施しの英雄   作:◯のような赤子

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……(;゚Д゚)右良し、(゚Д゚;)左良し…うん、誰も気づいていないな!
(いやホントお待たせしました(汗)

感想をくださった方々も返信遅れて本当に申し訳ないです。

サブタイはあの歌からです。多分ちょくちょくこうしていきます
(リトルグッバイにしようか凄く悩んだよ…)

これだけお待たせしてしまい、本当に申しわけないです。
本当は『令和』に変わる前に何とかと思っていたのですが…駄目でした(汗

途中で何か思い浮かばなかったり、仕事や仕事が忙しかったり、冬の地方のコミケに向けてサークル作ったり、なろうにもオリ小説投稿しようかと設定考えたり、とうとう某スタイリッシュデビルハンターのゲームを我慢できなくてやったり(マジサイコーでした。取りあえず暫くブラッディパレスから出る気ないです)
こんな感じになりました(汗
あとはあれですね、裏設定がまた大量に出来たりとか。

取りあえずようやく京都編一応の終わりです。
場面転換がいつも以上に多いです。

「あれ?」と思われる場面が多々あるかもしれませんが…勘弁してくだちぃ(泣



語り継ぐこと

押しては返す波のように、されどこの波、帰る場所無し。

力を持たぬ、小さき強者(魑魅魍魎)達がその命を持って開幕を告げたこの死闘。迫り来るこの人外織り成す波濤が、カルナの眼には止まっているかのように遅く見える。それはクシャトリアとして幾重もの戦場を潜り抜けて来たが故の技巧か。

 

 

「この国の者は皆、良い顔で死ぬのだな。そのように、死ねるのだな」

 

 

老妖達が浮かべる最上の笑み。例えこの殺し合いが終わり、名を知らずともせめて顔だけはと、カルナは一人一人を網膜に焼き付ける。その中の一匹を視界に捉えた時、カルナは更に槍を握りしめ、構え直しその妖怪――あの時カルナに一晩を貸したあの老狐と、カルナは目で僅かばかり語り合う。

 

 

“オレはクシャトリアだ。この誉れある戦いにおいて、オレは貴方達を必ず殺すと父スーリヤの名に誓った。だが…貴方亡き後、あの地はどうなる?”

 

“なぁに、何の心配もあらへん。近々別の土地から農家をしとった人間が引っ越してくる予定やった。きっと儂の畑を継いでくれる。活かしてくれる。やから…っ!”

 

 

「本気でかかってこいやッ!!人間――ッ!!」

 

「あぁ、オレの全てを持って、お前達を焼き滅ぼそう――ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――…始まってしまったか」

 

 

鋭い嗅覚を持つ八坂の鼻孔に突如血の匂いが飛び込み、それが人のものではなく、仲間である妖怪であると理解し、つい顔を歪めてしまう。

本当にこれで良かったのか、もっと他に何かなかったのだろうかと悩むも答えなど出ず、むしろ考えれば考える程、あれしかなかったと大将として肯定していく冷静な己の一面に、八坂は更に顔を歪め、それを誤魔化すように今も気絶する弥々の頭を愛おしそうに撫でていると――闘いのものとは違う、この屋敷に近づく足音が聴こえてくる。

 

 

「来たか」

 

 

そう呟き弥々から顔を上げると、そこにはこの屋敷を離れていた幹部達に引き連れられ、先程の老妖達を若くしたような顔の者達が大勢八坂を見ているが、さもあらん。

この者達は皆、彼らの息子や孫、親族に位置するのだから――その面もちは誰もが陰鬱としており、それは幹部に連れて来られる道中、何故老妖達が死なねばならぬのかを語られたのだろうと察する事は難しくない。

 

全てはこの八坂が至らぬためと、彼女が表に出さず謝罪をする。が、どうしても一つ、分からない事がある。

 

 

(――?鞍馬様(・・・)は何処じゃ…幹部と共に行ったのではないかや?)

 

 

この京都、しいては西日本の妖怪を束ねる立場にあるのはこの八坂に相違ない。だがそれも表では…だ。

八坂の母、その更に前から…平安京の時代より遥か以前よりこの地に存在し、時に土地神とさえ敬われた大妖中の大妖怪――たかだか龍王程度(・・・・)の力しか持ち得ぬ八坂では、逆立ちしても決して敵わぬ格上の存在…それが大天狗第三位に名を馳せる、鞍馬山僧丈坊。そんな彼が何故いない?と一抹の不安を八坂が覚えていると。

 

 

「スマンな、少し寄り道をしておったのでな」

 

 

謝罪と共に鞍馬天狗が姿を屋敷の方(・・・・)から現し。その手には何と無造作に…。

 

 

「離せ!離すのじゃ、じぃじ!!」

 

 

熱に魘され寝ていたはずの九重が。瞬間八坂の目は血走り、先のイッセー達と操られ戦っていた時とは比べものにならぬ程の妖力を晒し、怒号を発する。

 

 

「キサマァァア!!鞍馬ァ!!何故じゃ!?その子は今、寝ていないと…っ!?」

 

「ふん、下らぬ情よな。今のでよう分かったわ、アヤツ等は死んで正解であったとな」

 

 

娘を思う母の気持ち。だがそれを今の鞍馬はただ鼻で笑うだけだ。

 

 

