施しの英雄   作:◯のような赤子
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最近の中では割とサクサク書けました。
愉悦を目指したのですが…すみません、最後の方は胸糞展開注意です。(書いてる自分でも少しきつかったです)
それと原作キャラの一人が超良い性格(腹黒)となっていますが、この作品の前書きにもある通り、この小説は独自解釈や性格改変が含まれます。その辺を注意して読んでもらえると幸いです。


・英雄派
・カルナさん
・弥々の順となっています。


それと活動報告でも書かせていただいたのですが、しばらくの間感想返しを自粛させていただきます。
全部にはちゃんと目を通していて、ある程度時間がたってからの返信と考えております。

今まで返信しよったのに、いきなりなんやゴルルァ(゚Д゚)!?となった方には大変申し訳なく思っておりますm(__)m



ナニカが壊レル音がシタ

始まりは二人だった。

「偉大な祖先を超えないか?俺達にはその資格があり、力も授かっている」と彼に手を差し伸べられた時、僕は彼――曹操のその姿に英雄を見た。なのに…。

 

 

『京都という巨大な力場を利用し、グレート・レッドを召喚。ハーデス神から借りたアレ(・・)が果たして、世界最強であっても通じるのか』という実験は、結果失敗に終わった。

 

僕等と同じ『神滅具』を宿していながら、悪魔に組した兵藤一誠と同じく共にいた三大勢力の連中のせいで…だがこれは計算の内だった。あの程度、例えあの場に堕天使総督がいたとしても何も問題無いと打ち合わせして、決行された計画だった。

“戦はそれまでにどれだけ何を積み上げるか”――これは曹操が僕に言った言葉だったか。きっと彼の中に流れる曹操孟徳という為政者の血が彼にそう教え、僕もまさにそうだと思った。同時に偉業を成すには流される血(犠牲)が必要だと。

 

神器の覚醒、バランスブレイカーの数を増やす。人外を滅ぼす為の力を得る為、そしてそれが出来ない弱者を彼は必要とせず、今の英雄派に所属する神器使い達は皆、見事にそれを成し遂げた。

もう誰も弱者なんかじゃない。僕達は英雄となるべき人間で、そんな僕達を率いる男はそれに値する偉大な男だと、誰もが認め付いて来た。だからこそ…敢えて言わせてもらおう。

 

 

ここにいる曹操は、本当に僕等が知るあの曹操なのか――?

 

 

 

「はは、見たかあの三大勢力の悔しそうな顔!」

 

「あぁ!まんまと俺達に逃げられてやんの!」

 

 

僕達は京都から【禍の団】の中にある、僕達英雄派の拠点で宴会のような騒ぎを起こしていた。

三大勢力の包囲網を掻い潜り、彼らに一泡吹かせた事実は一層仲間達の士気を上げる事に成功したらしく、まるで勝利したかのように皆浮かれきっている。だがそれに対し、僕やヘラクレス、ジャンヌ等と言った幹部の表情は皆浮かれない。

 

 

「クソ!何なんだあの神器使い(・・・・)!?おいゲオルグ、お前あの神器(・・)に覚えはないのか?」

 

 

ヘラクレスが急に悪態を吐いて僕に詰め寄って来る。ったく、一体誰のおかげでこうして無事に帰って来れたと思っているんだ。

 

 

「さぁ、僕にだって分からない事くらいあるさ。ただ一つ、もしアレが神器だとすれば間違いなく神滅具級…それもインド神話に由来するものだ」

 

 

僕がインド神話と言ったとたん、周りで僕達の話を聞いていた者達が一斉に息を飲んだ。

 

 

「なっ!?そんな、あり得ないでしょ!?あの神話体系の神器は存在しないってのが通説じゃなかったの!?」

 

 

ジャンヌの言った通り、神器には様々な神話体系の由来するものが数多く存在するけど、インド神話に由来する神器だけは見つかっておらず、それは当然だとされた。

 

インド神話を構成する世界観はあまりに膨大で、しかもその殆どが“破壊”と“創造”、この宇宙の根本を突き詰めるという途方もないもの。いくら聖書の神でも、流石に国すら簡単に滅ぼす超兵器ばかりのインド神話にだけは手を出さないだろうとされていた。だというのに…っ!

 

 

「あの男が放った光線…その正体は分からないけど、同時に発した言葉『ブラフマー・ストラ』は古代インド奥義の名だったはずだ」

 

 

これだけは間違いないと断言できる。

曹操に誘われ、僕達は同士を探す傍ら世界中の神話を調べて回っていたからだ。

 

 

「――それが本当だとしたら…僕達、実は結構危ないんじゃない?」

 

 

皆が集まるこの部屋に繋がる通路から声がして、そちらを振り向くと初代の攻撃で気絶し、今まで治療を施していたジークフリートがやって来た。

 

 

「おう、元気になったかジーク!で、危ないってどういう事だ?」

 

「簡単な事さ、ヘラクレス。僕達の出資者(パトロン)が、元々どこの神話に属していたか…思い出してごらんよ」

 

 

ジークフリートの問いかけに、脳筋のヘラクレスはしきりに首を傾げるばかり。だがジャンヌは気づいたようだ。

 

 

「…っ!帝釈天は元々インドの神、インドラだったのよね?」

 

「その通りさ、更に僕達英雄派は、パトロンである帝釈天が寄こした使者を攻撃した。彼に何も言わずにね。しかも使者はインド由来の神器所有者と来た。…ねぇ曹操、帝釈天はどうしてそんな存在を、今まで僕達に隠していたんだろうね?」

 

 

その言葉には「僕達はあの男の当て馬にされたのでは」という非難も含まれていた。でもそう言葉を向けられ、視線が集まる曹操は…。

 

 

「………」

 

 

黙り込んでいた。今だけじゃない、『絶霧』でこの拠点に戻って以来、赤龍帝の攻撃で負傷した右目を治療されている間も、その表情は何の色も浮かんでいなかった。…どうかもう一度だけ言わせてほしい、本当にこの目の前にいる男は…今までその類いまれなカリスマで僕達を率いていた、あの曹操なのか…っ?

