施しの英雄    作:◯のような赤子

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久々にこれだけ短いスパンで更新できました。
それと盛大なネタバレという名の特に意味の無い、今まで張っていた伏線回収があります。



冥界に下る

目を閉じる。これで人が得られる情報量の約8割が閉ざされ、世界が暗闇に満ちることとなる。

 

 

「――…」

 

 

だがその男に――カルナに恐れはない。

 

嗅覚は踏みしめる大地が確かに広がるものだと教え、聴覚は僅かな風の音さえカルナに届け、味覚は徐々に変化する空気を呼吸と共に伝え、触覚は彼が握る神槍がそこに確かにあるのだと、お前(カルナ)が全力で振るい、命を預けるに足るものだと告げていた。

 

故に。

 

 

「――シィッッ!!」

 

 

武神――帝釈天(インドラ)が放つその一撃を防ぐことは、必然の理とさえ言えた。

 

 

「――ッHAHAHA!!この俺様を真正面から防ぎきるか!」

 

「閉じた視界だ。ならば前であろうと後ろだろうと、何も変わりなど無い」

 

 

ギャリギャリと凄まじい音を立て散る火花。カルナが持つ神槍と帝釈天が持つ関羽の青龍刀(・・・・・・)が擦れる度にそれ(火花)は大地を捲り上げ、しかし二人はその場で体勢を崩す事なく鍔迫り合いを続け、先に動いたのはカルナだった。

 

 

不動の体勢を自ら崩し、押される形で後方へと身を逃がす――ように見せ、空中で魔力を放出。三次元軌道を描きながら帝釈天の周囲を高速で低空飛行を見せ始める。当然今もまだ、カルナは自らの意志でその瞳を閉じている。だが。

 

 

「どれほどの神格が集まろうと、それがこの地を覆っていようと、インドラ、お前の気配だけは決して見失なう事など無い…ッ!」

 

 

周囲に存在する岩が徐々にカルナが放つ熱で溶け始めた時、すでにカルナの持つ槍は帝釈天を捉えており、その時ようやくカルナが瞼を上げ、視界に収めたものは――。

 

 

「あぁ、だがそれはこの俺様も(・・・・・・・・)だぜ?カルナ」

 

 

完璧な形で迎撃の準備を終え、振り下ろされる青龍刀と帝釈天が剥き出しに見せる笑みだった。

 

再びの激突。

先程以上の衝撃が円状に周囲を塵へと変化させ、神々が鋳造せし神器と人が鋳造し、神域にまで上り詰めた人器がぶつかり合った結果は――。

 

 

「……オレの負けか」

 

「あぁ、テメェの負けだぜ――カルナ」

 

 

この勝負、勝ったのは右手にボロボロの青龍刀を持ち、左に短刀を逆手で握り、カルナの喉元に切っ先を突き付けた帝釈天であった。

一切の綻びさえ見えない神槍を引き、負けを認めたカルナだが、勝者である帝釈天はそれを誇ることなく手の中で短刀をクルクルと弄び始める。

 

 

「ま、一回殺せるだけだがな。てかやっぱ駄目だ。所詮は人造…この程度の遊び(・・・・・・・)でこのザマか」

 

 

そう、傍から見ればただの殺し合いにしか見えなかったこの一時は、彼等からすれば遊びに等しい時間だった。ただし、その遊びの為だけに帝釈天は嫌がる関羽から青龍刀を取り上げ、周囲を自らの手で更地へと変貌させたのだが…きっと今のカルナが持つ槍と鍔迫り合いを見事に果たし、尚且つボロクソに使えねぇと罵られ、ボロボロにされた青龍刀を見れば関羽はこう言っただろう。「私の冷艶鋸が泣いている…」と。

 

 

「そこは本来、お前の槍と幾度も打ち合う事のできた、その武器を褒め称えるべきだろう。間違いなく人造の中では最高峰に数えられると、オレは思うのだが?」

 

「カカ!違ぇねぇ!一応こっちの短刀は神造の一種なんだが、打ち合えば冷艶鋸には負けるだろうな」

 

 

そう言って帝釈天は宙に短刀を放り投げ、青龍刀を振るう。すると短刀は乾いた音と共に、粉みじんに砕け散ったではないか。

 

 

「流石俺様の奥様ウットリ間違いなしの御立派な槍だ」

 