「堕落しておる、放棄しておる。…一体何時から我々はここまで弱くなった、一体何時から…キサマ等は妖怪としての誇りを失ったというのだ…っ?」

 

 

ピシリ――と敷き詰められた小石が急な問いかけが成される中割れる。その様子に家族の死を際悩んでいた若者達と八坂、襟を掴まれ宙に浮かんだままの九重も顔を青くし、その様子が更に鞍馬天狗の機嫌を悪くさせ、鞍馬はふと、八坂が抱きかかえ、今も気絶する弥々を指差し。

 

 

それ(・・)の所為ぞ、今アヤツ等が死にゆくはそこの弥々の所為、しいてはそれを命じた儂(・・・・)の考え無しの行動故…さぁ、どうする?下手人はここにいるぞ?あの者達が死す理由(元凶)はここにおるぞ?」

 

 

次に遠く、倒壊を続ける轟音立ち上る方を指差し、最後に己を指差す。だが誰も動かない。

 

今何某らの行動を起こせば、必ず鞍馬が己を殺しにかかる――そう思うよう、鞍馬が凄みを見せていたが故だ。それが鞍馬の狙いであり、彼らが何も行動を見せなかったが故に――鞍馬は今までが間違いであったと悟った。

 

 

「どうした、こんのか?その程度の覚悟…儂のような身内に立ち向かう意気込みすら見せられぬ者が、アヤツ等の死を厭う資格がある?」

 

 

どれほど覚悟したと思うておる、どれほどの覚悟を持って、あの者達が死に(そうら)へておると思う――その言葉と共に、鞍馬は轟音と共に土煙を上げる死合いの地に、再び指を差し。

 

 

「だからあの者達は死ぬのだ。誇りを忘れ、ただ生きるだけのキサマ等に、真の妖怪の姿を見せる為に死ぬのだ。お前達(京都)の為に…儂が殺したのだ(・・・・・・・)…ッ!!」

 

 

最後の言葉、それは不甲斐ない己に向けた言葉であった。その証拠に鞍馬の眼からは血が流れ、口元はどれほどきつく食い縛っているのだろうか…血がいずれ大河を生み出す山の湧き水のように、止めどなく流れ続ける。

 

 

「見届けよッ!!歯を食い縛り、しかし括目して見届けよッ!!死に逝く最期、御見事と讃え、憧憬を抱き見届けよッ!!…いづれお前達も死ぬのだ…今から人間に打ち滅ぼされる彼らのように、お前達は妖怪として(・・・・・)死なねばならんのだ!!」

 

 

震える指を差したまま、断固とした意志を示した鞍馬は次に、九重を庭へと放り。

 

 

「姫よ、次代を担うであろう、次の九尾よ。儂も忘れておった、忘れてはならぬものがある(・・・・・・・・・・・・)と…人の世が明る過ぎ、他神話の流れを止める事が出来なんだが故に…儂等は妖怪であると――」

 

 

人に滅ぼされる定めにある、化け物であると――鞍馬はそう締め、放り出された九重は熱に浮かされ辛い我が身を、それでもしかと鞍馬へと向け。

 

 

「そん…な…それでは私達妖怪が、まるで“悪”のようではないか…ッ!」

 

「然り、儂等はどこまで行っても化け物に過ぎん。好き勝手に生き、人に淘汰される…元より妖怪はあの時代、平安に滅びる運命にあった(・・・・・・・・・・・・)。そこに千年京を生み出す為、太極の陰の役割を与えられ、偶々生きる事を許されただけの種族に過ぎん。あぁそうじゃ、儂等は人間にとって、絶対の悪(・・・・)でなければならん」

 

 

小さな子供に鞍馬の語りのなんと、凄まじき事。じぃじと可愛がってもらっていた九重にとって、今の鞍馬天狗が見せる豹変ぶりは信じられないものなのだろう、林檎のように紅い頬はもはや、真っ青に変わっていた。

 

 

「いや…じゃ、そんなの…人間なんか…母上も皆も虐める人間なんか…っ!」

 

 

鞍馬の言葉を認めたくないのか、九重は逃避とばかりに恨みつらみを、今の血煙を生み出しているであろう、鞍馬の言葉が真実であれば、殺し続けるカルナ(人間)へと向け涙を流す。だが…。

 

 

「愚か者がッ!!使命を全うする彼らを羨む事はあれど、望む最後に付き合うあの者を恨む事だけは断じてならん!…見届けよ、それが我等残された者に唯一許された事よ」

 

 

そう締めくくり、途端に屋敷の屋根瓦が幾つも木の葉のように、突如吹き荒んだ突風に煽られ飛んでいく。それは神通力からなる風であり、今の鞍馬の心情を所実に語っていた。

最後に鞍馬は今だ気絶する弥々を一瞥。言葉もかける事なく縁側へと近づき、気圧された若い妖怪達は黙したまま、道を譲る。もはや彼らが言葉を発する事など無く、視線は遥か遠方へと固定されていた。

 

 

 

「いやぁ、良かったねぃ。茶番(・・)ご苦労さん」

 

 

隣に座って来た鞍馬に、初代は笑いながらそう言葉を掛ける。

全ては残された者達を守るため、いずれ須弥山…しいては人間に抱くやもしれぬ怨恨を自らに向けさせる為の、鞍馬が描いたシナリオなのだ。

 