 

 

「――ん、何だ何だ?ケンカか?」

 

 

知らずにゴクリと喉を鳴らし曹操を見守っていると、ヘラクレスが言う通り、中央で乱闘染みた事が起きていた。

 

 

「テメェ、もう一回言ってみろ!!」

 

「ハッ、何度でも言ってやんよ!俺達のチームが三大勢力を足止めしている間、テメェの所はたった一人に全滅したんだろ?情けねぇなオイ!」

 

 

…どうやら功績の差で揉めているらしく、確か今胸倉を掴んでいる彼は須弥山からの使者を任せた部隊所属だったか。しかも聞いていると彼はただ後方で待機、それで生き延びる事ができたと。

 

 

「ハハ!良いぞ!もっとやれ!おら、そこだ!!」

 

 

徐々に激しさを増していく喧嘩。だが誰も止めようとせず、ヘラクレスなんか寧ろ煽ってすらいるが、これが僕等の普通(・・・・・)だ。

神器を宿したが故に迫害された者が多く所属する英雄派には、劣等感を抱え、誰よりも自分が優れていると証明したい者ばかりだ。それだけに喧嘩は日常茶飯事、流石にジャンヌやヘラクレス等の幹部、僕や曹操と同じ上位神滅具を宿すレオナルドに売る馬鹿はいないが、仲間同士の半殺し程度は当たり前。

 

強い感情が神器を成長させる――様々な実験からこれは証明されているし、何より相手を傷付ける事もできなくては使い物(・・・)にならない。だからある程度は傍観し、途中で僕達幹部や曹操が止めるのが常道だけど…この時は違っていた。

 

 

「曹操…?」

 

 

突然先程まで部屋の隅で頭を抱えていた曹操が立ち上がり、乱闘の中心たる二人の下へ。そして…。

 

 

「…ア゛ッ!?ガァッ!?」

 

「な゛っ!?んで…俺まで…!?」

 

 

手に持った最強の神滅具で二人を刺し殺した(・・・・・)。これには僕等幹部も目を疑い、言葉も出なかった。

今まで曹操の計画の中で、何度も仲間を危機に陥らせる事はあった。でもそれは神器の覚醒を促す為であり、強者を選別する為でもあった。なのにこれは一体…。

 

 

「…一体、何時まで騒いでいるつもりだ?」

 

 

ようやく戻って以来、初めて曹操が言葉を発した。…ズチャリと死んだ二人から槍を引き抜いて。

 

 

「ジーク、さっき俺に聞いたな?『何故帝釈天があの使者の存在を隠していたのか』と」

 

「え…あ、あぁそうだ」

 

「決まっている。これがその答えだ」

 

 

血に濡れた槍で、死んだ二人を指し、次に周りの構成員に槍を向けていく。

 

 

「お前達、情けないと思わないのか?無事逃げる事が出来た?一泡吹かせてやった?違うだろ、俺達の目的は何だ?ゲオルグ」

 

 

槍ではなく、顔を向けてそう僕に言い放つ。

 

 

「…人外の撲滅、僕達人間がどこまで出来るのかの証明だ」

 

「そうだ、それこそがこの英雄派がある理由…俺達英雄(・・)の存在証明だ」

 

 

僕の答えに初めて笑みを見せる曹操。でも…何故だろう…その表情がどこか僕には、薄ら寒さを覚えさせる。

 

 

「何もお前達だけを責めるワケではない。かく言う俺も、結局一人も殺せず、また負傷した身だ。そこは謝罪しよう」

 

だから――。

 

「これからは今まで以上に厳しくしていく。もっと大勢殺せるよう、もっと俺達は出来るんだと全ての神話に証明するよう、もっともっとお前達には強くなってもらう。今までは俺が禁じていたが…止めにするとしよう、今度からは仲間でも殺し合え(・・・・・・・・)。だから彼らを殺した。トップからこういうのは始めないとな」

 

 

トントンといつもの癖で、槍で肩を叩きながら続ける曹操。

 

 

「強い奴が英雄だ、力こそが全てだ!!もっと貪欲にそれを求めていこう!…どうした、何故動かない?鍛錬に戻れ!!」

 

 

仲間にすべきではない殺気を向け、一般構成員達は蜘蛛の子を散らすように曹操の前から姿を消す。後に残ったのは僕やジークフリート等の幹部連中だけだった。それでも曹操は殺気を隠す気もなく、そこに佇む。その様子にただ事ではないと、僕は彼に声をかける。

 

 

「曹操…君は、一体なにが…」

 