「そうだな。お前には不相応な程に、素晴らしいとオレでさえ感嘆せざるを得まい。インドラ、何故関羽のそれをこの腕試し(・・・)で用いた?お前にはヴァジュラがあるだろうに」

 

「そりゃオメェ、これが所詮今のお前を測る為以外の何モンでもねぇからだ。言ったろ?遊びだって」

 

 

そう言い終わるやいなや、ドカリと近くの溶けた岩へと気にせず腰かけ、前を開けたアロハシャツの胸ポケットから煙草を取り出し帝釈天はプカリと煙を吐き出す。そう、これは殺し合いでも、果し合いですらない。

 

カルナの錆落としが終わったかどうかの確認に過ぎなかったのだ。

 

 

「ようやくだな。ようやく前世くらいには戻った。どうだった?この数週間、毎日テメェを殺しに来る俺様の部下共との生活は。どうだった?最高に楽しい毎日だったろ?」

 

 

その内容は最悪の一言に尽き、聞く態度も煙草を咥えふんぞり返るという最悪に限る帝釈天を前に、しかしカルナが口にした言葉は感謝だった。

 

 

「彼等のおかげで、今生では足りていないとお前が差した経験値を積み上げる事が出来た。今でおおよそ、オレがあの男(アルジュナ)に殺される直前程度か。どうにか一言、感謝を告げたいのだが」

 

「HA!そりゃ無理ってもんだぜカルナ。あれだけテメェにボロクソにされてんだ。神様だって自信無くして神格がすり減るってモンだ。先に言っとくが、猿は論外だぜ?この俺様に歯向かいやがったんだ。テメェに会わせない事こそが、今のアイツにとっての一番の罰だからな」

 

 

頬を撫でる。そこには以前あった擦り傷はすでに癒え、また祟りを受けた右手も元に戻っていた。だが癒えたはずの頬は今だに熱を感じさせ、苦虫を潰したような表情を帝釈天に作らせる。それはきっと、この場にいないこのカルナと手合わせを幾度も行った闘仏神達もそうだろう。

 

韋駄天は「俺がスロウリィ!?舐めんじゃねぇ!!」と追いかけっこをし始め、最後はもう少しでカルナに追いつかれそうになり、始めにカルナの足蹴りにより、山にめり込んだ哪吒は何度もそれ以来次こそはと挑戦を繰り返し、その度にめり込み突き抜ける山の数を更新しては父である多聞天(毘沙門天)が爆笑を見せていた。しかしこの場に帝釈天以外の神々が顔を見せていない本当の理由は――。

 

 

もはやこの男(帝釈天)以外では相手になることすら不可能に、カルナがなってしまった為である。

 

 

「だが感謝もしてたZe?テメェのおかげで果たすべきインド神群の力量が見えて来たってNa。どうする?もしかすると、テメェのせいでインドはこの俺様に滅ぼされるかもしれねぇZe?」

 

 

それは意地悪が過ぎる質問だった。しかしこれこそが帝釈天――天邪鬼ですらあり、どの神々よりも人間に近しい神々の王は、神らしく、人を試さずにはいられない。

 

 

「まるで無意味な事に、お前は価値を見出すのだな、インドラ。そもそも神群に所属すらしていない、所詮人と人との間に産まれた、ただの人間が、神々を測る器になど到底成り得ないとお前は知っているはずだ」

 

 

カルナの言う通り、彼は今や、ただの人間(・・・・・)に過ぎなかった。

彼の父は彼の母を一夜限りで買っただけの男、その買われた売春婦であり、望まぬ赤子(カルナ)を宿した母親もまた人。彼を拾い育てた夫婦も老いて痩せこけた大地で飢える事を待つしか出来なかった、ただの…人だった。

確かに前世では半神半人。父は偉大なる太陽神スーリヤであり、今や血すら繋がらぬ彼をカルナは崇め尊敬し、父と敬っている。己を捨てたクンティーを、カルナは今でも母と呼んで欲しいと乞われれば、それを躊躇う気すら無い。

 

それでもこのカルナは…人に過ぎないのだ。

 

 

「ここに来る途中、阿修羅神族の王子マハーバリと出会った。共にインドに来てほしいと。だがこの身は人として生まれ、父と母からはカルナ(以前のオレ)ではなく、カルナ(今のオレ)として生きてほしいと別れ際に頼まれた」