 

「…邪魔しないでいただき感謝する」

 

 

煙草を一本貰えないか?――先程とは打って変わり、静かな雰囲気でそう求める鞍馬に初代は一本、箱から差し出し火を付ける。

 

 

「――っ!ゴホ…っ。…大陸の煙は不味いのだな」

 

「おう、安モンだからねぃ、コレ」

 

 

おどけるような仕草に、鞍馬は黙してもう一口、煙草を吸う。そんな彼らへ向けられる視線はなく、誰も彼もが轟く音に集中を見せている。

 

 

「…これがアンタの望みだろぅ?鞍馬の」

 

 

その様子をサングラスの奥から見た初代は、鞍馬へと語り掛ける。

 

 

『今を生きる者が、終わりゆく古い者達を見届ける』――ここに込められた意味は決して言葉や文字では到底表現できないものがある。

 

鞍馬天狗は初代の言葉に応える事なく、ただ前を見据え友の死に際をその身に感じ、一人頬を濡らす。

 

山と共に在り、土地神としての側面を持つ鞍馬山僧丈坊は本来、歳を取ることの無い、永遠に無垢なる少年と言い伝えられている。が、この場にいる鞍馬本人は確かに年老い、見事な髭を蓄えている。それは何故か?

 

 

「時間というものは、本当に恐ろしいものだ。怖いものなど何一つないと見得を張っておった者達が、いつしか細くなりゆく己が腕に嘆き悲しみ、人前に出る事すらならなんだ」

 

 

そう、全ては友の傍に少しでも寄り添うため。その為だけに容姿を変え、妖力を時代と共に徐々に隠し、己を京都が分裂せぬよう楔となるべく八坂の一族を持ち上げ、一歩俯瞰した立場である副大将として見守って来た。

 

 

「初代殿、帝釈天に言伝を頼んで良いか?『あの人間を遣わせていただき、感謝致す』と」

 

 

涙をとうとうと流し続ける鞍馬だが、その実彼は老妖達の死を嘆いているワケではなく、むしろ羨ましいとさえ思っていた。

妖怪は人と在らねばならぬ――人に退治され、その時初めて妖怪として生まれた意味を持つことができる。その意味では、己の死がつまり土地の終わりと同意である鞍馬は、この場で誰よりも実力を持ちながら、その実、誰よりも不自由な存在とさえ言えるだろう。

 

妖怪とは、ここまで美しい涙を流す事ができるのか――かつては同じ妖怪だった初代は、鞍馬の言葉の裏を感じ取り、コクリと頷き帝釈天が先兵として、この地の者達をボスは必ず許すだろうと思いを馳せ…弥々を一瞥。

 

 

(まぁ…アレだけ(・・・・)は、もうどうしようも無いけどねぃ)

 

 

 

 

 

 

息を吐かせぬ連撃とは斯く成りや――。

 

極彩纏いし極楽鳥が宙を舞う。その度に、斬々バラりと散るは華。

椿が散る。烈風怒涛が吹き荒ぶ度、嵐には耐えられぬと首が落ちる。

 

舞うは戦士、散るはげに(・・)醜き首。

鮮やかな羽毛にも見える、しかし絶えず形を変え尾を引く外套を翻し、一人のクシャトリア(カルナ)は求めに応じ、その積み重ねた武勇を惜しげも無く披露する。

 

 

今はまだ、鬨の咆哮から幾分すら起たぬ短き時間。しかし、すでにそこには死屍累々、死山血河の光景が…塵殺された老妖達の亡骸が転がっていた。

 

槍を一振りすれば10の人影が20に増え、槍を振り下ろせば10の人影が消滅する。その度に夥しい血飛沫が辺りを舞い、カルナの色の抜け落ちた髪と肌を深紅に染め、神域で振るわれる槍が周囲を朱色に変えては更に細分化を促し、ついには霧を形成する。

 

 

「これ程とはな…」

 

 

驚きの色が垣間見える呟き――それはたった今、上段から地面に串刺す形で老妖を槍で貫いたカルナの声だった。

ゴボリと真っ黒な血を口から吐き出す一つ目の老人。本来仲間、家族であればその様子に奮起し、助けようとするものだろう。

 

だが…妖怪とは、全く持って度し難い。

 

 

「そのままじゃ!!」 「おぉ!!そのまま刺されて武器を構えさせるな!!」 「とくと逝け!!離したらお主、あの世で情けないと馬鹿にし続けてやるでなぁ!!」

 

 

いくら槍に貫かれた一つ目が苦悶の表情を浮かべようと、そこにあるのは罵詈雑言。「囮で有れ」「そのまま(はりつけ)で在れ」「死ね」「そのまま死んでしまえ」――今だと言わんばかりにその顔に笑みを張り付かせ、我先にとカルナに群がり始める化外の集団。言われた者はたまったもんじゃない。罵詈雑言の数々の中、槍に貫かれ続ける一つ目は――。

 

 

「お゛…ッ、おぉ――ッ任せろ!!」

 

 

嗤っていた。今の彼の様子はまさに、敗者の構図。だが一つ目を爛々と輝かせ、槍を自らのハラワタに勢いよく、更に深く突き刺す。

 

 

「お゛ッ!?お゛ぁ゛ぁ゛あ゛ア゛あ゛あ゛!!」

 

 