「ゲオルグ、我が友よ。確か君はまだ、アレを持っていたな?ペルセウスが置き土産だと置いて行った、メデューサの『邪視(イーヴィル・アイ)』だ」

 

 

僕の言葉を遮るように言った『邪視(イーヴィル・アイ)』とは、曹操に付いて行けないとつい先日英雄派を離脱した元幹部、ギリシャの英雄ペルセウスの魂を持ち、その名も受け継いだペルセウスが所持していたものだ。

 

 

「あ、あぁ、まだ持っている。でもそれがどうした?」

 

「移植してくれ、英雄が御した化け物の眼だ。なら英雄たる俺の力になるほうが、メデューサも感謝ってモンさ」

 

 

そう言って曹操は、たった今治療が終わり、巻いていた包帯を解き始めた。その下には眼球まで真っ赤に染まった目があり、瞳孔が開き見えていないのは明らかだった。でも…っ。

 

 

「その程度ならまだ、治療で治るかもしれないだろ!?『不死鳥(フェニックス)の涙』だってまだまだ余りがあるんだ!!」

 

 

そう、この程度ならまだ治る。何も問題などないと僕が詰め寄ると――グリュリと曹操は自らの右目を抉りだし、ポタポタと血が滴る眼球を僕に突き付けてきた。

 

 

これで新しい目が必要になった(・・・・・・・・・・・・・・)。ほら、何も問題無いな(・・・・・・・)?」

 

 

突然の行動に、僕達はもう何も言えなかった。長年彼に付き添ってきたこの僕でさえ、今の曹操には恐怖を覚えるしかない。でも…――。

 

 

曹操を失ったら僕達は(・・・・・・・・・・)一体これからどうなるんだ(・・・・・・・・・・・・)

 

 

各神話に喧嘩を売った僕達にはもう居場所なんかない。あるとすれば、それは彼がいるここだけ(・・・・)だ。

 

 

「先に施術室で待っている」――そう言って背を向ける曹操に、僕はただ頷くしかなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

ポタポタと血が止めどなく流れる事も気にせず、ただ一人黙々と足を進める曹操。

この場には誰もいない。彼はたった独りで進み続ける。だからこそ、その声を拾う者などここには存在しない。

 

 

「…認めるものか…アレが英雄などと、誰が認めるものか…ッ!!」

 

 

ギシリと歯を食い縛る曹操。だがそれは痛みに耐えているのではなく、嫉妬からだった。

 

あの時、一目カルナの姿を見た曹操は悟ってしまった。「アレは間違いなく、英雄だ」と。あの男こそ、己が目指す英雄像…その全てだと。

 

 

「違う!!あり得ない!!俺が英雄なんだ(・・・・・・・)!!俺がッ、俺だけが(・・・・)!!英雄でないといけないんだ!!」

 

 

ガン!!と壁を殴り当たり散らし、荒い息を吐くままに前を向き。

 

 

「その為なら全て殺す。全て俺の為に使い潰す…っ!…あぁそうさ、あの時、彼も言ってたじゃないか…『使えるものは全て使え』と…俺は…神々に愛されているんだ…っ!」

 

 

そう言って曹操は己が英雄たる証である“黄昏の聖槍”を一振り。着いていた血を振り払い、同時に薄ら寒い笑みを浮かべ。

 

 

「感謝するぞ兵藤一誠、俺に初心を思い出させてくれて。だが…この借りは必ず返す!!悪魔め…ただで死ぬとは思うなよッ!!」

 

 

カツカツとたった独り、曹操は歩みを進める。その先に何があるかも理解せず、井の中の蛙は蒼天を目指し、だが井戸の奥深くへと、気付かずその身を沈めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぺたぺたぺた――無機質な通路に響く、裸足だと思われる足音。

とてとてとて――幼女のような姿で【禍の団】の首領、世界最強にして無限の龍神であるオーフィスは今日も一人、孤独に【禍の団】施設内を歩き回る。

 

 

「……」

 

 

言葉を発する事もなく、何をするでもなく亡霊のように徘徊するオーフィス。これが見た目通りの童ならば、誰もが庇護欲をそそられ彼女(?)に話しかけている所だろう。だがもし、この無限の龍神を知る神々が、今の様子を見れば誰もがこう言うだろう、「当然だ、何故ならソレが欲するのは静寂なのだから」と。

 

 

「……」

 

 

あの場所に帰りたい。永遠に静かで心落ち着くあの次元の狭間に。だがそこには、自らを追い出したグレート・レッドがいる。アレがいる限り自分は戻る事が出来ず、だからと言ってグレート・レッドを追い出す、又は勝つ事など出来ない。それはオーフィスが弱いからではない。無限を司るこの龍神は正真正銘の世界最強だ。例外と言えば、極端な能力を持った一部の存在だけだろう。そしてオーフィスを追い出したグレート・レッドはまさに、その極端の極みと言っていい存在だった。

 

グレート・レッド――オーフィスと対を成すとされる夢幻の体現者は、その名の通り、夢や幻そのもの(・・・・・・・)だ。言い方を変えれば、この世界(三次元)においてアレだけが二次元の存在と言って良い。

例えばの話をしよう。夢に介入する事は可か?答えは否である。

では夢が現実に介入する事は可か?答えは是である。

 