 

 

ピっと咥えた煙草が縦に割れる。それはカルナが向けた切っ先が、帝釈天の眼前に向けられた為だった。

 

 

「本心を煙に巻こうとするその癖、お前は隠し事が下手だなインドラ。お前が何を画策し、何を企もうと、その全てを無意味なものへと変じてみせよう」

 

 

それはこの数年で気づいた事だった。

アルジュナの真実を話す際、そして今もまた、何か大切な事を隠す為――誓いの為に悪を背負う覚悟を、煙に紛れさせたのだ。

 

それはこの帝釈天のプライド、男の矜持以外の何ものでも無かった。誰にも明かすつもりのなかったそれを、しかしカルナの“貧者の見識”は完全ではないがそれを見抜いていた。それはきっと、己に関わる事だろうと。

 

ゆえに、カルナは自身の心の内を曝け出す。

 

 

「全て余計なお世話だ。英雄としての生き方を変えるつもりは無い。何故ならオレはオレだからだ。誰を主と定め、このお前から授かった槍を振るうのか。インドだけではない、この広がった世界で誰かがオレを求めてくれる限り、オレはその誰かに寄り添いたい」

 

「…それがテメェが決めた、テメェ(人として生まれたカルナ)の生き方か?それがたとえ、テメェ等人間に仇名す存在(・・・・・・・・・・・・)でもか?」

 

「あぁ、生きとし生ける者全てが花だ。全てが違う色を宿し、生きて咲き誇るそれはきっと、守るべき価値があるとオレは思う」

 

 

 

――少し間を置き、再び煙草を咥え火を付けようとし、途中で帝釈天はカルナから送られる、どこか咎めるような視線に気づく。

 

 

「いくらその身が神とはいえ、お前は少々度が過ぎるぞ。ほどほどに煙草はしておくべきだ」

 

「ウルセェ、テメェは俺様のオカンか。だが…まぁそうかよ、好きにしろや。文字通りお前の人生だ。あの馬鹿(スーリヤ)だって勝手にテメェを転生させたんだ。ならテメェも好き勝手、自由気ままに生きろや」

 

「お前に言われるまでもない。だが忘れるな、お前にオレは何一つ返す事が出来ていない。確かお前の下で世話になるのは、冥界に居を構えるという、悪魔達が催すレーティングゲームとやらの付き添いまでだったな?」

 

「あぁそうだぜ。だからどうした?」

 

 

吸いたくても火を付ければ間違いなく再び取られる。咥えた煙草をそのまま上下に動かし、僅かに感じる苛立ちを誤魔化しつつ等閑(なおざり)にそう聞き返せば、返って来たのは思いもよらない一言だった。

 

 

「ならばそれまで、お前が今仕えるべき(マスター)だということだ。好きに使うと良い。オレはお前の命に従おう」

 

 

 

…これで何度目だろうか、煙草を落としそうになるのは。一体どのような思考をすれば、そのように…ただでさえ前世の死因である己に仕えさせろという言葉が出て来るのだろうか?

信じられないという心境が宿る。だが浮かんでくるのは愉快さだった。

 

 

(何も変わらねぇ、あの時から何も。なんだ、この頑固者の言う通り、初めから俺様の心配なんざ、全部無駄だったんじゃねぇか)

 

 

そうだ、これこそがカルナだ。たった一度、使えばアルジュナでさえ滅ぼせた神槍を、仲間の為に躊躇いなく使用した大馬鹿野郎。馬鹿の考えなど、初めから悩むだけ無駄だったのだ。いや、無駄と言うのは言い過ぎかもしれない。だが…これ以上は無粋に思えた。

 

 

「ッHa!なら短い間だが扱き使ってやる。途中でやっぱ無しなんざ、聞く耳持たねぇからNa」

 

「安心しろ、むしろ望むところだ」

 

 

笑いが止まらない。止める気にもならない。

腰掛けた岩から身体を起こし、立ち上がると同時に咥えたままの煙草に火を付ける。我慢したからだろうか?その一口がやけに美味く感じる。カルナも今度は帝釈天の今の気持ちを察したのだろう。苦言を言う事も無く、今はその背中に静かに付いて行くだけだった。

 

 

「時間だ、行こうZe」

 