それは果たして、喉から出せる声なのかと言いたくなる程の叫び声。歯が砕ける程に食い縛り、余りの痛みに意識が飛びそうになりながらも。

 

 

「あ゛ァ゛ア゛ッは、かか…ッ、クカカカカカ!!!」

 

 

嗤う。

砕けた歯を血と共に吐き出し、まるで己こそが勝者であると言わんばかりに嗤い続け、鬼はカルナを下から見上げ(下し)

 

 

「見事!!おぉ、まっこと御見事!!首をやる(・・・・)!!持ってけ人間!!」

 

 

まるでこの状況など知らぬと言わんばかりに、一つ目は嗤い続ける。周りもそうだ、誰も彼もが人で無い(・・・・)化外特有の壮絶な表情を浮かべ、全方位からカルナに襲い掛かる。しかし…彼らは知らない。

 

人と神の間に産まれた半神半人、あのインドラでさえ魅了した男である事は知っている。しかし彼らは知らないのだ。

 

 

その男が真の英雄(・・・・)であることを――。

 

 

「ッ!ぬっ、おぉ!?」

 

違和感を感じた。まるで地面がせり上がってくるような…それでも構うものかとカルナに迫る老妖達の目の前に、突如壁が迫って来る。その正体は土壁――否、それは巨大な岩盤の塊。

それは抜けぬならば全てひっ包め、無理やり持ち上げればいい(・・・・・・・・・・・・)とカルナが自身の膂力に任せた文字通りの力技だった。

 

 

「ふん――ッ!!」

 

 

短く鼻から息を吐き、カルナは悠々と一つ目の老妖を突き刺したまま無造作に蹴りを放ち、あまりの脚力に岩盤は砕け、まるで散弾銃の如く目の前に迫っていた者達に突き刺さる。死に逝きながらもあまりの埒外の光景にその一つしか無い目をこれでもかと見開いていた一つ目の老妖は、その蹴りで槍から抜け落ち、そのまま彼らが長年住んだ長屋を次々と穿ちながら吹き飛んでいく。だがカルナは真っ直ぐに彼が飛んでいった方向を見やり。

 

 

「では、その首確かに貰い受ける」

 

 

逆手に持ち替え、槍を投擲。

穿たれた穴を更に広げながら飛翔し、遥か遠くで血飛沫が盛大に舞う。恐らくは宣言通り、彼の首は今頃胴体を離れているのだろう。

 

この凄惨極まる光景を前にし、カルナを背後から奇襲しようとしていた老妖達は足を止め――

 

 

()じゃぁああ!!」 「今が好機ぞ!!コヤツ、武器を捨ておったわ!!」 

 

 

――ることなく差し迫る。

家族が死んだ、大昔からの馴染みがたった今、その命を散らした…で?だからどうした(・・・・・・・)

元より死ぬ為に来たのだ、戦いの中で、確かな誉れを抱いて死ぬ為に、今の今までこうして生き恥を晒してきて、ようやっとあの者は死ぬ(旅を終える)事ができたのだ。ならば笑おう、あの者を羨み、あのように死ねるよう笑おう。

 

どうする?今のお前に武器は無く、こちらは寄って集ってキサマを相手取るに恥すら覚えぬ人でなしぞ?――笑みを張りつけ、そう問いを投げかけてみれば。

 

 

「ふむ、ではこうしよう(・・・・・)

 

問題など何一つ無いと、カルナは後ろを振り向く。途端、彼の目の前に迫っていたのは先程の意趣返しと言わんばかりの赤く巨大な壁。その正体は妖力で肉体を大きく変貌させた、一匹の赤鬼の握る拳だった。

 

以前、鞍馬天狗がイッセーの体幹を見て思った通り、妖怪等の人外はその身に宿す妖力や魔力で如何様にも膂力を補う事ができる。この赤鬼の本来衰え弛んだ腕がここまで瑞々しく、それ以外はそのままであるが故に身体の軸を崩しながらも殴れば鉄塊すら砕く剛腕を発揮できているのはまさにそれ。そしてカルナが先程驚きの声を漏らした理由もまさにここにある。

 

(うま)いのだ、戦い方が。上手いのだ、その熟練と言わざるを得ない、妖力の用い方が。その証拠に、その赤鬼の背後にはすでに足の筋を断裂させながらも妖力を足に込め、二度と歩けずとも良いと捨て身で追撃をかけようとする者共の姿が。

 

 

捕った!!――赤鬼の巨腕が確かにカルナの鎧に触れた…その瞬間。

 

 

「なッ!何ィ!?」

 

 

するりと赤鬼のその巨大となった腕にカルナは片足を引っ掛け(・・・・・・・)、まるでポールダンスを披露するかのようにそのまま回転しつつ腕を蛇のように這い上がり(・・・・・・・・・・)、舌の如く伸ばされた細腕が老いてもなお太い首に巻き付き、そのままカルナは鬼の首を圧し折る。更にその首を軸に逆立ちし、足に焔を纏い回し蹴りを放ち迫る老妖達を悉く燃やし尽くす。それは一切淀みの無い、数瞬の瞬きにすらならない僅かな時間の出来事…まさに絶技としか言いようの無い技を放とうと、カルナは油断無く構えを解かない。何故なら――。

 

 

 

“唖゛亞゛ア゛あ゛ぁぁあああア゛――!!!!”

