまで下げ、とある世界において最古の英雄王ですら欲したソレが意味を成さず、カルナは久しく感じることのなかった痛みに放心すらしていた。
叩いたのは養父だ。
彼は顔を真っ赤にし、しかしその眼に涙を溢れんばかりにしカルナに物申す。
スーリヤの加護が欲しくてお前を育てたワケではない、カルナとして育ってほしくてカルナと名付けたワケではないと。
呆けるカルナを抱きしめ彼は言う。
子供が欲しかった。授かった。…忌み子だろうがカルナ本人であろうがそんなのは関係ない、お前は私達の大切な子である――と。
彼は憎くてカルナを叩いたのではない。妻を、母親を泣かせる我が子を叱る為、父親として不器用な彼は言葉ではなく、手を出してしまったのだ。
しかしカルナにとって、それはとても心が伝わった瞬間だった。
この鎧のことは誰よりも知っているし、信頼もしている。なにしろ自身の皮膚に等しいのだ。
その鎧が機能しない…つまりこれは攻撃ではなく、本当に父として、子を思うがゆえに手が出たのだと。
貧者として前世を過ごし持つものはこの身に宿った鎧だけであった彼は、他者が放つ言葉の虚偽を見抜く慧眼を持つ。だから分かるのだ――この二人は心の底から、己を思ってくれているのだと。
後に彼は己を保護しに来た帝釈天から聞かされた、『施しの英雄』という名を自嘲する。
【彼等こそ、真の施しを俺のような何も持たぬ男に無償で与えてくれた――その名は“愛”である】
同時に彼は思い出す。
あぁ、そうだ…あの時、己を拾い育ててくれたかつての養父母もこのように抱きしめてくれたのだと。
(…父スーリヤは、本当に良い縁を俺のような男に持って来てくれる)
ならば誓おう
「“カルナ”と…
その後カルナは10年と少しの間、この夫婦と共に暮らした。
農作業に汗を流し、時にはかつて研鑽を積んだ武を忘れぬよう棒を振るい、またある時は神話として語られ続けた己の生涯を話し野山に入り精が着くよう獣を狩り、更にある時にはいきなりやってきて「眷属になれ」とかワケ分からん蝙蝠のような羽を生やした人外相手に「真の英雄は眼で殺す!!」とインドにおける奥義をブッパして地形を変えたりと…まぁ、彼なりの青春を謳歌し、また夫婦は時々白目を剥きながらも健やかに育つ我が子の成長に喜んだ。
しかし…その日々は突如終わりを告げることとなる。
それは日課としている正午の沐浴の際だった。
夫婦が暮らす家の近くには、カルナが捨てられた川が流れており、正直綺麗とは言えず、また飲み水としても使えない。
しかしカルナは「自然が与えたもうた水だ」と関係ねぇと入ろうとしたが、流石に身を清める行為にその水だけはいけないと夫婦が抗議、以降は小さなプールにカルナが持つ太陽の神性を持って煮沸消毒した水で行うようになったのだが……。
いつものように沐浴を行うカルナ。その姿は確かに神性を感じさせ、それを眺め本当の父親であるスーリヤの日を浴びることが夫婦の日課となっていた。
細く華奢な身体は少し不安を抱かせるが、健康そのものだ。この時間がいつまでも続けばいいと夫婦は太陽神・スーリヤに祈りを捧げていた。
ピクリ_と、静かに身を清めるカルナが突如この山間部にまで伸びる道を睨みつける。何事かと夫婦が問いを投げる前に――。
「父よ!我が偉大なる父太陽神・スーリヤよ!!お願いだ、彼等を守りたまえ!!」
天を仰ぎそう吼えるカルナ。するとまるで聞き届けたと言わんばかりに、後光が彼等がいる家を照らすではないか。
それを見届け、カルナは悲しそうに…彼等夫婦のように長年連れ添った相手でしか分からぬ程度に顔を歪め。
「済まない…あなた方を巻き込んでしまった」
今まで彼等の前では出すこともなかった武神の槍を構え、カルナはこちらに近づく相手を射殺さんばかりに見つめる。
「――相変わらず、お前どういう子育てしてんだよ…スーリヤ。その槍をこの俺に対し向けるか…なぁ、カルナ」
ただ声を発しただけ…しかしそれだけで山は胎動し、辺りにいた獣は逃げるか死を悟り、中にはその
まず目がいくのはそのド派手なアロハシャツだろう。五分刈りの頭に丸レンズのグラサン、首にはどう見ても適当にかけた数珠がジャラジャラと音を鳴らし、大股でこちらに近づいてくる男の名は――。
「…インドラ、何をしにきた」
“インドラ”と、カルナは声に出し、聴いていた夫婦は驚愕する。
“インドラ”――その名は義息子であるカルナ、その死を定めた戦神であり、カルナの実の父親であるスーリヤの好敵手のはず…。
「その名で呼ぶな、今は須弥山の帝釈天と名を改めてんだ」
うっとおしそうにそう呟きながら、ガリガリと頭を掻き――直後上空、つまり太陽を見つめ。
「ムカつくクソ野郎の気配がプンプンするから、念のため俺自ら顔を出して正解だったな。スーリヤ…誰を見下ろしてんだ?アァ゛!?」