「あぁ」

 

 

須弥山最外縁部の縁から下界を見下ろせば、そこに広がるのは人間界。しかし視線は更にその先、これより向かう冥界――そこで待つであろう、幾多の存在へと向けられる。

 

 

「っとそうだ、お前まだトヴァシュトリが創ったカフス、あれ持ってんだろ?今の内に付けとけ」

 

 

ふと思い出したように帝釈天がそう言えば、カルナは何も疑問を浮かべることなく言われた通りカフスを耳飾りの上に付け、隠れる鎧の上に、以前帝釈天から贈られたあのダークスーツへと袖を通し、深紅のコートを肩に掛け、無造作に伸ばした髪を後ろへと流す。

 

 

「それで、どうやって冥界へと向かうつもりだ?お前のヴァーナハ(神々の乗り物)たるアイラーヴィタは見当たらないようだが」

 

「今回はアイツには乗らねぇよ。特に馬鹿(スーリヤ)の匂いが強いお前なんざ、乗せたがらねぇしな。少し面白いモン見せてやる。インドラではない、帝釈天と名を変えたからこそ使える小細工だ。なぁカルナ、お前――」

 

 

“縮地”って知っているか――?

 

 

帝釈天がそう言い振り向いた瞬間、荘厳なる神々が住まうに相応しい景色は変貌し、上空は紫色の雲に覆われ、辺りには瘴気と魔力が漂うおおよそ人では僅かな時でも生きられない場所へと変化していた。

 

 

そこはカルナが初めて足を踏み入れた場所。京都のような規模ではない、完全な異世界。

地球と同規模で広がるその場所の名は――冥界。

 

 

「これは…流石に驚きを隠せないな。ただの気分で名を変えたものとばかり思っていたぞ」

 

「アホかテメェ、てかあまりキョロキョロすんな。お上り感満載だぞ、今のお前」

 

 

帝釈天が言った通り、カルナは今だに目を見開き、信じられないと辺りを忙しなく見渡す。その際、呼吸と共に瘴気がカルナを犯そうとするが、今はカフスの効果で見えない『日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)』がそれを許さず、また主神たる帝釈天の存在が、そこに存在するだけで辺りの瘴気を浄化していた。

 

そのまま我が物顔で冥界の舗装された道路――今回レーティングゲームが行われる上空都市アグレアスを目指し歩く帝釈天。その右後ろを自らが宣言した通り、まるで従者のように付き従うカルナの視線は、歩きながらも空を――存在しない日輪を探していた。

 

 

「……まさか全てを遍く照らす日輪さえ存在しない地が存在しようとは…やはり世界は広いな」

 

「まぁな、てか面白いだろ?神ですら無い存在が、一世界を治めた気でいるんだからよ」

 

 

短パンのポケットに手を突っ込んだまま、帝釈天は舗装された道をサンダルの音を鳴らし歩く。彼が歩く先には悪魔が一人も存在しない。

 

 

サンダルの音が鳴る。その瞬間、格の違い(・・・・)が悪魔の魂を壊さんとする為だ。皆が我先にと、その場を後にしていた。

 

 

「っ帝釈天様!!勝手に来られては!しかもこのような街中でそのように神格を撒き散らされては困ります!!」

 

 

声が空から落ちてきた。同時にバサバサと羽ばたく音が聴こえ、蝙蝠のような羽を生やした男の悪魔が降りて来る。どうやら身なりからして案内役、それも以前カルナが幼い頃に出会った悪魔とは違い、教えられた最上級に位置する悪魔と見るや否や、カルナは帝釈天の前に立とうとし、しかし邪魔だと帝釈天自身が腕を上げて牽制する。

 

 

「おう、赤龍帝とバアルのガキの試合が楽しみすぎてNA。待てなかったんだYo。つうかよぉ…――

 

 

悪魔風情がこの俺様を見下ろすなんざ何様Da?ア゛?」

 

 

ズンッ!!――と迎えに来た悪魔の身体が、地面へとめり込む。それは神に由来する神通力や、帝釈天が何かしたワケではない。

ただ機嫌が悪くなった(・・・・・・・・)それだけ(・・・・)だ。

 

 

「オ゛っ!?お止めぐだざいぃ゛っ!!どうかっ、どうか!!」

 