 

 

「…流石に、驚く他に無い。まさか首を刎ねて(・・・・・)なお、向かってくる事ができようとは」

 

 

地を裂くような叫びとはまさにこの事としか言いようの無い、凄まじい咆哮。それはカルナの言う通り、先程槍で穿たれたはずの一つ目の首が巨大化し、それだけで飛翔しカルナへと向かってきたからだ。首だけでも生きていた者なら見て来た。殺しても死なぬ不死と言われる者なら数多く見て来た。だが…まさか首だけで動き、なお猛追して来る存在がいようとは…ッ!!

 

 

(まるでジャラーザンダだ、不死性ならばアレの方が上だが…まさかこの小さな島国で、あの男を思い出す程の存在がいようとは)

 

 

カルナは相対した中でも屈指の不死性を持った王、ジャザーランダを思い出しつつ、あの時のように、鎧を噛み砕かんと大口を開ける巨大化した生首に手刀を構え、カルナは中央から思い切り引き裂く。血が裏京都の地を、カルナを更に染め上げ、引き裂いた頭部の奥からまたもや歯を剥き出しにした笑みを覗かせる悪鬼が迫る。

 

 

『うぉぉおおおおおおおお!!!』

 

 

手の平に炎を作り出し、息を吹きかければまるで意志を持ったかのように、炎はカルナの下から飛んでいき、妖怪達を燃やす――が、止まらない。

神々の創作物であるが故か、カルナが放ったインドラの槍は彼の手元に幾何学模様を描きながら戻ってき、手に持った勢いのまま薄い炎を槍に宿し、斬撃を飛ばすように槍を振るう――が…止まらないのだ。

 

 

『お゛ぉぉおおおおおお!!!』

 

 

前へ、更に前へ――!!

今まで…過去(後ろ)の事なんざどうでもいい!!ただ前へ!!あの男に、ただ一矢を――ッ!!

 

もはや覚悟という言葉ですら生温い。

神格…それも太陽の神格を宿したカルナの炎は彼らの肌を焼け爛れさせ、爛れた皮膚は目を潰し、口を塞ぎ地面へと垂れていく。炭化した骨すら覗く中、それでも男達は前へ這いながらも突き進んでいく。それは矜持だった。妖怪として、人に退治されようやく完成する…闇に紛れ生きる者として、悪であると生まれた時から決まっていた、定められていた最後を迎える為だけに…正義を人に与える為だけに、彼らはなお、前に進むのだ。

 

ぶるりと鳥肌が立ち、気付かぬ内にカルナの表情もまた、彼らと似た僅かばかりの笑みを覗かせる。

 

 

見事だ(・・・)。お前達とのこの闘争、斉天大聖以来に、心揺すぶられる――!」

 

故に――。

 

「我が師パラシュラーマから授かりし奥義、それを手向けに逝くがいい!!」

 

 

右手に持っていたインドラの槍を左手に持ち替え、カルナは己が顔半分を空いた右手で覆い。

 

 

「武具など不要、真の英雄は眼で殺す!!『梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)』――!!」

 

 

右目が赤く発光。古代インド奥義と化した大英雄の眼光は、その直線状に存在する全てを悉く貫き遥か遠方、表と景観をほぼ同じとする裏京都に存在した大文字山の山頂を蒸発させ、なお突き進みながら、ゲオルグが作成したあの異界の時のように、境界とも言うべき裏京都の空に穴を空ける。本来ならばその時点で崩壊が始まるのだが…ここはかつて、日の本の中心とも言えた場所。莫大な地脈が流れ込むこの異界は、空いた穴をすぐさま修復し、ならば遠慮はいらぬ(・・・・・・)とカルナは首を動かし視界に入る全てを朱に染め上げ、その度に古代インド奥義は老妖達を消し炭すら残らぬ程に消し去り、遠方では噴火の如き爆発が立て続けに起きる。

魔境に等しい、数ある神話群の中でも最強ではと謳われるインド神話――そのインド神話においても、数々の武神さえ差し置き三界を征する力を持つと名高き大英雄カルナ。その身はシヴァですら破壊困難の鎧に守られ、まさに不撓不屈の称号が相応しい彼であるが……。

 

 

「…な…っ!?」

 

 

これだけは、流石のカルナでさえ予想外だった。そこには…。

 

 

「――ァ゛ッだ…まだまだ(・・・・)ぁ゛ぁあ!!!」

 

 

(あき)らかのもう歩く事すらできない…一体どうやって、骨だけと化した足で駆け、どうして彼らは己が前方に――。

 

 

仲間を盾に(・・・・・)しているのだろうか……?