悪夢を見れば、人は汗を流し魘される。だからと言ってその夢を終わらせる事などできず、できる事と言えば、起きて見ないようにすることしかできない。それでは直接介入したとは到底言い難い。

グレート・レッドとはまさにそういう存在。一方的に世界に干渉できる夢そのものだ。これは神々ですら同じであり、ゆえに夢幻のドラゴンは今も次元の狭間を揺蕩っている。当然だ。触れもできない幻のような存在に触ろうとする者など、ただの白恥に他ならないのだから。無限(オーフィス)もそうだ、だからこそ彼女は負け、そして【禍の団】のトップに据えられた。莫大な力を服用者に約束する『蛇』を生み出すだけの装置(・・・・・・・・・)として…誰もオーフィスに関心を向ける事なく、故にオーフィスは組織のトップでありながら付き添いの一人も護衛もなく、今日もまた独りで彷徨い続ける。彼女もまた、そんな生活に微塵も疑問を抱かない。何故ならこれが【禍の団】の長となってからの、彼女の日常だからだ。だからだろうか?

 

 

「………」

 

 

急にその場に立ち止まり、どこを見ているのかも定かではない、闇より暗い瞳で虚空を見つめ出すオーフィス。

次元の狭間から追い出され、こうして放浪を続けて幾星霜。ありとあらゆる勢力からその力を狙われ、時に疎ましがられ追いやられ続け、こうして己自身(・・・)に関心を向けられない生活を続けた龍神は過去に一度、絶対の敵意(・・・・・)を向けられた事がある。

 

 

「……」

 

 

それは人類史において、まだ黎明の時と言える程に古い時代。この世界で最も天高き山の(いただき)で、ナニカが開く感じがして、今とは違う老人の姿でオーフィスはその場に赴き…見つけたのだ。

次元の狭間ではなかった。だが僅かに覗くそこは確かに静寂に過ぎ、また完全な孤独で在れると感じたオーフィスは迷う事無く閉じかけたその世界への扉をくぐった。そこは本当に何もなく、これこそが求め続けた永遠の静寂(・・・・・)であると安堵した矢先…絶対の敵意がオーフィスを襲った。

 

 

【――ふざけるな…ようやく手に入れたんだ。異父兄弟達を騙し、父の目も欺きようやく…私は孤独になれたというのに…ッ!!】

 

 

ゆらりと何もないはずの空間で、人のような姿がオーフィスの目に止まった。瞬間――。

 

 

【ッ見るな!!私を…俺を見るな(・・・・・)!!】

 

 

その言葉を聞いた途端、気付けばオーフィスはその世界から追い出されていた。全身にまるで大量の矢を穿たれたような傷跡を付けて。無限の力であってももう二度とその世界への入り口を開く事などできず、しかしオーフィスは自身を追い出した者の姿をはっきりと見ていた。

 

 

「……」

 

 

辺りをキョロキョロと見渡してみる。誰もいない、何も聴こえない。

今は確かに静寂だ。でも……何かが違う、求めたもの(静寂)なのに嬉しく(静寂じゃ)ない。それに比べ、今思い出したあの男(・・・)がいた場所は、僅かしかいる事ができなかったが、今でも忘れられない程に心地よかった…。

 

 

 

 

 

「――こんな所で何をしている?邪魔だ、退いてくれ」

 

 

どれほどオーフィスは虚空を見つめ続けていたのだろうか、後ろからどこか苛ついた声色に振り向くと、そこには窪んだ右目から血を流す曹操がいた。

 

 

「曹操、その目は?」

 

「どうでもいいだろ?君には何も関係ない。君は次元の狭間にさえ帰れればいいんだろ?」

 

「そう。けど…」

 

 

「あの場所こそが、我が本当に求める孤独なのでは?」――そう思い、言葉にしようとした時、すでに曹操はオーフィスを半ば無視するように通り過ぎる――瞬間。

 

 

「…スーリヤの匂い?でも、何か違う…」

 

「何か言ったか?あぁ、また『蛇』を用意しておいてくれ。大量に使う事になるだろうからな」

 

 

コクリと何の疑問も持たず、いつものように了承するオーフィス。一体何に使うのだろうか?誰が使うのか(・・・・・・)など、この龍神が思う事はない。何故ならこれが日常だからだ。だがやはりとも思う、これは何かが違うと。もう一度、先程思い出したあの場所に行きたいと。

 

 

 

「…我もそこに行きたい…どうすればあの時、我も置いてくれた?――アルジュナ(・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京都から身を翻し、カルナは今、玉龍の背に乗っていた。

 

 

「急いでくれ玉龍、間に合わなくなる前に」

 

『いや急ぐったって、これが今オイラが出せる最高速度だぜ!?何より兄ちゃんが飛んだ方が遥かに速いだろ!?』

 

 

玉龍の言葉はまさにド正論だ。カルナがその気になれば亜音速に等しい速度で飛翔する事ができる。だがカルナは前を向き、否と答える。

 

 

「今は出来るだけ体力を温存しておきたい。恐らくインドラと戦争になるだろうからな」

 

『へぇ~ボスと戦争…って、ウエェエエ!?ハァ!?ボスと戦争(・・・・・)だぁ!?』

 

 

『どういう事だ!?』と玉龍はカルナに問い詰めるが、カルナはただ、「だから戦争だ」としか答えを返さない。カルナには一つ、危惧していた事がある。それはあの時、意識を取り戻した弥々が自らに薙刀を向けた事――ではなくその後、インドラを馬鹿にしたことだ。

 

誰よりもあの男の性格を知っていると自負がある。だからこそカルナは確信していた。インドラは己に唾を吐いた弥々を、決して許しはしないだろうと。

ギュっと握るインドラの槍に力をいれ、どこかいつも以上に覚悟を決めたような顔をするカルナ。だが玉龍は彼とは反対に冷や汗が止まらない。

 

 

(え、え?どゆこと!?てかオイラ、須弥山に一応所属してんだぜ!?分かってる!?)