「頭が高ぇ、今度俺様の前に姿見せる時は、ちゃんと許しが出るまで顔面引き摺りながら来いや。神様からのありがたいお言葉Da、理解できたか?ン?」

 

 

今でいうヤンキー座りで悪魔の前に身を近づける帝釈天。その表情には笑ってはいるが青筋が見えた。近づいたが故に更に悪魔のかかる圧は徐々に上がり、メキメキと悪魔の身体から軋みが上がり始めたその時、帝釈天の後ろから声がかけられた。

 

 

「インドラ、止めておけ。弱者を甚振る行為は、お前の価値を下げる以外の何も生みださない」

 

 

臣として、主の行いに苦言をカルナが申し出れば、帝釈天の放つ圧が僅かではあるが下がる。それを信じられないと驚愕を浮かべるのは、今も地面に這いつくばる悪魔だ。まさかあの帝釈天が他人の意見を汲み取るとは!

 

 

(一体何者なのだ、この男は…!?)

 

「…ッチ、臣下の礼から来る助言とあれば、仕方ねぇKa。おら、いつまで無様さらしてんDa?早く案内しろやボケ」

 

 

再びあのような圧を当てられればひとたまりも無い。案内役の悪魔は素早く立ち上がり、先導の役目を果たし出す。その間、彼が少しでも帝釈天の退屈を紛らわせようと話しかける事は無い。いや出来ないのだ。

帝釈天の聖書の陣営嫌いは上層部だけでなく、自分のような者にまで伝わる程に有名だ。とくにこの数年間、近場のはぐれ悪魔の全てを殺し尽し、尚且つ鎖国状態に突入した際は、とうとう戦争を仕掛けて来るのではと噂になった程。ゆえに彼は少しでもこの帝釈天の情報を上に持ち帰ろうと耳を後ろに傾け、そこで信じられない会話を耳にした。

 

 

「以前から時折思っていたが、その間抜けな話し方はどうした?ただでさえ普段から見えない威厳が、もはや存在しないものにまで低下しているぞ」

 

「ウルセェボケ。てかテメェ、主に対する口の利き方がなってねぇぞオイ。よくドゥリーヨダナは許したな」

 

「お前と違い、あの男は寛大だった。それだけだ。お前も是非、我が友の真似をしてみると良い」

 

(一体どういう事だ!?あの帝釈天に対して間抜けと…更にタメ(ぐち)だとッ!?)

 

 

あまりにも気になり、チラリと横目でその姿を改めて確認する。

その絶世とさえ言える美貌は悪魔ですら比べる事ができない程であり、その身なりはまるで、どこぞの王族と見間違う程に豪華でありながら、見事に着こなしている。特に目を引くのはその白亜に煌めく髪と肌、そして左耳に付けられた、金色に眩く耳飾りと、その上に虹色に輝くカフスだろう。ならばそれほど特別な存在なのかと気配を探れば、何も感じない(・・・・・・)ただの人間ではないか!

 

 

「あの、御談笑中申し訳ありません。そちらの方は?」

 

 

ごく稀ではあるが、普段帝釈天は冥界や他神話を訪問する際、そのお付きの者は天部が殆どだ。しかし今回はその天部を一柱も連れず、傍仕えはこの正体不明の男一人。流石にこれは何かあると、彼はその人間(カルナ)について質問を尋ねてみる。

 

 

「あん?期間限定俺様の奴隷Da。上に伝えとけ、手ェ出したらテメェ等滅ぼすぞってNa」

 

「インドラの言う通り、オレの事など気にするな。ただの従者に過ぎない」

 

 

結果は答えになっていない答えが異口同音で返って来ただけ。ただ帝釈天が、この男に敬語を使わせていない事、見目麗しい姿と細い線をカルナがしている事に目が行ったその悪魔は一つ、勘違いをした。

 

成程、この男は帝釈天の夜枷の相手(・・・・・)なのかと。

 

 

これ以上は下手すれば、かなり危険な方向へと話が行きかねない。そう思い、話を切り上げ悪魔は今回のレーティングゲームへと話題を切り替えて道すがらに誰が勝つかを話し出す。だが今回来た目的が、ただカルナに広がった世界の一つを見せる為だった帝釈天は一切興味を持っておらず、逆にまだ幾度かしか“神器”を見ていないカルナは興味津々に聴いていたが、その対応はもはや語るまでも無いだろう。