 

 

カルナが眼から放った『梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)』――その閃光が眼に焼き付いた途端、彼らは理解したのだ。

 

「あぁ、これだけは無理だ」と…一人では到底耐えられぬと。

理解すれば早かった。這う者を眼前に掲げ、更に前に仲間を掲げ立てる者を配置して…言葉など不要だった。誰も彼もが誰でもいい…あの男の心にどうか、儂等を残してくれと願い、頼り…誰もが笑いながら、自己犠牲に身を投じたのだ。

 

 

「逝゛…げ…ッ!!」 「ごのまま゛…逝゛げぇ゛ぇぇええ!!」

 

「応ッ!!逝こう!!このまま逝こう!!みんなで…俺達(・・)で逝こうッ!!」

 

 

だらりと力無く、千切れかけの腕。ただの硝子玉と成り果てた目を、それでも確かな視線をカルナに向け、動けず自らその役目を志願した者達は叫び、それに涙を浮かべ応答し、男達は前へ進む。幾重にも重ねた肉盾(・・)が、インド奥義すら耐え抜き、奇跡の前進を成功させていた。

 

 

血やハラワタを撒き散らし、彼らは突き進む。その光景にカルナは動く事が出来ず…そして己を恥じた(・・・・・)

 

耐えられない…必ず殺すと心を込めて、彼は『梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)』を放った。だというのに――。

迫る肉壁。妖怪の矜持はいとも簡単に、カルナの予想を裏切りついに…。

 

 

「ガアァアアア!!」

 

 

血反吐を撒き散らし、肉の壁がカルナの鎧に噛み付き、次に槍が、刀が次々と腕に、足に、腹に突き立てられていく。しかしそれらがカルナを傷付ける事など…そこまでの奇跡を、(スーリヤ)は許しなどしなかった。

カルナの皮膚と同化した鎧、『日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)』は、破壊神シヴァですら破壊困難と言われる全神話中、最高峰の硬度を誇る屈指の絶対防御。例え欠けようと、ましてや一部を突破され、彼に届こうとすぐさま鎧はカルナの肉体を修復し、『日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)』もまた不変の日輪の如く、破損した箇所は瞬く間にその掠り傷すら無かったものとする、まさに“洛陽無き日輪”――それこそが太陽神スーリヤが、カルナに与えた唯一無二の愛情の印。

 

傷付かない、壊れない――それでも食らい付いたまま、武器を掲げたまま、老妖達は前進を止めず、カルナも後方へと押され続けていく。そんな中、身体をくの字に曲げていたカルナは――。

 

 

「謝罪しよう、オレは…お前達をどうやら、甘く見積もり過ぎていたらしい」

 

 

梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)』では彼らを殺しきるには力不足だった。ならば――。

石突きでガリガリと地面を削り強制的に彼らの突進を止め、顔面が消し飛ぶほどの力を込め、カルナは盾となって歯を突き立てていた老妖を蹴り殺し、その反動で宙へ飛翔。

 

 

「故に、この生において初めて放つ、我が身に宿る父の威光を顕現せしオレだけの奥義(・・・・・・・)。それを持って、約定を守るための手向けとしよう!!」

 

 

燃える陽炎のような外套を背後に携え、カルナは言葉と共に槍を再び逆手に持ち、構える。その様子はまるで引き絞られた弓の弦を彷彿とさせ、次第に膨大な熱が、逆手に持たれた槍を中心に形成される。

熱波は悉くを破壊し、それでもなお、老妖達は倒れない。互いが互いを支え合い、折り重なるように空に浮かぶカルナ(日輪)を見上げ、ついに悟る。

 

「嗚呼…もう終わっちまうのか」と――誰もが笑顔を浮かべていた。肌は焼かれ、眼も耳も、喉の肺も…おおよそ全てが太陽に飲み込まれんとする中…。

 

 

皆が子供のように無邪気な笑みを浮かべ、満足そうにしているのだ。

 

 

槍に超極焔の陽が灯る。

引き絞られた弓の構えをカルナが解き、音すら置き去る速度で矢となった神槍が放たれたその瞬間…カルナは確かにその呟きを拾ったのだ。

 

 

 

「――ありがとうなぁ」

 

 

「『梵天よ、我を呪え(ブラフマーストラ・クンダーラ)』――!!」

 

 

 

 

 

 

 

膨大な熱を含んだ突風を防いだ――が、足りない。

この裏京都が崩壊しそうな程の技に、見事この地は耐えてみせた――が、足りないのだ。

 

あの男が落とした、この太陽をどうにかするには――。

 

 

この地を守護する二大巨頭。八坂と鞍馬がその額に滂沱の汗を浮かべ、カルナの『梵天よ、我を呪え(ブラフマーストラ・クンダーラ)』を何とかしようとする。

 

八坂が地脈の力を全て異界維持に務めようと、神に匹敵する力量であるはずの鞍馬が、その国すら燃やし尽くす焔を何とか防ぎ止めようとしようと…全てを燃やし尽くす日輪を止める事などできず、屋敷を覆った強固な結界すら徐々に蒸発していく。

何とかしなければ――それはこの場にいた幹部妖怪、京都守護を担う者達、そして意識を取り戻した弥々がまず思った事だった。

妖力で障壁を作り、大妖怪クラスが多数で生み出したそれは、この世界で魔王クラスと呼ばれる攻撃ですら耐えうる強固なものとなる。だが…足りないのだ。

 

 

「かはっ、これ…程かッ!!」

 

 

地脈に続き、この場で渦巻く妖気すら方向性を操っている為か、その膨大な力の奔流に八坂は咳き込み血を吐き出す。

そしてついに膝を屈しそうになった…その時。

 

 

『おぉい猿!?これ一体どういう事!?何で世界が燃えちまってんだ!?』

 

 

初代と共に来ていながら、今まで姿を現さなかった五大竜王である玉龍が慌てた声と共に結界の綻びから入ってき、八坂はその姿を見て好機だと捉えた。

ドラゴンは力の塊であり、五大竜王となればまさにそのトップクラス。彼が持つ龍の気が合わされば、何とか皆が集まるこの屋敷だけでも凌げると頭で考え…この場で命を捨てる(・・・・・)事を決断した。

ただでさえ地脈と妖力を纏めるだけで血反吐を吐いているのだ。そこに龍の気まで入れば間違いなく身体が持たない。

 

 

(でも、九重がいる。あの子さえいれば…あの子と鞍馬様、皆さえ残れば…妾の命程度、捨てるは今ぞ!!)