 

 

(帝釈天)と敵対しようとしている男を今、玉龍は運んでいる。これが帝釈天にバレれば、玉龍は下手をすれば殺されるのではと、内心焦る。しかし玉龍は空を翔ける事を止める事も、その身からカルナを振り落とそうとする動きさえ見せない。何故なら――。

 

 

(ッベェエエ!?え、何この兄ちゃん!?止まったらオイラの事殺す気マンマン(・・・・・・・・・・・・)じゃん!?)

 

 

そう、気を引き締め直す為カルナが握りしめた槍が、玉龍には「止まれば…分かっているな?」的な脅しに見えたのだ。

勿論カルナはそのような手段に出る輩ではないし、本人には毛頭そのつもりは一切無い。しかしカルナの性格を十全に掴んでいない玉龍からすれば、後で死ぬかもしれない(・・・・・・・・・・)今殺される(・・・・・)かという極限状態にしか見えず、結果玉龍は前者の良い方向のIfに賭ける事にした。

 

 

「――?どうした、汗が止まらないようだが?無理ならもういい、後はオレが…」

 

『い、いえ!頑張らせていただきますぅううう!!』

 

 

「自ら飛ぼう、苦労をかけた」と言おうとしたカルナを遮り、玉龍は言葉を重ね更に速度を上げようとする。カルナにはそれが恐怖からではあると見抜いたが、それが誰に対して(・・・・・)かまでは理解する事ができず、「では任せた」と再び前を見据えたその時。

 

 

「っ、止まれ玉龍!」

 

「ふぇ?…ぐへぇ!?」

 

 

玉龍の角を掴み、首を上に上げる事で無理やり止める。その際、玉龍の角の根元がミシリと音を立て、僅かに片方のバランスが悪くなり、後で初代が腹を抱えて笑われる事になるが、まぁこの場では関係の無い事だ。

 

カルナが玉龍を急停止させた理由、それは彼らの前に突如、人が現れたからだ。だが…おかしい、何故ならここはまだ洋上…つまり空の上なのだから。

 

 

『つぅ…テテ…誰アレ?兄ちゃんの知り合い?』

 

 

鈍痛に苛まれながら、片目を閉じつつ玉龍がそう聞くが、カルナは首を横に振り、知らないと意を示す。だがその正体は一目見て看破していた。

 

 

「阿修羅神族か、それも王家の血を引く者と見た」

 

「…ふふ、流石は施しの英雄。一目でそこまで見抜きますか」

 

 

正体を見抜かれた事に、その男は愉快だと笑う。その姿はカルナ程ではないが白い肌、黒く美しい長髪は大気に流され、まるで黒い大河がそこに生まれたかのようにさえ見える。カルナと同じく長身でありながら、彼とは対照的に引き締まった肉体をインドの伝統衣装サリーに身を包んだその男の正体は――。

 

 

「偉大なる阿修羅王ヴィローチャナが息子、マハーバリと申します。僅かではありますがこの4年間…ずっと貴方にお会いしたかった」

 

 

胸に手を当て万感極まると言った風に自らを紹介し始めるマハーバリ。次に胸に当てていた右手をカルナへと差し向け。

 

 

「単刀直入に言いましょう、太陽神スーリヤが御子息カルナよ。再びインド神話に参入し、私と共に――」

 

 

――インドラを討ちませんか?

 

 

ここが分岐点(・・・・・・)だった。この直後、全神話は一人の大英雄の帰還を理解する事となり……これだけは伝えておこう、結果――。

 

 

 

カルナは間に合う事はなかった(・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

“――ねぇ聞いた?”

 

“うん聞いたよ!今朝も聴いた!トンテンカン(・・・・・・)って!”

 

 

三日ほど前(・・・・・)から京都では、ある噂…都市伝説が広まっていた。どこからともなくトンテンカン(・・・・・・)と音が鳴り響き、それは場所の関係無く…例えば民家や学校、あるいは都庁であろうとどこからともなく聴こえてくるというもの。

 

 

“やっぱり噂は本当だったんだね、でも凄くない?今の時代に妖怪(・・)だなんて!”