その後は終始無言となり、そのまま帝釈天とカルナはアグレアスへと到着、直接今回帝釈天等の要人用に用意された観戦室へと通された。それは今回呼んだ他神話の中に顔を合わせづらい者がいるだろうという趣旨と、それぞれ試合観戦に集中してほしいという悪魔側の配慮と企みだった。

 

部屋に入って早速帝釈天はソファーへと腰かけ足を組み、机の上に置かれたアイスペールの中にあったウィスキーをグラスへ移すことなくラッパ飲みし、カルナはソファーに腰掛けることなく近くの壁に背中を預けて腕を組んで片目を閉じ、帝釈天の背中へと声をかける。

 

 

「今回の主賓たる4大魔王とやらに、顔を見せに行かなくていいのか?」

 

「ゲフっ、どうせ今日と明日のジャリガキ共のじゃれ合いの後でやるパーティーで、嫌でも顔を合わせんだ。二回もなんてメンドクセェだろ?」

 

何より――。

 

 

「何故俺様が足を運ばねばならんねぇんだ?まだ聖書の神が生きてンならあれだが、所詮は悪魔。格下から来るのが礼儀だろうが」

 

 

帝釈天のこの言葉こそ各神話が、今現在も聖書の陣営を見逃し続ける理由に他ならなかった。

 

つまり彼等からすれば、『粋がったガキの相手をわざわざしてやる義理がねぇ』と言ったところか。

 

 

「神がいるならまだ分かる。俺様も神だ。通すべきスジってモンがあるからな。でもよ、今聖書の陣営を治めているのはたかだか天使(ミカエル)堕天使(アザゼル)悪魔(サーゼクス)だぜ?まともに相手してたんじゃ、他の神話から見くびられちまう。まぁ、アザ坊だけなら話を聞く程度には買ってるがな」

 

「ほぉ、それ程の者なのか。その堕天使は」

 

 

おうと空になったボトルを床に捨て、次のボトルへと手を伸ばす帝釈天。

 

 

「まっ先に和平を唱えた。つまり今後がしっかりと見えていたって事だ。このままじゃ、聖書陣営は滅びるってな。滅びちまえ、こんなクソ。“神器”もそうだ。俺様も昔は趣味がてら集めてはいたが、研究まではしていなかった。おおよそ人外の視点じゃねぇ。その意味では間違いなく、アイツはある種の天才だ。そこだけは認めてやるよ」

 

 

それは帝釈天からのあらん限りの称賛の一言に尽きた。だがそこには侮蔑の色も垣間見える。

 

 

「人外のクセに人に近ぇんだよ。確か今は、人間界で教師やってんだろ?馬鹿かテメェ。だからお前等(聖書)は他の神話に嫌われんだよ」

 

「それはお前も(・・・)だろうインドラ。お前のそれは言葉にするなら、同族嫌悪に他ならないぞ」

 

「お前が言うならお前の中ではそうなんだろうよ。俺様は絶対ェ認めねぇがな」

 

 

壁に背を預け、腕を組みつつ瞠目するカルナの言葉に僅かに部屋がピシリと音を立てて軋むが、その音は帝釈天の目の前に存在する、巨大なモニターから流れてきた歓声に隠された。

 

 

『会場にお集まりの皆様!そしてモニターから見守る各神話からご招待させていただいた神々の皆様!お待たせしました!これよりリアス・グレモリーチーム対サイラオーグ・バアルチームのレーティングゲーム開催を宣言させていただきます!!』

 

 

「ま、くだらねぇ話はここまでだ。始まるぜ」

 

「あぁ、良く見ておくとしよう。今も広がる、オレの知らない世界を――」

 

 

 

 

 

 

 

イッセー達の試合が始まる。

俺達シトリー眷属は、明日このアグレアス・ドームで試合があり、尚且つ「リアスちゃんと赤龍帝君達の試合だもんね、近くで雰囲気を感じたいでしょ?」と俺の主であるソーナ・シトリー様の実の姉、魔王セラフォルー・レヴィアタン様のご厚意により、こうして招待枠とは別に試合をゆっくり観戦できる部屋をご用意していただき皆画面を食い入るように見つめていた。

 

 

『西口ゲートから、リアス・グレモリーチームの入場ですッッ!!』

 