 

 

彼らのように――そう覚悟を決め、玉龍の気を分けてもらおうと決死の覚悟を決める――が、それは結局、無駄に終わる事となる、何故なら。

 

 

「――天道、雷鳴をもって龍のあぎとへと括り通す。地へ這え」

 

 

この場には大陸においても屈指の気の担い手である、初代が存在するからだ。

トンっといつの間にか持っていた如意棒で地面を叩いた途端、八坂の負担は凄まじく軽くなり、同時に玉龍が空から地響きを立てて落ちて来た。

 

 

『グァァアア!?す、吸われるぅぅう!?さ、猿!!テメェ何しやがる!?』

 

「うるせぇ玉龍、いいからテメェの気を寄こしやがれ。どっちにしろこのままじゃ、オイラ達こんがり焼かれて猿肉と馬肉にされちまんぞ」

 

 

初代はそう言って玉龍を黙らせ、次に八坂の方を向き、後は任せろと意を見せれば、流石は大将と言うべきだろう。それだけで八坂と鞍馬は悟り、更に妖力を放出するよう、周りの者に告げる。その様子にこれならば何とかと、初代はもう二度とそちらを見向きもせず、極焔の中、その存在感を放つ小さな影を見据え。

 

 

「ここから見ればこんなに小せぇのに…お前は本当に、遠くにいるんだな。何てデカイ男だよ、なぁ…大英雄」

 

 

 

 

 

 

 

 

地面が溶け、肉が焦げるような酷い悪臭の中、カルナは降り立っていた。軽く辺りを見渡しても、そこには彼以外に命ある者など存在しようはずも無い。

 

 

「…夢は醒めたか?」

 

 

誰もいない、しかしカルナは問いを投げかける。そこには黒く焦げ付いた無数の影。それが人の姿をした何某かの遺体であると分かれば、誰もが畏れを抱き慄くだろう。何故ならその焦げ付いた影達は、老妖達は死してなお……笑っていたのだ。

 

 

「良い夢だった」――そう言いたげに、最後まで彼らは笑って逝ったのだ。目を瞑れば、網膜の裏でも彼らは笑いながら、カルナにこう言っていた。「次は地獄で閻魔に喧嘩売ってくるわ」と。彼らは確かに、(カルナ)に己を刻む事に成功していた。

 

それが何だか可笑しく感じたのだろう、カルナはキュっと僅かに口元に弧を描き。

 

 

「そうか…では、良き旅路(・・・・)を行かれるといい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いが終わったのだろう。

紅蓮が徐々に消えて行き、屋敷の庭では八坂や鞍馬が荒い息と共に、その場に突っ伏す。それは今回の功労者である初代や玉龍、そして弥々とて同じ…いや、生き残った全ての者が疲労困憊の中。

 

 

「戻ったぞ」

 

 

理不尽にさえ思える。あれほどの技を放ったのも関わらず、カルナは息も切らさずまるで散歩でもしてきたかのように戻って来たのだ。ただし、美貌とさえ取れる面容は血だらけになり、その身も血に濡れていない場所など皆無。そして…その手には貰うと口にしたからだろう。

 

 

「それは…アヤツ等の首か…」

 

 

鞍馬はそれが何であるか、一目で看破し、その場の誰もが眼を見開き確かめる。

今も煙が立ち上がるソレは、焦げ付きもはや何かも分からぬ…しかしよく見れば、確かにそれは最愛と言っていい…家族の亡骸だった。

 

 

「あぁ、約束は確かに守り通させてもらった」

 

 

そう言いながらカルナは、首を彼らの眼前に掲げ、見せつける。

 

家族が殺された…しかし彼らは望んで死に(そうら)へた。

複雑な思いが若い妖怪達の表情を曇らせ、俯かせる。だが…。

 

 

「たわけ、儂は言うたぞ?括目せよとな」

 

 

彼らを掻き分け、鞍馬はカルナの持つ首を奪い取り、更に衆目に晒した後、気付かず一族毎に集まっていたその集団の中に、首を無造作に放り投げ…彼らはついに、生まれて初めて本当の妖怪(・・・・・)を知る事となる。

 

 

「…笑ってる」 「何で…こんなにも満足した表情してんだよ…っ!」 「何で…っ、こんなにも、羨ましい(・・・・)って!!なんで…なんでっ!?」

 

 

嘆き悲しみ涙を流し、だが誰もがその炭化した家族から眼を背けようとせず、その心には憧憬が浮かびつつあった。何故…俺達は、あの劫火に身を焦がさず、このような場所でただ怯えていたのだろうか…ッ!!