 

 

『妖怪トンテンカン』――それがいつしかこの不可思議な音に付けられた名称であり、京都で今最もホットな話題として、お茶の間でも騒がれている。しかし、本日を彩る話題は――。

 

 

ポツポツとお天道様が覗く空から降り出したソレに手を翳し、京都の人々は口々にその名を唱える。

 

 

「あぁ、こりゃ珍しい。“狐の嫁入り”だ」

 

 

 

 

 

 

トンテンカン、トンテンカン――釘が金槌に打たれ、板に沈んでいく。

トンテンカン、トンテンカン――表で不可思議な現象として話題になっているなど露知らず、若い妖怪達は今日もカルナに軒並み焼き尽くされた裏京都の復興に務めていた。

 

 

「…ふぅ」

 

 

若い衆の一人が汗を拭い、息を吐くと共に身体を起こす。屋根から見下ろす生まれた時から見た景色はそこにはもう無い。全ては劫火に飲まれたのだから。

 

 

『……』

 

 

一人、また一人と手を止め辺りを見渡す。

 

子供の頃よく遊んだ大通りはもう存在しない。

妻を口説いた見事な枝垂れ桜、その傍を流れていた小川はもう無い。

家族と共に過ごした家はもう、どこにも無い。

大切な家族…老妖達が生きて来た証…彼らが晩年を過ごした長屋はもう…どこにも存在しない。

 

 

「…っ」

 

 

こみ上げるのは哀愁か、当然だろう。

 

彼らが知る裏京都はもう…どこにも本当に無いのだから。しかし下を向く者は一人もなく、再び一人、また一人とトンテンカンと音を響かせ始める。

 

 

「…みんな、ここ(・・)から始めたんだ…何も無いここから、俺達までずっとずっと、受け継がせてくれたんだ…あぁ、爺さん達が出来たんだ。なら俺達が出来ないワケがねぇ」

 

 

誰かがそう呟けば、応えるように打ち付ける音が大きくなる。

(かんな)が景気付けるように節を削り出し、鋸は削りかすを勢いよく噴き出す。これは産声なのだ。新たな裏京都…新たな時代の到来を、その象徴足る彼ら自ら奏で…ふと思い出す。

 

 

「あぁ、そういえば今日だったな……“(弥々)の嫁入り”」

 

 

 

 

 

 

 

裏京都で唯一その原型を保つ事が出来た八坂の屋敷。その一室で今、一人弥々は鏡に映る己を見つめていた。

 

 

「これが…弥々()…?」

 

 

穢す事、汚す事さえ躊躇う程の白の衣装に身を包み、普段は肩から胸元に一纏めにして流している後ろ髪を、文金高島田の形に結い上げ綿帽子の中に隠してある。その姿は誰がどう見ても、婚前前の花嫁にしか見えない。

 

 

「…」

 

 

女性ならば誰もが憧れるであろう時が近づいているというのに、弥々の表情にはどこか陰があり、彼女は淡々と艶やかな唇に紅を差していく。その際、ジャラリ(・・・・)と金属同士が擦れる音が部屋に響くが、弥々がそれを気にする事はない。

 

 

「弥々、迎えが来たのじゃ。さぁ…行こうぞ」

 

 

支度が終わると同時に、部屋の外から屋敷の主にして御大将八坂が声をかける。だが…どうしてだろうか?どうして…その声は悲しみに彩られ、震えているのだろうか…。

 

 

「はい…八坂様…」

 

 

返事を返し、ジャラリと音を鳴り響かせ弥々は立ち上がる……その両手足に冷たい罪人用の枷を嵌めて――。

 

 

 

八坂は反対した、鞍馬は反対した。

初代が突きつけた条件に対し、その場にいた誰もが反対し、須弥山との戦を覚悟した。しかし弥々だけは受け入れた。

 

 

『………』

 

 

雲一つ無い裏京都の空を、雨が彩る。花嫁(弥々)を濡らすまいと横で朱色の和傘を差す鞍馬、白無垢を纏った弥々を見送る妖怪達の顔は、門出を祝うソレではなく、まるで彼女がこれから死に行くかのように悲壮に包まれていた。

 

何故なら弥々はこれから、人身御供として帝釈天の下へ嫁ぐ(売られる)のだから。

 

 

「貴女が弥々さんですね?成程、これは天帝に相応しい」

 

「…初代殿ではなく、まさか手前(・・)とはな…玄奘三蔵殿」

 

 

鞍馬がその迎えの者――玄奘三蔵法師にフンと鼻を鳴らし、凄みを効かせると同時に、もう一度弥々の意志を…頼むからこの婚姻を断ってくれと言葉に出さず、肩に手を添え僅かばかりに後ろへ引く。

 

 

「えぇ、私です。彼は少々…天帝自らお灸を据えられ(・・・・・・・)動けないので」

 

 

「まぁ玉龍はまた違う理由ですが」と続く言葉は鞍馬、そして後ろから見守る八坂の耳には届かない。彼らの意識は語る三蔵の後ろ、4本の牙と7つの鼻を持つ、真っ白な象へと向かっていたからだ。

 

 

「その象は…まさかっ!?」

 

「その通り、天帝(インドラ)のみが乗る事を許されるヴァーナハ(神の乗り物)、名をアイラーヴァタと言います。彼が引く御車で天帝の下へ連れてくるよう命を受けましたが…この意味、分かりますよね?」

 

 

これは脅迫だと、誰もが理解した。彼女(弥々)を渡さなければ、このアイラーヴァタがただでさえ崩れ落ちたこの地を、更に破壊していくのだと。その証拠に、静かに三蔵の後ろで佇むアイラーヴァタの瞳は、主を侮辱した者に対する怒りが燃えていた。

 

身体を震わせ、八坂は三蔵に吠え立てる。

 

 

「これが…ッ、これが仏の所業かや!?妾達が一体何をしたというのじゃ!?」

 