 

リアス先輩達が宣言と同時に会場入りした。その瞬間大歓声に包み込まれ、モニターからも会場の熱気が大迫力で伝わって来る。すでにサイラオーグさんは眷属を率い、フィールドに浮かぶ岩の一つで待機していた。その様子は一切気負った様子もなく、逆にイッセー達からは緊張の色が伺えた。…本当ならこの場で声を大にして何してんだよと叱責したり、頑張れと両方に応援を送りたい。でも俺達はモニターから目を離さず、カメラが画面に送る映像を追っていた。

 

 

「匙、そして皆も良く見ておきなさい。あれが私達が切磋琢磨し、ようやくここまで来れたこのレーティングゲーム…その頂点です」

 

 

コクリと声も出さず、俺達は主であるソーナ会長の声に頷き、特別ゲストとして呼ばれたアザゼル先生、その横に座る皇帝ディハウザー・ベリアルを一心に見つめていた。…その姿を見た瞬間から、今も震えが止まらない。だがこれは恐れとかそんなものから来る震えじゃない。

それは武者震いにも似たものだと思う。今まで口にしてきた目標、「レーティングゲームの学校を、それも誰もが平等に通えるそんな学校を創りたい」――それが何だかようやく目に見えたような気がして、とにかく嬉しかった。会長が何故、モニターを付けた途端「決して騒がず、そして目を離さないように」と言った意味がようやく分かった。確かにこれは、明日アガレス家と試合を控える俺達にとって、これ以上ない発破だ。

 

 

「勝とうみんな。勝ちましょう会長」

 

 

思わず口から洩れた呟きは、どうやら聴こえていたらしく、小さくみんな返してくれた。それは会長もだ。

小さな、本当は聞き間違いかもしれないが、クスリと笑いが漏れたような音が聴こえ、背後で会長が笑ってくれたような…そんな気がした。

 

それだけで嬉しかった。その笑顔さえあれば俺は戦える。だから――。

 

 

「勝つぞヴリトラ。今度こそ、俺達の手で勝とう」

 

【――…あぁそうだな。我が分身よ】

 

 

机に手を乗せ指を組んで口元を隠しつつ、小さく言えば、神器から声が――ヴリトラがそう心の中で返してくれた。

 

何とか間に合った。アザゼル先生にドラゴンのセラピストを紹介してもらい、会長達にまで特訓の時間を削ってもらい、こうしてヴリトラが帰って来てくれた。

言いたい事がいっぱいあった。心配もしたし正直何故この時期にと苛立ちも覚えた。でも『済まない』と、そう短く謝罪してきたその声があまりにも弱くて…それ以上何も言えなかったし、そうなった理由もまた…聞けなかった。

 

 

「もう大丈夫なのか?」

 

【安心しろ。再び“神器”の奥底に潜る事は、もう二度とない。これ以上無様を今晒すワケに行かぬ(・・・・・・・・)は、我も同じだからな】

 

 

そうかと会話を打ち切り、再びモニターに注目を集める。モニターの中では今回のゲームの内容の要、『ダイス・フィギュア』の説明がされており、いよいよかと皆身体を乗り出して集中し出す。

 

 

そう、俺達は…俺は集中し過ぎていたのだ。だから気付けなかった(・・・・・・・)

 

何故ヴリトラが“神器”の奥へと閉じこもったのか。ヴリトラの過去、ヴリトラの苦悩、ヴリトラがその身をバラバラにひき裂かれようと、決して手放さなかった邪龍としての、たった一つの矜持。

 

 

己を滅ぼした相手の名を(・・・・・・・・・・・)死にきれず穢した(・・・・・・・・)――…その相手、殺し殺される事でしか生まれないその絆を思い知るのはこのレーティングゲームが終わり、招待された神々の中にあのアロハ姿を視界に入れた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

あの時、京都で意識が暴走し、『龍王変化(ヴリトラ・プロモーション)』が制御不能に陥った中でも、ヴリトラはその姿を一目見た瞬間、我が目を疑った。

 

その身に宿していたのは、間違いなく生まれ故郷たるインドの偉大なる太陽神スーリヤの神性。風がヴリトラに届けたのは、遥か懐かしいインドの土の香りと、その男が違えようのない“神器”すら宿していないただの人間だという事実――――否。

 

 