 

それは何も、これからを担う若い衆だけではない。いずれ彼らを率いる幼き姫もまた、その凄惨さに嘔吐(えづ)き嗚咽を漏らす。だが…。

 

 

「な…ぜじゃ、何故私は…家族が…爺や達が死んだのに何故っ、こんなにも美しい(・・・)と感じておるのじゃ!?」

 

 

その問いに誰も答えない。何故ならすでに、九重の中で答えは出ているのだから。

その様子を見て、母八坂は大将としても安堵した。この子なら大丈夫、きっとこの先千年、彼らの思いを引き継ぎ語り継ぎ…きっと己を超える、立派な大将に成長してくれると。

 

 

「結果はこのようになったが、名代としての任、確かに果たさせてもらったと解釈させてもらおう。あの男にも告げておく、この地には…お前(インドラ)ですら知り得ぬ猛者達がひしめいていると」

 

 

あれほど一方的にも見える展開を繰り広げてなお、カルナは最後まで彼らを讃え、その賛辞を残された者達は確かに受け取った。

 

死してなお、屍拾う者なし。だが死してなお、老妖達()を忘れる者などいない。その意志を受け取った若者達はしかと頷き、そしてカルナへ視線を飛ばす。だがそこに恨みつらみ、憎しみなどは一片も無く、ただ妖怪として…いつしか人間に淘汰される者として、お前の前に必ず立つという意が宿っていた。

 

それをカルナも一切臆する事なく受け止め、一度輝くその耳飾りを鳴らし――こちらを見つめる弥々へ語り掛ける事なく、先程入って来た正門へと再び歩み出す。

“これ以上彼女に関心を集めさせるワケにはいかない。何より今すぐ戻り、あの男(インドラ)止めなくては(・・・・・・)”――その思いがカルナの足を早まらせ、だが性分なのだろう。一度立ち止まり、僅かにカルナは弥々を振り向き。

 

 

「お前との出会いから全て始まった。感謝する、弥々」

 

「――っ!」

 

 

「急がねばならない、玉龍を貸していただけないか?」――そうカルナが初代に問いかければ、初代は玉龍の意志を確認しないまま容認した。

 

 

『ハァ!?おいおい、オイラもうヘトヘトだぜ?だいたい、オイラ五大竜王でタクシーじゃねぇんだぞ!?』

 

 

だが玉龍としては心底勘弁してほしいのだろう、文句を垂れ始めたが、結局は初代に睨まれ渋々了承。カルナもすまないと謝りつつ、更に歩みを早める。その背中に、弥々は思わずと駆け寄ろうとしたのだが。

 

 

「おっと、へへ、悪いね。ちとお爺ちゃんに付き合ってもらうぜぃ?」

 

 

それに待ったをかけるように、初代がその肩に手を置く。

 

 

「っ、お願いです初代殿!その手を離してくださいまし!」

 

「あぁ悪いと思ってるよ?でもな、そりゃもう出来ねぇンだ。だって…――アンタもう、手遅れだもの(・・・・・・)

 

 

カルナが見えなくなった途端、初代はその雰囲気をガラリと変え、まるで脅すように声を低く呟く。彼は待っていたのだ、八坂と鞍馬。おおよそ実力者と呼べる者達が疲労困憊するこの瞬間を…いや、本来これは彼の、しいては彼にこの場に残るよう密かに命じたあの神々の王ですら予定になかったものだ。だが…。

 

 

アレ(・・)でアンタ終わっちまった。カルナに薙刀突きつけて、アンタ誰を貶しやがった(・・・・・・・・)?こうなるって覚悟して…アンタ、ボス(・・)に唾吐いたんだろぃ?」

 

 

肩を掴んだまま、初代は弥々をその場に組み伏せる。苦悶の表情を弥々が見せ、まっ先に動いたのは鞍馬だ。

 

 

「初代!キサマッ!!」

 

 

身体に鞭打ち翼を広げ、疾風怒涛の勢いで初代を突き飛ばそうとする。しかし先程から初代が言うように、もう全ては遅いのだ。

 

 

「おっと、動かないほうがいいぜぃ?何しろオイラをどうにかしようと、ボスが怒りを鎮めるなんざありゃしねぇ!」

 

 

さもこの状況が楽しそうに、初代は敢えて挑発するような笑みを浮かべる。くしくもそれは老妖達が浮かべたような、妖怪特有のモノであった。

 

 

「初代殿、お前は一体弥々をどうするつもりじゃ…っ?」

 

「おう、八坂の大将。良く聞いてくれた」

 

 

「ボスからアンタに伝言がある」――そう言って切り出された内容は、到底受け入れられぬものだった。それは……。

 

 

「聞け、京都の者達よ。――『この娘を寄こせ、でなければ俺様直々にこの地を滅ぼす』…だとさ」

 

 




恐らく疑問に思われる方々が多いと思うのでこの場で説明させていただきますが、カルナさんを泊めたあの老狐は仲間に紛れ挑み、そしてクンダーラで焼き尽くされています。最後の感謝の声がこの老狐だったのか、それとも名も知れぬ老妖達の誰かだったのかは、皆様方のご想像にお任せします(一応自分の中では決まっています)

それと前回描いたカルナさんの絵を書き直しています。よければどうぞ(ぶっちゃけこの絵に一番時間かかりました(汗)

次回は
・あの後どうなったの?英雄派
・原作主人公、京都壊滅を知る←(これは書くか分からないです)
・狐の嫁入り
を予定しています。

そしておそらくカルナさんは出ませんッ!!(血涙)

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