怒気を携え、神々の王と呼ばれる覇気を辺りへの影響も気にせず立ち昇らせる。
が、見るからに古い夫婦が住まう家、そして彼等には何の影響もない。同格であるスーリヤがその権能を駆使し、またスーリヤと同化していたカルナもまた、その身に宿す鎧を持って打ち消していた。
「…ッチ、ムカつくぜ。テメェカルナおい、何で俺が取り上げたその鎧また持ってんだ。てか何でテメェ、またその姿で転生してんだよ。つか転生とかマジザけんな」
「父が授けてくれた。一度は輪廻の輪に加わったようだが、生憎あの程度では俺を俺として転生させるのが精一杯だったようだ」
「あームカつくわ、そういえばテメェはそういう喋り方だったな」
サングラスの奥が光ったように見え、サっと帝釈天が手を前にやり、カルナもまた警戒を示す…が、帝釈天はただ手をクイっと、まるで何かを寄こせと言わんばかりに動かすだけだ。
「――?何だ帝釈天、踊りに誘いたいのか?済まないが、俺はキサマと踊る趣味はない」
「俺だってそうだわバーカ!!てかどう見れば俺がお前をダンスに誘ってるように見えんだよ!?槍だよ槍!!鎧があるなら俺の槍返せ!!」
今カルナが握る神槍、それは本来帝釈天ことインドラが、鎧と引き換えに彼に授けたものであった。
あの鎧がある限り、息子であるアルジュナは決して勝てない。むしろ次に負け、首を取られるのはアルジュナだと悟ったインドラはバラモンに化け、沐浴の最中頼まれれば断れないカルナに鎧を求めたのだ。
しかしカルナが纏う黄金の鎧は、スーリヤが決して他者に盗まれないようにと身体と同化させ、つまり鎧はカルナの皮膚に等しい。流石の施しの英雄もその頼みには難色を示すもインドラは何度もねだり、ついにはナイフを用いて皮膚ごと削り与えたのだ。その無表情に微笑みを携えて。
これに驚愕したのはインドラだ。それと同時に己の行いに恥を覚え、代わりにと与えたのがたった一度だけ、世界すら滅ぼす力を行使できる神槍。
ゆえに帝釈天は鎧があるならノーカンだ。だから返せと言う。
それを聞いた夫婦は激怒した。与えた物を再び返せなど…それでも神々の王か!!と。
「ウルセぇ、部外者は引っ込んでろ。そもそも…人間如きが俺様に口を開くな」
殺気がスーリヤの加護すら貫き、夫婦を襲う。ただ睨まれただけ…しかし絶対にして最強格の武神のソレはただの人間には到底耐えきれるものではなく、夫婦は心臓を握られたような感覚に陥った…が。
「ほう?中々だな」
それでも気丈にも、帝釈天を睨み返す。
「ここは太陽神・スーリヤを崇める地」「お前など呼んでいない、息子の前から去れ」と過呼吸を起こしながらも必死に訴える。
これに驚いたのは帝釈天だ。まさか
「止めろインドラ、分かった、返す」
ブン―と特に思う事のないように放られた己の槍を、帝釈天は納得のいかない顔で掴む。
「あぁ、それは確かにお前の言う通り、俺のような者には不釣り合いな代物だ。何より我が父スーリヤから再び鎧を授かり、あまつさえお前の槍までとは…強欲に過ぎる。だから返す」
その眼は真実のみを語っていた。本気でこの馬鹿はそう思っていると理解し、同時に思い出す。コイツはウソを言わず、言葉を装飾することなど無い男だと。
「…チッ、本当に面白くねぇ奴だよ、お前」
呟いた言葉が聴こえず、カルナが首を傾げると――。
「――何の真似だ」
何と言うことはない、帝釈天は己の槍を再びカルナに放り投げたのだ。
「いや、確かにあの夫婦の言う通りだって思っただけさ。あの時テメェから取った鎧は今も俺様の下にある。それに…一回ぽっきりしか使えねぇ俺の権能なんか今更いらねぇ」
「…もう一度問うぞ、神々の王よ。何故その
そう、帝釈天は受け取った槍の状況を確かめ、更には一度きりしか使えぬ力を更にもう一度――つまり二回使える状態にしてカルナに渡したのだ。
『貧者の眼』を持つカルナでも、流石に神々の王の考えまでは分からない。
更に警戒を強めるカルナに対し、逆に帝釈天__インドラはただ肩を竦め。
「いやなぁに、お前に会いに来た」
「嘘だな、それだけでお前程の存在が降りてくるワケなどあるまい」
「俺はお前のオヤジとは違うぜカルナ?……あぁったく!自分で行動しておきながら鳥肌が収まんねぇ!」
一度だけしか言わねぇと大股で近づく帝釈天を前に、カルナは戦闘態勢を解いた。そこには闘気も殺意も何も無く、ただ本当に何かを言うだけだと理解したのだ。
それは事の成り行きを見ていたスーリヤも同じだ。すでに加護を解き、太陽は燦々と照り続けるだけ。
そして…帝釈天はインドラの時代であるなら、彼の神々の王の在り方を知る者ならば、絶対に信じられないようなことをカルナに告げた。
「太陽神・スーリヤの子、転生者カルナよ…俺は…
―――お前を保護しに来た」