【化身…それもスーリヤのアヴァターラ(・・・・・・・・・・・)……だと?】

 

 

化身(アヴァターラ)”――その名の通り、神々がその身を変え、人と関わる際に己を降ろす現身である。特に有名なのは、ダシャーヴァターラとも表現されるインド最高神、三位一体(トリムルティ)の一柱でもあるヴィシュヌが生み出した10の化身だろう。だが理解できない。

 

そこに存在したのは先に述べたように、ヴィシュヌではなくスーリヤの化身(アヴィターラ)だったのだ。己が存在した遥か昔、その時スーリヤは化身(アヴァターラ)など生み出しておらず、確かにあの神は子が幾つか存在したがと…そこで思い出す。

 

 

意識が表層へ浮かんでいない間も、ヴリトラの“神器”を宿した者は当然いた。“神器”を宿していると自覚した者は否が応でも自身の“神器”を調べたくなるというもの。特にそれが、命に関わるかもしれないとすれば尚更だ。

 

意識がなくとも、宿主との繋がりから知識は入って来る。(ヴリトラ)の伝承、そこから広く調べれば、己を殺した誇り高き神々の王。その男があまりの高潔さに、己が神槍を譲り渡した大英雄――人である母とスーリヤの間に産まれ、異父兄弟にして同じ半神半人に首を落とされた死後、スーリヤのもとへと召され同化したその者の名は――。

 

 

【カルナ…そうか、汝がカルナか】

 

 

この時、このアグレアスに足を踏み入れた者達の中で、帝釈天とシヴァを除くヴリトラだけがカルナの正体に気づいていた。しかしその事実を今日(こんにち)までヴリトラは心の中に閉じ込めていた。それが如何なる理由なのかは、ヴリトラしか理解出来ない。

 

 

(お前はそこにいるのだな、お前は……ここにいるのだな。…我を討ち滅ぼせしヴリトラハンよ)

 

 

気付いていた。巧妙に隠された、父である工巧神トヴァシュトリの神性とスーリヤの神性を宿したスーリヤの化身(カルナ)の存在に。

 

その傍にこちらを一切見向きもしない(・・・・・・・・・・・・・)帝釈天(インドラ)が存在する事に。

 

 

絶望した。声を大にして叫びたかった。

違う!!我はお前の名を、ヴリトラハンという偉大な英雄神の名を穢したくなかったのだと!!

 

絶望した。恥以外の何ものでもなく、しかしこれ以上無様を晒したくなかった。

 

“一度だけで良い、たった一度だけでいいから汝に謝らせてほしい”――その思いだけでヴリトラは吹き上がるありとあらゆる感情を抑制し、明日少しでもあの男がこちらにせめて興味だけでもと“神器”の中で願望を抱き、明日を待つ。

 

 

 

だが――ヴリトラの願いが永遠に叶う事は無い。彼は知らないのだ。

 

 

 

 

もはやこの世界にヴリトラハンなる称号は存在しないのだと。

 




正しくあろうとする人だけではなく、求めてくれる全ての為に。
“悪”として生まれた者であっても、その者が“悪”の矜持を抱いて終われるように。



現状でカルナさんは対人経験が前世と同等、腕前は前世以上です。それでも帝釈天には一度は最低でも負けます(宝具無し。ただし帝釈天もまだ本気ではない)
それでも不死身なので、例え一度は勝つ事ができてもカルナさんと相対した瞬間から、いずれ相手は体力が切れて必ずカルナさんに負けるという無理ゲーが確定します。


そして今までと今回カルナさんをくどいくらい人と表現したのはこういうワケさ!!

カルナァ!!何故君が完全な人の子として生まれたにも関わらず、主神と変わらぬ程の神格を宿しているのか。何故シヴァやインドラが過剰に気にかけているのか。何故半神半人であった頃より強くなれたのかぁ!その答えはただ一つ…君がスーリヤ唯一のry――…はい、まぁぶっちゃけただの隠れスキルです。
一応帝釈天もシヴァも気づいていますが、だからどうした?って感じです。
(だってねぇ、どこかの10化身さん達なんか、もっと下手すればヤバイ連中ばかりだし)


スーリヤ「…あれ、そんなつもりはなかったんだけど…」(;゚Д゚)


次回こそ鉢合わせになる…ハズ(汗
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