「簡単です。天帝を侮辱したからですよ。そしてこれが仏の所業です。これでも仏門に帰依した身…()が仏の所業であると是正しましょう。ならばこれは、正しき事なのです」

 

 

八坂とは相対的に、淡々と語る三蔵の目はどこまでも冷たい。

 

 

「我が愛弟子からある程度の話は聞いています。“(妖怪)”として滅んだのでしょう?“妖怪()”として死んだのでしょう?それだけが“救い”だと、そうした(・・・・)のでしょう?どうします?私は別に構いませんよ?妖怪だろうと人だろうと…全ては救われるべくして生きているのですから」

 

 

それは救いと称した殺しの予告だった。

全てを救う旅を(天竺を目指)した玄奘三蔵はその旅路、幾重も襲い掛かって来た妖怪達を退治している。果たしてこれは、救いだったのだろうか?彼はきっと、こう答えるだろう。「妖怪として在る(救う)べく、私は殺した」のだと。だから彼は躊躇わない。この場で明日を目指す者達の、その明日を奪う行為に何ら忌避など抱かない。

 

 

その言葉を聞き、対面から三蔵を見る鞍馬は更にきつく三蔵を睨みつける。

 

こんな奴等に家族を渡すものか…こんな場所に、弥々()を渡してなるものかッ!!

 

そう言わんばかりに弥々の肩を更にきつく抱き寄せる――が、弥々はふわりとした動作で鞍馬の下から離れ、雨の中、一人静々と歩き出す。急いで鞍馬が弥々を和傘の中へ戻そうとした…その瞬間。

 

 

カツン――と弥々に、石が投げられた(・・・・・・・)。一体誰がと八坂が怒り、下手人をその瞳に捉えた途端、彼女は信じられないものを見たと目を見開いた。何故ならその犯人は――。

 

 

「何をしておるのじゃ…投げよ、石を投げよ…私達がこれから苦痛に苛む中、神々の下へ召し上げられるこの罪人に石を投げよ!!次期総大将命令(・・・・・・・)である!!」

 

 

九重だったからだ。

雨の中傘も差さず、ずぶ濡れになり、稲穂と同じ色の髪を曇らせ周りの者にも石を投げよと命令する。

 

 

「全てソヤツのせいじゃ!!私達の町が無くなったのも、家族が殺されたのも全て…っ!!…汚せ、穢せ…いと高き天帝の下に、襤褸(ボロ)として晒すのじゃ!!」

 

 

再び泥だらけの石を拾い投げ、白無垢は九重の言う通り汚れていく。

 

八坂は止めようとした。弥々がどのような思いで天帝にその身を渡すかお前は知っているのかと、初めて娘に手を出そうとし…気づく。

 

雨で分かりにくいが、九重が涙を流している事に…鞍馬も怒号を発しようとする。だがその時には皆、泥だらけの石を握りしめ、歯を食い縛り。

 

 

「お前のせいだ!!」

 

「お前のせいで…俺達の爺さんは…っ!!」

 

「そんな綺麗な姿で行かせるものか!汚れてしまえ!汚い姿で帝釈天の前に出ろ!!」

 

「恥を掻け!そして捨てられ(戻っ)て来い!!」

 

 

この時、鞍馬は気づいた。“狐の嫁入り”…つまり雨のせいで近づかねば分からないが、誰もが涙を流していることに…。

弥々は避けず、全身を泥に染め上げていく。これは元より、弥々が密かに九重に頼んでいた事だったのだ。

全てを背負って出て行けば、鞍馬様や八坂様…誰にも(・・・)後に、怨恨が向かわずに済む…そう考えていた。だが今も一心不乱に叫び礫を投げる九重の心境は全く異なっていた。

 

 

汚れてしまえ(渡すものか)!!捨てられてしまえ(これ以上奪われてなるものか)!!」

 

 

それは声無き最後の抵抗に等しかった。

汚れれば、もしかしたら天帝は弥々から手を引くかもしれない。傷付ければ、もしかしたらこれ以上酷い事はされないかもしれない。――そう九重はこの場にいる者達に頭を下げ、家族に石を投げるようお願いした。

 

全ては彼女を守る為に――。

 

 

「お前なんか…っ、お前なんか…っ!!頼むから…ねぇ、お願いだから…っ!行かないで…っ」

 

 

雨音に邪魔され、最後に出てしまった幼子の懇願を、三蔵()聞き逃した(・・・・・)。彼は石が投げられる間もずっと、近づき弥々を守る事なく、彼女の足でこちらに向かわせていた。

 

 

カツンと最後に九重が投げた礫は、弥々の化粧に彩られた眉元へと当たり、ツゥ――と血が線を引く。すると弥々は初めて後ろを、残していく家族を…九重を見て…口だけを動かして――。

 

 

“ごめんね?立派な大将になって――”

 

 

 

「っぅ、うわぁぁああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

――あの子が泣く声が聞こえる、皆が流す()の音がする。

(弥々)が泣かした、(弥々)が奪った。ならばこれは報いなのだと、天帝に我が身を売った。それくらいしか(弥々)には出来る事が無かったから。

 

 

(皮肉なものだ…宇迦之御魂神の眷属として少しでも相応しいようにと貫いたこの純潔、まさか神々に奪われる事となろうとは)

 

 

いや、因果応報とはまさにこの事なのだろう。

 

 

「…お待たせしました、三蔵様」

 

「いいえ、待ってなどいませんよ。さ、中へどうぞ」

 

 

先程まで浮かべていた無表情を崩し、そう口元だけの笑みを浮かべて私を中へ招く玄奘三蔵法師。けど今は泥だらけとなり、これでは煌びやかな内装を汚してしまう。

どうしようかと少し逡巡していると。

 

 

「いえ、そのままで結構です。汚してしまいなさい、こんな悪趣味な内装など」

 

 

――この方は一体何を仰っているのだろうか…?

ギリギリ私に触れるか触れないか程に手を添え、汚れた白無垢のまま中へ招かれ座るように言われた。

 

 

「蓮の花が何故あれほどまでに美しいか、ご存じですか?泥に塗れ、汚れているからこそです。汚れていればいるほど、その真価は目に止まりやすくなる。だから汚しなさい。私が許可します。きっと帝釈天もその時ようやく理解するでしょう、『おぉ!俺様は御車の美しさを汚れた今、知る事ができた!』とね」

 

 

どこか悪童を思わせる、到底仏が浮かべるようではない表情のまま、そう言ってくれる三蔵様に、私は彼が気遣ってくれているのだと理解できた。そして成程、道理だとも思った。

 

わざと裾を翻し、所々に付着していた泥を盛大に撒き散らす。勿論床に敷かれた絨毯を、履物で踏み躙る事も忘れない。それを見た三蔵様は「では私も」と、こちらを真似して…いや、こちら以上に地団太を踏みながらグチャグチャに敷物を汚していく。…この方は本当に仏か?いやそれ以前に先程平然と“帝釈天”と敬称を付けぬままに口にした事といい、良く分からない。

 

 

「仏といえど、納得できない事の一つや二つあるものです。あぁ、貴女が別に帝釈天にいくら穢され(・・・)ようが、別段それは構わないのです。ただ私の愛弟子を…悟空を殺そう(・・・)とした事だけは異議を唱えたい」

 

 

――時が止まったような気さえした。僅かな言葉の中に、あまりに膨大な情報が縮約されていたからだ。

 

 

「初代様が…何故…?」

 

「約束したからだそうですよ?カルナと」

 

 

カルナ(・・・)と、あの方の名前が出ただけでピクリと反応する我が身が憎らしい。どれほど…この身は卑しいのだろうか…っ。

 

 

「貴女の事を、命を賭けてでも助ける。そう八坂が攫われていた異界で彼らは誓いあったそうです。間違いなくその場限りの話だというのに…今や悟空の中では、帝釈天以上にカルナの方に重きが行っているらしい。京都側に貴女を寄こすよう告げた次の日に戻って来た悟空は、そのまま帝釈天に突貫…不死である彼が、今も生死をさ迷うほど一方的(・・・)に嬲られました」

 

 

三蔵様が話をしているが今、私の胸は張り裂けそうな程…あの方の事を考えていた。

知らずに手には、密かに忍ばせて置いたあの方が授けてくれた鎧の一部。それは暖かさと共に、先程負った傷をまた癒し始める。

 

 

「あの…あの方は…カルナ様は今、いづこへ…?」

 

 

聞かずにはいられなかった。でも…すぐに後悔した。

 

 

「彼は今、たった一人で戦っています――我々須弥山と(・・・・)ね」

 

「――え…な…っ、何故!?あの方は須弥山の名代、帝釈天の遣いだったハズでは!?」

 

貴女のせい(・・・・・)ですよ。彼は帝釈天が貴方に危害を加えようとしていた事に気づいたらしく、また帝釈天もカルナの意図に気づき、我々全員に命を下しました。『花嫁(クソったれ)を俺様の物にし終えるまで、殺せるものなら殺していい、足止めしろ』と」

 

 

気付けば黄金の欠片が手から零れ落ちていた。これを持つ資格は、(弥々)には無いと理解したからだ。

カルナ様が殺される…そう思った。

あの方は確かに大英雄、京都という一勢力を相手にしても、彼は負けようがない。だが…三蔵様の話が本当ならば規模が違う(・・・・・)

 

 

神話が一人の人間を殺しにかかっている(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「弥……々が…殺した………?あの方を……この弥々が………っ」

 

 

視界が歪む、呼吸が荒い。ふるふるとまるで子供のように首を横に振る。認めたくないからだ。

 

 

 

 

自らの身体を抱きしめ、御車の中でも雨が降り出す。それに目を通し、直後三蔵法師は祈るように目を伏せ。

 

 

「ままならないものですね…仏の世界というものも…」

 

 

 

 

雨はまだ止まない――。

 




この曹操は雁夜おじさんが軽くinした状態だと思ってもらえると幸いです。
要するに周りが一切見えてません。
あとFateの英霊はカルナさん以外出さないと言いましたが…名前が出ないとは言ってですよ?
何か似てる気がしたんです、オーフィスとアルジュナ。


弥々の絵

【挿絵表示】

(一応言っておきますが、ぽっと出のモブの絵を描くつもりは自分には無いです)


次回は閑話(これはほぼ本編とは関係ない、弥々のその後を描いた話です)を予定しています。その投稿と同時に活動報告で行うボツ案晒しでようやく完全に京都編終了です。

弥々の絵を2~3枚書き終えてからの投稿になると思います。こちらは活動報告でしか晒しません。
(普通のもあればマニアックなものも予定してたり…(汗)


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